説明

トバモウイルス抵抗性遺伝子Tm−1

【課題】 トバモウイルスToMV抵抗性遺伝子Tm−1様活性を有するタンパク質および該タンパク質をコードするポリヌクレオチドを提供する。
【解決手段】 特定のアミノ酸からなるポリペプチドおよび特定の塩基配列からなるポリヌクレオチドであり、Tm−1様活性を有する。トマト由来の細胞抽出液を用いてToMV RNA複製系を構築し、これを用いたアッセイ系を得る。ToMVに抵抗性を有する植物体のスクリーニング、そのためのキット、更に該ポリヌクレオチドを導入した植物体の作成、そのためのキットを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新たに同定された新規遺伝子およびその利用に関するものであり、より詳細には、トマトにおけるTm−1様形質の活性本体であるタンパク質(Tm−1タンパク質)および該タンパク質をコードする遺伝子(Tm−1遺伝子)ならびにこれらの利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からトマトにおけるTm−1形質(本明細書中、以下「Tm−1様形質」と称する。)は、トマトにおいてトマトモザイクウイルス(トバモウイルス:ToMV、以下適宜「ToMV」と略記する。)の増殖を抑制する半優性遺伝形質として知られている(例えば、非特許文献1、2を参照のこと)。Tm−1様形質はトマト近縁野生種Lycopersicon hirsutum(Solanum habrochaites)を起源とし、栽培種トマトL.esculentum(S.lycopersicum)に広く導入され、ToMV感染による被害の軽減に貢献しているが、Tm−1様形質の本体である遺伝子(Tm−1遺伝子)は未だクローニングされておらず、その塩基配列およびアミノ酸配列は同定されていない。
【0003】
これまでに試みられているTm−1遺伝子の同定手法として、例えば、Tm−1遺伝子のマッピング解析が行われた。この解析によれば、Tm−1遺伝子は第2染色体の動原体近くに座乗していると考えられているが、その正確な位置については明らかになっていない(例えば、非特許文献3を参照のこと)。
【0004】
また、Tm−1遺伝子は、いわゆる「抵抗性(R)遺伝子」が示す形質とは異なり、過敏感反応を伴うことなく1細胞内でのToMV RNAの複製を抑制するという独特の抵抗性を付与する。このため、Tm−1遺伝子をポジショナルクローニングにより同定する試みが精力的に行われたが、この遺伝子が動原体およびリボソームRNAコード領域に近接した、組み換え頻度が極度に低い染色領域に座乗するため、Tm−1様形質の本体である遺伝子と完全に連鎖するマーカーは得られても、遺伝子自体の同定には至らなかった。
【特許文献1】特開2005−237302号公報(平成17年9月8日公開)
【特許文献2】特開2005−65651号公報(平成17年3月17日公開)
【特許文献3】特開2005−245229号公報(平成17年9月15日公開)
【非特許文献1】Pelham, J., Resistance in Tomato to Tabacco Mosaic virus, Euphytica, 15 (1966): 258-267
【非特許文献2】Buck, kenneth W., Replication of tobacco mosaic virus RNA, Phil. Trans. R. Soc. Lond. B (1999) 354, 613-627
【非特許文献3】Ohmori, T., Murata, M., Motoyoshi, F., Molecular characterization of RAPD and SCR markers linked to the Tm-1 locus in tomato, Theor Appl Genet (1996) 92: 151-156
【非特許文献4】Komoda, K., Naito, S. and Ishikawa, M. (2004) Replication of plant RNA virus genomes in a cell-free extract of evacuolated plant protoplasts. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 101: 1863-1867。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トマトにおいてトマトモザイクウイルス(ToMV)の増殖を抑制する半優性遺伝形質であるTm−1様形質について、従来、Tm−1様形質の利用は交配可能なトマト近縁種に限られているので、この形質を異種植物に容易に導入することができれば、種々の作物にToMV抵抗性を容易に導入することができる。しかし、Tm−1様形質の本体である遺伝子は未だ得られていない。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、Tm−1様形質の本体である遺伝子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、植物におけるTm−1様形質の有無を判定する判定方法(特許文献1を参照のこと)を用いた実験系を構築することにより、Tm−1様形質を有しているトマト由来の細胞抽出液からToMV RNAの複製を阻害する活性を測定し得ること、さらにこのToMV RNA複製を阻害する活性がToMVの増殖を抑制する活性であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明に係るポリペプチドは、ToMVの増殖を抑制するポリペプチドであって、(a)配列番号1、7、9もしくは11に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;(b)配列番号1、7、9もしくは11に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド;(c)配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;(d)配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;または(e)配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、であることを特徴としている。
【0008】
本発明に係るポリペプチドは、ToMVの増殖を抑制するポリペプチドであって、上記(a)〜(e)のいずれか1つのポリペプチドのフラグメントであり、かつ、(I)配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜283位;または(II)配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜283位において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列、を含んでいることを特徴としている。好ましくは、本発明に係るポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の部分配列でありかつ配列番号33または34に示されるアミノ酸配列を含むアミノ酸配列からなるポリペプチドであり得る。
【0009】
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記ポリペプチドをコードすることを特徴としている。
【0010】
本発明に係る植物体作製方法は、ToMV抵抗性が付与された植物体を作製するために、上記ポリヌクレオチドを植物体に導入する工程を包含することを特徴としている。
【0011】
本発明に係る植物体作製キットは、ToMV抵抗性が付与された植物体を作製するために、上記ポリヌクレオチドを備えていることを特徴としている。
【0012】
本発明に係るスクリーニング方法は、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、上記ポリヌクレオチドのフラグメントを目的の植物由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程を包含することを特徴としている。
【0013】
本発明に係るスクリーニングキットは、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、上記ポリヌクレオチドのフラグメントを備えていることを特徴としている。
【0014】
本発明に係る抗体は、上記ポリペプチドと特異的に結合することを特徴としている。
【0015】
本発明に係るスクリーニング方法は、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、上記抗体を目的の植物体由来の組織抽出物とインキュベートする工程を包含することを特徴としている。
【0016】
本発明に係るスクリーニングキットは、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、上記抗体を備えていることを特徴としている。
【0017】
本発明に係るオリゴヌクレオチドは、配列番号30に示される塩基配列またはその相補配列からなることを特徴としている。
【0018】
本発明に係る植物体スクリーニング方法は、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、上記オリゴヌクレオチドを目的の植物体由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程を包含することを特徴としている。
【0019】
本発明に係る植物体スクリーニング方法は、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、配列番号29に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを目的の植物体由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程をさらに包含することが好ましい。
【0020】
本発明に係る植物体スクリーニング方法は、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、配列番号31に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを目的の植物体由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程をさらに包含することが好ましい。
【0021】
本発明に係る植物体スクリーニングキットは、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、上記オリゴヌクレオチドを備えていることを特徴としている。
【0022】
本発明に係る植物体スクリーニング方法は、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、配列番号29に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドをさらに備えていることが好ましい。
【0023】
本発明に係る植物体スクリーニング方法は、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、配列番号31に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドをさらに備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明を用いれば、ToMV抵抗性が付与された植物体を作製することができる。また、本発明を用いれば、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明者らは、Tm−1様形質を有しているトマト由来の細胞抽出液からToMV RNA複製を阻害する活性(Tm−1活性)を測定する実験系を構築し、これを用いてTm−1活性を追跡した。その結果、Tm−1活性に対応する画分に含まれるタンパク質をLC−MS/MS解析により同定し、対応する遺伝子をクローニングし、本発明を完成するに至った。
【0026】
〔1:Tm−1ポリペプチドおよびTm−1ポリヌクレオチド〕
1つの局面において、本発明は、Tm−1ポリペプチドを提供する。本発明に係るTm−1ポリペプチドは、配列番号1、7、9もしくは11に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドまたは配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド、あるいはこれらの変異体であることが好ましい。
【0027】
本明細書中においてタンパク質またはポリペプチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、Tm−1活性を有するポリペプチドが意図され、「Tm−1活性」は、ToMVの増殖を抑制する活性、好ましくは、ToMV RNAの複製を阻害する活性が意図される。また、本明細書中で使用される場合、「Tm−1タンパク質」は「Tm−1ポリペプチド」と交換可能に使用される。すなわち、Tm−1タンパク質は、Tm−1様形質の活性本体であるタンパク質が意図される。
【0028】
本発明はまた、Tm−1ポリヌクレオチドを提供する。本発明に係るTm−1ポリヌクレオチドは、配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはその変異体であることが好ましい。本明細書中においてDNAまたはポリヌクレオチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、Tm−1活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが意図される。また、本明細書中で使用される場合、「Tm−1遺伝子」は「Tm−1ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。すなわち、Tm−1遺伝子は、遺伝形質であるTm−1様形質の本体である。
【0029】
なお、上述したように、「Tm−1様形質」は、特定のトマトにおいて見出されたトマトモザイクウイルス(ToMV)の増殖を抑制する半優性遺伝形質が意図される。
【0030】
本発明者らは、Tm−1タンパク質が分子量約80kのタンパク質であり、Tm−1様形質を有していないトマトにおいてもその対照物である分子量約80kのタンパク質が発現していることを見出した。本明細書中で使用される場合、「tm−1タンパク質」は、Tm−1様形質を有していないトマトにおいて発現しているp80タンパク質(Tm−1タンパク質の対照物)が意図され、「tm−1遺伝子」は「tm−1ポリヌクレオチド」と交換可能に使用され、tm−1タンパク質をコードする遺伝子が意図される。本明細書中で使用される場合、「p80タンパク質」は、Tm−1タンパク質およびその対照物が意図され、Tm−1トマト由来のTm−1タンパク質およびtm−1トマト由来のtm−1タンパク質を含むことが意図される。なお、本明細書中で使用される場合、「Tm−1トマト」は、Tm−1様形質を有しているトマトが意図され、「tm−1トマト」はTm−1様形質を有していないトマトが意図される。後述する実施例においては、Tm−1トマトとしてGCR237系統が用いられ、tm−1トマトとしてGCR237の準同質遺伝子系統であるGCR26が用いられている。
【0031】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。
【0032】
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
【0033】
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
【0034】
本発明に係るポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖およびイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されない。
【0035】
また、本発明に係るポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、His、Myc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
【0036】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、Tm−1ポリペプチドまたはその変異体であって、ここで当該変異体は、Tm−1活性を有するポリペプチドであって、配列番号1、7、9もしくは11に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであることが好ましい。
【0037】
このような変異体としては、欠失、挿入、逆転、反復、およびタイプ置換(例えば、親水性残基の別の残基への置換、しかし通常は強く親水性の残基を強く疎水性の残基には置換しない)を含む変異体が挙げられる。特に、ポリペプチドにおける「中性」アミノ酸置換は、一般的にそのポリペプチドの活性にほとんど影響しない。
【0038】
ポリペプチドを構成するアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
【0039】
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が所望のTm−1活性を有するか否かを容易に決定し得る。
【0040】
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または付加を有する。これらは、本発明に係るポリペプチドのTm−1活性を変化させない。
【0041】
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸から別のアミノ酸への置換;ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
【0042】
このように、本実施形態に係るTm−1ポリペプチドは、Tm−1活性を有するポリペプチドであって、(1)配列番号1、7、9もしくは11に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または、(2)配列番号1、7、9もしくは11に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、であることが好ましい。
【0043】
他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、Tm−1ポリペプチドまたはその変異体であって、ここで当該変異体は、Tm−1活性を有するポリペプチドであって、配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされることが好ましい。
【0044】
他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、Tm−1ポリペプチドまたはその変異体であって、ここで当該変異体は、Tm−1活性を有するポリペプチドであって、配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされることが好ましい。
【0045】
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。適切なハイブリダイゼーション温度は、塩基配列やその塩基配列の長さによって異なり、例えば、アミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとして用いる場合、50℃以下の温度が好ましい。
【0046】
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。ポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドによって、参照のポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、さらにより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは約30ntより長いポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか)が意図される。このようなポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)は、本明細書中においてより詳細に考察されるような検出用プローブとしても有用である。
【0047】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドまたはそのフラグメント」とは、配列番号2、8、10もしくは12の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列を含むポリヌクレオチドまたはその断片部分が意図される。
【0048】
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、または、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
【0049】
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マーまたは100マーというように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化学合成されてもよい。
【0050】
本発明に係るポリヌクレオチドはまた、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
【0051】
一実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、Tm−1ポリヌクレオチドまたはその変異体であって、ここで当該変異体はTm−1ポリペプチドをコードし、かつ以下のポリヌクレオチドのいずれであることが好ましい:
・配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド
・配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0052】
このように、本発明に係るTm−1ポリヌクレオチドは、Tm−1活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下のいずれかであることが好ましい:(1)配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;(2)配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド;または、(3)配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
【0053】
本発明に係るポリヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列またはベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
【0054】
本発明に係るポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、生物材料であることが好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「生物材料」は、生物学的サンプル(生物体から得られた組織サンプルまたは細胞サンプル)が意図される。下述する実施例においては、トマトを用いているが、これに限定されない。
【0055】
このように、本実施形態に係るTm−1ポリペプチドは、Tm−1活性を有するポリペプチドであって、以下のいずれかであることが好ましい:(1)配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;(2)配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド、によってコードされるポリペプチド;または、(3)配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、によってコードされるポリペプチド。
【0056】
さらなる局面において、本発明は、Tm−1ポリペプチドのフラグメントを提供する。本発明者らは、Tm−1ポリペプチドの種々のC末端欠失変異体を作製し、該C末端欠失変異体が、少なくとも配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜283位を含んでいればTm−1活性を有していることを見出した。
【0057】
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜283位を含むポリペプチドまたはその変異体であることが好ましい。本実施形態において、上記変異体は、Tm−1活性を有するポリペプチドであればよく、例えば、配列番号33または34に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異体であってもよい。好ましい局面において、本実施形態に係るポリペプチドは、Tm−1活性を有するポリペプチドであれば、配列番号33または34に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドであり得る。
【0058】
上述したように、本明細書中においてタンパク質またはポリペプチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、Tm−1活性を有するポリペプチド(すなわち、ToMVの増殖を抑制するポリペプチド)が意図され、「配列番号33または34に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異体」は、ToMVの増殖を抑制するポリペプチドであって、配列番号33または34に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであることが意図される。
【0059】
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、配列番号40に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドまたはその変異体によってコードされるポリペプチドであることを特徴とすることが好ましい。上記変異体は、Tm−1活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであればよく、例えば、配列番号39または40に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの変異体によってコードされるポリペプチドであってもよい。好ましい局面において、本実施形態に係るポリペプチドは、Tm−1活性を有するポリペプチドであれば、配列番号39または40に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドであり得る。
【0060】
上述したように、本明細書中においてDNAまたはポリヌクレオチドに関して用いられる場合、用語「変異体」は、Tm−1活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが意図され、「配列番号39または40に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドの変異体」は、配列番号39または40に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド;あるいは、配列番号39もしくは40に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドであることが意図される。
【0061】
なお、本明細書を読んだ当業者は、上記Tm−1ポリペプチドのフラグメントをコードするポリヌクレオチドもまた本発明の範囲内に含まれることを、容易に理解する。
【0062】
本発明に係るポリペプチドまたはポリヌクレオチドは、本明細書中にさらに記載されるように、ToMV抵抗性が付与された植物体を作製するために使用され得る。また、本発明を使用すれば、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために適用することができる。
【0063】
本発明の目的は、Tm−1ポリペプチドおよびTm−1ポリヌクレオチド、ならびにTm−1ポリペプチドのフラグメントでありかつTm−1活性を有するポリペプチドおよび当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリペプチド作製方法およびポリヌクレオチド作製方法等に存するのではない。従って、上記各方法以外によって取得されるTm−1ポリペプチド、およびTm−1ポリヌクレオチドも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0064】
〔2:Tm−1ポリペプチドの生産方法〕
本発明は、Tm−1ポリペプチドを生産する方法を提供する。一実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、Tm−1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを用いることを特徴とする。
【0065】
本実施形態の1つの局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターが無細胞タンパク質合成系において用いられることが好ましい。無細胞タンパク質合成系を用いる場合、種々の市販のキットが用いられ得る。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターと無細胞タンパク質合成液とをインキュベートする工程を包含する。
【0066】
無細胞タンパク質合成系は細胞内mRNAやクローニングされたcDNAにコードされているさまざまなタンパク質の同定等に広く用いられる手法であり、無細胞タンパク質合成系(無細胞タンパク質合成法、無細胞タンパク質翻訳系とも呼ぶ)に用いられるのが無細胞タンパク質合成液である。
【0067】
無細胞タンパク質合成系としては、コムギ胚芽抽出液を用いる系、ウサギ網状赤血球抽出液を用いる系、大腸菌S30抽出液を用いる系、および植物の脱液胞化プロトプラストから得られる細胞成分抽出液が挙げられる。一般的には、真核生物由来遺伝子の翻訳には真核細胞の系、すなわち、コムギ胚芽抽出液を用いる系またはウサギ網状赤血球抽出液を用いる系のいずれかが選択されるが、翻訳される遺伝子の由来(原核生物/真核生物)や、合成後のタンパク質の使用目的を考慮して、上記合成系から選択されればよい。
【0068】
なお、種々のウイルス由来遺伝子産物は、その翻訳後に、小胞体、ゴルジ体等の細胞内膜が関与する複雑な生化学反応を経て活性を発現するものが多いので、各種生化学反応を試験管内で再現するためには細胞内膜成分(例えば、ミクロソーム膜)が添加される必要がある。特許文献2に記載されるような植物の脱液胞化プロトプラストから得られる細胞成分抽出液は、細胞内膜成分を保持した無細胞タンパク質合成液として利用し得るのでミクロソーム膜の添加が必要とされないので、好ましい。
【0069】
本明細書中で使用される場合、「細胞内膜成分」は、細胞質内に存在する脂質膜よりなる細胞小器官(すなわち、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、葉緑体、液胞などの細胞内顆粒全般)が意図される。特に、小胞体およびゴルジ体はタンパク質の翻訳後修飾に重要な役割を果たしており、膜タンパク質および分泌タンパク質の成熟に必須な細胞成分である。
【0070】
本実施形態の他の局面において、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターが組換え発現系において用いられることが好ましい。組換え発現系を用いる場合、Tm−1ポリヌクレオチドを組換え発現ベクターに組み込んだ後、公知の方法により発現可能な宿主に導入し、宿主内で翻訳されて得られるTm−1ポリペプチドを精製するという方法などを採用することができる。組換え発現ベクターは、プラスミドであってもなくてもよく、宿主に目的ポリヌクレオチドを導入することができればよい。好ましくは、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、上記ベクターを宿主に導入する工程を包含する。
【0071】
このように宿主に外来ポリヌクレオチドを導入する場合、発現ベクターは、外来ポリヌクレオチドを発現するように宿主内で機能するプロモーターを組み込んであることが好ましい。組換え的に産生されたポリペプチドを精製する方法は、用いた宿主、ポリペプチドの性質によって異なるが、タグの利用等によって比較的容易に目的のポリペプチドを精製することが可能である。
【0072】
本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、Tm−1ポリペプチドを含む細胞または組織の抽出液から当該ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。ポリペプチドを精製する工程は、周知の方法(例えば、細胞または組織を破壊した後に遠心分離して可溶性画分を回収する方法)で細胞や組織から細胞抽出液を調製した後、この細胞抽出液から周知の方法(例えば、硫安沈殿またはエタノール沈殿、酸抽出、陰イオンまたは陽イオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、およびレクチンクロマトグラフィー)によって精製する工程が好ましいが、これらに限定されない。最も好ましくは、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)が精製のために用いられる。
【0073】
別の実施形態において、Tm−1ポリペプチドの生産方法は、Tm−1ポリペプチドを天然に発現する細胞または組織から当該ポリペプチドを精製することが好ましい。本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、後述する抗体またはオリゴヌクレオチドを用いてTm−1ポリペプチドを天然に発現する細胞または組織を同定する工程を包含することが好ましい。また、本実施形態に係るポリペプチドの生産方法は、Tm−1ポリペプチドを精製する工程をさらに包含することが好ましい。
【0074】
さらに他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、本発明に係るポリペプチドを化学合成することを特徴とする。当業者は、本明細書中に記載される本発明に係るポリペプチドのアミノ酸配列に基づいて周知の化学合成技術を適用すれば、本発明に係るポリペプチドを化学合成できることを、容易に理解する。
【0075】
以上のように、本発明に係るポリペプチドを生産する方法によって取得されるポリペプチドは、天然に存在する変異ポリペプチドであっても、人為的に作製された変異ポリペプチドであってもよい。
【0076】
変異ポリペプチドを作製する方法についても、特に限定されない。例えば、部位特異的変異誘発法(例えば、Hashimoto−Gotoh,Gene 152,271−275(1995)参照)、PCR法を利用して塩基配列に点変異を導入し変異ポリペプチドを作製する方法、またはトランスポゾンの挿入による突然変異株作製法などの周知の変異ポリペプチド作製法を用いることによって、変異ポリペプチドを作製することができる。変異ポリペプチドの作製には市販のキットを利用してもよい。
【0077】
このように、本発明に係るポリペプチドの生産方法は、少なくとも、Tm−1ポリペプチドのアミノ酸配列、またはTm−1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列に基づいて公知慣用技術を用いればよいといえる。
【0078】
つまり、本発明の目的は、Tm−1ポリペプチドの生産方法を提供することにあるのであって、上述した種々の工程以外の工程を包含する生産方法も本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
【0079】
なお、Tm−1ポリペプチドの変異体が所望のTm−1活性を有するか否かを決定するための方法としては、無細胞タンパク質合成系が好ましい。下述する無細胞タンパク質合成系にウイルスRNAを添加することにより、ウイルスRNAを翻訳して複製に必須なウイルスタンパク質を合成させることができる。この系を、本明細書中「インビトロ複製系」と称する。
【0080】
実施例において後述するように、野生型ToMVおよびT1(Tm−1トマトにおいて増殖可能なToMV変異株)のインビトロ複製系に、Tm−1トマトから得た脱液胞化プロトプラスト細胞抽出液を添加すると、野生型ToMV RNA複製は阻害されたが、T1のRNAの複製は阻害されなかった。この知見に基づいて、本発明者らは、インビトロ複製系における野生型ToMV RNAの複製を阻害する活性を指標にTm−1トマトから得た脱液胞化プロトプラスト細胞抽出液からTm−1ポリペプチドを精製している。
【0081】
作製したTm−1ポリペプチドとともに野生型ToMVのインビトロ複製系の反応を行い、野生型ToMV RNAの複製を検出すれば、Tm−1タンパク質の変異体でありかつTm−1活性を有するポリペプチドを容易に選択することができる。
【0082】
〔3:Tm−1ポリペプチドおよびTm−1ポリヌクレオチドの利用〕
〔3−1:ToMV抵抗性が付与された植物体の作製〕
本発明は、ToMV抵抗性が付与された植物体を作製するための方法を提供する。本発明に係る植物体の作製方法は、上述したTm−1ポリヌクレオチドを植物体内に発現可能に導入する工程を包含していればよい。一実施形態において、本発明に係る方法に従ってToMV抵抗性が付与された植物体は、植物形質転換体であり得、本実施形態に係る植物形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように植物中に導入することによって取得される。
【0083】
組換え発現ベクターを用いる場合、植物体の形質転換に用いられる組換え発現ベクターは、当該植物内で本発明に係るポリヌクレオチドを発現させることが可能なベクターであれば特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、植物細胞内でポリヌクレオチドを構成的に発現させるプロモーター(例えば、カリフラワーモザイクウイルスの35Sプロモーター)を有するベクター、または外的な刺激によって誘導性に活性化されるプロモーターを有するベクターが挙げられる。
【0084】
本発明において形質転換の対象となる植物は、植物体全体、植物器官(例えば葉、花弁、茎、根、種子など)、植物組織(例えば表皮、師部、柔組織、木部、維管束、柵状組織、海綿状組織など)または植物培養細胞、あるいは種々の形態の植物細胞(例えば、懸濁培養細胞)、プロトプラスト、葉の切片、カルスなどのいずれをも意味する。形質転換に用いられる植物としては、特に限定されず、単子葉植物綱または双子葉植物綱に属する植物のいずれでもよい。
【0085】
植物への遺伝子の導入には、当業者に公知の形質転換方法(例えば、アグロバクテリウム法、遺伝子銃、PEG法、エレクトロポレーション法など)が用いられ、アグロバクテリウムを介する方法と直接植物細胞に導入する方法とに大別される。アグロバクテリウム法を用いる場合は、構築した植物用発現ベクターを適当なアグロバクテリウム(例えば、アグロバクテリウム・チュメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))に導入し、この株をリーフディスク法(内宮博文著、植物遺伝子操作マニュアル(1990)27〜31頁、講談社サイエンティフィック、東京)などに従って無菌培養葉片に感染させ、形質転換植物を得ることができる。また、Nagelらの方法(Micribiol.Lett.、67、325(1990))が用いられ得る。この方法は、まず、例えば発現ベクターをアグロバクテリウムに導入し、次いで、形質転換されたアグロバクテリウムをPlantMolecular Biology Manual(S.B.Gelvinら、Academic Press Publishers)に記載の方法で植物細胞または植物組織に導入する方法である。ここで、「植物組織」とは、植物細胞の培養によって得られるカルスを含む。アグロバクテリウム法を用いて形質転換を行う場合には、pBI系のバイナリーベクター(例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221、およびpPZP202など)が使用され得る。
【0086】
また、遺伝子を直接植物細胞または植物組織に導入する方法としては、エレクトロポレーション法、遺伝子銃法が知られている。遺伝子銃を用いる場合は、植物体、植物器官、植物組織自体をそのまま使用してもよく、切片を調製した後に使用してもよく、プロトプラストを調製して使用してもよい。このように調製した試料を遺伝子導入装置(例えばPDS−1000(BIO−RAD社)など)を用いて処理することができる。処理条件は植物または試料によって異なるが、通常は450〜2000psi程度の圧力、4〜12cm程度の距離で行う。
【0087】
遺伝子が導入された細胞または植物組織は、まずハイグロマイシン耐性などの薬剤耐性で選択され、次いで定法によって植物体に再生される。形質転換細胞から植物体の再生は、植物細胞の種類に応じて当業者に公知の方法で行うことが可能である。選択マーカーとしては、ハイグロマイシン耐性に限定されず、例えば、ブレオマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコールなどに対する薬剤耐性が挙げられる。
【0088】
植物培養細胞を宿主として用いる場合は、例えば、マイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法(電気穿孔法)、ポリエチレングリコール法、遺伝子銃(パーティクルガン)法、プロトプラスト融合法、リン酸カルシウム法などによって組換えベクターが培養細胞に導入されて形質転換される。形質転換の結果として得られるカルスやシュート、毛状根などは、そのまま細胞培養、組織培養または器官培養に用いることが可能であり、また従来知られている植物組織培養法を用い、適当な濃度の植物ホルモン(オーキシン、サイトカイニン、ジベレリン、アブシジン酸、エチレン、ブラシノライドなど)の投与などによって植物体に再生させることができる。
【0089】
遺伝子が植物に導入されたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法などによって行うことができる。例えば、形質転換植物からDNAを調製し、DNA特異的プライマーを設計してPCRを行う。PCRは、前記プラスミドを調製するために使用した条件と同様の条件で行うことができる。その後は、増幅産物についてアガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動またはキャピラリー電気泳動などを行い、臭化エチジウム、SYBR Green液などによって染色し、そして増幅産物を1本のバンドとして検出することによって、形質転換されたことを確認することができる。また、予め蛍光色素などによって標識したプライマーを用いてPCRを行い、増幅産物を検出することもできる。さらに、マイクロプレートなどの固相に増幅産物を結合させ、蛍光または酵素反応などによって増幅産物を確認する方法も採用することができる。
【0090】
本発明に係るポリヌクレオチドがゲノム内に組み込まれた形質転換植物体が一旦取得されれば、当該植物体の有性生殖または無性生殖によって子孫を得ることができる。また、当該植物体またはその子孫、あるいはこれらのクローンから、例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラストなどを得て、それらを基に当該植物体を量産することができる。したがって、本発明には、本発明に係るポリヌクレオチドが発現可能に導入された植物体、もしくは、当該植物体と同一の性質を有する当該植物体の子孫、またはこれら由来の組織も含まれる。
【0091】
本発明に係る方法によって作製されたToMV抵抗性が付与された植物体は、特に限定されず、ToMV抵抗性が付与されたことによりその有用性を有し得る植物が挙げられる。このような植物としては、被子植物でも裸子植物でもよい。また、被子植物としては、単子葉植物でも双子葉植物でもよいが、双子葉植物であることがより好ましい。
【0092】
本発明はまた、ToMV抵抗性が付与された植物体を作製するためのキットを提供する。本発明に係る植物体の作製キットは、上述したTm−1ポリヌクレオチドを植物体内に発現可能な形態で備えていればよく、一実施形態において、本発明に係るキットを用いてToMV抵抗性が付与された植物体は、植物形質転換体であり得、本実施形態に係る植物形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように植物中に導入することによって取得される。
【0093】
なお、本発明に係る植物体作製キットは、Tm−1ポリヌクレオチド以外に、上述した植物体作製方法を実行するために必要とされる試薬などを備えていることが好ましい。すなわち、本明細書を読んだ当業者は、ToMV抵抗性が付与された植物体を作製するためのキットの構成品が、ToMV抵抗性が付与された植物体を作製する方法において用いられるものであることを容易に理解する。
【0094】
〔3−2:ToMV抵抗性を有している植物体のスクリーニング〕
本発明は、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするための方法を提供する。本発明に係る植物体のスクリーニング方法は、植物体内で発現されているTm−1ポリヌクレオチドを検出する工程を包含していればよい。一実施形態において、本発明に係る方法に従ってスクリーニングされた植物体は、天然であっても形質転換体であってもよい。
【0095】
本発明は、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングする方法を提供する。本発明に係るスクリーニング方法は、Tm−1ポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを目的の植物由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程を包含することを特徴としている。
【0096】
本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドを用いれば、ハイブリダイズするポリヌクレオチドを検出することによって、Tm−1活性を有するポリペプチドを発現する植物体を容易に検出(スクリーニング)することができる。
【0097】
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個または数百個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マー(30塩基、30ヌクレオチドともいわれる。)または100マー(100塩基、100ヌクレオチドともいわれる。)というように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化学合成されてもよい。
【0098】
本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドは、Tm−1ポリヌクレオチドまたはそのフラグメントを得るためのPCRプライマーまたはハイブリダイゼーションプローブとして使用され得る。上記オリゴヌクレオチドはまた、以下のような用途に使用され得る:(1)cDNAライブラリー中のTm−1遺伝子またはその対立遺伝子もしくはスプライシング改変体の単離;(2)Tm−1遺伝子の正確な染色体位置を提供するための、分裂中期染色体スプレッドへのインサイチュハイブリダイゼーション(例えば、「FISH」)(Vermaら,Human Chromosomes:A Manual of Basic Techniques,Pergamon Press,New York(1988)に記載される);および(3)特定の組織におけるTm−1mRNA発現を検出するためのノーザンブロット分析。
【0099】
なお、当業者は、上述した用途がいずれも、本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドと目的の遺伝子(ポリヌクレオチド)との間で生じるハイブリダイゼーションに起因しており、当該オリゴヌクレオチドが、目的の遺伝子(ポリヌクレオチド)とハイブリダイズさせるために用いられることを容易に理解する。
【0100】
本発明に係るポリヌクレオチドのフラグメントは、少なくとも7nt(ヌクレオチド)、10nt、12nt、好ましくは約15nt、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、なおより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは少なくとも約40ntの長さのフラグメントが意図されるが、当業者は、上述した用途に応じて好ましい長さを適宜設定し得る。「少なくとも20ntの長さのフラグメント」によって、例えば、配列番号2に示される塩基配列からの20以上の連続した塩基配列またはその相補配列を含むフラグメントが意図される。本明細書を参照すれば配列番号2に示される塩基配列が提供されるので、当業者は,配列番号2に基づくDNAフラグメントを容易に作製することができる。例えば、制限エンドヌクレアーゼ切断または超音波による剪断は、種々のサイズのフラグメントを作製するために容易に使用され得る。あるいは、このようなフラグメントは、合成的に作製され得る。適切なフラグメント(オリゴヌクレオチド)が、Applied Biosystems Incorporated(ABI,850 Lincoln Center Dr.,Foster City,CA 94404)392型シンセサイザーなどによって合成される。
【0101】
本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった各1本鎖DNAやRNAを包含する。上記オリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNAメカニズムによる遺伝子発現操作のためのツールとして使用することができる。アンチセンスRNA技術によって、内因性遺伝子に由来する遺伝子産物の減少が観察される。上記オリゴヌクレオチドを導入することによって、Tm−1活性を有するポリペプチドの含量を低下させ得、その結果、植物中のTm−1様形質を制御することができる。
【0102】
このように、本発明に係るスクリーニング方法において用いられるオリゴヌクレオチドを、Tm−1活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出するハイブリダイゼーションプローブまたは当該ポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーとして利用することによって、Tm−1活性を有するポリペプチドを発現する植物体または組織を容易に検出(スクリーニング)することができる。さらに、上記オリゴヌクレオチドをアンチセンスオリゴヌクレオチドとして使用して、植物体またはその組織もしくは細胞におけるTm−1活性を有するポリペプチドの発現を制御することができる。さらに、本発明に係るスクリーニング方法を用いれば、p80タンパク質における多型を容易に検出することができる。
【0103】
〔3−3:抗体〕
本発明は、p80タンパク質と特異的に結合する抗体を提供する。本発明に係る抗体は、p80タンパク質と特異的に結合し得るものであれば限定されず、p80タンパク質に対するポリクローナル抗体等でもよいが、p80タンパク質に対するモノクローナル抗体であることが好ましい。モノクローナル抗体は、性質が均一で供給しやすい、ハイブリドーマとして半永久的に保存ができるなどの利点を有する。
【0104】
本明細書中で使用される場合、用語「抗体」は、免疫グロブリン(IgA、IgD、IgE、IgG、IgMおよびこれらのFabフラグメント、F(ab’)フラグメント、Fcフラグメント)を意味し、例としては、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単鎖抗体および抗イディオタイプ抗体が挙げられるがこれらに限定されない。
【0105】
上述したように、p80タンパク質には、Tm−1ポリペプチドおよびtm−1ポリペプチドが包含される。一実施形態において、本発明に係る抗体は、Tm−1ポリペプチドと特異的に結合する抗体であることが好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「Tm−1ポリペプチドと特異的に結合する」は、p80タンパク質のTm−1ポリペプチドと特異的に結合するが、tm−1ポリペプチドとは結合しないことが意図される。よって、本発明を用いれば、Tm−1様形質を有する植物体を容易にスクリーニングすることができる。すなわち、本発明に係る抗体を目的の植物体由来の組織抽出物とインキュベートする工程を包含するスクリーニング方法、および、本発明に係る抗体を備えているスクリーニングキットもまた、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするための本発明の範囲に含まれることが容易に理解されるべきである。
【0106】
本明細書中で使用される場合、用語「Tm−1ポリペプチドと特異的に結合する抗体」は、Tm−1ポリペプチドと特異的に結合し得る完全な抗体分子および抗体フラグメント(例えば、FabおよびF(ab’)フラグメント)を含むことを意味する。FabおよびF(ab’)フラグメントは完全な抗体のFc部分を欠いており、循環によってさらに迅速に除去され、そして完全な抗体の非特異的組織結合をほとんど有し得ない(Wahlら、J.Nucl.Med.24:316−325(1983)(本明細書中に参考として援用される))。従って、これらのフラグメントが好ましい。
【0107】
「抗体」は、種々の公知の方法(例えば、HarLowら、「Antibodies:A laboratory manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1988)」、岩崎ら、「単クローン抗体 ハイブリドーマとELISA、講談社(1991)」)に従えば作製され得る。
【0108】
モノクローナル抗体は、以下のような方法を用いれば作製され得る。すなわち、Tm−1ポリペプチドもしくはそのフラグメントまたはその他の誘導体あるいはこれらのアナログ、あるいはこれらを発現する細胞を免疫原として用いてマウス脾臓リンパ球を免疫し、免疫したマウス脾臓リンパ球とマウスのミエローマ細胞とを融合させてハイブリドーマを作製する。次いで、このハイブリドーマによりモノクローナル抗体を産生させる。モノクローナル抗体を取得するために必要な技術は当該分野において公知である(例えば、ハイブリドーマ法(Kohler,G.およびMilstein,C.,Nature 256,495−497(1975))、トリオーマ法、ヒトB−細胞ハイブリドーマ法(Kozbor,Immunology Today 4,72(1983))およびEBV−ハイブリドーマ法(Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss,Inc.,77−96(1985))などを参照のこと)。
【0109】
ペプチド抗体は、当該分野に公知の方法によって作製され得る。例えば、Chow,M.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:910−914;およびBittle,F.J.ら、J.Gen.Virol.66:2347−2354(1985)(本明細書中に参考として援用される)を参照のこと。一般には、動物は遊離ペプチドで免疫化され得る;しかし、抗ペプチド抗体力価はペプチドを高分子キャリア(例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)または破傷風トキソイド)にカップリングすることにより追加免疫され得る。例えば、システインを含有するペプチドは、m−マレイミドベンゾイル−N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(MBS)のようなリンカーを使用してキャリアにカップリングされ得、一方、他のペプチドは、グルタルアルデヒドのようなより一般的な連結剤を使用してキャリアにカップリングされ得る。ウサギ、ラット、およびマウスのような動物は、遊離またはキャリア−カップリングペプチドのいずれかで、例えば、約100μgのペプチドまたはキャリアタンパク質およびFreundのアジュバントを含むエマルジョンの腹腔内および/または皮内注射により免疫化される。いくつかの追加免疫注射が、例えば、固体表面に吸着された遊離ペプチドを使用してELISAアッセイにより検出され得る有用な力価の抗ペプチド抗体を提供するために、例えば、約2週間の間隔で必要とされ得る。免疫化動物からの血清における抗ペプチド抗体の力価は、抗ペプチド抗体の選択により、例えば、当該分野で周知の方法による固体支持体上のペプチドへの吸着および選択された抗体の溶出により増加され得る。
【0110】
さらなる抗体が、抗イディオタイプ抗体の使用を通じて二工程手順で産生され得る。このような方法は、抗体それ自体が抗原であるという事実を使用し、従って、二次抗体に結合する抗体を得ることが可能である。この方法に従って、Tm−1ポリペプチドと特異的に結合する抗体は、動物(好ましくは、マウス)を免疫するために使用される。次いで、このような動物の脾細胞はハイブリドーマ細胞を産生するために使用され、そしてハイブリドーマ細胞は、Tm−1ポリペプチドと特異的に結合する抗体に結合する能力がTm−1ポリペプチドまたはそのフラグメントからなる抗原によってブロックされ得る抗体を産生するクローンを同定するためにスクリーニングされる。このような抗体は、Tm−1ポリペプチドと特異的に結合する抗体に対する抗イディオタイプ抗体を含み、そしてさらなるTm−1ポリペプチドと特異的に結合する抗体の形成を誘導するために動物を免疫するために使用され得る。
【0111】
FabおよびF(ab’)ならびに本発明に係る抗体の他のフラグメントが、本明細書中で開示される方法に従って使用され得ることは、当業者には明白である。このようなフラグメントは、代表的には、パパイン(Fabフラグメントを生じる)またはペプシン(F(ab’)フラグメントを生じる)のような酵素を使用するタンパク質分解による切断によって産生され得る。あるいは、Tm−1ポリペプチド結合フラグメントは、組換えDNA技術の適用または化学合成によって産生され得る。
【0112】
このように、本実施形態に係る抗体は、Tm−1ポリペプチドと特異的に結合するフラグメント(例えば、FabフラグメントおよびF(ab’)フラグメント)を備えていればよく、異なる抗体分子のFcフラグメントとからなる免疫グロブリンも本発明に含まれることに留意すべきである。
【0113】
つまり、本発明の目的は、Tm−1ポリペプチドと特異的に結合する抗体およびその利用を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々の免疫グロブリンの種類(IgA、IgD、IgE、IgGまたはIgM)、キメラ抗体作製方法、ペプチド抗原作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得される抗体も本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0114】
〔4:Tm−1様形質の選別〕
Tm−1ポリヌクレオチドの利用の1つの局面として、上記3−2項において、p80コード領域からなるポリヌクレオチド(すなわち、Tm−1ポリヌクレオチドまたはtm−1ポリヌクレオチド)を用いた、ToMV抵抗性を有している植物体のスクリーニングを説明したが、ToMV抵抗性を有している植物体のスクリーニングに好適なポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)は、p80コード領域以外の塩基配列からなってもよい。
【0115】
Tm−1ゲノム配列(配列番号3)およびtm−1ゲノム配列(配列番号6)から明らかなように、p80ゲノム配列は多型を有している。よって、p80タンパク質を発現するか否かにとらわれることなく、目的の植物がTm−1ゲノム配列を有しているか否かを選別(スクリーニング)することができる。好ましくは、本発明において、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、配列番号30に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを用い得る。
【0116】
本発明は、上記オリゴヌクレオチドを利用してToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングする方法を提供する。一実施形態において、本発明に係る植物体スクリーニング方法は、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、上記オリゴヌクレオチドを目的の植物体由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程を包含することを特徴としている。本実施形態に係る植物体スクリーニング方法は、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、配列番号29に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを目的の植物体由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程をさらに包含することが好ましく、配列番号31に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを目的の植物体由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程をさらに包含することがより好ましい。
【0117】
本発明はまた、上記オリゴヌクレオチドを利用してToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするためのキットを提供する。一実施形態において、本発明に係る植物体スクリーニングキットは、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、上記オリゴヌクレオチドを備えていることを特徴としている。本実施形態に係る植物体スクリーニング方法は、ToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするために、配列番号29に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドをさらに備えていることが好ましく、配列番号31に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドをさらに備えていることがより好ましい。
【0118】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0119】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0120】
タバコBY−2培養細胞由来の脱液胞化プロトプラスト抽出液(BYL)を用いてToMV RNA(野生型またはT1(Tm−1トマトにおいて増殖可能なToMV変異株))のインビトロ複製系を構築し、これらのインビトロ複製系の反応液にRNA合成基質を加えてインビトロでToMV RNAを複製させた。続いて、特許文献3に従って、Tm−1様形質を有しているトマト(Tm−1トマト)から得た脱液胞化プロトプラスト細胞抽出液を、上記インビトロ複製系に添加すると、野生型ToMV RNAの複製は阻害されたが、T1 RNAの複製は阻害されなかった。以下、野生型ToMV RNAの複製と変異株T1 RNAの複製とを比較することによりTm−1活性の有無を判定した。
【0121】
〔1:インビトロでのTm−1活性測定系の確立〕
脱イオン水で4回予め洗浄した限外ろ過ユニット(VIVASPIN 500,MWCO 10,000,PES:VIVASCIENCE)を用いて、Tm−1活性精製画分(0.3〜2ml)を50μlに濃縮した。濃縮サンプルに対して、500μlのTRバッファー(30mM HEPES−KOH(pH 7.4)、80mM KOAc、1.8mM Mg(OAc)、2mM DTT)によるバッファー置換を3回行った。濃縮および脱塩を行った画分20μlを、25μlのBYL、0.5μlの40u/μl RNasin(Promega)、1μlの10mg/ml クレアチンキナーゼ、5μlの10×基質混合液と混合して100ngのToMV RNAまたはT1 RNAを添加して23℃で1時間反応させた。さらに、RNA複製反応を23℃で1時間行った。この際、5×Rバッファー(非特許文献4を参照のこと)に150mMのクレアチンリン酸を加えた。複製したToMVおよびT1のゲノムRNAをBAS1000、BAS2500(いずれもFuji)またはImageJ15を用いて定量し、その比をTm−1活性の指標とした。
【0122】
〔2:Tm−1活性の精製〕
Tm−1トマト培養細胞プロトプラスト抽出液を出発材料として、以下の手順に従ってTm−1活性を精製した。
【0123】
継代後7日目のトマト培養細胞懸濁液10〜15mlを、75mlのNDZ培地(特許文献3を参照のこと)に移し、3日間培養した後にプロトプラストを調製した。これをpacked cell volumeの4倍量の破砕バッファー(25mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM KOAc、1.8mM Mg(OAc)、2mM DTT、100mM NaCl、1×Complete EDTA free(Roche))を添加した後、ダウンス型ホモジェナイザーを用いて破砕した。この破砕液を遠心分離(800×g)し、得られた上清を、Beckman SW28Tiを用いて100,000×gでさらに30分間遠心分離した。最終的に得られた上清をS100画分とした。必要に応じて、S100画分を−80℃で凍結保存した。
【0124】
100mM NaClを含むバッファーA(20mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM KOAc、1.8mM Mg(OAc)、0.5mM DTT、5%(v/v) glycerol)で平衡化したHiTrap ANX FFカラム(カラム容積5ml(Amersham Biosciences))を2個直列に連結した。このカラムに18mlのS100画分をアプライし、250mM NaClを含むバッファーA(60ml)で洗浄した後、300mM NaClを含むバッファーAで溶出した画分(10ml)を回収した(ANX0.3画分)。必要に応じて、ANX0.3画分を−80℃で凍結保存した。ANX0.3画分(80ml)に40%飽和硫酸アンモニウムを添加した後、10,000×gで30分間遠心分離した。沈殿を、2mlのバッファーG(10mM KPi(pH6.8)、10mM KOAc、1.8mM Mg(OAc)、150mM NaCl、0.5mM DTT、10%(v/v) glycerol)に懸濁し、ゲルろ過クロマトグラフィー(Superdex 200 10/300 GL;Amersham Biosciences)に、300μlずつ7回に分けてアプライした。アプライ後、バッファーG(サンプル体積を含む)を8.7〜10.7ml流した画分(2ml)を回収した。この画分(14ml)を、56mlのバッファーC(10mM KPi(pH6.8)、10mM KOAc、1.8mM Mg(OAc)、0.5mM DTT、10%(v/v) glycerol)で希釈し、バッファーCで平衡化したハイドロキシアパタイトカラム(Bio−Scale CHT2−I)にアプライした。10mlのバッファーCでカラムを洗浄した後、直線濃度勾配(10〜300mM、12ml)のリン酸カリウムを含むバッファーCで溶出し、Tm−1活性を示した画分(2ml)を回収した。この画分を500μlずつ分割し、SW40Ti用の遠心チューブに形成した10mlの10〜40%グリセロール密度勾配(20mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaCl、1.8mM Mg(OAc)、0.5mM DTT、10〜40%(v/v) glycerol)の上に重層して、40,000rpmにて4℃で16時間遠心分離した(SW40Ti;Beckman)。上層から1mlずつ回収し、5番目および6番目の画分を活性画分として回収した(8ml)。この画分を10mlのバッファーM(20mM Tris−HCl(pH8.0)、10mM KOAc、1.8mM Mg(OAc)、200mM NaCl、0.5mM DTT、10%(v/v) glycerol)で希釈し、バッファーMで平衡化した陰イオン交換カラム(Mono Q 5/50 GL;Amersham Biosciences)にアプライした。10mlのバッファーMでカラムを洗浄した後、直線濃度勾配(200〜350mM、10ml)のNaClを含むバッファーCで溶出した。溶出液を、溶出開始から1mlずつ回収した。5番目〜9番目の画分のTm−1活性を測定し、各画分に含まれるタンパク質をSDS−PAGE(銀染色)によって検出した。SDS−PAGEには、NuPAGE 4−12%ビス−トリスゲル,MOPSバッファー(Invitrogen)を使用し、銀染色には銀染色MSキット(和光純薬)を付属のプロトコルに従って使用した。
【0125】
図1に最終精製段階であるMono Qカラムクロマトグラフィーの第5〜9画分に含まれているタンパク質のSDS−PAGEおよび銀染色パターン、ならびにTm−1活性の測定結果を示す。図1(A)は、上述した精製過程の最終段階であるMono Qカラムの200〜350mM NaCl溶出画分(第5〜9画分)をSDS−PAGEで分離した後に銀染色してタンパク質のバンドを検出した結果を示す図である。矢印は、LC−MS/MS解析に供したp80のバンドを示す。図1(B)は、Mono Qカラムの200〜350mM NaCl溶出画分(第5〜9画分)を、インビトロToMV RNA翻訳・複製系に加えて反応させた結果を示す図である。上のパネルに[32P]標識された合成産物RNAのパターンを、下のパネルにゲノムRNAへの[32P]の取り込みを定量し、I/T1の比をとったグラフを示す。〔I〕はTm−1超感受性ToMV変異株、〔T1〕はTm−1非感受性ToMV変異株を示す。
【0126】
〔3:Tm−1遺伝子の同定〕
Tm−1活性と同様の溶出パターンを示した分子量約80kのバンド(p80;図1a中の矢印)をゲルから切り出して、LC−MS/MSによって分析した(株式会社アプロサイエンスによる受託解析を利用)。得られたペプチドには、ブドウ(Vitis vinifera)のEST「gi|30136942」に対応する遺伝子産物由来のペプチドと分子量が一致するものが存在した。また別のペプチドはジャガイモ(Solanum tuberosum)のEST「gi|42510913」に対応する遺伝子産物由来のペプチドの分子量と一致した。
【0127】
この2つのESTはこれまでに同定された遺伝子には帰属しなかったが、それぞれに対するBLASTサーチによってシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の遺伝子(At5g66420)の異なる領域と相同性を示すことがわかった。そこで、シロイヌナズナおよびジャガイモの配列間で相同な部分に従って、プライマー(5’−ccctttgctgatgcaaatgctattg−3’(配列番号19)、5’−taatagggcctccatggcagagcac−3’(配列番号20))を設計し、Tm−1様形質を有しているトマト(Tm−1トマト)であるGCR237、およびGCR237の準同質遺伝子系統でありかつTm−1様形質を有していないトマトであるtm−1トマト(GCR26)からRT−PCR法によって約0.5kbpのcDNA部分断片を単離した。RT−PCRはOneStep RT−PCR kit(Quiagen)を付属のプロトコルに従って使用した。この部分断片の塩基配列を決定し、5’−RACE法および3’−RACE法により全長cDNAを得た。ここで得られたアミノ酸配列より、これをトリプシン消化した際のペプチドの分子量を予測したところ、LC−MS/MS解析において既知配列と有意な分子量相同性を示さなかったペプチドをさらに3つ同定し得た。
【0128】
Lycopersicon hirsutum (Solanum habrochaites)の種子(アクセッションPI126445、PI251303、PI247087、PI390661、PI390663、PI390515)を、USDA Northeast Regional PI Stationより得た。各アクセッションのToMV抵抗性について、ToMV接種後7〜10日後の接種葉における外被タンパク質の蓄積を調べた。各アクセッションの全RNAを鋳型にRT−PCR(プライマー;5’−tccattttgaaatctcgattgtaaca−3’(配列番号21)、5’−taaagaaagaggtgaagaccataca−3’(配列番号22))を行い、得られた約2.3kbpのDNA断片の塩基配列をシークエンス解析することにより、各アクセッションのトマトp80遺伝子の配列を決定した。
【0129】
GCR237由来のTm−1遺伝子(Tm−1)およびGCR26由来のTm−1遺伝子(tm−1)のゲノムDNAの配列決定には、プライマー(5’−atcttctcaccattctcacactgag−3’(配列番号23),5’−accatacatataggttcggacattt−3’(配列番号24))を使用し、GCR237およびGCR26のゲノムDNAを鋳型としたPCR法によって得た約7.7kbpのDNA断片に対してシークエンス解析を行った。
【0130】
図2に、Tm−1トマト(GCR237:237 prj)およびtm−1トマト(GCR26:26 prj)に由来するp80タンパク質のアミノ酸配列の比較を示す。p80は754アミノ酸からなるポリペプチドであり、このp80タンパク質のN末端側には、多くのタンパク質と相同性を有する、機能未知の領域が存在した。また、C末端側には多くの酵素にみられるTIM barrel構造をとり得る領域が見出された(図3)。
【0131】
p80タンパク質と類似するポリペプチドをコードする遺伝子が、多くの植物(シロイヌナズナなど)において見出された。p80タンパク質をコードする遺伝子のcDNAを、Tm−1トマト(GCR237)、tm−1トマト(GCR26)、および6つのアクセッションのL.hirusutumから単離し、これらの塩基配列を決定した。これらの塩基配列を比較した結果、GCR237の配列は、GCR26の配列とは異なり、Tm−1様形質が由来したと考えられているL.hirusutum PI126445の配列と同一であることがわかった。
【0132】
図4に、トマト(L.esculentumおよびL.hirsutum)のp80アミノ酸配列比較を示す。系統樹を、ClustalW(http://www.ddbj.nig.ac.jp/search/clustalw−j.html)により作成した。野生型ToMVの増殖が阻害されたL.hirusutum PI251303およびPI247087の配列は、PI126445の配列に類似し、野生型ToMVの増殖が阻害されなかったL.hirusutum PI390661、PI390515およびPI390663の配列は、PI126445の配列と大きく異なっていた(図4)。この遺伝子は、9個のエキソンからなり、GCR237とGCR26との間で多くの塩基配列多型が見出された。
【0133】
なお、GCR237、GCR26、アクセッションPI126445、PI251303、PI247087、PI390661、PI390663およびPI390515に由来するp80タンパク質のアミノ酸配列を、それぞれ配列番号1、4、7、9、11、13、15、17に示し、それぞれをコードする遺伝子の塩基配列を、配列番号2、5、8、10、12、14、16、18に示した。なお、GCR237由来のTm−1遺伝子のゲノム配列およびGCR26由来のtm−1遺伝子のゲノム配列を、それぞれ配列番号3および6に示した。
【0134】
〔4:インビトロ翻訳で合成したTm−1遺伝子産物によるインビトロToMV RNA複製阻害〕
Tm−1 cDNAおよびtm−1 cDNAをクローニングするために、pGEM7zf(+)をベクターとして用いた。PCRのプライマー(5’−ggacgtcgctagctccattttgaaatctcgattgt−3’(配列番号25),5’−ggagctcaccatacatataggttcggacattt−3’(配列番号26))を用いて増幅したDNAをAatII、SacIで切断し、同酵素で切断したpGEM7zf(+)ベクターにクローニングした。下線部は、AatIIおよびSacIの制限酵素部位を示す。このプラスミドを鋳型にして、T7プロモーター(5’−taatacgactcactatagggcga−3’(配列番号27))と3’−UTRに相当するプライマー(5’−ggagctcaccatacatataggttcggacattt−3’(配列番号28))を用いてPCRを行い、直鎖状DNAを得た。これを鋳型にしてインビトロ転写反応を行い、対応するmRNAを得た。インビトロ転写反応には、AmpliCapTM T7 High Yield Message Maker Kit(Epicentre)を付属のプロトコルに従って使用した。得られたmRNA 500fmolとToMVまたはT1のRNA 25fmolとを混合し、BYLを30,000×gで遠心分離して得た上清を用いて15μlの系にて翻訳した。翻訳反応を、Tm−1活性の測定と同様に行った。翻訳後のサンプルを、BYLを30,000×gで遠心分離して得た沈殿(元のBYLの3倍濃度になるようにTRバッファーに懸濁した)5μlと混合し、15℃で1時間インキュベートした。この反応液を用いてインビトロToMV RNA複製反応を行い、[32P]標識されたRNA産物を検出した。
【0135】
その結果、ToMV RNAのインビトロ複製系に、GCR237由来のp80 cDNAの翻訳産物を加えたときにのみToMV複製阻害が観察された(図5)。このことは、p80をコードする遺伝子がTm−1遺伝子であること、およびTm−1タンパク質がトマト以外の植物においてもToMV RNAの複製を阻害し得ることを示す。なお、図5に、[32P]標識されたゲノムRNA(アスタリスク)および複製型RNA(矢印)を示す。また、図5中、p80 mRNAを添加しなかったコントロールを「−」で示し、Tm−1感受性の野生型ToMVおよびTm−1非感受性のToMV変異株を、「L」または「T1」で示した。
【0136】
以上のように、タバコの細胞抽出液をベースにしたインビトロToMV RNA複製系においてTm−1活性が機能した。このことから、Tm−1遺伝子を発現させることにより、トマトのみならず幅広い植物種にToMV抵抗性を付与することができると考えられる。
【0137】
〔5:SCARマーカー〕
p80に関連する遺伝子(p80コード領域およびp80非コード領域を含む。)における多型を調べればTm−1様形質の有無を容易に判定することができると考えられるので、sequence characterized amplified region(SCAR)マーカーを作製し、その有効性を検証した。
【0138】
GCR237とGCR26とのF2世代の種子(23個体)を播種し、長日条件下(16時間明期(24℃))で生育させた。2週間後、第1本葉または第2本葉にToMV(0.1mg/ml)を機械的に接種した。同一条件下で6日間培養した後、ToMVを接種した葉を回収した。回収した葉を、4倍容の抽出バッファー(200mM Tris−HCl(pH7.5)、250mM NaCl、25mM EDTA、0.5% SDS)中にて破砕し、15,000×gにて5分間遠心分離した。得られた上清2.5μlを12%SDS−PAGEにて分離し、分離ゲルをCBB染色した結果を図6(A)に示す。図中、Mはプレシジョンplusプロテインスタンダード(Bio−Rad)を示す。また、上清130μlからイソプロパノールによって沈殿させたゲノムDNAを、100μlのTEバッファーに懸濁した。
【0139】
GCR237およびGCR26のp80ゲノム配列(それぞれ配列番号3および6)に基づいてSCARマーカーを作製した。具体的には、GCR237およびGCR26のp80ゲノム配列(イントロン部分)に共通する塩基配列(5’−ccactgtatgatttctgctagtgaa−3’(配列番号29))からなるオリゴヌクレオチド、GCR237のp80ゲノム配列(イントロン部分)にのみ存在する塩基配列の相補配列(5’−gagctttaacaaatataagaataaagac−3’(配列番号30))からなるオリゴヌクレオチド、およびGCR26のp80ゲノム配列(イントロン部分)にのみ存在する塩基配列の相補配列(5’−gcaagctaaggtttacatatatgcc−3’(配列番号31))からなるオリゴヌクレオチドを設計した。これらのオリゴヌクレオチド各0.2μMを混合したものをプライマーとして用いて、上記ゲノムDNA懸濁液1μlをテンプレートにしたPCRを、60℃のアニーリング温度にて行った。PCR用の酵素として、Blend Taq(TOYOBO)を用いた。PCR産物5μlを4%アガロースゲル(NuSieve3:1,TaKaRa)にて分離し、エチジウムブロミドによって染色した図を図6(B)に示す。図中、Mは、100bp DNAラダー(NEB)を示す。
【0140】
F2世代(23個体)のToMV感受性を顕著に示した個体において、ToMV外被タンパク質(ToMV CP)の蓄積が観察された(図6(A)中、レーン1、5、9、13)。また、ToMV感受性を顕著に示す個体においては、GCR237に由来する121bpのDNAフラグメントが増幅されなかった(図6(B))。これらの結果より、上記SCARマーカーは、植物体におけるTm−1様形質の有無を判別するためのマーカーとして有用であることがわかった。なお、ヘテロの個体のいくつかは、低レベルのToMV増殖が生じたが、これはTm−1様形質が半優性であるからである(Fraser and Loughlin J.Gen.Virol.48:87−96(1980)を参照のこと)。
【0141】
〔6:Tm−1遺伝子を発現するタバコに対するToMV感染〕
ToMV感受性であるタバコBY−2細胞に、FLAGタグを融合したGCR237由来のp80タンパク質を構成的に発現させた。具体的には、GCR237由来のTm−1遺伝子の終止コドンを「CTC」に置換してSacI部位を導入し、SacI部位の下流にFLAGタグをコードするヌクレオチド(ggaggtgattataaggatgatgatgataagaactggtcacatcctcaatttgaaaagtga(配列番号32))を付加したDNAを、バイナリーベクターpBI121(Clontech)に挿入した。Hagiwaraら(The EMBO Journal 22,2:344−353(2003))の方法に従って、Agrobacterium tumefaciens EHA 105株を用いて、BY−2細胞を形質転換した。カナマイシン耐性を示したカルスを破砕し,抗FLAG抗体を用いたウェスタンブロッティングによってp80−FLAGが発現している細胞(2ライン)を得た。これらの細胞から調製したプロトプラストに、エレクトロポレーションによってToMV RNAまたはT1 RNAを感染させた(Watanabeら(FEBS lett.,219:65−69(1987)を参照のこと)。24時間培養した後、回収したプロトプラストの全タンパク質をSDS−PAGEにて分離し、ゲルをCBB染色した結果を図7に示す。図中、NTは、非形質転換BY−2細胞由来のプロトプラストタンパク質を示し、Moは、Mock感染した細胞由来のプロトプラストタンパク質を示し、Lは、野生型ToMV−L感染の細胞由来のプロトプラストタンパク質を示し、T1は、Tm−1トマトにおいて増殖可能なToMV変異株(T1)感染の細胞由来のプロトプラストタンパク質を示す。
【0142】
図7に示すように、p80−FLAG発現細胞ではToMV外被タンパク質(ToMV CP)は検出されなかった。なお、ToMV変異株(T1)の増殖が許容されたことから、この抵抗性はTm−1遺伝子によるToMV特異的なものと考えられた。この結果より、p80 cDNAを発現する植物が、1細胞レベルでToMV抵抗性を示すこと、異種植物(タバコ)細胞でもその抵抗性は有効であることが明らかになった。
【0143】
〔7:Tm−1タンパク質の欠失変異体におけるTm−1活性〕
上述したp80 cDNAと同様の方法に従ってTm−1タンパク質(配列番号1)のアミノ酸第46〜263位を欠く可変スプライシング産物(p80Short)をクローニングし、そのmRNAを調製した。Tm−1タンパク質のC末端欠失変異体(L490Stop(配列番号33)およびC284Stop(配列番号34))のcDNAを以下のように作製した:T7プロモータの下流にp80 cDNAを有するプラスミドをテンプレートにT7プライマー(5’−taatacgactcactatagggcga−3’:配列番号35)と塩基置換プライマー(5’−gcccttacttatttgatctttctatttct−3’ :配列番号36)を用いてPCRを行い、PCR産物をテンプレートにしたインビトロ転写反応によりL490StopのmRNAを調製し、塩基置換プライマー(5’−atcgggaactatctcatgccattac−3’ :配列番号37)を用いて同様にC284StopのmRNAを調製した。これらのmRNAをインビトロでのTm−1活性測定系(ToMVまたはT1)に供し、サンプルを2.4%PAGEにて分離した後にオートラジオグラフィーにてバンドを検出することにより、Tm−1タンパク質の各欠失変異体におけるTm−1活性の有無を調べた。図8にTm−1タンパク質全長(p80)、p80Short、L490StopおよびC284Stopの構造概略図を示し、図9に、それぞれのTm−1活性を示す。
【0144】
図9に示すように、p80タンパク質の可変スプライシング産物はTm−1活性を有していないが、p80タンパク質は少なくとも1〜283位のアミノ酸を有していればTm−1活性を保持していることがわかった。
【0145】
本発明のTm−1遺伝子はp80タンパク質をコードし、いかなる既知抵抗性遺伝子とも、いかなる機能既知の遺伝子とも、配列上の相同性を有していない。また、Tm−1遺伝子は、過敏感反応を誘起することなく半優性にウイルスの複製を1細胞レベルで抑制する遺伝因子である。これまでにこのような研究の実績があるものはない。
【0146】
これまでに同定されているウイルス抵抗性遺伝子と作用機序が異なると考えられるため、Tm−1遺伝子とその他の抵抗性遺伝子を組み合わせて使用することにより、より高度で持続的な抵抗性を付与できることが期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明を用いれば、ToMV抵抗性が付与された植物体を作製することができるので、種々の作物においてToMVを防除し得る。また、Tm−1様形質を有しているトマトとTm−1様形質を有していないトマトの間で見出された遺伝子多型は、Tm−1遺伝子のマーカーとして育種に有効利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】図1は、Tm−1トマト培養細胞プロトプラスト抽出液を各種クロマトグラフィーに供し、最終精製ステップのMono Qカラムクロマトグラフィーにより分画した画分について、各画分に含まれるタンパク質を分離したSDS−PAGEゲルを銀染色した結果、ならびに各画分におけるTm−1活性を測定した結果を示す図である。
【図2】図2は、Tm−1トマト(GCR237)とtm−1トマト(GCR26)との間でのp80におけるアミノ酸配列の比較を示す図である。
【図3】図3は、p80タンパク質の構造を示す図である。
【図4】図4は、トマト(L.esculentum)とトマト近縁野生種(L.hirsutum)との間でのp80タンパク質のアミノ酸配列の比較を示す図である。
【図5】図5は、Tm−1トマト(GCR237)に由来するp80タンパク質がインビトロでToMV RNAの複製を阻害することを示す図である。
【図6】図6は、Tm−1トマト(GCR237)とtm−1トマト(GCR26)とのF2世代におけるToMV抵抗性と、p80タンパク質をコードする遺伝子における多型との相関を示す図である。
【図7】図7は、FLAGタグ化p80タンパク質を発現したタバコBY−2細胞におけるToMV抵抗性を示す図である。
【図8】図8は、p80タンパク質の欠失変異体の構造を示す概略図である。
【図9】図9は、p80タンパク質の欠失変異体のTm−1活性を調べた結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ToMVの増殖を抑制するポリペプチドであって:
(a)配列番号1、7、9もしくは11に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号1、7、9もしくは11に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(c)配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;
(d)配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド;または
(e)配列番号2、8、10もしくは12に示される塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド
のいずれかであることを特徴とするポリペプチド。
【請求項2】
ToMVの増殖を抑制するポリペプチドであって:
(a)配列番号1、7、9もしくは11に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのフラグメント;または
(b)配列番号1、7、9もしくは11に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドのフラグメント
のいずれかであり、かつ
(I)配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜283位;または
(II)配列番号1に示されるアミノ酸配列の1〜283位において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列
のいずれかのアミノ酸配列を含んでいることを特徴とするポリペプチド。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを植物体に導入する工程を包含することを特徴とするToMV抵抗性が付与された植物体を作製する方法。
【請求項5】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを備えていることを特徴とするToMV抵抗性が付与された植物体を作製するためのキット。
【請求項6】
請求項3に記載のポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを目的の植物体由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程を包含することを特徴とするToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングする方法。
【請求項7】
請求項3に記載のポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを備えていることを特徴とするToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするためのキット。
【請求項8】
請求項1または2に記載のポリペプチドと特異的に結合することを特徴とする抗体。
【請求項9】
請求項8に記載の抗体を目的の植物体由来の組織抽出物とインキュベートする工程を包含することを特徴とするToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングする方法。
【請求項10】
請求項8に記載の抗体を備えていることを特徴とするToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするためのキット。
【請求項11】
配列番号30に示される塩基配列またはその相補配列からなることを特徴とするオリゴヌクレオチド。
【請求項12】
請求項11に記載のオリゴヌクレオチドを目的の植物体由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程を包含することを特徴とするToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングする方法。
【請求項13】
配列番号29に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを目的の植物体由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程をさらに包含することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
配列番号31に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを目的の植物体由来のゲノムDNA、mRNAまたはmRNAに対するcDNAとハイブリダイズさせる工程をさらに包含することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項15】
請求項11に記載のオリゴヌクレオチドを備えていることを特徴とするToMV抵抗性を有している植物体をスクリーニングするためのキット。
【請求項16】
配列番号29に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドをさらに備えていることを特徴とする請求項15に記載のキット。
【請求項17】
配列番号31に示される塩基配列またはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドをさらに備えていることを特徴とする請求項15に記載のキット。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図8】
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【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−267617(P2007−267617A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−94152(P2006−94152)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】