説明

トリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法

【課題】接着性および被膜強度に優れるトリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法の提供。
【解決手段】トリアジンチオール誘導体とメタホウ酸とを含有する電解液中で、導電性物質を陽極として、電解重合処理を行うことにより、前記導電性物質の表面に前記トリアジンチオール誘導体の被膜を形成させる、トリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トリアジンチオール誘導体を用いた被膜の形成方法が知られている(例えば、特許文献1〜4参照。)。例えば、特許文献1には、トリアジンチオール類の水溶液または有機溶剤を溶媒とした溶液を電着溶液として用い、金属を陽極に、白金板、チタン板またはカーボン板等を陰極とし、これに電流を通じて行う低温高速処理を特徴とする金属の電気化学的表面処理法が記載されている。このような手法は、「有機めっき」と呼ばれ、金属と樹脂、ゴム等との高分子材料とを接着させることができる点で有用である。
しかしながら、トリアジンチオール誘導体を用いた有機めっきにおいては、被膜強度が金属めっきに比べて弱いという問題がある。例えば、基材を有機めっきした後、加工を施す際等に、ロール等に接触したりすると、被膜が容易にはく離したりする。
【0003】
【特許文献1】特公平5−51671号公報
【特許文献2】特開平10−237047号公報
【特許文献3】特開平11−140626号公報
【特許文献4】特開2001−316872号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、接着性および被膜強度に優れるトリアジンチオール誘導体の被膜を表面に有する基材およびそれに用いられるトリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、電解重合処理に、特定のトリアジンチオール誘導体とメタホウ酸とを含有する電解液を用いると、接着性および被膜強度に優れるトリアジンチオール誘導体の被膜が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、以下の(i)〜(iv)を提供する。
(i)下記式(1)で表されるトリアジンチオール誘導体とメタホウ酸とを含有する電解液中で、導電性物質を陽極として、電解重合処理を行うことにより、前記導電性物質の表面に前記トリアジンチオール誘導体の被膜を形成させる、トリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、R1は、酸素原子、硫黄原子および窒素原子を含んでいてもよい1価の不飽和炭化水素基を表す。R2は、水素原子、または、酸素原子、硫黄原子および窒素原子を含んでいてもよい1価の炭化水素基を表す。M1およびM2は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表す。)
(ii)前記電解液が、更に、亜硝酸ナトリウムを含有する、上記(i)に記載のトリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法。
(iii)前記電解液における亜硝酸ナトリウムとメタホウ酸とのモル比が、1/9〜8/2である、上記(ii)に記載のトリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法。
(iv)トリアジンチオール誘導体の被膜を表面に有する基材であって、
前記被膜が、上記(i)〜(iii)のいずれかに記載のトリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法により形成された被膜である、基材。
【発明の効果】
【0009】
本発明のトリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法は、得られる被膜の接着性および被膜強度が優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のトリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法は、後述するトリアジンチオール誘導体とメタホウ酸とを含有する電解液中で、導電性物質を陽極として、電解重合処理を行うことにより、前記導電性物質の表面に前記トリアジンチオール誘導体の被膜を形成させる方法である。
【0011】
本発明に用いられる電解液は、トリアジンチオール誘導体とメタホウ酸とを含有する。 電解液に含有されるトリアジンチオール誘導体は、下記式(1)で表される。
【0012】
【化2】

【0013】
式中、R1は、酸素原子、硫黄原子および窒素原子を含んでいてもよい1価の不飽和炭化水素基を表す。例えば、ビニル基(−CH=CH2)、アリル基(−CH2CH=CH2)、−(CH28CH=CH2、−(CH29CH=CH2、−C816CH=CHC49、−C816CH=CHC613、−C816CH=CHC817、−C816CH=CHC1021、−CH2CH2OCO(CH24CH=CH2、−CH2CH2OCO(CH28CH=CH2、−CH2CH2OCO(CH29CH=CH2、−(CH24OCO(CH24CH=CH2、−(CH24OCO(CH28CH=CH2、−(CH24OCO(CH29CH=CH2が挙げられる。
中でも、アリル基が好ましい。
【0014】
2は、酸素原子、硫黄原子および窒素原子を含んでいてもよい1価の炭化水素基を表す。例えば、上述したR1として例示した基のほかに、−H、−CH3、−C25、−C49、−C511、−C613、−C714、−C817、−C919、−C1021、−C1123、−C1225、−C1837、−C2041、−C2245、−C2449、−C65、−CH265、−CH2CH265、−C64CH3、−C6449、−C64613、−C64817、−C641021、−CH2CH(OH)CH249、−CH2CH(OH)CH2613、−CH2CH(OH)CH2817、−CH2CH(OH)CH21021、−(CH24OCOC49、−(CH24OCOC613、−(CH24OCOC817、−(CH24OCOC1021、−C64OC611、−C917OC64が挙げられる。
中でも、アリル基が好ましい。
【0015】
1およびM2は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表す。
アルカリ金属原子としては、例えば、ナトリウム、カリウムが挙げられる。また、アルカリ土類金属原子としては、例えば、1/2マグネシウム、1/2カルシウムが挙げられる。
【0016】
中でも、下記式(2)で表される6−ジアリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオールが好ましい。
【0017】
【化3】

【0018】
本発明に用いられる電解液は、2種以上のトリアジンチオール誘導体を含有していてもよい。
【0019】
電解液中におけるトリアジンチオール誘導体の濃度は、特に限定されないが、0.1〜1000mmol/Lであるのが好ましく、1〜100mmol/Lであるのがより好ましい。
【0020】
電解液に含有されるメタホウ酸は、[BO2-nというイオンの形態で電解液中に存在するものであれば、酸として添加されてもよく、塩として添加されてもよい。これらは、2種以上添加されてもよい。
メタホウ酸の塩としては、例えば、メタホウ酸ナトリウム、メタホウ酸カリウム、メタホウ酸リチウム、メタホウ酸カルシウムが挙げられる。メタホウ酸の塩は、水和物であってもよい。
【0021】
電解液中におけるメタホウ酸の濃度は、特に限定されないが、0.001〜10mol/Lであるのが好ましく、0.01〜1.0mol/Lであるのがより好ましい。
【0022】
本発明に用いられる電解液は、更に、亜硝酸ナトリウムを含有するのが好ましい態様の一つである。亜硝酸ナトリウムを含有すると、被膜の形成速度が速くなる。
電解液中における亜硝酸ナトリウムの濃度は、特に限定されないが、電解液における亜硝酸ナトリウムとメタホウ酸とのモル比が、1/9〜8/2であるのが好ましく、4/6〜6/4であるのがより好ましい。上記範囲であると、被膜強度および接着性と、被膜の形成速度とのバランスが好適になる。
【0023】
本発明に用いられる電解液は、必要に応じて、更に、その他の電解質を含有することができる。例えば、NaOH、Na2CO3、Na2SO4、K2SO3、Na2SO3、K2CO3、NaNO2、KNO2、NaNO3、NaClO4、CH3COONa、Na227、NaBO3、NaH2PO2、(NaPO36、Na2MnO4、Na3SiO3が挙げられる。これらは、2種以上含有されていてもよい。
電解液中におけるこれらの濃度は、特に限定されないが、それぞれ、0.001〜10mol/Lであるのが好ましく、0.01〜1.0mol/Lであるのがより好ましい。
【0024】
本発明に用いられる電解液は、被膜形成成分としての上記トリアジンチオール誘導体と、支持電解質としてのメタホウ酸、必要に応じて、更に亜硝酸ナトリウム等を、溶媒に溶解させ、または分散させて得ることができる。
溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、カルビトール、セルソルブ、ジメチルホルムアミド、メチルピロリドン、アクリルニトリル、エチレンカーボナイト;これらの混合溶媒(例えば、水−メタノール混合溶媒、水−カルビトール混合溶媒)が挙げられる。
【0025】
重合時の電解液の温度は、溶媒の凝固点や沸点と関係するので一義的に特定することができないが、重合温度が低くなると反応速度が遅くなり、高すぎると被膜が脆くなってしまうため、例えば、水溶液の場合、20〜60℃であるのが好ましく、35〜45℃であるのがより好ましい。
【0026】
本発明においては、上述した電解液中で、基材となる導電性物質を陽極として、電解重合処理を行う。
導電性物質は、特に限定されず、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、プラチナ、コバルト、アルミニウム、亜鉛、鉛、スズ、チタン、クロム等の金属;ステンレス、パーマロイ(鉄−ニッケル合金)等の合金;ITO(インジウムとスズの酸化物);カーボン;導電性ゴム等の有機導電体;これらの被膜を表面に有する部材が挙げられる。
陰極は、特に限定されず、例えば、ステンレス、白金、カーボン等の不活性導電体が挙げられる。
【0027】
電解重合処理の方法としては、特に限定されず、例えば、サイクリック法、定電流法、定電位法、パルス定電位法、パルス定電流法を用いることができる。
サイクリック法においては、電位幅が溶媒の分解しない範囲内で行われる。走査速度は、0.001〜100mV/secであるのが好ましく、0.01〜50mV/secであるのがより好ましい。上記範囲であると、被膜の形成速度が十分に速くなり、かつ、正確な電位で重合させることができる。
定電位法においては、電位が−0.5〜2Vvs.SCEであるのが好ましく、自然電位から酸化電位までの範囲であるのがより好ましい。
定電流法においては、電流密度が0.00005〜50mA/cm2であるのが好ましく、0.001〜10mA/cm2であるのがより好ましい。上記範囲であると、被膜の形成速度が十分に速くなり、かつ、被膜に亀裂が生成したり、金属が溶出したりするおそれが少ない。
パルス定電位法およびパルス定電流法においては、それぞれ上述した電位および電流密度が好ましく、また、それぞれ、時間幅が0.01〜10分であるのが好ましく、0.1〜2分であるのがより好ましい。
【0028】
上述したような電解重合処理を行うことにより、導電性物質の表面にトリアジンチオール誘導体の被膜が形成される。以下に、推測される被膜の構造を、上記式(2)で表されるトリアジンチオール誘導体を用い、金属基材の表面に被膜を形成させた場合を例に挙げて模式的に示す。
【0029】
【化4】

【0030】
上記式に示されているように、トリアジンチオール誘導体は、SM1基(SM2基)が基材の表面とが反応して結合を形成するとともに、SM1基(SM2基)同士も反応し、S−S結合を形成して重合する。一方、トリアジンチオール誘導体のR1(場合によっては更にR2)の不飽和結合に、SM1基(SM2基)が付加する反応も起こる。これらの反応により、トリアジンチオール誘導体が、基材に密着し、かつ、三次元化した被膜を形成する。
【0031】
本発明においては、電解液にメタホウ酸を用いることにより、作用極となる導電性物質付近での水の分解反応がある程度抑制されるため、気泡の発生が抑制され、緻密で柔軟な被膜が形成される。これにより、優れた被膜強度が得られると考えられる。
【0032】
このようにして電解重合処理を行い、好ましくは更に被膜を乾燥させて、本発明のトリアジンチオール誘導体の被膜を表面に有する基材が得られる。即ち、本発明は、トリアジンチオール誘導体の被膜を表面に有する基材であって、前記被膜が、本発明のトリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法により形成された被膜である、基材も提供する。
【0033】
本発明のトリアジンチオール誘導体の被膜を表面に有する基材において、被膜の密度は、特に限定されないが、0.25g/cm3以上であるのが好ましく、0.5g/cm3以上であるのがより好ましい。上記範囲であると、被膜強度がより優れたものになる。
【0034】
また、被膜の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)による平均分子量(ポリスチレン換算)で、1.0×103〜5.0×104であるのが好ましく、1.0×103〜2.0×104であるのがより好ましい。上記範囲であると、被膜強度に優れる。
【0035】
また、被膜の厚さは、1〜1000nmであるのが好ましく、50〜300nmであるのがより好ましい。上記範囲であると、基材の表面にわずかな凹凸がある場合でも被膜の表面が平滑になりやすい。また、被膜の凝集破壊が起こりにくいため、被膜強度がより優れたものになる。
【0036】
本発明のトリアジンチオール誘導体の被膜を表面に有する基材は、各種の樹脂、ゴム等の高分子材料との接着性に優れる。
【0037】
樹脂は、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリニトリル樹脂、ポリメタクリレート樹脂、ポリビニル系樹脂、セルロース系樹脂、フッ素系樹脂、イミド系樹脂が挙げられる。
【0038】
ゴムは、特に限定されず、例えば、ジエン系ゴムおよびその水素添加物(例えば、天然ゴム、エポキシ化天然ゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、水素化スチレン−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム(高シスブタジエンゴム、低シスブタジエンゴム)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル−ブタジエンゴム)、オレフィン系ゴム(例えば、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、マレイン酸変性エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマーとの共重合体、アクリルゴム、アイオノマー)、含ハロゲンゴム(例えば、臭素化ブチルゴム、塩素化ブチルゴム、イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体の臭素化物、クロロプレンゴム、ヒドリンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、塩素化ポリエチレン、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン)、シリコーンゴム(例えば、メチルビニルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム)、含イオウゴム(例えば、ポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(例えば、ビニリデンフルオロライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム)、ウレタンゴム、液状ポリイソプレン、液状ポリブタジエン、液状1,2−ポリブタジエン、液状スチレン−ブタジエンゴム、液状ポリクロロプレン、液状シリコーンゴム、液状フッ素ゴム、熱可塑性エラストマー(例えば、スチレン−ブタジエン−スチレンブロックコポリマー、スチレン−イソプレン−スチレンブロックコポリマー、スチレン−エチレンブチレン−スチレンブロックコポリマー等のスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、エステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー)、熱硬化性エラストマー(例えば、ウレタン系エラストマー、シリコーン系エラストマー)が挙げられる。
【0039】
本発明のトリアジンチオール誘導体の被膜を表面に有する基材の用途は、特に限定されないが、金属である基材と、樹脂、ゴム等の高分子材料との接着性に優れることを利用した用途、即ち、金属と高分子材料との複合材料に好適に用いられる。
そのような複合材料としては、例えば、ホース、コンベヤベルト、タイヤ、マリンホース、ゴム支承体が挙げられる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。
1.被膜の形成
(実施例1〜4および比較例1)
0.005mol/Lの6−ジアリルアミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオール(以下「DA」という。)を含有し、かつ、亜硝酸ナトリウム(NaNO2)およびメタホウ酸ナトリウム四水和物(NaBO2・4H2O)の濃度が第1表に示されている濃度である電解液を、20℃のイオン交換水を用いて調製した。
ついで、上記で得られた電解液を用いて、直径1.00mmのスチールワイヤを陽極とし、白金を陰極として電解重合処理を行い、スチールワイヤの表面に被膜を形成させた。電解重合処理は、定電位法により、電位880mVvs.SCEで、被膜厚さが50nmになるまで行った。それに要した電解重合時間を第1表に示す。
その後、電解液から被膜付きスチールワイヤを取り出し、水で洗浄し、更に、メタノールで洗浄した後、ドライヤーで30秒間被膜を乾燥させ、以下の評価に供した。
【0041】
2.被膜の評価
上記で形成された被膜について、以下のようにして、各種の評価を行った。結果を第1表に示す。
(1)重合率
被膜付きスチールワイヤを、20℃のメタノールに24時間浸せきさせ、その後、ドライヤーで30秒間被膜を乾燥させた。浸せき後の被膜部分の質量の値を浸せき前の被膜部分の質量の値で除して、重合率を求めた。重合しなかったDAはメタノールに溶解するため、重合したDAの割合が重合率として算出される。
【0042】
(2)三次元化率
被膜付きスチールワイヤを、20℃のテトラヒドロフラン(THF)に24時間浸せきさせ、その後、ドライヤーで30秒間被膜を乾燥させた。浸せき後の被膜部分の質量の値を浸せき前の被膜部分の質量の値で除して、三次元化率を求めた。三次元化しなかったDAはTHFに溶解するため、三次元化したDAの割合が三次元化率として算出される。
【0043】
(3)被膜密度
得られた被膜の平均密度を、被膜を形成させる前後のスチールワイヤの単位長さあたりの質量の差を、被膜の体積で除して、算出した。被膜の体積は、下記式により算出した。
【0044】
被膜の体積=π(r2−r02)L
【0045】
r:スチールワイヤ中心から被膜表面までの距離
0:スチールワイヤの半径
L:単位長さ
【0046】
(4)平均分子量
被膜の一部を削り取り、GPCにより、被膜を構成するポリマーの平均分子量(ポリスチレン換算)を測定した。
【0047】
(5)接着性
2枚のゴムコンパウンド(NBR系、幅25.4mm、厚さ2.5mm)の間に、直径1.00mmのスチールワイヤを、その長手方向がゴムコンパウンドの長手方向と一致するように、隙間なく並べて挟んで、積層体を作製した。この際、積層体の端部において、1枚のゴムコンパウンドとスチールワイヤとの間にセロハンを挟み込み、加硫時に接着しないようにしておいた。
その後、160℃で20分間保持し、プレス加硫を行い、サンプルを作製した。
得られたサンプルについて、180°はく離試験を行った。180°はく離試験においては、1枚のゴムとスチールワイヤとの間の接着していないサンプルの端部から、はく離させた。
180°はく離試験後のスチールワイヤのゴム付着量により接着性を評価した。
【0048】
(6)3ローラー試験
3個のローラーの間に被膜付きスチールワイヤを通し10往復させる、3ローラー試験を行った。
図1は、3ローラー試験の説明図である。図1に示されるように、3個のローラー10(直径10mm、スチール製)を配置し、被膜付きスチールワイヤ12を通して、スチールワイヤの切断荷重の10%の張力を掛けた状態で、20cmの移動を10往復行った。
試験後の被膜部分の質量の値を試験前の被膜部分の質量の値で除して、残存率を求めた。
また、試験後の被膜付きスチールワイヤを用いて、上記と同様の方法により、接着性を評価した。
【0049】
【表1】

【0050】
第1表から明らかなように、本発明のトリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法により得られた被膜(実施例1〜4)は、ゴムとの接着性に優れるとともに、被膜強度にも優れる。
これに対して、メタホウ酸を含有しない電解液を用いた場合(比較例1)は、被膜強度に劣る。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】3ローラー試験の説明図である。
【符号の説明】
【0052】
10 ローラー
12 被膜付きスチールワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるトリアジンチオール誘導体とメタホウ酸とを含有する電解液中で、導電性物質を陽極として、電解重合処理を行うことにより、前記導電性物質の表面に前記トリアジンチオール誘導体の被膜を形成させる、トリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法。
【化1】

(式中、R1は、酸素原子、硫黄原子および窒素原子を含んでいてもよい1価の不飽和炭化水素基を表す。R2は、水素原子、または、酸素原子、硫黄原子および窒素原子を含んでいてもよい1価の炭化水素基を表す。M1およびM2は、それぞれ独立に、水素原子、アルカリ金属原子またはアルカリ土類金属原子を表す。)
【請求項2】
前記電解液が、更に、亜硝酸ナトリウムを含有する、請求項1に記載のトリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法。
【請求項3】
前記電解液における亜硝酸ナトリウムとメタホウ酸とのモル比が、1/9〜8/2である、請求項2に記載のトリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法。
【請求項4】
トリアジンチオール誘導体の被膜を表面に有する基材であって、
前記被膜が、請求項1〜3のいずれかに記載のトリアジンチオール誘導体の被膜の形成方法により形成された被膜である、基材。

【図1】
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【公開番号】特開2006−241542(P2006−241542A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60082(P2005−60082)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】