説明

データ変更可能な石版印刷装置に関する環境制御サブシステム

【課題】データの変更可能な石版印刷システムにおいて、エネルギ(例えば、照射)供給源と湿し水の層との間の経路で蒸気のかすみを最小にするための方法及び構造を提供する。
【解決手段】乾燥空気供給源は空気ポンプ(送風機)38を含み、この空気ポンプ38は、そのポンプからの空気を乾燥して提供するためにポンプの排気口に取り付けられるデシケータカートリッジ40を有する。次いで、この乾燥した空気が、環境制御サブシステム30内を循環し、湿し水の層32の表面に近づいて、湿し水の気化率を向上させ、レーザ式図柄付けサブシステム16に対するエネルギ必要量を低減させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マーキング及び印刷の方法及びシステムに関し、より詳細にはデータの変更可能な石版印刷システム内の画像再作成可能な表面にデータを書き込む位置の局地的な条件の制御を行う方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、オフセット石版印刷が一般的な印刷の方法である(本明細書の説明では、用語「印刷する」及び用語「マークする」のどちらも同じ意味で使用可能である)。一般的な石版印刷の過程では、疎水性及び親油性を有する材料から形成される「画像領域」と、親水性を有する材料から形成される「非画像領域」と、を含む刷版(この刷版は平坦なプレート、シリンダ、又はベルトの面等でよい。)を作成する。画像領域とは、最終印刷物(即ち、対象の下地)の上でインク等の印刷材料又はマーキング材料によって満たされる部分に対応する領域であり、非画像領域とは、最終印刷物の上で前記マーキング材料によって満たされていない部分に対応する領域である。親水性の領域は水ベースの液体を受け入れ、そしてその水ベースの液体により容易に湿る。この水ベースの液体、一般に湿し水(一般に水と少量のアルコール、及びその他の添加剤、及び/又は、表面張力を減らすための界面活性剤から成る)と呼ばれる。疎水性の領域は、湿し水とは混じり合わずにインクを受け入れる。一方で親水性領域の上に形成された湿し水は、液体の「剥離層」を形成してインクをはじく。従って、刷版の親水性領域は、最終印刷物の印刷されない場所、即ち「非画像領域」に対応する。
【0003】
インクを、紙等の下地に直接転写することができる、又はオフセット印刷システム内のオフセット(又はブランケット)シリンダ等の中間面に塗布することもできる。オフセットシリンダは、下地の凹凸とフィット可能な表面を有する形状適合性被覆材又はスリーブで覆われており、これらの形状適合性被覆材又はスリーブは画像形成する印判の表面の山から谷までの深さより若干深い山から谷まで深さの表面を有することができるまた、オフセットのブランケットシリンダの表面の凹凸により斑点等の不具合がなく印刷材料のより均一な層を下地に塗布することができる。十分な圧力を用いて、画像をオフセットシリンダから下地に転写する。この圧力は、オフセットシリンダと圧シリンダとの間に下地を挟むことで作り出される。
【0004】
一般的な石版印刷及びオフセット印刷の技術では、恒久的な図柄を形成する刷版を用いる。従って、雑誌、新聞等の多くの同じ図柄の印刷物(大量印刷作業)を印刷するときに限って実用性がある。しかし、これらの技術では、印刷シリンダ及び/又は刷版を取り除いて交換することなしに、ページとページの間で新しい図柄を作成して印刷することはできない(即ち、この技術では、例えば、データを変更可能な印刷を行って、デジタル印刷システムの場合のように刷と刷との間で図柄を変更して本当に高速な印刷を実現することはできない)。さらに、恒久的な図柄を作成する刷版、又はシリンダのコストは多数の印刷物を印刷することによって償却可能である。従って、デジタル印刷システムによる印刷とは対照的に、同じ図柄の少量の印刷作業に関する印刷物ごとのコストは、同一の図柄のより大量の印刷作業に関する印刷物ごとのコストより高くなり、ページごとのコストは、一般的には印刷される印刷物の枚数次第である。
【0005】
従って、データを変更可能な石版印刷と呼ばれる石版印刷の技術が開発され、この技術では湿し水で覆われる図柄の無い画像再作成可能な表面を用いる。この湿し水の領域は、焦点照射源(例えば、レーザ光源といった照射を使用する)に照射されて取り除かれる。これにより、湿し水内に一時的な図柄が図柄の無い画像再作成可能な表面の上に形成される。その上に塗布されたインクが、この表面の中の湿し水の取り除かれた場所の上に保持される。次いで、インクの付いた表面が、(紙等の)下地と接触しインクの図柄が下地に転写される。次いで、湿し水を取り除くことができ、新しい湿し水の均一な層を画像再作成可能な表面に塗布することができ、この処理が繰り返される。
【0006】
データの変更可能な石版印刷において、図柄の再作成可能な表面上の湿し水の図柄付けでは、基本的にレーザ等の熱源を用いて選択した場所の湿し水を気化させる、即ち取り除く。水を気化させる量の潜熱が必要なため、この処理ではエネルギを大量に消費し得る。同時に、高速の印刷作業では、レーザ源の変調を高速で行うことが余儀なくされ、これには高出力のレーザが必要となるためコストがかかることが十分に予測される。従って、エネルギ及びコストの両面から、湿し水を気化する図柄付けを実現するために必要なレーザエネルギの総量を抑えることが有益である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、湿し水を気化する図柄付けでは、蒸気のかすみという一つの副産物が発生してしまう。このかすみにより、湿し水の層に書き込むためのレーザからのエネルギが部分的に吸収され、従って、湿し水の層に図柄付けするために利用できるレーザ出力が削減されてしまう可能性がある。
【0008】
図1を参照すると、画像部材12により搬送される画像再作成可能面34の一部の上に湿し水の層32が示されている。湿し水サブシステム14に関して重要な要件は、湿し水を供給して層32を制御し均一な厚みにするようにすることである。ある実施形態では、層32は200ナノメートル(nm)から1.0マイクロメートル(μm)までの範囲の厚みを有し、ピンホール等の不具合が無く非常に均一である。湿し水自体は主に水から成り、随意的に少量のイソプロピルアルコール又はエタノールを加えて、その本来の表面張力を抑え、次のレーザによる図柄付けに関して必要な気化エネルギを抑える。さらに、適切な界面活性剤を重量換算で少ない割合だけ加えることができ、これにより画像再作成可能面の層に大量の湿し水を塗布し易くなる。ある実施形態では、この界面活性剤は、シリコングリコール共重合体族のトリシロキサンコポリオール又はジメチコンココポリオールの化合物からなり、これらは重量換算の割合で少量加えるだけで均一な拡散及び22ダイン/cmより低い表面張力を容易に実現する。その他のフルオロの界面活性剤でも表面張力を抑えることができる。随意的に湿り水の層に放射線感受性着色剤を含ませて、図柄付けの工程の中でレーザエネルギを部分的に吸収させることができる。別の実施形態では、湿し水は、例えば低い気化熱を有する液体を含む非水性の溶液でよい。
【0009】
一般的に、画像再作成可能面上の親水性の領域と疎水性の領域と間の安定したインクの選択力を確保し、その結果として、画工領域と非画像領域との間のコントラストを確保するために、湿し水の層の厚みは、(例えば、水性の湿し水に関して)約200nmより薄くすることはできない。これは、主にインクの転写に関する選択力は、画像再作成可能面の湿り領域と湿し水の犠牲層との分離した結果生じ、薄い湿し水の層を確実に分離することはできないためである。
【0010】
この約200nmの最低限必要な湿し水の層の厚みにより、湿し水(例えば、水)を気化させるための加熱必要量に基づく画素ごとのエネルギ必要量が最小となる。この湿し水を気化させるために必要な加熱必要量は、顕熱のよる加熱(即ち、一般的には約20℃の室内温度から約100℃までの、水の温度を沸点まで上昇させるために必要な熱であり、特定な温度容量に約80℃分の温度上昇を乗じた熱量と同じ)及び潜熱による加熱(即ち、熱又は水の気化のエンタルピであり、大気条件下で約カロリー/グラム)と同じである。100ページ/分の印刷速度、及び600dpi(42マイクロピクセルのサイズとピッチ)の解像度での、200nm厚さの水の層をレーザで気化させるために必要な出力を、上記の情報に基づいて計算することができ、その結果を下記の表1に示す。
【表1】

【0011】
上記の値は、湿し水が水だけを含んでいると仮定した気化エネルギ及び出力の論理上の最小必要量であり、システムの画像再作成可能面やその他の領域への熱損失は考慮されていない。理想的な条件のもとでは、比較的高出力のレーザ供給源が必要なことを理解されたい。しかし、湿し水の層の領域を沸騰させ、その後に発生する湿し水の蒸気のかすみにより、レーザ供給源の相当な量のエネルギが吸収される可能性がある。このかすみの発生を考慮すると、湿し水の領域を沸騰させるには、より高出力のレーザレベルが必要である。コスト、エネルギ消費等の数多くの状況を考えるとそのような高出力のレーザ供給源を供給することは許されない。
【0012】
さらに、気化した湿し水のかすみが湿り水の層の上で再凝固して、レーザの書き込む過程で作られた窪みの壁の凹凸の一部を満たし変形を起こす可能性がある。これは、蒸気のかすみの拡散により、優先的なエッジ形成が見られる大きな塊を含む湿し水で特に起こり得る。
【0013】
その上さらに、周囲の空気の湿度の変化が、湿し水の層から湿し水が気化する速度に悪影響を及ぼす。例えば、水ベースの湿し水を用いた場合、周囲の雰囲気内の、より高密度の水分子が湿し水を気化させようとする領域の上で再凝固し、気化する量が増加する、これにより、より高い吸収性を有する物質がレーザ供給源と湿し水の層との間に混入し層の厚さも変化する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
従って、本開示は、データの変更可能な石版印刷システムにおける画像再作成可能面上の湿し水の層の図柄付けに必要な出力の低減、及びその再現性の向上させるシステム及び方法に関する。より具体的には、照射(例えば、レーザ)供給源と湿し水の層との間の経路での蒸気のかすみを最小減にする機構を提供し、その過程を実行する。湿し水の層の領域の気化に関する所与のレーザ供給源の出力に対して最適な条件となるように、条件を制御することも可能である。図柄付けされた湿し水の層の上で気化した湿し水が再凝固することを最小限にするように、条件をさらに制御することも可能である。
【0015】
本明細書で開示するシステム及び方法は、データの変更可能な石版印刷装置において、照射式図柄付けサブシステムが湿し水の層の一部を選択的に気化させる位置に近接した湿し水の層の表面の上部の領域内の環境条件を制御するシステムおよび方法であって、湿し水の層の表面の上方で、照射式図柄付けサブシステムが湿し水の層の一部を選択的に気化させる位置に近接して配置されたエンクロージャと、エンクロージャ内でガス流を制御可能に発生させるために、エンクロージャに接続し、照射式図柄付けサブシステムが、湿し水の層の一部を選択的に気化させる位置に近接するガス流制御サブシステムと、を含み、エンクロージャは、照射式図柄付けサブシステムからの出力エネルギをそこから放出し、それにより湿し水の層の上に入射するよう構成され、エンクロージャは、所望の位置でエンクロージャからガス流を放出するようさらに構成され、これにより、ガス流が、照射式図柄付けサブシステムが湿し水の層の一部を選択的に気化させる位置に近接した領域から気化した湿し水を逃がすことができる。
【0016】
このようなシステムの様々な別の実施形態も開示する。さらに、これらの実施形態の構成要素の変更例及び組合せも開示する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、当技術分野では既知の図柄作成部と、その上に形成された画像再作成可能面及び画像再作成可能面の上に形成された湿し水の層の側面図である。
【図2】図2は、本開示の実施形態による、図柄作成部、湿し水サブシステム、照射式図柄付けサブシステム、インク塗布サブシステム、レオロジ制御サブシステム、転写サブシステム、及び表面クリーニングサブシステムを含むデータの変更可能な石版印刷に関するシステムの側面図である。
【図3】図3は、本開示の実施形態による、レーザ式図柄付けサブシステムが湿し水の層に書き込む位置の局地的な環境のパラメータを制御する、ポンプを用いる環境制御サブシステムの側面図である。
【図4】図4は、本開示の実施形態による、レーザ式図柄付けサブシステムが湿し水の層に書き込む位置の局地的な環境のパラメータを制御する、乾燥ガスの供給源を用いる環境制御サブシステムの側面図である。
【図5】図5は、本開示の実施形態による、レーザ式図柄付けサブシステムが湿し水の層に書き込む位置の局地的な環境のパラメータを制御する、エアーナイフを用いる環境制御サブシステムの側面図である。
【図6】図6は、本開示の実施形態による、レーザ式図柄付けサブシステムが湿し水の層に書き込む位置の局地的な環境のパラメータを制御する、局地的な温度制御を行う環境制御サブシステムの側面図である。
【図7】図7は、本開示の実施形態による、レーザ式図柄付けサブシステムが湿し水の層に書き込む位置の局地的な環境のパラメータを制御する下流真空蒸気除去サブシステムの側面図である。
【図8】図8は、本開示による、レーザ式図柄付けサブシステムが湿し水の層に書き込む位置の局地的な環境のパラメータを制御する下流真空蒸気除去サブシステムの別の実施形態の側面図である。
【図9】図9は、本開示による、レーザ式図柄付けサブシステムが湿し水の層に書き込む位置の局地的な環境のパラメータを制御する、エアーナイフを用いる上流真空蒸気除去サブシステムの実施形態の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図2を参照すると、本開示の一実施形態による、データの変更可能な石版印刷に関するシステム10が示されている。このシステム10は、図柄作成部12(本実施ではドラムを用いているが印版、ベルト等も同様に用いることができる)を含み、この図柄作成部12の周囲には、湿し水サブシステム14、熱ベースの(例えば、レーザ)図柄付けサブシステム16、インク塗布サブシステム18、レオロジ(複合粘弾係数)制御サブシステム20、インクの付いた図柄を図柄作成部12の表面から下地24へ転写する転写サブシステム22、及び最後に表面クリーニングサブシステム26が配置されている。湿し水厚みセンサ・サブシステム28等、その他多くの随意的なサブシステムも使用することもできる。一般的に、これらの各サブシステム、及び全体としてのシステムの操作に関しては、上記の米国特許第13/095,714号の中でさらに詳しく開示されている。
【0019】
システム10は、必要な照射(例えば、レーザ)出力及び湿し水の層内に書き込まれた場所の「画質」に影響を与える数多くの条件に対処するよう構成・配置される環境制御サブシステムをさらに含む。第1のそのような条件のセットは、湿し水の層に書き込むために必要なレーザ出力に影響を与える湿し水の表面近くの環境パラメータに関する。熱エネルギ(例えばレーザ光線)が湿し水の層の上に入射する位置の温度、湿度、空気流等の環境条件の適切な操作及び制御により、必用なエネルギを低減でき、より効率的なレーザ書き込み処理が可能となる。
【0020】
液体の蒸気圧が周りの環境(大気)の気圧と同じ温度でのみ、液体物質の沸騰過程が起こることは周知である。気化の過程は、その他の温度でも起こる可能性があり、この点において両者は異なる。液体の蒸気相の気泡が自然にその液体の大部分から発生し、エネルギが加え続けられるような条件のとき、その液体が沸騰していると言われる。液相の表面にある分子が十分なエネルギを(周囲の媒体、又は液体自体内の別の分子のどちらかから)得て、蒸気相に飛び出すときに、気化が発生する。
【0021】
本開示の図3に示す一実施形態では、レーザ式図柄付けサブシステム16が湿し水の層32に書き込む位置の(即ち、気化させる部分の)局地的な環境のパラメータを制御する環境制御サブシステム30が設けられる。以下に説明する通り、このようなシステムにより多数のパラメータを制御することができる。
【0022】
レーザ経路内に空気中に浮遊する水の分子のほとんど無い環境を提供し、より効率的に湿し水が沸騰し、水の分子の数を削減し、湿し水を気化させて窪み50を正確に形成するために、より乾燥した湿度のない環境が望ましい。従って、ある実施形態では、環境制御サブシステム30は、低湿度環境の近接層32を提供するよう構成された図柄作成部12に近接したエンクロージャでよい。レーザ式図柄付けサブシステム16をそのエンクロージャ内に収納することができる。環境制御サブシステム30は、レーザ式図柄付けサブシステム16からの光線が湿し水の層32の上に入射する位置に少なくとも近接して、乾燥した空気の領域36を提供する。数多くのオプションから選択された乾燥空気供給源から領域36に、乾燥した空気を提供することができる。あるオプションによれば、乾燥空気供給源は空気ポンプ(送風機)38を含み、この空気ポンプ38は、そのポンプからの空気を乾燥して提供するためにポンプの排気口に取り付けられるデシケータカートリッジ40を有する(例えば、http://www.dry−air−systems.com/jetpak.htmlを参照)。次いで、この乾燥した空気が、環境制御サブシステム30内を循環し、湿し水の層32の表面に近づいて、湿し水の気化率を向上させ、レーザ式図柄付けサブシステム16に対するエネルギ必要量を低減させることができる。水性の湿し水の代わりに非水性の湿し水が使用されている場合は、乾燥した空気によりその他の水溶液ベースの湿し水局所的な分圧の制御が容易になる。
【0023】
環境制御サブシステム30と乾燥空気ポンプ38との間にバルブ42を設置して、これによりデシケータカートリッジ40を迂回させるための平行経路44を通して流量を制御することができる。従って、印刷システムへ供給される空気の正確な湿度内容を正確に制御し、次いでレーザによる湿し水の選択的除去による安定したデジタル印刷を実現することができる。
【0024】
図4に示す別の実施形態によれば、ポンプ38及びデシケータ40の代わりに乾燥ガス供給源46を提供することができ、この乾燥ガス供給源46は、例えば、環境制御サブシステム30に取り外し可能に固定されるシリンダを含む。このシリンダ46は、所望の湿度の圧縮された空気を含み、一定の圧力及び流量でその湿度制御された空気を、領域36に送り込むことができる。これにより、空気の湿度がシリンダ46の中身で設定されるため、バルブ42等の迂回バルブは必要なくなる。
【0025】
図3に戻ると、抽出ポンプ又は類似の排出機構48を設けて所望のガス流パターン、流量等を得ることができる。排出機構48からの排気を環境へ放出することができる。湿し水蒸気内の有害物をフィルタで除去し、リサイクル及び再使用等のために格納容器49で凝固する。
【0026】
湿し水ワイパブレード51を環境制御サブシステム30に取り付けて使用することができる。ワイパブレード51を用いて層32の厚みを制御し、層32が図柄付けされた位置より上流から領域36への空気の流入を制限することができる。これにより埃及びその他の混入物が領域36へ入り層32の図柄付けに支障をきたすことを防ぐのに役立つ。
【0027】
次に図5を参照すると、環境制御サブシステム52の別の実施形態が示され、この環境制御サブシステム52はエアーナイフ54をさらに含む。このエアーナイフ54は、レーザ式図柄付けサブシステム16からの光線が湿し水の層32に入射し書き込む位置に向けられている。エアーナイフ54は、その位置で所望の空気流のベクトルを生成する。この空気流のベクトルにより、湿し水の層32を残して水の分子を気化させることができ、次いでこの湿し水の層32は、その放出位置から領域36へ速やかに運び出される。従って、これらの水の分子はレーザ式図柄付けサブシステム16により生成された光線の経路から運び出され、さらには層32の表面上で再凝固する可能性もない。空気の流量及び流れ方向を正確に制御して、レーザ出力の必要量を最適化するために湿し水の層厚みを操作することができる。さらに、エアーナイフ54は、上記の湿度制御実施形態と組み合わせて用いることができる、又は組み合わせないで使用することもできる。
【0028】
図6を参照すると、環境制御サブシステム56の別の実施形態が示され、この環境制御サブシステム56は局地温度制御供給源58をさらに含む。局地温度制御供給源58は加熱コイル、加熱ランプ、高温(又は低温)空気供給源等でよい。また、環境制御サブシステム56を形成するエンクロージャの中に局地温度制御供給源58を図示したが、局地温度制御供給源58はエンクロージャの外側でも、ポンプ38(図3)、エアーナイフ54(図5)等の一部のようにサブシステムの別の構成要素の一部を形成してもよい。
【0029】
領域36の温度を操作することにより、湿し水の層32の領域を局地的に気化させるために必要なレーザエネルギを低減することができる。この温度操作により、湿し水の気化率を向上させることができる。この後者の場合、周囲の空気へ飛び出すことができる水の分子は、温度の上昇により、より高いエネルギを有し、それに伴い液体の湿し水の層32の上で再凝固する可能性が大幅に低減される。さらに、複数の温度制御供給源58、58a等を用いることなどにより環境制御サブシステム56のエンクロージャ内で温度差を意図的に発生させ、エンクロージャ内の空気流の制御を調整してレーザ式図柄付けサブシステム16からの光線の経路内から蒸気を吹き飛ばすことができる。
【0030】
従って、印刷インクの選択力と、画像コントラスト及び解像度とを維持しつつ、必要とするレーザ出力量を最小に抑えるために、これらの温度の値を正確に制御することで、湿し水の層の気化率、及びそれに対応して湿し水厚みのレベルを操作することができる。
【0031】
レーザ経路内から気化した湿し水のかすみを消散させる、即ち取り除くことで、さらに別の条件を制御して、データの変更可能な石版印刷システムにおいて、必要なレーザの出力を低減することができる。レーザ供給源と湿し水の層との間に蒸気をほとんど存在させず、これにより湿し水の層に書き込むためのレーザ出力が蒸気により吸収されてしまうことを可能な限り抑えることが望ましい。
【0032】
図7を参照すると、環境制御サブシステム60の別の実施形態が示され、この環境制御サブシステム60は、下流真空蒸気除去サブシステム62をさらに含む。この下流真空蒸気除去サブシステム62は、空気及びそれに伴って湿し水の層32の一部を沸騰させて発生した蒸気のかすみを領域36から取り除くために設計された真空ポンプ、又はその他の機構を含む。環境制御サブシステム60内及びその周囲の大気及び/又は湿度を制御した空気の供給源38(図3)、エアーナイフ54(図5)、等から空気を供給することができる。
【0033】
図8を参照すると、環境制御サブシステム70の別の実施形態が示され、この環境制御サブシステム70は下流真空蒸気除去サブシステム72をさらに含む。この真空蒸気除去システム72は、レーザによる層32の気化が行われる位置よりも下流から空気を抽出する。その空気と一緒に気化した水の分子及びその他の湿し水の層32の成分も排出される。図柄付けされた層32の表面の上部よりも下流からの方向でこれらは排出されるため、レーザ式図柄付けサブシステム16からの光線76の経路内と、図柄付けされた直後の層32の領域の上部に蒸気の両方から、空気中の浮遊物を取り除くため好都合である。従って普通ならレーザエネルギを吸収してしまう浮遊物、及び普通なら図柄付された窪みの上に付着する浮遊物を取り除くことができる。
【0034】
環境制御サブシステム70に関連して湿し水ワイパブレード78を用いることもできる。ワイパブレード78を用いて、層32の厚みを調整し、及び層32が図柄付けされる位置より上流から領域36に入り込む空気を制限することができる。これにより、上記で議論した通り、層32が図柄付けされる位置より下流、及びレーザ式図柄付けサブシステム16からの光線76の経路内から、浮遊物を優先的に取り除き易くする。ワイパブレード78はまた、埃やその他の汚染物質が領域36及び光線76の経路に入り込むことを防止するのに役立ち、システム全体の信頼性及び安定性を向上させることができる。
【0035】
さらに図8に示す環境制御サブシステム70の実施形態によれば、反射防止(AR)膜で覆われたレーザ透過性の材料(例えば、ガラス)等の窓構造体74を、湿し水が気化する位置の上方のレーザ式図柄付けサブシステム16からの光線76の経路内に設置することができる。この窓構造体74がレーザ式図柄付けサブシステム16の発光波長では透過性を有するため、光線76は、層32の一部を気化させるために有効な光線76のエネルギを低減することなく、その中を通過することができる。窓構造体74は、光線76の生成に関連する光り汚染を防止し、上記で議論した通り、除去層32が図柄付けされる位置より下流、及びレーザ式図柄付けサブシステム16からの光線76の経路内から、浮遊物を優先的に取り除き易くする役割を果たす。
【0036】
図示する通り環境制御70の実施形態では、吸気口80から真空蒸気除去システム72内に大気中の空気を引き込む。あるいは、上記で説明した通り、湿度を制御した空気又はその他のガスを吸気口80からシステムに取り込むことも可能である。
【0037】
図9を参照すると、環境制御サブシステム90の別の実施形態が示されている。この環境制御サブシステム90は、収納箱を備え、この収納箱に対して配置されているのが、上流真空蒸気除去サブシステム92である。環境制御サブシステム90はエアーナイフ94をさらに含み、このエアーナイフ94は、レーザ式図柄付けサブシステム16からの光線96が、層32の上に入射してその領域を気化させる位置に向けられている。エアーナイフ94から流れる空気は、大気中からの空気でよい。あるいは、上記で議論した通り、空気の湿度を制御することもできる。
【0038】
真空蒸気除去サブシステム92は、レーザ式図柄付けサブシステム16からの光線96が層32の上に入射する位置より上流(及びそれに伴い湿し水の蒸気のかすみが発生する位置より上流)に設置され、エアーナイフ94からの空気流の方向により、下流の蒸気が真空蒸気除去サブシステム92に向って流れ、その中に入り込む。エアーナイフ94を適切に設置し、そこからの空気の流量を調整することで、層32からの湿し水が沸騰して発生した全ての蒸気を光線96内、及び下流の図柄付けされた層32の表面から除去することができる。
【0039】
上記で説明した通り、環境を制御することで、印刷処理の中の一貫性及び再現性を向上させることができることを理解されたい。環境を制御することで、必用なレーザ出力を最小限に抑えるだけでなく、湿し水を気化する各ユニットが同じ出力を必要とすることを保証することができる。さらに、湿し水の再凝固を削減、又は無くすことができ、レーザの気化でより均一な窪みが提供され、湿し水をこれらの窪みからより完全に除去し、インク塗布工程においてインクを効率よく付着させることができる。
【0040】
上記の実施形態は、オンラインによるフィードバック制御機構の一部を成すことができ、このフィードバック制御機構により、レーザ照射の直前の位置及びインク塗布の直前の位置の湿し水の層の厚みが、最小限のレーザエネルギを使用して質の良い印刷を行うために最適化された一定で、所望のレベルで維持されることが保証される。再度図2を参照すると、湿し水サブシステム14の制御に関する追加的な入力として、湿し水厚みセンサ・サブシステム28を本明細書で説明した環境制御サブシステムの全てに(好適なフィードバック制御回路を通して)通信可能に接続させることができる。
【0041】
本開示の中に記載の、又はその請求項の中の制限は、絶対的なものとして読み取ることはできない、又は読み取るべきでない。請求項の中の制限は、それらの制限まで、及びそれらの制限を含む本開示の境界を規定することを意図しない。このことをさらに強調するために、「実質的に」という用語を本明細書で、請求項の中の制限と関連して、折に触れて使用することができる(変形や不具合に対する配慮は、その用語と共に使用するその制限にのみ限定されないが)。本開示の制限として、これら自体を正確に規定することは難しいが、「かなりの程度まで」、「ほとんど実用的な」、「技術的制限内で」等としてこの用語が解釈されることを意図する。
【0042】
さらに、上記の詳細な説明では、好ましい例示的な実施形態が複数提示したが、膨大な数の変更例が存在し、これらの好ましい例示的な実施形態は、単にそれらの例として示したもので、決して本開示の範囲、適用性又は構成を限定することを意図しないことを理解されたい。上記で開示した変更例及びその他の特性及び機能又はその代替物は、望ましくは、別の様々なシステム又は用途に組み込むことができる。現時点で予見又は予測できない種々の代替物、修正物、変更物、又はその中のあるいはそれに対する改良物は、当業者により今後実行可能であり、それらもまた以下の請求項に包含されることを意図する。
【0043】
従って、上記の説明が当業者に本開示の実行に対して有益な指針を提供し、それらに対する請求項により規定された本開示の趣旨及び範囲を逸脱することなく、上記に記載した実施形態の機能及び構成の種々の変更を実行可能なことが予期される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
データの変更可能な石版印刷装置内で、照射式図柄付けサブシステムが湿し水の層の一部選択的に気化させる位置に近接した湿し水の層の表面の上部の領域内の環境条件を制御するシステムであって、
前記湿し水の層の表面の上方で、前記照射式図柄付けサブシステムが前記湿し水の層の一部を選択的に気化させる前記位置に近接して配置されたエンクロージャと、
前記エンクロージャ内でガス流を制御可能に発生させるために前記エンクロージャに接続し、前記照射式図柄付けサブシステムが、前記湿し水の層の一部を選択的に気化させる前記位置に近接するガス流制御サブシステムと、を含み、
前記エンクロージャは、前記照射式図柄付けサブシステムからの出力エネルギをそこから放出し、それにより前記湿し水の層の上に入射するよう構成され、
前記エンクロージャは、所望の位置で前記エンクロージャから前記ガス流を放出するようさらに構成され、
これにより、前記ガス流が、前記照射式図柄付けサブシステムが前記湿し水の層の一部を選択的に気化させる前記位置に近接した領域から気化した湿し水を逃がすことができる、システム。
【請求項2】
前記ガス流制御サブシステムが、前記照射式図柄付けサブシステムが前記湿し水の層の一部を選択的に気化させる前記位置に近接したガスの湿度を制御する湿度制御サブシステムを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記湿度制御サブシステムが、
吸気口及び排出口を含むポンプであって、前記吸気口は通気可能に前記エンクロージャに接続するポンプと、
前記ポンプからのガスが、前記照射式図柄付けサブシステムが前記湿し水の層の一部を選択的に気化させる前記位置を通過する前にデシケータ材料の中を通過するように、ガス流の一次経路内の前記ポンプと前記エンクロージャとの間に設置されるデシケータ材料と、を含む請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記ガスは、前記データの変更可能な石版印刷システムの周囲の大気環境から引き込まれる空気である、請求項3に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−35281(P2013−35281A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−160159(P2012−160159)
【出願日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
【出願人】(502096543)パロ・アルト・リサーチ・センター・インコーポレーテッド (393)
【氏名又は名称原語表記】Palo Alto Research Center Incorporated
【Fターム(参考)】