説明

トランスロケーション作用剤及び組織の癌化の検出方法

【課題】 特定の核酸(遺伝子)の発現量を指標とする組織の癌化の検出方法を提供する。また、当該核酸の医学分野、生化学分野等の研究用試薬又は診断薬としての利用及び当該核酸を発現させたタンパク質を有効成分として含有するウリジン二リン酸−キシロースのトランスロケーション作用剤を提供する。
【解決手段】 特定の核酸に対応する遺伝子の「被検組織における発現量の検出値」と、「前記被検組織の癌化」とを関連づけることを特徴とする被検組織の癌化の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトDNAライブラリーから得た核酸の「被検組織における発現量の検出値」と「当該被検組織の癌化」とを関連づけることによる「組織の癌化の検出方法」、及び、当該核酸を発現させて得られるタンパク質を有効成分として含有するウリジン二リン酸−キシロース(以下、UDP−Xylとも略す)のトランスロケーション作用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
組織の癌化を検出する方法としては、様々な方法が知られており、例えばX線検査、内視鏡検査や、CA19-9等の腫瘍マーカー検査等があげられる。X線検査や内視鏡検査などでは組織を外観からしか観察できず、また、腫瘍マーカーは偽陽性、偽陰性が現れる点で確定的な診断には不十分であった。
【0003】
組織の癌化の確定診断は、実際に組織を生検により採取し、その組織の培養を行って確認する方法が行われているが、この方法は組織の培養の為の相当の時間を必要とする。
一方、内視鏡下で外科的手法により、生体組織の病変部を切除する手術は一般に行われており、その様な病変部について簡単に癌化の有無を確認する手法が存在すれば、癌化の早期発見にも繋がり、その後の患者の治療に有用である。
【0004】
GenBank Accession No. NM-015139(mRNA)と対応する遺伝子は既知の遺伝子であり、当該遺伝子でコードされているタンパク質がUDP−N−アセチルガラクトサミン及びUDP−グルクロン酸の輸送活性(トランスロケーション活性)を示すことは報告されている(非特許文献1)。しかし、当該遺伝子がUDP−Xylのトランスロケーション作用を有すること及び当該遺伝子と癌化との関連を示唆する報告は無い。
【非特許文献1】Muraoka, M., Kawakita, M., and Ishida, N., (2001) FEBS Lett., 495, 87-93
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
採取した組織から、早期に信頼性の高い結果が得られる「組織の癌化を検出する方法」の開発が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ヒトDNAライブラリーから得た特定の遺伝子(GenBank Accession No.NM_015139)の転写産物量を指標として、癌化細胞における当該核酸の発現量を測定したところ、「癌化した組織における発現量」が「健常組織における発現量」と異なるという実験結果を得、これら知見を組織の癌化の検出方法に応用することで本発明を完成した。また、当該NM_015139から発現させたタンパク質が、UDP−Xylのトランスロケーション活性を有することを見出した。
【0007】
すなわち本発明は以下の(1)〜(13)に関する。
(1) 下記(A)又は(B)のタンパク質を有効成分として含有するウリジン二リン酸−キシロースのトランスロケーション作用剤。
(A)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換又は転位を有するアミノ酸配列からなり、かつウリジン二リン酸−キシロースのトランスロケーション活性を有するタンパク質。
【0008】
(2) 下記(A)又は(B)のタンパク質の「被検組織における発現量の検出値」と、「前記被検組織の癌化」とを関連づけることを特徴とする被検組織の癌化の検出方法。
(A)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換又は転位を有するアミノ酸配列からなり、かつウリジン二リン酸−キシロースのトランスロケーション活性を有するタンパク質。
【0009】
(3) 下記(a)〜(d)の何れかに記載の核酸に対応する遺伝子の「被検組織における発現量の検出値」と、「前記被検組織の癌化」とを関連づけることを特徴とする被検組織の癌化の検出方法。
(a)配列番号1記載の塩基配列、又は、当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸。
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子の塩基配列、又は、当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸。
(c)上記(a)又は(b)記載の核酸の塩基配列において、1又は数個の塩基の置換、欠失、挿入又は転位を有する塩基配列、又は、当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸。
(d)上記(a)、(b)又は(c)記載の核酸の塩基配列と、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする塩基配列、又は、当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸。
【0010】
(4) 「被検組織における発現量の検出値」が、配列番号1記載の塩基番号33〜1100の塩基配列を含み、全長1272bpである核酸に対応する遺伝子の転写産物量の定量によって得られた値である上記(3)記載の被検組織の癌化の検出方法。
【0011】
(5) 「被検組織における発現量の検出値」が、配列番号1記載の塩基配列の塩基番号731〜806領域を増幅させることにより得られた値である上記(3)又は(4)に記載の被検組織の癌化の検出方法。
【0012】
(6) 「被検組織における発現量の検出値」が、被検組織と健常組織における前記遺伝子の転写産物量をそれぞれ定量し、当該定量によって得られた被検組織における値と健常組織における値との差又は比である上記(3)〜(5)の何れか一項に記載の被検組織の癌化の検出方法。
【0013】
(7) 被検組織が大腸由来の組織又は胃由来の組織であることを特徴とする上記(3)〜(6)の何れか一項に記載の被検組織の癌化の検出方法。
【0014】
(8) 被検組織及び健常組織に由来するcDNAを配列番号11記載の塩基配列を5’プライマーとし、配列番号12記載の塩基配列を3’プライマーとしてPCR法により増幅して得た転写産物量を、標準遺伝子の転写産物量で除して算出された被検組織における該値が、健常組織における該値よりも小さいときに、被検組織が癌化していると判定する被検組織の癌化の検出方法。
【0015】
(9) 下記(e)〜(g)の何れかに記載の塩基配列を有する核酸。
(e)配列番号1記載の塩基番号731〜806からなる塩基配列。
(f)上記(e)記載の塩基配列に相補的な塩基配列。
(g)上記(e)又は(f)の塩基配列において、1又は数個の塩基の置換、欠失、挿入又は転位を有する塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列であって、かつ、当該塩基配列を含む核酸に対応する遺伝子の転写産物量が癌化組織と健常組織において異なることを特徴とする核酸。
【0016】
(10) 配列番号1記載の塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする塩基配列からなる核酸であり、且つ、当該核酸に対応する遺伝子の転写産物量が癌化組織と健常組織において異なるか、及び/又は、当該核酸を発現させたタンパク質がウリジン二リン酸−キシロースのトランスロケーション活性を有することを特徴とする核酸。
【0017】
(11) 配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子の塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸であり、且つ、当該核酸に対応する遺伝子の転写産物量が癌化組織と健常組織において異なるか、及び/又は、当該核酸を発現させたタンパク質がウリジン二リン酸−キシロースのトランスロケーション活性を有することを特徴とする核酸。
【0018】
(12) DNAであることを特徴とする(9)〜(11)の何れか一項に記載の核酸。
【0019】
(13) (9)〜(12)の何れか一項に記載の核酸の、被検組織の癌化の検出のための使用。
【発明の効果】
【0020】
後述の特定の核酸(遺伝子)の発現量を指標とする組織の癌化の検出方法を提供する。また、当該核酸の医学分野、生化学分野等の研究用試薬又は診断薬としての利用及び当該核酸を発現させたタンパク質を有効成分として含有するUDP−Xylのトランスロケーション作用剤を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を発明の実施の形態により詳説する。
(1)本発明核酸
本発明核酸は、「配列番号1記載の全塩基配列(GenBank Accession No.NM_015139)からなる核酸」、「配列番号1記載の全塩基配列の一部の塩基配列若しくは当該一部の塩基配列に相補的な塩基配列を含み30bp以上である核酸」、「配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする核酸」及び「配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする核酸の一部の塩基配列若しくは当該一部の塩基配列に相補的な塩基配列を含み30bp以上である核酸」などが挙げられ、且つ、これら核酸に対応する遺伝子の転写産物量が癌化組織と健常組織において異なることを特徴とする。
【0022】
「配列番号1記載の全塩基配列の一部の塩基配列」又は「配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする核酸の一部の塩基配列」は、塩基数30〜1200bpが好ましく、50〜1100bpがより好ましく、70〜1070bpが更に好ましく、より具体的には、配列番号1記載の塩基番号33〜1100の塩基配列、配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする全塩基配列、及び、配列番号1記載の塩基番号731〜806の塩基配列等が好ましく挙げられる。
【0023】
また、上記本発明核酸は、目的や用途の面からみると、後述の本発明検出方法において発現量を検出する遺伝子となる核酸、ポリペプチドの遺伝子工学的製造や遺伝子の測定等の遺伝子工学に関する研究においてプローブやプライマー等として用いられる核酸、及び、後述の本発明検出方法において遺伝子の発現量を定量する際に増幅領域として選択することが可能である遺伝子の一部分に相当する核酸などが含まれる。
【0024】
例えば、後述の本発明検出方法において発現量を検出する対象となる核酸としては、上記本発明核酸の中でも30〜1500bpが好ましく、30〜1300bpがより好ましく、中でも1068bp又は1272bpである核酸が最も好ましい。具体的には、
(A)配列番号1記載の全塩基配列からなる核酸(GenBank Accession No.NM_015139)、
(B)配列番号2記載の全アミノ酸配列をコードする塩基配列を含み全長1272bpである核酸、
(C)配列番号1記載の塩基番号33〜1100の塩基配列を含み全長1272bpである核酸、
(D)配列番号1記載の塩基番号731〜806の塩基配列を含み全長1272bpである核酸、
(E)配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする核酸、及び
(F)配列番号1記載のCDS領域である塩基番号33〜1100の塩基配列からなる核酸、
等が挙げられ、これら核酸が有する塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸も同様に挙げられる。
【0025】
上記具体例(A)〜(F)の核酸において、1又は数個(好ましくは2以上60以下)の塩基の置換、欠失、挿入又は転位を有する塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸も本発明核酸として挙げられる。
更に、本発明核酸には、上記具体例の核酸それぞれとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸も含まれる。例えば、上記(A)〜(F)の核酸又はこれらに相補的な塩基配列からなる核酸、及び、これら(A)〜(F)の核酸において1又は数個の塩基の置換、欠失、挿入又は転位を有する塩基配列からなる核酸又は当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハブリダイズする核酸(特にDNA)で、且つ、これら核酸に対応する遺伝子の転写産物量が癌化組織と健常組織で異なる核酸が挙げられる。
【0026】
なお、例えば配列番号1記載の全塩基配列からなる核酸に対応する遺伝子とは、当該配列番号1記載の核酸(cDNA)を逆転写酵素によって合成する際の鋳型であるRNAが、生体内での遺伝情報の転写及びプロセシングにより合成されるmRNAに相当する様なゲノムDNAが挙げられる。また、遺伝子工学的に発現させる場合等においては、配列番号1記載の全塩基配列からなる核酸に対応する遺伝子には、当該核酸そのものであるcDNAも同様に含まれる。
【0027】
また、「配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする核酸」の一例として、「配列番号1記載の塩基番号33〜1100の塩基配列」を有する核酸が挙げられるが、各アミノ酸をコードするコドンの縮重によって、「配列番号1記載の塩基番号33〜1100の塩基配列」とは異なる塩基配列を有する核酸であっても配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする限り、同様に用いることが出来る。なお、配列番号1記載の塩基番号33〜1100の塩基配列には終止コドンが含まれており、実際にアミノ酸配列に対応している部分は塩基番号33〜1097である。
【0028】
ここで「ストリンジェントな条件下」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等参照)。一般に「核酸同士の相補性に基づくハイブリダイゼーションを利用する実験手法(例えばノザンブロットハイブリダイゼーション、サザンブロットハイブリダイゼーション)」等で用いられる条件が挙げられ、好ましくは37.5%ホルムアミド、5×SSPE(塩化ナトリウム/リン酸ナトリウム/EDTA(エチレンジアミン四酢酸)緩衝液)、5×デンハルト溶液(Denhardt's solution)、0.5%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)存在下での42℃の条件が例示される。
【0029】
本明細書における核酸の長さを表す単位「bp」とは、核酸が二本鎖となっている場合には、その二本鎖を形成する塩基対の数、一本鎖となっている場合には、その核酸に相補的な塩基配列からなる一本鎖がハイブリダイズした二本鎖の塩基対数に相当する数に換算した核酸の長さである。従って、例えば、「1000bp」の一本鎖のDNAは1000個のヌクレオチドで形成されていることになり、「1000bp」の二本鎖のDNAは2000個のヌクレオチド(1000対のヌクレオチド)で形成されていることになるが、双方とも同じ「1000個のヌクレオチドからなる鎖長」のDNAを表すことになる。
【0030】
また、本発明核酸は、用いる目的により必要な長さを適宜選択することが出来る。配列番号1記載の塩基番号731〜806の塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸、配列番号1記載の塩基番号33〜1100の塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸、配列番号1記載の全塩基配列中における500〜1000bpの連続した塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸等は、ハイブリダイズ能と取り扱いやすさの双方を兼ね備えている為、ハイブリダイズ用プローブとして優れている。同様に、これら核酸に対してストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸(特にDNA)も有用である。例えば、配列番号1記載の核酸に対応する遺伝子の転写産物量の検査に際し、ハイブリダイズ用プローブとして使用することが可能であり、医学、生化学等の研究用試薬又は診断薬として極めて有用である。
【0031】
配列番号1記載の全塩基配列中における30〜300bpの連続した塩基配列領域は、後述の本発明検出方法における本発明核酸に対応する遺伝子の発現量をRT−PCR法を用いて定量する際の増幅領域として選択可能な領域であり、当該領域の塩基配列からなる核酸が増幅される。例えば、上記の配列番号1記載の塩基番号731〜806の塩基配列からなる核酸等が挙げられる。
なお、当該増幅領域をPCR法において増幅させるのに用いるプライマーとしては、後述のプライマーが挙げられ、これらも本発明核酸に包含される。
【0032】
更に、配列番号1記載の塩基配列からなる核酸、及び、配列番号1記載の塩基番号33〜1100の塩基配列を少なくとも含む核酸(好ましくは配列番号1記載の塩基番号33〜1100の塩基配列からなる核酸)は、タンパク質合成における終止コドンに相当する塩基配列を含む為、配列番号2記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドを遺伝子工学的に調製する為に用いることが出来、有用である。この様なポリペプチドの遺伝子工学的調製を目的とする際には、その調製を効率良く行う為にプロモーター配列、シグナル配列等の塩基配列を連結していても構わない。
【0033】
なお、配列番号1記載の塩基配列はcDNAの塩基配列であるが、本発明核酸はDNAに限定されない。例えば、配列番号1記載の塩基配列に相補的な塩基配列を有する核酸としては、RNAも含まれる。つまり、本発明核酸に対応する遺伝子の転写産物であるmRNAも含む。
本発明核酸は、DNAであってもRNAであっても構わないが、後述の本発明検出方法でハイブリダイズ用プローブ等として使用する場合や組換ベクター及び組換体の調製時には、安定である点で優れるため、DNAであることが好ましい。
【0034】
本発明核酸は、例えば配列番号3記載の塩基配列(aaaaagcagg cttcgcagcc atggcggaag t)を5'プライマーとして、配列番号4記載の塩基配列(agaaagctgg gtccactgct cctttcccct t)を3'プライマーとして使用し、例えばヒトゲノムcDNAライブラリーを鋳型として常法に従って一次PCR法を行い、更に配列番号5記載の塩基配列(ggggacaagt ttgtacaaaa aagcaggct)を5'プライマー、配列番号6記載の塩基配列(ggggaccact ttgtacaaga aagctgggt)を3'プライマーとして使用し、上記一次PCR法による産物を鋳型として二次PCR法を行うことで調製することができる。
【0035】
また、当業者であれば、配列番号1に記載の塩基配列に基づき、目的とする「本発明核酸」や「本発明核酸の部分塩基配列からなる核酸」を調製することが出来る。つまり、目的とする当該核酸の両端の塩基配列を基に適宜プライマーを作製し、それを用いてPCR法などによって目的の塩基配列領域を有する核酸を増幅して調製することが出来る。
【0036】
例えば、当業者ならば、配列番号1記載の塩基配列においてポリペプチドをコードしている領域(塩基番号33〜1100。ストップコドンを含む。)は、配列番号7の塩基配列(atggcggaag ttcatagacg tcagc)を5'プライマーとして及び配列番号8の塩基配列(tcacactgct cctttcccct taatg)を3'プライマーとして用いPCR法で調製することができ、配列番号1記載の全塩基配列からなる核酸(但し、polyA配列は除く部分)は、例えば配列番号9(cccgccgcca ggccaccgct gctgc)の塩基配列を5'プライマー、配列番号10記載の塩基配列(tttctctctt cataaaattt taaaa)を3'プライマーとして使用して、市販のcDNAライブラリーを鋳型としてPCR法により調製することができる。更に同様に、配列番号1記載の塩基番号731〜806の領域は、配列番号11の塩基配列(cattgcgtat ttcacaggag atg)を5'プライマーとして、配列番号12の塩基配列(ctgcagaaga aagagggtg tca)を3'プライマーとして使用し、同様にcDNAライブラリーから調製することができる。
【0037】
この場合、配列番号3及び配列番号4のプライマーを使用したPCR法では、産物として1098bpのDNA断片が得られ、配列番号5及び配列番号6のプライマーを使用したPCR法においては産物として1132bpのDNA断片が得られる。また、配列番号7及び配列番号8のプライマーを使用したPCR法においては産物として1068bpのDNA断片が得られると推測される。これらを、アガロースゲル電気泳動等の、DNA断片を分子量により篩い分けることが可能な方法で分離し、特定のバンドを切り出す等の常法に従って単離して本発明核酸を得ることができる。
【0038】
このようにして単離した本発明核酸は、本発明核酸がコードするポリペプチドを発現する組換体を調製するためにも使用することができる。
すなわち、本発明核酸の両端に制限末端(粘着末端又は平滑末端)を常法により連結し、発現ベクターに挿入することができる。当業者であれば制限末端は発現ベクターに適合するように適宜選択することが可能である。発現ベクターは、本発明核酸がコードするタンパク質を発現させたい宿主細胞に適したものを当業者であれば適宜選択することが出来る。この様な発現ベクターには、上記本発明核酸を目的の宿主細胞中で発現しうるように遺伝子発現に関与する領域(プロモータ領域、エンハンサー領域、オペレーター領域等)が適切に配列されており、更に、本発明核酸が適切に発現するように構築されていることが好ましい。
【0039】
上記本発明核酸を含む発現ベクターを宿主細胞に組み込み、組換体を得ることができる。上記宿主細胞としては、真核細胞(哺乳類細胞、酵母、昆虫細胞等)であっても原核細胞(大腸菌、枯草菌等)であっても使用することができる。宿主細胞として真核細胞を使用する場合には、本発明核酸を含む発現ベクターの元となるベクター(以下「基本ベクター」とも言う)として、真核細胞用の発現ベクターを選択し、宿主細胞として原核細胞を使用する場合には基本ベクターとして、原核細胞用の発現ベクターを選択する。
【0040】
なお、本発明核酸はヒトゲノムライブラリーから発見された核酸であり、またトランスロケーション活性因子に関連する遺伝子である為、本発明においては真核細胞を組換体の宿主細胞として用いる方がより天然物に近い性質を有したタンパク質が得られる。従って、宿主細胞としては真核細胞、好ましくは哺乳類細胞又は酵母、特に哺乳類細胞を選択することが好ましく、基本ベクターは真核細胞用の発現ベクター、例えば哺乳類細胞用又は酵母用の発現ベクターを選択することが好ましい。
【0041】
近年、遺伝子工学的手法として、形質転換体を培養、生育させてその培養物、生育物から目的物質を単離・精製する手法が確立されている。本発明核酸を含む発現ベクターは、通常その本発明核酸がコードするポリペプチド(タンパク質)の単離・精製が容易となるように構築されていることが好ましく、上記ポリペプチドを標識ポリペプチドとの融合タンパク質の形態で発現する様に本発明核酸を含む発現ベクターを構築して遺伝子工学的にポリペプチドと調製するのが好ましい。
例えば、後述の実施例に記載のように本発明核酸を用い、本発明核酸がコードするタンパク質を発現させることが出来る。
【0042】
なお、本発明核酸がコードするタンパク質とは、配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質であり、当該タンパク質は配列番号1記載の塩基配列の塩基番号33〜1100の領域に(コード領域:CDS)にコードされている。(以下、本発明タンパク質とも言う)。
また、後述の実施例の結果より、本発明タンパク質は、糖ヌクレオチドであるUDP−Xylを輸送させる活性、すなわち膜の内外間のトランスロケーション作用という新しい機能を有することが判明した。
【0043】
一般に、生理活性を有するタンパク質のアミノ酸配列においては、1若しくは数個の構成アミノ酸が置換、欠失、挿入或いは転位しても当該生理活性が維持されることが知られており、その様な変異を有するタンパク質も同一タンパク質のバリアントであると言うことが出来る。
つまり、本発明においては、配列番号2記載のアミノ酸配列において1又は数個(2以上21以下)の構成アミノ酸の置換、欠失、挿入又は転位を有するアミノ酸配列からなるタンパク質であっても、UDP−Xylのトランスロケーション活性を保持している限りにおいて、配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質と実質的に同一の物質であるということができ、本発明タンパク質に包含される。
なお、この様な変異を有するタンパク質は、配列番号1記載の塩基番号33〜1100に1以上又は数個(2以上63以下であることが好ましい)の塩基の置換、欠失、挿入又は転位を有する塩基配列にコードされ、かつ、UDP−Xylのトランスロケーション活性を有するタンパク質であるという事が出来る。
【0044】
天然に存在するタンパク質には、それをコードする遺伝子DNAの多型や変異の他、生成後のタンパク質の細胞内及び精製中の修飾反応などによってそのアミノ酸配列中にアミノ酸の置換、欠失、挿入又は転位等の変異が起こりうるが、それにも拘わらず変異を有しないタンパク質と実質的に同等の生理、生物学的活性を示す物があることが知られている。このように構造的に若干の相違があってもその機能については大きな違いが認められないタンパク質も、上記「タンパク質」に包含される。人為的にタンパク質のアミノ酸配列に上記の様な変異を導入した場合も同様であり、この場合には更に多種多様の変異を有するタンパク質を作成することが可能である。
【0045】
例えば、ヒトインターロイキン2(IL−2)のアミノ酸配列中の、あるシステイン残基をセリン残基に置換したタンパク質がIL−2の活性を保持することが知られている(Science, 224(1984),p.1431)。また、ある種のタンパク質は活性には必須でないペプチド領域を有していることが知られている。例えば、細胞外に分泌されるタンパク質に存在するシグナルペプチドや、プロテアーゼの前駆体等に見られるプロ配列などがこれに当たり、これらの領域のほとんどは翻訳後、又は活性型タンパク質への転換に際して除去される。このような活性に必須でないペプチド領域の配列を有するタンパク質は、一次構造上は異なった形で存在しているが、同等の機能を有するタンパク質であり、本発明タンパク質もその様な配列が連結していても良い。この様な変異を有するタンパク質は、部位特異的変異法などの公知の方法により容易に作成することが可能である。
【0046】
ちなみに、本発明タンパク質が有するUDP−Xylのトランスロケーション活性の確認は、例えばJ.Biol.Chem., 275, pp.13580-13587 (2000)の方法等に従って行うことが出来る。すなわち、[14C]、[H]、又は[35S]などの放射性同位元素([14C]が好ましい)で放射能標識した「UDP−Xyl」と上記本発明タンパク質とを混合し、そこに酵母の膜画分を添加して、膜画分に移行した放射能を測定する方法で行うことができる。具体的には後述の実施例2の方法が例示される。
【0047】
(2)本発明検出方法
本発明検出方法は、上述の本発明核酸に対応する遺伝子の「被検組織における発現量の検出値」と「前記被検組織の癌化」とを関連づけることを特徴とする被検組織の癌化の検出方法である。
例えば、被検組織と健常組織における、本発明核酸に対応する遺伝子の転写産物量(mRNA量)をそれぞれ定量し、当該定量によって得られた被検組織における値と健常組織における値との差又は比を「被検組織における発現量の検出値」とし、これを指標に癌化を検出する方法である。
【0048】
本発明検出方法において発現量を検出する対象となる本発明核酸は、上述の通りであり、具体的には、上述の具体例である(A)〜(F)の核酸又はこれら核酸が有する塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸が挙げられ、また上述と同様に、これら核酸の塩基配列において1又は数個(好ましくは2以上60以下)の塩基の置換、欠失、挿入又は転位を有する塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸も挙げられる。更に、上記のこれら核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸で、且つ、当該核酸に対応する遺伝子の転写産物量(mRNA量)が癌化組織と健常組織で異なる核酸が挙げられる。
【0049】
なお、本発明検出方法における当該本発明核酸に対応する遺伝子の発現量の検出方法としては、特に限定されないが、当該本発明核酸に対応する遺伝子の遺伝情報の転写によって生じる転写産物量を指標とする定量方法が適用可能である。例えば、配列番号1記載の塩基番号731〜806の塩基配列を含む核酸(DNA)を指標として転写産物量を定量することで、当該本発明核酸の発現量の検出を行うことが出来る。
【0050】
この様な転写産物量の測定は、DNAの転写産物であるmRNAを検出する為に通常用いられている方法を利用することが可能であり、例えば、PCR法やノーザンブロット法等が挙げられる。mRNAの相補的配列を有するcDNAをPCR法を用いて増幅することにより転写産物量を定量するRT−PCR法(reversed transcription- polymerase chain reaction)がより好ましく、例えば、Cybergreen法やTaqManプローブ法等のようなリアルタイムRT−PCR法が特に好ましく挙げられる。
【0051】
本発明核酸に対応する遺伝子の転写産物量をTaqManプローブ法やCybergreen法などのRT−PCR法により測定する場合に用いるプライマーやプローブは、転写産物量を定量可能な配列を常法に従い設計して合成することにより得ることが出来る。
RT−PCR法により増幅する領域は、転写産物であるmRNAの塩基配列に相補的なcDNA配列において増幅可能な領域であれば特に限定されないが、本発明検出方法では、通常、転写産物であるmRNAの塩基配列に相補的なcDNAの一部である配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列、好ましくは配列番号1記載の塩基配列において30bp〜300bpの連続した塩基配列からなる領域が選択される。
例えば、配列番号1記載の塩基配列中に存在する30〜300bpの連続した塩基配列の領域を選択し、選択した塩基配列に従い適宜プライマーを設計する。
【0052】
ゲノムDNAから転写され、スプライシングされたmRNAには、当該DNAの遺伝情報に基づく翻訳に実質的な影響を与えない範囲において塩基配列の相違を有するバリアントが存在する可能性があることが知られている。本発明検出方法においては、本発明核酸のバリアントも転写産物として測定されうる。
上記バリアントを考慮すると、RT−PCR法において増幅させる領域は、本発明検出方法で検出対象となる本発明核酸の塩基配列中のバリアント間で共通しているエキソン上から選択するのが好ましい。
【0053】
本発明検出方法における転写産物の定量方法の一例としては、配列番号1記載の塩基番号731〜806の塩基配列を増幅領域として選択し、当該塩基配列の5'末端と3'末端の塩基配列を基に作製したプライマー(例えば、配列番号11及び配列番号12記載の核酸)と、蛍光色素と消光物質とを結合させたプローブを用いた定量的リアルタイムRT−PCR法(以下「定量的RT-PCR法」とも記載する)による測定が挙げられる。なお、プローブとしては、例えば配列番号13記載の塩基配列(cccagccttc aaactccaca gccttt)の核酸が例示される。
【0054】
本発明検出方法における本発明核酸に対応する遺伝子の発現量の検出は、必ずしも「DNAから転写されて生ずるmRNA(DNAの転写産物)」を定量して行なうことに限定はされない。例えば、本発明核酸に対応する遺伝子が転写、翻訳されて生ずる「本発明核酸がコードするポリペプチド」を定量して行なうことも可能である。このようなポリペプチドの定量は、精製した「本発明核酸によってコードされるポリペプチド」を用いて常法に従い調製した抗体などを使用するウエスタンブロット法やエンザイムイムノアッセイ等の一般的方法や、上述の本発明タンパク質が有する活性(例えば、UDP−N−アセチルガラクトサミンのトランスロケーション活性、UDP−グルクロン酸のトランスロケーション活性又はUDP−Xylのトランスロケーション活性などの糖ヌクレオチドのトランスロケーション活性)を測定することによる定量も可能である。
【0055】
なお、遺伝子の発現量の検出を、当該遺伝子の転写産物量のPCR法による測定によって行う場合、一般的に、cDNA調製の元となるRNA量の違い等に起因する全体のRNA量の違いを補正した値を比較する。例えば、健常組織と癌化組織とに於ける遺伝子の発現量を比較するには、目的とする遺伝子の転写産物量の測定値を各組織に於けるβ-アクチン遺伝子やグリセロアルデヒド三リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)の様な標準遺伝子の転写産物量を同様の方法で測定し得られた値で補正した値(補正値)を用いるのが好ましい。
【0056】
その為、転写産物量の実測値での比較と、当該実測値を標準遺伝子の転写産物量の測定値で補正し得られた値(補正値)による比較とは、数値の大きさが異なる場合がある。本発明方法では、補正値を比較し、被検組織の値の方が健常組織の値より減少している場合に当該被検組織が癌化していると判定することが好ましい。
具体的には、両組織における「当該遺伝子の転写産物量/標準遺伝子の転写産物量」を算出し、「癌化組織における算出値/健常組織における算出値」の値が、0.9以下、好ましくは0.8以下である時に被検組織が癌化していると判定することが好ましい。
【0057】
本発明検出方法は、組織から分離して得られる「組織片」を使用して行うことが好ましい。すなわち、生検などによって得られた組織に含まれる病変部分の組織(被検組織)と当該病変部分の周辺の健常部分の組織(健常組織)とを用いることが好ましい。
本発明検出方法が適用可能な組織としては、何れの組織であっても使用することが可能であるが、食道、胃、肺、膵臓、肝臓、腎臓、十二指腸、小腸、大腸、直腸および結腸などが挙げられ、食道、胃、小腸および大腸が好ましい。特に、胃、大腸における癌化を特異的に検出できる為、これらの組織が特に好ましい。
【0058】
上述の様に、例えば配列番号1記載の塩基配列からなる核酸に対応する遺伝子の転写産物の量の変化を指標として本発明検出方法を行う場合、生検等により得られた病変部分の組織とその周辺の健常部分の組織における当該核酸(遺伝子)の転写産物量(被検転写産物量)を各々定量する。更に、被検転写産物量を、同様に定量した標準遺伝子の転写産物量(標準転写産物量)で補正した後、補正した値(補正値)を対比することにより、被検組織の癌の診断や治療の経過観察等が出来、有用である。なお、被検組織の当該補正値が、健常組織の補正値より減少している場合、被検組織の癌化を関連付けることが出来る。
【0059】
ちなみに、本発明検出方法にて本発明核酸として配列番号1記載の全塩基配列からなる核酸を選択する場合は、対応する遺伝子の転写産物であるmRNAの塩基配列は、配列番号1記載のcDNA配列を鋳型としRNAポリメラーゼにより合成されるRNAの塩基配列と同じである。
【0060】
(3)トランスロケーション作用剤
本発明のUDP−Xylのトランスロケーション作用剤は、本発明タンパク質を有効成分として含有する。本発明タンパク質に関するその他の説明は、前記の「(1)本発明核酸」の記載と同様である。本発明のトランスロケーション作用剤は、UDP−Xylのトランスロケーション作用に実質的に悪影響を与えない限り、担体や溶媒等の他の成分を含有することができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を実施例により具体的に詳説する。しかしながら、これにより本発明の技術的範囲が限定されるべきものではない。
【0062】
(実施例1)本発明核酸の調製方法
配列番号1の塩基配列からなるDNAを得るために、ヒト大腸由来のcDNAライブラリー(クロンテック社製)を鋳型とし、5'プライマーとして配列番号3記載の塩基配列、3'プライマーとして配列番号4記載の塩基配列からなるDNAを用いて、常法により一次PCRを行った。なお、一次PCRの反応液は、2μLの10 x pfx amplification緩衝液(インビトロジェン社製)、0.4μLの50mmol/L硫酸マグネシウム溶液、4μLの10 x PCRxenhancer 溶液(インビトロジェン社製)、2.5μLの2.5mmol/L dNTP混合溶液(デオキシヌクレオシド三リン酸混合溶液)、0.5μLの鋳型となるDNA(約50ng)、1μLの5'プライマー(終濃度0.5μmol/Lとなる様に添加)、1μLの3'プライマー(終濃度0.5μmol/Lとなる様に添加)、及び0.5μLのplatium pfx DNAポリメラーゼ(インビトロジェン社製)に、蒸留水を8.1μL加え、全量20μLとしたものである。
【0063】
更に配列番号5記載の塩基配列を5'プライマーに、配列番号6記載の塩基配列を3'プライマーとして使用して二次PCRを行った。なお、二次PCRの反応液は、2μLの10 x pfx amplification緩衝液、0.4μLの50mmol/L硫酸マグネシウム溶液、3μLの2.5mmol/LdNTP混合溶液、4μLの一次PCRの産物、2μLの5'プライマー(終濃度1μmol/Lとなる様に添加)、2μLの3'プライマー(終濃度1μmol/Lとなる様に添加)及び0.5μLのplatinum pfx DNAポリメラーゼに、蒸留水を6.1μl加え、全量を20μLとしたものである。
二次PCRの産物から、アガロースゲル電気泳動を用いて、1132bpのDNA断片を常法に従って回収した。
【0064】
(実施例2)酵母による本発明タンパク質の発現及びUDP−Xylのトランスロケーション活性
実施例1で得られたDNA断片(以下、UGTrelという)を、Gatewayクローニングシステム(インビトロジェン社製)の説明書に従って酵母発現ベクターであるYEP352 GAPIIに挿入して組換ベクターYEP352 GAPII-UGTrelを得た。このベクターを常法に従って酢酸リチウム法により、生育にウラシルを要求する酵母の株W303-1a(Saccharomyces cerevisiae、ATCC番号: MYA-151)に導入して形質転換体を得た。このようにして得た形質転換体をウラシルを含まないSD培地を含む寒天プレートで培養して形質転換体を選別した。得られた形質転換体をウラシルを含まないSD液体培地で大量培養した。
【0065】
このように培養した形質転換体を冷やした10mmoL/Lのアジ化ナトリウム(NaN3)を含む蒸留水で洗浄した後、形質転換体約5gを5倍量の消化液(スフェロプラスト緩衝液:1.4moL/Lのソルビトール、50mmoL/Lのリン酸カリウム、10mmoL/LのNaN3及び40mmoL/Lの2-メルカプトエタノールを含むpH7.5の溶液)に懸濁し、チモリアーゼ100T(生化学工業株式会社)を1mg/g菌体となるように添加して、37℃で30分間反応させて、形質転換体の細胞壁を消化し、スフェロプラストに転換させた。その後、スフェロプラストは冷却遠心分離により沈殿させ、冷やした1.0moL/Lのソルビトール溶液で2回洗浄し、チモリアーゼを除去した。当該スフェロプラストを10mLの消化液(0.8moL/Lのソルビトール、5μg/mLペプスタチンA、1mmoL/Lのフェニルメチルスルホニルフルオライドを含むpH7.2の10mmoL/Lトリエタノールアミン溶液)に懸濁し、ダウンスホモジナイザーをホモジナイズした。これを4℃、1000×gで10分間遠心分離し、上清を回収して細胞抽出液とした。
この細胞抽出液を更に、4℃で10,000×gの超遠心分離を15分間行い、沈殿を回収した。この沈殿からなる画分(P10)は、小胞体を多く含む画分であった。
【0066】
さらに、P10を除去した上清を、4℃で100,000×gの超遠心分離を1時間行い、沈殿を回収した。この沈殿からなる画分(P100)は、ゴルジ体を多く含む画分であった。
200μgのP10又はP100画分のタンパク質を100μlの反応液(0.25moL/Lのショ糖、5mmoL/LのMgCl2、1mmoL/LのMnCl2、10mmoL/Lの2-メルカプトエタノール、1μmoL/Lの14C標識ウリジン二リン酸-キシロース)(14C UDP-Xyl)を含む20mmoL/LのTris-HCl緩衝液(pH7.5))を添加して、30℃にて反応を開始した。5分後に10倍量の氷冷した反応停止液(0.25mol/lのショ糖、5mmoL/LのMgCl2、150mmoL/LのKClを含む20mmoL/LのTris-HCl緩衝液(pH7.5))を添加し、孔径0.45μmのニトロセルロースフィルターで濾過した。
【0067】
このフィルターを10mLの氷冷した反応停止液で洗浄し、フィルターの放射能を液体シンチレーションカウンターを用いて測定した(図1)。陰性対照としては、YEP352 GAPIIのみによって酵母の株W303-1a(Saccharomyces cerevisiae、ATCC番号: MYA-151)を形質転換した形質転換体を用いて調製した各画分(Mock P10画分、Mock P100画分)を用いた。
その結果、本発明核酸を用いた形質転換体から得られたP10画分及びP100画分共に、陰性対照(Mock P10画分及びMock P100画)と比し150%以上のUDP−Xylのトランスロケーション活性を示した。
【0068】
(実施例3)大腸癌組織におけるNM_015139に対応する遺伝子の発現量の変化
定量的リアルタイムPCR法を用いてヒト患者由来の大腸癌組織と同一患者由来の健常大腸組織でのNM_015139に対応する遺伝子の転写産物の量を比較した。
ヒト大腸癌組織及び健常大腸組織のRNAを、RNeasy Mini Kit(キアゲン社製)で抽出し、Super-Script First-Strand Synthesis System(インビトロジェン社製)を用いたOligo(dT)法によりsingle strand DNAとした。このDNAを鋳型とし、それぞれ配列番号11記載の塩基配列を5'プライマーとして、配列番号12記載の塩基配列を3'プライマーとして、及び、配列番号13記載の塩基配列をTaqManプローブとして用いてABI PRISM 7700(アプライドバイオシステム社製)により定量的リアルタイムPCR法を行った。PCRの条件は、95℃、10分で反応を行った後、95℃、15秒と、60℃、1分のサイクルを40回繰り返して行った。内部標準としてβ−アクチン遺伝子を用い、β-アクチン遺伝子の転写産物量(β-アクチン転写産物量)に対するNM_015139に対応する遺伝子の転写産物量(NM_015139転写産物量)の比を算出して対比した。(表1、図2)
【0069】
【表1】

【0070】
(実施例4)胃癌組織におけるNM_015139に対応する遺伝子の発現量の変化
定量的リアルタイムPCR法を用いてヒト胃癌組織と同一患者の健常胃組織でのNM_015139に対応する遺伝子の転写産物の量を比較した。
【0071】
ヒト胃癌組織及び健常胃組織を用い、実施例3と同様の実験手順、プライマー及びプローブにて、定量的リアルタイムPCR法を行い、β-アクチン遺伝子の転写産物量に対するNM_015139に対応する遺伝子の転写産物量の比(NM_015139に対応する遺伝子の転写産物量/β-アクチン遺伝子の転写産物量)を算出して測定した。(表2、図3)
【0072】
【表2】

【0073】
実施例3及び4の結果から、β-アクチン遺伝子の転写産物の測定値でNM_015139に対応する遺伝子の転写産物の測定値を除した値(NM_015139遺伝子転写産物の測定値/β-アクチン遺伝子転写産物の測定値)を算出することによって補正することにより、癌化組織では健常組織と比べて補正値の値が減少していることが判明した。よって、癌化組織及び健常組織各々における「NM_015139遺伝子転写産物の測定値/β-アクチン遺伝子転写産物の測定値」より算出される値に基づく「癌化組織での値/健常組織の値」の比が、0.9以下である場合は、癌化している可能性が高いと関連づけることが出来ることが示された。
【0074】
なお、診断においては、サンプルの状態により擬陰性、擬陽性となるケースを完全に排除するは難しいことが知られている。上記実施例においても理由は分からないが、上記判定基準から外れるサンプルもあったが、これらは擬陰性として処理されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明核酸を用いた形質転換体より得られた本発明タンパク質の各画分(P10、P100)に於けるUDP−Xylのトランスロケーション活性を示す図である。白いバーは陰性対照を示す。
【図2】同一患者の大腸癌組織と大腸健常組織でのNM_015139に対応する遺伝子の転写産物量を示す。白抜きバーは大腸健常組織での量を、黒色バーは大腸癌組織での量を示し、縦軸は、内部標準として用いたβ-アクチン遺伝子の転写産物量に対するNM_015139に対応する遺伝子の転写産物量の相対値を示す。
【図3】同一患者の胃癌組織と胃健常組織でのNM_015139に対応する遺伝子の転写産物量を示す。白抜きバーは胃健常組織での量を、黒色バーは胃癌組織での量を示し、縦軸は、内部標準として用いたβ-アクチン遺伝子の転写産物量に対するNM_015139に対応する遺伝子の転写産物量の相対値を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)又は(B)のタンパク質を有効成分として含有する、ウリジン二リン酸-キシロースのトランスロケーション作用剤。
(A)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換又は転位を有するアミノ酸配列からなり、かつウリジン二リン酸−キシロースのトランスロケーション活性を有するタンパク質。
【請求項2】
下記(A)又は(B)のタンパク質の「被検組織における発現量の検出値」と、「前記被検組織の癌化」とを関連づけることを特徴とする被検組織の癌化の検出方法。
(A)配列番号2記載のアミノ酸配列からなるタンパク質。
(B)配列番号2記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸の付加、欠失、置換又は転位を有するアミノ酸配列からなり、かつウリジン二リン酸−キシロースのトランスロケーション活性を有するタンパク質。
【請求項3】
下記(a)〜(d)の何れかに記載の核酸に対応する遺伝子の「被検組織における発現量の検出値」と、「前記被検組織の癌化」とを関連づけることを特徴とする被検組織の癌化の検出方法。
(a)配列番号1記載の塩基配列、又は、当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸。
(b)配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子の塩基配列、又は、当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸。
(c)上記(a)又は(b)記載の核酸の塩基配列において、1又は数個の塩基の置換、欠失、挿入又は転位を有する塩基配列、又は、当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸。
(d)上記(a)、(b)又は(c)記載の核酸の塩基配列と、ストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする塩基配列、又は、当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸。
【請求項4】
「被検組織における発現量の検出値」が、配列番号1記載の塩基番号33〜1100の塩基配列を含み、全長1272bpである核酸に対応する遺伝子の転写産物量の定量によって得られた値である請求項3記載の被検組織の癌化の検出方法。
【請求項5】
「被検組織における発現量の検出値」が、配列番号1記載の塩基配列の塩基番号731〜806領域を増幅させることにより得られた値である請求項3又は4に記載の被検組織の癌化の検出方法。
【請求項6】
「被検組織における発現量の検出値」が、被検組織と健常組織における前記遺伝子の転写産物量をそれぞれ定量し、当該定量によって得られた被検組織における値と健常組織における値との差又は比である請求項3〜5の何れか一項に記載の被検組織の癌化の検出方法。
【請求項7】
被検組織が大腸由来の組織又は胃由来の組織であることを特徴とする請求項3〜6の何れか一項に記載の被検組織の癌化の検出方法。
【請求項8】
被検組織及び健常組織に由来するcDNAを、配列番号11記載の塩基配列を5’プライマーとし、配列番号12記載の塩基配列を3’プライマーとしてPCR法により増幅して得た転写産物量を、標準遺伝子の転写産物量で除して算出された被検組織における該値が、健常組織における該値よりも小さいときに、被検組織が癌化していると判定する被検組織の癌化の検出方法。
【請求項9】
下記(e)〜(g)の何れかに記載の塩基配列を有する核酸。
(e)配列番号1記載の塩基番号731〜806からなる塩基配列。
(f)上記(e)記載の塩基配列に相補的な塩基配列。
(g)上記(e)又は(f)の塩基配列において、1又は数個の塩基の置換、欠失、挿入又は転位を有する塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列であって、かつ、当該塩基配列を含む核酸に対応する遺伝子の転写産物量が癌化組織と健常組織において異なることを特徴とする核酸。
【請求項10】
配列番号1記載の塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする塩基配列からなる核酸であり、且つ、当該核酸に対応する遺伝子の転写産物量が癌化組織と健常組織において異なるか、及び/又は、当該核酸を発現させたタンパク質がウリジン二リン酸−キシロースのトランスロケーション活性を有することを特徴とする核酸。
【請求項11】
配列番号2記載のアミノ酸配列をコードする遺伝子の塩基配列又は当該塩基配列に相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下においてハイブリダイズする核酸であり、且つ、当該核酸に対応する遺伝子の転写産物量が癌化組織と健常組織において異なるか、及び/又は、当該核酸を発現させたタンパク質がウリジン二リン酸−キシロースのトランスロケーション活性を有することを特徴とする核酸。
【請求項12】
DNAであることを特徴とする請求項9〜11の何れか一項に記載の核酸。
【請求項13】
請求項9〜12の何れか一項に記載の核酸の、被検組織の癌化の検出のための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−174731(P2006−174731A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369394(P2004−369394)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構、糖鎖合成関連遺伝子ライブラリーの構築委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】