説明

データ送信装置及びデータ受信装置

【課題】盗聴者が暗号文の解析に要する時間を著しく増大させ、天文学的な計算量に基づく秘匿性の高いデータ通信装置を提供する。
【解決手段】多値符号発生部111は、所定の鍵情報11に基づいて、信号レベルが略乱数的に変化する多値符号列12を発生する。多値処理部112は、情報データ10と多値符号列12とを合成し、情報データ10と多値符号列12との組み合わせに対応した複数のレベルを有する多値信号13を生成する。変調部113において、光源114は、多値信号13に基づいて半導体レーザを直接変調して変調信号20を生成する。角度変調部1152は、信号源1151が出力した信号に基づいて、変調信号20に角度変調を施して、変調信号14を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第三者による不法な盗聴・傍受を防ぐ秘密通信を行う装置に関する。より特定的には、正規の送受信者間で、特定の符号化/復号化(変調/復調)方式を選択・設定してデータ通信を行う装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特定者同志でのみ通信を行うためには、送信/受信間で符号化/復号化のための元情報(鍵情報)を共有し、当該元情報に基づいて、伝送すべき情報データ(平文)を数学的に演算/逆演算することにより秘密通信を実現する構成が一般的に採用されている。
【0003】
これに対して、近年、伝送路における物理現象を積極的に利用した暗号方式がいくつか提案されている。その中の1つとして、光伝送路で発生する量子雑音を利用して暗号通信を行うY−00プロトコルと呼ばれる方式がある。特許文献1には、Y−00プロトコルを用いた従来のデータ通信装置が開示されている。
【0004】
図7は、Y−00プロトコルを用いた従来のデータ通信装置9の構成例を示すブロック図である。図7において、従来のデータ通信装置9は、送信部901と、受信部902とが、光伝送路910を介して接続された構成である。送信部901は、多値符号発生部911と、多値処理部912と、変調部913とを備える。受信部902は、復調部915と、多値符号発生部914と、識別部916とを備える。なお、送信部901と受信部902とは、同じ内容の鍵情報91、96を予め共有しているものとする。
【0005】
送信部901において、多値符号発生部911は、鍵情報91に基づいて、“0”から“M−1”までのM個の値を有する多値の疑似乱数系列である多値符号列92を生成する。多値処理部912は、情報データ90と多値符号列92とを合成し、情報データ90と多値符号列92との組み合わせに対応したレベルを有する信号を多値信号93として生成する。具体的には、多値処理部912は、図8に示す信号フォーマットを用いて、強度変調信号である多値信号93を生成する。すなわち、多値処理部912は、多値符号列92の信号強度を2M個のレベルに分け、これらのレベルを2つずつM個の組み合わせとし、各組み合わせの一方のレベルに情報データ90の“0”を、他方のレベルに“1”を割り当てる。多値処理部912は、2M個のレベル全体では、情報データ90の“0”と“1”とが均等に分布するように、各レベルに“0”と“1”とを割り当てる。この例では、各レベルに“0”と“1”とが交互に割り当てられている。
【0006】
多値処理部912は、入力される多値符号列92の値に基づいて、多値符号列92のM個のレベルの組み合わせの中から1つの組み合わせを選択する。次に、多値処理部912は、情報データ90の値に基づいて、先ほど選択した多値符号列92の組み合わせの中から一方のレベルを選択し、当該選択したレベルを有する多値信号93を生成する。なお、特許文献1には、多値符号発生部911が「送信用疑似乱数発生部」として、多値処理部912が「変調方式指定部」及び「レーザ変調駆動部」として、変調部913が「レーザダイオード」として、復調部915が「フォトディテクタ」として、多値符号発生部914が「受信用疑似乱数発生部」として、識別部916が「判定回路」として記載されている。
【0007】
図9は、従来のデータ通信装置9で用いられる信号形態を説明するための模式図である。ここでは、M=4の場合の信号変化を図9(a)〜(g)を用いて説明する。例えば、図9(a)及び図9(b)に示すように、情報データ90の値が“0,1,1,1”と、多値符号列92の値が“0,3,2,1”と変化する場合、多値信号93は、図9(c)に示すように、情報データ90と多値符号列92との組み合わせに対応したレベルを有する信号となる(図9(c)参照)。変調部913は、多値信号93を光強度変調信号である変調信号94に変換し、光伝送路910を介して送信する。
【0008】
また、受信部902において、復調部915は、光伝送路910を介して伝送されてきた変調信号94を光電変換し、多値信号95として出力する。多値符号発生部914は、鍵情報96に基づいて、多値符号列92と同じ多値の疑似乱数系列である多値符号列97を生成する。識別部916は、多値符号列97の値に基づいて、多値信号95に図8に示す信号レベルの組み合わせのうちどちらが用いられているかを判断し、組み合わせに含まれる2つの信号レベルを2値識別する。
【0009】
具体的には、識別部916は、図9(e)に示すように、多値符号列97の値に基づいて識別レベルを設定し、多値信号95が識別レベルよりも大きい(上)か、あるいは小さい(下)かを判断する。この例では、識別部916は、“下、下、上、下”と識別している。次に、識別部916は、多値符号列97が偶数の場合は、下側が“0”、上側が“1”、奇数の場合は、下側が“1”、上側が“0”と判定し、情報データ98として出力する。この例では、多値符号列97は、“偶数,奇数,偶数,奇数”となっているため、情報データ98は“0,1,1,1”となる。なお、多値信号95には、雑音が含まれているが、信号強度を適切に選ぶことで、2値識別における誤りの発生を無視できる程度に抑えることができる。
【0010】
次に、想定される盗聴について説明する。盗聴者は、送信者と受信者とが共有する鍵情報を持たない状態で、変調信号94から情報データ90または鍵情報91の解読を試みることになる。盗聴者は、正規受信者と同様の2値識別を行う場合、鍵情報を持っていないため、鍵情報が取り得る全ての値に対して識別を試みる必要がある。このような方法は、試行回数が鍵情報の長さに対して指数関数的に増大するため、鍵情報の長さが十分長い場合には現実的ではない。
【0011】
そこで、より効率的な盗聴方法として、盗聴者は、図7に示すような盗聴受信部903を用いて、変調信号94から情報データ90又は鍵情報91の解読を試みることが考えられる。盗聴受信部903において、復調部921は、光伝送路910から分岐して得られる変調信号94を復調し、多値信号95を再生する。多値識別部922は、多値信号81を多値識別し、得られた情報を受信系列82として出力する。解読処理部923は、受信系列82に対して解読処理を行い、情報データ90又は鍵情報91の特定を試みる。このような解読方法を用いた場合、盗聴受信部903は、受信系列82を誤り無く多値識別することができれば、得られた受信系列82から1回の試行で鍵情報91を解読することが可能となる。
【0012】
しかし、復調部921で光電変換する際に、ショット雑音が発生し、多値信号81に重畳される。このショット雑音は、量子力学の原理により必ず発生することが知られている。ここで、多値信号の信号レベルの間隔(以下、ステップ幅と称する)をショット雑音のレベルよりも十分に小さくしておけば、識別誤りによって受信した多値信号が正しい信号レベル以外の様々な多値レベルを取る可能性が無視できなくなる。よって盗聴者は、正しい信号レベルが、識別によって得られた信号レベル以外の値である可能性を考慮して解読処理を行う必要があるため、識別誤りが無い場合と比較して解読処理に要する試行回数、すなわち計算量が増大し、結果として盗聴に対する安全性が向上する。
【特許文献1】特開2005−57313号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、従来のデータ通信装置9においては、盗聴者の受信方法によっては、容易に鍵情報96及び情報データ98を解読される可能性が残されている。送信部901において、変調部913は、例えば半導体レーザで構成される。一般的に、半導体レーザは、注入電流が一定であるという条件下において、所定の光周波数f0を有する光を発振する。また、半導体レーザに注入される電流が振幅変調されると、同時に半導体レーザが出力する光の周波数が変調されるので、半導体レーザは、光強度変調信号と共に、光周波数f0を中心とした光周波数変調成分を出力する。すなわち、変調部913を光強度変調する事で、半導体レーザへの注入電流に比例した光周波数変調成分が生成される。従って、多値信号93によって、半導体レーザを直接変調する場合、多値信号93のレベルに比例した光周波数変調成分が、変調信号94には含まれることになる。なお、光周波数変調成分と、注入電流との間の比例係数は、半導体レーザの種類に依存する。
【0014】
ところで、光周波数変調成分の検波方法の1つとして、光ヘテロダイン検波が知られている。図10は、光ヘテロダイン検波を行う際の光ヘテロダイン検波受信器930の一例を示したブロック図である。図10において、光ヘテロダイン検波受信器930は、光源931と、受光部932とを含んで構成される。光ヘテロダイン検波受信器930において、光周波数変調成分を含んだ受信光信号83(光周波数faを中心とした光信号とする)と、光源931から出力された無変調光84(光周波数fbを中心とした光信号とする)とが受光部932へ入力される。
【0015】
受光部932は、例えば、自乗検波特性を有するフォトダイオード等で構成される。受光部932は、入力された2つの光信号の光周波数差に相当する周波数(|fa―fb|)において、受信光信号83と無変調光84との差ビート信号として、受信光信号83をダウンコンバートした差ビート信号85を出力する。すなわち、差ビート信号85には、受信光信号83の光周波数変調成分が含まれる事になる。この様にして、光周波数変調成分を復調する検波方法が、光ヘテロダイン検波と呼ばれている。それ故に、受信光信号83に対して、光ヘテロダイン検波を施す事で、光周波数変調成分を観測する事が可能となる。
【0016】
従って、盗聴者が復調部921として、光ヘテロダイン検波受信器930を用いれば、変調信号94に含まれる、多値信号93に比例した光周波数変調成分を復調する事が可能となる。特に変調部913として使用する半導体レーザの種類によっては、光周波数変調成分の振幅が大きくなり、高い信号対雑音電力比(以下SNRと記述する)で、盗聴者が光周波数変調成分を識別できる可能性がある。盗聴者が光周波数変調成分を識別できた場合、解読処理に要する計算量は減少し、データ通信装置1の安全性が低下してしまう。
【0017】
それ故に、本発明の目的は、上記課題を解決するものであり、半導体レーザを直接変調した場合においても、盗聴に対する安全性が低下しない、データ送信装置、及び、データ受信装置を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、所定の鍵情報を用いて情報データを暗号化し、受信装置との間で秘密通信を行うデータ送信装置に向けられている。そして、上記目的を達成するために、本発明のデータ送信装置は、所定の鍵情報に基づいて、信号レベルが略乱数的に変化する多値符号列を発生する多値符号発生部と、情報データと多値符号列とを合成し、情報データと多値符号列との組み合わせに対応した複数のレベルを有する多値信号を生成する多値処理部と、多値信号を所定の変調形式で変調して、変調信号として出力する変調部とを備える。変調部は、多値信号を光信号に変換する光源と、光源が出力した光信号に角度変調を施す変調調整部とを含む。
【0019】
好ましくは、変調調整部は、所定の信号を出力する信号源と、信号源が出力した信号に基づいて、光信号に角度変調を施す角度変調部とを有する。
【0020】
好ましくは、所定の信号は、2つ以上の異なる周波数を有する信号が多重された周波数多重信号である。また、所定の信号は、白色雑音であってもよい。
【0021】
また、変調調整部は、光源が出力した光信号から光周波数変調成分を検出する光周波数変調成分検出部と、検出された光周波数変調成分を打ち消すように、光源が出力した光信号に角度変調を施す角度変調部とを有する構成であってもよい。
【0022】
好ましくは、変調部は、変調調整部の後段に接続され、所定の鍵情報に基づいて、変調調整部が出力する信号に波長分散を与える波形調整部をさらに含む。
【0023】
波形調整部は、所定の鍵情報に基づいて、信号レベルが略乱数的に変化する多値符号列を発生する第2の多値符号発生部と、第2の多値符号発生部が発生させた多値符号列の値に応じて、変調調整部の出力信号に与える波長分散の量を変化させる可変分散発生部とを有する。
【0024】
また、本発明は、所定の鍵情報を用いて暗号化された情報データを受信し、送信装置との間で秘密通信を行うデータ受信装置にも向けられている。そして、上記目的を達成するために、本発明のデータ受信装置は、送信装置から受信した変調信号を復調し、多値信号として出力する復調部と、所定の鍵情報に基づいて、信号レベルが略乱数的に変化する多値符号列を発生する多値符号発生部と、多値符号列に基づいて、多値信号から情報データを識別する多値識別部とを備える。復調部は、所定の鍵情報に基づいて、変調信号に所定の波長分散を与える波長調整部と、波長調整部から出力される光信号を光電変換し、多値信号として出力する受光部とを含む。
【0025】
好ましくは、波長調整部は、所定の鍵情報に基づいて、信号レベルが略乱数的に変化する多値符号列を生成する第2の多値符号発生部と、第2の多値符号発生部が生成した多値符号列の値に応じて、変調信号に与える波長分散の量を変化させる可変分散補償部とを有する。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明のデータ通信装置によれば、多値信号に基づいて半導体レーザを直接変調して生成される変調信号に対して、所定の信号に基づいた角度変調(周波数変調または位相変調)を施すことで、盗聴者が変調信号に含まれる光周波数変調成分を検出する事を困難化することができる。これによって、盗聴者に対して光ヘテロダイン検波(または、光ホモダイン検波)による多値信号の抽出を不可能にする事ができる。また、所定の信号として、異なる周波数を有する複数の信号が周波数多重された信号や、白色雑音を用いることで、さらに盗聴者が変調信号に含まれる光周波数変調成分を検出することを困難化することができる。また、変調信号に含まれる光周波数変調成分を相殺することで、盗聴者が変調信号に含まれる光周波数変調成分を検出する事を困難化してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るデータ通信装置1の構成例を示すブロック図である。図1において、データ通信装置1は、データ送信装置101(以下、送信部101と記す)と、データ受信装置201(以下、受信部201と記す)とが、伝送路150を介して接続された構成である。送信部101は、多値符号化部110と、変調部113とを備える。ただし、多値符号化部110は、多値符号発生部111と、多値処理部112とを含む。また、変調部1113は、光源114と、変調調整部115とを有する。変調調整部115は、信号源1151と、角度変調部1152とを持つ。
【0028】
受信部201は、復調部211と、多値符号化部212とを備える。ただし、多値符号化部212は、多値符号発生部213と、多値識別部214とを含む。伝送路150には、光ファイバケーブル等の光導波路が用いられる。
【0029】
まず、送信部101と受信部201とは、予め同じ内容の第1の鍵情報11と第2の鍵情報16とを共有しておく。送信部101において、多値符号発生部111は、第1の鍵情報11に基づいて、多値の疑似乱数系列である多値符号列12を発生する。多値処理部112には、情報データ10と、多値符号列12とが入力される。多値処理部112は、所定の手順に従って、情報データ10と多値符号列12とを合成し、情報データ10と多値符号列12との組み合わせに対応したレベルを有する多値信号13を生成する。
【0030】
多値信号13は、変調部113に入力される。変調部113において、光源114は、多値信号13に基づいた直接変調が施され、第1の変調信号(光信号)20を出力する。光源114は、例えば、半導体レーザで構成される。第1の変調信号20は、多値信号13の信号レベルに比例した光強度変調成分と、光周波数変調成分とを含んだ信号となる。
【0031】
第1の変調信号20は、変調調整部115に入力される。変調調整部115は、第1の変調信号20に角度変調を施して、第2の変調信号14を出力する。具体的には、変調調整部115は、信号源1151と、角度変調部1152とを含んで構成される。信号源1151は、所定の信号を出力する。角度変調部1152には、第1の変調信号20、及び信号源1151から出力された所定の信号が入力される。角度変調部1152は、例えば、光位相変調器で構成される。角度変調部1152は、信号源1151からの出力信号に基づいて、入力された第1の変調信号20に対して角度変調を施し、第2の変調信号14として出力する。
【0032】
ここで、例えば、角度変調部1152に正弦波I=I0・sin(Ω・t)で表される光信号が入力されたとする。角度変調部1152が、入力された光信号を単一正弦波θ=β・sin(ω・t)で表される信号で位相変調を施した場合について考える。この時、位相変調された信号は、(式1)のように表現される。
【数1】

【0033】
ここで、Jnはn次のベッセル関数である。すなわち、単一正弦波に基づいて、入力された光信号に対して位相変調を施した場合、無変調光を中心に、単一正弦波の周波数ω間隔で側帯波が生成される。次に、入力された光信号に対して、2つの異なる周波数(ω1、及びω2)を有する周波数多重された信号で位相変調を施した場合、位相変調された信号は、(式2)のように表現される。
【数2】

【0034】
(式2)は、周波数ω1の信号による位相変調で生じる各側波帯スペクトルが、周波数ω2の信号で更に位相変調を受けているという事を表している。すなわち、周波数多重する信号を増加させる程、互いの側波帯に位相変調を施す事になる。従って、信号源1151が、例えば、異なる周波数を有する複数の信号が周波数多重された信号を出力するマルチチャンネル信号源等であると想定すると、角度変調部1152は、周波数多重信号に基づいて、第1の変調信号20に対して位相変調(または周波数変調)を施す事が可能となる。すなわち、変調調整部115は、第1の変調信号20に存在する光源114から出力された光周波数変調成分の特定を難くする事ができる。
【0035】
復調部211は、入力された第2の変調信号14を光電変換し、多値信号15として出力する。ここで、復調部211は、第2の変調信号14に対して、直接検波を行うため、変調調整部115で加えた角度変調成分は抽出されず、強度変調成分のみを抽出する事が可能となる。
【0036】
多値符号発生部213は、第2の鍵情報16に基づいて、上述した多値符号列12と同じ多値の疑似乱数系列である多値符号列17を生成する。多値識別部214は、多値符号列17に基づいて、多値信号15の識別(2値判定)を行い、当該識別結果を情報データ18として出力する。なお、多値信号15には雑音が含まれているが、多値識別部214は、信号強度を適切に選ぶ事で、2値識別における誤りの発生を無視できる程度に抑える事が可能となる。
【0037】
次に、想定される盗聴動作について説明する。盗聴者は、光源114が直接変調される事で生じる光周波数変調成分を識別し、第2の変調信号14から情報データ10、または第1の鍵情報11の解読を試みる。この場合、盗聴者は、例えば、光ヘテロダイン検波(または、光ホモダイン検波)により、第2の変調信号14に含まれる光周波数変調成分の特定を試みる。しかしながら、変調調整部115において、第2の変調信号14には、光源114で発生する光周波数変調成分と共に、周波数多重された信号に基づいた光位相変調成分が加えられているため、盗聴者が光周波数変調成分を特定するのは非常に困難となる。従って、データ通信装置1は、従来の暗号装置とは異なり、光ヘテロダイン検波により情報データ11、もしくは第1の鍵情報11を特定する事が極めて困難となる。
【0038】
以上のように、本発明の第1の実施形態に係るデータ通信装置1によれば、多値信号13に基づいて半導体レーザを直接変調して生成される変調信号20に対して、所定の信号に基づいた角度変調を施す事で、盗聴者が変調信号20に含まれる光周波数変調成分を検出する事を困難化させる事ができる。これによって、盗聴者に対して光ヘテロダイン検波(または、光ホモダイン検波)による多値信号13の抽出を不可能にする事ができる。
【0039】
なお、本実施例では、信号源1151が、異なる周波数を有する複数の信号が周波数多重された信号を出力するマルチチャンネル信号源としたが、例えば、信号源1151の代わりに白色雑音源1153を設ける構成にしてもよい。図2は、白色雑音源1153を設けた場合のデータ通信装置1aの構成の一例を示すブロック図である。図2において、白色雑音源1153は、全ての周波数成分を一様に持つ白色雑音を発生させる。このような構成のデータ通信装置1aは、白色雑音が全ての周波数成分を有しているため、盗聴者による光周波数変調成分の抽出をより困難にすることができる。
【0040】
また、本実施例では、変調調整部115が、信号源1151の代わりに、光周波数変調成分検出部1154を設ける構成であっても良い。図3は、光周波数変調成分検出部1154を設けた場合のデータ通信装置1bの構成の一例を示すブロック図である。図3において、光周波数変調成分検出部1154は、光源114から出力された第1の変調信号20の一部を受信し、予め第1の変調信号20に含まれる光周波数変調成分を検出する。
【0041】
光周波数変調成分検出部1154は、検出した光周波数変調成分から、第1の変調信号20に含まれる光周波数変調成分を打ち消すために必要な信号を角度変調部1152へ出力する。このため、第1の変調信号20に含まれていた光周波数変調成分が、第2の変調信号14には存在しなくなる。これによって、データ通信装置1bは、盗聴者が、第2の変調信号14から光ヘテロダイン検波(または、光ホモダイン検波)による光周波数変調成分の検出を試みても不可能となり、盗聴に対する安全性を向上させる事が可能となる。
【0042】
(第2の実施形態)
図4は、本発明の第2の実施形態に係るデータ通信装置2の構成の一例を示すブロック図である。ただし、図1と同じ構成要素については同じ参照符号を用い、詳しい説明を省略する。図4において、データ送信装置102(以下、送信部102と記す)は、変調部113xの構成が、第1の実施形態と異なる。変調部113xは、光源114及び変調調整部115に加えて、波形調整部116をさらに含む。波形調整部116は、多値符号発生部1161と、可変分散発生部1162とを有する。
【0043】
データ受信装置202(以下、受信部202と記す)は、復調部211xの構成が、第1の実施形態とは異なる。図5は、復調部211xの構成の一例を示すブロック図である。図5において、復調部211xは、波形調整部216と、受光部217とを含む。ただし、波形調整部216は、多値符号発生部2161と、可変分散補償部2162とを有する。
【0044】
すなわち、本発明の第2の実施形態に係わるデータ通信装置2は、上述した第1の実施形態に係るデータ通信装置1と比較して、送信部102に波形調整部116と、受信部202に波形調整部216とを加えた構成となっている。従って、基本的な動作は第1の実施形態とほぼ同様である。そのため、以下には、第1の実施形態との相違点を中心に、第2の実施形態のデータ通信装置2の動作を説明する。
【0045】
まず、送信部102と受信部202とは、予め全て同じ内容の第1の鍵情報11と、第2の鍵情報16と、第3の鍵情報21と、第4の鍵情報22とを共有しておく。送信部102において、波形調整部116は、多値符号発生部1161と、可変分散発生部1162とを含んで構成される。多値符号発生部1161は、第3の鍵情報21に基づいて、上述した多値符号列12と同じ多値の疑似乱数系列である多値符号列23を生成する。可変分散発生部1162は、入力された第2の変調信号14に対して、多値符号列23に基づいた波長分散を与え、第3の変調信号24として出力する。波長分散とは、光ファイバ等の媒質中を伝搬する際に波長によって光の伝搬速度が異なる(すなわち、光周波数変調成分毎に遅延時間に差が生じる)現象である。この波長分散を利用し、可変分散発生部1162は、第2の変調信号14の光周波数成分毎の遅延時間の差を更に広げる事ができる。
【0046】
受信部202において、波形調整部216は、多値符号発生部2161と、可変分散補償部2162とを含んで構成される。多値符号発生部2161は、第4の鍵情報22に基づいて、上述した多値符号列12と同じ多値の疑似乱数系列である多値符号列25を生成する。可変分散補償部2162は、多値符号列25に基づいて、補償する波長分散量を決定し、伝送路150を介して伝送されてきた第3の変調信号24に対して波長分散を加え、第4の変調信号26として出力する。
【0047】
ここで、可変分散補償部2162が、入力される多値符号列25の値に応じて補償する波長分散量と、可変分散発生部1162が、入力される多値符号列23の値に応じて加える波長分散量との値を略一致させておく事で、可変分散発生部1162が加えた波長分散の影響を、可変分散補償部2162が取り除く事が可能となる。
【0048】
受光部217は、入力された第4の変調信号26を光電変換し、多値信号15として出力する。ここで、受光部217は、第4の変調信号26に対して、直接検波を行うため、変調調整部115において加えた角度変調成分は抽出されず、強度変調成分のみを抽出する事が可能となる。
【0049】
以上のように、本発明の第2の実施形態に係るデータ通信装置2によれば、波形調整部116が共有された鍵情報に基づいて変調信号14に波長分散の影響を加える事で、盗聴者が除去できない波形歪みを与える事ができる。これによって、盗聴者に対して解読処理に要する計算量を増大させ、結果として盗聴に対する安全性を向上させることができる。
【0050】
なお、本実施例では、可変分散補償部2162において、補償する波長分散量を多値符号列25に基づいて決定するとしたが、可変分散補償部2162に、予め伝送路150において発生する波長分散量を加えておき、さらに、多値符号列25に基づいた波長分散量を補償する事にしても良い。この様な構成にする事で、伝送路150の距離に応じて発生する波長分散の影響も含めて、可変分散補償部2162にて補償する事ができ、多値識別部214において、より正確に多値信号15のレベルを識別する事が可能となる。
【0051】
また、本実施例では、信号源1151が、複数の異なる周波数を有する複数の信号が周波数多重された信号を出力するマルチチャンネル信号源としたが、例えば、信号源1151の代わりに白色雑音源1153を設ける構成にしてもよい。図6は、白色雑音源1153を設けた場合のデータ通信装置2aの構成の一例を示すブロック図である。図6において、白色雑音源1153は、全ての周波数成分を一様に持つ白色雑音を発生させる。このような構成のデータ通信装置2aは、白色雑音が全ての周波数成分を有しているため、盗聴者による光周波数変調成分の抽出をより困難にすることができる。
【0052】
また、本実施例では、第1〜第4の鍵情報は全て同じ内容であると説明したが、第1の鍵情報11と第2の鍵情報16とが同じ内容であり、第3の鍵情報21と第4の鍵情報22とが同じ内容であれば、第1〜第4の鍵情報は全て同じ内容である必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明に係るデータ送信装置、及び、データ受信装置は、盗聴・傍受等を受けない安全な秘密通信装置等として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るデータ通信装置1の構成例を示すブロック図
【図2】白色雑音源1153を設けた場合のデータ通信装置1aの構成の一例を示すブロック図
【図3】光周波数変調成分検出部1154を設けた場合のデータ通信装置1bの構成の一例を示すブロック図
【図4】本発明の第2の実施形態に係るデータ通信装置3の構成の一例を示すブロック図
【図5】復調部211xの構成の一例を示すブロック図
【図6】白色雑音源1153を設けた場合のデータ通信装置2aの構成の一例を示すブロック図
【図7】Y−00プロトコルを用いた従来のデータ通信装置9の構成例を示すブロック図
【図8】Y−00プロトコルを用いた従来のデータ通信装置9における多値信号の信号フォーマットを示す図
【図9】従来のデータ通信装置9で用いられる信号形態を説明するための模式図
【図10】光ヘテロダイン検波を行う際の光ヘテロダイン検波受信器930の一例を示したブロック図
【符号の説明】
【0055】
1〜2 データ通信装置
101、102 データ送信装置(送信部)
110 多値符号化部
111 多値符号発生部
112 多値処理部
113 変調部
114 光源
115 変調調整部
1151 信号源
1152 角度変調部
1153 白色雑音源
1154 光周波数変調成分検出部
116 波形調整部
1161 多値符号発生部
1162 可変分散発生部
150 伝送路
201、202 データ受信装置(受信部)
211 復調部
212 多値符号化部
213 多値符号発生部
214 多値識別部
215 復調部
216 波形調整部
2161 多値符号発生部
2162 可変分散補償部
217 受光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の鍵情報を用いて情報データを暗号化し、受信装置との間で秘密通信を行うデータ送信装置であって、
前記所定の鍵情報に基づいて、信号レベルが略乱数的に変化する多値符号列を発生する多値符号発生部と、
前記情報データと前記多値符号列とを合成し、前記情報データと前記多値符号列との組み合わせに対応した複数のレヘ゛ルを有する多値信号を生成する多値処理部と、
前記多値信号を所定の変調形式で変調して、変調信号として出力する変調部とを備え、
前記変調部は、
前記多値信号を光信号に変換する光源と、
前記光源が出力した光信号に角度変調を施す変調調整部とを含むことを特徴とする、データ送信装置。
【請求項2】
前記変調調整部は、
所定の信号を出力する信号源と、
前記信号源が出力した信号に基づいて、前記光信号に角度変調を施す角度変調部とを有することを特徴とする、請求項1に記載のデータ送信装置。
【請求項3】
前記所定の信号は、2つ以上の異なる周波数を有する信号が多重された周波数多重信号であることを特徴とする、請求項2に記載のデータ送信装置。
【請求項4】
前記所定の信号は、白色雑音であることを特徴とする、請求項2に記載のデータ送信装置。
【請求項5】
前記変調調整部は、
前記光源が出力した光信号から光周波数変調成分を検出する光周波数変調成分検出部と、
前記検出された光周波数変調成分を打ち消すように、前記光源が出力した光信号に角度変調を施す角度変調部とを有することを特徴とする、請求項1に記載のデータ送信装置。
【請求項6】
前記変調部は、前記変調調整部の後段に接続され、所定の鍵情報に基づいて、前記変調調整部が出力する信号に波長分散を与える波形調整部をさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載のデータ送信装置。
【請求項7】
前記波形調整部は、
前記所定の鍵情報に基づいて、信号レベルが略乱数的に変化する多値符号列を発生する第2の多値符号発生部と、
前記第2の多値符号発生部が発生させた多値符号列の値に応じて、前記変調調整部の出力信号に与える波長分散の量を変化させる可変分散発生部とを有することを特徴とする、請求項6に記載のデータ送信装置。
【請求項8】
所定の鍵情報を用いて暗号化された情報データを受信し、送信装置との間で秘密通信を行うデータ受信装置であって、
前記送信装置から受信した変調信号を復調し、多値信号として出力する復調部と、
前記所定の鍵情報に基づいて、信号レベルが略乱数的に変化する多値符号列を発生する多値符号発生部と、
前記多値符号列に基づいて、前記多値信号から前記情報データを識別する多値識別部とを備え、
前記復調部は、
前記所定の鍵情報に基づいて、前記変調信号に所定の波長分散を与える波長調整部と、
前記波長調整部から出力される光信号を光電変換し、前記多値信号として出力する受光部とを含むことを特徴とする、データ受信装置。
【請求項9】
前記波長調整部は、
前記所定の鍵情報に基づいて、信号レベルが略乱数的に変化する多値符号列を生成する第2の多値符号発生部と、
前記第2の多値符号発生部が生成した多値符号列の値に応じて、前記変調信号に与える波長分散の量を変化させる可変分散補償部とを有することを特徴とする、請求項8に記載のデータ受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−92443(P2008−92443A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−273053(P2006−273053)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】