説明

デンドリマー、その製造方法、およびイオン伝導性ポリマー電解質

【課題】溶媒を含まない状態でも室温で十分なイオン伝導性を有する新規デンドリマー及びその製造方法、並びにこのデンドリマーを用いるイオン伝導性ポリマー電解質の提供。
【解決手段】特定の繰り返し単位を含む付加系ポリマー鎖を有する、数平均分子量が5,000〜20,000,000の範囲にあるデンドリマー及びその製造方法、並びに前記デンドリマーと正に荷電したイオン種とからなる複合体を含有してなるイオン伝導性ポリマー電解質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なデンドリマー、その製造方法、及び、前記デンドリマーを用いる電気化学デバイス、特に電池材料として好適に用いられるイオン伝導性ポリマー電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子固体電解質は、従来の非プロトン性極性有機液体からなる電解質に比較して、安全性、電解質の漏れ防止性、耐腐食性、温度安定性、力学的特性、操作性等において優れているため、近年特に注目されている。
従来、高エネルギー密度のリチウム電池の固体電解質成分として、ポリ(エチレンオキサイド)−アルカリ金属塩複合体が知られている。例えば、特許文献1に記載された、デンドリマー構造を有するポリマー(デンドリマー)とリチウム無機塩とのポリマー電解質が知られている。
【0003】
【特許文献1】特開平8−69817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した高分子固体電解質は、要求されるイオン伝導性を得るためには溶媒を含有させる必要があり、溶媒を含まない固体電解質としては、イオン伝導性や高温作動時の耐熱性、安全性等の面からも満足できるものではなかった。また、デンドリマーの分岐鎖に対応するポリマー鎖を形成する反応を精密、かつ速やかに進行させるのが困難であり、未反応原料の回収や精製が必要である等の製造上の問題もあった。
【0005】
本発明は、かかる従来技術の問題に鑑みてなされたものであり、溶媒を含まない状態でも室温で十分なイオン伝導性を有する新規デンドリマー、その製造方法、及び、前記デンドリマーを用いるイオン伝導性ポリマー電解質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の繰り返し単位を含むポリマー鎖を有する新規なデンドリマーの合成に成功した。そして、このものとリチウム塩とからなる複合体が優れたイオン伝導性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明の第1によれば、(1)、(2)のデンドリマーが提供される。
(1)下記の式(I−3)で表される構造を有し、数平均分子量が5,000〜20,000,000の範囲にあることを特徴とするデンドリマー。
【0008】
【化1】

【0009】
{式中、Rは有機基を表し、[ ]内の構造は繰り返し単位を表す。
Aは、式(II)
【0010】
【化2】

【0011】
(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは水素原子、炭化水素基、アシル基、またはシリル基を表す。rは2〜5の整数を表し、sは1〜100の整数を表す。rおよび/またはsが2以上のとき、R、Rは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。)
で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖を表す。
Qは、アニオン重合開始剤の存在下、式(IV)
【0012】
【化3】

【0013】
(式中、Rは水素原子若しくは炭素数1〜6の炭化水素基を表し、Xは、フェニル基、4−クロロフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、2−ピリジル基、4−ピリジル基、6−メチル−2−ピリジル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、N,N−ジメチルカルボキサミド基、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、エチニル基、若しくは1−プロピニル基を表す。)
で表される化合物を単独重合、または、式(IV)で表される化合物と、式(IV)で表される化合物と共重合可能な化合物を共重合させて得られるポリマー鎖を表す。}
【0014】
(2)前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖の重合度が5以上であることを特徴とする(1)に記載のデンドリマー。
【0015】
本発明の第2によれば、下記(3)、(4)のデンドリマーの製造方法が提供される。
(3)アニオン重合開始剤の存在下、式(IV)
【0016】
【化4】

【0017】
(式中、Rは、水素原子若しくは炭素数1〜6の炭化水素基を表し、Xは、フェニル基、4−クロロフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、2−ピリジル基、4−ピリジル基、6−メチル−2−ピリジル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基;N,N−ジメチルカルボキサミド基、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、エチニル基、若しくは1−プロピニル基を表す。)
で表される化合物を単独重合、または、式(IV)で表される化合物と、式(IV)で表される化合物と共重合可能な化合物を共重合させて得られるアニオン末端と、式(V)
【0018】
【化5】

【0019】
(式中、Yはアニオン末端に対して安定で、かつアニオン末端と反応性を有する官能基に変換可能な官能基を表す。)
で表される化合物を反応させて、式(VI)
【0020】
【化6】

【0021】
(式中、Qは、アニオン重合開始剤の存在下、式(IV)で表される化合物を単独重合、または、式(IV)で表される化合物と、式(IV)で表される化合物と共重合可能な化合物を共重合させて得られるポリマー鎖を表す。)で表されるデンドリマーの核部分を形成する工程(1)、
形成した核部分の官能基Yをアニオン末端と反応性を有する官能基に変換し、官能基Yをアニオン末端と反応性を有する官能基に変換した核部分を、前記式(V)で表される化合物より誘導されるアニオンと反応させて、式(VII)
【0022】
【化7】

【0023】
(式中、Q、YおよびRは前記と同じ意味を表す。)
で表されるデンドリマーを得る工程(2)、
工程(2)の操作を任意の回数繰り返すことにより、式(IX)
【0024】
【化8】

【0025】
(式中、Q、Y、Rおよび[ ]は、前記と同じ意味を表す。)
で表されるデンドリマーを得る工程(3)、
工程(3)で得られたデンドリマーの官能基Yをアニオン末端と反応性を有する官能基に変換した後、式(II')
【0026】
【化9】

【0027】
(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは、それぞれ独立して水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは水素原子、炭化水素基、アシル基またはシリル基を表す。rは2〜5の整数を表し、sは1〜100の整数を表す。rおよび/またはsが2以上のとき、R、Rは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。)
で表されるモノマーを、リビングラジカル重合法により重合する工程(4)を含むことを特徴とする、式(I−5)
【0028】
【化10】

【0029】
〔式中、Q、Rおよび[ ]は、前記と同じ意味を表し、Aは、式(II)
【0030】
【化11】

【0031】
(R〜R、rおよびsは前記と同じ意味を表す。)
で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖を表す。〕
で表される構造を有するデンドリマーの製造方法。
【0032】
(4)前記工程(4)が、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、酢酸第一銅、過塩素酸第一銅から選ばれる1種または2種の銅化合物と、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリン、トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラミンから選ばれる1種または2種のアミンを、リビングラジカル重合触媒として用いるリビングラジカル重合法により、前記式(II')で表されるモノマーをグラフト重合するものであることを特徴とする(3)に記載の製造方法。
【0033】
本発明の第3によれば、下記(5)、(6)のイオン伝導性ポリマー電解質が提供される。
(5)正に荷電した少なくとも1種のイオン種と、前記(1)または(2)に記載のデンドリマーとからなる複合体を有することを特徴とするイオン伝導性ポリマー電解質。
(6)正に荷電した少なくとも1種のイオン種と、前記(3)または(4)に記載の製造方法で得られたデンドリマーとからなる複合体を有することを特徴とするイオン伝導性ポリマー電解質。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、溶媒を含まない状態でも室温で十分なイオン伝導性を有する新規デンドリマー、及びこのものを用いるイオン伝導性ポリマー電解質が提供される。本発明のデンドリマーは、最終世代の各分岐鎖にブロック重合したポリマー鎖を導入したものであり、各世代に欠損の少ないポリマーである。本発明のイオン伝導性ポリマー電解質は、室温で良好なイオン伝導性を示し、電池等の電気デバイスの高分子固体電解質として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明のデンドリマー及びイオン伝導性ポリマー電解質について詳細に説明する。
1)デンドリマー
本発明のデンドリマーは、前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖を有することを特徴とする。
本発明のデンドリマーは、少なくとも前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖を有するものであれば特に制約されないが、前記式(I−1)又は式(I−2)で表される炭素骨格を有するものが好ましい。
【0036】
前記式(I−1)及び式(I−2)においては炭素原子のみを表記しているが、各炭素原子はそれぞれ独立して、ハロゲン原子若しくは有機基と直接結合していても、ヘテロ原子を介して有機基と結合していても、又は隣接原子と多重結合を形成していてもよい。
【0037】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。有機基としては、メチル基、エチル基、フェニル基等の炭化水素基が挙げられる。ヘテロ原子を介する有機基としては、トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基等のケイ素原子を介する有機基;メチルチオ基、エチルチオ基、メチルスルホニル基等のイオウ原子を介する有機基等が挙げられる。
【0038】
本発明のデンドリマーは、前記式(I−1)又は式(I−2)で表される炭素骨格が、前記式(III−1)又は式(III−2)で表される繰り返し単位を含む炭素骨格であるものが好ましい。
【0039】
前記式(III−1)及び式(III−2)中、Rは有機基を表し、好ましくは置換基を有していてもよい炭化水素基である。Rの炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基等のアルキニル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基;等が挙げられる。前記炭化水素基の置換基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基、エステル基、アシル基等が挙げられる。
p、qは、それぞれ独立して1以上の整数を表し、1〜5のいずれかの整数であるのが好ましい。
【0040】
また、前記式(III−1)及び式(III−2)で表される炭素骨格を構成する各炭素原子は、それぞれ独立してハロゲン原子若しくは有機基と直接結合していても、ヘテロ原子を介して有機基と結合していても、又は隣接原子と多重結合を形成していてもよい。
【0041】
前記式(III−1)で表される化合物の好ましい具体例を下記に示す。
【0042】
【化12】

【0043】
前記式(III−2)で表される化合物の好ましい例を下記に示す。
【0044】
【化13】

【0045】
また、前記式(III−1)又は前記式(III−2)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖は、同一の繰り返し単位からなるものであっても、2種以上の異なる繰り返し単位からなるものであってもよい。
【0046】
本発明のデンドリマーは、前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖を分岐鎖とするものが好ましく、前記式(I−1)又は式(I−2)で表される炭素骨格を核とし、前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖を分岐鎖とするものがより好ましい。
【0047】
前記式(II)中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。炭素数1〜4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基等が挙げられる。
【0048】
、Rはそれぞれ独立して、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表す。炭素数1〜5のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基等が挙げられる。置換基としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;メチルチオ基等のアルキルチオ基;メトキシカルボニル基等のエステル基;アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基;等が挙げられる。
【0049】
rは2〜5のいずれかの整数を表し、sは1〜100のいずれかの整数を表す。r又はsが2以上のとき、R、Rは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。
【0050】
は、水素原子、炭化水素基、アシル基又はシリル基を表す。
炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基等のアルキニル基;フェニル基、4−クロロフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、ナフチル基等のアリール基;等が挙げられる。
【0051】
アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、n−プロピオニル基、イソプロピオニル基、n−ブチリル基、t−ブチリル基、バレリル基、パルミトイル基、ステアロイル基、オレオイル基、オキサリル基、マロニル基、スクシニル基;ベンゾイル基、トルオイル基、サリチロイル基、シンナモイル基、ナフトイル基、フタロイル基等のアロイル基;等が挙げられる。シリル基としては、トリメチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基等が挙げられる。
【0052】
前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖は、(メタ)アクリレート系モノマーの1種を単独重合する方法、(メタ)アクリレート系モノマーの2種を共重合する方法、又は(メタ)アクリレート系モノマーの少なくとも1種と、これと共重合可能な他のモノマーとを共重合する方法、等により形成することができる。
【0053】
用いる(メタ)アクリレート系モノマーとしては、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−メトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−エトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(エチレングリコールの単位数は2〜100)(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの単位数は2〜100)(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、(ブレンマーPMEシリーズ、日本油脂(株)製)、アセチルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ベンゾイルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチルシリルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、t−ブチルジメチルシリルオキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート等が挙げられる。ここで、(メタ)アクリレートとは、アクリレート又はメタクリレートのいずれかを表す意である。
【0054】
前記(メタ)アクリレート系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、メトキシポリエチレングリコールシクロヘキセン−1−カルボキシレート等のカルボキシレート系モノマー;メトキシポリエチレングリコール−シンナメート等のシンナメート系モノマー;スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−t−ブトキシスチレン等のスチレン系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー;ビニルケトン等のケトン系モノマー;1,4−ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン系モノマー;等が挙げられる。
【0055】
また、前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖は、グラフト重合可能なアクリルポリマーを得たのち、このものに極性部分を形成する化合物をグラフト重合することによっても形成することができる。
【0056】
グラフト重合可能なアクリルポリマーを得る方法としては、活性水素をもつ官能基を有するアクリル系モノマーの1種を単独重合する方法や、該アクリル系モノマーの2種以上を共重合する方法、該アクリル系モノマーの少なくとも1種と、このものと共重合可能な他のモノマーとを共重合する方法等が挙げられる。
【0057】
活性水素をもつ官能基を有するアクリル系モノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート系単量体;モノメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のモノアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート系単量体;アクリル酸;メタクリル酸;等が挙げられる。
【0058】
また、活性水素をもつ官能基を有するアクリル系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸系単量体;等が挙げられる。
前記極性部分を形成する化合物としては、式(VIII)
【0059】
【化14】

【0060】
(式中、R、Rは、それぞれ独立して置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表す。)で表されるアルキレンオキシドを例示することができる。ここで、R、Rの置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基としては、前記R、Rとして例示したものと同様のものを例示することができる。
【0061】
前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖を分岐鎖とする本発明のデンドリマーにおいて、前記ポリマー鎖は、正のイオン種と複合体を形成し得る極性部分又はイオン種を溶媒和し得る極性部分を有するのが好ましい。かかるポリマー鎖の極性部分の形成材料としては、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリブチレンオキサイド、ポリブチレンイミン、ポリエピクロロヒドリン、ポリエチレンチオキサイド、ポリプロピレンチオキサイド、ポリブチレンチオキサイド、アクリロイル誘導体化(アルキレンオキサイド)等ポリアルキレンオキサイド、又はポリシロキサンアクリレート、ポリホスファゼン等が挙げられる。
【0062】
前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖の重合度は特に制限されないが、5以上であるのが好ましい。5未満では膜質が低下し、該ポリマー鎖の極性部分が相対的に不足して、イオン種との複合体の形成能力、溶媒和能力が劣るため良好なイオン伝導性ポリマーを得ることができない。
【0063】
本発明のデンドリマーは、前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖が、式(I−1)又は式(I−2)で表される炭素骨格上の炭素原子と結合する(炭素骨格上を起点とする)ポリマー鎖を分岐鎖の一部に有しているのが好ましい。
【0064】
本発明のデンドリマーは、その最終世代に、前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖を配置したものであるのが好ましい。前記ポリマー鎖を最終世代に配置することで、該ポリマー鎖の極性部分がイオン種と複合体を形成しやすく、またイオン種と溶媒和しやすくなり、イオン伝導性ポリマー電解質に好ましく用いることができる。
【0065】
前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖を最終世代に配置する方法としては、例えば、デンドリマーの最終世代の各分岐末端の官能基をリビングラジカル重合の開始点として、金属錯体触媒存在下に各分岐鎖に前記式(II)で表される繰り返し単位をブロック重合する方法が挙げられる。
【0066】
本発明のデンドリマーの数平均分子量は特に制限されないが、5,000〜20,000,000の範囲が好ましい。数平均分子量が5,000より小さい場合には、熱的特性及び物理的特性が低下する一方で、20,000,000より大きい場合には、成膜性及び成形性が低下するおそれがある。
【0067】
また、正のイオン種と複合体を形成し得る極性部分又はイオン種を溶媒和し得る極性部分を含有するポリマー鎖の数平均分子量は特に制限されないが、150〜100,000であるのが好ましく、150〜20,000であるのがより好ましく、500〜15,000であるのが特に好ましい。この数平均分子量が150より小さい場合には十分なイオン伝導性が得られない一方で、100,000より大きい場合には、成膜性や成形性、膜物性が低下するおそれがある。
【0068】
本発明のデンドリマーの製造方法としては、具体的には下記の(i)〜(v)に示す方法が挙げられる。
(i)アニオン重合開始剤の存在下、下記に示す式(IV)で表される化合物の単独重合、又は式(IV)で表される化合物と、このものと共重合可能な化合物とを共重合させて得られるアニオン末端と、下記に示す式(V)で表される化合物とを反応させて、ポリマー鎖末端に分岐可能な部位を導入することで、下記に示す式(VI)で表されるデンドリマーを得る方法。
【0069】
【化15】

【0070】
(i)の方法による製造ルートの概略を下記に示す。
【0071】
【化16】

【0072】
前記式(IV)中、Rは水素原子又は炭素数1〜6の炭化水素基を表す。
炭素数1〜6の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基等のアルキニル基;等が挙げられる。これらの炭化水素基は、ハロゲン原子、アルコキシ基、アルキルチオ基、エステル基、アシル基等の置換基を有していてもよい。
【0073】
前記式(IV)中、Xは、フェニル基、4−クロロフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基等の置換基を有していてもよいアリール基;2−ピリジル基、4−ピリジル基、6−メチル−2−ピリジル基等の置換基を有していてもよいヘテロアリール基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基等の炭素数1〜20の炭化水素オキシカルボニル基;N,N−ジメチルカルボキサミド基等のN,N−ジ置換カルボキサミド基;ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基等の置換基を有していてもよいアルケニル基;エチニル基、1−プロピニル基等の置換基を有していてもよいアルキニル基;等を表す。
【0074】
前記式(V)中、Yはアニオン末端に対して安定で、かつアニオン末端と反応性を有する官能基に変換可能な官能基を表す。例えば、トリメチルシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基が挙げられる。
【0075】
(ii)(i)の方法で調製したデンドリマー(式(VI)で表されるデンドリマー)の官能基Yをアニオン末端と反応性を有する官能基Zに変換して、式(VI’)で表される化合物とし、このものと式(V)で表される化合物より誘導されるアニオンとを反応させて、分岐鎖が増加したポリマー鎖を有するデンドリマー(下記式(VII)で表されるデンドリマー)を得る方法。
(ii)の方法の概略を下記に示す。
【0076】
【化17】

【0077】
(iii)(ii)の方法と同様の操作を繰り返すことにより、任意の数の末端Yを有するデンドリマーを得る方法。
(iv)さらに、上記(iii)の方法で得られたデンドリマーのポリマー鎖末端YをZに変換した後、前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖を、末端Zを起点としてグラフト重合により導入して、最終世代に、ポリアルキレンオキシドが導入されたデンドリマーを得る方法。
グラフト重合する方法としては、例えば、式(II’)
【0078】
【化18】

【0079】
(式中、R〜R、r及びsは前記と同じ意味を表す。)で表されるモノマーを、末端Zを開始点とするリビングラジカル重合による方法が挙げられる。
【0080】
このリビングラジカル重合は、前記(iii)の方法で得られたデンドリマーを重合開始剤として、遷移金属化合物を触媒としてグラフト重合するものである。
グラフト重合の形態としては特に制約はなく、溶液重合、塊状重合等の公知の重合形態を使用でき、溶液重合が好ましい。
【0081】
溶液重合に用いる有機溶媒は特に制限されない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ジオキサン等のエーテル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;エタノール、n−ブタノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の多価アルコール誘導体類;等が挙げられる。
【0082】
前記遷移金属化合物を構成する中心金属としては、マンガン、レニウム、鉄、ルテニウム、ロジウム、ニッケル、銅等の周期律表第7〜11族元素(日本化学会編「化学便覧基礎編I改訂第4版」(1993年)記載の周期律表による)が挙げられ、0価及び1価の銅、2価のルテニウム並びに2価の鉄が好ましく、1価の銅が特に好ましい。
【0083】
前記遷移金属化合物の好ましい具体例としては、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、酢酸第一銅、過塩素酸第一銅等の銅化合物;塩化ルテニウムトリストリフェニルホスフィン錯体等の二価のルテニウム錯体;塩化鉄ビストリフェニルホスフィン錯体等の二価の鉄錯体;等が挙げられる。これらの遷移金属化合物は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0084】
前記銅化合物を用いる場合には、触媒活性を高める配位子を添加するのがより好ましい。添加する配位子としては、例えば、2,2’−ビピリジル及びその誘導体、1,10−フェナントロリン及びその誘導体、トリブチルアミン等のアルキルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラミン等のポリアミン等;が挙げられる。また、ルテニウム錯体を用いる場合には、触媒の活性をより高めるために、アルミニウムトリアルコキシド等のアルミニウム化合物をさらに添加するのが好ましい。
【0085】
前記グラフト重合は、通常、窒素、アルゴン等の不活性ガスの雰囲気下、重合温度50〜200℃、好ましくは80〜120℃で行われる。
【0086】
前記式(II)で表される化合物のポリマー鎖をグラフト重合により形成する方法としては特に制約されない。例えば、以下の(a)〜(d)の方法が挙げられる。
(a)前記式(II)で表される化合物のみを用いて、単独重合体からなるポリマー鎖を得る方法。
(b)前記式(II)で表される化合物と他の重合性不飽和単量体とを反応系に同時に添加して、ランダム共重合体からなるポリマー鎖を得る方法。
(c)前記式(II)で表される化合物と他の重合性不飽和単量体とを反応系へ逐次的に添加して、ブロック共重合体からなるポリマー鎖を得る方法。
(d)前記式(II)で表される化合物と他の不飽和単量体との組成比を経時的に変化させて、グラジエント共重合体からなるポリマー鎖を得る方法。
【0087】
グラフト重合によりポリマー鎖を形成する反応は、連続的に進めても、断続的に進めてもよい。例えば、前記(c)の方法において、前記式(II)で表される化合物の重合が完了したことを確認した後、他の重合性不飽和単量体を加えて共重合を連続的に行うことができる。また、前記式(II)で表される化合物の重合が未完了でも所望の重合度又は分子量に到達したことが確認された段階で、得られたブロック・グラフト共重合体を一旦取り出し、このものをマクロ重合開始剤として、他の重合性不飽和単量体に加えて共重合を断続的に行うこともできる。
【0088】
グラフト重合の反応過程の追跡及び反応終了の確認は、ガスクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、サイズ・エクスクルージョン・クロマトグラフィー(SEC)、膜浸透圧法、NMR等の公知の分析手段により容易に行うことができる。
反応終了後は、通常の分離精製方法、例えばカラムクロマトグラフィー、沈澱法等により、目的とするデンドリマーを単離することができる。
【0089】
2)イオン伝導性ポリマー電解質
本発明のイオン伝導性ポリマー電解質は、正に荷電した少なくとも1種のイオン種と本発明のデンドリマーとからなる複合体を有することを特徴とする。
本発明のイオン伝導性ポリマー電解質としては、特に限定されるものではなく、硬化して得られる高分子固体電解質中での解離定数が大きいことが望ましい。
【0090】
本発明のイオン伝導性ポリマー電解質は、電解質塩と本発明のデンドリマーとを複合化させることで得ることができる。本発明のイオン伝導性ポリマー電解質は、本発明のデンドリマ−の分岐鎖中の極性部分又はイオン種を溶媒和し得る極性部分に、前記電解質塩の正に荷電したイオン種が存在する形で複合化されていると考えられる。
【0091】
正に荷電したイオン種としては特に制限されないが、例えば、Li、Na、K等のアルカリ金属イオン;アンモニウムイオン、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン等の4級アンモニウムイオン;Mg2+、Ca2+等のアルカリ土類金属イオン;テトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン等の4級ホスホニウムイオン;Ag等の遷移金属イオン;H;等が挙げられる。
【0092】
これらの正に荷電したイオン種と対をなすアニオン種としては、I、CFSO、ClO、AsF、PF、BF、SCN、メチドアニオン、ビスハロアシルアニオン、スルホニルイミドアニオン、RCO(Rはアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基等を示す。)等が挙げられる。
【0093】
正に荷電したイオン種とアニオン種とからなる電解質塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、遷移金属塩;塩酸、過塩素酸、ホウフッ化水素酸等のプロトン酸;等が挙げられる。これらの塩は1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0094】
これらの中でも、優れたイオン伝導性を有するイオン伝導性ポリマー電解質を得ることができることから、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩又は遷移金属塩が好ましく、アルカリ金属塩がより好ましく、リチウム塩が特に好ましい。
【0095】
アルカリ金属塩としては、LiCFSO、LiN(CFSO、LiC(CFSO、LiC(CH)(CFSO、LiCH(CFSO、LiCH(CFSO)、LiCSO、LiN(CSO、LiB(CFSO、LiPF、LiClO、LiI、LiBF、LiSCN、LiAsF、NaCFSO、NaPF、NaClO、NaI、NaSCN、NaBF、NaAsF、KCFSO、KPF、KI、LiCFCO、KSCN、KBF等が挙げられる。また、アルカリ土類金属塩としては、Mg(ClO、Mg(BF等を、4級アンモニウム塩としては(CHNPF等を、4級ホスホニウム塩としては(CHPBF等を、遷移金属塩としてはAgClO等をそれぞれ例示することができる。
【0096】
電解質塩の添加量は、用いるデンドリマー中のアルキレンオキサイドユニットに対して、通常0.005〜80モル%、好ましくは0.01〜50モル%の範囲である。
【0097】
本発明のデンドリマーと電解質塩とを複合化する方法は特に制約はない。例えば、本発明のデンドリマーと電解質塩とを、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、ジメチルホルムアミド等の適当な溶媒に溶解させる方法や、本発明のデンドリマーと電解質塩とを、常温又は加熱下に機械的に混合する方法等が挙げられる。
【0098】
本発明のイオン伝導性ポリマー電解質の形状は特に制約されないが、使用上の利便性を考慮してシート状が好ましい。シート状のイオン伝導性ポリマー電解質を得る方法としては、例えば、本発明のデンドリマー及び電解質塩を含む組成物を調製し、この組成物を、ロールコーター法、カーテンコーター法、スピンコート法、ディップ法、キャスト法等の各種コーティング手段により支持体上に成膜し、このものを熱等により固化させた後、支持体を除去する方法が挙げられる。
【0099】
本発明のイオン伝導性ポリマー電解質は、熱的特性、物理的特性及びイオン伝導度に優れる。従って、固体電解質として電池等の電気化学素子に使用することができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
(1)デンドリマーの合成−1
300mlの四つ口フラスコにテトラヒドロフラン(THF)200gを仕込み、−60℃に冷却した。sec−ブチルリチウム(s−BuLi)を2.77g(3.53mmol:開始剤効率85%に設定)を添加後、スチレン(A)30g(288mmol)を徐々に滴下した。スチレンの滴下終了後、反応液を−78℃に冷却し、1,1−ビス(3−t−ブチルジメチルシリロキシメチルフェニル)エテン(B)2.15g(s−BuLiに対して1.3倍モル)を添加した。−78℃で20分間撹拌した後、メタノールを加えて反応を停止した。反応液を室温に昇温した後、溶媒を減圧留去することにより30重量%溶液として、大量のメタノール中に滴下した。再沈殿を3回繰り返し、得られたポリマーを60℃で5時間真空乾燥し、白色ポリマー(C)29.8gを得た。ポリマー(C)のMnは10,800、Mw/Mnは1.04であった。
【0101】
(2)デンドリマーの合成−2
(1)で得たポリマー(C)10.8gのクロロホルム/アセトニトリル(体積比:6/1)混合溶液210mlに、LiBr8.7g及びトリメチルシリルクロライド 13.6gを30℃で加え、室温で12時間撹拌した。反応液に水を加えて塩を溶解させて均一溶液とし、クロロホルムにより有機層を抽出した。無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した後、溶媒を減圧除去してポリマーを得た。得られたポリマーをTHF−メタノールを用いて再沈殿させ、ポリマー(C−2)10.8gを得た。
【0102】
(3)デンドリマーの合成−3
窒素雰囲気下、s−BuLi(1.78mmol)に1,1−ビス(3−t−ブチルジメチルシリルオキシメチルフェニル)エテン0.98gのTHF溶液を、−78℃で添加し、同温度で30分間撹拌した。これに(2)で得たポリマー(C−2)5.00gのTHF溶液(0.74mmol)を加え、1.5時間、−78℃で撹拌した。メタノール(MeOH)10mlを同温度で反応混合物に加えて反応を停止し、室温に昇温した後、大量のメタノール(MeOH)を加えて再沈殿して、5分岐のデンドリマー5.20gを得た。
【0103】
(2)(3)の操作を更に2回繰り返し、17分岐のデンドリマーを得た。この方法にて17分岐のそれぞれの最外殻にアニオンに対して反応点を有するデンドリマー(D)を得た。得られたデンドリマー(D)の分子構造を下記に示す。
【0104】
【化19】

【0105】
(式中、太線はポリスチレン鎖を、・は分岐鎖の炭素分岐点をそれぞれ表す。)
得られたデンドリマー(D)のMnは12,662、Mw/Mnは1.04であった。
【0106】
(4)デンドリマーの合成−4
100mlの反応容器に、上記で得たデンドリマー(D)0.15g(0.0096mmol)、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(ブレンマーPME−400、m=9、日本油脂(株)製)1.05g(2.11mmol)及びトルエン4.8gを加えて、均一に混合した後、水流アスピレーターにて内部を脱気した。さらに、グローブボックス中で臭化銅(I)0.0221g(0.154mmol)、及び4,4’−ジメチルビピリジル0.0567g(0.308mmol)を加え、内部を窒素置換して反応容器を密閉した。反応容器を約90℃のオイルバス中で15時間攪拌した。サイズ・エクスクルージョン・クロマトグラフィー(SEC)でモノマーの消失を確認した後、反応液を室温まで冷却し、反応系を開放して空気中で30分間攪拌して触媒を失活させた。反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することにより、デンドリマー(E)を0.46g得た(単離収率=38%)。得られたデンドリマー(E)の分子構造を下記に示す。
【0107】
【化20】

【0108】
(式中、太線はポリスチレン鎖を、波線はメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート由来の繰り返し単位を有するポリマー鎖を、・は分岐鎖の炭素分岐点をそれぞれ表す。)
【0109】
(5)デンドリマーの合成−5
上記(1)〜(4)と同様の方法により、5分岐、9分岐、17分岐、33分岐、58分岐の世代を変えたデンドリマー(F)をそれぞれ合成した。各デンドリマーは、ポリマー鎖のポリエチレンオキサイド(PEO)由来の繰り返し単位の含有率を変化させることにより合成した。
【0110】
実施例−1
デンドリマーの合成−4で得たデンドリマー(E)の20重量%THF溶液1.00g、過塩素酸リチウム0.0175g及び脱水アセトン1.00gを混合溶媒に用いて、室温で攪拌して透明な溶液とした。この溶液をアルミニウム板上にキャストし、窒素気流下、12時間室温で放置した後、120℃で5時間減圧乾燥して、均一な固体電解質膜を得た(膜厚100μm)。
窒素雰囲気下、この固体電解質膜をアルミニウム板に剪み、周波数5〜10MHzのインピーダンスアナライザー(Solartron−1260型)を用いて複素インピーダンス解析によりイオン伝導度を測定した。その結果、イオン伝導度(S/cm)の値は2.6×10−5(30℃)、8.1×10−5(40℃)、1.1×10−4(50℃)であった。
【0111】
実施例−2〜実施例−15
デンドリマーの合成−5で得たデンドリマー(F)を用いる以外は、実施例1と同様の方法で均一な固体電解質膜を作成し、薄膜のイオン伝導度を測定した。
実施例−1〜実施例−15の評価結果と、固体電解質膜を形成する各デンドリマーの組成を下記第1表に示す。
【0112】
【表1】

【0113】
また、実施例4、6で得た固体電解質膜の形成原料であるフィルム状のデンドリマーの電子顕微鏡写真(TEM写真)を撮影した。TEM写真を図1及び図2に示す。図1及び図2から、これらのデンドリマーはミクロ層分離構造を形成していることがわかった。固体電解質膜は、ミクロ層分離構造由来の構造を形成しているものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】第1図は、実施例4で調製した固体電解質膜の形成に使用されたデンドリマーフィルムのTEM写真を表す図である。
【図2】第2図は、実施例6で調製した固体電解質膜の形成に使用されたデンドリマーフィルムのTEM写真を表す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の式(I−3)で表される構造を有し、数平均分子量が5,000〜20,000,000の範囲にあることを特徴とするデンドリマー。
【化1】

{式中、Rは有機基を表し、[ ]内の構造は繰り返し単位を表す。
Aは、式(II)
【化2】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは水素原子、炭化水素基、アシル基、またはシリル基を表す。rは2〜5の整数を表し、sは1〜100の整数を表す。rおよび/またはsが2以上のとき、R、Rは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。)
で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖を表す。
Qは、アニオン重合開始剤の存在下、式(IV)
【化3】

(式中、Rは水素原子若しくは炭素数1〜6の炭化水素基を表し、Xは、フェニル基、4−クロロフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、2−ピリジル基、4−ピリジル基、6−メチル−2−ピリジル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、N,N−ジメチルカルボキサミド基、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、エチニル基、若しくは1−プロピニル基を表す。)
で表される化合物を単独重合、または、式(IV)で表される化合物と、式(IV)で表される化合物と共重合可能な化合物を共重合させて得られるポリマー鎖を表す。}
【請求項2】
前記式(II)で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖の重合度が5以上であることを特徴とする請求項1に記載のデンドリマー。
【請求項3】
アニオン重合開始剤の存在下、式(IV)
【化4】

(式中、Rは、水素原子若しくは炭素数1〜6の炭化水素基を表し、Xは、フェニル基、4−クロロフェニル基、4−メトキシフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、2−ピリジル基、4−ピリジル基、6−メチル−2−ピリジル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基;N,N−ジメチルカルボキサミド基、ビニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、エチニル基、若しくは1−プロピニル基を表す。)
で表される化合物を単独重合、または、式(IV)で表される化合物と、式(IV)で表される化合物と共重合可能な化合物を共重合させて得られるアニオン末端と、式(V)
【化5】

(式中、Yはアニオン末端に対して安定で、かつアニオン末端と反応性を有する官能基に変換可能な官能基を表す。)
で表される化合物を反応させて、式(VI)
【化6】

(式中、Qは、アニオン重合開始剤の存在下、式(IV)で表される化合物を単独重合、または、式(IV)で表される化合物と、式(IV)で表される化合物と共重合可能な化合物を共重合させて得られるポリマー鎖を表す。)で表されるデンドリマーの核部分を形成する工程(1)、
形成した核部分の官能基Yをアニオン末端と反応性を有する官能基に変換し、官能基Yをアニオン末端と反応性を有する官能基に変換した核部分を、前記式(V)で表される化合物より誘導されるアニオンと反応させて、式(VII)
【化7】

(式中、QおよびYは前記と同じ意味を表し、Rは有機基を表す。)
で表されるデンドリマーを得る工程(2)、
工程(2)の操作を任意の回数繰り返すことにより、式(IX)
【化8】

(式中、Q、YおよびRは前記と同じ意味を表し、[ ]内の構造は繰り返し単位を表す。)
で表されるデンドリマーを得る工程(3)、
工程(3)で得られたデンドリマーの官能基Yをアニオン末端と反応性を有する官能基に変換した後、式(II')
【化9】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表し、R、Rは、それぞれ独立して水素原子または置換基を有していてもよい炭素数1〜5のアルキル基を表し、Rは水素原子、炭化水素基、アシル基またはシリル基を表す。rは2〜5の整数を表し、sは1〜100の整数を表す。rおよび/またはsが2以上のとき、R、Rは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。)
で表されるモノマーを、リビングラジカル重合法により重合させる工程(4)を含むことを特徴とする、式(I−5)
【化10】

〔式中、Q、Rおよび[ ]は、前記と同じ意味を表し、Aは、式(II)
【化11】

(R〜R、rおよびsは前記と同じ意味を表す。)
で表される繰り返し単位を含むポリマー鎖を表す。〕
で表される構造を有するデンドリマーの製造方法。
【請求項4】
前記工程(4)が、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、酢酸第一銅、過塩素酸第一銅から選ばれる1種または2種の銅化合物と、2,2’−ビピリジル、1,10−フェナントロリン、トリブチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリエチレンテトラミンから選ばれる1種または2種のアミンを、リビングラジカル重合触媒として用いるリビングラジカル重合法により、前記式(II')で表されるモノマーをグラフト重合するものであることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
正に荷電した少なくとも1種のイオン種と、請求項1または2に記載のデンドリマーとからなる複合体を有することを特徴とするイオン伝導性ポリマー電解質。
【請求項6】
正に荷電した少なくとも1種のイオン種と、請求項3または4に記載の製造方法で得られたデンドリマーとからなる複合体を有することを特徴とするイオン伝導性ポリマー電解質。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−1803(P2009−1803A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170506(P2008−170506)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【分割の表示】特願2003−176161(P2003−176161)の分割
【原出願日】平成15年6月20日(2003.6.20)
【出願人】(000004307)日本曹達株式会社 (434)
【Fターム(参考)】