説明

トランスグルタミナーゼ抑制剤として有用なグルコサミンまたはその誘導体

グルコサミンまたはその誘導体を含むトランスグルタミナーゼ抑制剤を開示する。過剰発現の場合、様々な疾病の病因に関与するトランスグルタミナーゼの活性を抑制するためのグルコサミンまたはその誘導体は、そのような疾病の予防および治療に有用である。また、グルコサミンまたはその誘導体を活性成分として含む薬学的組成物、およびトランスグルタミナーゼの抑制方法を開示する。この薬学的組成物を使用するトランスグルタミナーゼの抑制方法は、トランスグルタミナーゼが過剰発現する疾患に苦しめられる患者に治療的に安全且つ効果的に適用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルコサミンまたはその誘導体を含むトランスグルタミナーゼ(TG)抑制剤に関する。さらに詳しくは、本発明は、過剰発現の場合、様々な疾病の病因に関与するトランスグルタミナーゼの活性を抑制するためのグルコサミンまたはグルコサミン誘導体を含むトランスグルタミナーゼ抑制剤、およびこれらの新規な用途に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスグルタミナーゼ(Transglutaminase)は、正常的な状況では血液凝固や傷治癒などの保護的作用をする酵素である。ところが、その発現が調節されない場合には、様々な疾病の病理的メカニズムで主要な役割をするものと知られている(総論. Soo-Youl Kim: New Target Against Inflammatory Diseases: Transglutaminase 2. Archivum Immunologiae & Therapiae Experimentalis 52, 332-337, 2004)。
【0003】
特に、例えば退行性関節炎や糖尿病、自己免疫筋肉炎、動脈硬化、脳卒中、肝硬変、悪性乳癌、脳膜炎、炎症性胃潰瘍などの炎症性疾患においてトランスグルタミナーゼの発現が多く増加する。
最近、Sohn等は、モルモットに花粉を用いて誘発させたアレルギー性結膜炎モデルから、ペプチドからなるトランスグルタミナーゼ抑制剤を用いて、ステロイドに匹敵する効果を得ることに成功した(Sohn, J., Kim, T.-I., Yoon, Y.-H., and Kim, S.-Y. Transglutaminase inhibitor: A New Anti-Inflammatory Approach in Allergic Conjunctivitis. J. Clin. Invest. 111, 121-8, 2003; Soo-Youl Kim.Transglutaminase 2 in inflammation. Front Biosci. 11, 3026-3035, 2006)。
【0004】
このような理由により、新薬開発の次元で安全且つ効果的なトランスグルタミナーゼ抑制剤に関する研究が求められている実情である。
トランスグルタミナーゼ(TGase、E.D.2.3.2.13)は、カルシウム依存性架橋結合促進酵素であって、タンパク質を構成しているグルタミン残基とリジン残基との間を連結する酵素である。図1に示すように、基質1はグルタミン残基(アシル供与体、アミン受容体)を提供し、基質2はリジン残基(アシル受容体、アミン供与体)を提供し、基質1と基質2とはイソペプチド結合[Nε−(γ−グルタミル)−L−リジン(GGEL)]によって共有結合する。図1において、G−Q−C−W−V−F−Aは、トランスグルタミナーゼの活性部位のアミノ酸配列を示す。この反応は、「ping−pong」反応であって、リジン残基に代えてモノアミン、ジアミン、ポリアミンなどのアミン化合物がアシル受容体として使用できる。
図1に示したトランスグルタミナーゼの反応メカニズムを考察すると、多くのアミン化合物がトランスグルタミナーゼの活性を抑制することができるものと期待される。このような物質の代表的なものとしては、シスタミン(cystamine) (Nature Genetics 18, 111-117, 1998; Nature Medicine 8, 143-149, 2002)とプトレッシン(putrescine)を挙げることができる。これらに対する生体内外実験結果は、既に多く報告されている。
【0005】
前述した化合物の他にも別の化学的抑制剤らが開発されたが、いずれも、生体的に用いられる場合、非特異的な別の酵素の抑制を誘発する毒性を持つと知られている。本発明者によって以前に製造されたペプチド抑制剤がトランスグルタミナーゼの抑制剤として有効であるが、コストと安全性の面から、実用化するには依然として多くの問題が残っている。
そこで、本発明者は、既に安全性が認められて商用化されている天然物質のうち、トランスグルタミナーゼ抑制剤として有用な物質をスクリーニングした結果、グルコサミンまたはその誘導体からトランスグルタミナーゼ抑制剤としての活性を見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の目的は、グルコサミンまたはその誘導体を含むことを特徴とする、トランスグルタミナーゼ抑制剤を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、活性成分としてグルコサミンまたはその誘導体を使用することを特徴とする、トランスグルタミナーゼの抑制方法を提供することにある。
【0007】
本発明の別の目的は、グルコサミンまたはその誘導体を含む、トランスグルタミナーゼの活性の増加により引き起こされる疾病を治療するための薬学的組成物を提供することにある。
本発明の別の目的は、グルコサミンまたはその誘導体を用いて、トランスグルタミナーゼの活性の増加により引き起こされる疾病を治療する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一様態は、グルコサミンまたはグルコサミン誘導体を含むトランスグルタミナーゼ抑制剤に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
グルコサミンは、海カニまたはエビ殻の主成分であるキトサンの分解産物である。海カニまたはエビ殻の主成分はキチンとキトサンである。キチンは2−アセトアミド−2−デオキシ−β−D−グルコース(N−アセチルグルコサミン)から構成されており、キトサンはキチンの脱アセチル化が起こった多糖類であって、ポリ(β−(1,4)−グルコサミン)である。グルコサミンは、下記化学式1で表される構造を持つ。
【化1】

【0010】
本発明において、用語「グルコサミン誘導体」は、グルコサミンのヒドロキシ基の水素がアシルまたはアルキル化合物で置換されたもので、下記化学式2で表される構造を持つものをいう。
【化2】

【0011】
式中、Rは炭素数2〜18のアシル基、または炭素数1〜5の直鎖または側鎖アルキルであって、好ましくは、例えばアセチル(acetyl)、プロピオニル(propionyl)、ブチリル(butyryl)、ペンタノイル(pentanoyl)、ヘキサノイル(hexanoyl)、ヘプタノイル(heptanoyl)、オクタノイル(octanoyl)、ノナノイル(nonanoyl)、デカノイル(decanoyl)、ウンデカノイル(undecanoyl)、ラウリル(lauryl)、トリデカノイル(tridecanoyl)、ミリスチル(myristyl)、ペンタデカノイル(pentadecanoyl)、パルミトイル(palmitoyl)、マルガリル(margaryl)またはステアリル(stearyl)基などのアシル基であり、またはメチル(methyl)、エチル(ethyl)、プロピル(propyl)、ブチル(butyl)、ペンチル(pentyl)、イソプロピル(isopropyl)、イソブチル(isobutyl)またはsec−ブチル(sec-butyl)基などのアルキル基である。
【0012】
前述したようにグルコサミンの1、3、4、6番のアルコール基に疎水性基を導入させる場合、グルコサミンの生理活性をそのまま持っていると信じられるアミン基はそのまま保有する。これにより、グルコサミンの生理活性をそのまま維持しながら天然でよく分解されるし、毒性がなく、重金属に対する高い吸着力を有し、抗菌活性に優れたグルコサミン誘導体を得ることができる。
【0013】
本発明において、グルコサミンまたはその誘導体がトランスグルタミナーゼに対して抑制作用を示すメカニズムが明確に確認されてはいないが、グルコサミンの3次構造が椅子形状を有し、グルコサミンのアミン基がトランスグルタミナーゼの活性部位と結合してトランスグルタミナーゼの活性を抑制するものと推測される。
【0014】
invitroにおいて、14Cで標識されたプトレッシン(putrescine)をサクシニル化カゼイン(succinylated casein)と結合させるトランスグルタミナーゼの反応にグルコサミンを添加したとき、トランスグルタミナーゼの活性はグルコサミンの濃度が増加するほど減少した(図2)。これは、グルコサミンがプトレッシンと競争してトランスグルタミナーゼの活性を抑制することを立証する。この結果より、グルコサミンまたはその誘導体がトランスグルタミナーゼの抑制剤であることが分かる。
【0015】
本発明の他の様態は、活性成分としてグルコサミンまたはグルコサミン誘導体を用いてトランスグルタミナーゼの活性を抑制する方法に関する。ミクログリア(microglia)は、免疫機能細胞であって、LPSによってNF−κBを活性化させ且つトランスグルタミナーゼの発現も増加させる。この際、トランスグルタミナーゼの作用を抑制すると、炎症主反応経路において転写物質として作用するNF−κBの活性も多く低下する。従って、LPSとグルコサミンを同時に処理すると、トランスグルタミナーゼの活性度とNF−κBの活性度との連関関係が分かる(図3)。
【0016】
本発明の実施例では、in vitroのLPS処理された細胞においてNF−κBによって誘導される細胞の標識因子であるiNOSタンパク質量が増加したとき、グルコサミンで処理してiNOSタンパク質量が減少することを確認した(図3A)。したがって、トランスグルタミナーゼが過剰発現するとき、グルコサミンまたはその誘導体を用いて、増加したトランスグルタミナーゼの活性を減らすことができることが分かる。
本発明の別の様態は、グルコサミンまたはグルコサミン誘導体を含む、トランスグルタミナーゼの活性の増加による疾病を予防、治療するための薬学的組成物、およびグルコサミンまたはグルコサミン誘導体を用いて前記疾病を治療する方法に関する。
【0017】
本発明において、用語「予防」とは、グルコサミンまたはグルコサミンの誘導体を含む組成物の投与によって、トランスグルタミナーゼの活性の増加による各種疾病の発病を抑制または遅延させる全ての行為を意味し、「治療」とは、前記薬学的組成物の投与によって、トランスグルタミナーゼの活性の増加による各種疾病を好転させ或いは有利に変更する全ての行為を意味する。
本発明において、トランスグルタミナーゼ活性の増加による疾病は、トランスグルタミナーゼの活性の増加、例えばトランスグルタミナーゼの過剰発現などにより引き起こされる各種疾病を含むが、具体的には神経系疾患と癌を含む。
【0018】
神経系疾患の場合、神経細胞の死亡または損傷に関する疾患であって、特にアルツハイマー病、多発性梗塞性痴呆、アルツハイマー病と多発性梗塞性痴呆との混合型、パーキンソン病、甲状腺機能低下症、アルコール性痴呆アルツハイマー、ハンチントン病など、中枢神経系細胞の損傷および死亡による中枢神経系疾患が代表的である。このような疾病の主要症状は、認知機能の障害や、言語、判断、追想力、空間時間的増力およびその他の新規技術習得の障害などを含み、性格変化、情緒的不安定などの症状が現われるし、終局的には死亡に至る。本発明の薬学的組成物は、神経組織においてトランスグルタミナーゼが過剰発現するなど、トランスグルタミナーゼの活性が増加することにより引き起こされる疾病に使われるが、具体的には脳でトランスグルタミナーゼが過剰発現するハンチントン病(Nature Medicine, Vol 8. Number 2, February 2002 pp143-149)、小脳と大脳の皮質でトランスグルタミナーゼが過剰発現するアルツハイマー病(The Journal of Biological Chemistry, Vol. 274. No. 43. Issue Of October 22, pp 30715-30721)、αシヌクレイン(α synuclein)がトランスグルタミナーゼによって凝集するパーキンソン病(PNAS, February 18,2003, Vol. 100, no.4, pp2047-2052)などに使用できるが、これに制限されず、神経組織でトランスグルタミナーゼが過剰発現する全疾病の治療に使用できる。
【0019】
癌の場合、癌の転移、化学的耐性、放射性耐性を持つ癌においてトランスグルタミナーゼの顕著な発現増加が確認されたので、トランスグルタミナーゼの抑制は癌の予防および治療の面からも重要である。本発明のグルコサミンまたはグルコサミン誘導体を含む薬学的組成物を用いて予防または治療できる具体的な癌は、トランスグルタミナーゼの増加が現われる癌、例えば大腸癌、小腸癌、直腸癌、肛門癌、食道癌、膵臓癌、胃癌、腎臓癌、子宮癌、乳癌、肺癌、リンパ腺癌、甲状腺癌、前立腺癌、白血病、皮膚癌、結腸癌、脳腫瘍、膀胱癌、卵素癌、胆嚢癌などを含み、これに制限されない。
【0020】
本発明のグルコサミンまたはグルコサミンの誘導体を含む組成物および治療方法は、ヒドだけでなく、トランスグルタミナーゼの活性の増加による疾病が発病し得る牛、馬、羊、豚、山羊、ラクダ、れい洋、犬、猫などの哺乳動物にも使用できる。
本発明のグルコサミンまたはグルコサミン誘導体を含む薬学的組成物は、単一剤としても使用することができ、公認された薬学組成物を含んで複合剤に製造して使用することもできる。
【0021】
グルコサミンまたはグルコサミンの誘導体を含む薬学的組成物は、グルコサミンまたはグルコサミンの誘導体を含むカプセルに賦形剤なしに充填し、或いは微粒固体担体、液体担体またはその両者と均一に十分接触させて製造できる。その後、必要な場合、生成物を好適な製剤に成形して使用することができる。適切な担体賦形剤の例として、澱粉、水、食塩水、エタノール、グリセロール、リンガー液およびデキストロース溶液などを挙げることができ、文献(Remington`s Pharmaceutical Science, 19thEd., 1995, Mack Publishing Company, Easton PA)などに開示されているところによって、当該技術分野に知られている適切な製剤に製剤化することができる。
【0022】
本発明のグルコサミンまたはグルコサミン誘導体を含む薬学的組成物は、グルコサミンまたはグルコサミン誘導体を有効成分として含むいずれの剤形にも適用可能であり、経口用または非経口用にも製造することができる。非経口用剤形は注射用、塗布用、エアロゾルなどのスプレイ型であってもよく、好ましくは注射用またはエアロゾルなどのスプレイ型である。また、経口用剤形も好ましい。
【0023】
本発明の薬学的組成物を含む経口投与用剤形は、例えば錠剤、トローチ剤、薬用キャンデー、水溶性または油性懸濁液、調製粉末または顆粒、エマルジョン、ハードまたはソフトカプセル、シロップまたはエリキシル剤などを含む。錠剤およびカプセルなどの剤形に製剤するために、ラクトース、サッカロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アミロペクチン、セルロースまたはゼラチンなどの結合剤、第二リン酸カルシウムなどの賦形剤、トウモロコシ澱粉またはサツマイモ澱粉などの崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリルフマル酸ナトリウム、またはポリエチレングリコールワックスなどの潤滑油を含むことができ、カプセル剤形の場合、前述した物質の他にも脂質などの液体担体をさらに含むことができる。
【0024】
本発明の薬学的組成物を非経口で投与する場合、非経口投与は、皮下注射、静脈注射または筋肉内注射などの注射用剤形、坐剤注入方式または呼吸器を介して吸入可能にするエアロゾル剤などのスプレイ用剤形に製剤化することができる。注射用剤形に製剤化するためには、グルコサミンまたはグルコサミン誘導体を安定剤または緩衝剤と共に水で混合して溶液または懸濁液に製造し、これをアンプルまたはバイアルの単位投与用に製剤する。坐剤として注入するためには、通常の坐薬ベース、例えばカカオバターまたは他のグリセリドなどを含む坐薬または治療浣腸剤などの直腸投与用組成物に製剤化することができる。エアロゾル剤などのスプレイ用に剤形化する場合、水分散した濃縮物または湿潤粉末が分散するように推進剤などが添加剤と共に配合できる。
【0025】
本発明の薬学的組成物は、直腸、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、経皮、鼻内、吸入、眼球内または皮内経路を介して通常の方式で投与することができる。非経口投与は、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、経皮、並びに動脈内注射および注入をを含む投与方式を意味する。本発明のグルコサミンまたはグルコサミン誘導体を含む薬学的組成物の非経口投与は、好ましい純度の下に薬学的に許容可能な担体、すなわち使用される濃度と投与量で受容体に対して非毒性であり且つ他の製剤成分と化合可能な担体と混合して単位投与量の剤形に調製することが好ましい。特に、製剤は、酸化剤および人体に有害なものと知られているその他の化合物を含まないことが好ましい。
【0026】
本発明のグルコサミンまたはグルコサミン誘導体は、少なくとも1種の薬学的に許容可能な賦形剤と共に薬学的組成物の形で投与できる。ヒト患者に投与される場合、本発明の薬学的組成物の総1日使用量が正しい医学的判断範囲内で処置医によって決定できるのは、当業者には自明なことである。特定の患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、他の製剤が使用されるか否かによる具体的組成物、例えば年齢、体重、一般健康状態、性別および食餌などの患者の条件、投与時間、投与経路、組成物の分泌率、治療期間、具体的組成物と共に使用されるまたは同時に使用される薬物などといった様々な因子、および医薬分野によく知られている類似因子によって異なる適用を行うことが好ましい。当該技術分野に知られている適切な製剤は、文献(Remington`s Pharmaceutical Science, 19thEd., 1995, Mack Publishing Company, Easton PA)に記載されている。したがって、本発明の目的に適したグルコサミンまたはグルコサミンの誘導体の有効量は、前述した事項を考慮して決定することが好ましい。
以下、本発明を下記の実施例によって具体的に説明する。但し、下記実施例は本発明の理解を助けるためのもので、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0027】
実施例1:トランスグルタミナーゼ活性度抑制のin vitro実験
トランスグルタミナーゼが[1,4−14C]プトレッシンをサクシニル化カゼインに結合させることを測定し、グルコサミンがプトレッシンと競争してその反応を抑制することを観察した。
【0028】
反応緩衝溶液(0.5mL)は、次のように製造された:0.1Mトリス−アセテートpH7.5、1%サクシニル化カゼイン、1mM EDTA、10mM CaCl、0.5% lubrol PX、5mM DTT、0.15M NaClおよび0.5mCiの[1,4−14C]プトレッシン(Dupont−New England Nuclear;118 Ci/mole)。この反応緩衝溶液に、100μLとなるように精製されたトランスグルタミナーゼ酵素(Sigma T5398)2μL(1unit/mL)、および最終濃度がそれぞれ1、10および100mMとなるようにグルコサミンを添加し、50mMトリス−アセテート緩衝溶液で溶液の体積が100μLなるようにした。よく混合した後、37℃で1時間反応させ、4.5mLの冷たい(4℃)7.5%TCAを混合して反応を終了した。TCA−沈殿物をGF−ガラス繊維フィルターで濾過し、5%TCAで10倍の体積となるように洗浄した後、乾燥させ、トランスグルタミナーゼ触媒によって14C−プトレッシンが標識されたカゼインをβ−カウンターで測定した。
グルコサミン濃度によって測定された相対的なトランスグルタミナーゼ抑制活性(%)を図2に示した。図2に示すように、トランスグルタミナーゼの活性はグルコサミンの濃度に依存的に抑制されることが分かる。
【0029】
実施例2:BV2ミクログリアを用いた細胞培養実験
LPSによって活性化されたミクログリア、マウス(murine)BV−2細胞は、反応性ミクログリアの表現型および機能的特性を示す。トランスグルタミナーゼ抑制効果を確認するために、NF−κBの活性度を観察した。NF−κBの活性度の観察は、この転写物質によって誘導されるiNOSを測定することにより行われた。
細胞は、5%CO、37℃の培養器で10%牛胎児血清とフェニシリン/ストレプトマイシンが添加されたDulveccoの変性Eagle培地(Invitrogen)で維持された。BV−2を活性化させるために、24時間LPS(100ng/ml;Sigma)を処理した。
【0030】
トランスグルタミナーゼの細胞内における活性度を測定するために、14C−プトレッシン4.5nmole(1.11×10dpm)/mLを培養液に混合して24時間処理した。細胞は、それぞれ1、10および100mMのグルコサミンを処理したものと処理していないものに分け、それぞれ24時間LPSを処理した後、BV−2からプロテアーゼ抑制剤を含んだ放射免疫沈澱測定用緩衝液(1×リン酸塩緩衝食塩水(PBS)、1%Nonidet P−40、0.5%デオキシコール酸ナトリウムおよび0.1%SDS)で粉砕した。粉砕混合物を100,000×gで1時間遠心分離し、上澄み液はiNOSウェスタンブロッティングに使用した。その結果を図3Aに示した。
【0031】
遠心分離によって得られた沈殿物は、TENT緩衝液(50mMトリス−アセテート、1mM EDTA、150mM NaCl、1%トリトン−X100)と共に振湯して洗浄した後、10,000×gで10分間沈澱させた。沈殿物を0.1%SDS、1mM DTT溶液で10分間水浴で沸かし、100,000×gで15分間遠心分離して再び沈殿物を得た。前記過程を1回繰り返し行った後、沈殿物はβ−カウンターで放射線を測定した。その測定結果を図3Bに示した。
【0032】
図3Aに示すように、LPS処理によって炎症細胞の標識因子であるiNOSのタンパク質量が増加するが、ここにグルコサミンを処理すると、iNOSが減少する。
このような状況でトランスグルタミナーゼのin vivo活性を測定すると、図3Bに示すように、グルコサミンの濃度に依存してトランスグルタミナーゼの活性が抑制されることが分かる。
【0033】
トランスグルタミナーゼによって架橋結合が増加すると、その中に14C−プトレッシンが多く増加し、トランスグルタミナーゼが抑制されると、減少する。
ウェスタンブロッティングサンプルは、トリシン(Tricine)緩衝液(Invitrogen)を用いた10〜20%グラジエントSDSゲルから分離した後、ポリビニリデンジフルオリドメンブレイン(Invitrogen)に移動させた。ウェスタンブロッティングは、以前と同様の方法で行った。iNOS抗体は、Santa Cruz Co.から入手し、陰性対照群として乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogense)(Research Diagnostics,Inc.,Flanders,NJ)を購入して対照群として使用した。1次および2次抗体の濃度は、それぞれ5μg/mL、0.1μg/mLとした。そして、強化された化学的発光体(Pierce,Milwaukee,WI)でブロットした。
【0034】
実施例3:SH−SY5Y神経芽細胞腫を用いた細胞培養実験
トランスグルタミナーゼの形質感染のために、遺伝子取り込みに使用するヒトの神経芽細胞腫細胞SH−SY5Yは、American Type Culture Collectionから購入した。SH−SY5Y細胞を10%の熱によって非活性化された牛胎児血清、グルタミン、フェニシリン/ストレプトマイシンが含まれたDulbeccoの変性されたEagle培地/HamのF12 培地(50:50)で培養した。クローン変異を回避するために、Flp−InTMシステム(Invitrogen,Co)を導入した。空ベクターのあるSH−SY5Yを陽性対照区(Wild)として使用し、pcDNA5/FRTベクターに全長のトランスグルタミナーゼをクローニングしてSH−SY5Y/TGを製造した。
【0035】
選別した後、正常細胞の成長基準、乳酸脱水素酵素(LDH)の遊離、4’、6’−ジアミノジノ−2−フェニルインドル、二塩酸塩ステイニング、カスパーゼ(caspase)の活性度、およびアネキシン(annexin)VステイニングによってSH−SY5Y/TG細胞のアポトーシスは増加していないことを確認した。これは、トランスグルタミナーゼの取り込まれた神経芽細胞腫が酸化的な環境に晒されなければアポトーシスが増加しないという以前の報告と一致する結果である。
【0036】
このように構築された細胞株では、常時NF−κBが活性化され(J. Biol. Chem. 279, 53725-53735, 2004)、トランスグルタミナーゼの過剰発現によるNF−κBの活性化モデルになった。ここにトランスグルタミナーゼの抑制剤が投与される場合、NF−κBはさらに非活性化された。
【0037】
トランスグルタミナーゼの抑制効果を調べるために、SH−SY5Y/TG細胞に10mMグルコサミン(GM)、200μMシスタミン(CTM)、2nMヨードアセトアミド(IAA)を添加して3時間培養させた後、Sigmaの核抽出物キットを用いてサイトゾル分画物を得た。前記細胞に何のトランスグルタミナーゼ抑制剤も添加していない培養物から得たサイトゾル分画物を陰性対照群(Ct)とした。得られたサイトゾル分画物を用いてウェスタンブロッティングを行った。I−kBα抗体(Cell Signaling)を用いて、前記実施例2に記載の方法と同様の方法によって実験を行った。その実験結果を図4に示した。
図4Aに示したウェスタンブロッティングでI−kBαが検出された結果より、他のトランスグルタミナーゼ抑制剤と同様に、グルコサミンがトランスグルタミナーゼを抑制することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明によれば、グルコサミンまたはグルコサミン誘導体を活性成分として含むことを特徴とする、トランスグルタミナーゼ抑制剤およびトランスグルタミナーゼの抑制方法を提供することができる。
本発明に係るグルコサミンまたはその誘導体を用いてトランスグルタミナーゼを抑制する新規方法は、トランスグルタミナーゼの過剰発現により引き起こされる疾患に苦しめられる患者に治療的に安定且つ効果的に副作用もなく適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
本発明の前記および他の目的、特徴および利点は添付図面を参照する以降の詳細な説明からより明らかに理解可能であろう。
【図1】図1はトランスグルタミナーゼの酵素反応メカニズムを示す概略図である。
【図2】図2は本発明の方法に係るin vitroにおけるグルコサミンのトランスグルタミナーゼ抑制効果を示すグラフである。
【図3】図3はLPSによって活性化されたミクログリア細胞における本発明に係るグルコサミンによるトランスグルタミナーゼの抑制効果を示すもので、図3AはiNOSとLDHのウェスタンブロッティング結果であり、図3Bはグルコサミンの濃度によるトランスグルタミナーゼ抑制活性を示すグラフである。
【図4】図4はグルコサミンとグルコサミン以外のトランスグルタミナーゼ抑制剤を用いてトランスグルタミナーゼを抑制することによりI−kBαが回復することを検出した結果であって、図4AはI−kBαのウェスタンブロッティング結果であり、図4Bはトランスグルタミナーゼ抑制剤の種類によるI−kBαの相対的発現密度を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルコサミンまたはグルコサミン誘導体を含むトランスグルタミナーゼ抑制剤。
【請求項2】
グルコサミン誘導体は下記化学式2で表されることを特徴とする、請求項1に記載のトランスグルタミナーゼ抑制剤。
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜18のアシル基、または炭素数1〜5の直鎖または側鎖のアルキル基である。)
【請求項3】
グルコサミンまたはグルコサミン誘導体を用いてトランスグルタミナーゼの活性を抑制する方法。
【請求項4】
グルコサミン誘導体は下記化学式2で表されることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【化2】

(式中、Rは炭素数2〜18のアシル基、または炭素数1〜5の直鎖または側鎖のアルキル基である。)
【請求項5】
グルコサミンまたはグルコサミン誘導体を含む、トランスグルタミナーゼの活性の増加により引き起こされる疾病を治療または予防するための薬学的組成物。
【請求項6】
前記疾病は癌または神経系疾患であることを特徴とする、請求項5に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
神経系疾患はアルツハイマー病、ハンチントン病またはパーキンソン病であることを特徴とする、請求項6に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
グルコサミン誘導体は下記化学式2で表されることを特徴とする、請求項5に記載の薬学的組成物。
【化3】

(式中、Rは炭素数2〜18のアシル基、または炭素数1〜5の直鎖または側鎖のアルキル基である。)
【請求項9】
グルコサミンまたはグルコサミン誘導体を投与することを含む、トランスグルタミナーゼの活性の増加により引き起こされる疾病の治療または予防方法。
【請求項10】
グルコサミン誘導体は下記化学式2で表されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【化4】

(式中、Rは炭素数2〜18のアシル基、または炭素数1〜5の直鎖または側鎖のアルキル基である。)
【請求項11】
前記疾病は癌または神経系疾患であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
神経系疾患はアルツハイマー病、ハンチントン病またはパーキンソン病であることを特徴とする、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−503061(P2009−503061A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−524879(P2008−524879)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【国際出願番号】PCT/KR2006/002438
【国際公開番号】WO2007/026996
【国際公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(507151124)ナショナル キャンサー センター (9)
【Fターム(参考)】