説明

トラヒックキャッシュシステム及びキャッシュ置き換え方法及びキャッシュ装置及びキャッシュプログラム

【課題】 対象とするアプリケーション数を用意しなければならなかったキャッシュ装置の一括管理を可能とし、装置及び管理コストを削減する。
【解決手段】 本発明は、ISP毎のトラヒックデータを取得して、該トラヒックデータに占めるアプリケーションの割合を求め、アプリケーション別のコンテンツアクセス量データを取得して、アクセス数に基づいてコンテンツの人気度を求め、人気度を取得して、重複しているアプリケーションを抽出し、アプリケーションの割合、重複しているアプリケーション、及び、アプリケーション別の人気度に基づいて、スコアを求め、ランキングリストを生成し、ランキングリストに基づいて、キャッシュ済みのコンテンツの中で最もランキングが低いコンテンツjと、リクエストされたコンテンツiのスコアを比較して、スコアがi>jであれば該コンテンツiをキャッシュ領域にダウンロードする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のアプリケーションに対応したP2P (Peer to Peer)システムにおけるトラヒックキャッシュシステム及びキャッシュ置き換え方法及びキャッシュ装置及びキャッシュプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ファイル共有や動画配信などの需要の高まりから、P2P(Peer to Peer)システムが広く利用されている。それに伴い、P2Pトラヒックはインターネットにおける総トラヒック量の大部分を占めるようになり、ISP(Internet Service Provider)にとってはP2Pトラヒックの削減が大きな課題となっている。
【0003】
P2Pのトラヒックを削減する1つの手段として、図5のように、ISP毎にキャッシュ装置を設け、ピアからリクエストのあったコンテンツをキャッシュ装置から配信することで、ISP間のトラヒックを削減することが有効である。図5のトポロジでは、ISP Aに属しているホストAがISP Bに属するノードBへコンテンツのダウンロードを行うとき、通常は点線のようなデータがやり取りされる。キャッシュ装置を設けた場合は、他のISPへのリンクにおいてP2Pのリクエストパケットをミラーリングし、キャッシュ装置が代わりにコンテンツを配信することにより、ISP内にトラヒックを閉じ込めることが可能である。
【0004】
P2Pキャッシュ技術には、キャッシュ装置の配置技術(例えば、非特許文献1参照)とキャッシュコンテンツ置き換え技術(例えば、非特許文献2,3参照)がある。
【0005】
キャッシュ装置の配置技術(非特許文献1)は、総P2Pトラヒック量を最小化するように最適なキャッシュ配置を求める技術である。キャッシュコンテンツ置き換え技術(非特許文献2,3)は、キャッシュに保存するコンテンツを決定する技術である。キャッシュに保存しておくコンテンツは、人気がある(頻繁にダウンロードされる)コンテンツをキャッシュした方が、キャッシュのヒット率が上昇するため、ISP間トラヒックを削減できる。非特許文献2,3では、P2Pコンテンツの人気度特性を計測し、それを基にキャッシュを置き換える方法を示している。
【0006】
P2P以外のコンテンツを対象としたキャッシュシステムとして、Web用キャッシュ(例えば、特許文献1、2参照)、CDN(Contents Delivery Network)用キャッシュ(例えば、特許文献3,4参照)がある。Web用キャッシュは、現在広く普及しており、様々なシステムで実用化されている。CDN用キャッシュは、ストリーミング型配信(特許文献3)、ダウンロード型配信(特許文献4)などの用途により、専用のシステムが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000-003368号公報.
【特許文献2】特開2005-063192号公報.
【特許文献3】特開2006-171822号公報.
【特許文献4】特開2003-242019号公報.
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M. Hefeeda and O. Saleh, "Traffic Modeling and Proportional Partial Caching for Peer-to-Peer Systems", IEEE/ACM Trans. Netw., 2008.
【非特許文献2】M. Hefeeda and B. Noorizadeh,"On the Benefits of Cooperative Proxy Caching for Peer-to-Peer Traffic," IEEE Trans. Parallel Distrib. Syst., 2009.
【非特許文献3】上山,川原,森,原田,長谷川,"P2Pトラヒック削減を目的にした最適キャサッシュ設計法,"電子情報通信学会技術研究報告, NS2008-166, 2009年2月.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、既存のP2Pキャッシュ方式は、図6のように、単一のアプリケーションにのみ対応しており、実際にネットワークで使用する場合には、対象のアプリケーション毎にキャッシュ装置が必要になる。そのため、単一のキャッシュ装置で制御する場合に比べ、装置及び管理のコストがかかるという問題がある。
【0010】
また、アプリケーション毎にキャッシュ装置を設けると、各アプリケーションに割り当てられている領域は固定であるため、アプリケーションのシェアに動的に対応することができない。
【0011】
さらに、人気コンテンツは複数のアプリケーション間で重複して存在することが予想される。文献1「宮川,"Winny, Shareネットワーク状況調査報告,"安心・安全インターネット推進協議会P2P研究会, 第1回情報セキュリティセミナー, 2008年9月」では、日本で広く利用されているP2PアプリケーションであるWinnyとShare間で、約3割のコンテンツが重複していると報告されている。従来技術では、アプリケーションの重複を無視しているため、複数のキャッシュ装置で同一のコンテンツをキャッシュすることになり、リソースの無駄が生じることになる。
【0012】
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、対象とするアプリケーション数を用意しなければならなかったキャッシュ装置の一括管理を可能とし、装置及び管理コストを削減することが可能なトラヒックキャッシュ装置及びキャッシュ置き換え方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明(請求項1)は、複数のアプリケーションに応じた1つのキャッシュ装置に対してコンテンツをキャッシュするトラヒックキャッシュシステムであって、
ISP(Internet Service Provider)毎のトラヒックデータを取得して、該トラヒックデータに占めるP2P(Peer-to-Peer)のアプリケーションの割合を求めるP2Pシェア推定装置と、
アプリケーション別のコンテンツアクセス量データを取得して、アプリケーション別にアクセス数に基づいて人気コンテンツの人気度を求めるコンテンツ人気度推定装置と、
前記コンテンツ人気度推定装置でアプリケーション別の人気度を求めたコンテンツを取得して、重複しているアプリケーションを抽出するコンテンツ同一性判定装置と、
前記P2Pシェア推定装置から取得した前記アプリケーションの割合と、前記コンテンツ同一性判定装置から取得した前記重複しているアプリケーション、及び、前記コンテンツ人気度推定装置から取得した前記アプリケーション別の人気度に基づいてコンテンツの置き換えスコアを求め、該スコアの高い順にソートしたランキングリストを生成するランキング装置と、
前記ランキング装置から取得した前記ランキングリストに基づいて、キャッシュ済みのコンテンツの中で最もランキングが低いコンテンツjと、リクエストされたコンテンツiのスコアを比較して、コンテンツiのスコアが大きければ該コンテンツiをキャッシュ領域にダウンロードするキャッシュ装置と、を有する。
【0014】
また、本発明(請求項2)は、前記ランキング装置に、
前記スコアを、前記アプリケーションの割合及び前記アプリケーション別の人気度を用いて、制御対象アプリケーション数分のスコア関数により求める手段を含む
を含むトラヒックキャッシュシステムである。
【0015】
また、本発明(請求項3)は、前記同一性判別装置に、
ファイル名のマッチングまたは、ファイルのビット列のマッチングにより、前記重複しているアプリケーションを抽出する手段を含むトラヒックキャッシュシステムである。
【0016】
本発明(請求項4)は、複数のアプリケーションに応じた1つのキャッシュ装置に対してコンテンツをキャッシュするキャッシュ置き換え方法であって、
P2Pシェア推定手段が、ISP(Internet Service Provider)毎のトラヒックデータを取得して、該トラヒックデータに占めるP2P(Peer-to-Peer)のアプリケーションの割合を求めるP2Pシェア推定ステップと、
コンテンツ人気度推定手段が、アプリケーション別のコンテンツアクセス量データを取得して、アプリケーション別にアクセス数に基づいて人気コンテンツの人気度を求めるコンテンツ人気度推定ステップと、
コンテンツ同一性判定手段が、前記コンテンツ人気度推定ステップでアプリケーション別の人気度を求めたコンテンツの中から重複しているアプリケーションを抽出するコンテンツ同一性判定ステップと、
ランキング手段が、前記P2Pシェア推定ステップで求められた前記アプリケーションの割合と、前記コンテンツ同一性判定ステップで求められた前記重複しているアプリケーション、及び、前記コンテンツ人気度推定ステップで求められた前記アプリケーション別の人気度に基づいて、コンテンツの置き換えスコアを求め、該スコアの高い順にソートしたランキングリストを生成するランキングステップと、
キャッシュ手段が、前記ランキングステップで生成された前記ランキングリストに基づいて、キャッシュ済みのコンテンツの中で最もランキングが低いコンテンツjと、リクエストされたコンテンツiのスコアを比較して、コンテンツiのスコアが大きければ該コンテンツiをキャッシュ領域にダウンロードするキャッシュステップと、を行う。
【0017】
また、本発明(請求項5)は、前記ランキング装置において、
前記スコアを、前記アプリケーションの割合及び前記アプリケーション別の人気度を用いて、制御対象アプリケーション数分のスコア関数により求めるキャッシュ置き換え方法である。
【0018】
また、本発明(請求項6)は、前記同一性判別装置において、
ファイル名のマッチングまたは、ファイルのビット列のマッチングにより、前記重複しているアプリケーションを抽出するキャッシュ置き換え方法である。
【0019】
本発明(請求項7)は、複数のアプリケーションに応じた1つのキャッシュ装置に対してコンテンツをキャッシュするキャッシュ装置であって、
ISP(Internet Service Provider)毎のトラヒックデータを取得して、該トラヒックデータに占めるP2P(Peer-to-Peer)のアプリケーションの割合を求めるP2Pシェア推定手段と、
アプリケーション別のコンテンツアクセス量データを取得して、アプリケーション別にアクセス数に基づいて人気コンテンツの人気度を求めるコンテンツ人気度推定手段と、
前記コンテンツ人気度推定手段でアプリケーション別の人気度を求めたコンテンツの中から重複しているアプリケーションを抽出するコンテンツ同一性判定手段と、
前記P2Pシェア推定手段から取得した前記アプリケーションの割合と、前記コンテンツ同一性判定手段から取得した前記重複しているアプリケーション、及び、前記コンテンツ人気度推定手段から取得した前記アプリケーション別の人気度に基づいて、コンテンツの置き換えスコアを求め、該スコアの高い順にソートしたランキングリストを生成するランキング手段と、
前記ランキング手段から取得した前記ランキングリストに基づいて、キャッシュ済みのコンテンツの中で最もランキングが低いコンテンツjと、リクエストされたコンテンツiのスコアを比較して、コンテンツiのスコアが大きければ該コンテンツiをキャッシュ領域にダウンロードするキャッシュ手段と、を有する。
【0020】
また、本発明(請求項8)は、前記ランキング手段に、
前記スコアを、前記アプリケーションの割合及び前記アプリケーション別の人気度を用いて、制御対象アプリケーション数分のスコア関数により求める手段を含む
を含むキャッシュ装置である。
【0021】
また、本発明(請求項9)は、前記同一性判別手段に、
ファイル名のマッチングまたは、ファイルのビット列のマッチングにより、前記重複しているアプリケーションを抽出する手段を含むキャッシュ装置である。
【0022】
また、本発明(請求項10)は、請求項7乃至9のいずれか1項に記載のキャッシュ装置を構成する各手段としてコンピュータを機能させるためのキャッシュプログラムである。
【発明の効果】
【0023】
上記のように、本発明によれば、トラヒック量に対する複数のアプリケーションの割合によるコンテンツの人気度を推定し、それにより、コンテンツのランキング付けを行い、キャッシュ置き換えを行うことにより、対象とするアプリケーション数用意しなければならなかったキャッシュ装置を一括管理できるようになり、装置及び管理コストを削減することが可能となる。また、コンテンツの同一性を判定してアプリケーションの割合やアプリケーション間のコンテンツの重複を考慮することで、リソースの有効利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態におけるキャッシュシステムの動作の概要を示す図である。
【図2】本発明の一実施の形態におけるシステム構成図である。
【図3】本発明の一実施の形態におけるシーケンスチャートである。
【図4】本発明の一実施の形態における動作のフローチャートである。
【図5】P2Pキャッシュシステムの動作例である。
【図6】従来のキャッシュシステムの動作である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下図面と共に、本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
本発明では、アプリケーション間のコンテンツの重複を考慮し、アプリケーションのシェアとコンテンツの人気度に応じたコンテンツキャッシュ装置及びキャッシュ置き換え方法を示す。
【0027】
図1は、本発明の一実施の携帯におけるキャッシュシステムの動作の概要を示す図である。同図に示すように、複数のアプリケーションに対応した単一のキャッシュ装置100が動作する。また、ISP毎にキャッシュ装置を設置し、各装置を管理する者とする。
【0028】
図2は、本発明の一実施の形態におけるシステム構成を示す。
【0029】
同図に示すシステムは、1つのキャッシュ装置100、ランキング装置200、コンテンツ人気度推定装置300、コンテンツ同一性判定装置400、P2Pシェア推定装置500、クローラ600、ピントサーバ700、フロー解析装置800から構成される。
【0030】
クローラ600は、P2P上のホストを順次アクセスし、アクセスしたホストの情報とそのホストに登録されているファイル情報を記録するプログラムである。
【0031】
ヒントサーバ700とは、ISPとP2Pが強調して動作することにより、ISP間のトラヒックを削減する技術である(文献2「亀井,"P2P配信におけるインフラコストの負担構造と課題"電子情報通信学会技術研究報告,CQ2009-7,2009年4月」)。
【0032】
フロー解析装置800は、アプリケーション毎のアクセス数を解析し、コンテンツアクセス量データを出力する。
【0033】
図3は、本発明の一実施の形態における動作のシーケンスチャートであり、図4は、図3のシーケンスチャートをフローチャートで示したものである。なお、図4において、一点鎖線の枠内の動作は一定時間毎に、点線のキャッシュ装置100の動作はコンテンツが到着する毎、及び、リクエストが到着する毎に行うものとする。
【0034】
以下に、図3、図4に沿って動作の概要を示す。
【0035】
ステップ101) P2Pシェア推定装置500は、コンテンツ配信事業者10、クローラ600、ヒントサーバ700、フロー解析装置800からP2P規模データを取得する。
【0036】
ステップ102) P2Pシェア推定装置500は、取得したP2P規模データに基づいて、アプリケーションのシェアを推定し、P2Pシェアデータをランキング装置200に出力する。
【0037】
ステップ103) コンテンツ人気推定装置300は、コンテンツ配信事業者10、クローラ600、ヒントサーバ700、フロー解析装置800から、アプリケーション別のコンテンツアクセス量データを取得する。
【0038】
ステップ104) コンテンツ人気推定装置300は、取得したアプリケーション別のコンテンツアクセス量データからアクセス量の割合を求め、これをアプリケーション別の人気度とし、アプリケーション別コンテンツ人気度データをコンテンツ同一性判定装置400に出力する。
【0039】
ステップ105) コンテンツ同一性判定装置400は、各アプリケーションの人気コンテンツを抽出する。
【0040】
ステップ106) コンテンツ同一性判定装置400は、人気コンテンツの中から重複しているコンテンツデータを抽出し、重複しているコンテンツデータをランキング装置200に出力する。
【0041】
ステップ107) ランキング装置200は、P2Pシェア推定装置500から取得したP2Pシェアデータ、コンテンツ人気推定装置300から取得したアプリケーション別人気度データ、コンテンツ同一性推定装置400から取得したアプリケーション間のコンテンツ重複データを用いて、コンテンツのスコアを算出する。
【0042】
ステップ108) ランキング装置200は、コンテンツ毎のスコアデータからコンテンツをスコア順にソートして、ランキングリストを作成し、キャッシュ装置100に出力する。
【0043】
ステップ109) キャッシュ装置100は、コンテンツiに対するリクエストを取得すると、ランキング装置200から取得したランキングリストからコンテンツiを抽出する。なお、キャッシュ装置100は、リクエストを受信する毎に以降の処理を行うものとする。
【0044】
ステップ110) キャッシュ装置100は、キャッシュされたコンテンツ中のランキングの最下位のコンテンツjを抽出する。
【0045】
ステップ111) ランキングリストからコンテンツiとコンテンツjのスコアの大小を判定し、コンテンツiのスコアがコンテンツjのスコアより大きければステップ112に移行し、そうでなければステップ114に移行する。
【0046】
ステップ112) コンテンツjをキャッシュから削除する。
【0047】
ステップ113) コンテンツiをダウンロードしつつ、リクエスト元に配信し、処理を終了する。
【0048】
ステップ114) 置き換えを行わず、処理を終了する。
【0049】
次に、装置毎の詳細な動作を説明する。
【0050】
<P2Pシェア推定装置>
P2Pシェア推定装置500は、各アプリケーションのシェアをISP毎に推定する。推定方法は様々な方法が考えられ、以下のような技術により推定可能である。
【0051】
・トラヒック解析結果より推定する方法:
特開2004-343286号公報では、P2P、アプリケーションがバックボーン回線上に発生するトラヒックの特定、分離することが可能である。手順としては、まず、分離したP2Pトラヒックからアプリケーション毎のトラヒック量を割り出す。そして、トラヒック量をアプリケーションの規模と捉え、シェアを推定する。
【0052】
・コンテンツ配信事業者10からの情報を利用する方法:
システムを運用する場合、全てのアプリケーションのコンテンツをキャッシュするのは現実的ではないので、商用のP2Pコンテンツ配信事業者と連携して運用する場合を考える。商用P2Pではネットワーク全体がスーパーノード等により管理されている場合が多いので、各コンテンツの人気度も高い精度で推測可能である。そのため、コンテンツ配信事業者10から、各アプリケーションの規模をリアルタイムに通知してもらい、シェアを推定することが可能である。
【0053】
・ヒントサーバ700と連携する方法:
ヒントサーバ700は、P2Pの各ホストにネットワーク的に近いホストの情報を提供し、P2Pシステムでは提供された情報に基づいて、最適なオーバレイトポロジを構築する。ヒントサーバ700において、各システムからの問い合わせの量をそのシステムの規模と捉え、シェアを推定することが可能である。
【0054】
・クローラによる規模推定による方法:
WinnyやShareでは、クローラ600によりP2Pネットワーク上に存在するホストや流通しているコンテンツの監視を行う取り組みが行われている(文献1)。クローラ600を制御対象とするアプリケーション毎に走らせ、順次クローラ600が収集した情報より、ホスト数やコンテンツ数を集計することにより、アプリケーションのシェアを推定することが可能である。
【0055】
<コンテンツ人気度推定装置>
P2Pシェア推定装置500にてアプリケーションのシェアを推定するのと同時に、コンテンツ人気度推定装置300において、コンテンツの人気度も推定する。推定方法としては、アプリケーションのシェアの推定と同様に、コンテンツ配信事業者10からの情報を利用する方法とクローラ600による規模計測により推定する方法の2種類が考えられる。
【0056】
<コンテンツ同一性判別装置>
コンテンツ同一性判別装置400は、アプリケーション間のコンテンツの重複を考慮するため、複数のアプリケーションに跨って存在するコンテンツを判別する必要がある。全てのコンテンツを判別対象としては、処理のリアルタイム性に欠けるため、コンテンツ人気度測定装置300の結果(コンテンツと人気度の組)を用い、各アプリケーションの人気コンテンツとして抽出されたコンテンツのみを判別対象とする。判別方法として、下記のような手法が考えられる。
【0057】
・ファイル名のマッチングを行う方法:
ファイル名が一致したコンテンツを同一コンテンツと見做す方法である。前述の文献2では、WinnyとShare間でファイル名とコンテンツが一致したファイルが9割以上あることが報告されている。
【0058】
・ファイルのビット列のマッチングを行う方法:
ファイルのビット列をパターンマッチングする方法である。ファイルの全情報をマッチングしては時間がかかるため、Bloom Filter等のマッチング技術を用いることで、計算時間の短縮が可能である。Bloom Filterとは、ある要素が集合の一部であるかを調べるために使われる方式である。
【0059】
<ランキング装置>
ランキング装置200は、各装置で推定した、コンテンツの人気度情報、アプリケーションのシェア情報、コンテンツの重複情報に基づいて、各コンテンツの置き換えスコアを計算する。アプリケーションiにおけるコンテンツjの人気度をCi,j、アプリケーションiのシェアをAiとすると、コンテンツjのスコアRjは下記のように求められる。
【0060】
j=S(Ci,j,Ai) (1)
ここで、S(Ci,j,Ai)はスコア関数である。具体的な実現例として、S(Ci,j,Ai)を正規化した{Ci,j,Ai}の線形関数とした場合、スコアRjは下記のようになる。
【0061】
【数1】

ここで、Nは制御対象アプリケーション数であり、Ci,jとAiの値は[0,1]に正規化されているものとする。ISPではスコアR jの高い順にコンテンツをソートし、ランキングリストを作成する。以上のランキング処理を定期的(数時間から1日程度の頻度)に行い、ランキングリストを各キャッシュ装置100に送信する。
【0062】
<キャッシュ装置>
各キャッシュ装置100は、ランキング装置200より受信したリストに基づいて、キャッシュ置換を行う。キャッシュの置き換えのタイミングは、キャッシュ装置100が、コンテンツのリクエストを受信したときである。リクエストされたコンテンツをiとしたとき、キャッシュ済みのコンテンツの中で一番ランキングの低いコンテンツjに対して、Ri>Rjが成立する場合に、コンテンツjをキャッシュ領域から追い出し、コンテンツiをキャッシュ領域にダウンロードしつつ、コンテンツリクエスト元のピアにコンテンツを配信する。一方、Ri≦Rjの場合は、キャッシュの置き換えは行わない。
【0063】
以下に、具体的な動作について説明する。
【0064】
制御対象のアプリケーションとコンテンツが、それぞれ3つの場合を考える。P2Pシェア推定装置500で推定されたアプリケーションのシェアは、
アプリケーションa:50%;
アプリケーションb:30%;
アプリケーションc:20%;
とする。また、コンテンツ人気度推定装置300で推定された各アプリケーションにおける各コンテンツのアクセス量の割合は、
・アプリケーション1:
コンテンツ1:20%;
コンテンツ2は40%;
コンテンツ3は40%;
・アプリケーション2:
コンテンツ1:50%;
コンテンツ2は20%;
コンテンツ3は30%;
・アプリケーション3:
コンテンツ1:10%;
コンテンツ2は60%;
コンテンツ3は30%;
とする。
【0065】
更に、コンテンツが同一か否かは、コンテンツ同一性判定装置400で識別済みとする。
【0066】
上記のような状況において、ランキング装置200での各変数の値は下記のようになる。
【0067】
・アプリケーションにおけるシェア:A=0.5,A2=0.3,A3=0.2
・アプリケーション1における各コンテンツの人気度:C1,1=0.2, C1,2=0.4,C1,3=0.4
・アプリケーション2における各コンテンツの人気度:C2,1=0.5, C1,2=0.2,C1,3=0.3
・アプリケーション3における各コンテンツの人気度:C3,1=0.1, C1,2=0.6,C1,3=0.3
コンテンツ1におけるスコアは以下のように計算される。
【0068】
【数2】

ここで、S(Ci,j,Aiとして、前述の式(2)を用いた。コンテンツ2、コンテンツ3についても同様に計算でき、R2=0.38,R3=0.35となる。よって、昇順にソートすると、(2,3,1)となり、これがランキングリストとなる。
【0069】
キャッシュ装置100では、このランキングリストに基づいて置き換えを行う。ここで、キャッシュ装置100にコンテンツが1つしかキャッシュできない場合を考える。コンテンツ3がキャッシュされている状態で、コンテンツ2に対するリクエストを受信した場合、R2>R3なので、コンテンツ3をキャッシュ領域から消去し、コンテンツ2を新たにキャッシュする。
【0070】
以上のように、本発明では、複数のアプリケーションに対応したP2Pコンテンツのキャッシュが可能である。
【0071】
なお、上記の構成では、ランキング装置200、コンテンツ人気推定装置300、コンテンツ同一性判定装置400、P2Pシェア推定装置500をキャッシュ装置100とは別の装置として説明しているが、1つのキャッシュ装置100内にこれらの装置の機能を含むような構成としてもよい。また、このように構成されたキャッシュ装置の各手段の動作をプログラムとして構築し、キャッシュ装置として利用されるコンピュータにインストールすることにより実行させる、または、ネットワークを介して流通させることが可能である。
【0072】
また、本発明は上記の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲内において種々変更・応用が可能である。
【符号の説明】
【0073】
10 コンテンツ配信事業者
100 キャッシュ装置
200 ランキング装置
300 コンテンツ人気度推定装置
400 コンテンツ同一性判定装置
500 P2Pシェア推定装置
600 クローラ
700 ヒントサーバ
800 フロー解析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のアプリケーションに応じた1つのキャッシュ装置に対してコンテンツをキャッシュするトラヒックキャッシュシステムであって、
ISP(Internet Service Provider)毎のトラヒックデータを取得して、該トラヒックデータに占めるP2P(Peer-to-Peer)のアプリケーションの割合を求めるP2Pシェア推定装置と、
アプリケーション別のコンテンツアクセス量データを取得して、アプリケーション別にアクセス数に基づいてコンテンツの人気度を求めるコンテンツ人気度推定装置と、
前記コンテンツ人気度推定装置で人気度を求めたコンテンツの中から重複しているアプリケーションを抽出するコンテンツ同一性判定装置と、
前記P2Pシェア推定装置から取得した前記アプリケーションの割合と、前記コンテンツ同一性判定装置から取得した前記重複しているアプリケーション、及び、前記コンテンツ人気度推定装置から取得した前記アプリケーション別の人気度に基づいて、スコアを求め、スコアの高い順にソートしたランキングリストを生成するランキング装置と、
前記ランキング装置から取得した前記ランキングリストに基づいて、キャッシュ済みのコンテンツの中で最もランキングが低いコンテンツjと、リクエストされたコンテンツiのスコアを比較して、コンテンツiのスコアが大きければ該コンテンツiをキャッシュ領域にダウンロードするキャッシュ装置と、
を有することを特徴とするトラヒックキャッシュシステム。
【請求項2】
前記ランキング装置は、
前記スコアを、前記アプリケーションの割合及び前記アプリケーション別の人気度を用いて、制御対象アプリケーション数分のスコア関数により求める手段を含む
請求項1記載のトラヒックキャッシュシステム。
【請求項3】
前記同一性判別装置は、
ファイル名のマッチングまたは、ファイルのビット列のマッチングにより、前記重複しているアプリケーションを抽出する手段を含む
請求項1記載のトラヒックキャッシュシステム。
【請求項4】
複数のアプリケーションに応じた1つのキャッシュ装置に対してコンテンツをキャッシュするキャッシュ置き換え方法であって、
P2Pシェア推定手段が、ISP(Internet Service Provider)毎のトラヒックデータを取得して、該トラヒックデータに占めるP2P(Peer-to-Peer)のアプリケーションの割合を求めるP2Pシェア推定ステップと、
コンテンツ人気度推定手段が、アプリケーション別のコンテンツアクセス量データを取得して、アプリケーション別にアクセス数に基づいてコンテンツの人気度を求めるコンテンツ人気度推定ステップと、
コンテンツ同一性判定手段が、前記コンテンツ人気度推定ステップでアプリケーション別の人気度を求めたコンテンツの中から重複しているアプリケーションを抽出するコンテンツ同一性判定ステップと、
ランキング手段が、前記P2Pシェア推定ステップで求められた前記アプリケーションの割合と、前記コンテンツ同一性判定ステップで求められた前記重複しているアプリケーション、及び、前記コンテンツ人気度推定ステップで求められた前記アプリケーション別の人気度に基づいて、スコアを求め、スコアの高い順にソートしたランキングリストを生成するランキングステップと、
キャッシュ手段が、前記ランキングステップで生成された前記ランキングリストに基づいて、キャッシュ済みのコンテンツの中で最もランキングが低いコンテンツjと、リクエストされたコンテンツiのスコアを比較して、コンテンツiのスコアが大きければ該コンテンツiをキャッシュ領域にダウンロードするキャッシュステップと、
を行うことを特徴とするキャッシュ置き換え方法。
【請求項5】
前記ランキング装置において、
前記スコアを、前記アプリケーションの割合及び前記アプリケーション別の人気度を用いて、制御対象アプリケーション数分のスコア関数により求める
請求項4記載のキャッシュ置き換え方法。
【請求項6】
前記同一性判別装置において、
ファイル名のマッチングまたは、ファイルのビット列のマッチングにより、前記重複しているアプリケーションを抽出する
請求項4記載のキャッシュ置き換え方法。
【請求項7】
複数のアプリケーションに応じた1つのキャッシュ装置に対してコンテンツをキャッシュするキャッシュ装置であって、
ISP(Internet Service Provider)毎のトラヒックデータを取得して、該トラヒックデータに占めるP2P(Peer-to-Peer)のアプリケーションの割合を求めるP2Pシェア推定手段と、
アプリケーション別のコンテンツアクセス量データを取得して、アプリケーション別にアクセス数に基づいてコンテンツの人気度を求めるコンテンツ人気度推定手段と、
前記コンテンツ人気度推定手段でアプリケーション別の人気度を求めたコンテンツの中から重複しているアプリケーションを抽出するコンテンツ同一性判定手段と、
前記P2Pシェア推定手段から取得した前記アプリケーションの割合と、前記コンテンツ同一性判定手段から取得した前記重複しているアプリケーション、及び、前記コンテンツ人気度推定手段から取得した前記アプリケーション別の人気度に基づいて、スコアを求め、スコアの高い順にソートしたランキングリストを生成するランキング手段と、
前記ランキング手段から取得した前記ランキングリストに基づいて、キャッシュ済みのコンテンツの中で最もランキングが低いコンテンツjと、リクエストされたコンテンツiのスコアを比較して、コンテンツiのスコアが大きければ該コンテンツiをキャッシュ領域にダウンロードするキャッシュ手段と、
を有することを特徴とするキャッシュ装置。
【請求項8】
前記ランキング手段は、
前記スコアを、前記アプリケーションの割合及び前記アプリケーション別の人気度を用いて、制御対象アプリケーション数分のスコア関数により求める手段を含む
請求項7記載のキャッシュ装置。
【請求項9】
前記同一性判別手段は、
ファイル名のマッチングまたは、ファイルのビット列のマッチングにより、前記重複しているアプリケーションを抽出する手段を含む
請求項7記載のキャッシュ装置。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか1項に記載のキャッシュ装置を構成する各手段としてコンピュータを機能させるためのキャッシュプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−147272(P2012−147272A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4336(P2011−4336)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】