説明

トスフロキサシンまたはその塩を含有する医薬組成物

【構成】トスフロキサシンまたはその塩を含有し、安定性および防腐効果・汚染防止効果に優れた医薬用組成物を提供すること。
【効果】トスフロキサシンまたはその塩、アルミニウムを構成成分とする金属化合物、ホウ砂、アルカリ金属塩化物および保存剤を含有する医薬組成物は、安定性および防腐効果・汚染防止効果に優れ、とりわけ点眼液、点鼻液および点耳液として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌作用を発揮するトスフロキサシン(7−(3−アミノ−1−ピロリジニル)−1−(2,4−ジフルオロフェニル)−6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−1,8−ナフチリジン−3−カルボン酸)またはその塩、アルミニウムを構成成分とする金属化合物、ホウ砂、アルカリ金属塩化物および保存剤を含有する医薬用組成物であり、この医薬組成物は、安定性および安全性に優れている。
【背景技術】
【0002】
トスフロキサシンは、グラム陽性菌のみならずグラム陰性菌に対する極めて優れた抗菌剤として広く知られている。また、その溶液を安定化する方法として、アルミニウムを構成成分とする金属化合物、ホウ砂およびアルカリ金属塩化物を添加する方法[特許文献1]が知られている。
ところで、点眼用、点鼻用および点耳用などに適用される水性液剤は、しばしば長期にわたって少量ずつ使用される。そのため、水性液剤は、汚染される恐れがある。
現在までに、トスフロキサシンまたはその塩、アルミニウムを構成成分とする金属化合物、ホウ砂、アルカリ金属塩化物および保存剤を含有する医薬組成物は、知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3346586号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トスフロキサシンまたはその塩を含有し、防腐効果・汚染防止効果を有する医薬組成物が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような状況下、本発明者は、鋭意検討を行った結果、トスフロキサシンまたはその塩、アルミニウムを構成成分とする金属化合物、ホウ砂、アルカリ金属塩化物および保存剤を含有する医薬組成物が、安定性および防腐効果・汚染防止効果に優れることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0006】
本発明のトスフロキサシンまたはその塩、アルミニウムを構成成分とする金属化合物、ホウ砂、アルカリ金属塩化物および保存剤を含有する医薬組成物は、安定性および防腐効果・汚染防止効果に優れ、とりわけ、点眼液、点鼻液および点耳液として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0008】
本発明の医薬組成物は、トスフロキサシンまたはその塩の懸濁液に、アルミニウムを構成成分とする金属化合物を添加して溶解した後、ホウ砂を加えてpHを調整し、この溶液にアルカリ金属塩化物を加えて等張化し、さらに、保存剤を添加して溶解し、製造することができる。
【0009】
本発明医薬組成物に使用されるトスフロキサシンの塩としては、たとえば、塩酸、硫酸およびリン酸などの無機酸との塩;酢酸、乳酸、コハク酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、マレイン酸、マロン酸およびグルコン酸などの有機酸との塩;アスパラギン酸およびグルタミン酸などのアミノ酸との塩;ナトリウム塩ならびにカリウム塩などが挙げられ、p−トルエンスルホン酸との塩が好ましい。
また、トスフロキサシンまたはその塩において、溶媒和物、水和物および種々の形状の結晶が存在する場合、本発明は、それらの全てを使用することができ、トスフロキサシンp−トルエンスルホン酸塩水和物を使用することが好ましい。
トスフロキサシンまたはその塩の使用量は、医薬組成物に対して0.1〜3%、好ましくは、0.3%である。
【0010】
本発明の医薬組成物に使用されるアルカリ金属塩化物としては、たとえば、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムなどが挙げられ、塩化ナトリウムが好ましい。
アルカリ金属塩化物の使用量は、溶液の等張化に必要となる量である。
【0011】
本発明の医薬組成物に使用されるアルミニウムを構成成分とする金属化合物としては、たとえば、硫酸アルミニウムカリウム、塩化アルミニウムおよび硫酸アルミニウムならびにこれらの水和物などが挙げられ、硫酸アルミニウムカリウム12水和物が好ましい。
アルミニウムを構成成分とする金属化合物の使用量は、通常、トスフロキサシンまたはその塩に対して、0.1〜30倍モル、好ましくは、0.1〜10倍モルである。
【0012】
本発明の医薬組成物のpHは、溶解時に3.5〜7.0であり、好ましくは、4.0〜6.5であり、そのpHは、ホウ砂の使用量によって調整される。必要に応じて、他のアルカリまたは酸を本発明の医薬組成物に加えてもよい。アルカリとしては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムおよび炭酸カリウムなどが挙げられる。酸としては、たとえば、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸およびメタンスルホン酸などが挙げられる。
【0013】
本発明の医薬組成物に使用される保存剤としては、塩化ベンゼトニウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、クロロブタノール、デヒドロ酢酸ナトリウムおよび安息香酸ナトリウムなどが挙げられ、パラオキシ安息香酸エチルが好ましい。
保存剤の使用量は、好ましくは、医薬組成物に対して0.001〜0.1%、さらに好ましくは、0.03〜0.05%である。
【0014】
本発明の医薬組成物の好ましい一例は、トスフロキサシンp−トルエンスルホン酸塩水和物を水に懸濁し、硫酸アルミニウムカリウム12水和物を添加して溶解した後、ホウ砂を加えてpHを調整し、この溶液に塩化ナトリウムを加えて等張化し、さらに保存剤を添加した液剤である。
【0015】
本発明の医薬組成物は、主として注射用(溶液または用時溶解型)、点眼用、点鼻用、点耳用、口腔用または経口用の製剤に適用することができる。製剤を調製する際、薬学的に許容される補助剤を更に添加してもよい。補助剤としては、賦形剤、安定化剤、緩衝剤、抗酸化剤、矯味剤、粘稠化剤および無痛化剤などが挙げられる。
投与方法、投与量および投与回数は、患者の年齢、体重および症状に応じて適宜選択することができる。本発明の医薬組成物は、通常成人に対して、経口または非経口(たとえば、注射および直腸部位への投与など)投与により、トスフロキサシンに換算して0.1〜50mg/kg/日を1〜数回に分割して投与できる。点眼、点耳および点鼻などの投与の場合、本発明の医薬組成物は、トスフロキサシンに換算して1〜100μg/kg/日を1回から数回に分割して投与できる。
【実施例】
【0016】
つぎに、本発明を実施例、比較例および試験例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
化合物Aとして、トスフロキサシンp−トルエンスルホン酸塩水和物を用いた。
試験例2における比較製剤は、実施例1と同様の方法で保存剤を添加せずに製造した点眼液である。
【0017】
実施例1
化合物A0.3gおよび硫酸アルミニウムカリウム12水和物0.12gを精製水90mLに加え、55℃で溶解させた。ホウ砂0.1gおよびパラオキシ安息香酸エチル0.1gを加えて溶解させた。この溶液を室温に冷却後、塩化ナトリウムで等張化した。水酸化ナトリウム溶液でpHを5.2に調整し、精製水で全量100mLとした。この溶液をメンブレンフィルター(0.22μm)で無菌濾過した後、ポリエチレン製点眼瓶に充填し、点眼液を製造した。
【0018】
実施例2
パラオキシ安息香酸エチル0.05gを用いて、実施例1と同様の方法で点眼液を製造した。
【0019】
実施例3
パラオキシ安息香酸エチル0.03gを用いて、実施例1と同様の方法で点眼液を製造した。
【0020】
実施例4
パラオキシ安息香酸エチル0.02gを用いて、実施例1と同様の方法で点眼液を製造した。
【0021】
比較例1
化合物A0.3gおよび硫酸アルミニウムカリウム12水和物0.12gを精製水90mLに懸濁し、55℃で溶解させた。この液にホウ砂0.1gおよび塩化ナトリウム0.82gを溶解させた。さらに、この溶液に精製水7mLおよび1mg/mL塩化ベンザルコニウム水溶液3mLを加えた。
不溶物は、塩化ベンザルコニウムを添加した後に認められた。
【0022】
試験例1(製剤の安定性に及ぼす保存剤の影響)
実施例2の製剤を室温および冷蔵で保存し、6週間後、化合物Aの濃度を測定した。
6週間後の化合物Aの残存率を求めた。
残存率(%)=(6週間後の化合物Aの濃度/開始時の化合物Aの濃度)×100
結果を表1に示す。
【0023】
【表1】

【0024】
実施例2の製剤は、安定であった。
【0025】
試験例2(防腐効果)
防腐効果は、Clinical and Laboratory Standards Institute (CLSI)が推奨する酵母の感受性測定標準法M27-A3および糸状菌の感受性測定標準法M38-A2に準じた微量液体希釈法を用いて測定した。感受性測定培地には、ろ過滅菌した0.5%グルコース添加0.67%Difco Yeast Nitrogen Base without Amino Acids (YNB)を用いた。
Candida albicans TIMM1623の接種菌液は、最終接種菌量(1×103CFU/mL)の10倍濃度になるように、冷凍保存の菌液を10倍濃度のYNBで希釈し、調製した。
Aspergillus fumigatus TIMM0063の接種菌液は、最終接種菌量(1×104CFU/mL)の10倍濃度になるように、冷蔵保存の菌液を10倍濃度のYNBで希釈し、調製した。
実施例1〜4および比較製剤は、遊離培養用マルチプレートMS-8096R(住友ベークライト, 96ウェル, 平底)上にて、蒸留水を用いて180μLずつ公比2で10段階まで希釈した。さらに、接種菌液を各ウェルに20μLずつ接種し、マイクロプレートミキサーを用いて懸濁した。35℃で48時間培養後、目視により判定を行った。なお、酵母の場合、判定前にマイクロプレートミキサーを用いて培養液を懸濁した。
防腐効果の指標とするために、肉眼的に透明なウェルが観察された最大の希釈倍数を決定した。結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

a 原液において50%以上の発育阻害が認められた
b 発育阻止は認められなかった
【0027】
保存剤であるパラオキシ安息香酸エチル無添加の製剤は、真菌の発育阻止が認められなかった。しかし、0.03〜0.1%パラオキシ安息香酸エチルを含有する製剤は、真菌の発育を完全に阻止した。
【0028】
以上の結果から明らかなように、トスフロキサシンまたはその塩、アルミニウムを構成成分とする金属化合物、ホウ砂、アルカリ金属塩化物および保存剤を含有する本発明の医薬組成物は、安定性および防腐効果・汚染防止効果を有し、とりわけ点眼液、点鼻液および点耳液として極めて優れていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
7−(3−アミノ−1−ピロリジニル)−1−(2,4−ジフルオロフェニル)−6−フルオロ−1,4−ジヒドロ−4−オキソ−1,8−ナフチリジン−3−カルボン酸またはその塩、アルミニウムを構成成分とする金属化合物、ホウ砂、アルカリ金属塩化物および保存剤を含有する医薬組成物。
【請求項2】
保存剤が、パラオキシ安息香酸エチルである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
アルミニウムを構成成分とする金属化合物が硫酸アルミニウムカリウム12水和物、アルカリ金属塩化物が塩化ナトリウムおよび保存剤がパラオキシ安息香酸エチルである請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
パラオキシ安息香酸エチルの含有量が、医薬組成物に対し、0.001〜0.1%である請求項3に記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2011−68589(P2011−68589A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220574(P2009−220574)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000003698)富山化学工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】