説明

データの精度を向上する方法、および、そのためのシステム

【課題】本発明は、分析対象検体の画像にもとづく数値データの精度を向上する方法、および、それを実現するための臨床検査システムに係り、特に検査データの表示・検証および運用を支援するシステム構成に関する。
【解決手段】複数の検査装置から得られる分析結果について、修正の必要性の有無を分析者が確認し、必要な場合は修正を行った後、上位システムへ結果を報告する臨床検査システム、すなわち、上位システムをサポートするシステム(サブシステム)を開発することで、本課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析対象検体の画像にもとづく数値データの精度を向上する方法、および、それを実現するための臨床検査システムに係り、特に検査データの表示・検証および運用を支援するシステム構成に関する。
【背景技術】
【0002】
病院や検査センターで行われる臨床検査では、通常、複数の検査装置で各種の検査を行い、得られた分析結果は施設内のホストコンピュータ(上位システム)に送られ、他の検査結果と合わせて診断が実施されている。
【0003】
近年は、CTスキャンやMRIに代表される画像診断技術の発展がめざましく、従来の生化学的検査と併せて行われることも多い。
画像を用いる臨床検査では、患部あるいは患者から採取した検体を撮像し、得られた画像を元に疾患の有無や、治療効果の確認が行われる。画像の判定は、医師や検査技師が目視によって行うことも多いが、画像に表示される形態を、形状・大きさ・色などの種々の特性に着目して数値データ化した上で、プログラムを用いて自動的に行うことも可能である。
【0004】
目視判定の結果、あるいは、分析対象検体の画像にもとづく数値データを修正する場合、ホストコンピュータへアクセスすることにより可能であるが、ホストコンピュータには膨大なデータが集約されているため、検索に時間を要する、ホストコンピュータにアクセスできる端末が限られているなどの課題が指摘されている。
【0005】
また、検体や検査装置などの状態によっては撮像した画像に異常が生じる場合があり、結果として画像にもとづく数値データにも異常が生じる可能性がある。このような状況下において検査の正確性を確保するためには、数値データの基礎である画像のチェックが必要であるが、ホストコンピュータに集約されたデータを確認しようとするとアクセス頻度が増え、システムの性能を劣化させてしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、画像を用いる臨床検査では、検査結果の修正や画像のチェックがしばしば行われ、検索時間の延長や、ホストコンピュータへの負荷増大を招いている。
従来は、上位システムへ検査結果を送信する前に、個々の検査装置において結果の修正や画像のチェックを行うといった対策がとられていた。
【0007】
しかし、上記の対策では検査装置ごとの対応が必要であるため、検査結果の確認が煩雑になることから、かえって作業時間が長くなり、検査担当者の負担を増大させていた。しかも、確認を終えて複数の検査装置から上位システムへ送信されてきた検査結果が矛盾していた場合、再度、検査装置での結果の修正・確認が必要になるため、迅速な診断が行えないといった問題が生じる。
【0008】
本発明の目的は、一括して画像を含む各種検査結果の修正・正確性の検証を可能とし、上位システムの負荷を解消する臨床検査システムを提供することにある。言い換えれば、分析対象検体の画像にもとづく数値データの精度を向上する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
鋭意検討の結果、複数の検査装置から得られる分析結果について、修正の必要性の有無を分析者が確認し、必要な場合は修正を行った後、上位システムへ結果を報告する臨床検査システム、すなわち、上位システムをサポートするシステム(サブシステム)を開発することで、本課題を解決しうることを見出し、本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明は以下の発明を包含する。
[項1]
分析対象検体の画像にもとづく数値データの精度を向上する方法であって、
以下の(1)〜(5)の手段を有することを特徴とする臨床検査システムを、画像およびその画像にもとづく数値データを取得できる装置Aと、上位システムとの間に接続して用いることを特徴とする方法。
(1)装置Aで取得した数値データを任意に選択して第一表示部に表示する手段
(2)(1)で第一表示部に表示された数値データに対応した画像を第二表示部に同時に表示する手段
(3)上位システムから検体情報を取得する手段
(4)画像および(3)で取得した検体情報から、装置Aで取得した数値データの正確性を検証する手段
(5)(4)における検証が異常であれば上位システムに警告する手段
[項2]
さらに以下の(6)の手段を有する臨床検査システムを、対応する検体中に含まれる成分データを検出できる装置Bに接続して用いる、項1記載の方法。
(6)装置Bで取得した対応する検体の成分データを任意に選択して第一表示部に表示する手段
[項3]
装置Aが尿中有形成分分析装置であり、装置Bが尿定性検査装置である項1または2記載の方法。
[項4]
上位システムから取得する検体情報が、年齢、性別、過去の検査データより成る群から選択され、選択した検体情報を用いて構築した任意の論理式により、新規に取得したデータを検証し、異常があれば上位システムに警告を表示する手段を有することを特徴とする項1または2記載の方法。
[項5]
装置Aより取得した画像データのYRGB値を検証し、任意に設定された閾値以下である場合、取得した画像に対し、上位システムへアラームを発生させる手段を有することを特徴とする項1または2記載の方法。
[項6]
装置Aより取得したデータを任意に選択して第一表示部に表示し、第二表示部に表示された対応する撮影画像中において、データとして取得された有形成分を座標表示する手段を有することを特徴とする項1または2記載の方法。
[項7]
以下の(1)〜(5)の手段を有することを特徴とする、画像およびその画像にもとづく数値データを取得できる装置Aと、上位システムとの間に接続して用いる分析対象検体の画像にもとづく数値データの精度を向上するための臨床検査システム。
(1)装置Aで取得した数値データを任意に選択して第一表示部に表示する手段
(2)(1)で第一表示部に表示された数値データに対応した画像を第二表示部に同時に表示する手段
(3)上位システムから検体情報を取得する手段
(4)画像および(3)で取得した検体情報から、装置Aで取得した数値データの正確性を検証する手段
(5)(4)における検証が異常であれば上位システムに警告する手段
[項8]
さらに以下の(6)の手段を有し、かつ、対応する検体中に含まれる成分データを検出できる装置Bに接続して用いる、項7記載の臨床検査システム。
(6)装置Bで取得した対応する検体の成分データを任意に選択して第一表示部に表示する手段
【発明の効果】
【0010】
本発明により、上位システムにアクセスすることなく、複数の検査装置から得られる分析結果を一括して確認し、必要に応じて結果を修正することが可能になる。それゆえ、上位システムへのアクセス頻度が減少し、システム全体の性能を低下させることなく、大量の検査データを処理できるという効果を奏する。
【0011】
さらに、検体情報にもとづく各種検査結果のクロスチェックや、YRGB値にもとづく画像の検証を行うことで、より精度よく検体の異常を検出することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態について説明すると、以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0013】
図1は本発明の方法を実現するための一形態を図式化したものである。
【0014】
本発明のシステム(以下、サブシステム[100])は、画像およびその画像にもとづく数値データを取得できる装置Aと、上位システムとの間に接続して用いることを特徴とする。
すなわち、
本発明のサブシステム[100]は、画像およびその画像にもとづく数値データを取得することができる装置A[20]と、制御部[1]において通信回線により接続されている。サブシステムと装置A[20]との通信は、装置A[20]の仕様に従い、任意である。
具体的には、RS−232等を用いたシリアル方式、あるいはLANケーブルを用いたイーサネット(登録商標)を利用した接続形式が好ましいが、特に限定されない。
本発明のサブシステム[100]は、また、上位システム[200](以下、ホストコンピュータ[200]とも呼ぶ。)と、制御部[1]において通信回線により接続されている。通信の仕様はホストコンピュータ[200]に従い、任意である。
【0015】
本発明のサブシステム[100]は、
(1)装置Aで取得した数値データを任意に選択して第一表示部に表示する手段、および、
(2)(1)で第一表示部に表示された数値データに対応した画像を第二表示部に同時に表示する手段
を、有する。すなわち、
装置A[20]で取得した画像は、サブシステム内のデータベース(画像記憶部[3])に蓄積される。この画像は、任意に選択されて第二表示部[5]に表示されうる。
一方、該画像にもとづいて得られた数値データは、サブシステム内のデータベース(数値データ記憶部[2])に蓄積される。この数値データは、任意に選択されて第一表示部[4]に表示されうる。これらの画像および数値データは、対応するものをそれぞれ第一表示部[4]および第二表示部[5]に同時に表示することができる。
【0016】
本発明のサブシステム[100]は、また、
(3)上位システム[200]から検体情報を取得する手段
を、有する。すなわち、
ホストコンピュータ[200]のデータベースには病院内の各診療科から分析を依頼(オーダー)された検体情報が蓄積されている。
サブシステム[100]は、ホストコンピュータ[200]からオーダー情報を受信し、サブシステム内のデータベース(数値データ記憶部[2])に登録する。
検体情報は第一表示部に表示される。検体情報は、任意に設定された項目が表示されるが、検体によって、取得されない項目がある場合は、空欄で表示してもよい。
データベースに登録された検体情報は、数値データとともに、任意に選択されて第一表示部[4]に表示されうる。
【0017】
本発明のサブシステム[100]は、また、
(4)上記で取得した画像および検体情報から、装置A[20]で取得した数値データの正確性を検証する手段、および、
(5)(4)における検証が異常であれば上位システム[200]に警告する手段
を、有する。すなわち、データ報告の通信電文に異常を意味するコマンドを入れて送信することによって、ホストコンピュータに異常を警告することができる。
装置A[20]からオーダーの問い合わせを受信し、データベース(数値データ記憶部[2])中のオーダーの有無を確認し、オーダーがあれば「検査する」、オーダーがなければ「検査しない」を返送する。
また、装置A[20]の検査結果を判定してから、もう一方の装置による検査の必要性を判断する設定を行ってもよい。
装置A[20]は、サブシステム[100]から返送されたオーダー情報を受信し、検査を実行して結果を判定する。検査結果および判定は、サブシステムに送信され、コード変換、データ変換処理を行った後、データベース(数値データ記憶部[2])に格納される。
【0018】
制御部[1]は、サブシステム[100]の各手段を制御する制御手段として機能するものである。
判定部[8]は、取得した画像データおよび数値データの異常の有無を判定する判定手段として機能するものである。
【0019】
分析者は、サブシステム[100]にアクセスしてデータベースから結果をよびだし、必要に応じて検査結果の修正、目視での画像確認および結果入力を行うことができる。なお、サブシステムは、装置Aから受信したデータから第一表示部に検査結果を、第二表示部に対応する撮影画像を同時に表示することができる。
これらの動作はキーボードなどの入力部[6]からの指示によって、制御部[1]を介して行われうる。また、データはプリンタなどの出力部[7]により出力されうる。
【0020】
本発明のサブシステム[100]は、上記に加えてさらに
(6)対応する検体中に含まれる成分データを検出できる装置B[40]で取得した対応する検体の成分データを任意に選択して第一表示部[4]に表示する手段
を、有していても良い。すなわち、第一表示部において任意の検体に関する検体情報、装置Bから取得された対応する検体の成分データ、さらに装置Aから取得された画像に対応する数値データをすべて同時に表示することができる。
【0021】
本発明の検体は、例えばヒトを含む哺乳類の尿が例示できる。また、この発明では、好ましくは、装置Aには、例えば尿中有形成分分析装置が適用され、装置Bには、例えば尿定性検査装置が適用される。
【0022】
本発明の装置Aは透光板を用いて、検体を撮影し、画像を取得することを特徴とする。
すなわち、本発明の有形成分分析装置は、透光板上の検体を撮像するための撮像ステージと、被検体中の有形成分の標本像を拡大する手段と、標本像を撮像する手段と、撮像された画像を処理して各種成分に識別する手段とを有することが望ましい。
【0023】
さらに、上記装置においては、撮像手段が標本像の焦点を自動で合わせる機能を有していること、識別手段が、予め設定された視野分の全識別結果から分析結果を算出する機能と、分析結果を出力器から出力する機能とを有していること、当該装置が撮像された画像を処理して各種成分を識別した結果を記憶しておく手段を有すること、あるいは当該装置が検体に成分識別力を助力するための試薬を添加する手段を有することが望ましい。
【0024】
また、上記装置においては、識別手段が学習認識機能を有していること、識別手段が有形成分の特徴量の範囲指定を学習させ有形成分の量を算出する機能を有していること、識別手段が有形成分に起因する光学的特徴量に基づいて有形成分の量を算出する機能を有すること、拡大手段が一種以上の倍率を有していること、透光板がスライドガラスであること、あるいは透光板が、検体を被覆する被覆透光板と一体的に形成されたものであることが望ましい。
【0025】
透光板は透光性を有し、検体を戴置可能なものであればよく、例えば、スライドガラス等があげられる。スライドガラスは一回使い切り(ディスポーザブル)であれば、前検体のキャリーオーバーや染色液による汚染を回避できるため、信頼性の高い検査結果を提供できる。透光板の材料は、プラスチック(合成樹脂)、ガラスなどの透光性を有するものであれば、特に限定されない。なお、プラスチックの場合は、必要に応じて親水性を向上させるための化学的および/または物理的処理を行うことが望ましい。
透光板に載置された検体は、被覆透光板で被覆されていても良い。被覆透光板としては、例えばカバーガラスが挙げられる。被覆透光板の材料としては、上記した透光板と同様のものが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0026】
透光板上の被検液を撮像するための撮像ステージは、透光板を載置し得るものであれば良く、特に限定されないが、撮像位置を変更できるように移動可能なものであるのが好ましい。移動は手動で行っても良いが、例えばサーボモータ、ステッピングモータやリニアモータ等を使用して機械的に行うのが好ましい。
【0027】
撮像手段としては、デジタルカメラ、CCDカラービデオカメラ等が挙げられる。また、撮像手段には、有形成分の標本像の焦点を自動で合わせる機能(オートフォーカス機能)を付加しておくのが好ましい。拡大手段は、撮像前の標本像を光学的に拡大するものであっても良いし、撮像された標本像の画像をデジタル処理等して拡大するものであっても良い。具体的には、前記カメラに取り付けられるズームレンズや対物レンズ等が挙げられる。
【0028】
識別手段は、撮像された画像中の有形成分をその形態等に基づいて分類し、識別するものである。識別手段には、予め設定された視野分の全識別結果から分析結果を算出する機能と、分析結果を出力器から出力する機能とを付加するのが好ましい。なお、ここでいう予め設定された視野分とは、撮像する視野(画像)数のことをいう。また、識別手段には撮像された画像を一旦記憶しておくためのメモリ等を備えておくのが好ましい。
【0029】
識別手段としては、例えば、上記の識別を行うようにプログラミングされたコンピュータ、論理回路で構成された識別装置等が挙げられる。このうち、識別手段としてコンピュータを用いれば、各工程の動作、画像処理、記憶、計算、出力等すべての制御がソフト上で行えるようになり好ましい。
【0030】
装置Aで尿中有形成分の分析を行う場合、分析の対象となる有形成分は、被検体中に分散ないし懸濁しているものであれば特に限定されるものではない。例えば尿の場合では、赤血球(変形赤血球、各種由来赤血球)、白血球、上皮細胞類(扁平上皮細胞、移行上皮細胞、尿細管上皮細胞、円形上皮細胞、尿道円柱上皮細胞、前立腺上皮細胞、精嚢腺上皮細胞、子宮内膜上皮細胞、卵円形脂肪体、細胞質内封入体細胞、多辺形細胞など)、円柱類(硝子円柱、上皮円柱、顆粒円柱、蝋様円柱、脂肪円柱、赤血球円柱、白血球円柱、細胞円柱、硝子白血球円柱、ヘモグロビン円柱、ヘモジリデン円柱、ミオグロビン円柱、アミロイド円柱、蛋白円柱、空胞変形円柱、血小板円柱、細菌円柱、ビリルビン円柱、塩類円柱など)、微生物類(真菌、細菌、脂肪球、原虫、トリコモナス、精子など)、結晶・塩類(尿酸塩、リン酸塩、シュウ酸カルシウム、ビリルビン、シスチン、コレステロール、2,8-ジヒドロキシアデニン結晶など)、その他(核内封入体細胞、脂肪顆粒細胞、大食細胞、異型細胞)等が分析対象となる有形成分として挙げられる。
【0031】
装置Bは検体中に含まれる成分を検出する機能を有していれば、特に限定されない。尿定性検査装置を適用する場合、尿に尿試験紙を浸して、その試験紙の変色の度合を出力する装置であってもよい。尿試験紙の変色の度合は、色見本との比較から目視で判定してもよいが、例えば反射分光光度計による自動判定を行ってもよい。
あるいは、検体中の成分を定量的に検出可能な生化学検査用自動分析装置や、より高感度な免疫測定用自動分析装置を適用してもよい。
【0032】
装置Bで尿定性検査を行う場合、分析の対象となる成分は、被検体中に含まれるものであれば特に限定されるものではない。例えば尿の場合では、ブドウ糖、ウロビリノーゲン、蛋白、ケトン体、潜血、ビリルビン、亜硝酸塩、白血球、クレアチニン、アスコルビン酸、pH、比重等が分析対象としてあげられる。
【0033】
サブシステムは検体情報の取得手段を有する。検体情報は、具体的にはサブシステム上で取得したい検体の条件、例えば分析を依頼した日や依頼した診療科、過去に特定の検査項目で異常を警告された履歴を有するなどを入力し、ホストコンピュータのデータベースにアクセスすることで取得できる。ホストコンピュータへのアクセス方法は、通信を行うホストコンピュータの仕様に従い、任意である。検体情報は、分析者あるいは依頼者が入力してもよいが、バーコードで管理することが望ましい。
【0034】
サブシステムは取得した検体情報から、装置Aおよび/またはBから得られたデータの正確性を検証する手段を有する。
具体的には、装置Aで取得した撮影画像にもとづく有形成分の分析結果と、相関する装置Bで取得可能な定性検査の結果を照合し、設定した許容範囲から外れた場合は異常と判定する。
【0035】
新規に取得したデータの検証に用いる検体情報は、年齢、性別、過去データから成ることが好ましい。年齢や性別に相関するリスクは、疾患の検出に役立つとともに、さらに過去データを参照することで、検出力を向上させ、治療効果の推移を観測することが可能である。
【0036】
サブシステムは、画像の正確性を検証する手段を有する。具体的には、撮像した画像のYRGB値を検証し、任意に設定した閾値以下であった場合に、画像撮影が正常に行われなかった、すなわち異常であると判定する。
【0037】
YRGB値は、撮像した画像をデジタルデータの電気信号に変換したものであり、光の輝度成分(Y)と、赤(R)、緑(G)、青(B)の3原色で構成された格子状の画像(ビットマップ画像)から成り、数値データとして半導体メモリや固定磁気ディスク等の記憶装置に保存することができる。
【0038】
YRGB値のかわりに、色相・彩度・明度を検証してもよい。色相(H)は色の種類を表し、彩度(S)は色の鮮やかさ、明度(B)は色の明るさを表す。YRGB値と同じく電気信号に変換され、数値データとして取得可能である。
【0039】
色相・彩度・明度(以下、HSB値)そのものについて、任意に閾値を設定してもよいが、HSB値をYRGB値に変換して、画像の正確性を検証してもよい。逆にYRGB値をHSB値に変換して、画像の検証に用いてもよい。YRGB値とHSB値の相互変換方法は特に限定されないが、例えばGonzalezand Woodsの定義である下式を用いて行うことが可能である。
【0040】
I=1/3(R+G+B)
S=1−3・a/(R+G+B)
H=cos-1(0.5(2R−G−B)/((R−G)2+(R−B)・(G−B))1/2))
a:R,G,Bの最小値
【0041】
もし、S=0ならばHは無意味である。
もし、(B/I)>(G/I)ならば、H=360−H
【0042】
サブシステムは、検証の結果、異常と判定された検査結果、撮影画像に対して、ホストコンピュータに警告する手段を有することを特徴とする。具体的には、異常と判定された検体番号とともに任意のエラーメッセージをホストコンピュータに送信して、分析者に通知するプログラムの利用や、ホストコンピュータへ異常と判定された検体番号を送信し、表示するとともにアラーム音を発生させて、分析者に通知する方法があるが、特に限定されない。
【0043】
また、サブシステムでは、装置Aから取得したデータを任意に選択して第一表示部に表示し、第二表示部に表示された対応する撮影画像中において、データとして取得された細胞成分を座標表示する手段を有する。
具体的には、座標表示したい細胞成分を第一表示部中から選択し、任意に設定した表示ボタンを押すと、第二表示部に表示された対応する画像中にデータとして認識された細胞成分が表示される。座標表示は、記号によるポインティング、あるいは細胞成分をラインで囲む形式があるが、特に限定されない。
【0044】
検査結果の入力には、タブレットやキーボード、マウスを用いてもよい。検査結果の検証、検索等に係る設定もタブレットやキーボード、マウスを用いることが好ましく、さらに好ましくは、分析者の操作を容易にするためのユーザーインターフェースに対応していることが好ましい。
また、表示手段としては、CRT、液晶ディスプレイを用いることができる。検査結果の出力には、前記表示手段以外に、プリンタを用いることもできる。
なお本発明は、以上例示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術範囲に含まれる。
【実施例】
【0045】
本発明について、実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
【0046】
〔実施例1:検体情報にもとづく疾患を有する患者のスクリーニング〕
検体情報にもとづいて疾患を有する可能性のある患者のスクリーニングを行った。
サブシステム上で「性別:男性、年齢:40歳以上、尿潜血:+以上、尿沈渣:RBC≧5/HPF」の論理式にもとづいて新規に取得した検査データの検証を行った。
前述の論理式に該当した検体をホストコンピュータに報告し、当該患者の問診を行ったところ、頻尿、喫煙歴があることが判明し、尿路上皮癌が疑われたため、細胞診検査を依頼した結果、異型細胞が確認され、初期の尿路上皮癌を発見することができた。
【0047】
〔実施例2:装置Aから取得した数値データの検証〕
尿中有形成分分析装置を装置Aとして設定し、装置Aから新規に取得した検査データについて、数値データの前回値との比較を実施した。
尿中有形成分分析装置には、U−SCANNERII(東洋紡績)を用いた。
前回値と大きく異なる数値データが取得された検体について、画像を確認した結果、採取後の過程で尿試料に混入した夾雑物を、尿中有形成分と誤認していたことが判明した。
ただちに結果の修正を行い、ホストコンピュータに報告することができた。
【0048】
〔実施例3:装置AおよびBから取得した数値データの検証〕
同一検体から装置Aおよび装置Bから取得した検査データの検証を行った。
装置Aとして尿中有形成分分析装置U−SCANNERII(東洋紡績)、装置Bとして尿分析装置クリニテックアトラス−XL(シーメンス)を用いた。
前回値では、装置Aから取得された数値データは「RBC8個/HPF」、装置Bから取得された成分データが「潜血1+」であった。一方、今回、新規に取得されたデータは装置Aから取得された数値データが「RBC6個/HPF」であるのに対し、装置Bから取得された成分データが「潜血3+」であった。
まず、前回値について装置Aのデータと装置Bのデータを検証したところ、装置Aの画像データから得られる数値データと装置Bから得られる成分データが矛盾しないことを確認した。
次に、新規に取得したデータについても、同様に検証した。装置Aの画像データを確認したところ、RBCに関して画像と装置Aの数値データは一致していたが、画像中に細菌の出現が認められたことから、装置Bの成分データにおける「潜血3+」は細菌のペルオキシダーゼによる過酸化物が混入した結果の擬陽性であることが判明した。
上記の検証は、サブシステム上で画像を確認することで、容易に実施可能であり、修正した検査結果を、ただちにホストコンピュータへ送信することができた。
【0049】
〔比較例:画像を取得しない装置を用いたシステムでの検査データの検証〕
比較例として、装置Aのかわりに画像を取得しないフローサイトメトリー方式の尿中有形分析装置を用いたシステムでの検査データの検証を行った。
装置Aとして全自動尿中有形成分分析装置UF−1000i(シスメックス)、装置Bとして尿分析装置クリニテックアトラス−XL(シーメンス)を用いた。
〔実施例3〕と同様に、装置Aから取得されたデータと装置Bから取得されたデータに乖離の認められた検体について、検証を行った。
前回値では、装置Aから取得された数値データは「RBC25個/μl」、装置Bから取得された成分データは「潜血1+」であった。一方、今回、新規に取得されたデータは装置Aから取得された数値データが「RBC40個/μl」であるのに対し、装置Bから取得された成分データが「潜血1+」であった。
前回値については、装置Aと装置Bの間で矛盾がないこと、また新規に取得されたデータのうち、装置Aから取得された数値データ以外は前回値と比較して大きな変動がないことから、新規に装置Aから取得した数値データに何らかのエラーが生じた可能性が考えられたが、検体の画像が残らないため、正誤判断ができず、後日再検査を行うこととなった。
【0050】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明の方法によれば、上位システムにアクセスすることなく、複数の検査装置から得られる分析結果を一括して確認し、必要に応じて結果を修正することが可能である。すなわち、本発明により、システム全体の性能を低下させることなく、大量の検査データを処理することが可能となり、これを必要とする分野、具体的には、医療分野、医薬品分野等に広く用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析対象検体の画像にもとづく数値データの精度を向上する方法であって、
以下の(1)〜(5)の手段を有することを特徴とする臨床検査システムを、画像およびその画像にもとづく数値データを取得できる装置Aと、上位システムとの間に接続して用いることを特徴とする方法。
(1)装置Aで取得した数値データを任意に選択して第一表示部に表示する手段
(2)(1)で第一表示部に表示された数値データに対応した画像を第二表示部に同時に表示する手段
(3)上位システムから検体情報を取得する手段
(4)画像および(3)で取得した検体情報から、装置Aで取得した数値データの正確性を検証する手段
(5)(4)における検証が異常であれば上位システムに警告する手段
【請求項2】
さらに以下の(6)の手段を有する臨床検査システムを、対応する検体中に含まれる成分データを検出できる装置Bに接続して用いる、請求項1記載の方法。
(6)装置Bで取得した対応する検体の成分データを任意に選択して第一表示部に表示する手段
【請求項3】
装置Aが尿中有形成分分析装置であり、装置Bが尿定性検査装置である請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
上位システムから取得する検体情報が、年齢、性別、過去の検査データより成る群から選択され、選択した検体情報を用いて構築した任意の論理式により、新規に取得したデータを検証し、異常があれば上位システムに警告を表示する手段を有することを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
装置Aより取得した画像データのYRGB値を検証し、任意に設定された閾値以下である場合、取得した画像に対し、上位システムへアラームを発生させる手段を有することを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
装置Aより取得したデータを任意に選択して第一表示部に表示し、第二表示部に表示された対応する撮影画像中において、データとして取得された有形成分を座標表示する手段を有することを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
以下の(1)〜(5)の手段を有することを特徴とする、画像およびその画像にもとづく数値データを取得できる装置Aと、上位システムとの間に接続して用いる分析対象検体の画像にもとづく数値データの精度を向上するための臨床検査システム。
(1)装置Aで取得した数値データを任意に選択して第一表示部に表示する手段
(2)(1)で第一表示部に表示された数値データに対応した画像を第二表示部に同時に表示する手段
(3)上位システムから検体情報を取得する手段
(4)画像および(3)で取得した検体情報から、装置Aで取得した数値データの正確性を検証する手段
(5)(4)における検証が異常であれば上位システムに警告する手段
【請求項8】
さらに以下の(6)の手段を有し、かつ、対応する検体中に含まれる成分データを検出できる装置Bに接続して用いる、請求項7記載の臨床検査システム。
(6)装置Bで取得した対応する検体の成分データを任意に選択して第一表示部に表示する手段

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−54425(P2010−54425A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−221282(P2008−221282)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】