説明

トランス部品

【課題】スパイラル導体が形成されたプリント基板を複数積層したトランス部品において、1次巻線と2次巻線との間の磁気結合を向上させる。
【解決手段】1次巻線となるスパイラル導体21,41が形成されたプリント基板20,40と、2次巻線となるスパイラル導体11,31が形成されたプリント基板10,30とを備える。プリント基板10,20は、スパイラル導体11,21が対向配置されるように積層され、プリント基板30,40は、スパイラル導体31,41が対向配置されるように積層されている。これにより、1次巻線と2次巻線との間の磁気結合が向上することから、伝送ロスの少ないトランス部品を提供することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトランス部品に関し、特に、スパイラル導体が形成されたプリント基板を積層してなるトランス部品に関する。
【背景技術】
【0002】
平面的なスパイラル導体を用いたコイル部品としては、コモンモードフィルタのように、薄膜工法により磁性体基板上にスパイラル導体を形成したタイプのものが存在する。このタイプのコイル部品は非常に小型であり、しかも表面実装が可能であることから、多くの電子機器に使用されている。
【0003】
しかしながら、このタイプのコイル部品は、スパイラル導体が薄膜工法によって形成されることから、導体厚を十分に確保することが困難である。このため、直流抵抗を大幅に低下させることが難しく、比較的大きな電流が流れるような用途には必ずしも適していない。このような用途の代表例がトランスである。
【0004】
スパイラル導体の直流抵抗を低減させる方法として、スパイラル導体が形成されたプリント基板を切断して個片化し、複数の個片を磁性体で挟み込む方法が知られている(特許文献1参照)。特許文献1に記載されたトランス部品は、プリント基板の両面にスパイラル導体を形成し、これを1次巻線又は2次巻線としている。そして、1次巻線を構成するプリント基板と2次巻線を構成するプリント基板を積層することにより、トランス部品を構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−231978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されたトランス部品では、プリント基板の両面にスパイラル導体を形成していることから、1次巻線を構成するスパイラル導体と2次巻線を構成するスパイラル導体のうち、互いに近接して配置されるスパイラル導体はごく一部のスパイラル導体のみとなり、他のスパイラル導体間の距離が遠くなる。このため、1次巻線と2次巻線との間の磁気結合が不十分となり、伝送ロスが増大するという問題があった。
【0007】
したがって、本発明は、スパイラル導体が形成されたプリント基板を複数積層したトランス部品において、1次巻線と2次巻線との間の磁気結合を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるトランス部品は、第1及び第2の磁性体と、前記第1の磁性体と前記第2の磁性体との間に設けられた第1乃至第4のプリント基板と、前記第1乃至第4のプリント基板の一方の表面にそれぞれ形成された第1乃至第4のスパイラル導体と、前記第1乃至第4のプリント基板の前記一方の表面にそれぞれ形成され、それぞれ前記第1乃至第4のスパイラル導体の外周端に接続された第1乃至第4の外周引き出し導体と、前記第1乃至第4のプリント基板の他方の表面にそれぞれ形成され、それぞれ第1乃至第4のプリント基板を貫通するスルーホール導体を介して、それぞれ前記第1乃至第4のスパイラル導体の内周端に接続された第1乃至第4の内周引き出し導体と、前記第1の外周引き出し導体及び前記第1の内周引き出し導体の一方に接続された第1の外部端子と、前記第2の外周引き出し導体及び前記第2の内周引き出し導体の一方に接続された第2の外部端子と、前記第3の外周引き出し導体及び前記第3の内周引き出し導体の一方に接続された第3の外部端子と、前記第4の外周引き出し導体及び前記第4の内周引き出し導体の一方に接続された第4の外部端子と、を備え、前記第1のスパイラル導体と前記第2のスパイラル導体は対向配置されており、前記第3のスパイラル導体と前記第4のスパイラル導体は対向配置されており、前記第1の外周引き出し導体及び前記第1の内周引き出し導体の他方は、前記第3の外周引き出し導体及び前記第3の内周引き出し導体の他方と前記第4の外周引き出し導体及び前記第4の内周引き出し導体の他方のいずれか一方に接続されており、前記第2の外周引き出し導体及び前記第2の内周引き出し導体の他方は、前記第3の外周引き出し導体及び前記第3の内周引き出し導体の他方と前記第4の外周引き出し導体及び前記第4の内周引き出し導体の他方のいずれか他方に接続されていることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、1次巻線を構成するスパイラル導体と、2次巻線を構成するスパイラル導体がそれぞれ対向配置されることから、1次巻線と2次巻線との間の磁気結合が向上する。これにより、伝送ロスの少ないトランス部品を提供することが可能となる。
【0010】
本発明においては、前記第1のスパイラル導体と前記第2のスパイラル導体は互いに同じパターン形状を有しており、前記第3のスパイラル導体と前記第4のスパイラル導体は互いに同じパターン形状を有していることが好ましい。これによれば、高い対称性を持つ1:1のトランスを構成することが可能となる。
【0011】
本発明においては、第5及び第6の外部端子をさらに備え、前記第1の外周引き出し導体及び前記第1の内周引き出し導体の前記他方は、前記第5の外部端子に接続されており、前記第2の外周引き出し導体及び前記第2の内周引き出し導体の前記他方は、前記第6の外部端子に接続されており、前記第3の外周引き出し導体及び前記第3の内周引き出し導体の他方と前記第4の外周引き出し導体及び前記第4の内周引き出し導体の他方の前記いずれか一方は、前記第5の外部端子に接続されており、前記第3の外周引き出し導体及び前記第3の内周引き出し導体の他方と前記第4の外周引き出し導体及び前記第4の内周引き出し導体の他方の前記いずれか他方は、前記第6の外部端子に接続されていることが好ましい。これによれば、第5及び第6の外部端子をセンタータップとして利用できることから、センタータップ付きのパルストランスを構成することが可能となる。
【0012】
この場合、第1及び第2の磁性体と前記第1乃至第4のプリント基板からなる積層体は、互いに平行な第1及び第2の側面と、前記第1及び第2の側面に対して垂直な第3及び第4の側面を有しており、前記第1及び第2の外部端子は前記積層体の前記第1の側面に配置されており、前記第3及び第4の外部端子は前記積層体の前記第2の側面に配置されており、前記第5の外部端子は、前記第1の外部端子から見て前記第2の外部端子よりも遠い位置に配置されており、前記第6の外部端子は、前記第3の外部端子から見て前記第4の外部端子よりも遠い位置に配置されていることが好ましい。これによれば、1次側に属する端子と2次側に属する端子との距離を十分に確保することが可能となる。
【0013】
さらにこの場合、前記第5の外部端子は前記積層体の前記第3の側面に配置されており、前記第6の外部端子は前記積層体の前記第4の側面に配置されていることが好ましい。これによれば、1次側に属する端子と2次側に属する端子との絶縁性を容易に確保することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
このように、本発明によれば1次巻線と2次巻線との間の磁気結合が向上することから、伝送ロスの少ないトランス部品を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるトランス部品100の外観を示す略斜視図である。
【図2】プリント基板10〜40の構成を示す図である。
【図3】プリント基板10〜40を積層面側から見た模式的な断面図である。
【図4】トランス部品100の等価回路図である。
【図5】変形例によるトランス部品の等価回路図である。
【図6】変形例によるプリント基板10〜40の構成を示す図である。
【図7】磁性体110,120の構成例を示す模式的な断面図である。
【図8】トランス部品100の製造方法を説明するための図である。
【図9】トランス部品100の製造方法を説明するための図である。
【図10】変形例による外部端子のレイアウトを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるトランス部品100の外観を示す略斜視図である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態によるトランス部品100は、磁性体110,120とプリント基板10〜40とが積層された略直方体形状の積層体100sと、積層体100sに設けられた第1〜第6の外部端子101〜106によって構成されている。プリント基板10〜40はこの順に積層されており、磁性体110,120に挟まれるように設けられている。
【0019】
磁性体110,120及びプリント基板10〜40からなる積層体100sは、互いに平行な上面100a及び下面100bと、これら上面100a及び下面100bに対して略垂直な第1〜第4の側面100c〜100fとを備えている。上面100a及び下面100bの一方は、実使用時において実装面となる面である。外部端子101〜103は側面100cに配置されるとともに、上面100a及び下面100bにも張り出している。同様に、外部端子104〜106は側面100dに配置されるとともに、上面100a及び下面100bにも張り出している。
【0020】
本実施形態によるトランス部品100はいわゆるパルストランスであり、外部端子101,102が1次側信号端子、外部端子106が1次側センタータップ、外部端子104,105が2次側信号端子、外部端子103が2次側センタータップとして用いられる。
【0021】
図2(a)〜(d)はそれぞれプリント基板10〜40の構成を示す図であり、いずれも積層体100sの上面100a側から、つまり、図1に示す矢印Aから見た図である。図において実線で示しているのは矢印Aから見ておもて面側に位置する構成要素であり、破線で示しているのは矢印Aから見て裏面側に位置する構成要素である。
【0022】
図2(a)〜(d)に示すように、プリント基板10〜40はいずれも一方の表面に形成されたスパイラル導体と、一方の表面に形成され、それぞれ対応するスパイラル導体の外周端に接続された外周引き出し導体と、他方の表面に形成され、プリント基板を貫通するスルーホール導体を介して、それぞれ対応するスパイラル導体の内周端に接続された内周引き出し導体とを備えている。つまり、スパイラル導体は一方の表面にのみ形成され、他方の表面にはスパイラル導体は形成されていない。
【0023】
より具体的に説明すると、図2(a)に示すように、プリント基板10は一方の表面10a及び他方の表面10bを備え、一方の表面10aにはスパイラル導体11が設けられている。スパイラル導体11は、矢印Aから見て、内周端11aから外周端11bへ向かって左回り(反時計回り)に巻回されている。スパイラル導体11の外周端11bは、プリント基板10の一方の表面10aに形成された外周引き出し導体12を介して、接続導体105aに接続されている。接続導体105aは、外部端子105に接続される内部導体である。また、スパイラル導体11の内周端11aは、プリント基板10を貫通するスルーホール導体11cを介して他方の表面10bに引き出され、他方の表面10bに設けられた内周引き出し導体13を介して、接続導体103aに接続されている。接続導体103aは、外部端子103に接続される内部導体である。
【0024】
図2(b)に示すように、プリント基板20は一方の表面20a及び他方の表面20bを備え、一方の表面20aにはスパイラル導体21が設けられている。スパイラル導体21は、矢印Aから見て、内周端21aから外周端21bへ向かって左回り(反時計回り)に巻回されている。スパイラル導体21の外周端21bは、プリント基板20の一方の表面20aに形成された外周引き出し導体22を介して、接続導体101aに接続されている。接続導体101aは、外部端子101に接続される内部導体である。また、スパイラル導体21の内周端21aは、プリント基板20を貫通するスルーホール導体21cを介して他方の表面20bに引き出され、他方の表面20bに設けられた内周引き出し導体23を介して、接続導体106aに接続されている。接続導体106aは、外部端子106に接続される内部導体である。
【0025】
図2(c)に示すように、プリント基板30は一方の表面30a及び他方の表面30bを備え、一方の表面30aにはスパイラル導体31が設けられている。スパイラル導体31は、矢印Aから見て、内周端31aから外周端31bへ向かって右回り(時計回り)に巻回されている。スパイラル導体31の外周端31bは、プリント基板30の一方の表面30aに形成された外周引き出し導体32を介して、接続導体104aに接続されている。接続導体104aは、外部端子104に接続される内部導体である。また、スパイラル導体31の内周端31aは、プリント基板30を貫通するスルーホール導体31cを介して他方の表面30bに引き出され、他方の表面30bに設けられた内周引き出し導体33を介して、接続導体103bに接続されている。接続導体103bは、外部端子103に接続される内部導体である。
【0026】
図2(d)に示すように、プリント基板40は一方の表面40a及び他方の表面40bを備え、一方の表面40aにはスパイラル導体41が設けられている。スパイラル導体41は、矢印Aから見て、内周端41aから外周端41bへ向かって右回り(時計回り)に巻回されている。スパイラル導体41の外周端41bは、プリント基板40の一方の表面40aに形成された外周引き出し導体42を介して、接続導体102aに接続されている。接続導体102aは、外部端子102に接続される内部導体である。また、スパイラル導体41の内周端41aは、プリント基板40を貫通するスルーホール導体41cを介して他方の表面40bに引き出され、他方の表面40bに設けられた内周引き出し導体43を介して、接続導体106bに接続されている。接続導体106bは、外部端子106に接続される内部導体である。
【0027】
特に限定されるものではないが、本実施形態ではこれらスパイラル導体11〜41のターン数がいずれも4ターンであり、互いに同じ形状を有している。また、プリント基板10〜40には、スパイラル導体11〜41の内側に開口部10c〜40cがそれぞれ設けられている。後述するように、これら開口部10c〜40cの内部には磁性体が充填され、これによって閉磁路が形成される。
【0028】
図3は、プリント基板10〜40を積層面側から見た模式的な断面図である。尚、図3においては開口部10c〜40cの図示は省略している。
【0029】
図3に示すように、本実施形態によるトランス部品100においては、スパイラル導体11とスパイラル導体21が対向配置されており、且つ、スパイラル導体31とスパイラル導体41が対向配置されている。隣接するプリント基板10〜40間には絶縁樹脂50が介在しており、これにより、隣接するプリント基板10〜40に設けられた導体同士の接触が防止されている。
【0030】
図4は、本実施形態によるトランス部品100の等価回路図である。
【0031】
図4に示すように、本実施形態によるトランス部品100は、外部端子101,102を1次側信号端子とし、外部端子104,105を2次側信号端子とするパルストランスを構成する。外部端子106は1次側センタータップであり、外部端子103は2次側センタータップである。
【0032】
ここで、1次側コイルとなるスパイラル導体21と2次側コイルとなるスパイラル導体11は、図3に示したように互いに対向配置されている。同様に、1次側コイルとなるスパイラル導体41と2次側コイルとなるスパイラル導体31も、図3に示したように互いに対向配置されている。このため、プリント基板10〜40の厚みとは関係なく、1次側コイルと2次側コイルとを近接させることが可能となることから、両者の磁気結合を高めることが可能となる。
【0033】
また、本実施形態では、外部端子101,105を正極側、外部端子102,104を負極側とすれば、外部端子101から外部端子106を経由して外部端子102に達する1次側ルートにおいては、スパイラル導体21,41を右回り(時計回り)に経由し、同様に、外部端子105から外部端子103を経由して外部端子104に達する2次側ルートにおいても、スパイラル導体11,31を右回り(時計回り)に経由することになる。そして、正極側に近いスパイラル導体11,21が互いに対向配置され、負極側に近いスパイラル導体31,41が互いに対向配置されていることから、1次側信号の対称性と2次側信号の対称性をほぼ同一とすることが可能となる。このような構成は、特許文献1に記載されたコイル部品のように、プリント基板の両面にスパイラル導体を形成するタイプのコイル部品においては達成困難である。
【0034】
しかも、本実施形態においては、各スパイラル導体の内周端が内周引き出し導体13,23,33,43を介して外部端子103又は106に引き出されていることから、これをセンタータップとして使用することが可能となる。これに対し、特許文献1に記載されたコイル部品のように、プリント基板の両面にスパイラル導体を形成するタイプのコイル部品においては、多数のプリント基板を使用しない限りセンタータップを外部端子に引き出すことは困難である。
【0035】
尚、図4においては、1次側コイルとなるスパイラル導体21と2次側コイルとなるスパイラル導体11が同方向に結合し、1次側コイルとなるスパイラル導体41と2次側コイルとなるスパイラル導体31が同方向に結合しているが、本発明がこれに限定されるものではなく、図5に示すように、これらを互いに逆方向に結合させても構わない。この場合、外部端子101から外部端子106を経由して外部端子102に達する1次側ルートにおいては、スパイラル導体21,41を右回り(時計回り)に経由する一方、外部端子105から外部端子103を経由して外部端子104に達する2次側ルートにおいては、スパイラル導体11,31を左回り(反時計回り)に経由することになる。
【0036】
このような構成を得るためには、図6に示すように、プリント基板10,30に形成されるスパイラル導体11,31の巻回方向を図2に示した例と逆にすればよい。より具体的には、図6(a)に示すように、スパイラル導体11を矢印Aから見て内周端11aから外周端11bへ向かって右回り(時計回り)に巻回するとともに、図6(c)に示すように、スパイラル導体31を矢印Aから見て内周端31aから外周端31bへ向かって左回り(反時計回り)に巻回すればよい。図6(b),(d)に示すプリント基板20,40上のパターンは、図2(b),(d)に示したプリント基板20,40上のパターンと同一である。
【0037】
図7(a),(b)は、磁性体110,120の構成例を示す模式的な断面図である。
【0038】
図7(a)は、下面100b側の磁性体110が平板状であり、上面100a側の磁性体120がいわゆるE型である例を示している。E型とは、上面100aを構成する平板部121と、プリント基板10〜40の外側を介して磁性体110と接続するための外周突起部122と、プリント基板10〜40に設けられた開口部10c〜40cを介して磁性体110と接続するための内周突起部123とを備える形状である。
【0039】
図7(b)は、下面100b側の磁性体110がいわゆるU型であり、上面100a側の磁性体120がいわゆる凸型である例を示している。U型とは、下面100bを構成する平板部111と、プリント基板10〜40の外側を介して磁性体120と接続するための外周突起部112とを備える形状である。また、凸型とは、上面100aを構成する平板部121と、プリント基板10〜40に設けられた開口部10c〜40cを介して磁性体110と接続するための内周突起部123とを備える形状である。
【0040】
磁性体110,120は、その一方又は両方が金属磁性粉含有樹脂からなることが好ましい。磁性体110,120の材料として金属磁性粉含有樹脂を用いれば、エアギャップなどの構造上の磁気ギャップを設けることなく、磁気飽和を防止することが可能となるからである。つまり、本実施形態では、磁性体110と磁性体120が外周突起部122又は112と内周突起部123を通じてつながっており、これにより完全な閉磁路が形成されている。すなわち、閉磁路内にエアギャップは存在しない。焼結フェライトコアを用いる場合、ある程度以上電流を流しても磁気飽和しないようにギャップを設けなければならないが、金属磁性粉含有樹脂を用いた場合には、金属磁性粉と樹脂との間の微小なギャップが多数存在しており、これが飽和磁束密度を高めるので、磁性体110と磁性体120との間にエアギャップを形成することなく磁気飽和を防止することができる。したがって、エアギャップを形成するために磁性コアを高い精度で機械加工する必要はない。
【0041】
金属磁性粉含有樹脂とは、樹脂に金属磁性粉が混入されてなる磁性材料である。金属磁性粉としてはパーマアロイ系材料を用いることが好ましい。具体的には、第1の金属磁性粉として平均粒径が20〜50μmであるPb−Ni−Co合金を用い、第2の金属磁性粉として平均粒径が3〜10μmであるカルボニル鉄を用い、これらを所定の比率、例えば70:30〜80:20、好ましくは75:25の重量比で含む金属磁性粉を用いることが好ましい。金属磁性粉の含有率は90〜96重量%であることが好ましい。樹脂に対して金属磁性粉の量を少なくすれば飽和磁束密度は小さくなり、逆に金属磁性粉の量を多めにすれば飽和磁束密度は大きくなるので、金属磁性粉の量だけで飽和磁束密度を調整することができる。
【0042】
さらに、金属磁性粉としては平均粒径が5μmである第1の金属磁性粉と、平均粒径が50μmの混合である第2の金属磁性粉とを所定の比率、例えば75:25で混合したものであることが特に好ましい。このように、粒径が異なる2種類の金属磁性粉を用いた場合には、低加圧又は非加圧成形下において高密度な磁性コアを成形することができ、高透磁率且つ低損失な磁性コアを実現することができる。
【0043】
金属磁性粉含有樹脂に含まれる樹脂は絶縁結着材として機能する。樹脂の材料としては液状エポキシ樹脂又は粉体エポキシ樹脂を用いることが好ましい。また、樹脂の含有率は4〜10重量%であることが好ましい。
【0044】
磁性体110,120の厚さは同一であることが好ましく、厚さの合計は0.3〜1.2mmであることが好ましい。磁性体110,120の厚さの合計が0.3mmよりも薄いと部品の機械的強度のみならずコイルのインダクタンスが低下するからであり、1.2mmよりも厚いと部品が厚くなる割にインダクタンスは飽和してそれほど大きくならないからである。
【0045】
本実施形態において、磁性体110,120の表面に絶縁被膜が形成されていることが好ましい。絶縁被膜は化成処理によって形成することができ、化成処理にはリン酸鉄、リン酸亜鉛又はジルコニアを用いることが好ましい。上記のように、閉磁路を構成するため材料として金属磁性粉含有樹脂を用いた場合には、金属磁性粉が導体であることから、外部端子間の絶縁性が問題となる。しかしながら、磁性体110,120の表面に絶縁被膜を設けておけば、金属磁性粉含有樹脂の表面が絶縁被覆されているので、外部端子間の絶縁性を十分に確保することができる。
【0046】
図8及び図9は、本実施形態によるトランス部品100の製造方法を説明するための図であり、いずれも(a)は平面図、(b)は断面図である。
【0047】
まず、図8(a),(b)に示すように、プリント基板10の元となる大きなプリント基板10xを用意し、開口部10c、スルーホール導体用のスルーホール10d及びスリット10eを同時に形成する。次に、プリント基板10x上に多数個(ここでは4個)のスパイラル導体11、引き出し導体12,13及びスルーホール導体11cなどを形成する。プリント基板20〜40の元となる大きなプリント基板20x〜40xに対しても同様の加工を行い、これにより、プリント基板10〜40の元となる4枚の大きなプリント基板10x〜40xが完成する。
【0048】
次に、絶縁樹脂を介してこれらプリント基板10x〜40xを積層し、図9(a),(b)に示すように上下から磁性体110,120で挟み込む。これにより、開口部10c及びスリット10eにも磁性体110,120が侵入し、それぞれ内周突起部123及び外周突起部122となる。そして、切断ラインCx及びCyの位置でプリント基板10x〜40xを切断し、個片化する。その後、個々のチップの側面に外部端子101〜106を形成することにより、本実施形態によるトランス部品100が完成する。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によるトランス部品100は、1次巻線となるスパイラル導体と2次巻線となるスパイラル導体とが対向配置されていることから、1次巻線と2次巻線との磁気結合を高めることが可能となる。これにより、伝送ロスの少ないトランス部品を提供することが可能となる。しかも、本実施形態では、正極側に近いスパイラル導体11,21を対向配置し、負極側に近いスパイラル導体31,41を対向配置していることから、1次側信号の対称性と2次側信号の対称性をほぼ同一とすることが可能となる。
【0050】
さらに、本実施形態では、異なるプリント基板に形成されたスパイラル導体の内周端同士を、外部端子103,106を介して接続していることから、これら外部端子103,106をセンタータップとして用いていることが可能となる。また、隣接しない2つのプリント基板に1次巻線及び2次巻線を形成していることから、プリント基板の両面に1次巻線や2次巻線を形成する場合と比べ、1次巻線の線間及び2次巻線の線間に生じる寄生容量が低下する。これにより、高周波特性を向上させることが可能となる。
【0051】
しかも、本実施形態では、図1に示すように1次側の外部端子101と102間の距離L1よりも、1次側の外部端子102と2次側の外部端子103との距離L2を大きく設定していることから、これら外部端子101〜103が同じ側面100cに設けられているにもかかわらず、1次側と2次側の絶縁性を高めることが可能となる。側面100dに設けられた外部端子104〜106についても同様である。
【0052】
図10は変形例による外部端子のレイアウトを説明するための図であり、いずれも上面100a側から見た図である。
【0053】
図10(a)は、外部端子103,106をそれぞれ側面100e,100fに配置した例を示す図である。本例によれば、1次側に属する外部端子101,102と2次側に属する外部端子103とが異なる側面に配置され、2次側に属する外部端子104,105と1次側に属する外部端子106とが異なる側面に配置されることから、1次側と2次側の絶縁性がより高められる。
【0054】
図10(b)は、図10(a)に示すレイアウトに加え、1次側に属する外部端子101,102を側面100f側にオフセットさせ、2次側に属する外部端子104,105を側面100e側にオフセットさせた例を示す図である。本例によれば、1次側に属する外部端子101,102と2次側に属する外部端子103との距離がより遠くなり、2次側に属する外部端子104,105と1次側に属する外部端子106との距離がより遠くなることから、1次側と2次側の絶縁性がよりいっそう高められる。
【0055】
図10(c)は、図10(b)に示すレイアウトに加え、1次側センタータップである外部端子106を側面100c側にオフセットさせ、2次側センタータップである外部端子103を側面100d側にオフセットさせた例を示す図である。本例によれば、1次側に属する外部端子101,102と2次側に属する外部端子103との距離がより遠くなり、2次側に属する外部端子104,105と1次側に属する外部端子106との距離がより遠くなることから、1次側と2次側の絶縁性がよりいっそう高められる。
【0056】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0057】
例えば、上記実施形態では、スパイラル導体11〜41が互いに同じ形状を有しているが、本発明において各スパイラル導体が互いに同じ形状である点は必須でない。例えば、1次側巻線を構成するスパイラル導体のターン数と、2次側巻線を構成するスパイラル導体のターン数とが相違していても構わない。これによれば、1次側の信号振幅と2次側の信号振幅とが異なるパルストランスを提供することが可能となる。
【0058】
また、上記実施形態においては、スパイラル導体の内周端同士を接続することによってこれをセンタータップとして用いているが、これとは逆に、スパイラル導体の外周端同士を接続し、これをセンタータップとして用いても構わない。さらに、一方のスパイラル導体の内周端と他方のスパイラル導体の外周端を接続し、これをセンタータップとして用いても構わない。さらには、センタータップを外部端子に引き出すことは必須でなく、積層体の内部で接続を行っても構わない。しかしながら、センタータップを外部端子に引き出せば、センタータップに外部配線を接続することが可能となるため、センタータップを外部端子に引き出すことが好ましい。
【0059】
さらに、上記実施形態においては4枚のプリント基板10〜40を用いているが、本発明において使用するプリント基板の枚数が4枚に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0060】
10〜40 プリント基板
10a,20a,30a,40a プリント基板の一方の表面
10b,20b,30b,40b プリント基板の他方の表面
10c〜40c 開口部
10d スルーホール
10e スリット
10x〜40x プリント基板(切断前)
11,21,31,41 スパイラル導体
11a,21a,31a,41a スパイラル導体の内周端
11b,21b,31b,41b スパイラル導体の外周端
11c,21c,31c,41c スルーホール導体
50 絶縁樹脂
100 トランス部品
100a 積層体の上面
100b 積層体の下面
100c〜100f 側面
100s 積層体
101〜106 外部端子
110,120 磁性体
111 平板部
112 外周突起部
121 平板部
122 外周突起部
123 内周突起部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の磁性体と、
前記第1の磁性体と前記第2の磁性体との間に設けられた第1乃至第4のプリント基板と、
前記第1乃至第4のプリント基板の一方の表面にそれぞれ形成された第1乃至第4のスパイラル導体と、
前記第1乃至第4のプリント基板の前記一方の表面にそれぞれ形成され、それぞれ前記第1乃至第4のスパイラル導体の外周端に接続された第1乃至第4の外周引き出し導体と、
前記第1乃至第4のプリント基板の他方の表面にそれぞれ形成され、それぞれ第1乃至第4のプリント基板を貫通するスルーホール導体を介して、それぞれ前記第1乃至第4のスパイラル導体の内周端に接続された第1乃至第4の内周引き出し導体と、
前記第1の外周引き出し導体及び前記第1の内周引き出し導体の一方に接続された第1の外部端子と、
前記第2の外周引き出し導体及び前記第2の内周引き出し導体の一方に接続された第2の外部端子と、
前記第3の外周引き出し導体及び前記第3の内周引き出し導体の一方に接続された第3の外部端子と、
前記第4の外周引き出し導体及び前記第4の内周引き出し導体の一方に接続された第4の外部端子と、を備え、
前記第1のスパイラル導体と前記第2のスパイラル導体は対向配置されており、
前記第3のスパイラル導体と前記第4のスパイラル導体は対向配置されており、
前記第1の外周引き出し導体及び前記第1の内周引き出し導体の他方は、前記第3の外周引き出し導体及び前記第3の内周引き出し導体の他方と前記第4の外周引き出し導体及び前記第4の内周引き出し導体の他方のいずれか一方に接続されており、
前記第2の外周引き出し導体及び前記第2の内周引き出し導体の他方は、前記第3の外周引き出し導体及び前記第3の内周引き出し導体の他方と前記第4の外周引き出し導体及び前記第4の内周引き出し導体の他方のいずれか他方に接続されていることを特徴とするトランス部品。
【請求項2】
前記第1のスパイラル導体と前記第2のスパイラル導体は互いに同じパターン形状を有しており、前記第3のスパイラル導体と前記第4のスパイラル導体は互いに同じパターン形状を有していることを特徴とする請求項1に記載のトランス部品。
【請求項3】
第5及び第6の外部端子をさらに備え、
前記第1の外周引き出し導体及び前記第1の内周引き出し導体の前記他方は、前記第5の外部端子に接続されており、
前記第2の外周引き出し導体及び前記第2の内周引き出し導体の前記他方は、前記第6の外部端子に接続されており、
前記第3の外周引き出し導体及び前記第3の内周引き出し導体の他方と前記第4の外周引き出し導体及び前記第4の内周引き出し導体の他方の前記いずれか一方は、前記第5の外部端子に接続されており、
前記第3の外周引き出し導体及び前記第3の内周引き出し導体の他方と前記第4の外周引き出し導体及び前記第4の内周引き出し導体の他方の前記いずれか他方は、前記第6の外部端子に接続されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のトランス部品。
【請求項4】
第1及び第2の磁性体と前記第1乃至第4のプリント基板からなる積層体は、互いに平行な第1及び第2の側面と、前記第1及び第2の側面に対して垂直な第3及び第4の側面を有しており、
前記第1及び第2の外部端子は前記積層体の前記第1の側面に配置されており、
前記第3及び第4の外部端子は前記積層体の前記第2の側面に配置されており、
前記第5の外部端子は、前記第1の外部端子から見て前記第2の外部端子よりも遠い位置に配置されており、
前記第6の外部端子は、前記第3の外部端子から見て前記第4の外部端子よりも遠い位置に配置されていることを特徴とする請求項3に記載のトランス部品。
【請求項5】
前記第5の外部端子は前記積層体の前記第3の側面に配置されており、前記第6の外部端子は前記積層体の前記第4の側面に配置されていることを特徴とする請求項4に記載のトランス部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−89543(P2012−89543A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−232239(P2010−232239)
【出願日】平成22年10月15日(2010.10.15)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】