説明

デュシェンヌ型筋ジストロフィー、その進行の診断のための、および治療的介入をモニターするためのmiRNAバイオマーカー

本発明は、特定のmiRNAのクラスによるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)のような筋変性疾患の診断および治療に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定クラスのmiRNAの血清または生検検出による、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)および関連した筋変性疾患の診断のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2.5Mb長のヒトのジストロフィン遺伝子における欠失および点変異は、翻訳の読み枠が失われるか維持されるかに応じて、重篤な進行性のミオパチーであるデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)またはより軽症のベッカー型筋ジストロフィー(BMD)のいずれかの原因となる。デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおいて、ジストロフィンの完全な欠如は細胞内のアクチン微小線維を細胞外マトリックスに結合させるのに必要とされるジストロフィン結合タンパク質複合体(DAPC)の劇的な減少をもたらす(Matsumuraら、1994年;Ervastiら、2008年)。結果として筋線維は、筋変性、慢性炎症応答および線維症の増加をもたらす機械的損傷に対してより敏感になり、これらは全てジストロフィーの表現型を増悪させる。これらの形質は全て、非常に軽度のミオパチー表現型を持つベッカー型ジストロフィーを有する患者において軽減されている。
【0003】
エキソンスキッピングストラテジーを使用して、著者らはヒトDMD筋芽細胞(De Angelisら、2002年)において、ならびにデュシェンヌのマウス(mdx)(Dentiら、2006年)においてジストロフィン合成のレスキューが可能であることを示した。この処置は分子パラメーターをレスキューするだけでなく、強力な形態機能的利益を筋肉に与えることが実証された。実際、エキソンスキッピングを用いて処置されたマウスの組織学的実験はmdxの処置されていない同腹仔と比較して筋表現型の顕著な維持を明らかにした。特に、mdxマウスは広範囲に及ぶ炎症性浸潤および変性を示した一方、治癒された筋肉は正しい組織形態および線維症の大幅な低減を示した(Dentiら、2006年)。この作用は高齢の動物においてより一層明らかであり、mdx老齢線維は激しい筋壊死を伴う筋肉数の顕著な低減を示したが、一方エキソンスキッピング処置されたmdxマウスにおいては炎症および線維組織が明確に低減した筋表現型の保存が明らかであった(Dentiら、2008年)。
【0004】
デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)において、ジストロフィン欠損はまた拡張型心筋症を引き起こし、これは骨格筋における病理的欠陥とは無関係に発症し、主要な死因および重要な治療標的となる。特に、mdxマウスは稀にしか心臓異常を見せないにもかかわらず、老齢では心筋の壊死および炎症を示す。エキソンスキッピング処置は心臓の表現型も改善することが示された。高齢mdxマウスの心筋は広領域の線維症および単核浸潤を示した一方、全身的に処置されたmdxマウスの心臓は線維蓄積の顕著な低減を伴って組織学的に保存されたという結果であった(Dentiら、2008年)。
【0005】
その後の研究において、著者らはジストロフィンがその構造的機能の他に筋分化(Chenら、2006年;Eisenbergら、2007年)および本来の組織形態(Van Rooijら、2008年)に関係のある特定サブセットのmiRNAの遺伝子発現パターンを変化させることも可能であることを発見した。著者らはこの制御がHDAC2リモデリング酵素の活性に影響するジストロフィン依存的経路により媒介されることを発見し、これにより、ジストロフィンとエピジェネティックな特徴の変化による遺伝子リプログラミングとの間の直接的な関連を示唆した。
【0006】
さらに、著者らは野生型に対してDMD/mdxおよびエキソンスキッピング処置された動物におけるmiRNA発現パターンの変動をプロファイルし、特定のmiRNAが筋組織の損傷状態を評価するための診断用になり得ることを見出した。
【0007】
本発明の一部として、著者らは筋損傷の結果として特定の筋肉miRNAが血清中に放出され、それらの存在量は組織損傷の程度に比例することを見出した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Matsumura, K., et al. Expression of dystrophin-associated proteins in dystrophin-positive muscle fibers (revertants) in Duchenne muscular dystrophy. Neuromuscul. Disord. 4:115-120 (1994)
【非特許文献2】Ervasti, J.M., Sonnemann, K.J. Biology of the striated muscle dystrophin-glycoprotein complex. Int Rev Cytol. 265:191-225 (2008)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本研究において、著者らはDMDの病態と相関する特定の特徴を持つmiRNA(いくつかの細胞タイプの分化拘束において決定的な機能を果たし、多くの病態生理学的プロセスに関与することが知られている分子)を同定した。著者らは、野生型とデュシェンヌ細胞(ヒトDMDおよびmdxマウスの両方)との間に異なるmiRNA発現プロファイルが存在することを記述した。そのうえ、エキソンスキッピングアプローチによってジストロフィンがレスキューされた細胞におけるmiRNAプロファイル分析は、ジストロフィンにより直接的に調節される特定クラスのmiRNAの存在を示した。それらmiRNAのいくつかは筋分化および再生に重要である。異なるmiRNA群が、治療的処置の利益の結果としてジストロフィンレスキューの後に変わることが見出され、このクラスは炎症および線維化プロセス診断用のmiRNAを包含する。
【0010】
両クラスのmiRNA(ジストロmiR)の発現レベルにおいて認められた差異は、ヒト患者における疾病の重症度/進行を評価するため、ならびに治療的介入の成果を測定するためのバイオマーカーとして利用することができる。筋変性との関連を考慮して、著者らはこれらのmiRNAは筋線維変性が炎症や線維症などのその後の副作用を伴って起こる他のタイプの筋疾患の診断用にもなり得ると提案する。
【0011】
さらに、著者らは血清試料におけるジストロmiRプロファイルの変化を定量的で迅速な方法で直接的に測定することができた。
【0012】
関係のあるジストロmiRは、
- miR-223。炎症性細胞において発現され、炎症はデュシェンヌの筋肉と非常に関係があることが知られている。ジストロフィンがレスキューされると、ジストロフィンレスキューの組織完全性に対する有益な作用のために、その値はほとんど野生型レベルに修正される。
- miR-29およびmiR-30。mdxの筋肉において下方制御され、これが線維症の増加の原因となる。
- miR-206。活性化衛星細胞において発現され、そのレベルは再生線維の量と相関する。ジストロフィーの筋肉において筋損傷と並行して増加する。そのレベルはエキソンスキッピング後も高いが、これらの条件下では筋再生がなお非常に活発なためである。miR-206レベルはジストロフィーマウスおよびヒトDMD患者の血清において上昇するが、エキソンスキッピング処置を施されたマウスにおいて、wtレベルとほとんど同じくらいにレスキューされる。
- miR-1およびmiR-133。筋分化のマーカーである。それらの蓄積はジストロフィーの筋肉において減少するが、ジストロフィンがレスキューされると復元する。miR-1レベルはジストロフィーマウスおよびヒトDMD患者の血清において上昇するが、エキソンスキッピング処置を施されたマウスにおいて、wtレベルとほとんど同じくらいにレスキューされる。
【0013】
したがって本発明の目的は、対象の生物学的試料において、筋再生(miR-206)、筋分化(miR-1)、線維症(miR-29およびmiR-30)、炎症(miR-223)の群に属する少なくとも1つのジストロmiR分子をin vitroで検出するステップからなる、線維変性、炎症および線維症をもたらす筋疾患の診断のための、または罹患した対象への治療的処置の進行をモニターするための方法である。好ましくは筋疾患はデュシェンヌ型筋ジストロフィーである。
【0014】
本発明の方法の好ましい実施形態において、ジストロmiR分子はmiR-206およびmiR-1である。
【0015】
好ましくは生物学的試料は筋生検試料または血清試料である。
【0016】
ジストロmiR分子の少なくとも1つを検出するステップは当該技術分野で既知の手法、好ましくは前記ジストロmiR分子の逆増幅(reverse amplification)および増幅産物のリアルタイム検出により行われる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】野生型、mdxおよびエキソンスキッピング処置された動物における筋肉形態の分析を示す図である。(A)mdxマウスにおけるエキソンスキッピングストラテジーの略図。(B)AAV-U1#23ウイルス全身注射の4週後に屠殺されたWT、mdxおよびAAV#23処置mdx動物の腓腹筋からのタンパク質抽出物について行われた抗ジストロフィン(DYS)および抗チューブリン(TUB)抗体を用いたウエスタンブロット。4週後(C)または18ヶ月後(D)に分析されたWT、mdxおよびAAV#23処置mdxについてのヘマトキシリン/エオシン(H&E)染色。元の倍率、×20。スケールバーは100μmである。
【図2】miRNAのプロファイリングを示す図である。(A)AAV-U1#23ウイルス全身注射の4週後に屠殺されたWT、mdxおよびAAV#23処置mdx(G1、G2およびG3)動物の腓腹筋からのタンパク質抽出物について行われた抗ジストロフィン(DYS)および抗チューブリン(TUB)抗体を用いたウエスタンブロット。(B)WTおよびmdxの腓腹筋において示差的に発現したmiRNA(少なくとも1.5倍の変動)のリストはリアルタイムベースの低密度アレイの値から得られた。ジストロフィーの筋肉の細胞不均質性を考慮して、本発明者らは3つのmiRNA群(ボックスB1〜B3)を区別した。エキソンスキッピング処置マウスにおいてWTレベル近くまでレスキューされたmiRNAは下線で示される。アスタリスクはmiRNAファミリーを示す。(C)ヒストグラムはqRT-PCRにより測定されたWT、G1〜G3およびmdxマウスにおけるmiRNAの相対的発現を示す。変化しないmiR-23aおよびmiR-27aは対照として使用された。発現レベルはsnoRNA55で正規化され、値が1に設定されたWTに対して示された。(D)LV#51レンチウイルスベクター(LV#51)または対照ベクター(LVモック)を感染させ、7日間分化させたヒトDMD筋芽細胞のタンパク質抽出物について行われた抗ジストロフィン(DYS)および抗チューブリン(TUB)抗体を用いたウエスタンブロット。(E)qRT-PCRにより測定された対照(LVモック)およびアンチセンス処置(LV#51)DMD細胞におけるmiRNAレベル。U6 snRNAは内因性の対照として使用された。相対的発現レベルは値が1に設定されたモック感染DMD細胞に対して示される。(F)ヒストグラムはqRT-PCRにより測定された健常者(Ctrl)に対するデュシェンヌ(DMD)およびベッカー(BMD)の患者におけるmiRNAの相対的発現を示す。発現レベルはU6 snRNAで正規化され、値が1に設定された健常対照に対して示された。
【図3】miR-206の発現を示す図である。(A)miR-1のDIG標識プローブはWTおよびmdxの腓腹筋切片にハイブリダイズされた。元の倍率、×20。スケールバー100μm。(B)miR-206のDIG標識プローブはmdxの腓腹筋切片にハイブリダイズされた。DAPI染色が示される。元の倍率、×20。スケールバー100μm。(C)(B)と同じで、元の倍率が×40のもの。スケールバー50μm。(D)増殖している衛星細胞(GM-増殖培地)および分化培地に移し替えて指示された時間後の衛星細胞のRNAについてのmiR-206およびsnoRNA55のノーザンブロット。
【図4】血液および血清におけるmiRNAの発現を示す図である。(A)ヒストグラムはqRT-PCRにより測定されたWT(白いバー)ならびにmdx(黒いバー)およびAAV#23処置mdx(灰色のバー)マウスの全血および血清におけるmiR-206およびmiR-1の相対的発現を示す。倍率変化は値が1に設定されたWTの血清レベルに対して示される。(B)ヒストグラムは健常対照(Ctrl)と比較した異なる年齢のデュシェンヌ(DMD)およびベッカー(BMD)の患者からの血清におけるmiR-206およびmiR-1の相対的発現を示す。倍率変化は値が1に設定されたWTの血清レベルに対して示される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
材料および方法
分析を受けるmiRNAの配列
以下の成熟miRNAはヒトとマウスとの間で完全な配列保存を示す。収載されていない成熟miRNA配列はmiRNAの公共データベース(www.mirbase.org)上で見出すことができる。
miR-1: uggaauguaaagaaguauguau (配列番号1、MI0000651)同じ成熟miRNA配列が2つのmiRNA遺伝子(miR-1-1およびmiR-1-2)に由来する。
miR-206: uggaauguaaggaagugugugg (配列番号2、MI0000490)
miR-223: ugucaguuugucaaauacccca (配列番号3、MI0000300)
miR-29a: uagcaccaucugaaaucgguua (配列番号4、MI0000087)
miR-29b1/2: uagcaccauuugaaaucaguguu (配列番号5、MI0000105)
miR-29c: uagcaccauuugaaaucgguua (配列番号6、MI0000735)
miR-29ファミリーはmiR-29a、miR-29b1/2およびmiR-29c(各々特定の遺伝子座から生成される)を包含する。miR-29の発現レベルが指示されている場合、報告された値は3つの成熟miRNA全ての平均の結果である。この場合もまた、同じ成熟miRNA配列が異なるゲノム位置(miR-29b-1およびmiR-29b-2遺伝子)に由来し得る。
miR-133a1/2: uuugguccccuucaaccagcug (配列番号7、MI0000450)
miR-133b: uuugguccccuucaaccagcua (配列番号8、MI0000822)
miR-133ファミリーはmiR-133a1/2およびmiR-133b(各々特定の遺伝子座から生成される)を包含する。miR-133の発現レベルが指示されている場合、報告された値は2つの成熟miRNAの平均の結果である。この場合もまた、同じ成熟miRNA配列が異なるゲノム位置(miR-133a-1およびmiR-133a-2遺伝子)に由来し得る。
miR-30c1/2: uguaaacauccuacacucucagc (配列番号9、MI0000736)
ローディング対照として使用されたスパイクmiRNAはath-mir-159a(MI0000189)、cel-mir-2(MI0000004)、cel-lin-4(MI0000002)であった。
【0019】
動物の処置および構築物
6週齢のmdxマウスは以前に記述されたように(Dentiら、2006年)、0.5〜1×1012ゲノムコピーのAAV-U1#23(AAV#23)またはウイルスを尾静脈注射され、4週後に屠殺された。
【0020】
RNAの調製および分析
全RNAは、液体窒素で粉末化された、QIAZOL試薬(QIAGEN)中でホモジナイズされた組織または細胞から調製された。miRNAプロファイリングは以下に記述されるように行われたが、個々のmiRNAおよびmRNAの分析は特異的なTaqMan(Applied Biosystems)またはSYBRgreen(QIAGEN)アッセイを使用して行われた。個々のmiRNAの相対的定量化はsnoRNA55またはU6 snRNAを使用して行われた。
【0021】
全RNAは200〜400μlのヒト血清からmiRNeasy(QIAGEN)を用いて抽出された。RNAの抽出は、抽出前にqiazol試薬(QIAGEN)に添加されたスパイクmiRNAミミック(QIAGEN)(ath-mir-159a、cel-mir-2およびcel-lin-4)を用いてまたは用いずに行われた。RNAの逆転写およびmiRNAの定量化はTaqman(Applied Biosystems)およびSYBRgreen(mirscript QIAGEN)の両システムを用いて、製造業者の仕様書に従って行われた。相対的定量化は参照試料として健常対照を、およびリアルタイム分析において使用された出発材料およびcDNAの量を正規化するためのスパイクmiRNAを使用して行われた。
【0022】
リアルタイム分析において使用されたmiRNAアッセイIDは以下の通りであった。
QIAGEN:
Hs_miR-223_1 (MS00003871)
Hs_miR-206_1 (MS00003787)
Hs_miR-1_1 (MS00008358)
Hs_miR-29c_1 (MS00003269)
Hs_miR-133b_1 (MS00007385)
Hs_miR-133a_1 (MS00007378)
Hs_miR-29b_1 (MS00006566)
Hs_miR-29a_1 (MS00003262)
Hs_miR-30c_2 (MS00009366)
ath-mir-159a (ath-mir-159a_9)
cel-mir-2 (cel-mir-2_5)
cel-lin-4 (cel-lin-4_3)
APPLIED BIOSYSTEMS:
Hs_miR-223 (002295)
Hs_miR-206 (000510)
Hs_miR-1 (002222)
Hs_miR-29c (000587)
Hs_miR-133b (002247)
Hs_miR-133a (002246)
Hs_miR-29b (000413)
Hs_miR-29a (002112)
Hs_miR-30c (000419)
ath-mir-159a (000338)
cel-mir-2 (000195)
cel-lin-4 (000258)
【0023】
miRNAプロファイリングおよびデータ分析
一本鎖のcDNAを合成するため、700ngの全RNAはmiRNA逆転写キットをステムループMegaplex RTプライマープールA(Applied Biosystem)と組み合わせて使用して逆転写された。335個の小型RNAはApplied Biosystems TaqMan低密度アレイを使用してプロファイルされた。機器および液体操作の変動はごくわずかであることが示されたことから、PCR複製物は製造業者の仕様書に従って測定されなかった。未加工のCt値がSDSソフトウェアV.2.3を使用して計算され、データは続いてStatMinerプラットフォームによって製造業者のパイプラインに従って分析された。StatMiner Genormアルゴリズムは5個のリストについて最良の不変性内因性対照を決定するのに適用された。
【0024】
タンパク質およびmiRNAのin situ分析
総抽出物についてのウエスタンブロット、7μm厚の腓腹筋凍結切片についてのH&E染色およびin situ分析は記述されたように行われた(Dentiら、2006年)。miRNAのin situハイブリダイゼーションはPenaら(2009年)に従って、ホルムアルデヒドおよびEDCで固定された腓腹筋凍結切片中で行われた。
【0025】
統計解析
qRT-PCRにおいて示される各データは少なくとも3つの異なる試料/動物について行われた、少なくとも3つの独立した実験の結果である。データは平均値±標準偏差として示される。特に記載のない限り、平均値間の統計的有意差は両側t検定により査定され、p<0.05は有意と考えられた。
【0026】
結果
6週齢のmdx動物はU1キメラアンチセンス構築物(図1A)を保有するAAV組換えウイルス(AAV-U1#23)を尾静脈注射されたが、この構築物はマウスジストロフィン遺伝子の変異したエキソン23のスキッピングを誘導してジストロフィン合成を復元することが以前に報告されたものである(Dentiら、2006年および2008年)。1ヶ月後、mdxおよび処置されたmdxの同胞は野生型(WT)の同質遺伝子的/齢を合わせた動物と同時に屠殺された。異なる筋肉区が解剖され、RNAおよびタンパク質の分析のために細分された。ジストロフィンのレスキューが得られた(Dentiら、2006年および図1B〜D)。本発明者らはジストロフィンのレスキューレベルに基づいて動物を分類するため、全身送達の後のin vivo形質導入の内在的変動を利用した(Dentiら、2006年)。各群が少なくとも3つの異なる個体を包含する、3つの異なる群が得られた(G1、G2およびG3)。野生型マウスと比較して、それらの群はそれぞれ1%以下、1〜5%および5〜10%のジストロフィンレスキューを示す(図2A)。これらのレベルは何らかの有益な作用を付与するには非常に低いように思われるが、数パーセントの低さのジストロフィン量がmdxの筋肉に長期の利益を付与することが可能であると実証された(Dentiら、2008年;Ghahramani Senoら、2008年)。ジストロフィンのレスキューは形質導入された筋肉の形態学的な改善と並行した(図1C)。
【0027】
リアルタイムベースの低密度アレイは野生型、mdxおよびAAV-U1#23処置mdx動物の腓腹筋からのRNAについて行われた。miRNAの発現レベルは、5個の内因性対照で正規化され、WTとmdxとの間の明確な差異を明らかにした。図2Bの図において、WTとmdxとの間で最も顕著な変動を示すmiRNA(倍率変化>1.5)が報告される。ジストロフィーの筋肉の細胞不均質性を認識して、ヒトDMD筋芽細胞についての並列プロファイル分析が行われた。動物とin vitroで培養され分化された筋芽細胞との間の関連性のある差異は筋タイプ以外の細胞タイプに属するmiRNAによるものであって(ボックスB2およびB3)、特に損傷したジストロフィーの線維について予想されたように、炎症プロセスに関連したmiRNAによるものであった(ボックスB2、Faziら、2005年;Baltimoreら、2008年)。なかでも、B1群は培養された筋芽細胞と解剖された筋肉との間で共通するmiRNAを含有する。下線のmiRNAはAAV-U1#23処置mdxにおいてWTと同様のレベルに回復する種を同定する。興味深いことに、この作用はジストロフィンのレスキューレベルに比例しており、G1動物は非常に限られた作用を示し、G3は野生型に非常に近いレベルを示した。個々のqRT-PCRはB1のmiRNAおよび対照miRNAの選択物について行われた。miR-1、miR-133a、miR-186、miR-29cおよびmiR-30cはmdxにおいて低減されたレベルを示したが、処置された動物の3群においてジストロフィンのレスキューレベルに比例して野生型のレベル近くまで回復する(図2C)。miR-1およびmiR-133の筋miRとは異なって、miR-206のレベルはmdxおよび処置されたマウスにおいて上昇する。興味深いことに、miR-29およびmiR-30は筋肉の線維状態と逆相関する。実際にそれらmiRNAは細胞外マトリックスタンパク質のmRNAの翻訳を抑制することが示された(van Rooijら、2008年)。
【0028】
興味深いことに、炎症特異的miR-223(Faziら、2005年)はmdxにおいて非常に多量に存在するが、3つの異なる動物群において比例的に低減され、これはジストロフィンのレスキューによる筋炎症状態の改善を示す(図1B〜DおよびDentiら、2008年を参照)。普遍的なmiR-23aおよび27aはWTおよびmdxにおいて変化しないが、処置された動物においても同様の挙動をした。WT、mdxおよびG3動物における選択されたmiRNAの相対的発現は他の筋肉区においても同じであって(示さず)、miRNAの発現プロファイルは全身規模でジストロフィンのレスキューと相関することを実証した。
【0029】
これらのデータは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーにおいてジストロフィン欠如の直接的な結果として特定のmiRNAサブセットが発現変化を起こす一方、異なるサブセットが線維損傷の結果として変化することを示す。
【0030】
これらの実験はジストロフィンと筋組織の分化および形態の制御因子として働くmiRNAをコードする重要な遺伝子との間の新たな関連を明確にする。さらに、DMDにおいて変化するmiRNA発現パターンは、DAPC複合体が欠如または変化する他の筋疾患(肢帯型筋ジストロフィーなど)に拡張し得る。これらのデータはまた、エキソンスキッピングmdx処置動物において認められた形態機能的利益(Dentiら、2008年)は筋膜の構造的改善のみならず、本来の筋肉の恒常性に関係のある遺伝子の発現を調節するイベントの細胞内カスケードにもよるものであろうという仮説を支持する。
【0031】
線維損傷の結果として変動するmiRNAのうち、筋miR-206がさらなる調査のために選択された。in situハイブリダイゼーション分析はWTおよびmdxの腓腹筋についてDIG標識プローブを使用して行われた。新たに形成された筋線維/筋管においてmiR-206のレベル上昇が見出された(図3Bおよび3C)。miR-206のシグナルはmdxに限定され、中央の核と共に未熟な再生している線維においてのみ存在したが、一方miR-1のプローブはWTおよびmdxの両者の線維中の成熟した分化線維において著しい蓄積を示した(図3A)。したがって、mdxの筋肉におけるmiR-206の発現増加は分化している衛星細胞によるものである(図3D)。これらのデータは骨格筋線維の活発な再生および効率的な成熟におけるmiR-206の役割を示唆する。
【0032】
最後に、筋損傷の結果として特定の筋肉miRNAが血中に放出され得る可能性が試験された。野生型に対するジストロフィー動物の血液および血清についてのqRT-PCRが行われた。図4AはmiR-206およびmiR-1がmdx動物の血清において野生型に対してはるかに高いレベル(それぞれ30倍および15倍の上昇)で見出されることを示す。エキソンスキッピングを用いて処置された動物において正常なレベルのジストロmirが血中においても検出されたので、著者らはmiRNAの測定がDMDの治療的介入においても処置の利益を追跡するために利用され得ることを証明する。miR-206およびmiR-1の定量化はデュシェンヌおよびベッカーの男児のヒト血清についても行われた。両方の筋miRの増加はデュシェンヌ患者においてその健常な兄弟/姉妹に対して特異的に検出される。さらに筋miRのレベルは若年患者(6歳)においてより高い年齢の患者(18歳)に対して高く、これら患者の生後10年において認められる高い変性/再生レベルと一致する。
【0033】
これらの結果は、筋損傷の結果としてこれらの細胞において特異的に発現したmiRNAが血中に放出され、その血中で安定な形態で損傷の程度に比例して蓄積されることを示す。したがって、この特色は筋損傷のレベルを評価するための簡単で非侵襲の方法として利用され得る。
【0034】
興味深いことに、同じアプローチは筋損傷が一次的な原因または二次的な作用である他の疾患に拡張し得る。
【0035】
(参考文献)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の生物学的試料において、筋再生(miR-206)、筋分化(miR-1)、線維症(miR-29およびmiR-30)、炎症(miR-223)の群に属する少なくとも1つのジストロmiR分子をin vitroで検出するステップからなる、線維変性、炎症および線維症をもたらす筋疾患の診断のための、または罹患した対象への治療的処置の進行をモニターするための方法。
【請求項2】
前記筋疾患がデュシェンヌ型筋ジストロフィーである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ジストロmiR分子がmiR-206およびmiR-1である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
生物学的試料が筋生検試料である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
生物学的試料が血清試料である、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ジストロmiR分子の少なくとも1つを検出するステップが前記ジストロmiR分子の逆増幅および増幅産物のリアルタイム検出により行われる、請求項1から5のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−527873(P2012−527873A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−512325(P2012−512325)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057088
【国際公開番号】WO2010/136415
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(506009028)ウニヴェルシタ・デグリ・ストゥディ・ディ・ローマ・ラ・サピエンツァ (2)
【Fターム(参考)】