説明

トラッキング制御装置

【課題】動作安定性を保ちつつも残留誤差が少なくなるようにトラッキング制御性能を向上させる。
【解決手段】トラッキング制御装置1は、フィードバック制御系2とフィードフォワード制御部3とに基づき光スポット位置x(t)を補正するものであって、補償信号生成手段31は、メモリ数が設定された遅延手段32により遅延させたトラッキング誤差信号を補償信号として生成し、この補償信号に対してLPFとして動作する制御安定化手段33に入力する。補正メモリ量演算手段43は、制御サンプリング周波数fsと、LPFのカットオフ周波数fcと、ディスクの回転数Rとに基づいて、回転数Rに相当する角周波数における位相遅延分Plagを補償するためのメモリ量Dcompを算出する。補償信号生成手段31は、メモリ量減算手段44の指令に基づいて、遅延手段32の使用メモリ数からメモリ量Dcompを減算したメモリ数を遅延手段32に新たに設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ディスク装置のトラッキング制御技術に関する。より詳細には、光ディスクの記録および再生に用いられる光ピックアップのトラッキング制御装置において、高速回転時に光ヘッドのトラッキングアクチュエータを高精度にディスクの目標トラックに追従させるトラッキング制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1には、CLV(Constant Linear Velocity)方式及びZCLV(Zoned Constant Linear Velocity)方式のように光ディスクの半径によって1回転の周期が変化する場合を含め高速で回転する光ディスク上のトラックに対し安定で高い追従性能を持ったトラッキング制御装置が開示されている。また、特許文献1に記載の技術を改良した技術が特許文献2に記載されている。また、制御数式モデルで表現し設計しきれない実機上においては、モデル化誤差等による外乱によってトラッキング制御系が安定に動作しない場合がある。そのため、制御系を安定化させるために低域通過フィルタ(LPF)の特性を持つ演算手段を挿入することで、特許文献1,2に記載の技術を改良した技術が非特許文献1や特許文献3に記載されている。
【0003】
ここで、特許文献1〜3および非特許文献1に記載の技術の概要の一例として、非特許文献1に記載の従来のトラッキング制御装置の構成および動作について図15を参照して説明する。図15に示すトラッキング制御装置200のフィードバック制御系は、トラッキング誤差検出手段220と、加算手段222と、安定化補償手段223と、トラッキングアクチュエータ225とによって構成されている。
【0004】
トラッキング制御装置200のフィードバック制御系では、時刻tにおいて、図示しない光ディスク上の目標値であるトラック位置xd(t)と、トラッキングアクチュエータ225によって制御される光スポット位置x(t)と、の差をトラッキング誤差検出手段220によって検出し、トラッキング誤差信号e1を得る。そして、加算手段222は、トラッキング誤差信号e1と、フィードフォワード制御部203が入力する前置補償信号eff(k)とを加算することで、光スポット位置x(t)を変化させるための駆動信号を生成し、これを安定化補償手段223に入力する。なお、kは、あるサンプリング時刻を示し、光ディスクの1回転の間には、複数のサンプリング時刻がある。
【0005】
安定化補償手段223は、伝達関数(C1(z-1))により、駆動信号の振幅と位相の周波数特性の補償を行い、生成される信号をトラッキングアクチュエータ225に入力する。したがって、安定化補償手段223を特にフィードバック制御部202と呼んでいる。
【0006】
トラッキングアクチュエータ225は、安定化補償手段223からの入力信号に従って、伝達関数P(s)として動作し、光スポット位置x(t)を補正する制御を行うと共に、補正された光スポット位置x(t)をトラッキング誤差検出手段220にフィードバックする。
【0007】
また、フィードフォワード制御部203は、トラッキング誤差検出手段220と加算手段222との間に設けられ、加算手段230と、補償信号生成手段231と、制御系安定化手段(LPF)233と、前置補償手段235と、トラッキング誤差補償信号生成手段237とを備えている。
【0008】
前置補償信号eff(k)は、前記したようにフィードバック制御系の加算手段222に入力すると共に、分岐してトラッキング誤差補償信号生成手段237にも入力する。そして、その演算手段238が伝達関数(Gclosed1(z-1))によりトラッキング誤差補償信号を生成する。この生成されたトラッキング誤差補償信号とトラッキング誤差信号e1とは加算手段230により加算され、この加算信号e^(k)は補償信号生成手段231に入力する。なお、本明細書において、記号「^」は、直前の文字を修飾するために真上に配置されているものとして説明する(図15参照)。
【0009】
補償信号生成手段231の遅延手段232は、加算信号e^(k)について光ディスクの1回転周期に相当する時間の遅延を行って制御系安定化手段233に入力する。なお、ここでは、1回転周期前の2サンプリング時刻進んだ加算信号e^(k+2)を入力することとしている。
【0010】
制御系安定化手段233は、ローパスフィルタ(LPF)の特性を持つ演算手段234を備えている。演算手段234は、伝達関数(fout(z-1))により加算信号e^(k+2)の波形を整形して前置補償手段235に入力する。
【0011】
前置補償手段235は、その演算手段236の伝達関数(Gff(z-1))により前置補償信号eff(k)を生成し、トラッキング誤差補償信号生成手段237に入力する。これにより、フィードフォワード制御部203の閉ループを形成する。
【0012】
なお、特許文献1に記載のトラッキング制御装置は、図15に示したトラッキング誤差検出手段220と、加算手段222と、安定化補償手段223と、トラッキングアクチュエータ225と、補償信号生成手段231と、前置補償手段235とを備えている。また、特許文献2に記載のトラッキング制御装置は、特許文献1に記載のトラッキング制御装置の構成に加えて、トラッキング誤差補償信号生成手段237と、加算手段230とを備えている。つまり、図15に示すトラッキング制御装置200は、制御系安定化手段(LPF)233を備えていることが特徴である。
【0013】
また、特許文献3に記載のトラッキング制御装置は、図15に示すトラッキング制御装置200と比べると、制御系安定化手段(LPF)233と前置補償手段235との配置が異なっており、前置補償手段235が前置補償信号を制御系安定化手段(LPF)233に入力する。しかし、これらの構成を備えているため、特許文献3に記載のトラッキング制御装置は、図15に示すトラッキング制御装置200と同様な効果を奏する。なお、例えば、制御系安定化手段(LPF)233がフィードフォワード制御部203の他の位置に挿入された場合においても、同様の傾向を示すものであればこの限りでない。
【0014】
図15に記載の従来のトラッキング制御装置200は、LPFのカットオフ周波数(ゲインが−3[dB]となる周波数:以下、fcと表記する)の設定値を上げすぎた場合、この制御系の動作が不安定になることがあるので、そのようにならないように所定値のfcを設定した上でLPFを挿入して制御系を安定に動作させている。この従来のトラッキング制御装置200(以下、ZPET-FF制御系と表記する)についてのトラッキング制御性能の調査結果が非特許文献2に記載されている。非特許文献2に記載の調査結果を図16に示す。
【0015】
図16のグラフの横軸は、光ディスクの回転数(ディスク回転数[rpm])を示し、縦軸は、残留トラッキング誤差[nm]を示している。このグラフでは、ZPET−FF制御系による制御(ZPET−FF制御)として、制御系安定化手段(LPF)233のカットオフ周波数fcが500[Hz]の場合を一点鎖線と白い正方形で示している(LPF fc=500Hz)。また、このLPFのfcを無限大にした場合(すなわちLPFがない状態の場合)を実線と黒い正方形で示している(no LPF)。なお、従来のフィードバック(FB)制御系のトラッキング制御装置の性能をFB制御として、破線と黒い菱形で示した。
【0016】
図16のグラフに示すように、あるディスク回転数において、ZPET−FF制御系は、LPFのカットオフ周波数fcによって、トラッキング制御性能(残留トラッキング誤差量)に違いが生じていることがわかる。ここで、制御系の動作が不安定になることを防止するために、カットオフ周波数fcは、制御クロック信号の動作サンプリング周波数(制御サンプリング周波数)以下であることを前提としている。例えば、図16に示すように、ディスク回転数が10,800[rpm]である時点を想定した制御モデルにおいて、制御サンプリング周波数を100[kHz]の条件で動作させた場合に、FB制御のトラッキング誤差量(TE:tracking error)は14.3[nm]である。これに対して、ZPET−FF制御において、LPF fc=500HzのときのTEは、7[nm]であり、また、ZPET−FF制御において、no LPFのときのTEは、1[nm]以下となる。ただし、ZPET−FF制御(no LPF)は、ZPET−FF制御(LPF fc=500Hz)に比べて、制御系の動作が不安定なものになってしまう。これは、ZPET−FF制御(no LPF)では、カットオフ周波数fcが無限大であることに起因する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特許第4041905号公報(段落0040〜0056、図1)
【特許文献2】特開2003−091841号公報(段落0039〜0062、図1)
【特許文献3】特開2005−259314号公報(段落0046〜0065、図1)
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】D. Koide et al:”Feed-Forward Tracking Servo System for High-Data-Rate Optical Recording”, Japanese Journal of Applied Physics, Vol.42, 2003, p.939-945
【非特許文献2】電気学会産業計測制御研究会資料、IIC-06-135、pp.21-26、2006、小出大一(日本放送協会)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
動作を安定化させるためにLPFが挿入されたZPET−FF制御系では、LPFの挿入により残留トラッキング誤差が生じてしまう。例えば、ZPET−FF制御系におけるフィードフォワード制御部203の制御系安定化手段(LPF)233のカットオフ周波数fcの設定値を下げすぎると、ZPET−FF制御系の制御性能が低下し、TEが多くなってしまうという課題がある。そこで、TEを少なくするように制御性能の向上を試みようとした場合、LPFのカットオフ周波数fcの設定値をある程度上げる必要がある。しかし、前記したように制御系を安定に動作させるためには、LPFのカットオフ周波数fcは、制御サンプリング周波数以下のある周波数となるように設定されていなければならない。そのため、制御系を安定に動作させ、かつ、制御性能を向上させる(TEを少なくする)ためには、従来の技術には限界があった。したがって、従来の技術では、LPFのfcを高く設定して制御系の安定さが欠けつつもTE性能が良好な状態をとるか、あるいは、LPFのfcを低く設定してTE性能が悪くても制御系の安定性をとるか、というトレードオフの関係でLPFのfcの設定値を決定していた。それゆえ、LPFを挿入したZPET−FF制御系では、制御対象に応じて両極端の二者択一の選択を行う必要があったので、ZPET−FF制御系を改良することが望まれていた。
【0020】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、動作安定性を保ちつつも残留誤差が少なくなるように制御性能を向上させることができるトラッキング制御技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、前記目的を達成するために創案されたものであり、まず、請求項1に記載のトラッキング制御装置は、目標値であるディスク上のトラック位置と光ヘッドから出射される光ビームの光スポット位置との誤差を示すトラッキング誤差信号に基づいて前記光スポット位置の補正を行うフィードバック制御系と、前記トラッキング誤差信号に基づいて前記フィードバック制御系で行われる補正における外乱の影響を抑制する制御系と、前記外乱の影響を抑制する制御系における信号の位相遅延を補正する遅延補正手段とを用いて、前記光スポット位置を制御するトラッキング制御装置であって、前記外乱の影響を抑制する制御系が、補償信号生成手段と、制御系安定化手段とを備え、前記フィードバック制御系が、トラッキング誤差信号生成手段と、補正操作量生成手段と、光スポット位置補正手段とを備え、前記遅延補正手段が、補正メモリ量演算手段と、メモリ量減算手段とを備える構成とした。
【0022】
かかる構成によれば、トラッキング制御装置は、前記外乱の影響を抑制する制御系において、前記補償信号生成手段が、所定期間の前記トラッキング誤差信号を記憶する容量に対応した予め定められた使用メモリ数に設定されたメモリに前記トラッキング誤差信号を記憶する遅延手段を有し、この遅延手段により遅延させた信号を補償信号として生成する。ここで、補償信号生成手段は、後記する指示に基づいて、遅延手段のメモリ長を変更させることができるように、遅延手段は、例えば、遅延手段の全メモリ数を、分割して配置した複数の遅延手段で構成することができる。そして、トラッキング制御装置は、前記外乱の影響を抑制する制御系において、前記制御系安定化手段が、前記補償信号生成手段で生成された補償信号に対して、予め定められた高域ノイズの周波数以下の低周波数成分のみを通過させる低域通過フィルタのデジタルフィルタとして動作する。
【0023】
そして、トラッキング制御装置は、前記フィードバック制御系において、前記トラッキング誤差信号生成手段が、前記トラック位置と前記光スポット位置との誤差を示すトラッキング誤差信号を生成する。そして、前記補正操作量生成手段が、前記制御系安定化手段を通過して前記フィードバック制御系に出力された信号と、前記生成したトラッキング誤差信号とを加算することで、前記光スポット位置を補正するための操作量である補正操作量を駆動信号として生成する。さらに、前記光スポット位置補正手段が、前記生成された駆動信号に基づき前記光スポット位置を補正する。
【0024】
そして、トラッキング制御装置は、前記遅延補正手段において、補正メモリ量演算手段が、当該トラッキング制御装置の制御クロックの動作サンプリング周波数と、前記低域通過フィルタのカットオフ周波数と、前記ディスクの予め定められた定常動作回転数とに基づいて、前記定常動作回転数に相当する角周波数における位相遅延分を補償するためのメモリ量を算出する。そして、メモリ量減算手段は、前記遅延手段に予め定められた使用メモリ数から、少なくとも前記補正メモリ量演算手段で算出されたメモリ量分を減算させる指示を、前記補償信号生成手段に出力する。そして、トラッキング制御装置は、前記外乱の影響を抑制する制御系において、前記補償信号生成手段が、前記メモリ量分を減算する指令に基づいて、前記予め定められた使用メモリ数から前記メモリ量分を減算したメモリ数を前記遅延手段に設定する。
【0025】
したがって、トラッキング制御装置は、遅延補正手段によって、ディスクの定常動作回転数に相当する角周波数における位相遅延分を補償するためのメモリ量を算出し、前記外乱の影響を抑制する制御系の遅延手段の通常の使用メモリ数を減少させる。つまり、遅延補正手段は、ディスクの定常動作回転数に相当する角周波数における位相遅延分を補償するように、遅延手段の通常の使用メモリ数を減少させる。これにより、例えば、フィードバック制御系と前記外乱の影響を抑制する制御系を従来のZPET−FF制御系で構成したとしても、低域通過フィルタのカットオフ周波数の設定値をある程度下げても動作安定性を確保しつつ、このように制御系に低いカットオフ周波数が設定された低域通過フィルタを挿入することに起因した制御性の低下を抑制することができる。すなわち、トラッキング制御装置は、動作安定性を確保しつつ、残留トラッキング誤差の増大を抑制し、制御性能を向上させることができる。
【0026】
また、請求項2に記載のトラッキング制御装置は、請求項1に記載のトラッキング制御装置において、前記トラッキング誤差信号生成手段で生成されるトラッキング誤差信号の大きさを検出するトラッキング誤差検出手段と、前記検出されたトラッキング誤差信号の大きさの変動を監視し、前記検出されたトラッキング誤差信号の大きさの変動に基づいた指令を前記補償信号生成手段に出力するトラッキング誤差判定手段とをさらに備えると共に、動作モードとして、前記遅延手段の使用メモリ数の設定値を順次切り換えることで前記位相遅延分を補償するメモリ量の最適値を求めるコマンドを外部から受け付ける外部コマンド受付モードを有し、この外部コマンド受付モードにおいて、前記遅延補正手段のメモリ量減算手段が、前記コマンドを受け付け、前記遅延手段に予め定められた使用メモリ数から所定のメモリ量分を減算させる指示として、減算分である、前記位相遅延分を補償するためのメモリ量の設定値を順次切り替える指示を含めて前記補償信号生成手段に出力し、前記補償信号生成手段が、前記順次出力される指示に応じて、前記予め定められた使用メモリ数から前記所定のメモリ量分を減算したメモリ数を前記遅延手段に試験的に順次設定し、前記トラッキング誤差検出手段が、前記遅延手段に試験的に順次設定されたメモリ数に対応して、前記トラッキング誤差信号生成手段で順次生成されるトラッキング誤差信号の大きさを検出し、前記トラッキング誤差判定手段が、前記トラッキング誤差信号の大きさが前記メモリ数において測定した中で最小となるときに試験的に設定されていたメモリ量分を判別し、当該メモリ量分を前記指令として前記補償信号生成手段に通知し、前記補償信号生成手段が、前記通知されたメモリ量分を、前記コマンドの処理結果である設定値として、前記遅延手段に設定することとした。
【0027】
かかる構成によれば、トラッキング制御装置は、外部コマンド受付モードで動作することにより、位相遅延分を補償するためのメモリ量を計算により求める基本動作を補完するべく、その最適値を実測により求めることができる。これにより、トラッキング制御装置の実際の動作を反映した安定性を確保しつつ、残留トラッキング誤差の増大を抑制し、制御性能を向上させることができる。
【0028】
また、請求項3に記載のトラッキング制御装置は、請求項1に記載のトラッキング制御装置において、前記トラッキング誤差信号生成手段で生成されるトラッキング誤差信号の大きさを検出するトラッキング誤差検出手段と、前記検出されたトラッキング誤差信号の大きさの変動を監視し、前記検出されたトラッキング誤差信号の大きさの変動に基づいた指令を前記制御系安定化手段に出力するトラッキング誤差判定手段とをさらに備え、前記トラッキング誤差判定手段が、前記トラッキング誤差信号の大きさの変動が予め定められた安定状態、増加状態または減少状態のいずれであるかを判別し、前記トラッキング誤差信号の大きさの変動が安定状態である場合に、前記カットオフ周波数を現在の設定値に維持するように指示し、前記トラッキング誤差信号の大きさの変動が増加状態となった場合に、前記カットオフ周波数を現在の設定値よりも低い所定値に下げるように指示し、前記トラッキング誤差信号の変動の大きさが減少状態となった場合に、前記カットオフ周波数を現在の設定値よりも高い所定値に上げるように指示し、前記制御系安定化手段が、前記トラッキング誤差判定手段からの指示に基づいて、前記低域通過フィルタのカットオフ周波数の値を切り替えて設定することとした。
【0029】
かかる構成によれば、トラッキング制御装置は、トラッキング誤差量が増加状態である場合、すなわち、トラッキング制御装置における外乱が少ない状態から多い状態に変化している場合に、カットオフ周波数を下げる。そして、制御系安定化手段に対して、カットオフ周波数を下げるように指示するタイミングは、トラッキング制御系が安定にサーボ動作しなくなるほどに外乱が多い状態になる直前であることが好ましい。また、トラッキング制御装置は、トラッキング誤差量が減少状態である場合、すなわち、トラッキング制御装置における外乱が多い状態から少ない状態に変化している場合に、カットオフ周波数を元に戻すように上げる。したがって、トラッキング制御装置は、外乱に応じて、低域通過フィルタのカットオフ周波数の値を柔軟に切り替えることにより、安定した動作を継続することができる。
【0030】
また、請求項4に記載のトラッキング制御装置は、請求項3に記載のトラッキング制御装置において、前記トラッキング誤差判定手段は、前記トラッキング誤差信号の大きさの変動が、前記予め定められた安定状態、増加状態または減少状態のいずれかに変化した場合に、さらに前記補正メモリ量演算手段に対して、演算に用いているカットオフ周波数を、前記制御系安定化手段で設定された前記低域通過フィルタのカットオフ周波数の値に切り替えるように指示し、前記補正メモリ量演算手段は、前記指示に基づいて、前記カットオフ周波数の値を切り替えてから、前記位相遅延分を補償するためのメモリ量を算出することとした。
【0031】
かかる構成によれば、トラッキング制御装置は、トラッキング誤差量が周期的変動のみの影響を受けて比較的安定な場合に、その動作安定性を確保しつつ、残留トラッキング誤差の増大を抑制し、制御性能を向上できるのみならず、トラッキング制御装置における突発的な外乱に応じて低域通過フィルタのカットオフ周波数の値を柔軟に切り替え、かつ、遅延手段のメモリ数を減少させることで、突発外乱に対しても、安定した動作と制御性能の向上を頑健に維持することができる。
【0032】
また、請求項5に記載のトラッキング制御装置は、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のトラッキング制御装置において、前記外乱の影響を抑制する制御系は、フィードフォワード制御部であり、このフィードフォワード制御部は、前置補償手段と、トラッキング誤差補償信号生成手段と、加算手段とをさらに備えることとした。
【0033】
かかる構成によれば、トラッキング制御装置は、フィードフォワード制御部において、前置補償手段が、前記制御系安定化手段を通過した補償信号の振幅及び位相の補償を行った前置補償信号を、第1のパルス伝達関数によって生成する。そして、トラッキング誤差補償信号生成手段が、前記光スポット位置の目標値に起因して前記トラッキング誤差信号生成手段で生成されるトラッキング誤差信号の予測値としてトラッキング誤差補償信号を、前記前置補償手段で生成された前置補償信号と第2のパルス伝達関数とによって生成する。そして、加算手段は、前記生成されたトラッキング誤差補償信号と、前記トラッキング誤差信号生成手段で生成されるトラッキング誤差信号とを加算して加算信号を生成する。
【0034】
そして、トラッキング制御装置は、前記フィードバック制御系において、前記補正操作量生成手段が、前記前置補償信号と、前記生成したトラッキング誤差信号とを加算することで前記駆動信号を生成する。そして、トラッキング制御装置は、フィードフォワード制御部において、前記補償信号生成手段が、前記加算手段で生成された加算信号を、前記ディスクが少なくとも1回転する期間に亘って記憶する容量に対応した予め定められた使用メモリ数に設定されたメモリに記憶する遅延手段を有し、この遅延手段により遅延させた信号を前記補償信号として生成する。これにより、トラッキング制御装置は、前記外乱の影響を抑制する制御系と、フィードバック制御系とを、従来のZPET−FF制御系で構成することができるので、ZPET−FF制御系を改良したトラッキング制御装置を容易に構成することができる。
【0035】
また、請求項6に記載のトラッキング制御装置は、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のトラッキング制御装置において、前記外乱の影響を抑制する制御系が、繰返し補償制御部であり、この繰返し補償制御部は利得調整手段をさらに備えることとした。
【0036】
かかる構成によれば、トラッキング制御装置は、繰返し補償制御部において、利得調整手段が、前記制御系安定化手段を通過した補償信号の大きさに所定の係数を乗じることで当該補償信号の利得を調整する。そして、トラッキング制御装置は、前記フィードバック制御系において、前記補正操作量生成手段が、前記利得が調整された補償信号と、前記生成したトラッキング誤差信号とを加算することで前記駆動信号を生成する。そして、トラッキング制御装置は、繰返し補償制御部において、前記補償信号生成手段が、前記補正操作量生成手段で生成された駆動信号を、前記ディスクが少なくとも1回転する期間に亘って記憶する容量に対応した予め定められた使用メモリ数に設定されたメモリに記憶する遅延手段を有し、この遅延手段により遅延させた信号を前記利得が調整される前の補償信号として生成する。これにより、トラッキング制御装置は、前記外乱の影響を抑制する制御系を、公知の繰返し補償制御系で構成することができるので、繰返し補償制御系を改良したトラッキング制御装置を容易に構成することができる。
【発明の効果】
【0037】
請求項1に記載の発明によれば、トラッキング制御装置は、低域通過フィルタのカットオフ周波数の設定値をある程度下げても動作安定性を確保しつつ、このように制御系に低いカットオフ周波数が設定された低域通過フィルタを挿入することに起因した制御性の低下を、遅延手段の通常の使用メモリ数を減少させることにより抑制することができる。したがって、トラッキング制御装置は、動作安定性を保ちつつも残留誤差が少なくなるように制御性能を向上させることができる。
【0038】
また、請求項2に記載の発明によれば、トラッキング制御装置は、外部コマンド受付モードで動作することにより、実際の動作を反映した安定性を確保しつつ、残留トラッキング誤差の増大を抑制し、制御性能を向上させることができる。
【0039】
また、請求項3に記載の発明によれば、トラッキング制御装置は、外乱に応じて、低域通過フィルタのカットオフ周波数の値を柔軟に切り替えることにより、安定した動作を継続することができる。
また、請求項4に記載の発明によれば、トラッキング制御装置は、突発的な外乱に応じて低域通過フィルタのカットオフ周波数の値を柔軟に切り替えることで、突発外乱に対しても、安定した動作と制御性能の向上を頑健に維持することができる。
【0040】
また、請求項5に記載の発明によれば、トラッキング制御装置は、従来のZPET−FF制御系と同様なフィードバック制御系およびフィードフォワード制御部に加えて、遅延補正手段を備えるので、従来のZPET−FF制御系を改良したトラッキング制御装置を容易に構成することができる。
また、請求項6に記載の発明によれば、トラッキング制御装置は、従来公知の繰返し補償制御系およびフィードバック制御系に加えて、遅延補正手段を備えるので、従来の繰返し補償制御系を改良したトラッキング制御装置を容易に構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施形態に係るトラッキング制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図2】図1に示したトラッキング制御装置を備える光ディスク装置の一例を模式的に示す図である。
【図3】図1に示したトラッキング制御装置の補償信号生成手段の一例を示すブロック図である。
【図4】図1に示したトラッキング制御装置の全体処理を示すフローチャートである。
【図5】図1に示した遅延補正手段による処理を示すフローチャートである。
【図6】図5に示した遅延補正の基本処理を示すフローチャートである。
【図7】トラッキング誤差安定時の遅延補正処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の第5実施形態に係るトラッキング制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図9】図8に示したトラッキング制御装置の全体処理を示すフローチャートである。
【図10】比較例3,4,5および実施例8の閉ループ応答結果の一例を示すグラフである。
【図11】比較例6のトラッキング誤差波形を示すグラフであって、上段が測定用フィルタ有り、下段が測定用フィルタ無しをそれぞれ示している。
【図12】実施例9のトラッキング誤差波形を示すグラフであって、上段が測定用フィルタ有り、下段が測定用フィルタ無しをそれぞれ示している。
【図13】実施例11のトラッキング誤差波形を示すグラフであって、上段が測定用フィルタ有り、下段が測定用フィルタ無しをそれぞれ示している。
【図14】実施例15のトラッキング誤差波形を示すグラフであって、上段が測定用フィルタ有り、下段が測定用フィルタ無しをそれぞれ示している。
【図15】従来のトラッキング制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【図16】従来のトラッキング制御方法による残留トラッキング誤差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、図面を参照して本発明のトラッキング制御装置を実施するための形態(以下「実施形態」という)として第1ないし第5実施形態について順次詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るトラッキング制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。図2は、図1に示したトラッキング制御装置を備える光ディスク装置の一例を模式的に示す図である。
【0043】
以下では、光スポット位置をディスク半径方向に補正するトラッキング制御を行うトラッキング制御装置1を説明するが、光スポット位置の補正方向を変更することで同様にして、光スポット位置を集光方向に補正するフォーカス制御を行うフォーカス制御装置1Bとして構成することも可能である。この意味で、図1に示したトラッキング制御装置1に対して、フォーカス制御装置1Bの符号も付した。さらに、双方を含んだ光ディスク装置101(図2参照)として構成することも可能である。そこで、トラッキング制御装置1の応用例として、光ディスク装置101の概要を説明する。
【0044】
[光ディスク装置の概要]
図2に示す光ディスク装置101は、光ディスク110を回転させるスピンドルモータ120と、光ディスク制御装置130と、スピンドルモータ120を駆動する回転制御部140と、光ディスク制御装置130および回転制御部140を統括制御する主制御部150とを備えている。
【0045】
光ディスク制御装置130は、光ディスク110上に光スポットを形成するレーザ光を照射する光ヘッド132と、光ヘッド132をディスク半径方向に移動するトラッキングアクチュエータ25と、光ヘッド132を集光方向に移動するフォーカスアクチュエータ131と、トラッキング制御装置1と、フォーカス制御装置1Bと、記録再生制御部133とを備えている。記録再生制御部133は、記録信号を光ディスクに書き込む制御や光ディスクから再生信号を読み出す制御を行う。
【0046】
トラッキング制御装置1は、目標値である光ディスク110上のトラック位置と光ヘッド132から出射されるレーザ光(光ビーム)の光スポット位置との誤差を示すトラッキング誤差信号に基づいて光スポット位置の補正を行うフィードバック制御系と、トラッキング誤差信号に基づいてフィードバック制御系で行われる補正における外乱の影響を抑制する制御系と、外乱の影響を抑制する制御系における信号の位相遅延を補正する遅延補正手段とを用いて、光スポット位置を制御するものである。このために、詳細は後記するが、トラッキング制御装置1は、主制御部150または回転制御部140から、光ディスク110の定常動作回転数(ディスク回転数Rという)と、光ディスク装置101の制御クロック信号の動作サンプリング周波数fsとを取得し、これらに基づいて、半径方向光スポット位置補正手段であるトラッキングアクチュエータ25の動作を制御する。
【0047】
フォーカス制御装置1Bは、トラッキング制御装置1と同様にして、集光方向光スポット位置補正手段であるフォーカスアクチュエータ131の動作を制御する。なお、トラッキング制御装置1およびフォーカス制御装置1Bは、装置外部からコマンド(外部コマンド)を受け付ける外部コマンド受付モードを有し、この外部コマンドに従って、トラッキングアクチュエータ25やフォーカスアクチュエータ131を動作できるように構成されているものとする。
【0048】
[トラッキング制御装置の構成]
(第1実施形態)
第1実施形態では、フィードバック制御系で行われる補正における外乱の影響を抑制する制御系がフィードフォワード制御系であるものとした。つまり、第1実施形態のトラッキング制御装置1は、従来のZPET−FF制御系の改良である。図1に示すように、トラッキング制御装置1は、大別してフィードバック制御系2と、フィードフォワード制御部3と、遅延補正手段4とを備えている。このうち、フィードバック制御系2と、フィードフォワード制御部3とは、図15に示した従来のトラッキング制御装置200と同様な構成なので、その下2ケタの符号を付して説明を適宜省略し、相違点を説明することとする。
【0049】
<フィードバック制御系>
フィードバック制御系2は、トラッキング誤差信号生成手段20と、A/D変換手段21と、加算手段22と、安定化補償手段23と、D/A変換手段24と、光スポット位置補正手段25とを備えている。
【0050】
トラッキング誤差信号生成手段20は、トラック位置xd(t)と光スポット位置x(t)との誤差を示すトラッキング誤差信号を生成する。
A/D変換手段21は、トラッキング誤差信号生成手段20で生成されたアナログ信号であるトラッキング誤差信号をデジタル信号に変換するものである。例えば、A/D変換手段21は、ある時間間隔でサンプリングするサンプラである。ここでは、デジタル信号化されたトラッキング誤差信号をe1と表記する。トラッキング誤差信号e1は、加算手段22および後記する加算手段30並びにトラッキング誤差検出手段40に入力する。
【0051】
加算手段(補正操作量生成手段)22は、フィードフォワード制御部3の制御系安定化手段33を通過してフィードバック制御系2に出力された信号と、トラッキング誤差信号生成手段20で生成したトラッキング誤差信号とを加算することで、光スポット位置x(t)を補正するための操作量である補正操作量を駆動信号として生成するものである。この加算手段22は、フィードフォワード制御部3の出力デジタル信号である前置補償信号eff(k)とトラッキング誤差信号e1とを加算することで、光スポット位置x(t)を変化させるための駆動信号を生成し、これを安定化補償手段23に入力する。
【0052】
安定化補償手段23は、伝達関数(C1(z-1))により、駆動信号の振幅と位相の周波数特性の補償を行い、生成される信号をD/A変換手段24に入力する。この安定化補償手段23は、例えば、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)などの電子集積回路や電子回路などによる電子デバイスによる構成、または、これら回路に実装可能なソフトウェア(プログラム)により実装される。
【0053】
D/A変換手段24は、安定化補償手段23で生成されたデジタル信号(駆動信号)をアナログ信号に変換するものである。例えば、D/A変換手段24は、入力信号をサンプリング周期時間の間で区分的に線形にすることでアナログ信号を生成するゼロ次ホールド(ZOH:Zero Order Hold)である。このアナログ信号は、光スポット位置補正手段25へ入力する。
【0054】
光スポット位置補正手段25は、D/A変換手段24で変換されたアナログ信号(駆動信号)に基づいて、光スポット位置x(t)を補正するものである。ここで、光スポット位置補正手段25は、トラッキングアクチュエータであり、伝達関数P(s)として動作するものとする。ここで生成された光スポット位置x(t)が、トラッキング誤差信号生成手段20に入力することで、フィードバック制御系2が形成される。
【0055】
<フィードフォワード制御部>
フィードフォワード制御部3は、例えば、DSPなどの電子集積回路や電子回路などによる電子デバイスによる構成、または、これら回路に実装可能なソフトウェア(プログラム)により実装される。フィードフォワード制御部3は、図1に示すように、加算手段30と、補償信号生成手段31と、制御系安定化手段(LPF)33と、前置補償手段35と、トラッキング誤差補償信号生成手段37とを備えている。
【0056】
フィードフォワード制御部3の各手段は、図15に示したフィードフォワード制御部203と同様に接続および構成されている。
加算手段30は、トラッキング誤差補償信号生成手段37で生成されるトラッキング誤差補償信号と、トラッキング誤差信号生成手段20で生成されるトラッキング誤差信号とを加算して加算信号e^(k)を生成する。
【0057】
補償信号生成手段31は、遅延手段32を有し、この遅延手段32により遅延させた信号を補償信号として生成するものである。遅延手段32は、所定期間のトラッキング誤差信号を記憶する容量に対応した予め定められた使用メモリ数に設定されたメモリにトラッキング誤差信号を記憶するものである。この所定期間は、ディスクが少なくとも1回転する期間に相当する。
【0058】
遅延手段32のメモリ数は、あるディスク回転数R[rpm]に合わせたサイズであることを前提としている。すなわち、ディスク1回転分のメモリ長Drot[個]は、制御サンプリング周波数をfs[Hz]とすると、式(1)で表される。ここで、R[rpm]は、主なディスク回転数(定常動作回転数)を示す。また、計算結果の小数点以下は四捨五入する。
【0059】
【数1】

【0060】
例えば、ディスク回転数Rが光ディスク装置101(図2参照)のように線速度一定に回転制御しつつ、逐次、角周波数に相当する回転数R[rpm]が変化する場合でもその回転数に応じ、メモリ長Drotは変化可能なものとする。
【0061】
この遅延手段32のメモリ数は、遅延補正手段4からの指令以前に、フィードバック制御系2とフィードフォワード制御部3とにより制御されている状態では、従来のZPET−FF制御系(図15のトラッキング制御装置200)と同様なメモリ数に設定される。この時点では、遅延手段32のメモリ数は、ディスク1回転分のメモリ長Drot[個]そのものではなく、Drot[個]よりも、例えば「アクチュエータの分母の次数−分子の次数=2[個]」だけ少ない(Drot−2)[個]になっている。
【0062】
制御系安定化手段(LPF)33は、補償信号生成手段31で生成された補償信号に対して、予め定められた高域ノイズの周波数以下の低周波数成分のみを通過させるLPFのデジタルフィルタとして動作するものであり、演算手段34を備える。ここで、例えば、LPFのカットオフ周波数fcの値は、一例として、式(2)で表される。
fc=1.0[kHz] … 式(2)
このカットオフ周波数fcからLPFの伝達関数F(z-1)を求めることができる。例えば、1次のLPFの場合の伝達関数は、式(3)にて計算される。なお、実際のデジタル制御系に実装するには、式(3)に示すF(s)をz変換したF(z-1)を求める必要がある。これにより、演算手段34は、伝達関数(F(z-1))として動作する。
【0063】
【数2】

【0064】
前置補償手段35は、制御系安定化手段33を通過した補償信号の振幅及び位相の補償を行った前置補償信号を、第1のパルス伝達関数(Gff(z-1))によって生成するものである。前置補償手段35は、第1のパルス伝達関数(Gff(z-1))として動作する演算手段36を備える。この前置補償信号は、フィードバック制御系2の加算手段22によって、トラッキング誤差信号e1と加算される。これにより、駆動信号が生成する。
【0065】
トラッキング誤差補償信号生成手段37は、光スポット位置の目標値に起因してトラッキング誤差信号生成手段20で生成されるトラッキング誤差信号の予測値としてトラッキング誤差補償信号を、前置補償手段35で生成された前置補償信号と第2のパルス伝達関数(Gclosed1(z-1))とによって生成するものである。トラッキング誤差補償信号生成手段37は、第2のパルス伝達関数(Gclosed1(z-1))として動作する演算手段38を備える。
【0066】
補償信号生成手段31および制御系安定化手段(LPF)33は、図15に示した補償信号生成手段231および制御系安定化手段(LPF)233と比較すると、遅延補正手段4の動作に連動している点が異なり、さらに、補償信号生成手段31は、その遅延手段32の構成が異なっている。これらの相違点は、遅延補正手段4の説明と合わせて説明する。
【0067】
<遅延補正手段>
遅延補正手段4は、フィードフォワード制御部3(外乱の影響を抑制する制御系)における信号の位相遅延を補正するものであり、例えば、DSPなどの電子集積回路や電子回路などによる電子デバイスによる構成、または、これら回路に実装可能なソフトウェア(プログラム)により実装される。遅延補正手段4は、図1に示すように、カットオフ周波数検出手段42と、補正メモリ量演算手段43と、メモリ量減算手段44と、制御サンプリング周波数検出手段45とを備えている。なお、図1には、トラッキング誤差検出手段40およびトラッキング誤差判定手段41も表示されているが、第1実施形態では、これらを備えていないものとし、これらについては第3および第4実施形態で説明することとする。
【0068】
≪カットオフ周波数検出手段≫
カットオフ周波数検出手段42は、トラッキング制御装置1のトラッキング制御動作を実行する前に予め、制御系安定化手段33からLPFのカットオフ周波数fcの情報(設定値のデータ)を取得し、補正メモリ量演算手段43に入力するものである。なお、LPFのカットオフ周波数fcの情報を補正メモリ量演算手段43に直接入力することも可能である。この場合には、カットオフ周波数検出手段42を省略することができる。
【0069】
≪制御サンプリング周波数検出手段≫
制御サンプリング周波数検出手段45は、トラッキング制御装置1の制御クロック信号の動作サンプリング周波数fsを検出し、補正メモリ量演算手段43に入力するものである。なお、光ディスク装置101の制御クロック信号の動作サンプリング周波数fsを検出するようにしてもよい。ここで、例えば、制御サンプリング周波数fsの値は、一例として、式(4)で表される。
fs=100.0[kHz] … 式(4)
【0070】
なお、トラッキング制御装置1において、カットオフ周波数fcに対応したLPFとして機能する制御系安定化手段33(演算手段34)は、制御クロック信号の動作サンプリング周波数fsにより動作するため、カットオフ周波数fcの値が制御サンプリング周波数fsの値を上回ることはない。また、制御サンプリング周波数fsの情報を補正メモリ量演算手段43に直接入力することも可能である。この場合には、制御サンプリング周波数検出手段45を省略することができる。
【0071】
≪補正メモリ量演算手段≫
補正メモリ量演算手段43は、トラッキング制御装置1の制御クロックの動作サンプリング周波数fsと、LPFのカットオフ周波数fcと、光ディスクの予め定められた定常動作回転数Rとに基づいて、定常動作回転数Rに相当する角周波数における位相遅延分を補償するためのメモリ量(以下、補正メモリ量という)を算出するものである。
この補正メモリ量演算手段43は、カットオフ周波数検出手段42で検出されたカットオフ周波数fcと、制御サンプリング周波数検出手段45で検出された制御サンプリング周波数fsとを用いて所定の規則により、補正メモリ量を求め、メモリ量減算手段44に入力する。補正メモリ量は、位相遅れを補償する(compensate)ためのメモリ量を意味するので、補正メモリ量(メモリ進み補償量)Dcomp(単位は[個])と表記する。
【0072】
この所定の規則を細分化すると、以下の(a1)〜(a4)で表すことができる。
(a1)前記した式(1)により、ディスク1回転分のメモリ長Drot[個]を求める。
(a2)前記した式(3)の伝達関数F(s)を基にした伝達関数(F(z-1))から、主なディスク回転数R[rpm]に相当する角周波数fR=(R/60)[Hz]における位相遅れ分Plag[deg.]を求める。具体的には、この位相遅れ分Plag[deg.]は、ディスク回転数R[rpm]に相当する角周波数fRを式(5)に示す「f」に代入することで求められる。
【0073】
【数3】

【0074】
(a3)前記した式(1)および式(5)から、補正メモリ量Dcomp[個]は、式(6)で表されることになる。ただし、整数で割り切れない場合には、小数点以下は四捨五入し、最も近い整数とするとよい。
【0075】
【数4】

【0076】
(a4)前記した式(6)を計算することにより、位相遅れを補償するための補正メモリ量Dcompが求められる。本実施形態では、この補正メモリ量Dcompは、位相遅れを補償するために、ディスク回転数R[rpm]に合わせたサイズである遅延手段32の通常のメモリ数から、減算するべきおおよそのメモリ量としている。
【0077】
本実施形態において補正メモリ量Dcompが、減算するべき正確なメモリ量ではない理由は、遅延補正手段4が、遅延手段32にメモリ量の減算を指示する前には、遅延手段32のメモリ数が、従来のZPET−FF制御系(図15のトラッキング制御装置200)と同様なメモリ数に設定されているからである。すなわち、この時点では、既に、遅延手段32のメモリ数は、ディスク1回転分のメモリ長Drot[個]そのものではなく、Drot[個]よりも、例えば「アクチュエータの分母の次数−分子の次数=2[個]」だけ少ない(Drot−2)[個]になっているからである。
【0078】
≪メモリ量減算手段≫
メモリ量減算手段44は、遅延手段32に予め定められた使用メモリ数から、少なくとも補正メモリ量演算手段43で算出されたメモリ量分を減算させる指示を、補償信号生成手段31に出力するものである。このメモリ量減算手段44は、フィードフォワード制御部3の補償信号生成手段31に接続されている。本実施形態では、メモリ量減算手段44は、補償信号生成手段31に対して、その遅延手段32のメモリ数から、前記した式(6)により求められた補正メモリ量Dcomp分を減算する指令を出す。
【0079】
≪補償信号生成手段≫
補償信号生成手段31は、メモリ量分を減算する指令に基づいて、予め定められた使用メモリ数からメモリ量分を減算したメモリ数を遅延手段32に設定するものである。
本実施形態では、補償信号生成手段31は、メモリ量減算手段44の指令に基づいて、メモリ数(Drot−2)から補正メモリ量Dcomp分を減らしたメモリ数の遅延手段32の構成とする。すなわち、遅延補正手段4が補償した後の遅延手段32のメモリ数Dmは、例えば、式(7)で表される。
【0080】
【数5】

【0081】
図3は、補償信号生成手段の一例を示すブロック図である。図3に示すように、補償信号生成手段31は、第1小遅延手段321〜第n小遅延手段32nと、第1切替手段461〜第n切替手段46nと、信号送出手段47とを備えている。このうち、第1小遅延手段321〜第n小遅延手段32nは、図1に示した遅延手段32に相当するものであり、上流側を1番目とした順番で直列に接続されている。なお、遅延手段32の全メモリ数に比べて1つ1つのメモリ数は小さいので小遅延手段と呼んでいる。
【0082】
第1切替手段461〜第n切替手段46nは、それぞれ第1小遅延手段321〜第n小遅延手段32nの前段(上流側)に並列に設けられている。例えば、第k切替手段46k(k=1,…,n)は、メモリ量減算手段44または後記するトラッキング誤差判定手段41からの指令を示す制御信号により、オン/オフを切り替えることで、後段(下流側)の第k小遅延手段32kへ入力する信号の接続を切り替える。
【0083】
信号送出手段47は、第1切替手段461〜第n切替手段46nに並列に接続されており、加算手段30が入力する加算信号e^(k)を第1切替手段461〜第n切替手段46nに入力するものである。
【0084】
以下では、補償信号生成手段31は、第k切替手段46kがオフである場合に、第k小遅延手段32kには、直列接続の前段の第(k−1)小遅延手段32k-1からの信号が入力するものとして説明する。
一方、第k切替手段46kがオンである場合、第k小遅延手段32kには、信号送出手段47と第k切替手段46kとを経由する信号(加算信号e^(k))が入力する。
したがって、第1ないし第n切替手段461〜46nのうち、1箇所だけ(k番目)選択してオンに設定し、かつ、残りの箇所をすべてオフに設定することで、加算信号e^(k)が流れる小遅延手段の個数を変化させることができる。すなわち、図1に示した遅延手段32のメモリ数を選択的に変化させることができる。なお、初期状態では、第1ないし第n切替手段461〜46nはすべてオフである。
【0085】
第1ないし第n小遅延手段321〜32nは、例えば、複数のメモリ素子から構成される。各メモリ素子としては、例えば、格納するデータのビット数に対応する複数のD−フリップ・フロップによって構成される。これによれば、サンプリングクロック毎に縦続接続されている前段のメモリ素子の出力データを取り込むと共に、1クロック前に記憶していた値を縦続接続されている後段のメモリ素子に対して入力する構成とすることができる。そして、加算手段30から信号送出手段47への入力信号e^(k)は、第1ないし第n小遅延手段321〜32nのいずれかの入力端に配置されるメモリ素子に入力し、第n小遅延手段32nの出力端に配置されるメモリ素子から出力され、制御系安定化手段(LPF)33に供給される。
【0086】
第1ないし第n小遅延手段321〜32nに含まれるメモリ素子の総個数は、ディスク1回転分に相当する信号e^(k)を格納することのできる個数(以下では、Drot個という)とする。第1ないし第n小遅延手段321〜32nは、すべて同等に構成することも可能であるが、ここでは、第1ないし第(n−1)小遅延手段321〜32n-1は、1個のメモリ素子で構成し、第n小遅延手段32nは、Drot個よりも(n−1)個だけ少ない個数(Dmin個)のメモリ素子によって構成する。
【0087】
[トラッキング制御装置の全体処理の流れ]
図1のトラッキング制御装置1の全体処理の流れについて図4を参照(適宜図1参照)して説明する。図4は、図1に示したトラッキング制御装置の全体処理を示すフローチャートである。トラッキング制御装置1は、フィードフォワード制御部3において、トラッキング誤差補償信号生成手段37によって、前置補償手段35で生成された前置補償信号と第2のパルス伝達関数(Gclosed1(z-1))とによって、トラッキング誤差信号生成手段20によって生成されるトラッキング誤差信号の予測値としてトラッキング誤差補償信号を生成する(ステップS1)。
【0088】
そして、フィードフォワード制御部3は、加算手段30によって、走査中のトラックに対するトラッキング誤差信号と、トラッキング誤差補償信号とを加算し加算信号e^(k)を遅延手段32に入力する(ステップS2)。そして、フィードフォワード制御部3は、補償信号生成手段31によって、遅延手段32に設定されたメモリ数に相当する時間だけ遅延を行った信号(補償信号)を制御系安定化手段(LPF)33に入力する(ステップS3)。そして、フィードフォワード制御部3は、制御系安定化手段(LPF)33によって、遅延信号(補償信号)の波形を整形し、前置補償手段35に入力し(ステップS4)、前置補償手段35によって、補償信号e^(k+2)の振幅及び位相の補償を行った前置補償信号eff(k)を、第1のパルス伝達関数(Gff(z-1))によって生成する(ステップS5)。
【0089】
そして、トラッキング制御装置1は、ステップS5に続く処理を分岐して並列に行う。ステップS5に続く第1分岐処理では、トラッキング制御装置1は、フィードフォワード制御部3において閉ループを形成するため、ステップS1に戻る。一方、ステップS5に続く第2分岐処理では、トラッキング制御装置1は、フィードバック制御系2において、加算手段22によって、前置補償信号eff(k)を走査中のトラックに対するトラッキング誤差信号e1に加算する(ステップS6)。ここで加算した信号は、D/A変換手段24でアナログ信号化される。そして、フィードバック制御系2は、光スポット位置補正手段25によって、加算した信号(D/A変換手段24でアナログ信号化された駆動信号)を用いてトラッキング制御を行い(ステップS7)、光スポット位置をトラッキング誤差信号生成手段20に入力する。これにより、トラッキング制御装置1は、第2分岐処理においてもステップS1に戻る。
【0090】
[遅延補正手段の処理の流れ]
図5は、図1に示した遅延補正手段による処理を示すフローチャートである。第1実施形態のトラッキング制御装置1は、図5に示した遅延補正の基本処理(ステップS12)だけを行うものとして、この遅延補正の基本処理について図6を参照(適宜図1参照)して説明し、図5に示す残りの処理については、第4実施形態で説明する。
【0091】
トラッキング制御装置1の遅延補正手段4は、図6に示すように、制御サンプリング周波数検出手段45によって、トラッキング制御装置1の制御クロック信号の動作サンプリング周波数fsを検出し(ステップS13)、補正メモリ量演算手段43に入力する。また、遅延補正手段4は、カットオフ周波数検出手段42によって、制御系安定化手段33からLPFのカットオフ周波数fcを検出し(ステップS14)、補正メモリ量演算手段43に入力する。なお、ステップS13,S14の処理の順序は任意であり、並列処理でも構わない。
【0092】
遅延補正手段4は、補正メモリ量演算手段43によって、トラッキング制御装置1の制御サンプリング周波数fsと、LPFのカットオフ周波数fcと、光ディスクの定常動作回転数Rとに基づいて、前記した式(6)により補正メモリ量Dcompを演算する(ステップS15)。そして、遅延補正手段4は、メモリ量減算手段44によって、フィードフォワード制御部3の補償信号生成手段31に対して、遅延手段32に予め定められた使用メモリ数から、算出されたメモリ量の減算を指示する(ステップS16)。そして、メモリ量分を減算する指令に基づいて、補償信号生成手段31は、使用メモリ数からメモリ量分を減算したメモリ数を遅延手段32に設定する(ステップS17)。
【0093】
第1実施形態によれば、トラッキング制御装置1は、遅延補正手段4によって、光ディスク110の定常動作回転数Rに相当する角周波数における位相遅延分Plagを補償するための補正メモリ量Dcompを算出し、フィードフォワード制御部3の遅延手段32の通常の使用メモリ数を減少させる。したがって、従来のZPET−FF制御系に遅延補正手段4を加えた構成としても、LPFのカットオフ周波数fcの設定値をある程度下げても動作安定性を確保しつつ、このように低いカットオフ周波数が設定されたLPFを挿入することに起因した制御性の低下を、遅延手段32の使用メモリ数を減少させることにより抑制することができる。すなわち、トラッキング制御装置1は、遅延補正手段4により、位相遅延分Plagを補償することで、動作安定性を確保しつつ、残留トラッキング誤差TEの増大を抑制し、制御性能を向上することができる。
【0094】
また、これにより、低域通過フィルタ(LPF)のカットオフ周波数を向上させ、さらに高精度な追従制御を可能とする。これは、さらに、光ディスクのトラッキング追従制御を高速回転時にも適用することができ、光ディスクの記録再生を高速化させる効果をもたらす。この高速化により、高速にデータコピーを行えるので、作業時間の効率化に寄与し、また、高ビットレートの映像信号を記録再生することを可能とする効果がある。
【0095】
(第2実施形態)
第1実施形態では、制御系安定化手段33のLPFのカットオフ周波数fcの情報が例えば、前記した式(2)のように既知であって、カットオフ周波数検出手段42がそのカットオフ周波数fcを取得できるものとした。これに対して、第2実施形態では、カットオフ周波数検出手段42が、制御系安定化手段33から、LPFのカットオフ周波数fcを取得できない場合を想定した実施形態である。このため、第2実施形態のトラッキング制御装置は、装置の外部から、予め測定された制御系安定化手段33のLPFのカットオフ周波数fcを取得できるように構成されている。その他の構成および動作は、第1実施形態と同様なので説明および図面を省略し、図1を参照してカットオフ周波数等の測定方法等の相違点を以下に説明する。
【0096】
カットオフ周波数検出手段42は、トラッキング制御動作を実行する前にLPFのカットオフ周波数fcの情報を装置外部から予め取得する。装置外部から入力される測定値の測定方法は、例えば、トラッキング制御動作を実行する前にトラッキング制御装置1から切り離したLPF単体を用いてfcを測定することが可能である。
【0097】
この場合、切り離したLPFを用いて、LPFへの入力信号に対してLPFの出力信号の周波数応答を測定する。具体的には、入力信号の角周波数を、例えば1−100k[Hz]の間で徐々に変化させて(スイープして)、そのときの入力対出力の振幅(ゲイン)を測定する。そして、得られたボード線図(例えば、図10参照)の位相特性から、カットオフ周波数fc、伝達関数F(z-1)、ディスク回転数R[rpm]に相当する周波数fR=(R/60)[Hz]における位相遅れ量Plagを求める。
【0098】
カットオフ周波数検出手段42は、このようにして測定されたカットオフ周波数fcと位相遅れ量Plagを外部から取得し、補正メモリ量演算手段43に出力する。そして、第1実施形態と同様にして、補正メモリ量演算手段43が前記した式(6)の計算を行うことで補正メモリ量Dcompを求め、前記した式(7)により、補償信号生成手段31は、メモリ数(Drot−2)からメモリ量Dcomp分を減らしたメモリ数の遅延手段32を構成することができる。
【0099】
ここで、LPFの周波数応答を測定する場合に、LPF単体とする代わりに、制御系安定化手段(LPF)33と前置補償手段35との両方を含めた周波数応答を測定することも可能である。つまり、トラッキング制御動作を実行する前にトラッキング制御装置1から、制御系安定化手段(LPF)33と前置補償手段35とを切り離し、これらを用いてLPFのfcを測定して検出した測定値のデータを外部からカットオフ周波数検出手段42が取得する。このようにすることで、より正確に補正メモリ量Dcompを測定することができる。
【0100】
このように制御系安定化手段(LPF)33と前置補償手段35との両方を含めた周波数応答を測定する場合には、補償信号生成手段31の動作が以下の点で異なる。すなわち、前置補償手段35は、2サンプリング進んだ加算信号e^(k+2)から、kサンプリング時点の前置補償信号eff(k)を生成するように構成されているので、このような測定を行う場合には、前記した式(7)に含まれる「アクチュエータの分母の次数−分子の次数=2[個]」をもはや考慮する必要がない。したがって、このとき、補償信号生成手段31は、前記した式(7)に代えて式(7−2)を用いて、メモリ数(Drot)から補正メモリ量Dcomp分を減らしたメモリ数の遅延手段32を構成すればよい。
【0101】
【数6】

【0102】
なお、第2実施形態のトラッキング制御装置は、カットオフ周波数fcの既知データの代わりにカットオフ周波数fc等の測定値のデータを外部から取得する専用の装置として構成できるだけではなく、この機能を第1実施形態のトラッキング制御装置1に、外部測定値入力モードとして付加して、内部既知データと外部測定データとのいずれか一方を選択的に利用できる装置として構成してもよい。
【0103】
第2実施形態によれば、制御系安定化手段33のLPFのカットオフ周波数fcの情報が取得できない場合やそのデータが未知である場合にも、第1実施形態のトラッキング制御装置と同様な効果を奏することができる。
【0104】
(第3実施形態)
第3実施形態のトラッキング制御装置は、第1実施形態で説明した遅延補正の基本処理(S12)を行う基本モードに加えて、外部コマンド受付モードを有し、基本モードとは異なる特別な動作を実行できるように、図1に示すように、遅延補正手段4にトラッキング誤差検出手段40およびトラッキング誤差判定手段41を備えている。その他の構成および動作は、第1実施形態と同様なので説明を適宜省略し、図1を参照して相違点および外部コマンド受付モードの動作を以下に説明する。
【0105】
トラッキング誤差検出手段40は、トラッキング誤差信号生成手段20で生成されるトラッキング誤差信号(デジタル信号)の大きさを検出し、トラッキング誤差判定手段41に出力するものである。
【0106】
トラッキング誤差判定手段41は、検出されたトラッキング誤差信号の大きさの変動を監視し、検出されたトラッキング誤差信号の大きさの変動に基づいた指令を補償信号生成手段31に出力するものである。
【0107】
外部コマンド受付モードは、補償信号生成手段31の遅延手段32の使用メモリ数の設定値を順次切り換えることで位相遅延分(Plag)を補償するメモリ量の最適値を求めるコマンドを外部から受け付ける動作モードである。つまり、外部コマンド受付モードは、位相遅延分(Plag)を補償する補正メモリ量Dcompを計算により求める基本モードを補完するものとして、その最適値を実測により求めるためのものである。この外部コマンド受付モードでは、制御系安定化手段33のLPFのカットオフ周波数fcが決定されていることを前提としている。
【0108】
外部コマンド受付モードにおいて、遅延補正手段4のメモリ量減算手段44は、外部からコマンドを受け付け、遅延手段32に予め定められた使用メモリ数から所定のメモリ量を減算させる指示として、減算分である、位相遅延分(Plag)を補償するためのメモリ量Dcompの設定値を順次切り替える指示を含めて補償信号生成手段31に順次出力する。ここで、この指示においてメモリ量Dcompの設定値は、使用メモリ数からの減算分のメモリ量という意味なので、前記した式(6)で定義された補正メモリ量Dcompと同様の意味から同じ記号を付したが、この第3実施形態においては、メモリ量Dcompは前記した式(6)の計算結果ではなく、変数である。最終的に確定したメモリ量を補正メモリ量といい、それまでの途中では単にメモリ量という。ここで、メモリ量Dcompの初期値は、例えば、「0」とすることができる。また、順次出力される指示において、メモリ量Dcompは、前の指示値に、1,2,…のように1つずつ加算した値とすることができる。なお、初期値および加算値は、この値に限らない。
【0109】
外部コマンド受付モードにおいて、遅延補正手段4のトラッキング誤差検出手段40は、遅延手段32に試験的に順次設定されたメモリ量に対応して、トラッキング誤差信号生成手段20で順次生成されるトラッキング誤差信号e1の大きさを検出し、検出結果をトラッキング誤差判定手段41に順次出力する。
【0110】
外部コマンド受付モードにおいて、遅延補正手段4のトラッキング誤差判定手段41は、検出結果に基づいて、トラッキング誤差信号の大きさがメモリ数において測定した中で最小となるときに試験的に設定されていたメモリ量分を判別し、当該メモリ量分を指令として、フィードフォワード制御部3の補償信号生成手段31に通知する。
【0111】
外部コマンド受付モードにおいて、補償信号生成手段31は、メモリ量減算手段44から順次出力される指示に応じて、予め定められた使用メモリ数から減算したメモリ数を遅延手段32に試験的に順次設定する。
また、補償信号生成手段31は、トラッキング誤差判定手段41から指令として通知されたメモリ量を、外部コマンド受付モードのコマンドの処理結果である設定値として、遅延手段32に設定する。
【0112】
[具体例]
具体的には、外部コマンド受付モードの動作が開始した時点において、遅延手段32において、例えば、式(8)に示すように、もとのメモリ数Dmが、これまで従来制御系にて構成していたメモリ数「Drot−2」と等しいものとする。
【0113】
【数7】

【0114】
補償信号生成手段31は、遅延手段32のメモリ数Dmが式(8)のように表される状態から、前記した式(7)に従い、変数であるメモリ量Dcompを「0」から1ずつ増やしながらスイープしていく。このとき、トラッキング誤差検出手段40は、トラッキング誤差信号e1の大きさとして、残留トラッキング誤差(TE)の振幅(p−p電圧値[V])を測定する。測定結果をトラッキング誤差判定手段41において判定に用いるために、TEの時間積分値(トータルのTE量)を計測してもよく、あるいは、TEの時間変動を周波数スペクトル表示したときのエネルギー量[dB]を計測してもよい。なお、p−p電圧値を換算して残留トラッキング誤差(TE)[nm]を求めることができる。
【0115】
TEの振幅測定の測定結果において、変数としてスイープ中のメモリ量Dcomp(位相遅れの補償量)が最適になったときには、TE(またはTE量)は最も少なくなるはずである。そこで、トラッキング誤差判定手段41は、補償メモリ量Dcompの変数の増加するにしたがって、TE(またはTE量)が少なくなりまた増加する一歩手前の変数を、最適な位相遅れ補償量である補正メモリ量Dcompとして求めることとした。そして、このときの補正メモリ量Dcompを指令とすることで、補償信号生成手段31は、遅延手段32のメモリ数を決定する。
【0116】
[外部コマンド受付モードの動作]
次に、第3実施形態のトラッキング制御装置の外部コマンド受付モードの動作について図7を参照(適宜図1参照)して説明する。図7は、トラッキング誤差安定時の遅延補正処理を示すフローチャートである。ここでは、外部コマンド受付モードは、突発外乱ではなく周期的外乱のみがあるようなトラッキング誤差が安定している状態で動作するものとした。
【0117】
第3実施形態のトラッキング制御装置は、外部コマンド受付モードにおいて、遅延補正手段4のメモリ量減算手段44によって、外部からコマンドを受け付け(ステップS31)、補償信号生成手段31に対してメモリ量の設定値を順次切り替える指示を出力する(ステップS32)。そして、補償信号生成手段31は、メモリ量減算手段44から出力される最初の指示に応じて、外部コマンドに対する仮の応答結果として、メモリ量の設定値の初期値としてDcomp=0を遅延手段32に設定する(ステップS33)。トラッキング誤差検出手段40は、現在のトラッキング誤差信号e1の大きさとして、TEの振幅を測定し(ステップS34)、トラッキング誤差判定手段41は、トータルのTE量等の測定値が最小になったか否かを判別する(ステップS35)。
【0118】
ステップS35において、測定値が最小になっていない場合(ステップS35:No)、第3実施形態のトラッキング制御装置は、トラッキング誤差判定手段41によって、その旨を補償信号生成手段31に通知し、補償信号生成手段31によって、現在のメモリ量の設定値Dcompに「1」を加算して遅延手段32に設定し(ステップS36)、ステップS34に戻る。
【0119】
一方、ステップS35において、測定値が最小になった場合(ステップS35:Yes)、第3実施形態のトラッキング制御装置は、外部コマンドに対する最終的な応答結果として、測定値が最小であるときのメモリ量の設定値(変数)を補正メモリ量Dcompとして遅延手段32に設定し(ステップS37)、処理を終了する。
【0120】
第3実施形態によれば、トラッキング制御装置は、外部コマンド受付モードで動作することにより、位相遅延分Plagを補償するためのメモリ量を計算により求める基本動作を補完するべく、その最適値を実測により求めることができる。これにより、トラッキング制御装置の実際の動作を反映した安定性を確保しつつ、残留トラッキング誤差の増大を抑制し、制御性能を向上させることができる。
【0121】
(第3実施形態の変形例)
第3実施形態では、外部コマンド受付モードでは、前記した式(6)を使わずに、変数としてのメモリ量Dcompの最適値を求めたが、前記した式(6)を補助的に利用することも可能である。
【0122】
この場合、第3実施形態の変形例のトラッキング制御装置は、補助的な第1段階にて、第1および第2実施形態と同様に、遅延補正手段4の補正メモリ量演算手段43によって、制御系安定化手段(LPF)33の伝達関数や周波数応答から前記した式(6)で、おおよそのメモリ量Dcompを求める。
【0123】
そして、第2段階にて、求めたメモリ量Dcompを変数の初期値として、変数としてのDcompを増減してスイープし、トラッキング誤差検出手段40にてTE量を観測し、TEが最小になるときのDcompを求め、最終的に求められたDcompを最適な補償量とする。この変形例によれば、最適な補償量を迅速に求めることができる。
【0124】
(第4実施形態)
第4実施形態のトラッキング制御装置は、第1実施形態で説明した遅延補正の基本処理(S12)に加えて、フィードフォワード制御部3の制御系安定化手段(LPF)33のカットオフ周波数fcを変化させることができる構成としたものである。このため、図1に示すように、遅延補正手段4にトラッキング誤差検出手段40およびトラッキング誤差判定手段41を備えている。その他の構成および動作は、第1実施形態と同様なので説明を適宜省略し、図1を参照して相違点を以下に説明する。
【0125】
トラッキング誤差検出手段40は、トラッキング誤差信号生成手段20で生成されるトラッキング誤差信号の大きさを検出するものである。
トラッキング誤差判定手段41は、検出されたトラッキング誤差信号の大きさの変動を監視し、検出されたトラッキング誤差信号の大きさの変動に基づいた指令を制御系安定化手段33に出力するものである。出力される指令の詳細は、第4実施形態のトラッキング制御装置の動作と共に後記して説明する。
【0126】
[トラッキング制御装置の動作]
第4実施形態のトラッキング制御装置の遅延補正手段による処理について図5を参照(適宜図1参照)して説明する。第4実施形態のトラッキング制御装置は、遅延補正手段4において、トラッキング誤差検出手段40によって、現在のトラッキング誤差信号e1の大きさを測定する(ステップS10)。そして、遅延補正手段4は、トラッキング誤差判定手段41によって、トラッキング誤差が安定しているか否かを判別する(ステップS11)。トラッキング誤差が安定している場合(ステップS11:Yes)、遅延補正手段4は、遅延補正の基本処理を実行し(ステップS12)、その後、ステップS10に戻る。なお、ステップS12の遅延補正の基本処理の詳細は前記した通りである。ここで、トラッキング誤差が安定しているか否かを判定するために、安定状態の基準が予め定められている。
【0127】
一方、ステップS11において、トラッキング誤差が安定していない場合(ステップS11:No)、トラッキング誤差判定手段41は、トラッキング誤差の変動を判別する(ステップS21)。トラッキング誤差の変動が増加している場合、トラッキング誤差判定手段41は、LPFのカットオフ周波数fcの設定値を下げる指示を制御系安定化手段33に出力する(ステップS22)。ここで、トラッキング誤差の変動が増加している場合とは、装置における外乱が少ない状態から多い状態に変化している場合を示している。そして、本実施形態では、トラッキング誤差判定手段41が制御系安定化手段33に対して、カットオフ周波数fcを下げるように指示するタイミングは、トラッキング制御装置が安定にサーボ動作しなくなるほどに外乱が多い状態になる直前としている。なお、このような動作は予め実験等により所定の閾値を定めることで実現できる。
【0128】
一方、ステップS21において、トラッキング誤差の変動が減少している場合、LPFのカットオフ周波数fcの設定値を上げる指示を制御系安定化手段33に出力する(ステップS23)。ここで、トラッキング誤差の変動が減少している場合とは、装置における外乱が多い状態から少ない状態に変化している場合を示している。そして、ステップS22またはステップS23に続いて、第4実施形態のトラッキング制御装置は、制御系安定化手段33によって、LPFに指示通りの新たなカットオフ周波数fcを設定し(ステップS24)、その後、ステップS10に戻る。なお、トラッキング誤差の変動が増加状態であるのか、あるいは、現象状態であるのかについて判定する基準は、安定状態と共に予め定められている。
【0129】
なお、第4実施形態のトラッキング制御装置は、遅延補正手段4に備えるトラッキング誤差検出手段40およびトラッキング誤差判定手段41等を、第3実施形態で説明した外部コマンド受付モードの動作を実行できるように構成してもよい。
【0130】
第4実施形態によれば、トラッキング制御装置は、トラッキング誤差の変動が増加している場合には、LPFのカットオフ周波数fcを下げることができる。このようにLPFのカットオフ周波数の変動の前後で、フィードフォワード制御部3の遅延手段32のメモリ数が変わっていないため、LPFのカットオフ周波数fcが低下した分、残留トラッキング誤差量は全体的に増加することとなるが一定の精度を保つことができる。したがって、トラッキング制御装置は、外乱に応じて、LPFのカットオフ周波数fcの値を柔軟に切り替えることにより、安定した動作を継続することができる。
【0131】
(第4実施形態の変形例)
第4実施形態では、LPFのカットオフ周波数の変動の前後で、フィードフォワード制御部3の遅延手段32のメモリ数が変わっていないものとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、カットオフ周波数の設定変更に連動して遅延手段32のメモリ数を変動させることができる。つまり、LPFのカットオフ周波数fcをある周波数に下げた際に、下がった周波数に応じた補正メモリ量Dcompを決定し、遅延手段32のメモリ数を減少する。ここで、下がった周波数に応じた補正メモリ量Dcompの決定方法として、例えば下記(b1)または(b2)の方法を採用可能である。
【0132】
(b1)第1〜第3実施形態のいずれかと同様に制御する。
(b2)トラッキング誤差の変動の増加の程度に応じて、LPFのカットオフ周波数fcが有限な個数の設定値fc1〜fcnに限られている場合には、それら周波数の設定値fc1〜fcnに応じた補正メモリ量Dcomp1〜Dcompnの情報を予めテーブルとして用意し、補償信号生成手段31やトラッキング誤差判定手段41等において保持しておく。この場合、LPFのカットオフ周波数の設定値fc1〜fcnに応じて、補正メモリ量Dcomp1〜Dcompnを選択的に切り換え、補償信号生成手段31が遅延手段32のメモリ数を減少させることができる。
【0133】
(b1)または(b2)の方法により、LPFのカットオフ周波数の設定値が下がっても、トラッキング制御装置の制御性能を低下させず、安定に制御系を動作させることができる。したがって、トラッキング制御装置における突発的な外乱に応じてLPFのカットオフ周波数fcの値を柔軟に切り替え、かつ、遅延手段32のメモリ数を減少させることで、突発外乱に対しても、安定した動作と制御性能の向上を頑健に維持することができる。
【0134】
(第5実施形態)
本発明は、図1に示すような制御系に限らず、同様の、メモリ(遅延手段32)と制御系安定化手段(LPF)33を兼ね備えるフィードフォワード制御系をもつトラッキング制御系であれば、同様の効果を奏することから、第1ないし第4実施形態に限定される制御系に限らず、適用できるものである。
【0135】
図8は、本発明の第5実施形態に係るトラッキング制御装置の構成を模式的に示すブロック図である。図8に示すように第5実施形態のトラッキング制御装置1Dは、繰返し補償制御部50を、フィードバック制御系2で行われる補正における外乱の影響を抑制する制御系として採用して構成したものである。したがって、フィードバック制御系2や遅延補正手段4等の同じ構成には図1と同じ符号を付して説明を適宜省略し、相違点を以下に説明する。
【0136】
トラッキング制御装置1Dは、フィードバック制御系2による制御に加え、繰り返し制御の原理に従い、図8中の遅延手段32が、ディスク1回転分のトラッキング誤差信号を、メモリ(遅延手段32)に取り込み、遅延させた信号を、走査に対応したトラッキング誤差信号とあらためて加え合わせることで、高精度制御を行うものである。
【0137】
なお、制御系に外乱が入力した場合に、制御系が不安定になり、制御不可能になり易いことから、フィードバック制御系2の制御帯域より低いカットオフ周波数に設定している低域通過フィルタ(LPF)や、利得調整を行って繰り返し加え合わせることで、高精度な制御系を構成することは公知である(例えば、特開平8−77589号公報、特開平11−86309号公報、特開2003−85786号公報参照)。
【0138】
繰り返し補償制御部50は、図8に示すように、補償信号生成手段31および制御系安定化手段(LPF)33の他に、利得調整手段52を備えている。
トラッキング制御装置1Dにおいて、フィードバック制御系2の安定化補償手段23に送られる前の信号(駆動信号)は、繰り返し補償制御部50の補償信号生成手段31中の遅延手段32に挿入される。
【0139】
補償信号生成手段31は、この駆動信号(入力信号)を遅延手段32により遅延させた補償信号(トラッキング誤差補償信号)を生成し、制御系安定化手段(LPF)33に入力する。ここで、遅延手段32は、ディスク1回転分のトラッキング誤差信号をメモリできる長さに調整されている。
【0140】
繰り返し補償制御部50の制御系安定化手段(LPF)33は、低域通過フィルタ(LPF)により制御系を安定化させるもので、トラッキング誤差補償信号の低域成分を通過させて波形を整形する。
【0141】
利得調整手段52は、制御系安定化手段33を通過した補償信号の大きさに所定の係数を乗じることで当該補償信号の利得を調整するものである。なお、利得調整手段52は、制御系安定化手段33のLPFに対応して調整されている。そして、利得が調整された補償信号は、フィードバック制御系2の加算手段22に入力し、ディスク1回転前のトラッキング誤差信号として、走査中のトラックに対するトラッキング誤差信号e1と加算されて光スポット位置x(t)を操作するための駆動信号となる。この加算手段22で生成された駆動信号は、補償信号生成手段31に入力する。これにより、繰り返し補償制御部50の閉ループが形成される。これを、繰り返し加算し続けることで、トラッキング誤差信号を抑圧することができる。
【0142】
これに加え、トラッキング制御装置1Dは、例えば第1実施形態と同様に、制御系安定化手段(LPF)33のカットオフ周波数fcをカットオフ周波数検出手段42により検出し、制御サンプリング周波数fsを制御サンプリング周波数検出手段45で検出し、これらを、補正メモリ量演算手段43にて、前記した式(6)に従って用いることで、減算分の補正メモリ量Dcompを計算し、メモリ量減算手段44にて、補正メモリ量分を、繰り返し補償制御部50中の、補償信号生成手段31中の遅延手段32のメモリ数から減算する指令を出す。
【0143】
これを受けた繰り返し補償制御部50中の補償信号生成手段31は、これまで従来の繰り返し制御系にて構成していたメモリ量に対し、補正メモリ量Dcomp分を減らした分のメモリ数の遅延手段32の構成とする。例えば、補償後の遅延手段32のメモリ量Dmは、前記した式(7−2)のように計算される。
【0144】
ここで、遅延補正手段4の動作、すなわち、遅延補正手段4から、繰り返し補償制御部50の補償信号生成手段31および制御系安定化手段(LPF)33に対する指示等は、第1実施形態で説明したものと同様なので適宜説明を省略した。なお、繰り返し補償制御部50の構成は、第2ないし第4実施形態で説明した構成にも同様に適用できる。
【0145】
[トラッキング制御装置の動作]
図9は、図8に示したトラッキング制御装置の全体処理を示すフローチャートである。
トラッキング制御装置1Dは、繰り返し補償制御部50において、トラッキング誤差信号の予測値として制御系安定化手段(LPF)33を通過したトラッキング誤差補償信号に基づいて、利得調整手段52によって、利得を調整したトラッキング誤差補償信号を生成する(ステップS41)。そして、トラッキング制御装置1Dは、フィードバック制御系2において、加算手段22によって、走査中のトラックに対するトラッキング誤差信号e1と、トラッキング誤差補償信号とを加算し加算信号e^(k)を生成する(ステップS42)。
【0146】
そして、トラッキング制御装置1Dは、ステップS42に続く処理を分岐して並列に行う。ステップS42に続く第1分岐処理では、トラッキング制御装置1Dは、繰り返し補償制御部50において、補償信号生成手段31によって、加算信号e^(k)を遅延手段32に設定されたメモリ数に相当する時間だけ遅延させ(ステップS43)、この遅延信号を制御系安定化手段(LPF)33に入力する。そして、繰り返し補償制御部50は、制御系安定化手段(LPF)33によって、遅延信号(補償信号)の波形を整形し、利得調整手段52に入力し(ステップS44)、閉ループを形成するため、ステップS41に戻る。
【0147】
一方、ステップS42に続く第2分岐処理では、ステップS42で加算した信号(加算信号e^(k))は、D/A変換手段24でアナログ信号化される。そして、フィードバック制御系2は、光スポット位置補正手段25によって、加算した信号(D/A変換手段24でアナログ信号化された駆動信号)を用いてトラッキング制御を行い(ステップS45)、光スポット位置をトラッキング誤差信号生成手段20に入力する。これにより、トラッキング制御装置1Dは、第2分岐処理においてもステップS41に戻る。
【0148】
第5実施形態によれば、トラッキング制御装置は、従来のZPET−FF制御系を改良だけではなく、従来の繰返し補償制御系を改良したトラッキング制御装置を容易に構成することができる。
【0149】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、その趣旨を変えない範囲で様々に実施することができる。例えば、各実施形態では、光ディスク装置のトラッキング制御系を例にして説明したが、フォーカス制御系についても、同様に適用可能である。また、光ディスク装置に限らず、磁気ディスク装置や光磁気ディスク装置などの、ディスク回転とサーボ制御を伴う装置にも、同様の制御系が搭載可能であれば適用可能である。
【実施例】
【0150】
本発明の効果を確認するために各実施形態に係るトラッキング制御装置の制御性能を測定した。
【0151】
(実験1)
具体的には、従来の光ディスク装置のZPET−FF制御系をもとに、本発明を用い、第3実施形態に従い動作させた場合の、トラッキング誤差特性(シミュレーション計算結果)を測定した。計算条件は、回転数R=10800[rpm]、制御サンプリング周波数fs=100[kHz]とし、光ディスクの偏心量=30[μm]とした。また、LPFのカットオフ周波数fc=1.6[kHz]として計算している。結果を表1に示す。なお、表1において、残留トラッキング誤差R_TE(Residual tracking error)は、電圧値から換算された長さで示した。また、項目「サーボ動作安定性」の欄は、制御系を実装する場合、制御対象のアクチュエータを数値モデル化して設計する際に、線形な伝達関数で近似したモデルと実際上の誤差に対し、許容しうるかしないか(安定に動作するかしないか)をそれぞれ○と×にて示したものである。
【0152】
【表1】

【0153】
表1において、比較例1は、制御系安定化手段33のない場合(あるいはLPFのカットオフ周波数を無限大(infinity)にした場合)である。この場合、残留トラッキング誤差R_TE=0.27907[nm]となった。ただし、比較例1のサーボ動作安定性は不良(×)であった。これに対し、実施例1−7および比較例2は、LPF(fc=1.6[kHz])を挿入して測定したものである。これにより、実施例1−7および比較例2は、サーボ動作安定性が良好(○)になった。
【0154】
ただし、比較例2の場合には、メモリ数を減算していない、すなわち、メモリ進み補償をしていない(Dcomp=0)。このため、比較例2の場合には、残留トラッキング誤差(R_TE)=1.9691[nm]となり、比較例1よりも、R_TE量が増えて追従性能(サーボ動作安定性)が悪くなっている。これは、LPFのカットオフ周波数fcが低くなれば低くなるほど、同じディスク回転数R[rpm]におけるR_TEの値は悪くなり、制御性能が悪くなる傾向にあるためである(実験3の表3参照)。
【0155】
これに対し、実施例1−7のようにメモリの補償を行った場合、表1に示すように、メモリ進み補償量Dcompによって、制御性能が変化する。すなわち、|Dcomp|を「0」から増やしていくと、残留トラッキング誤差R_TEは除々に減る。特に、実施例5のメモリ進み補償量Dcomp=−11のとき、残留トラッキング誤差R_TEは最も低くなり、その値は0.16785[nm]となった。なお、実施例4−6は、比較例2よりも制御性能が高い。従来、メモリの補償を行っていない比較例2と比べて最も制御性能がよいと考えられていたのは、比較例1(LPFなし)の方法である。しかしながら、本発明による手法によれば、その比較例1(LPFなし)の方法と同等か、更にその制御性能を上回るような非常に制御精度の高い結果となった。これより本発明の有用性は自明である。
【0156】
(実験2)
また、従来技術と、本発明による回転数7200[rpm]におけるトラッキング制御系の開ループ応答(ゲイン特性)のシミュレーション計算を行った。計算結果を表2および図10に示す。なお、表2には、計算条件と、7200[rpm]相当の周波数120[Hz]におけるゲインとを比較して示した。図10は、表2の比較例3−5および実施例8の制御系に対応している。
【0157】
【表2】

【0158】
図10および表2の周波数応答の結果から分かるように、従来技術によるZPET−FF制御系(比較例4:LPFを挿入していないもの)ではディスク回転数R[rpm]に相当する周波数120[Hz]とその高調波付近に、急激にゲインのピークが表れる。
従来技術のFB制御(比較例3)が120[Hz]付近で67.1[dB]であるのに対し、比較例4は、110[dB]となり、誤差抑圧性能が高くなる。
一般に、トラッキング誤差信号の波形のスペクトル成分は、ディスク回転数R[rpm]やその高調波の周波数付近にほとんどのスペクトル成分をもつため、それぞれの周波数でゲインが高く誤差抑圧能力が高くなるのがわかる。
【0159】
ここで、制御系安定化手段(LPF)33を挿入した従来技術のZPET−FF制御系(比較例5)の周波数応答を厳密に見ると、ゲインのピークは、所望の120[Hz]から4[Hz]ほど低い周波数付近にピークがきてしまい、所望の120[Hz]付近では79.2[dB]と、十分に誤差抑圧していないため、誤差抑圧能力が下がることがわかる。
【0160】
これに対し、本発明による制御系(実施例8:以下、ZPETm−FF制御系という)は、制御系安定化手段(LPF)33に対するメモリ補償により、周波数のピークが120[Hz]に移動し、120[Hz]におけるゲインは101[dB]と、従来ZPET−FF制御(比較例5)の79.2[dB]から大幅にゲインが向上し、LPFなしの比較例4とほぼ同等の誤差抑圧効果が得られる。これにより、周波数応答からも本発明の効果は明らかであり、本発明の有用性も自明である。
【0161】
前記した表1の結果では、ほぼ同等の性能が得られつつも、本発明によるトラッキング制御系がわずかに従来のZPET−FF制御系の値を上回った例であった。それに対し、表2の開ループのゲインでは、ほぼ同等の性能が得られつつも、本発明による制御系の結果が少し低くなっている例である。これは、カットオフ周波数fcやディスク回転数R[rpm]により、わずかにTE値の差が変わることもあることに起因している。
【0162】
いずれにせよ、表1に示すように、制御系安定化手段(LPF)33を挿入した制御系という枠組みにおいては、本発明によるメモリ補償を行った制御系のTE値は、従来技術の制御系のTE値と比較相対したときに、LPFのない従来技術と同等の高精度な性能が得られていることを特記する。
【0163】
また、表1に示すように、|Dcomp|を「0」から増やして、実施例5のDcomp=−11のときから、さらに増やしていくと、残留トラッキング誤差R_TEの特性は徐々に悪くなっていく傾向にある。つまり、表1において比較例2,実施例7,実施例6,実施例5,…,実施例1と|Dcomp|を増やしていき、残留トラッキング誤差R_TEの観測結果が最も少なくなった実施例5にすることで、最もトラッキング性能のよい状態にし、トラッキング制御装置1を動作させることにより、第3実施形態で説明した外部コマンド受付モードの動作が可能となる。
【0164】
(実験3)
光ディスク装置を用いて、第3実施形態のトラッキング制御装置のトラッキング誤差量を測定した。使用した光ディスク装置には、青紫色レーザ(レーザ波長405[nm])を搭載したブルーレイ(登録商標)ディスクと同様の光学系(トラックピッチ0.32[μm],25.0[GB])を搭載した。また、測定条件として、制御サンプリング周波数を100[kHz]、次数を2次としたLPFを実装した。実験結果の一例を表3に示す。なお、表3において、残留トラッキング誤差R_TEは、電圧値で示した。
【0165】
【表3】

【0166】
表3において、比較例6が従来のフィードバック制御(FB制御)による実験結果である。また、実施例9−15が本発明に係る制御系(ZPETm−FF制御)による実験結果である。実施例9,実施例10,実施例11と、補償メモリ量Dcompを変えずに、制御系安定化手段(LPF)33のfcを上げていくと、カットオフ周波数fcの増加によって、残留トラッキング誤差R_TEが低下し、制御性能が向上するのがわかる。
【0167】
また、LPFのカットオフ周波数をfc=800[Hz]の一定値として行った実施例11−15の実験では、第3実施形態で説明した外部コマンド受付モードの動作のように、変数としてDcompを変化させると、実施例12−15は、実施例9−11よりもさらに制御性能を向上させることができる。特に、実施例15のときに制御性能が高いことがわかる。
【0168】
ちなみに、表3において、「R_TE」の項目は、トラッキング誤差信号の波形の測定時に測定用フィルタ(LPFmeas)を挿入しなかった場合を示す。また、表3において、「R_TE2」の項目は、トラッキング誤差信号の波形の測定時に測定用のフィルタ(LPFmeas、fc=1.8[kHz])を挿入して測定した場合を示すものである。
【0169】
実験3により測定した閉ループ応答結果としてのトラッキング誤差信号の波形の一部を、図11−14に示す。なお、図11−14のグラフにおいて、上段が「測定用フィルタ有り」、下段が「測定用フィルタ無し」をそれぞれ示している。
【0170】
比較例6(FB制御)におけるトラッキング誤差信号の波形:図11
実施例9(ZPETm−FF制御,500[Hz],Dcomp=24)におけるトラッキング誤差信号の波形:図12
実施例11(ZPETm−FF制御,800[Hz],Dcomp=24)におけるトラッキング誤差信号の波形:図13
実施例15(ZPETm−FF制御,800[Hz],Dcomp=44)におけるトラッキング誤差信号の波形:図14
【0171】
実験3の結果の一例は、必ずしも、計算モデルと同様の性能改善の結果が得られているとは限らないが、これは、対象の外乱やモデル化誤差を含むためである。しかしながら、補正メモリ量Dcompの設定により、本発明による制御系が高性能に動作していることが見て取れる。
【産業上の利用可能性】
【0172】
本発明は、光ディスクの記録や再生に用いられる光ピックアップのトラッキング制御装置だけではなく、光磁気ディスク装置、磁気ディスク装置等の他のディスク装置に関するトラッキング制御装置にも適用できる。また、同様な制御を行うことにより、光ディスク装置等のディスク装置に関するフォーカス制御装置に適用できる。さらに、これらトラッキング制御装置およびフォーカス制御装置を備えた光ディスク再生装置、記録装置などのディスク再生装置、記録装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0173】
1,1D トラッキング制御装置
1B フォーカス制御装置
2 フィードバック制御系
20 トラッキング誤差信号生成手段
21 A/D変換手段
22 加算手段(補正操作量生成手段)
23 安定化補償手段
24 D/A変換手段
25 光スポット位置補正手段(半径方向光スポット位置補正手段、トラッキングアクチュエータ)
3 フィードフォワード制御部
30 加算手段
31 補償信号生成手段
32 遅延手段
321〜32n 第1小遅延手段〜第n小遅延手段
33 制御系安定化手段(LPF)
34 演算手段
35 前置補償手段
36 演算手段
37 トラッキング誤差補償信号生成手段
38 演算手段
4 遅延補正手段
40 トラッキング誤差検出手段
41 トラッキング誤差判定手段
42 カットオフ周波数検出手段
43 補正メモリ量演算手段
44 メモリ量減算手段
45 制御サンプリング周波数検出手段
461〜46n 第1切換手段〜第n切換手段
47 信号送出手段
1D トラッキング制御装置
50 繰り返し補償制御部
52 利得調整手段
101 光ディスク装置
110 光ディスク
120 スピンドルモータ
130 光ディスク制御装置
131 集光方向光スポット位置補正手段(フォーカスアクチュエータ)
132 光ヘッド
133 記録再生制御部
140 回転制御部
150 主制御部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標値であるディスク上のトラック位置と光ヘッドから出射される光ビームの光スポット位置との誤差を示すトラッキング誤差信号に基づいて前記光スポット位置の補正を行うフィードバック制御系と、前記トラッキング誤差信号に基づいて前記フィードバック制御系で行われる補正における外乱の影響を抑制する制御系と、前記外乱の影響を抑制する制御系における信号の位相遅延を補正する遅延補正手段とを用いて、前記光スポット位置を制御するトラッキング制御装置であって、
前記外乱の影響を抑制する制御系は、
所定期間の前記トラッキング誤差信号を記憶する容量に対応した予め定められた使用メモリ数に設定されたメモリに前記トラッキング誤差信号を記憶する遅延手段を有し、この遅延手段により遅延させた信号を補償信号として生成する補償信号生成手段と、
前記補償信号生成手段で生成された補償信号に対して、予め定められた高域ノイズの周波数以下の低周波数成分のみを通過させる低域通過フィルタのデジタルフィルタとして動作する制御系安定化手段とを備え、
前記フィードバック制御系は、
前記トラック位置と前記光スポット位置との誤差を示すトラッキング誤差信号を生成するトラッキング誤差信号生成手段と、
前記制御系安定化手段を通過して前記フィードバック制御系に出力された信号と、前記生成したトラッキング誤差信号とを加算することで、前記光スポット位置を補正するための操作量である補正操作量を駆動信号として生成する補正操作量生成手段と、
前記生成された駆動信号に基づき前記光スポット位置を補正する光スポット位置補正手段とを備え、
前記遅延補正手段は、
当該トラッキング制御装置の制御クロックの動作サンプリング周波数と、前記低域通過フィルタのカットオフ周波数と、前記ディスクの予め定められた定常動作回転数とに基づいて、前記定常動作回転数に相当する角周波数における位相遅延分を補償するためのメモリ量を算出する補正メモリ量演算手段と、
前記遅延手段に予め定められた使用メモリ数から、少なくとも前記補正メモリ量演算手段で算出されたメモリ量分を減算させる指示を、前記補償信号生成手段に出力するメモリ量減算手段とを備え、
前記補償信号生成手段は、前記メモリ量分を減算する指令に基づいて、前記予め定められた使用メモリ数から前記メモリ量分を減算したメモリ数を前記遅延手段に設定することを特徴とするトラッキング制御装置。
【請求項2】
前記トラッキング誤差信号生成手段で生成されるトラッキング誤差信号の大きさを検出するトラッキング誤差検出手段と、
前記検出されたトラッキング誤差信号の大きさの変動を監視し、前記検出されたトラッキング誤差信号の大きさの変動に基づいた指令を前記補償信号生成手段に出力するトラッキング誤差判定手段とをさらに備えると共に、
動作モードとして、前記遅延手段の使用メモリ数の設定値を順次切り換えることで前記位相遅延分を補償するメモリ量の最適値を求めるコマンドを外部から受け付ける外部コマンド受付モードを有し、
この外部コマンド受付モードにおいて、
前記遅延補正手段のメモリ量減算手段は、前記コマンドを受け付け、前記遅延手段に予め定められた使用メモリ数から所定のメモリ量分を減算させる指示として、減算分である、前記位相遅延分を補償するためのメモリ量の設定値を順次切り替える指示を含めて前記補償信号生成手段に出力し、
前記補償信号生成手段は、前記順次出力される指示に応じて、前記予め定められた使用メモリ数から前記所定のメモリ量分を減算したメモリ数を前記遅延手段に試験的に順次設定し、
前記トラッキング誤差検出手段は、前記遅延手段に試験的に順次設定されたメモリ数に対応して、前記トラッキング誤差信号生成手段で順次生成されるトラッキング誤差信号の大きさを検出し、
前記トラッキング誤差判定手段は、前記トラッキング誤差信号の大きさが前記メモリ数において測定した中で最小となるときに試験的に設定されていたメモリ量分を判別し、当該メモリ量分を前記指令として前記補償信号生成手段に通知し、
前記補償信号生成手段は、前記通知されたメモリ量分を、前記コマンドの処理結果である設定値として、前記遅延手段に設定することを特徴とする請求項1に記載のトラッキング制御装置。
【請求項3】
前記トラッキング誤差信号生成手段で生成されるトラッキング誤差信号の大きさを検出するトラッキング誤差検出手段と、
前記検出されたトラッキング誤差信号の大きさの変動を監視し、前記検出されたトラッキング誤差信号の大きさの変動に基づいた指令を前記制御系安定化手段に出力するトラッキング誤差判定手段とをさらに備え、
前記トラッキング誤差判定手段は、
前記トラッキング誤差信号の大きさの変動が予め定められた安定状態、増加状態または減少状態のいずれであるかを判別し、
前記トラッキング誤差信号の大きさの変動が安定状態である場合に、前記カットオフ周波数を現在の設定値に維持するように指示し、
前記トラッキング誤差信号の大きさの変動が増加状態となった場合に、前記カットオフ周波数を現在の設定値よりも低い所定値に下げるように指示し、
前記トラッキング誤差信号の変動の大きさが減少状態となった場合に、前記カットオフ周波数を現在の設定値よりも高い所定値に上げるように指示し、
前記制御系安定化手段は、前記トラッキング誤差判定手段からの指示に基づいて、前記低域通過フィルタのカットオフ周波数の値を切り替えて設定することを特徴とする請求項1に記載のトラッキング制御装置。
【請求項4】
前記トラッキング誤差判定手段は、
前記トラッキング誤差信号の大きさの変動が、前記予め定められた安定状態、増加状態または減少状態のいずれかに変化した場合に、さらに前記補正メモリ量演算手段に対して、演算に用いているカットオフ周波数を、前記制御系安定化手段で設定された前記低域通過フィルタのカットオフ周波数の値に切り替えるように指示し、
前記補正メモリ量演算手段は、前記指示に基づいて、前記カットオフ周波数の値を切り替えてから、前記位相遅延分を補償するためのメモリ量を算出することを特徴とする請求項3に記載のトラッキング制御装置。
【請求項5】
前記外乱の影響を抑制する制御系は、フィードフォワード制御部であり、
このフィードフォワード制御部は、
前記制御系安定化手段を通過した補償信号の振幅及び位相の補償を行った前置補償信号を、第1のパルス伝達関数によって生成する前置補償手段と、
前記光スポット位置の目標値に起因して前記トラッキング誤差信号生成手段で生成されるトラッキング誤差信号の予測値としてトラッキング誤差補償信号を、前記前置補償手段で生成された前置補償信号と第2のパルス伝達関数とによって生成するトラッキング誤差補償信号生成手段と、
前記生成されたトラッキング誤差補償信号と、前記トラッキング誤差信号生成手段で生成されるトラッキング誤差信号とを加算して加算信号を生成する加算手段とをさらに備え、
前記補正操作量生成手段は、前記前置補償信号と、前記生成したトラッキング誤差信号とを加算することで前記駆動信号を生成し、
前記補償信号生成手段は、前記加算手段で生成された加算信号を、前記ディスクが少なくとも1回転する期間に亘って記憶する容量に対応した予め定められた使用メモリ数に設定されたメモリに記憶する遅延手段を有し、この遅延手段により遅延させた信号を前記補償信号として生成することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のトラッキング制御装置。
【請求項6】
前記外乱の影響を抑制する制御系は、繰返し補償制御部であり、
この繰返し補償制御部は、前記制御系安定化手段を通過した補償信号の大きさに所定の係数を乗じることで当該補償信号の利得を調整する利得調整手段をさらに備え、
前記補正操作量生成手段は、前記利得が調整された補償信号と、前記生成したトラッキング誤差信号とを加算することで前記駆動信号を生成し、
前記補償信号生成手段は、前記補正操作量生成手段で生成された駆動信号を、前記ディスクが少なくとも1回転する期間に亘って記憶する容量に対応した予め定められた使用メモリ数に設定されたメモリに記憶する遅延手段を有し、この遅延手段により遅延させた信号を前記利得が調整される前の補償信号として生成することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載のトラッキング制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−198654(P2010−198654A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39129(P2009−39129)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【出願人】(591053926)財団法人エヌエイチケイエンジニアリングサービス (169)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】