説明

トランスフェリン不含・低鉄培地中での骨髄腫細胞培養

本発明は、トランスフェリン不含、かつ親油性または合成含窒素キレート剤を含まない培養培地中で哺乳動物細胞を培養するための方法に関する。該培地および該培地中で哺乳動物産物を産生することが可能な細胞を培養することにより該産物をもたらすための方法もまた提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄を含有する培養培地中であるがトランスフェリンまたは親油性もしくは合成含窒素キレート剤の非存在下に、ある種の哺乳動物細胞を増殖させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養培地は、管理され、人工的でかつin vitroの環境において細胞を維持および増殖させるのに必要な栄養素を提供しなければならない。細胞培養培地の個々の特性は、培養される細胞のタイプに大きく依存し、また培養の方法にはより小さな程度依存する。
【0003】
哺乳動物細胞は、鉄に対する絶対的な要求性を有し、鉄はin vitroでは細胞培養培地中に供給される。Bertheussen(Cytotechnology 11:219-231, 1993)は、細胞培養培地に鉄の単塩を加えることでは哺乳動物細胞に対して有効に鉄を供給することはできず、それは主として迅速な酸化および鉄の沈殿により細胞に対する鉄の利用能が低下することによる、と述べている。
【0004】
さらに、遊離型の鉄は高い酸化能を有し、このことは、細胞培養培地の成分の酸化をもたらしうる。それゆえ、この酸化能を低減させるかまたは取り除くように鉄を複合体(錯体)化することが有効であることが証明されている。
【0005】
in vivoでは、鉄は、鉄結合タンパク質であるトランスフェリンによって哺乳動物細胞に提示される。トランスフェリンは、鉄に結合し、細胞表面上のトランスフェリン受容体と相互作用することにより機能する。トランスフェリン−鉄複合体は、その後、エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれる。細胞内に入ると、トランスフェリン−鉄複合体は壊れ、そして放出された鉄が鉄輸送タンパク質(フェリチン)と複合体化する。トランスフェリンは再利用される。Thorstensen および Romslo(Biochem. J., 271:1-10 (1990))は、このin vivo鉄輸送メカニズムについて秀逸な総説を提供している。細胞への鉄の輸送を仲介するトランスフェリンの能力は、細胞培養培地にトランスフェリンおよび鉄塩を単に添加することにより細胞培養に利用されてきた。
【0006】
しかしながら、細胞培養培地に典型的に用いられるトランスフェリンは動物由来のものであり、近年では、細胞培養方法から動物由来のタンパク質を除くという規制的圧力が増大してきている。明らかに、動物由来のタンパク質の使用は、汚染物質および外来性の病原因子(例えばクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)または海綿状脳症(狂牛病))を導入する危険性を伴う。したがって、トランスフェリンに代わる鉄輸送体が求められ、適用されて種々の程度の成功を収めている。代わりとなる鉄輸送体についてのタイプおよび濃度は、多くの場合、培養される哺乳動物細胞のタイプに依存することが見出されてきている。
【0007】
Kovar および Franek (Biotechnology Letters 9:259-264 (1987))は、ハイブリドーマ細胞株の培養において、トランスフェリンの代わりに種々の可溶性鉄化合物(例えばクエン酸第二鉄)を用いることができることを実証した。Kovar および Franek は、5μM(1.25mg/L)〜5mM(1225mg/L)の濃度範囲にわたって、2種類のハイブリドーマ細胞株の増殖を支援するクエン酸第二鉄の能力について調べた。より低い濃度の第二鉄化合物は、数種類の異なる細胞株(特にヒト白血病または上皮由来のもの)のための培養培地中での使用に好適であることが初期の先行技術において提案されていたが、Kovar および Franek は、クエン酸第二鉄がトランスフェリンと同等にハイブリドーマ細胞増殖を支援するためには、500μM(122.5mg/L)の濃度が必要であったと報告している。Kovar および Franek は、500μMのクエン酸第二鉄を含有する培地は他のハイブリドーマ細胞株の培養に好適であること、およびいくつかの種類の骨髄腫細胞タイプの培養にも好適であることを見出した。
【0008】
Eto ら(Agric. Biol. Chem. 55(3):863-865 (1991))は、Kovar および Franek と同様の知見を報告している。彼らは、ハイブリドーマ細胞株に対する、10mg/L〜600mg/Lの濃度範囲にわたるクエン酸第二鉄の増殖刺激作用について調べた。彼らは300mg/Lをさらなる研究に用いたと報告している。トランスフェリンを用いて達成したのと同等の増殖は、300mg/Lのクエン酸第二鉄を含有する培地に10μMの濃度でエタノールアミン(脂質前駆体)を加えたときに観察された。
【0009】
同様の研究において、Toyoda および Inouye (Agric. Biol. Chem. 55(6):1631-1633 (1991))は0〜500μMの濃度範囲にわたるクエン酸第二鉄を含有する培地中での3種類のハイブリドーマ細胞株の増殖について調べた。彼らは、調べた3種類のハイブリドーマ細胞株のうち2種類に対して、50μM(12.5mg/L)のクエン酸第二鉄が最適であることが見出されたと報告している。この結果は、Eto ら、ならびにKovar および Franek の知見と合致するが、但し3番目の細胞株に対しては500μMの濃度が最適であることが明らかとなった。
【0010】
しかしながら、Kovar および Franek 、Toyoda および Inouye 、ならびにEto らの研究はすべて静置培養において行われたことに注意することが重要である。WO94/02592では、10mg/Lのクエン酸第二鉄アンモニウム(FAC)は静置培養においてはハイブリドーマ増殖を支援しえたが、これは振盪懸濁培養には当てはまらなかったと報告されている。したがって、振盪懸濁培養において増殖する場合には、ハイブリドーマ細胞が鉄の最適使用を達成する能力は静置培養でのそれとは異なることが明らかである。
【0011】
WO93/00423には、無血清・無タンパク質培養培地に対する好適な鉄供給源である、可溶性鉄塩の鉄キレートおよびクエン酸アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含む培養培地添加物が記載されている。この出願の実施例は、主にBHK細胞およびCHO細胞のような哺乳動物細胞の増殖に関する。実施例5は骨髄腫細胞の増殖を実証することを意図するものであるが、用いたSP2/0細胞は実際は非分泌性マウス/マウスハイブリドーマ細胞であることが注目される。培養条件は、全体を通して静置懸濁培養であるものとして述べてある。
【0012】
Kovar および Franek は、500μMのクエン酸第二鉄を含有する彼らの培地が振盪懸濁培養に好適であったことを主張しているが、この主張を支持する証拠は示されていない。しかしながら、Qi ら(Cytotechnology 21:95-109 (1996))は、500μM(122.5mg/L)のクエン酸第二鉄を含有する培地(Kovar および Franek により記載されたのと同様)が、振盪懸濁培養において3種類のハイブリドーマ細胞株の培養に好適であったと報告している。しかし、Qi らは、これらの高濃度(500μM)のクエン酸第二鉄を含有する培地を使用するためには、細胞をこの培地に切り替えさせることが必要であり;ある細胞株の場合には、この切り替え期間が非常に長引いた。Qi らは、これらの条件下では、細胞が適応するのは困難であること、および培地の処方は培地中のクエン酸第二鉄をより有効に鉄を提示する化合物(例えばアウリントリカルボン酸)と置換することにより改善しうるとの意見を述べている。
【0013】
Kovar および Franek (1978)により引用された先行技術と一致して、数人の研究者が、あるタイプの哺乳動物細胞がより低い濃度の鉄化合物を用いた培養において維持可能であることが見出されていることを報告している。
【0014】
Ramos らはWO92/05246で、上皮細胞株の培養において、特にチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株において、トランスフェリンを10〜100mg/Lのクエン酸第二鉄(約0.6〜16mg/Lの鉄を提供する)と置き換えうることを報告している。しかしながら、この特許出願では、該培地は骨髄腫細胞株の培養には適していないことが明らかとなったとはっきり述べられている。Keen らはUS5,633,162で、クエン酸第二鉄、硫酸第一鉄およびクエン酸第二鉄アンモニウム(FAC)を、CHO細胞の培養においてトランスフェリンを置き換えるために0.25〜5mg/L(0.04〜0.8mg/Lの鉄と等価)の濃度で用いうることを報告している。
【0015】
WO98/08934では、すべての動物タンパク質(すなわちトランスフェリンおよびインスリン)が置き換えられた代替培地が規定されている。トランスフェリンは硫酸第一鉄(含窒素キレート化合物にキレートされている)により、鉄に基づく濃度0.28〜11mg/L(1.1mg/Lが最適であることが見出された)で置き換えられている。好適であるとされている含窒素キレート化合物としては以下のものが挙げられる:エチレンジアミン四酢酸(EDTA);エチレングリコール−ビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA);デスフェロキサミンメシレート;ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)およびトランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン−N,N,N’,N’−四酢酸(CDTA)。これらのうちでは、EDTAが最も好ましい。クエン酸第二鉄はFeCl−クエン酸ナトリウムの形態でも用いられたが、これは硫酸第一鉄7HO−EDTAキレートよりも高い濃度を必要とした。
【0016】
この出願では、トランスフェリン不含培地が、哺乳動物細胞、特に上皮または線維芽細胞を増殖させるのに好適であるということについて述べている。CHOおよびヒト胎児腎細胞株293の増殖の事例が提供されている。
【0017】
また、一定範囲の細胞タイプが、Neumannova ら(In vitro Cell Dev. Biol., 31:625-632 (1995))により、1.25mg/L(約0.2mg/Lの鉄)の低濃度のクエン酸第二鉄の形で鉄を含有する培地中での長期増殖についても調べられた。試験した19種類の細胞株のうち、5種類のみがこの低鉄培地中での長期増殖が可能であった。5種類の細胞株とは、ジャーカット、J111およびTHP−1(ヒト白血病細胞株)、HeLa(ヒト上皮細胞株)およびXC(ラット肉腫)である。ハイブリドーマおよび骨髄腫細胞株は調べたもののうちに含まれるが、どちらも低鉄培地中では増殖することができないことが見出された。
【0018】
上述のように、低濃度の第二鉄化合物は、ある種の細胞タイプ(特に上皮およびヒト白血病由来のもの)のための培養培地で用いるのに好適である。しかしながら、トランスフェリン不含培地を用いた振盪懸濁培養でハイブリドーマ細胞を培養するためには、高濃度(例えば122.5mg/L付近)の鉄化合物が必要であることは、当該技術分野において広く同意されている。
【0019】
しかしながら、先行技術ではまた、高濃度の鉄は有利ではないことも教示している。Bertheussen は Cytotechnology 11:219-231(1993)において、高濃度の鉄(例えば Kovar および Franek により提案された500μMのクエン酸第二鉄)は、これらの高い濃度が培地中の鉄水酸化物の急速な沈殿を引き起こすため、用いるべきではないと述べている。形成されたばかりの鉄水酸化物は他の金属および種々の有機分子を効率よく吸収し、したがって高濃度の鉄を含有する培地の組成および安定性は著しく害されるであろう。
【0020】
培養中のある種の哺乳動物細胞(特にハイブリドーマ細胞)に鉄を送達することに関して直面する困難に鑑みて、鉄のキレート化(例えば親油性化合物への)のコンセプトが開発された。
【0021】
鉄キレート剤は、典型的にはヘテロ環式化合物であり、キレート剤中の少なくとも2つの非金属イオンに対して配位結合により金属イオンが結合するものであって、それらは多数の規準(例えばその由来(合成かまたは生物学的に産生される分子か)、水などの溶媒との相互作用(疎水性または親水性)またはその化学量論的相互作用(六座配位のうちの二座配位))を用いて分類することができる。
【0022】
親油性キレート剤は、2つの異なる性質を有する化合物である:(1)該化合物は疎水性であり多くの場合芳香族であるため、有機溶媒(例えばアルコール)への溶解性を示すが、水への溶解性は限られている;(2)該化合物はまた、典型的には負に荷電した領域を有し、ここで正に荷電した鉄イオンとの静電的相互作用を介して鉄を「結合」させる。細胞培養においては、そのような化合物は脂質に富む細胞膜に引き寄せられると考えられており、それゆえ細胞膜に、そしておそらくそれを介して「結合した」鉄を輸送し、したがって細胞への鉄の供給を促進するものと考えられている(US5,045,468)。親油性キレート剤は、典型的には付随する鉄塩を上回る量を添加する。
【0023】
親油性キレート剤の使用に関する最も初期の報告のうちの1つは Brock および Stevensen によるものであり(Immunology Letters 15:23-25, (1987))、彼らはピリドキサルイソニコチノイルヒドラゾン(PIH)をニトリロ三酢酸第二鉄とともに用いた。彼らは、PIH:ニトリロ三酢酸第二鉄(2:1の比、PIHに基づいて40μMの濃度)が、マウスリンパ球細胞株の培養のためにトランスフェリンを置き換えうることを見出した。
【0024】
Darfler (US5,045,468/in Vitro Cell. Dev. Biol. 26:769-778, 1990)は、ハイブリドーマ細胞株の培養に好適な無タンパク質培地を報告している。この著者は、有機鉄化合物、ニトロプルシドナトリウム(SNP)をEDTAと共にそれぞれ5.7および5.5mg/Lの濃度で用いることによりトランスフェリンを置き換えうることを見出した。著者は、この培地を「ABC培地」と名付けた。
【0025】
Bertheussen (US5045467/Cytotechnology 11:219-231 (1993))は、アウリントリカルボン酸、親油性鉄キレート剤、および3μMの第二鉄イオン(FeClの形で添加)を用いることにより、細胞培養培地中のトランスフェリンを置き換えうることを報告した。Bertheussen はこの培地を数種類の細胞タイプを用いて開発し、これが増殖の速いハイブリドーマ細胞株の培養に特に好適であることを見出した。
【0026】
WO94/02592では、振盪懸濁培養中の細胞への鉄の提示におけるトランスフェリンの機能の代わりを務めるために、トロポロンを用いることが提案された。著者は、トロポロンを、付随する鉄を上回る量添加するべきであると述べている。鉄は、種々の鉄化合物を用いて第二鉄または第一鉄イオンとして提示されうるが、FACを用いることが最も好ましい。ハイブリドーマ細胞株を用いて、トロポロンおよびFACの最適濃度がそれぞれ5μMおよび0.2mg/Lであることが明らかにされた。この培地はまた、NSO骨髄腫細胞の増殖にも好適であった。純粋に実験上の対照として、トランスフェリンおよびトロポロンを含まないがFACを含有する培地について、ハイブリドーマおよび骨髄腫細胞を用いて調べられた。FAC単独(0.1〜10mg/L)では、振盪懸濁培養のハイブリドーマ細胞の増殖を支援できないことが明らかになった。0.2mg/Lの濃度のFAC単独では、NSO骨髄腫細胞株の増殖を支援することができなかった。骨髄腫細胞株を用いては、FAC単独の他の濃度については調べられなかった:おそらく著者らは、NSOとハイブリドーマ細胞株が同様の挙動を示すものと推測し、他の濃度のFACが細胞増殖を支援することは予測しなかったのだろう。
【0027】
Keen (Cytotechnology 17:193-202, 1995)は、ラット骨髄腫細胞およびラットハイブリドーマ細胞の培養のための無タンパク質培地の開発を報告している。この培地(W38と呼ばれる)は、DMEM、RPMIおよびABC培地(Darfler により開発された)の1:1:1の混合物に基づいている。したがってこの培地は親油性の鉄供給源としてSNPを、また含窒素キレート剤としてEDTAを含むものであった。しかしながら、SNPおよびEDTAはABC培地中に見られる濃度の3分の1であり、Keen は培地中にクエン酸第二鉄を含めることにより鉄濃度を上昇させることが有益であるのを見出した。W38培地はまた、コレステロール要求性骨髄腫細胞株であるNS0の培養にも好適であり、これによりコレステロール要求に対して好都合な対策をもたらした(Keen および Steward, Cytotechnology 17:203-211, 1995)。
【0028】
Epstein らによる最近の特許出願(WO01/16294)では、多くの場合、クエン酸のような簡単な鉄担体は培養細胞に対する十分な鉄利用能または鉄取り込みをもたらさないと述べられている。この特許ではまた、一定範囲の親油性鉄キレート化合物を種々の細胞タイプに対して用いて様々な程度の成功を収めることができるとも報告されている。しかしながら、少なくともトランスフェリンと同程度に良好な結果はFeClおよび2−ヒドロキシピリジン−N−オキシドにキレート化されたソルビトールを用いて得られたのみであった。
【0029】
したがって、ハイブリドーマ細胞および骨髄腫細胞タイプのトランスフェリン不含培養における、鉄をキレートし、その提示を助けるための親油性化合物の使用が、当該分野の最先端となってきている。しかしながら、細胞培養培地に親油性キレート剤を含めることにはいくつかの欠点がある。親油性キレート剤は多くの場合毒性であり、例えばSNPは非常に毒性が強いものとして分類され、ラットでのLD50は1mg/kg未満である。生体治療用製品の工業的生産のために用いられる細胞株においては、このことは製造技術者および最終製品の両方に対して重大な意味を有する。実際、最終的に精製した生体治療用製品が、親油性キレート剤のいかなる汚染も含まないことを証明するアッセイを開発および確認することが必要であると思われる。さらに、いずれの特定の方法での鉄濃度の最適化も、キレート剤と鉄化合物の2成分系であるためにさらに複雑なものであるだろう。
【0030】
まとめると、先行技術においては以下のことが示されている:
1. トランスフェリンの非存在下では、ハイブリドーマおよび骨髄腫細胞は高い鉄濃度(クエン酸第二鉄122.5mg/L)においては増殖するであろう(Kovar および Franek)。
2. 高い鉄濃度(例えばクエン酸第二鉄122.5mg/L)は沈殿を引き起こし、これが培養培地にダメージを与える(Bertheussen)。
3. トランスフェリンまたは親油性キレート剤の非存在下では、低い鉄濃度(それぞれ0.1〜10mg/Lおよび0.2mg/L)においては、振盪培養ではハイブリドーマ細胞は増殖せず、また骨髄腫細胞は全く増殖しないであろう(WO94/02592)。
4. 親油性キレート剤は、低い鉄濃度での振盪培養においてはハイブリドーマおよび骨髄腫細胞の増殖を可能にするために培地中に必要である(WO94/02592)。
5. 低い鉄濃度をある種の哺乳動物細胞の増殖のために用いることができるが、それはEDTAのような含窒素キレート剤の使用を伴う場合にのみ可能である(WO98/08934)。
【0031】
細胞培養の分野では、特定の細胞タイプ同士が類似の栄養特性を共有することが重視される。骨髄腫細胞およびハイブリドーマ細胞の両者が、他の細胞タイプは必ずしも示さない顕著な特性(例えばグルタミン要求性)を共有することは特筆すべきである(Bebbington ら、Biotechnology 10:169-175, 1992)。ハイブリドーマおよび骨髄腫細胞が多くの項目において同様に反応するという事実は、ある程度は驚くべきことでもなく、なぜならハイブリドーマ細胞株は骨髄腫細胞と抗体産生Bリンパ球との融合により作り出されるからである(Kohler および Milstein, Nature 256:495-497, 1975)。
【0032】
上述した先行技術では、ハイブリドーマ細胞および骨髄腫細胞が、トランスフェリンまたは親油性もしくは含窒素キレート剤の非存在下で簡単な鉄担体(例えばクエン酸)を有する培地中に存在する鉄を使用する能力が、例えばCHO細胞の、対応する能力とは異なっていることが示されている。先行技術の総合的な内容は、ハイブリドーマ細胞および骨髄腫細胞はトランスフェリン不含培養培地中の鉄を使用する能力において同様である、というものである。
【0033】
特に静置培養における、ハイブリドーマ細胞タイプの増殖のためのトランスフェリン不含培地の開発に時間と努力が費やされてきていることは、上述したように文献から明らかである。この点において、骨髄腫細胞はハイブリドーマ細胞と同じ要求を示すであろうという先行技術に暗示された仮定に基づいて、骨髄腫細胞には同等の努力はなされてきていない。
【0034】
何年にもわたって、ハイブリドーマ細胞および骨髄腫細胞培養の分野は明らかに、トランスフェリンの代替物として可溶性鉄化合物の形態の鉄の使用からは遠ざかってきており、その代わりに、低鉄濃度の利益を享受するために、親油性または含窒素キレート剤を培養培地中に含めなければならないことを確認してきた。もちろん、細胞が産生するように操作された産物のために該細胞を増殖させる目的で用いる培地中での、そのようなキレート剤の使用はまた、キレート剤で汚染されていないことを確実にするために産物をさらに処理することを必然的に伴う。したがって、培養培地中にそのようなキレート剤を含めることは、産物が純粋であることを示すのに要する時間を引き延ばすのみならず、「毒性」の鉄キレート剤が純粋な産物を汚染していないことを証明するための具体的なアッセイの開発を要することから、製造にかかる費用を増大させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
それゆえ、細胞増殖の継続を可能にするのに十分な鉄を提供しつつ、上記の沈殿ダメージをもたらさない濃度で、培養中のある種の細胞に簡単な形態で鉄を提供することがいまだ求められていることは明らかである。さらに有益なことは、トランスフェリンおよび親油性または含窒素キレート剤を含まない培地を得ることである。目標は、トランスフェリンを含む培地中で得られるのと等価な細胞培養を、トランスフェリンおよび親油性または含窒素キレート剤不含培地中で達成することである。
【課題を解決するための手段】
【0036】
ある種の細胞の増殖を支援するトランスフェリン不含培地を提供する必要を満たすために、本発明はとりわけ、鉄を含むがトランスフェリンまたは親油性もしくは含窒素キレート剤を含まない培地中で、振盪(攪拌)懸濁培養において骨髄腫細胞を培養する方法を提供する。本発明では、驚くべきことに、また先行技術で示唆されているのとは反対に、骨髄腫細胞の鉄要求性はハイブリドーマ細胞のものとは異なることを、骨髄腫細胞がハイブリドーマ細胞が必要とするよりも100倍まで低い培地中鉄濃度において継続的な増殖を示すという予期せぬ結果と共に示す。本発明の方法のさらなる利点は、低鉄濃度の培地中で細胞を培養したときに得られる骨髄腫細胞産物の改善された力価により実証される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
上記に従って、本発明はその最初の態様において、骨髄腫細胞株のin vitro培養の方法であって、以下のステップ:
(a) 培養培地に骨髄腫細胞株を接種するステップ、ここで前記培地は前記骨髄腫細胞株の増殖を支援することが可能なものであり、かつ培地中濃度約0.03mg/L〜約3.2mg/Lで鉄を含有し、前記培地はトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含まないものである;および
(b) 適切な条件下で、振盪懸濁培養を用いて、接種された培養培地を増殖させるステップ、
を含む方法を提供する。
【0038】
この態様の一実施形態では、本発明は、骨髄腫細胞株のin vitro培養の方法であって、以下のステップ:
(a) 培養培地に骨髄腫細胞株を接種するステップ、ここで前記培地は前記骨髄腫細胞株の増殖を支援することが可能なものであり、かつ培地中濃度約0.2mg/L〜約20mg/Lでクエン酸第二鉄アンモニウムを含み、前記培地はトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含まないものである;および
(b) 適切な条件下で、振盪懸濁培養を用いて、接種された培養培地を増殖させるステップ、
を含む方法を提供する。
【0039】
第二の態様において、本発明は、哺乳動物細胞産物を取得するための方法であって、前記産物を産生することが可能な骨髄腫細胞を、前記骨髄腫細胞株の増殖を支援することが可能な培養培地中で培養すること、ここで前記培養培地は培地中濃度約0.03mg/L〜約3.2mg/Lで鉄を含み、前記培地はトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含まないものである;および前記哺乳動物細胞産物を回収すること、を含む方法を提供する。
【0040】
さらなる態様において、本発明は、骨髄腫細胞株のin vitro増殖を支援するための培養培地の使用であって、該培養培地は培地中濃度約0.03mg/L〜約3.2mg/Lで鉄を含み、前記培地はトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含まないものである使用を提供する。
【0041】
本発明のこれらの態様の実施形態では、培地は培地中濃度約0.2mg/L〜約20mg/Lでクエン酸第二鉄アンモニウムを含む。
【0042】
本発明では、培養培地は骨髄腫細胞株の増殖を支援することが可能なものである。「増殖を支援すること」とは、各継代において(すなわち、ある継代培養(subculture)から次にかけて)細胞数が少なくとも2倍、好ましくは3倍になることを伴う、複数回の継代培養にわたる細胞の継続的増殖を意味する。継代培養の回数は、本発明にとって本質的なものではなく、例えば行った実験の長さ、または産生される産物に依存する。本発明においては、一般的に細胞が少なくとも2回の継代培養にわたる、好ましくは少なくとも3回の継代培養にわたる継続的な増殖を示すことが好ましい。
【0043】
骨髄腫細胞(他にはリンパ様細胞として知られる)は癌性リンパ球であり、典型的には通常の増殖条件下で無限分裂する。骨髄腫細胞タイプは、それらがモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ作製のための優秀な融合パートナーであるために有用である。近年、組換え遺伝子技術における宿主細胞としての骨髄腫細胞タイプの重要性が非常に顕著になってきている。このことは特に、グルタミン合成酵素選択マーカーの使用と共にする場合にあてはまり、これは永続的高産生組換え細胞株を作製するためのNS0骨髄腫宿主と共に用いられる(Barnes ら Cytotechnology 32: 109-123, 2000)。
【0044】
本発明では、いかなる骨髄腫細胞株でも、該培養培地中に用いることができることが期待される。一般的には、骨髄腫細胞株はマウス由来であることが好ましく、その場合、骨髄腫がNS0細胞株またはP3シリーズ細胞株であることが特に好ましく、NSO細胞株(例えばECACC85110503)であることが最も好ましい。他のマウス骨髄腫としては、MOPCシリーズ、MPC−11、J558L、K6H6/B5および45.6.TG1.7が挙げられる。本発明の方法は、ラットおよびヒトの骨髄腫細胞タイプを培養するためにも用いることができる。本発明の方法での使用に適切なラット骨髄腫細胞株としてはY0およびYが挙げられ、適切なヒト骨髄腫細胞株としては、HTK、RPMI8226およびU266B1が挙げられる。
【0045】
骨髄腫細胞株がNSO細胞である場合、一般的には該細胞株をグルタミン合成酵素発現システムを用いて形質転換することが好ましい。
【0046】
本発明の細胞培養培地は、トランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤のいずれも含まない。親油性キレート剤は、本発明の目的では、以下の2つの異なる性質を有するキレート剤として定義することができる:(1)疎水性であり、水または細胞培養培地にほとんど溶けないか、不溶性であり、そして多くの場合芳香族である、および(2)負に荷電した領域を有し、ここで正に荷電した鉄イオンとの静電的相互作用を介して鉄を「結合」させる。親油性キレート剤の例は、トロポロンおよびニトロプルシドナトリウムである。本発明の目的では、合成含窒素キレート剤はその構造中に少なくとも1個の窒素原子を含む鉄結合化合物として定義することができる。そのような化合物は疎水性でも親水性でもよい。この点において、「合成」とは、含窒素キレート剤が天然に存在するものではない、すなわち、それらは通常自然界には見出すことができないことを意味する。天然に存在する含窒素キレート剤で合成的に生成されたものはこの定義には包含されず、本発明の方法および使用から除外されない。そのような合成含窒素キレート剤としては、これに限られないが、以下のような化合物が含まれる:エチレンジアミン四酢酸(EDTA);エチレングリコール−ビス(β−アミノエチルエーテル)−N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA);デスフェロキサミンメシレート;ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)およびトランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン−N,N,N’,N’−四酢酸(CDTA)。親油性と合成含窒素キレート剤の両方でありうる化合物も、本発明の方法および使用から除外される。
【0047】
培地がトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含まず、上述の濃度で鉄を含む限りは、そして培地が上記で定義したように骨髄腫細胞株の増殖を支援することが可能である限りは、培地の厳密な組成は本発明にとって重要ではない。
【0048】
典型的には、細胞培養培地は、アミノ酸、ビタミン類、有機ならびに無機塩類および糖類の供給源を含有するであろう。これら増殖のための必須要素を提供することが可能な化合物は市販されており、細胞増殖のための培地にそれらを組み込むことは、当該技術分野で利用可能な情報に基づいて、当業者の技能の範囲内である。
【0049】
一般的には、細胞培養培地は公知の基礎培地またはその派生物であって哺乳動物細胞の継続的な増殖を支援するものであることが好ましい。そのような基礎培地は市販されている。適切な基礎培地(本発明の培地を提供するために添加物を加えられてもよい)の例としては、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF12培地、イスコフ改変ダルベッコ培地およびロズウェル・パーク記念研究所培地(RPMI)が挙げられる。
【0050】
本発明の培地は、無血清、無タンパク質、動物由来成分不含、または化学的組成が明らかなものであってもよい。
【0051】
あるいはまた、細胞培養培地は継続的増殖に必要な特定の成分の配合により、原則から作製してもよい。
【0052】
特定の細胞タイプまたは細胞株のための細胞培養培地を調製するときには、基礎培地は、典型的にはその細胞タイプ/株の要求性に応じて改変されるかまたは添加物を加えられるであろう。添加物の選択は当業者の技能の範囲内であり、本発明の必須の態様を構成するものではない。典型的には、そのような添加物としては、脂質(例えばコレステロールおよび脂肪酸)、脂質前駆体(例えばエタノールアミン)、増殖促進因子もしくは調製因子(例えばインスリン)、微量元素(例えばセレン)、ポリマー(例えばプルロニックF−68)およびグルタミン(グルタミン依存性細胞タイプの場合)が挙げられる。
【0053】
本発明の使用に好適となるように、上述の濃度で培地に鉄を提供する目的で鉄供給源を添加することができる培地の一例は、Qi ら(Cytotechnology 21:95-109 (1996))により記載されたCDSSに基づく細胞培養培地である。この培地は改変CDSSとして知られ、DMEM/F12(1:1)(Gibco BRL.、1×液体、カタログ番号21331)に基づき、以下のものを添加する:GS添加物(JRH、カタログ番号58672)、40ml/L;クリーブランド微量元素I(Cellgro、99−175)、0.5ml/L;クリーブランド微量元素II(Cellgro、99−176)、1ml/L;硫酸亜鉛、2μM;亜セレン酸ナトリウム、50nM;エタノールアミン、20μM;プルロニックF68、1g/L;炭酸水素ナトリウム、1.3g/Lおよび2M塩酸、3.6ml/L。該培地はまた、グルタミン非依存的増殖が不可能な細胞株に対しては6mMグルタミンを、またNS0細胞株に対してはコレステロール脂質濃縮物(Gibco、カタログ番号00−0061)2ml/Lを含む。
【0054】
本発明の細胞培養培地は、培地中濃度約0.03mg/L〜約3.2mg/Lで鉄を含む。好ましい実施形態では、培養培地中の鉄供給源は可溶性鉄化合物である。用いる可溶性鉄化合物の量は、培地に対してその濃度の鉄を提供するのに十分であるべきであり、培地中の鉄の量がその範囲内である限りは、細胞の増殖を支援するのにちょうど十分であるべきである。培地中の可溶性鉄化合物の厳密な濃度は、用いる具体的な可溶性鉄化合物および用いている細胞株ならびに/または存在する他の培地成分に依存して変わりうる。適切な濃度は、直接的な方法で、例えば慣例的な操作に従った小規模実験(例えば特定の細胞株を用いた特定の培地中での該可溶性鉄化合物に対する用量反応)の実施により決定することができる。
【0055】
本発明では、培地中の鉄(好ましくは可溶性鉄化合物により提供される)の濃度は、約0.03mg/L〜約3.2mg/L、好ましくは約0.03mg/L〜約2.4mg/L、より好ましくは約0.064mg/L〜約1.6mg/Lおよび最も好ましくは約0.16mg/L〜約0.32mg/Lである。
【0056】
本発明の好ましい実施形態では、培地中の鉄の供給源は可溶性鉄化合物である。適切な可溶性鉄化合物は水または細胞培養培地に可溶性であるが、有機溶媒中には限られた溶解度を示す。そのような化合物は当業者に対して市販されており、当業者にとっては溶解度の測定は容易である。
【0057】
本発明はまた、鉄供給源がトランスフェリンまたは親油性もしくは合成含窒素キレート剤の非存在下に細胞の継続的増殖を可能にするのに十分な鉄を提供することができる限りにおいては、いずれの代わりの鉄供給源の使用をも予想するものである。
【0058】
鉄の準備のための、したがって本発明での使用のための適切な可溶性鉄化合物としては、第二鉄および第一鉄塩またはそれらの簡単なキレートが挙げられる。本明細書中で用いる「簡単なキレート」は、上述の親油性または合成含窒素キレート剤を含まないことに注意すべきである。「簡単なキレート」の語句は、本明細書中では、先行技術のいくつかの場面中の「簡単な鉄担体」の語句の使用と同様に用いる。
【0059】
第二鉄もしくは第一鉄塩またはそれらの簡単なキレート(本発明の方法および使用のための培養培地中で鉄供給源となりうるもの)の例としては、硫酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸第二鉄、および第二鉄アンモニウム化合物が挙げられる。本発明の使用のために好ましいものは、第二鉄アンモニウム化合物である。本発明の使用に適切な具体的な第二鉄アンモニウム化合物としては、クエン酸第二鉄アンモニウム、シュウ酸第二鉄アンモニウム、フマル酸第二鉄アンモニウム、リンゴ酸第二鉄アンモニウムおよびコハク酸第二鉄アンモニウムが挙げられる。本発明の使用のために最も好ましいのは、クエン酸第二鉄アンモニウムである。
【0060】
本発明の培地は2以上の鉄供給源(例えば適切な鉄含有化合物の混合物)を含んでもよいが、一般的には、該鉄供給源が可溶性鉄化合物である場合には、培地中のそのような化合物は1種類のみであるのが好ましい。
【0061】
本発明の好ましい実施形態では、可溶性鉄化合物はクエン酸第二鉄アンモニウムである。典型的には、本実施形態では、また約0.03mg/L〜約3.2mg/Lの範囲で培地に鉄を提供するためには、クエン酸第二鉄アンモニウムを約0.2mg/L〜約20mg/L、好ましくは約0.2mg/L〜約15mg/L、より好ましくは約0.4mg/L〜約10mg/Lおよび最も好ましくは約1mg/L〜約2mg/Lの濃度で用いるであろう。
【0062】
本発明の好ましい実施形態では、培養培地は第二鉄アンモニウム化合物を含有する。本発明の結果では、そのような第二鉄アンモニウム化合物(特にクエン酸第二鉄アンモニウム)が、例えばクエン酸第二鉄よりも細胞によってより効率よく用いられることが実証されている。特に、クエン酸第二鉄を用いる場合、これは同等な培養培地中に第二鉄アンモニウム化合物の濃度の10倍で存在しなければならない。このことは、本発明の図1および図2により示され、これによれば少なくとも3回の継代にわたる継続的な細胞増殖のためには、クエン酸第二鉄は少なくとも10mg/Lの濃度で存在しなければならないが、クエン酸第二鉄アンモニウムは0.2mg/Lの濃度で同様のレベルの増殖をもたらすことが明らかである。より低い鉄濃度で抗体力価が最大となることも注目に値する。
【0063】
本発明の細胞培養培地は、標準的な操作によって個々の成分を適切に混合することにより調製することができる。培地はまた、例えば液体状、または使用の前に再構築するための乾燥粉末培地のように様々な形状で調製してもよい。本発明の培養培地は、適切な条件で保存したときに安定である。
【0064】
したがって、本発明はまた、骨髄腫細胞株のin vitro増殖を支援することが可能な細胞培養培地の調製のための方法であって、前記培地は培地中濃度約0.03mg/L〜約3.2mg/Lで鉄を含み、前記培地はトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含まず;その個々の成分を混合すること、を含む方法を提供する。
【0065】
本発明の細胞培養培地は、種々の培養条件での使用に適切である。よって、培地は単層培養および懸濁培養、特に振盪懸濁培養での骨髄腫細胞株の増殖を維持することができる。振盪懸濁培養とは、培養培地中の細胞の均一な懸濁を振盪力によって助ける細胞培養として定義することができる。振盪力を加える方法は当該技術分野で公知であり、例えば機械的振盪インペラーおよび/またはバイオリアクター培養に対する気体の分散、ならびに往復式振盪プラットホーム上に細胞培養フラスコを維持することを含む。本発明の培地は、振盪懸濁培養の、すなわち好適な振盪培養容器(例えば振盪タンクまたはエアーリフト発酵器)を用いた懸濁での、公知の培養技術による細胞培養に特に適している。
【0066】
したがって、本発明はまた、骨髄腫細胞株の振盪懸濁培養における増殖を支援することが可能な培養培地であって、培地中濃度約0.03mg/L〜約3.2mg/Lで鉄を含み、トランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含まない培地を提供する。
【0067】
先行技術では、骨髄腫細胞とハイブリドーマ細胞は、培養培地中で鉄と出会ったときに同様の要求性を有すると教示されてきた。本発明者の結果は、そうではないことを示唆している。図3は、クエン酸第二鉄アンモニウムを含有する培養培地中でのハイブリドーマ細胞株の増殖を例示している。この図から見て取れるように、ハイブリドーマ細胞の増殖は当該分野での予測に対応する、すなわち、高濃度のクエン酸第二鉄アンモニウム(50mg/Lおよび100mg/L)では細胞は良好に増殖するが、この可溶性鉄化合物のより低い濃度(10mg/L未満)ではそうならない。これを図1(同等の濃度の可溶性鉄化合物を有する培地中での骨髄腫細胞の増殖を示す)と比較した場合、ハイブリドーマ細胞は、同様の増殖のためには骨髄腫細胞よりも培地中に約100倍多くの鉄を必要とすることが明らかである。
【0068】
本発明の方法のさらなる利点は、骨髄腫細胞を低鉄含有培地中で培養した場合、すなわち細胞株を本発明の方法に従って培養した場合の骨髄腫細胞産物の改善された力価である。後述の実施例では、培地中の鉄濃度が低い(例えば0.03mg/L〜3.2mg/L、好ましくは0.16mg/L〜0.32mg/Lである)場合に、骨髄腫細胞産物の力価が予想外に高いことを示している。
【0069】
本発明に従って得られうる細胞産物には、培養哺乳動物細胞により産生されるいかなる産物をも含む。典型的には、産物としては、例えばポリペプチドおよびタンパク質、例えば免疫グロブリン(例えばモノクローナルおよび組換え抗体ならびにその断片)、ホルモン(例えばエリスロポエチンおよび成長ホルモン(例えばヒト成長ホルモン))、リンホカイン(例えばインターフェロン)、インターロイキン(例えばインターロイキン2、4、5および6)および工業上または治療上有用な酵素(例えば組織プラスミノゲンアクチベーター)が挙げられる。前記細胞産物を産生できるようにするための、遺伝子組換え技術による骨髄腫細胞の操作の方法は、当該技術分野において汎用されており、通常利用可能である。
【0070】
細胞産物を取得する目的で、そのような産物を産生することが可能な骨髄腫細胞を本発明の培地中で培養する。増殖の条件は、例えば用いる細胞株および産生される産物に依存するであろうが、当該技術分野で利用可能な知識を用いて容易に決定されるであろう。
【0071】
この目的で、本発明はまた、培地中濃度約0.03mg/L〜約3.2mg/Lで鉄を含む培養培地の使用であって、前記培地は哺乳類細胞産物の調製のためにトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含まない使用を提供する。
【0072】
骨髄腫細胞および/または培養培地より生成される細胞産物の単離の方法は、当該技術分野で周知であり、通常の操作のうちである。
【0073】
本明細書中で言及するすべての引用文献は、その全体が参照により明確に本明細書に組み込まれる。本発明は上記の実施形態と関連して記載されているが、上記の記載および以下の実施例は説明のためのものであり本発明の範囲を制限するものではないことが理解されるべきである。本発明の範囲内での他の態様、利点および改変は、本発明が関連する技術分野の当業者には明らかであろう。
【実施例1】
【0074】
0.2mg/Lのクエン酸第二鉄アンモニウム(FAC)は、GS−NS0細胞株の継続的増殖を支援することができる
方法
グルタミン合成酵素(GS)発現システム(欧州特許明細書第2560550号)を用いてヒトIgG抗体を発現する組換えGS−NS0マウス骨髄腫細胞株(細胞株A)(キレート化鉄供給源を含む独自の無血清培地(GSF培地)中であらかじめ継代培養した)を遠心し、キレート剤不含培地中に再懸濁した。この培地に再懸濁した細胞をその後、接種密度2×10細胞/mlで実験用フラスコに接種するのに用いた。
【0075】
実験は、通気孔付きの蓋を取り付けた250mlアーレンマイヤーフラスコ(使用容量20〜50ml)を用いて、往復式振盪器中にて36.5℃、125rpmで、5%CO/95%大気雰囲気下、湿度75%でインキュベートして行った。
【0076】
改変CDSS培地を含有する個々のフラスコにFACのストック溶液を添加して、フラスコが終濃度0.2、0.4、1、2、10、50および100mg/LでFACを含有するようにした。FACのストック溶液は、水中に0.5mg/L(FACを0.2〜2mg/L含有するフラスコに対して)および25mg/L(FACを10〜100mg/L含有するフラスコに対して)の濃度で調製した。ストック溶液は、フラスコへの添加の前にフィルター滅菌した。
【0077】
1mg/Lのヒトトランスフェリンおよび0.1mg/LのFACを添加した改変CDSS培地を含有するフラスコを、陽性対照として含めた。トランスフェリンまたはFAC添加物を含まない改変CDSS培地を含有するフラスコは、陰性対照として含めた。すべてのフラスコに、コレステロール供給源として2ml/Lのコレステロール脂質濃縮物(Gibco)を添加した。コレステロール脂質濃縮物は、シクロデキストリンと複合体化したコレステロールおよび脂肪酸のエマルジョンである。
【0078】
接種物からのキレート化/貯蔵鉄の持ち越しの影響を最小限にするために、フラスコを3回継代培養した。フラスコは、新しい培地で2×10細胞/mlまで希釈することにより3日おきに継代培養した。3回目の継代培養において、フラスコを、低生存率に達するまで完全な増殖サイクルを行わせた(これはしばしば過剰増殖(overegrow)と呼ばれる)。Innovatis Cedex細胞計数器を用いて細胞計数を行った。抗体力価を、均一IgG標準を基準としてサンドイッチELISAを用いて測定した。
【0079】
結果
図1aには、試験したFAC濃度範囲に対する継代培養および最終的な過剰増殖の間の細胞濃度を示している。この図では、陰性対照培養は1回目の継代培養を越えて増殖することができなかったことが明らかに示されている。0.2mg/LのFACを含有する培養では、最初の分裂後に増殖することが可能であったが、その後それ以上は増殖することができなかった。これらの培養物が当初の接種後に増殖することが可能であったという事実はおそらく、細胞分裂により枯渇することが避けられない鉄の細胞貯蔵の結果であろう。
【0080】
図1aにはまた、0.4mg/Lおよびそれより高い濃度で、数回の継代培養にわたる、および過剰増殖培養の間の、継続的な細胞増殖を支援しうることが明らかに示されている。図1cでは、この実験の重複実験において、0.2mg/LのFAC濃度で継続的細胞増殖を支援することができたことが示されている。
【0081】
図1bには、二重実験の1番目のものからの、過剰増殖培養についての細胞数および抗体産生データが示されている。この図では、トランスフェリン含有対照と同等の増殖(最大生存細胞数および増殖曲線下面積に関して)を、1mg/Lおよびそれより高いFAC濃度で達成したことを示している。このことは、閾値レベル(1mg/L)に達した後では、増殖はFAC濃度の大きい範囲とほとんど同等であることを示唆している。しかしながら、10mg/LのFAC濃度では、少量のさびのような着色沈殿物が観察された。50mg/Lおよび100mg/Lではこの沈殿物はもっと多量に見られた。この沈殿物はおそらく、Bertheussen により注意を促された水酸化鉄である(Cytotechnology 11: 219-231, 1993)。
【0082】
図1bにはまた、サンドイッチELISAにより測定された抗体力価が示されている。これは、トランスフェリン含有対照と比較した場合に、FACを含有する培養が少なくとも同じ程度の、多くの場合には顕著に多い抗体を産生したことを示している。FAC含有培養で得られた抗体力価はまた、FAC濃度と反比例の関係を示し、例えば0.4mg/LのFACを含有する培養では100mg/LのFACを含有する培養よりも30%を超えて多くの抗体を産生した。
【実施例2】
【0083】
GS−NS0細胞株の継続的増殖を支援するためには、クエン酸第二鉄(FC)はFACよりも1桁高い濃度で必要とされる
方法
実施例2の方法はキレート化鉄の供給源のみを除いて実施例1のものと同一である。本実施例では、FACの代わりにクエン酸第二鉄(FC)を用いた。
【0084】
FCは冷水にはゆっくりとしか溶解しない。したがって、FCのストック溶液を調製するためには、2時間までの間、振盪しながら80℃に保った水にFCを溶かすことが必要であった。ストック溶液は0.5mg/L(0.2〜2mg/LのFACを含有するフラスコに対して)および10mg/L(10〜100mg/LのFACを含有するフラスコに対して)の濃度で調製した。
【0085】
結果
図2aには、試験したFC濃度の範囲に対する継代培養および最終的な過剰増殖の間の細胞濃度が示されている。これは、陰性対照培養および0.2mg/LのFCを含有する培養では1回目の継代培養を越えて増殖することができなかったことを示している。0.4、1および2mg/LのFCを含有する培養は、2回目の継代培養を越えて増殖することができなかった。したがって、試験した濃度では、数回の継代培養にわたる、および過剰増殖培養の間の継続的細胞増殖を支援するためには、10mg/Lかそれより高い濃度でFCが必要である。
【0086】
図2bには、過剰増殖培養についての細胞数および抗体産生が示されている。この図では、トランスフェリン含有対照と同等の増殖(最大生存細胞数および増殖曲線下面積に関して)を、10mg/Lおよびそれより高いFC濃度で達成したことを示している。FACと同様に、10mg/Lおよびそれより多くのFCを含有する培養では、少量のさびのような着色沈殿物が観察された。
【0087】
図2bにはまた、サンドイッチELISAにより測定した抗体力価が示されている。これは、トランスフェリン含有対照と比較した場合に、FCを含有する培養が、少なくとも同じ程度の、10mg/LのFCの場合には顕著に多くの抗体を産生したことを示している。FACで見られたのと同様に、最も低い濃度のFCが最も高い力価をもたらした。
【0088】
この結果は、トランスフェリンで観察されたのと同等の細胞増殖を支援するためには、FCはFACより10倍高い濃度で必要であることを示している。
【実施例3】
【0089】
振盪懸濁培養において継続的な細胞増殖を得るためには、ハイブリドーマ細胞株はGS−NS0細胞株よりも2桁を超えて高い濃度のFACを必要とする
方法
実施例3の方法は、以下の点を除いて実施例1のものと同一である:
抗Myc抗体産生マウスハイブリドーマ細胞株(9E10)(1mg/Lのヒトトランスフェリンおよび6mMのグルタミンを添加した改変CDSS中であらかじめ継代培養した)を、接種密度1×10細胞/mlで実験用フラスコに接種するのに用いた。
【0090】
実験は、密閉した蓋を取り付けた250mlアーレンマイヤーフラスコを用いて、往復式振盪器中にて36.5℃、125rpmでインキュベートすることにより行った。フラスコには、当初および2日おきに5%CO/95%大気を通した。
【0091】
このハイブリドーマ細胞株はコレステロールを要求しないので、フラスコにはコレステロール脂質濃縮物を添加しなかった。
【0092】
フラスコは、新しい培地で1×10細胞/mlまで希釈することにより3日おきに継代培養した。3回目の継代培養において、フラスコを過剰増殖させた。トリパンブルー排除法を用いて細胞計数を行った。
【0093】
結果
図3aには、試験したFAC濃度の範囲に対する継代培養および最終的な過剰増殖の間の細胞濃度が示されている。これは、陰性対照培養ならびに0.2および0.4mg/LのFACを含有する培養では1回目の継代培養を越えて増殖することができなかったことを示している。1、2および10mg/LのFACを含有する培養では2回目の継代培養を越えて増殖することができなかった。したがって、試験した濃度では、増殖を支援するためには50mg/Lまたはそれより高い濃度でFACが必要とされる。
【0094】
図3bには、過剰増殖培養の細胞数が示されている。この図では、トランスフェリン含有対照と同等の増殖(最大生存細胞数に関して)を得るためには、100mg/LのFACが必要であることが示されている。しかしながら、増殖について、増殖曲線下面積の積分(直角四辺形に近似させた面積の合計から計算した)または累積細胞時間(CCH)に関して考えると、トランスフェリン含有対照と同等の増殖は、50mg/LのFACにおいて観察される。このことは、最大CCHを示した棒グラフ(図3c)において明らかに示されている。前に見られたのと同様に、50および100mg/LのFACを含有する培養では、さびのような着色沈殿物が見られた。
【0095】
この結果は、振盪懸濁培養での継続的細胞増殖のためには、ハイブリドーマ細胞株はGS−NS0細胞よりも100倍を超えて高い濃度でFACを必要とすることを示している。
【実施例4】
【0096】
細胞増殖の支援および抗体力価を高レベルにすることが可能な栄養豊富な培地中に用いる場合、FACは有効な鉄供給源である
実施例4では、鉄の供給源としてのFACの有用性についてさらに示す。本実施例では、第2の抗体産生組換えGS−NS0細胞株(細胞株B)を用いて、GSFとして知られる独自の無血清培地(唯一規定されていない成分としてウシ血清アルブミン[BSA]を含有する)中の唯一の鉄供給源としてFACを用いた。
【0097】
方法
10μMトロポロン(親油性鉄キレート剤[WO94/02592参照])および0.4mg/LのFACを鉄供給源として含有する独自の無血清培地中であらかじめ培養した細胞を遠心し、トロポロンおよび鉄不含GSF無血清培地中に再懸濁した。この培地に再懸濁した細胞を、その後、接種密度2×10細胞/mlで実験用フラスコに接種するのに用いた。
【0098】
実験は、密閉した蓋を取り付けた250mlアーレンマイヤーフラスコ(使用容量50ml)を用いて、往復式振盪器中にて36.5℃、125rpmでインキュベートすることにより行った。フラスコには、当初および2日おきに5%CO/95%大気を通した。
【0099】
GSF(トロポロンおよび鉄不含)培地を含有する個々のフラスコに、FACの1mg/mlストック溶液を添加して、フラスコが終濃度0.2、0.4、0.8、1.2、1.6および2mg/LでFACを含有するようにした。ストック溶液は、フラスコに添加する前にフィルター滅菌した。5μMトロポロンおよび0.4mg/LのFAC(トランスフェリンと等価であることがあらかじめ示された)を添加した培地を含有するフラスコを陽性対照として含めた。
【0100】
すべてのフラスコには、1ml/Lの1000倍濃縮コレステロールおよび脂肪酸添加物(CLOC)も添加した。
【0101】
フラスコは、新しい培地で2×10細胞/mlまで希釈することにより5日おきに継代培養した。2回目の継代培養において、フラスコを飽和するまで過剰増殖させた。トリパンブルー排除法を用いて細胞計数を行った。抗体力価解析は、均一標準を基準として分析的プロテインA hplcを用いて行った。
【0102】
結果
図4には、試験したFAC濃度の範囲に対する継代培養および最終的な過剰増殖の間の細胞濃度が示されている。この図では、0.8mg/Lおよびそれより高い濃度でFACを含有する培地では、陽性対照培養で見られるのと同等の増殖を支援することができたことが示されている。図4ではまた、過剰増殖培養での抗体産生についても示されている。これは、0.8mg/Lおよびそれより多いFACでは、対照と少なくとも同等の抗体産生を支援することができることを示している。抗体産生での傾向は、実施例1および2で見られたものとも非常に似通っている。
【0103】
この結果は、細胞増殖の支援および抗体力価を高いレベルにすることが可能な栄養豊富な培地中で用いる場合、FACが有効であることを示している。
【実施例5】
【0104】
鉄供給源としてFACを含有する培地は、小規模産生系での増殖および抗体産生を支援することができる
方法
細胞株Bの発酵は、5μMトロポロンおよび0.4mg/LのFAC(対照)、または1.0mg/LのFACを含有するGSF無血清培地を用いて行った。発酵は、半球型底部を備える7L(使用容量4.5L)Applikon発酵器中で、海洋用インペラーを用いて150rpmで振盪して行った。発酵は36.5℃、pH7.1にて操作し、溶解酸素圧15%を維持するために大気/酸素を分散した。
【0105】
これらの発酵物に対する接種物は発酵で用いたのと同じ培地中の細胞の継代培養から提供した。
【0106】
結果
図5には、攪拌・気体分散発酵容器中で、5μMトロポロン/0.4mg/LのFAC(対照)または1mg/LのFACのいずれかを添加した培地を用いた場合には、同様の細胞増殖および産生特性が見られたことが示されている。
【0107】
この結果は、小規模産生系での鉄供給源としてのFACの有用性を実証するものである。
【実施例6】
【0108】
FACは無タンパク質培地での高細胞密度までの増殖および高力価の産生を支援することができる
方法
それぞれ1mg/LのFACを含有する無血清GSF(タンパク質[BSA]含有)および無タンパク質GSF培地との比較を、細胞株A(実施例1参照)の攪拌・気体分散・流加(fed batch)発酵を用いて行った。無タンパク質発酵には、2ml/Lのコレステロール脂質濃縮物(実施例1参照)を添加し、また無血清発酵には1ml/LのCLOC添加物(実施例4参照)を添加した。発酵条件は実施例5に記載したのと同様とした。これら発酵物に対する接種物は発酵で用いたのと同じ培地中の細胞の継代培養から提供した。
【0109】
結果
図6には、2種類の発酵物での増殖および抗体産生が示されている。この図では、FACが両方の培地での良好な増殖および抗体産生を支援することができることが明らかに示されている。
【0110】
この結果は、タンパク質含有(すなわち無血清)および無タンパク質培地の両方での高細胞密度までの増殖および高力価の産生を支援するFACの能力を実証するものである。
【実施例7】
【0111】
無タンパク質培地中のFACは高細胞密度までの増殖および高力価の産生を支援することができる
以下の実施例では、実施例6の無タンパク質培地中の唯一の鉄供給源としてFACを用いることができること、およびこのFAC添加培地が一定範囲のGS−NSO細胞株について、かつ工業生産規模での高細胞密度および高力価までの増殖を支援することができることを示す。
【0112】
方法
異なる抗体を発現する3種類のGS−NSO細胞株(細胞株C、DおよびE)を、液体窒素貯蔵から、実施例6の無タンパク質・FAC含有培地中に直接的に復活させた。培養を無タンパク質FAC含有培地中で複数回継代培養し、これらの培養を実験室規模(4.5L)または試験的規模の流加発酵に接種するのに用いた。これらの流加発酵に用いた培地および栄養分は、高抗体力価をもたらすように最適化した。
【0113】
細胞株Cは4.5Lおよび100L規模の両方で、細胞株Dは4.5L規模で、そして細胞株Eは100L規模で増殖させた。
【0114】
結果
図8Aには、4.5L発酵での細胞株Cの増殖および抗体産生が示されている。図8Bには、100L発酵での細胞株Cの増殖および抗体産生が示されている。図9および図10には、4.5L発酵での細胞株Dおよび100L発酵での細胞株Eの増殖および抗体産生がそれぞれ示されている。
【0115】
これらの図では、無タンパク質FAC培地が、広範囲の細胞株にわたって、また工業生産規模での、良好な増殖および抗体産生性を支援することが明らかに示されている。
【0116】
これらの結果は、化学的組成が明らかな、タンパク質および動物成分不含培地において、広範囲の細胞株の増殖および抗体産生を支援するFACの能力を示している。このことは、これが動物由来化合物からの外来性感染性因子の導入のリスクを排除しうるので、ヒトの治療的使用のための抗体の使用における重要性を有する。
【実施例8】
【0117】
FACを唯一の鉄供給源として用いて増殖するNS0の能力は、GS選択システムを用いた形質転換によるものではない
ヒト抗体を発現し、G418選択システムを用いて選択された組換えNS0マウス骨髄腫細胞株を、GS選択システムの代替物を用いて形質転換したNS0細胞の増殖を支援するFACの能力を評価するのに用いた。
【0118】
方法
1mg/Lのトランスフェリン、0.1mg/LのFACおよび6mMのグルタミンを含有するGSF無血清培地中で培養した細胞を、1mg/LのFAC、または1mg/Lのトランスフェリンおよび0.1mg/LのFACのいずれかを含有する新しいGSF無血清培地で2×10まで希釈することにより継代培養した。5日後、フラスコを継代培養し、そして完全な増殖サイクルを行わせた。実験は、密閉した蓋を取り付けた振盪用フラスコ中で、往復式振盪器中にて36.5℃、125rpmでインキュベートして行った。フラスコには、当初および2日おきに5%CO/95%大気を通した。
【0119】
結果
両方の培地中で同等の増殖が見られ、このことは、FACが代替選択システムを用いて形質転換したNS0細胞の増殖を支援することが可能であることを示唆した。
【0120】
この結果は、FACを唯一の鉄供給源として用いて増殖するNS0の能力は、GS選択システムを用いた形質転換によるものではないことを実証している。
【実施例9】
【0121】
改変CDSS培地の調製
改変CDSSは以下のように調製した:
マグネチック・スターラーを用いて振盪されているDMEM/F12(1:1)(Gibco BRL.、1×液体、カタログ番号21331)1Lに対して、以下の成分を順番に加え、それぞれが次のものを加える前に完全に溶解していることに注意した:
・1g プルロニックF−68(Sigma P−1300)
・50nM 亜セレン酸ナトリウム無水物(Sigma S−5261)(25μMストック溶液から)
・2μM 硫酸亜鉛7水和物(Sigma Z−0251)(2mMストック溶液から)
・0.5ml クリーブランド微量元素I(Cellgro 99−175)
・1ml クリーブランド微量元素II(Cellgro 99−176)
・20μM エタノールアミン(Sigma E−0135)
・40ml GS添加物(JRH Biosciences 58672)
・1.3g 炭酸水素ナトリウム((BDH 102475W)
・3.6ml 2M塩酸(BDH 190675T)
グルタミン依存性細胞株のみに対して:
・0.88g グルタミン(Sigma G−5763)
トランスフェリン含有対照培地のみに対して:
・0.1mg クエン酸第二鉄アンモニウム(BDH 271634K)(1mg/ml ストックから)
・1mg ヒトトランスフェリン(Serologicals Proteins 82−349)
【0122】
培地を混合し、0.2μmメンブレンを用いて濾過した。
【0123】
クエン酸第二鉄アンモニウムのような可溶性鉄化合物を、調製中のいずれかにおいて(すなわち他の成分と同時に)、または培地が調製し終わったときに、ストック溶液から上記の培地に対して加える。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1a】振盪懸濁培養条件下において種々の濃度のクエン酸第二鉄アンモニウムで増殖する骨髄腫細胞株の能力を示す。
【図1b】種々の濃度のクエン酸第二鉄アンモニウムで増殖する骨髄腫細胞株により産生された抗体の量を示す。
【図1c】図1aおよび1bの実験の重複実験からの増殖データを示す。
【図2a】振盪懸濁培養条件下における種々の濃度のクエン酸第二鉄での骨髄腫細胞株の増殖を示す。
【図2b】図2aの実験で増殖させた細胞株の細胞数および抗体力価を示す。
【図3a】振盪懸濁培養条件下における種々の濃度のクエン酸第二鉄アンモニウムでのハイブリドーマ細胞株の増殖を示す。
【図3b】図3aの実験での細胞数を示す。
【図3c】図3aおよび3bのように増殖させた細胞株の数学的に計算した比較を示す。
【図4】振盪懸濁培養条件下における種々の濃度のクエン酸第二鉄アンモニウムの栄養豊富・無血清・トランスフェリン不含培地中での骨髄腫細胞株の増殖を示す。
【図5】振盪懸濁発酵増殖条件下における骨髄腫細胞株の増殖に必要な全ての鉄を供給するクエン酸第二鉄アンモニウムの能力を示す。
【図6】振盪懸濁発酵条件下における無タンパク質培地および無血清培地中での骨髄腫細胞株の増殖に必要な全ての鉄を供給するクエン酸第二鉄アンモニウムの能力を示す。
【図7】クエン酸第二鉄アンモニウムを唯一の鉄供給源として増殖する骨髄腫細胞株の能力がGS選択システムを用いた形質転換によるものではないことを示す。
【図8】図8Aでは実験室規模発酵でのクエン酸第二鉄アンモニウムを添加した無タンパク質培地中での別の骨髄腫細胞株の増殖を示す。図8BではX軸は時間を日で表し、Y軸は生存細胞数(×10細胞/ml)を表す。
【図9】実験室規模発酵でのクエン酸第二鉄アンモニウムを添加した無タンパク質培地中でのまた別の骨髄腫細胞株の増殖を示す。X軸は時間を日で表し、Y軸は生存細胞数(×10細胞/ml)を表す。
【図10】100L試験的規模流加発酵でのクエン酸第二鉄アンモニウムを添加した無タンパク質培地中でのまた別の骨髄腫細胞株の増殖を示す。X軸は時間を日で表し、Y軸は生存細胞数(×10細胞/ml)を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨髄腫細胞株のin vitro培養の方法であって、以下のステップ:
(a) 培養培地に骨髄腫細胞株を接種するステップ、ここで前記培地は前記骨髄腫細胞株の増殖を支援することが可能なものであり、かつ培地中濃度約0.03mg/L〜約3.2mg/Lで鉄を含み、前記培地はトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含有しない;および
(b) 適切な条件下において、振盪懸濁培養を用いて、接種した培養培地を増殖させるステップ、
を含む、上記方法。
【請求項2】
培地中の鉄濃度が約0.03mg/L〜約2.4mg/Lである、請求項1記載の方法。
【請求項3】
培地中の鉄濃度が約0.064mg/L〜約1.6mg/Lである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
培地中の鉄濃度が約0.16mg/L〜約0.32mg/Lである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
鉄の供給源が可溶性鉄化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
可溶性鉄化合物が、第一鉄塩もしくは第二鉄塩またはそれらの簡単なキレート(simple chelate)からなる群より選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
可溶性鉄化合物が、硫酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸第二鉄および第二鉄アンモニウム化合物からなる群より選択される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
第二鉄アンモニウム化合物が、クエン酸第二鉄アンモニウム、シュウ酸第二鉄アンモニウム、フマル酸第二鉄アンモニウム、リンゴ酸第二鉄アンモニウムおよびコハク酸第二鉄アンモニウムからなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
第二鉄アンモニウム化合物がクエン酸第二鉄アンモニウムである、請求項7記載の方法。
【請求項10】
骨髄腫細胞株のin vitro培養の方法であって、以下のステップ:
(a) 培養培地に骨髄腫細胞株を接種するステップ、ここで前記培地は前記骨髄腫細胞株の増殖を支援することが可能なものであり、かつ培地中濃度約0.2mg/L〜約20mg/Lでクエン酸第二鉄アンモニウムを含み、前記培地はトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含有しない;および
(b) 適切な条件下において、振盪懸濁培養を用いて、接種した培養培地を増殖させるステップ、
を含む、上記方法。
【請求項11】
クエン酸第二鉄アンモニウムが、培地中に約0.2mg/L〜約15mg/Lの濃度で存在する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
クエン酸第二鉄アンモニウムが、培地中に約0.4mg/L〜約10mg/Lの濃度で存在する、請求項10記載の方法。
【請求項13】
クエン酸第二鉄アンモニウムが、培地中に約1mg/L〜約2mg/Lの濃度で存在する、請求項10記載の方法。
【請求項14】
培地が、無血清、無タンパク質、動物由来成分不含であるか、または化学的組成が明らかなものである、請求項1または10記載の方法。
【請求項15】
骨髄腫細胞株が、NSOシリーズ、P3シリーズ、MOPCシリーズ、MPC-11、J558L、K6H6/B5、45.6.TG1.7、Y0、Y3HTK、RPMI 8226およびU266B1からなる群より選択される、請求項1または10記載の方法。
【請求項16】
骨髄腫細胞株がNSO細胞株である、請求項1または10記載の方法。
【請求項17】
振盪懸濁培養条件下での骨髄腫細胞株のin vitro増殖を支援するための培養培地の使用であって、該培養培地が培地中濃度約0.03mg/L〜約3.2mg/Lで鉄を含み、前記培地はトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含有しない、上記使用。
【請求項18】
培地中の鉄濃度が約0.03mg/L〜約2.4mg/Lである、請求項17記載の使用。
【請求項19】
培地中の鉄濃度が約0.064mg/L〜約1.6mg/Lである、請求項17記載の使用。
【請求項20】
培地中の鉄濃度が約0.16mg/L〜約0.32mg/Lである、請求項17記載の使用。
【請求項21】
鉄の供給源が可溶性鉄化合物である、請求項17記載の使用。
【請求項22】
可溶性鉄化合物が、第一鉄塩もしくは第二鉄塩またはそれらの簡単なキレート(simple chelate)からなる群より選択される、請求項21記載の使用。
【請求項23】
可溶性鉄化合物が、硫酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸第二鉄および第二鉄アンモニウム化合物からなる群より選択される、請求項21記載の使用。
【請求項24】
第二鉄アンモニウム化合物が、クエン酸第二鉄アンモニウム、シュウ酸第二鉄アンモニウム、フマル酸第二鉄アンモニウム、リンゴ酸第二鉄アンモニウムおよびコハク酸第二鉄アンモニウムからなる群より選択される、請求項21記載の使用。
【請求項25】
第二鉄アンモニウム化合物がクエン酸第二鉄アンモニウムである、請求項24記載の使用。
【請求項26】
振盪懸濁培養条件下での骨髄腫細胞株のin vitro増殖を支援するための培養培地の使用であって、該培養培地が培地中濃度約0.2mg/L〜約20mg/Lでクエン酸第二鉄アンモニウムを含み、前記培地はトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含有しない、上記使用。
【請求項27】
クエン酸第二鉄アンモニウムが、培地中に約0.2mg/L〜約15mg/Lの濃度で存在する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
クエン酸第二鉄アンモニウムが、培地中に約0.4mg/L〜約10mg/Lの濃度で存在する、請求項26記載の方法。
【請求項29】
クエン酸第二鉄アンモニウムが、培地中に約1mg/L〜約2mg/Lの濃度で存在する、請求項26記載の方法。
【請求項30】
培地が、無血清、無タンパク質、動物由来成分不含、または化学的組成が明らかなものである、請求項17または26記載の方法。
【請求項31】
骨髄腫細胞株が、NSOシリーズ、P3シリーズ、MOPCシリーズ、MPC-11、J558L、K6H6/B5、45.6.TG1.7、Y0、Y3HTK、RPMI 8226およびU266B1からなる群より選択される、請求項17または26記載の方法。
【請求項32】
骨髄腫細胞株がNSO細胞株である、請求項17または26記載の方法。
【請求項33】
哺乳動物細胞産物を取得する方法であって、前記産物を産生することが可能な骨髄腫細胞を振盪懸濁培養下および前記骨髄腫細胞株の増殖を支援することが可能な培養培地中で培養すること、ここで前記培地が培地中濃度約0.03mg/L〜約3.2mg/Lで鉄を含み、前記培地はトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含有せず;および前記哺乳動物細胞産物を回収すること、を含む、上記方法。
【請求項34】
培地中の鉄濃度が約0.03mg/L〜約2.4mg/Lである、請求項33記載の方法。
【請求項35】
培地中の鉄濃度が約0.064mg/L〜約1.6mg/Lである、請求項33記載の方法。
【請求項36】
培地中の鉄濃度が約0.16mg/L〜約0.32mg/Lである、請求項33記載の方法。
【請求項37】
鉄の供給源が可溶性鉄化合物である、請求項33記載の方法。
【請求項38】
可溶性鉄化合物が、第一鉄塩もしくは第二鉄塩またはそれらの簡単なキレート(simple chelate)からなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
可溶性鉄化合物が、硫酸第一鉄、クエン酸第一鉄、クエン酸第二鉄および第二鉄アンモニウム化合物からなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項40】
第二鉄アンモニウム化合物が、クエン酸第二鉄アンモニウム、シュウ酸第二鉄アンモニウム、フマル酸第二鉄アンモニウム、リンゴ酸第二鉄アンモニウムおよびコハク酸第二鉄アンモニウムからなる群より選択される、請求項39記載の方法。
【請求項41】
第二鉄アンモニウム化合物がクエン酸第二鉄アンモニウムである、請求項40記載の方法。
【請求項42】
哺乳動物細胞産物を取得する方法であって、前記産物を産生することが可能な骨髄腫細胞を振盪懸濁培養下および前記骨髄腫細胞株の増殖を支援することが可能な培養培地中で培養すること、ここで前記培地が培地中濃度約0.2mg/L〜約20mg/Lでクエン酸第二鉄アンモニウムを含み、前記培地はトランスフェリン、親油性キレート剤、合成含窒素キレート剤または親油性合成含窒素キレート剤を含有せず;および前記哺乳動物細胞産物を回収すること、を含む、上記方法。
【請求項43】
クエン酸第二鉄アンモニウムが、培地中に約0.2mg/L〜約15mg/Lの濃度で存在する、請求項42記載の方法。
【請求項44】
クエン酸第二鉄アンモニウムが、培地中に約0.4mg/L〜約10mg/Lの濃度で存在する、請求項42記載の方法。
【請求項45】
クエン酸第二鉄アンモニウムが、培地中に約1mg/L〜約2mg/Lの濃度で存在する、請求項42記載の方法。
【請求項46】
培地が、無血清、無タンパク質、動物由来成分不含、または化学的組成が明らかなものである、請求項33または42記載の方法。
【請求項47】
骨髄腫細胞株が、NSOシリーズ、P3シリーズ、MOPCシリーズ、MPC-11、J558L、K6H6/B5、45.6.TG1.7、Y0、Y3HTK、RPMI 8226およびU266B1からなる群より選択される、請求項33または42記載の方法。
【請求項48】
骨髄腫細胞株がNSO細胞株である、請求項33または42記載の方法。
【請求項49】
細胞産物が、ポリペプチド、タンパク質、ホルモン、リンホカイン、インターロイキンおよび工業上かつ治療上有用な酵素からなる群より選択される、請求項33または42記載の方法。
【請求項50】
細胞産物が抗体またはその断片である、請求項49記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図1c】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−501606(P2007−501606A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522389(P2006−522389)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【国際出願番号】PCT/GB2004/003273
【国際公開番号】WO2005/014800
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(506042265)ケンブリッジ アンチボディー テクノロジー リミテッド (11)
【Fターム(参考)】