説明

トランス

【課題】作製が容易であるとともに小型で高効率なトランスを提供することにある。
【解決手段】トランスは、第1のフェライト基板(第1の基板)1に形成される一次コイルを構成する一次側導体11と第2のフェライト基板(第2の基板)2に平面視で一次側導体11の一部と重なり合う形で形成され二次コイルを構成する二次側導体21とからなるコイル部110と、一次側導体11と二次側導体21とを絶縁する絶縁層3と、第1のフェライト基板1と第2のフェライト基板2との間において絶縁層3が形成されていない領域に形成される磁性体層4とを備える。そして、一次側導体11および二次側導体21のいずれもが平面視で蛇行した開ループ状に形成されてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源等において電力変換や絶縁等に用いられるトランスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、図10(a)に示すように、一次コイルたる一次側導体11a’,11b’(図10(b)参照)と二次コイルたる二次側導体21’とを有するコイルブロック111’を備え、コイルブロック111’を一対の磁芯部51’,51’により厚み方向の両側から挟持してなる薄型トランスが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
ここにおいて、上述の薄型トランスは、次のように作製される。
【0004】
まず、可撓性を有する絶縁性材料で形成された基板33’を準備する。ここに、基板33’は、平面視正方形状の単位基板32a’を5枚一列に連続一体に連結してなる細長の二次側絶縁体部32’と、二次側絶縁体部32’の両端から二枚目の単位基板32a’それぞれに連続一体に連結してなる平面視正方形状の2枚の単位基板31a’それぞれからなる一次側絶縁体部31’とを備える。
【0005】
次に、基板33’を構成する各単位基板31a’,32a’の中央部に貫通孔3a’を形成する。そして、基板33’の一部を構成する一次側絶縁体部31’の一表面側における単位基板31a’の貫通孔3a’の周囲に渦巻状の一次側導体11a’,11b’を形成するとともに、基板33’の一部を構成する二次側絶縁体部32’の一表面側において長手方向に沿って、二次側絶縁体部32’を構成する単位基板32a’に形成された複数の貫通孔3a’の間を蛇行する形で二次側導体21’を形成する(図10(b)参照)。
【0006】
その後、単位基板31a’,32a’の境界(図10(b)中の一点鎖線)で基板33’を折り曲げることにより、2つの単位基板31a’を単位基板32a’に重ね合わせた後に、図11に示すように、単位基板31a’,32a’の境界(図10(b)中の一点鎖線)で折り曲げることで、コイルブロック111’を形成する。
【0007】
続いて、コイルブロック111’の厚み方向の両側からコイルブロック111’を一対の磁芯部51’,51’で挟持することで、図10(a)に示す薄型トランスが作製される。ここで、磁芯部51’には、単位基板31a’および単位基板32a’に形成された貫通孔3a’に挿入される突部51a’が中央部に形成されている(図10(c)参照)。
【特許文献1】登録実用新案第2522263号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載された薄型トランスでは、一次側絶縁体部31’の前記一表面側において一次側導体11a’,11b’を渦巻状に形成することにより、一次側導体11a’,11b’のターン数を大きくすることで、一次側導体11a’,11b’のインダクタンスを大きくしている。従って、一次側導体11a’,11b’の両端部のいずれか一方が当該一次側導体11a’,11b’が周囲に形成された貫通孔3a’の周部に位置しており、当該貫通孔3a’の周部に位置した一次側導体11a’,11b’の端部から一次側導体11a’,11b’の周囲に設けられた入力端子等に接続する配線を一次側導体11a’,11b’と一次側絶縁体部31’の厚み方向で交差させる必要があり、前記配線を一次側導体11a’,11b’と絶縁しつつ一次側導体11a’,11b’の外側に引き出す構造を別途設ける必要があるから、作製が比較的難しかった。
【0009】
本願発明は、前記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、作製が容易であるとともに小型で且つ高効率なトランスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、上記目的を達成するために、厚み方向の一表面が互いに対向して配置された第1の基板および第2の基板と、第1の基板の前記一表面上における平面視で第2の基板と重なる領域に形成された一次側導体と、第2の基板の前記一表面上における平面視で第1の基板と重なる領域に形成され平面視で一次側導体と一部が重なり合う二次側導体と、第1の基板の前記一表面上における前記第2の基板と重なる領域以外の領域に形成され一次側導体の両端に配線を介して接続された2つの入力端子と、第2の基板の前記一表面上における第1の基板と重なる領域以外の領域に形成され二次側導体の両端に配線を介して接続された2つの出力端子と、第1の基板と第2の基板との間において一次側導体からなる一次コイルと二次側導体からなる二次コイルとから構成されるコイル部の周囲に形成され一次側導体と二次側導体とを絶縁する絶縁層と、第1の基板と第2の基板との間においてコイル部および絶縁層が形成されていない領域に形成された磁性体層とを備え、一次側導体および二次側導体のいずれもが平面視で蛇行した開ループ状に形成されてなることを特徴とする。
【0011】
この発明によれば、一次側導体が第1の基板の一表面側で蛇行した開ループ状に形成されていることにより、一次側導体を渦巻状に形成することなくインダクタンスの増大を図ることができるので、一次側導体の端部から入力端子に接続する配線を一次側導体と交差させる必要がなく、また、二次側導体も第2の基板の一表面側で蛇行した開ループ状に形成されていることにより、二次側導体を渦巻状に形成することなくインダクタンスの増大を図ることができるので、二次側導体の端部から出力端子に接続する配線を二次側導体に交差させる必要もないから、容易に作製することができる。また、第1の基板の前記一表面側に一次側導体と入力端子とを同時に作製でき、第2の基板の前記一表面側に二次側導体と出力端子とを同時に作製することができるので、製造工程数を削減することができ、容易に作製することができるとともに製造コストを低減することができる。更に、一次側導体と二次側導体のいずれもが平面視で蛇行した開ループ状に形成されていることにより、一次側導体と二次側導体の周囲の磁束の広がりを抑制することができるので、小型で高効率なトランスを提供することができる。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記磁性体層は、前記第1の基板および前記第2の基板の厚み方向に直交する平面内で互いに分離された形で配置された磁性体からなる複数の磁性体ブロックで構成されることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、前記第1の基板と前記第2の基板との間において前記コイル部および前記絶縁層が形成されていない領域それぞれにおいて前記磁性体層が連続一体に繋がった形で形成されている場合に比べて、前記磁性体層で消費される渦電流損失を低減することができるので、高効率なトランスを提供することができる。
【0014】
請求項3の発明は、請求項2の発明において、前記磁性体層は、前記磁性体ブロックとして、平面視形状の面積の異なる少なくとも2種類があり、前記一次側導体および前記二次側導体それぞれに近づくにつれて前記磁性体ブロックの平面視形状の面積が段階的に小さくなっており且つ前記一次側導体および前記二次側導体の最も近くに配置された前記磁性体ブロックの平面視形状の面積が、他の箇所に配置された前記磁性体ブロックの平面視形状の面積以下となるように形成してなることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、前記磁性ブロックの平面視形状の面積が一様である場合に比べて、前記磁性体層で消費される渦電流損失を更に低減することができるので、高効率なトランスを提供することができる。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、一次側導体および二次側導体を渦巻状に形成することなく一次側導体および二次側導体のインダクタンスの増大を図ることができるので、一次側導体の端部から入力端子に接続する配線を一次側導体と交差させる必要がなく且つ二次側導体の端部から出力端子に接続する配線を二次側導体に交差させる必要もないから、容易に作製することができる。また、第1の基板の前記一表面側に一次側導体と入力端子とを同時に作製でき、第2の基板の前記一表面側に二次側導体と出力端子とを同時に作製することができるので、製造工程数を削減することができ、容易に作製することができ、製造コストを低減できる。更に、一次側導体と二次側導体の周囲の磁束の広がりを抑制することができるので、小型で高効率なトランスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施形態1)
以下、本実施形態について、図1および図2に基づいて説明する。なお、図1(b)は、図2におけるA−A’で破断した断面を示している。
【0018】
本実施形態のトランスは、第1の基板である第1のフェライト基板1および第2の基板である第2のフェライト基板2と、第1のフェライト基板1の一表面上に形成された一次コイルたる一次側導体11と、第2のフェライト基板2の一表面上に形成された二次コイルたる二次側導体21と、一次側導体11と二次側導体21とを絶縁する絶縁層3と、第1のフェライト基板1と第2のフェライト基板2との間における一次側導体11と二次側導体21とからなるコイル部110、および絶縁層3が形成されていない領域に形成された磁性体層4とを備える。つまり、本実施形態のトランスは、図1(b)に示すように、コイル部110において、一次コイルたる一次側導体11および二次コイルたる二次側導体21の並び方向の両側に第1のフェライト基板1および第2のフェライト基板2が配置されるとともに、磁性体層4が、第1のフェライト基板1と第2のフェライト基板2との間におけるコイル部110および絶縁層3が形成されていない領域に形成されている。また、第1のフェライト基板1の前記一表面上には、一次側導体11の両端に配線13を介して接続された入力端子12が形成され、第2のフェライト基板2の前記一表面上には、二次側導体21の両端に配線(図示せず)を介して接続された出力端子22が形成されている。
【0019】
第1のフェライト基板1および第2のフェライト基板2は、平面視長方形の矩形板状に形成され、厚み方向の一表面が互いに対向する形で配置される。また、第2のフェライト基板2は、第1のフェライト基板1に対して第1のフェライト基板1の長手方向に規定距離だけずれた形で配置されている。なお、第1のフェライト基板1および第2のフェライト基板2は、例えば、Ni−Zn系フェライトのような絶縁性の磁性材料で形成されている。
【0020】
一次コイルたる一次側導体11は、第1のフェライト基板1の前記一表面上における平面視で第2のフェライト基板2と重なる領域に形成されている。一方、二次コイルたる二次側導体21は、第2のフェライト基板2の前記一表面上における平面視で第1のフェライト基板1と重なる領域に、平面視で一次側導体11の一部と重なり合う形で形成されている。
【0021】
ところで、本実施形態のトランスでは、一次コイルたる一次側導体11および二次コイルたる二次側導体21が、平面視で蛇行した開ループ状に形成されている。
【0022】
一次側導体11は、第1のフェライト基板1の前記一表面上における平面視で第2のフェライト基板2と重なる矩形状の領域に形成され、当該矩形状の領域において第1のフェライト基板1の短手方向の両端の2辺に沿った形で且つ第1のフェライト基板1の長手方向に沿った中心線に対して線対称であり且つ両端を互いに対向させる形で離間して形成された2つの第1のコ字状部11cを有し、各コ字状部11cそれぞれの一端部が、第1のフェライト基板1の長手方向に沿って延長された配線13,13を介して入力端子12,12に連続するとともに、他端部同士が第2のコ字状部11dを介して連続する形状を有している。一方、二次側導体21も、第2のフェライト基板2の前記一表面上における平面視で第1のフェライト基板1と重なる領域に形成され、第2のフェライト基板2の長手方向に沿った中心線に対して線対称であり且つ両端を互いに対向させる形で離間して形成された2つの第1のコ字状部(図示せず)を有し、各コ字状部それぞれの一端部が、第2のフェライト基板2の長手方向に沿って延長された配線(図示せず)を介して出力端子22,22に連続するとともに、他端部同士が第2のコ字状部(図示せず)を介して連続する形状を有している。
【0023】
ここで、二次側導体21は、一次側導体11の一部、即ち、前記第1のコ字状部11c、および前記第2のコ字状部11dの一部と、平面視で重なるように形成されている。なお、一次側導体11および二次側導体21は、例えば、Cu、W、Al、或いはこれらを主成分とする合金などで形成されている。
【0024】
入力端子12は、第1のフェライト基板1の前記一表面上における平面視で第2のフェライト基板2と重なる領域以外の領域に形成されており、出力端子22は、第2のフェライト基板2の前記一表面上における平面視で第1のフェライト基板1と重なる領域以外の領域に形成されている。また、一次側導体11は、配線13を介して入力端子12に接続され、二次側導体21は、配線(図示せず)を介して出力端子22bに接続されている。なお、入力端子12および入力端子12に接続される配線13は、一次側導体11と同じ材料で形成され、出力端子22および出力端子22に接続される配線は、二次側導体21と同じ材料で形成されるものであり、例えば、Cu、W、Al、或いはこれらを主成分とする合金などで形成されている。
【0025】
絶縁層3は、第1のフェライト基板1の前記一表面上における平面視で第2のフェライト基板2と重なる領域と第2のフェライト基板2の前記一表面上における平面視で第1のフェライト基板1と重なる領域との間においてコイル部110の周囲に形成されている。また、絶縁層3は、SiOで形成されている。なお、本実施形態では、絶縁層3の材料として、SiOを採用しているが、これに限定されるものではなく、例えば、PSG等でもよい。
【0026】
磁性体層4は、第1のフェライト基板1の前記一表面上における平面視で第2のフェライト基板2と重なる領域と、第2のフェライト基板2の前記一表面上における平面視で第1のフェライト基板1と重なる領域との間において、コイル部110および絶縁層3が形成されていない領域に形成される。なお、磁性体層4は、例えば、Co系合金またはFe系合金、例えば、NiとFeとからなる合金、などの導電性の磁性材料で形成されている。
【0027】
次に、本実施形態のトランスの製造方法について図3に基づいて説明する。
【0028】
まず、第1のフェライト基板1(図3(a))の前記一表面上に一次側導体11、入力端子12および配線13を同時に形成する導体形成工程を行う(図3(b))。なお、導体形成工程では、例えば、第1のフェライト基板1の前記一表面上にスパッタリング法、蒸着法或いはCVD法などにより一次側導体11、入力端子12および配線13の基礎となる金属膜を成膜した後に、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して金属膜をパターンニングすることで、一次側導体11、入力端子12および配線13を形成する。
【0029】
導体形成工程の後に、第1のフェライト基板1の前記一表面側に一次側導体11を覆うようにSiO層からなる一次側絶縁層31を形成する絶縁層形成工程を行う(図3(c))。絶縁層形成工程では、第1の絶縁層31の表面の平坦性を向上させる観点から、TEOS(テトラエトキシシラン:Si(OC)を原料ガスとしたCVD法等を採用する。
【0030】
絶縁層形成工程の後に、一次側絶縁層31のうち不要な部分をエッチングするエッチング工程を行う(図3(d))。エッチング工程では、例えば、一次側絶縁層31上にフォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して一次側絶縁層31のうち不要な部分を除去する。
【0031】
エッチング工程の後に、導電性の磁性材料からなる一次側磁性体層41を形成する磁性体層形成工程を行う。磁性体層形成工程では、例えば、スパッタリング法、蒸着法或いはCVD法等により、第1のフェライト基板1の前記一表面側に磁性体層41を形成した後に、磁性体層41の表面側をCMP等により平坦化することで図3(e)に示す構造を得る。
【0032】
また、第2のフェライト基板2に対しては、第1のフェライト基板1と同様に、二次側導体21、出力端子22および配線を同時に形成する導体形成工程、SiO層からなり且つ一次側絶縁層31とともに絶縁層3を構成する二次側絶縁層32を形成する絶縁層形成工程、二次側絶縁層32のうち不要な部分をエッチングにより除去するエッチング工程、導電性の磁性材料からなり且つ一次側磁性体層41とともに磁性体層4を構成する二次側磁性体層42を形成する磁性体層形成工程を順次行い、図3(e)に示す構造を得る。
【0033】
その後、第1のフェライト基板1における前記一表面側と第2のフェライト基板2における前記一表面側とを接合する接合工程を行うことで、一次側導体11および二次側導体21とから構成されるコイル部110と、一次側絶縁層31および二次側絶縁層32からなる絶縁層3と、一次側磁性体層41および二次側磁性体層42からなる磁性体層4とを備える図3(f)に示す構造を得る。
【0034】
しかして、本実施形態では、一次側導体11が蛇行した開ループ状に形成されていることにより、一次側導体11を渦巻状に形成することなくインダクタンスの増大を図ることができるので、一次側導体11の端部から入力端子12に接続する配線13を一次側導体11と交差させる必要がなく、また、二次側導体21も蛇行した開ループ状に形成されていることにより、二次側導体21を渦巻状に形成することなくインダクタンスの増大を図ることができるので、二次側導体21の端部から出力端子22に接続する配線(図示せず)を二次側導体21に交差させる必要もないから、トランスの高効率化を図りながらも容易に作製することができる。また、本実施形態のトランスでは、上述のように、導体形成工程において、第1のフェライト基板1の前記一表面側に一次側導体11、入力端子12および配線13を同時に形成することができるので、製造工程を削減することができ、また、第2のフェライト基板2の前記一表面側に二次側導体21、入力端子22および配線を同時に形成することができるので、製造工程を削減することができ、作製が容易であるとともに、製造コストも低減できる。
【0035】
また、本実施形態のトランスの製造方法では、第1のフェライト基板1および第2のフェライト基板2に対して、導体形成工程、絶縁層形成工程および磁性体層形成工程を同時に行うことができる。つまり、第1のフェライト基板1および第2のフェライト基板2に対して行う前記各工程のうち、接合工程を除く各工程を同時に行うことにより、製造工程を簡略化することができるので、容易に作製することができる。
【0036】
次に、本実施形態の一実施例であるトランスについて、動作時の磁界分布のシミュレーションを行った結果について説明する。
【0037】
本実施例のトランスの動作時における磁界分布のシミュレーションには、有限要素法を用いた。また、磁界分布のシミュレーションは、一次コイルたる一次側導体11および二次コイルたる二次側導体21それぞれが、矩形開ループ状に形成されてなる比較例(図4(a)参照)と、一次側導体11および二次側導体21が蛇行した開ループ状に形成されてなる構造の実施例(図4(b)参照)について行った。
【0038】
比較例および実施例では、第1のフェライト基板1については、図4に示すように、長手方向の長さを8mm、短手方向の長さを5mm、厚さを500μmに設定し、第2のフェライト基板2については、第1のフェライト基板1と同様に、長手方向の長さを8mm、短手方向の長さを5mm、厚さを500μmに設定してある。
【0039】
また、比較例および実施例では、一次側導体11、二次側導体21および配線13について、幅を0.5mm、厚さを3μmに設定し、入力端子12および出力端子22について、長手方向の寸法が2.5mm、短手方向の寸法が2.15mmに設定してある。
【0040】
比較例の一次側導体11は、第1のフェライト基板1の前記一表面上における平面視で第2のフェライト基板2と重なる平面視で正方形状の領域に、当該領域の4辺に沿って矩形開ループ状に形成され、4辺からの距離を0.5mmとしている。一方、比較例の二次側導体21は、厚みが3μm、幅が0.5mmであって、第2のフェライト基板2の前記一表面上における平面視で第1のフェライト基板1と重なる平面視で正方形状の領域に、当該領域の4辺に沿って矩形開ループ状に形成され、4辺からの距離を0.5mmとしている。
【0041】
実施例の一次側導体11は、2つの第1のコ字状部11cが、第1のフェライト基板1の前記一表面上における平面視で第2のフェライト基板2と重なる平面視で正方形状の領域に、当該領域の4辺に沿って形成され、4辺からの距離を0.5mmとしている。また、一次側導体11の一部を構成する2つの第1のコ字状部11cは、配線13に連続する一端部同士の間の距離を0.5mm、他端部同士の間の距離を1.0mmとしている。また、一次側導体11の一部を構成する第2のコ字状部11dは、第1のフェライト基板1の短手方向に沿って形成された中央部の長手方向の両端部から、前記他端部に向かって延長された両脚部の長さを2.5mmとし、当該両脚部同士の間の距離を1.0mmとしている。一方、実施例の二次側導体21は、2つの第1のコ字状部が、第2のフェライト基板2の前記一表面上における平面視で第1のフェライト基板1と重なる平面視で正方形状の領域に、当該領域の4辺に沿って形成され、4辺からの距離を0.5mmとしている。また、二次側導体2の一部を構成する2つの第1のコ字状部は、配線に連続する一端部同士の間の距離を0.5mm、他端部同士の間の距離を1.0mmとしている。また、二次側導体2の一部を構成する第2のコ字状部は、第2のフェライト基板2の短手方向に沿って形成された中央部の長手方向の両端部から、前記他端部に向かって延長された両脚部の長さを2.5mmとし、当該両脚部同士の間の距離を1.0mmとしている。
【0042】
また、一次側導体11および二次側導体21は、銅で形成され、第1のフェライト基板1および第2のフェライト基板2の比透磁率を1000、磁性体層4の比透磁率を100とした。
【0043】
上述の実施例のトランス内における磁界分布のシミュレーションの結果を、比較例とともに図5に示す。図5には、一次側導体11に供給する電力を1Wとした場合を示してある。ここで、磁束密度の大きさが磁界の大きさに比例することを考慮すれば、図5から、比較例(図5(a)参照)に比べて、実施例(図5(b)参照)では、コイル部110の周囲の磁束の広がりが抑制され、コイル部110の近傍にのみ磁束が存在することが確認できた。
【0044】
一方、第1のフェライト基板1および第2のフェライト基板2の大きさは、コイル部110で発生した磁場を遮蔽してトランスの外側に漏れないようにすることを考慮すれば、磁束が広がる範囲を覆う程度の大きさが必要である。従って、比較例では、一次側導体11および二次側導体21が平面視で矩形開ループ状に形成されているため、一次側導体11および二次側導体21の周囲の磁束の広がりが比較的大きく、トランスの小型化を図ることが困難であった。これに対して、実施例では、上述の磁界分布のシミュレーションの結果からも判るように、コイル部110の周囲の磁束の広がりが抑制されているので、トランスの小型化を図ることができる。
【0045】
次に、実施例のトランスにおけるインダクタンス、漏れインダクタンスおよび結合度の解析結果について説明する。ここにおいて、インダクタンスは、一次コイルたる一次側導体11および二次コイルたる二次側導体21それぞれの自己インダクタンスを表し、結合度は、一次側導体11と二次側導体21の相互インダクタンスの大きさを表す。漏れインダクタンスは、一次側導体11にだけ鎖交して二次側導体21に鎖交しない磁束によるインダクタンスを表す。
【0046】
比較例と実施例とにおけるインダクタンス、漏れインダクタンスおよび結合度を表1に示す。
【0047】
【表1】

【0048】
実施例における結合度は、比較例と同じく、1.0であり、高効率なトランスが実現できることが確認できた。更に、比較例では、一次側導体11および二次側導体21のインダクタンスが4.2μHであるのに対して、実施例では、一次側導体11および二次側導体21のインダクタンスが4.7μHであり、実施例を採用することで比較例に比べて一次側導体11および二次側導体21のインダクタンスの向上が図れることが確認できた。また、漏れインダクタンスは、実施例および比較例ともに0μHであることが確認できた。
【0049】
結局、実施例では、一次側導体11と二次側導体21とを蛇行した開ループ状に形成することにより、比較例のように、一次側導体11と二次側導体21とが蛇行しない開ループ状に形成されている場合に比べて、コイル部110の周囲の磁束の広がりを抑制することにより、小型で高効率なトランスを実現できる。
(実施形態2)
本実施形態のトランスの基本構成は、実施形態1と略同じであり、図6および図7に示すように、磁性体層4が、第1のフェライト基板1の厚み方向に直交する前記一表面上に複数の磁性体ブロック4aを互いに分離した形で配置してなる一次側磁性体層41(図7参照)と、第2のフェライト基板2において第2のフェライト基板2の厚み方向に直交し且つ第1のフェライト基板1に対向する前記一表面上に複数の磁性体ブロック4aを互いに分離した形で配置してなる二次側磁性体層42とから構成される点が相違する。なお、実施形態1と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0050】
本実施形態のトランスの製造方法は、実施形態1の製造方法と略同じであって、磁性体層形成工程のみが相違する。ここで、磁性体層形成工程では、例えば、スパッタリング法、蒸着法或いはCVD法等により第1のフェライト基板1および第2のフェライト基板2それぞれの一表面側に磁性体層41,42を形成した後に、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を利用して磁性体層41,42をパターンニングすることにより、上述の複数の磁性体ブロック4aからなる一次側磁性体層41および二次側磁性体層42を形成する。
【0051】
しかして、磁性体層4が、複数の磁性体ブロック4aを第1のフェライト基板1および第2のフェライト基板2の厚み方向に直交する平面内に互いに分離した形で配置してなることにより、第1のフェライト基板1と第2のフェライト基板2との間においてコイル部110および絶縁層3が形成されていない領域それぞれにおいて磁性体層4が連続一体に繋がった形で形成されている場合に比べて、磁性体層4で消費される渦電流損失を低減することができるので、高効率なトランスを提供することができる。
(実施形態3)
本実施形態のトランスの基本構成は、実施形態2と略同じであり、図8に示すように、磁性体層4が、磁性体ブロック4aとして、平面視形状の面積の異なる2種類があり、一次側導体11および二次側導体21それぞれに近づくにつれて磁性体ブロック4aの平面視形状の面積が段階的に小さくなっており且つ一次側導体11および二次側導体21の最も近くに配置された磁性体ブロック4aの平面視形状の面積が、他の箇所に配置された磁性体ブロック4aの平面視形状の面積以下となるように形成されている点が相違する。なお、実施形態2と同様の構成要素については同一の符号を付して説明を省略する。
【0052】
なお、本実施形態のトランスの製造方法は、実施形態2と略同じであり、磁性体層形成工程において、平面視形状の面積の異なる2種類の磁性体ブロック4aから構成される磁性体層41,42を形成する点が相違する。
【0053】
ここにおいて、一次側導体11に電力を供給した場合における一次側導体11の周囲の磁束密度は、図9に示すように、一次側導体11の近傍が最も大きく、一次側導体11からの距離が大きくなると小さくなる。
【0054】
そこで、本実施形態では、磁性体層4を構成する磁性ブロック4aについて、通電時の磁束密度が大きい一次側導体11の最も近くに配置されるもの、および一次側導体11の近傍に配置される二次側導体21の最も近くに配置されるものの平面視形状の面積が、他の箇所に配置されているものの平面視形状の面積以下となるよう形成されている。しかして、磁性ブロック4aの平面視形状の面積が一様である場合に比べて、磁性体層4で消費される渦電流損失を更に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】実施形態1のトランスを示し、(a)は要部断面斜視図、(b)は要部概略断面図ある。
【図2】同上の概略斜視図である。
【図3】同上の製造方法を説明するための主要工程断面図である。
【図4】同上の一実施例の概略説明図である。
【図5】同上の一実施例の動作時の磁界分布のシミュレーションの結果を示す図である。
【図6】実施形態2のトランスの要部概略平面図である。
【図7】同上のトランスの要部概略斜視図である。
【図8】実施形態3のトランスの要部概略平面図である。
【図9】同上の動作時の磁束密度の分布を示す図である。
【図10】従来例を示し、(a)は組立後の概略斜視図、(b)は展開した構成部品の1つを示す概略平面図、(c)は構成部品の1つを示す概略斜視図である。
【図11】同上の製造方法を説明するための主要工程概略斜視図である。
【符号の説明】
【0056】
1 第1のフェライト基板(第1の基板)
2 第2のフェライト基板(第2の基板)
3 絶縁層
4 磁性体層
4a 磁性体ブロック
11 一次側導体
12 入力端子
21 二次側導体
22 出力端子
31 一次側絶縁層
32 二次側絶縁層
41 一次側磁性体層
42 二次側磁性体層
110 コイル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向の一表面が互いに対向して配置された第1の基板および第2の基板と、第1の基板の前記一表面上における平面視で第2の基板と重なる領域に形成された一次側導体と、第2の基板の前記一表面上における平面視で第1の基板と重なる領域に形成され平面視で一次側導体と一部が重なり合う二次側導体と、第1の基板の前記一表面上における前記第2の基板と重なる領域以外の領域に形成され一次側導体の両端に配線を介して接続された2つの入力端子と、第2の基板の前記一表面上における第1の基板と重なる領域以外の領域に形成され二次側導体の両端に配線を介して接続された2つの出力端子と、第1の基板と第2の基板との間において一次側導体からなる一次コイルと二次側導体からなる二次コイルとから構成されるコイル部の周囲に形成され一次側導体と二次側導体とを絶縁する絶縁層と、第1の基板と第2の基板との間においてコイル部および絶縁層が形成されていない領域に形成された磁性体層とを備え、一次側導体および二次側導体のいずれもが平面視で蛇行した開ループ状に形成されてなることを特徴とするトランス。
【請求項2】
前記磁性体層は、前記厚み方向に直交する平面内に互いに分離された形で配置された磁性体からなる複数の磁性体ブロックで構成されてなることを特徴とする請求項1記載のトランス。
【請求項3】
前記磁性体層は、前記磁性体ブロックとして、平面視形状の面積の異なる少なくとも2種類があり、前記一次側導体および前記二次側導体それぞれに近づくにつれて前記磁性体ブロックの平面視形状の面積が段階的に小さくなっており且つ前記一次側導体および前記二次側導体の最も近くに配置された前記磁性体ブロックの平面視形状の面積が、他の箇所に配置された前記磁性体ブロックの平面視形状の面積以下となるように形成してなることを特徴とする請求項2記載のトランス。


























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−56177(P2010−56177A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217363(P2008−217363)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、環境省、地球温暖化対策技術開発事業、「省エネ型白色LED照明器具の普及促進のための低コスト化技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】