説明

トランジスタ素子

【課題】エミッタ電極−コレクタ電極間において、オフ電流が小さく、かつ、低電圧で大電流変調が可能であるオン/オフ比に優れたトランジスタ素子を提供すること。
【解決手段】エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とシート状のベース電極とが設けられているトランジスタ素子において、該有機半導体層が、下記一般式(1)で表される化合物を含んでいるトランジスタ素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エミッタ電極−コレクタ電極間において、低電圧で大電流変調を可能とするトランジスタ素子に関し、さらに詳しくは、エミッタ−コレクタ間に低電圧で大電流変調を可能とするオン/オフ比に優れたトランジスタ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の高度情報化社会の進展は、目覚ましく、デジタル技術の発展は、コンピュータ、コンピュータ・ネットワークなどの通信技術を日常生活に浸透させている。それとともに、薄型テレビやノートパソコンの普及が進んでおり、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパーなど、表示ディスプレイへの要求も高まりつつある。このようなディスプレイの素子の駆動には、電界効果トランジスタが使用されている。現在、多くは無機材料であるシリコンを用いたトランジスタが使用されているが、低コスト化、大面積化、フレキシブル化のために有機トランジスタ素子を用いたディスプレイが報告されている。
【0003】
しかし、その多くは、有機電界効果型トランジスタ(OFET)と液晶または電気泳動セルとを組み合わせたものである。OFETは、その構造と移動度の低さにより、大電流を得ることは難しく、大電流を必要とする電流駆動デバイスである有機ELのスイッチング駆動に用いた例はほとんど報告されていない。そのため、より低電圧において大電流で動作する有機トランジスタ素子の開発が望まれている。
【0004】
また、OFETを用いて大電流を得るためには、トランジスタ素子のチャネル長を短くすることが必要であるが、ディスプレイの大量生産を視野に入れたパターニング技術では、チャネル長を数μm以下にすることは難しい。この問題を解決するため、膜厚方向に電流を流すことにより低電圧かつ大電流で動作可能な「縦型トランジスタ構造」が研究されている。一般にサンドイッチデバイスに用いられる膜厚は数十nmであり、しかも数Åオーダーの高い精度で制御可能であることから、チャネルを膜厚方向(縦方向)にすることによって、1μm以下の短いチャネル長を容易に実現できる。このような縦型の有機トランジスタ素子として、これまでに、ポリマーグリッドトライオード構造、静電誘導型トランジスタ(Static Induction Transistor, SIT)などが知られている。
【0005】
また、有機半導体/金属/有機半導体の積層構造を作製により、高性能なトランジスタ特性を発現する縦型有機トランジスタ素子が提案されている(非特許文献1)。この有機トランジスタ素子では、エミッタ電極から注入された電子が中間金属電極を透過することにより、パイポーラトランジスタに似た電流増幅が観測され、その中間金属電極がベース電極のように働くことから、メタルベース有機トランジスタ(Metal-Base Organic Transistor, 以降MBOTと呼ぶことがある)と呼んでいる。しかしながら、上記トランジスタ動作は半導体/金属/半導体の積層構造を作製すれば必ず観測されるというものではなかった。
【0006】
また、上記問題点を解決した縦型トランジスタ素子(MBOT)として、メチルペリレンテトラカルボン酸イミド(Me−PTCDI)、ペリレンテトラカルボン酸(PTCDA)などを用いたMBOTが報告されているが、膜厚や構造によって、これらの素子はオフ電流が高くなることがある。安定した性能を発現し、大きな電流値、高い増幅率、高いオン/オフ比を得るためには、加熱処理によりベース電極表面に酸化層を設け、オフ電流の抑制層とする必要がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−258308号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】S.Fujimoto, K.Nakayama, and M.Yokoyama, Appl. Phys. Lett., 87, 133503(2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、エミッタ電極−コレクタ電極間において、オフ電流が小さく、かつ、低電圧で大電流変調が可能であるオン/オフ比に優れたトランジスタ素子(Metal-Base Organic Transistor:MBOT)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とシート状のベース電極とが設けられているトランジスタ素子において、該有機半導体層が、下記一般式(1)で表される化合物(ペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体:以下「PTCDI」という場合がある)を含んでいることを特徴とするトランジスタ素子を提供する。
【0011】
また、本発明は、エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とシート状のベース電極とが設けられているトランジスタ素子において、ベース電極とコレクタ電極との間に設けられている上記有機半導体層が、PTCDIを含んでいることを特徴とするトランジスタ素子を提供する。
【0012】
また、本発明は、エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とシート状のベース電極とが設けられているトランジスタ素子において、ベース電極とコレクタ電極の間に設けられている上記有機半導体層が、PTCDIを含んでおり、エミッタ電極とベース電極との間に設けられた上記有機半導体層がフラーレンで形成されていることを特徴とするトランジスタ素子を提供する。
【0013】

(式中A、A’は同一または異なる炭素数6以上のアルキル基を表す。)
【0014】
上記本発明においては、前記ベース電極が金属からなり、当該ベース電極の片面または両面に当該ベース電極の酸化膜が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のトランジスタ素子によれば、エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とシート状のベース電極とが設けられているトランジスタ素子において、上記有機半導体層が、前記PTCDIを含んで形成してなることにより、低電圧で大電流変調を可能とする電流増幅作用を安定して得ることができる。
【0016】
本発明の有機トランジスタ素子は、種々のディスプレイの駆動用デバイス、発光素子として有用である。これらのトランジスタ素子には、オン時とオフ時のコントラストが必要となり、より大きなオン/オフ比が要求される。本発明のトランジスタ素子は、その低電圧・大電流変調の特性から、駆動用トランジスタとして高い性能を有する。また、大電流変調が可能であり、1つのピクセル内におけるトランジスタの占有面積を小さくでき、ディスプレイにおける開口率の向上を可能とし、高性能、高効率のディスプレイとなる。
【0017】
また、本発明のトランジスタ素子の、ベース電極とコレクタ電極との間に有機EL層を形成することにより有機発光素子となる。有機EL層が少なくとも1層の発光層を含むので、大電流による面状発光が可能になる。しかも、その場合、従来のSIT構造のようなベース電極の微細パターニングが不必要であるとともに、低電圧で大電流変調が可能であり、さらにオン/オフ比を向上させることができるので、簡単な構造からなる実用的な発光素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のトランジスタ素子(MBOT)の構成を説明する図。
【図2】トランジスタ素子(MBOT)のエネルギー相関図を説明する図。
【図3】実施例、比較例で作成したトランジスタ素子の構造を説明する図。
【図4】暗電流抑制層を有するMBOTの出力特性(Ic−Vbカーブ)を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態につき、詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に制限されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、実施することができる。
【0020】
先ず、本発明のエミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とシート状のベース電極とが設けられているトランジスタ素子(MBOT)において、該有機半導体層に本発明のPTCDIを用いたトランジスタ素子について説明する。
【0021】
本発明のトランジスタ素子(MBOT)は、図1に示すように、電極としてコレクタ電極12、エミッタ電極13、ベース電極14、有機半導体層15A、有機半導体層15B、基板11からなる。基板上にコレクタ電極12が形成され、さらに有機半導体層15が形成されている。ベース電極は有機半導体層15Aと15Bに挟まれ、埋め込まれるように形成されている。有機半導体層15の上にエミッタ電極が形成されている。
【0022】
また、エミッタ電極とコレクタ電極との間にコレクタ電圧Vcを印加し、さらにエミッタ電極とベース電極との間にベース電圧Vbを印加すれば、そのベース電圧の作用により、エミッタ電極から注入された電子が加速されてベース電極を透過し、コレクタ電極に到達する。すなわち、ベース電圧の印加によりエミッタ電極−コレクタ電極間に流れる電流Icを増幅させることができる。したがって、本発明のトランジスタ素子によれば、パイポーラトランジスタと同じような電流増幅作用を安定して得ることができる。縦型のトランジスタ素子でありながら、グリッドやストライプなどの微細電極のパターニングが必要ないという利点がある。
【0023】
また、本発明のトランジスタ素子(MBOT)は、両末端にアルキル基を有するPTCDIを有機半導体層として用いることにより、その暗電流が抑制され、エミッタ電極−ベース電極間に小さい電圧Vbを印加した場合または電圧Vbを印加しない場合に、ベース電極−コレクタ電極間にトランジスタ動作に必要な電流成分以外の漏れ電流(「暗電流」(スイッチオフ時に流れるオフ電流)という。)が流れるのを効果的に抑制することができ、その結果、オン/オフ比を向上させることができる。
【0024】
以下、先ず本発明のトランジスタ素子に使用される有機半導体層を形成するペリレンテトラカルボン酸ジイミド誘導体(PTCDI)について説明する。本発明のPTCDIは、ペリレンテトラカルボン酸からなる骨格構造と、両末端にアルキル基を有している。ペリレンテトラカルボン酸からなる骨格構造が高い電子輸送材料となることが知られており、本発明のアルキル基を有するPTCDIも高い電子輸送性を示す。また、その末端に炭素数6以上のアルキル基を有しており、そのアルキル基の効果により暗電流を抑制し、オフ電流を小さくする効果があり、有機トランジスタ(MBOT)に有用であることを見出した。
【0025】
本発明のアルキル基を有するPTCDIに用いられるアルキル基としては、炭素数が6以上であれば問題なく使用できるが、炭素数6から18が好ましい。例えば、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、オクタデシル基などの炭素数6から18の直鎖アルキル基が挙げられる。また、分岐したアルキル基を導入することにより、さらなるオフ電流の抑制が可能となる。炭素数が短いと大きなオン電流は得られるが、膜厚や構造によりオフ電流が大きくなることがあり、オン/オフ比を向上させるためには、オフ電流を抑制する暗電流抑制層の形成が必要となる。また、炭素数が大きくなると絶縁性が高くなり、オン電流が抑制される可能性がある。
【0026】
次に、本発明のトランジスタ素子の構造、材料について説明する。
(有機半導体層)
本発明の有機トランジスタ素子は、有機半導体層にPTCDIを用いることを特徴とする。有機半導体層15Aに使用するアルキル基を有するPTCDIは、単一の構造からなるPTCDIを用いることができるが、異なる構造のアルキル基を有するPTCDIを混合、または、積層して有機半導体層となすこともできる。
【0027】
有機半導体層15(15A,15B)の電荷移動度は、高いことが望ましく、少なくとも、0.0001cm2/Vs以上であることが望ましい。有機半導体層15Aは、アルキル基を有するPTCDIにより形成される。有機半導体層15Bを形成する材料としては、Alq3((トリス(8−ヒドロキシキノリノール)アルミニウム)錯体)、C60(フラーレン)、NTCDA(ナフタレンテトラカルボン酸)を挙げることができ、また、アントラキノジメタン、フルオレニリデンメタン、テトラシアノエチレン、フルオレノン、ジフェノキノンオキサジアゾール、アントロン、チオピランジオキシド、ジフェノキノン、ベンゾキノン、マロノニトリル、ニジトロベンゼン、ニトロアントラキノン、無水マレイン酸若しくはペリレンテトラカルボン酸ジイミド、またはこれらの誘導体、電荷輸送材料として通常使用されるものを用いることができる。特に好ましい材料としては、C60で代表されるフラーレンが挙げられる。
【0028】
これらの材料の選択については、図2で示されるように、材料のエネルギーレベルを考慮して選択する必要があるが、最も好ましい材料としてはPTCDIとフラーレンの組み合わせが挙げられる。
【0029】
また、コレクタ電極12とベース電極14の間に形成される半導体層15Aの厚さは、通常、50nm〜5,000nmを挙げることができるが、好ましくは100nm〜500nm程度である。なお、その厚さが50nm未満の場合または5,000nmを超える場合は、トランジスタとして動作しないことがある。一方、エミッタ電極13とベース電極14との間に形成される側の半導体層15Bの厚さは、半導体層15Aに比べて基本的に薄いことが望ましく、通常、500nm以下を挙げることができるが、好ましくは20nm〜200nm程度である。なお、その厚さが20nm未満の場合は、導通の問題が発生して歩留まりが低下することがある。
【0030】
例えば、コレクタ電極12とベース電極14との間に設けられた半導体層15AをPTCDIの真空蒸着法を用いて形成した場合には、アルキル基を有するPTCDIが結晶性の強い有機化合物であるため、ベース電極14が形成される側の半導体層15Aの表面は凹凸形状となる。そのため、その結晶性の半導体層15A上に設けられたベース電極14も凹凸形状で形成される。凹凸形状を有するベース電極14は所定の平均厚さのベース電極14を形成した場合であっても薄いところと厚いところを有するが、ベース電極14が凹凸形状を有する場合に、電流増幅作用を安定して得ることができる。
【0031】
(電極)
本発明のトランジスタ素子に用いられる電極について説明する。本発明のトランジスタ素子を構成する電極としては、コレクタ電極12、エミッタ電極13、およびベース電極14があり、図1に示すように、通常、コレクタ電極12は基板11上に設けられ、ベース電極14は半導体層15(半導体層15Aおよび半導体層15B)内に埋め込まれるように設けられ、エミッタ電極13はコレクタ電極12と対向する位置に半導体層15とベース電極14を挟むように設けられる。
【0032】
電極材料としては、金属、導電性酸化物、導電性高分子などの薄膜が用いられる。コレクタ電極12の形成材料としては、例えば、ITO(インジウム錫オキサイド)、酸化インジウム、IZO(インジウム亜鉛オキサイド)、ZnO、SnO2などの透明導電膜、金、クロムのような仕事関数の大きな金属、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリアルキルチオフェン誘導体、ポリシラン誘導体のような導電性高分子などを挙げることができる。
【0033】
一方、エミッタ電極13の形成材料としては、アルミニウム、銀などの単体金属、MgAgなどのマグネシウム合金、AlLi、AlCa、AlMgなどのアルミニウム合金、Li、Caをはじめとするアルカリ金属類、それらアルカリ金属類の合金のような仕事関数の小さな金属などを挙げることができる。また、ベース電極の電極材料は、コレクタ電極、エミッタ電極に用いられる材料を挙げることができる。
【0034】
本発明のトランジスタ素子に用いられるベース電極の厚さは、80nm以下であることが好ましい。ベース電極は、ベース電極の厚さが80nm以下であれば、ベース電圧Vbで加速された電子を容易に透過することができる。なお、ベース電極は半導体層中に切れ目なく(穴やクラックなどの欠陥部なく)設けられていれば問題なく使用できる。
【0035】
本発明のトランジスタ素子に用いられる電極の形成方法としては、上記の各電極のうちコレクタ電極12とエミッタ電極13については、真空蒸着、スパッタリング、CVDなどの真空プロセスあるいは塗布により形成され、その膜厚は使用する材料などによっても異なるが、例えば、10nm〜1,000nm程度であることが好ましい。
【0036】
(暗電流抑制層)
さらに、本発明のトランジスタ素子において、前記ベース電極が金属からなり、当該ベース電極の片面または両面に当該ベース電極の酸化膜を形成することにより、エミッタ電極−ベース電極間に小さい電圧Vbを印加した場合または電圧Vbを印加しない場合に、暗電流が流れるのを効果的に抑制することができ、オフ電流を抑制することで、オン/オフ比を向上させ、トランジスタとしてのコントラストを向上させることができる。
【0037】
本発明のトランジスタ素子において、前記ベース電極を形成した後に当該ベース電極を加熱処理して前記暗電流抑制層を形成することが好ましい。これらの発明によれば、暗電流抑制層を容易に形成することができ、漏れ電流を抑制してこうした方法により、暗電流抑制層を容易に形成することができ、漏れ電流を抑制してオン/オフ比を向上させたトランジスタ素子を容易に提供することができる。
【0038】
これらの発明によれば、暗電流抑制層がコレクタ電極とベース電極との間に設けられていることにより、暗電流が流れるのを効果的に抑制することができ、その結果、オン/オフ比を向上させることができる。このように本発明のトランジスタ素子は、見かけ上パイポーラトランジスタと同様の電流増幅型のトランジスタ素子として有効に機能することが確認できた。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、実施例および比較例で作成したトランジスタ素子は、次の方法により評価した。
(トランジスタ素子の評価)
作製したトランジスタ素子について、コレクタ電圧Vcを5V、7Vとし、ベース電圧Vbを0V〜3Vの範囲で変調させた。出力変調特性の測定は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧Vc(5V、7V)を印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧Vb(0〜3V)を印加した時の、コレクタ電流Icおよびベース電流Ibの変化量(オフ電流、オン電流)を測定して行った。また、コレクタ電流の変化に対するベース電流の変化の比率、すなわち、電流増幅率(hFE)、オン電流とオフ電流の比率であるオン/オフ比を算出した。
【0040】
実施例1[ジオクチルPTCDIによるトランジスタ素子の作成]
有機半導体材料として、ジオクチルPTCDI(ジオクチル−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド:一般式(1)においてA、A’=C818)を用いて、有機半導体層15Aを形成することによりトランジスタ素子(MBOT)を作成した。
【0041】
図3に示すように、ITO透明基板をコレクタ電極として、基板上に本発明の有機半導体材料であるPTCDIからなる平均厚さ100nmの有機半導体層(15A)と、アルミニウムからなる平均厚さ20nmのベース電極14と、フラーレン(C60)からなる平均厚さ100nmの有機半導体層15Bと、銀からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極13とを、真空蒸着法による成膜手段でその順に積層した。
【0042】
得られたトランジスタ素子の出力特性は、エミッタ電極−コレクタ電極間にコレクタ電圧Vcを7V印加し、さらにエミッタ電極−ベース電極間にベース電圧Vbを印加したときと印加しないとき(0〜3V)の、コレクタ電流Icおよびベース電流Ibの変化量を測定して行った。本トランジスタ素子は、MBOTとして動作が確認され、評価結果を表1に示す。
【0043】
実施例2[ジステアリルPTCDIによるトランジスタ素子の作成]
有機半導体材料として、ジステアリルPTCDI(ジステアリル−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド:一般式(1)においてA、A’=C1838)を用いて、有機半導体層15Aを形成することにより有機トランジスタ素子(MBOT)を作成した。有機トランジスタ素子(MBOT)は、実施例1と同様の構成で作成した。本トランジスタ素子は、MBOTとして動作が確認され、得られた特性値を表1に記載する。
【0044】
比較例1[ジメチルPTCDIによるトランジスタ素子の作成]
有機半導体材料として、ジメチルPTCDI(ジメチル−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド:一般式(1)においてA、A’=C13)を用いて、有機半導体層15Aを形成することにより、比較例1の有機トランジスタ素子(MBOT)を作成した。有機トランジスタ素子(MBOT)の構成は、実施例1と同様に作成した。本有機トランジスタ素子は、オフ電流が大きく、また、電流増幅作用が得られず、トランジスタ素子としての動作を示さなかった。このときの性能を表1に記載する。
【0045】

【0046】
実施例3[ジオクチルPTCDIによる暗電流抑制層を有するトランジスタ素子の作成]
ITO透明基板をコレクタ電極として、その基板上にジオクチルPTCDIからなる平均厚さ100nmの有機半導体層(15A)と、アルミニウムからなる平均厚さ20nmのベース電極14とを真空蒸着法による成膜手段でその順に積層した。これを大気中において150℃で1時間熱処理を行って、ベース電極(アルミニウム)を熱酸化することにより、暗電流抑制層を形成した。その後、フラーレン(C60、平均厚さ100nm)からなる有機半導体層15Bと、銀からなる平均厚さ30nmのエミッタ電極13とを、真空蒸着法による成膜手段でその順に積層した。得られたトランジスタ素子の特性は、オン電流が小さいが、それ以上にオフ電流が小さく、オン/オフ比の優れた特性を示した。このときの特性を表2に記載する。
【0047】
実施例4[ジステアリルPTCDIによる暗電流抑制層を有するトランジスタ素子の作成]
実施例3の有機半導体材料であるジオクチルPTCDIに変えて、ジステアリルPTCDIを用いて同様に暗電流抑制層を有するトランジスタ素子を作成した。得られたトランジスタ素子の特性は、オフ電流が非常に小さく、オン/オフ比は104となり優れた特性を示した。このときの特性を表2に記載する。
【0048】
比較例3、4[ジメチルPTCDI、ジブチルPTCDI(ジブチル−ペリレンテトラカルボン酸ジイミド:一般式(1)においてA、A’=C410)による暗電流抑制層を有するトランジスタ素子の作成]
実施例3のジオクチルPTCDIに変えて、ジメチルPTCDI、ジブチルPTCDIを用いて暗電流抑制層を有する有機トランジスタ素子(MBOT)を作成した。得られたトランジスタ素子の特性は、オン電流が大きく、電流増幅率も大きいものであったが、オフ電流は0.8μA、0.13μAであった。このときの特性を表2に記載する。
【0049】

上記の結果を図4に示す。
【0050】
以上のように本発明のトランジスタ素子は、見かけ上パイポーラトランジスタと同様の電流増幅型のトランジスタ素子として有効に機能することが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のトランジスタ素子は、オフ電流が小さく、オン/オフ比が高くなるため、有機ELなどのディスプレイ用駆動素子、有機発光層を組み込んだ有機発光素子として利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
11:基板
12:コレクタ電極
13:エミッタ電極
14:ベース電極
15、15A、15B:有機半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とシート状のベース電極とが設けられているトランジスタ素子において、該有機半導体層が、下記一般式(1)で表される化合物を含んでいることを特徴とするトランジスタ素子。

(式中A、A’は同一または異なる炭素数6以上のアルキル基を表す。)
【請求項2】
エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とシート状のベース電極とが設けられているトランジスタ素子において、ベース電極とコレクタ電極との間に設けられている上記有機半導体層が、下記一般式(1)で表される化合物を含んでいることを特徴とするトランジスタ素子。

(式中A、A’は同一または異なる炭素数6以上のアルキル基を表す。)
【請求項3】
エミッタ電極とコレクタ電極との間に、有機半導体層とシート状のベース電極とが設けられているトランジスタ素子において、ベース電極とコレクタ電極の間に設けられている上記有機半導体層が、下記一般式(1)で表される化合物を含んでおり、エミッタ電極とベース電極との間に設けられた上記有機半導体層がフラーレンで形成されていることを特徴とするトランジスタ素子。

(式中A、A’は同一または異なる炭素数6以上のアルキル基を表す。)
【請求項4】
前記ベース電極が金属からなり、当該ベース電極の片面または両面に当該ベース電極の酸化膜が形成されている請求項1〜3の何れか1項に記載のトランジスタ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−263144(P2010−263144A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114619(P2009−114619)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(509131786)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】