説明

トリグリセリドと減圧軽油との混合物を水素化処理することによる直鎖状アルカンの製造方法

含酸素炭化水素化合物の穏やかな水素化転化プロセスが開示される。含酸素炭化水素化合物が、100バール未満の反応圧力において水素化転化触媒物質と接触される。好まれる含酸素炭化水素化合物は、バイオマスの液化によって得られたものである。特定の実施態様では、該プロセスは、トリグリセリド(またはトリグリセリドから誘導された化合物、たとえば遊離脂肪酸)と減圧軽油との混合物の水素化処理によるノルマルアルカンの製造に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穏やかな水素化転化プロセスにおいて、石油から誘導された供給原料と任意的に混合された含酸素化合物、たとえばグリセロール、炭水化物、糖アルコールまたはバイオマス由来の他の含酸素分子、たとえばデンプン、セルロース、およびヘミセルロース由来の化合物から、これらより高い水素対炭素比を有するアルカン、アルコール、オレフィン、および他の成分を製造する方法に関する。
【0002】
特定の実施態様では、本発明は、トリグリセリドと減圧軽油との混合物を水素化処理することによってアルカンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
減少する石油資源は、新興経済国による石油への需要ならびに化石燃料についての政治上および環境上の懸念と相まって、社会が液体燃料の新規な源を探索する原因となっている。この点に関しては、植物バイオマスが有機炭素の現在における唯一の持続可能な源であり、またバイオ燃料、すなわち植物バイオマスから誘導された燃料が液体燃料の現在における唯一の持続可能な源である(非特許文献1および2)。バイオ燃料は化石燃料よりも有意に少ない温室効果ガス排出量を有し、バイオ燃料の製造のための効率的な方法が開発されるならば、温室効果ガスについて中立でさえあることができる(非特許文献3および4)。植物油は、トリグリセリドから成り、バイオ燃料の製造のための最も有望な供給原料のうちの一つである(非特許文献5)。安価なトリグリセリド源、たとえばイエローグリース(レストラン排油)および(排水処理工場で集められる)トラップグリースも、燃料製造のための供給原料として使用されることができる(非特許文献6)。植物油はジーゼルエンジンに直接使用されることができるが、純粋な植物油については多数の不都合点、たとえば高い粘度、低い揮発度、およびエンジンの不具合(たとえば、インジェクターへのコーク付着、炭素の堆積、オイルリングの付着、および潤滑油の増粘)がある(非特許文献7および8)。植物油が標準的なジーゼルエンジンに燃料として使用されることになるならば、植物油は品質改良されなければならないことを、これらの問題は要求する。
【0004】
植物油を品質改良(アップグレーディング)する最も普通の方法は、エステル交換によってアルキル脂肪酸エステル(バイオジーゼル)にすることである。バイオジーゼル生産の経済性は、副生成物であるグリセロールの価格に大きく依存する。バイオジーゼル生産量が増加するにつれて、グリセロールの価格は有意に下落すると予想され、グリセロールの価格はすでに最近数年間にわたってほとんど半分までに下落した(非特許文献9)。グリセロールの価格の低下は、バイオジーゼルの生産価格の上昇を引き起こすだろう。
【0005】
バイオ燃料の生産の他の選択肢は、石油精製所においてバイオマス由来の供給原料を使用することである。石油精製所はすでに建てられており、バイオ燃料の生産のためにこの既存の基礎設備(インフラ)を使用することは、資本コスト投資をほとんど要しないだろう。欧州委員会は、2010年までにEU内の輸送燃料の5.75%をバイオ燃料にする目標を設定した。したがって、石油精製所にバイオマス由来分子を同時に供給することは、石油供給原料へのわれわれの依存を迅速に低減することができるだろう。水素化処理は、石油精製所において使用される普通の方法であり、石油から誘導された供給原料からS、Nおよび金属を除くために主に使用されている(非特許文献10)。
【0006】
1991年にCraigおよびSoverenは、カノーラ油、ヒマワリ油、大豆油、菜種油、パーム油、トール油の脂肪酸画分、およびこれらの化合物の混合物を含む植物油の水素化処理によって、液状パラフィン(主に、ノルマルC15〜C18アルカン)を製造する方法の特許を取得した(特許文献1)。彼らはこの特許において、C15〜C18アルカン量の高いジーゼル燃料の製造用の添加物を開示している。これらのノルマルアルカンは高いセタン価(98超)を有しているのに対して、典型的なジーゼル燃料は約45のセタン価を有している。植物油の水素化処理によって製造されたアルカンはジーゼル燃料と5〜30体積%の範囲で混合されるべきことを、CraigおよびSoveranは提案した。350〜450℃の温度、48〜152バールのH分圧、および0.5〜5.0時−1の液時空間速度(LHSV)において植物油を水素化処理する方法を、彼らは特許請求している。彼らが開示している触媒は、コバルト−モリブデン(Co−Mo)、ニッケルモリブデン(Ni Mo)、または他の遷移金属に基づいた水素化処理触媒を包含する典型的な業務用水素処理触媒である。
【0007】
1998年に、標準的な水素化処理触媒、350〜370℃の温度、40〜150バールのH分圧、および0.5〜5.0時−1のLHSVを使用して、トール油、植物油、動物性脂肪または木材油を水素化処理する、Monnierらによる他の特許が現われた(特許文献2)。トール油は、パインおよびトウヒの木をクラフトパルプ化する際の副生成物であり、経済的価値を有することはほとんどまったくないといえる。トール油は大量の不飽和脂肪酸(30〜60重量%)を含有する。アルカンがトール油の水素化処理から製造され、そして石油ジーゼルと水素化処理されたトール油とのブレンドによって、6台の郵便配達用バンの10月間の路上試験は、エンジン燃料の経済性が大きく改良されることを示した(非特許文献11)。Stumborgらによると、エステル交換よりも水素化処理が勝る利点は、それがより低い処理コスト(エステル交換のそれの50%)、現行の基礎基盤(インフラ)との両立性、エンジン適合性、および供給原料の融通性を有することである(非特許文献11)。
【0008】
典型的な石油精製所では、水素化処理は減圧軽油について行われる。石油精製所における水素化処理の目的は、重質軽油供給原料からイオウ(水素化脱硫、HDS)、窒素(水素化脱窒素、HDN)、金属(水素化脱金属、HDM)、および酸素(水素化脱酸素、HDO)を除くことである。重質軽油供給原料とともに、水素が添加される。水素化処理に使用される典型的な触媒は、硫化されたCoMoおよびNiMoを包含する。典型的な反応条件は300〜450℃の温度、35〜170バールのH分圧、および0.2〜10時−1のLHSVを含む。
【0009】
含酸素炭化水素化合物、たとえばバイオマスの液化において得られたバイオ油、またはバイオジーゼル製造プロセスにおいてトリグリセリドのエステル交換で得られたグリセロールは、通常、有意の量の芳香族、イオウ化合物、または窒素化合物を含有していない。したがって、これらの物質をHDS、HDN、またはHDAプロセスで処理する必要はない。
【0010】
バイオマスの転化の大きい課題は、バイオマスからの酸素の除去および炭化水素生成物の水素含有量を高めることであると、Chenらは報告している。彼らは、式1で定義された有効水素対炭素比(H/Ceff)を定義している。バイオマス由来の含酸素炭化水素化合物のH/Ceff比は、バイオマス由来分子の高い酸素含有量の故に、石油から誘導された供給原料よりも低い。炭水化物、ソルビトールおよびグリセロール(すべてバイオマス由来の化合物)のH/Ceff比は、それぞれ0、1/3および2/3である。石油から誘導された供給原料のH/Ceff比は、(液状アルカンの場合の)2から(ベンゼンの場合の)1までの範囲にある。この点に関して、バイオマスは、石油に基づいた供給原料と比較されると水素欠乏分子とみなされることができる。

この式で、H、C、O、NおよびSは、それぞれ水素、炭素、酸素、窒素およびイオウのモル数である。
【0011】
グリセロールは、現在のところバイオジーゼル生産の価値の高い副生成物であり、該バイオジーゼル生産は、トリグリセリドをエステル交換して対応するメチルまたはエチルエステルにすることを含む。バイオジーゼルの生産が増加するにつれて、グリセロールの価格は有意に下落すると予想される。事実、グリセロールの価格はすでに最近数年間にわたってほとんど半分までに下落した(非特許文献9)。したがって、グリセロールを化学品および燃料に転化するための、費用のかからない方法を開発することが望ましい。
【0012】
酸加水分解、熱分解、および液化によって、固形バイオマスを液状物に転化する方法は周知である[Klass、1998#12]。固形バイオマス、たとえばリグニン、フミン酸、およびコークは上記の反応の副生成物である。広い範囲の生成物、たとえばセルロース、ヘミセルロース、リグニン、多糖、単糖(たとえば、グルコース、キシロース、ガラクトース)、フルフラール、多糖およびリグニン由来のアルコール(クマリル、コニフェリルおよびシナピルアルコール)が上記の反応から生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】Craig,W.K.およびD.W.Soveran、「比較的高いセタン価を有する炭化水素の製造」、1991年、米国特許第4992605号明細書
【特許文献2】Monnier,J.およびG.Tourignyら、「ジーゼル燃料添加物へのバイオマス供給原料の転化」、米国特許第5705722号明細書、カナダ国天然資源省
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Klass,D.L.、「再生可能なエネルギーおよび燃料のためのバイオマス」、2004年、Encyclopedia of Energy、第1巻、C.J.Cleveland編、Elsevier社
【非特許文献2】Wyman,C.E.およびS.R.Deckerら、「セルロースおよびヘミセルロースの加水分解」、2005年、Polysaccharides、S.Dumitriu編、米国、ニューヨーク州、ニューヨーク、Marcel Dekker社
【非特許文献3】Lynd,L.R.およびJ.H.Cushmanら、「セルロース性バイオマスからの燃料エタノール」、1991年、Science、第251巻、1318〜23ページ
【非特許文献4】Wyman、C.E.、「バイオマスからの代替燃料および二酸化炭素の蓄積へのその影響」、1994年、Appl.Biochem.Biotechnol.、第45/46巻、897〜915ページ
【非特許文献5】Huber,G.W.およびS.Iborraら、「バイオマスからの輸送燃料の合成:化学、触媒およびエンジニアリング」(印刷中)、Chemical Reviews
【非特許文献6】Schumacher,L.G.およびJ.V.Gerpenら、「バイオジーゼル燃料」、2004年、Encyclopedia of Energy、C.J.Cleveland編、英国、ロンドン、Elsevier社
【非特許文献7】Ma,F.およびM.A.Hanna、「バイオジーゼルの製造:概説」、1999年、Bioresource Technology、第70巻、1〜15ページ
【非特許文献8】Knothe,G.およびJ.Krahlら、バイオジーゼルハンドブック、2005年、米国、イリノイ州、Champaign、AOCS Press社
【非特許文献9】McCoy,M.、「ありそうもない影響」、2005年、Chem.Eng.News、第83巻、第8号、19〜20ページ
【非特許文献10】Farrauto,R.J.およびC.Bartholomew、「工業的触媒プロセスの紹介」、1997年、英国、ロンドン、Chapman & Hall社
【非特許文献11】Stumborg,M.およびA.Wongら、「ジーゼル燃料の改良のための水素化処理された植物油」、1996年、Bioresource Technology、第56巻、第1号、13〜18ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、含酸素炭化水素化合物のH/Ceff比を改良する方法を提供することである。現行の精製所装置および現行の水素化転化触媒を最大限活用するような方法を提供することが本発明のさらなる目的である。装置コストおよび望ましくない副反応を最小化するように、圧力および温度の穏やかな条件下に実施されることができる方法を提供することが、本発明のさらに他の目的である。
【0016】
本発明の特定の目的は、減圧軽油および植物油を同時処理する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は一般に、含酸素炭化水素化合物を穏やかに水素化転化する方法であって、含酸素炭化水素化合物を含んでいる反応供給原料を、100バール未満の反応圧力において水素化転化触媒物質と接触させる段階を含む方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
特定の実施態様では、本発明は、トリグリセリド(またはトリグリセリドから誘導された化合物、たとえば遊離脂肪酸)と減圧軽油との混合物を水素化処理することによって、ノルマルアルカンを製造する方法に関する。該混合物は減圧軽油99.5〜50重量%であり、該供給原料の残りはトリグリセリド、またはトリグリセリドから誘導された分子、たとえばジグリセリド、モノグリセリドおよび遊離脂肪酸である。該トリグリセリドは、ヒマワリ油、菜種油、大豆油、カノーラ油、廃棄植物油(イエローグリース)、動物性脂肪、またはトラップグリースを包含することができる。遊離脂肪酸とトリグリセリドとの混合物を含有するトール油または他のバイオマス由来油も、水素化処理方法に使用されることができる。使用されることができる触媒は、硫化されたNiMo/Al、CoMo/Alまたは当業者に知られた他の標準的な水素化処理触媒を含む。水素化反応条件は、300〜450℃の温度、35〜200バールの入口H分圧、および0.2〜15時−1のLHSVを含む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】トリグリセリドの転化の反応機構を示す図である。
【図2】植物油−重質軽油供給原料の水素化処理についてのイオウ転化率を表すグラフである。
【図3A】植物油−重質軽油供給原料の水素化処理についての窒素転化率を表すグラフである。
【図3B】植物油−重質軽油供給原料の水素化処理についての窒素転化率を表すグラフである。
【図3C】植物油−重質軽油供給原料の水素化処理についての窒素転化率を表すグラフである。
【図3D】植物油−重質軽油供給原料の水素化処理についての窒素転化率を表すグラフである。
【図3E】植物油−重質軽油供給原料の水素化処理についての窒素転化率を表すグラフである。
【図4F】植物油−重質軽油供給原料の水素化処理についての模擬蒸留の収率を示すグラフである。
【図4A】植物油−重質軽油供給原料の水素化処理についての模擬蒸留の収率を示すグラフである。
【図4C】植物油−重質軽油供給原料の水素化処理についての模擬蒸留の収率を示すグラフである。
【図5E】植物油−重質軽油供給原料の水素化処理についてのノルマルアルカン、CO、CO、およびプロパンの収率を示すグラフである。
【図6】水素化処理温度および減圧軽油中の植物油のパーセンテージの関数としての、250℃〜380℃の模擬蒸留留分中のノルマルC15〜C18アルカンのパーセンテージを示すグラフである。
【図7】植物油−重質軽油供給原料の水素化処理についてのn−C15〜C18アルカンの最大理論収率のパーセンテージを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は一般に、含酸素炭化水素化合物を穏やかに水素化転化する方法であって、含酸素炭化水素化合物を含んでいる反応供給原料を、100バール未満の反応圧力において水素化転化触媒物質と接触させる段階を含む方法に関する。好まれる実施態様では、反応圧力は40バール未満である。
【0021】
本発明は、より具体的にはグリセロール、炭水化物、糖アルコールまたは他のバイオマス由来の含酸素化合物、たとえばデンプン、セルロ−ス由来の化合物およびヘミセルロ−ス由来の化合物を水素化転化する方法に関する。好まれる実施態様では、これらの化合物は、標準的なまたは変更された水素化転化プロセスにおいて石油から誘導された供給原料とともに同時供給される。含酸素化合物の混合物、たとえば熱分解または液化から誘導されたバイオ油中に認められるようなものも、バイオマス由来の含酸素化合物の定義に含まれる。一般に、固形バイオマス物質の液化によって製造された含酸素炭化水素化合物が特に好まれる。特定の実施態様では、含酸素炭化水素化合物は穏やかな水熱転化プロセス、たとえば2006年5月5日に出願された同時係属出願である欧州特許出願第061135646号によって製造され、この開示内容は引用によって本明細書に取り込まれる。他の特定の実施態様では、含酸素炭化水素化合物は穏やかな熱分解プロセス、たとえば2006年5月5日に出願された同時係属出願である欧州特許出願第061135679号によって製造され、この開示内容は引用によって本明細書に取り込まれる。
【0022】
含酸素炭化水素化合物は、たとえばこれらが得られるプロセスの結果物として無機物質と混合されることができる。特に、固形バイオマスは、2006年5月5日に出願された同時係属出願である欧州特許出願第061135810号に記載されたようなプロセスにおいて粒子状無機物質と予め処理されていることができ、この開示内容は引用によって本明細書に取り込まれる。これらの物質はその後、本明細書に上で引用された欧州特許出願第061135646号のプロセスまたは欧州特許出願第061135679号のそれにおいて液化されることができる。得られた液状生成物は含有する。
【0023】
同様に、含酸素炭化水素化合物は、2006年7月14日に出願された同時係属出願である欧州特許出願第06117217.7号に記載されたような、有機繊維を含んでいるバイオマスの液化によって得られたものであることができ、この開示内容は引用によって本明細書に取り込まれる。この場合、含酸素炭化水素化合物は有機繊維を含有していることができる。これらの繊維を反応供給原料中に残しておくことは、これらの繊維は触媒活性を有することができるので、好都合であることができる。たとえば該繊維を金属と接触させることによって、該繊維は触媒担体として使用されることもできる。
【0024】
特定の実施態様では、反応供給原料は原油から誘導された物質、たとえば減圧軽油をさらに含んでいる。原油から誘導された物質は、一般に含酸素炭化水素化合物よりも低度に反応性である。この理由から、連続プロセスを使用し、そして原油から誘導された物質の注入点から下流の点において含酸素化合物を注入して、後者と水素化転化触媒物質とのより短い接触時間を確保することが好まれる。
【0025】
反応供給原料は、いくらかの量の水を含んでいてもよいことが発見された。これは特に好都合である。何故ならば、バイオマス転化プロセスから誘導されたバイオ油およびグリセロールのような供給原料は、水と混合されている傾向があるからである。
【0026】
本発明に従う方法は、固定床において、移動床において、または沸騰床において実施されることができる。沸騰床において本発明に従う方法を実施することが特に好まれる。慣用の水素化処理反応器中で該反応を実施することも可能である。
【0027】
本発明に従う方法は、単一の反応器または複数の反応器において実施されることができる。複数の反応器が使用されるならば、2の反応器で使用される触媒混合物は同じでも異なっていてもよい。2の反応器が使用されるならば、該2の段階の間で中間相分離、ストリッピング、H急冷等のうちの1以上が実施されてもよいしされなくてもよい。
【0028】
本発明に従う方法の好まれる実施態様のプロセス条件は、以下の通りであることができる。すなわち、温度は一般に200〜500℃、好ましくは300〜400℃である。圧力は一般に20〜100バールの範囲、好ましくは40バール未満である。液時空間速度は一般に0.1〜3時−1、好ましくは0.3〜2時−1である。水素と供給原料との比は一般に300〜1,500Nl/l、好ましくは600Nl/l未満である。該方法は液相で実施される。
【0029】
油の精製に使用される任意の慣用の水素化処理または水素化転化触媒が、本発明の方法に使用されるのに適している。好適な例は、元素周期表の第VIB族からの金属および第VIIIB族からの金属を含んでいる二元金属触媒を含む。第VIIIB族の金属は、好ましくは非貴金属の金属である。その例はCo/Mo、Ni/W、Co/W触媒を含む。
【0030】
水素化脱硫については、触媒を予備硫化することが一般に好都合である。予備硫化は、含酸素炭化水素の水素化転化には一般に要求されない。
【0031】
他の方法では、水素化転化触媒物質は塩基性物質を含んでいる。好適な塩基性物質の例は、層状物質、および層状物質を熱処理することによって得られた物質を含む。好ましくは、層状物質はスメクタイト、アニオン性粘土、層状ヒドロキシ塩、およびこれらの混合物から成る群から選択される。ハイドロタルサイト様物質、特にMg−Al、Mg−Fe、およびCa−Alのアニオン性粘土が特に好まれる。原油から誘導された物質、たとえば本発明の方法の特定の実施態様に第一の供給原料として使用されることができるVGOの水素化処理にも、塩基性物質が適していることが驚いたことに発見された。
【0032】
好ましくは、該粒子はW、Mo、Ni、Co、Fe、V、および/またはCeのような金属も含有している。このような金属は、該粒子中に水素化処理機能を導入すること(特にW、Mo、Ni、Co、およびFe)、またはイオウおよび/または窒素含有化学種の除去を促進すること(Zn、Ce、V)ができる。
【0033】
塩基性触媒物質はそのまま使用されることができ、または慣用の水素化処理触媒との付加混合物として使用されることができる。
【0034】
セルロースの実験式は(C10である。化学的には、セルロースはグルコースのポリマーであり、グルコースは実験式C12を有する。セルロースおよびグルコースの双方とも零のH/Ceff比を有する。セルロースをアルカンにまで完全に転化することが望ましいかも知れないけれども、有用な液体燃料を得るためには、セルロースまたはセルロースから誘導された含酸素炭化水素を完全に水素化することは必ずしも必要でない。多くの場合、部分的な水素化で十分であり、水素消費量の観点からすればそれがより望ましい。約0.2だけのH/Ceff比の増加、たとえば(セルロースまたはグルコースの場合に)0から0.2までの、またはグリセロールの場合に0.3から0.5までのH/Ceff比の増加をもたらすならば、水素化転化反応は成功とみなされる。したがって、反応混合物中の水素の、含酸素炭化水素供給原料中の酸素に対するモル比は、好適には0.1〜0.3の範囲にある。
【0035】
特定の実施態様では、本発明は、トリグリセリド(またはトリグリセリドから誘導された化合物、たとえば遊離脂肪酸)と減圧軽油との混合物を水素化処理することによって、ノルマルアルカンを製造する方法に関する。該混合物は減圧軽油99.5〜50.0重量%であり、該供給原料の残りはトリグリセリドまたはトリグリセリドから誘導された分子、たとえばジグリセリド、モノグリセリドおよび遊離脂肪酸である。トリグリセリドはヒマワリ油、菜種油、大豆油、カノーラ油、廃棄植物油(イエローグリース)、動物性脂肪、またはトラップグリースを包含することができる。脂肪酸とトリグリセリドとの混合物を含有するトール油または他のバイオマス由来油も、水素化処理プロセスに使用されることができる。使用されることができる触媒は、硫化されたNiMo/Al、CoMo/Alまたは当業者に知られた他の標準的な水素化処理触媒を包含する。水素化処理反応条件は300〜450℃の温度、35〜200バールの入口H分圧、および0.2〜15時−1のLHSV値を含む。
【0036】
植物油の水素化処理の際に、図1に示されたように植物油のC=C結合が最初に水素化される。水素化された植物油は次に遊離脂肪酸、ジグリセリドおよびモノグリセリドを生成する。低い温度および高い空間速度における操作は、水素化された植物油および水素化された植物油から誘導された生成物からのワックスの生成を引き起こすだろう。これらのワックスは反応器を詰まらせることがある。遊離脂肪酸、ジグリセリド、モノグリセリドおよびトリグリセリドは2の異なった経路を辿ってノルマルアルカンを製造する。第一の経路は脱カルボニルであり、これは液状ノルマルアルカン(C18遊離脂肪酸からであれば、C17液状ノルマルアルカン)、COまたはCO、およびプロパンを製造する。別の経路では、これらの供給原料は脱水/水素化の経路を辿って液状ノルマルアルカン(C18酸からであれば、C18液状ノルマルアルカン)およびプロパンを製造することができる。製造された液状ノルマルアルカンは異性化および分解を行って、より低い価値の、より軽質のおよび異性化されたアルカンを製造する。これらのアルカンは、ジーゼル燃料用途のためにはより低い価値を有する。何故ならば、これらはより低いセタン価を有するからである。異性化反応および分解反応は、本特許明細書に以下に示されるように反応温度および植物油−減圧軽油混合物中の植物油の濃度の関数である。水素化処理反応器から出てくる各画分は、次に蒸留によって分けられることができる。
【0037】
以下の実施例は、主題である発明のより完全な開示をするためにのみ含まれている。したがって、以下の実施例は、本発明の本質を例示する役目をするが、ここに開示され特許請求された本発明の範囲をいかなる様式においても限定するものではない。
【実施例1】
【0038】
本特許明細書に記載された実験は、固定床水素化処理反応器中で実施された。触媒(NiMo/Al、Haldor−Topsoe XXX)が、ステンレス製管型反応器(内径2.54cmおよび長さ65cm)中に充填された。HS/Hの混合物(HSの9体積%)を使用して、大気圧および400℃において9時間、触媒は予備硫化された。これらの実施例の反応条件は以下の通りであった。すなわち、温度300〜450℃、圧力50バール、LHSV4.97時−1、および水素−供給原料比1600Hガスml/液状供給原料ml。入口ガスはH91%であり、残部はArであり、Arは内部標準として使用された。
【0039】
減圧軽油(VGO)は、Huelva精製所(CEPSAグループ)から得られた。該VGO供給原料は88重量%の炭素含有量を有していた。炭素収率は、各生成物中の炭素のモル数を供給原料中の炭素のモル数で割ったものとして定義される。ヒマワリ油(Califourブランド)が、減圧軽油との混合のために購入された。
【0040】
3の検出器、すなわち15mのモレキュラーシーブカラム中で分離されたHおよびNの測定のための熱伝導度検出器(TCD)、および30mのPlot(多孔質オープンチューブ)/Alカラム中で分離されたC〜C炭化水素のための水素炎イオン化検出器(FID)を備えたVarian 3800−GCを使用して、反応ガスは分析された。PIONAの手順に従って、FID検出器に接続されたPetrocol−100溶融シリカカラムを備えたVarian 3900−GCクロマトグラフを用いて、液状物サンプルはノルマルアルカン含有量について分析された。さらに、ASTM−2887−D86手順に従ってVarian 3800GCクロマトグラフを使用して、減圧軽油(VGO)を分解したサンプルの模擬蒸留が実施された。原供給原料および液状生成物中のイオウおよび窒素の濃度が、Fisons 1108 CHNS−O計器における元素分析によって測定された。
【0041】
以下の供給原料、すなわちHVO(重質減圧軽油) 100重量%、HVO 95重量%−ヒマワリ油5重量%、HVO 85重量%−ヒマワリ油15重量%、HVO 70重量%−ヒマワリ油30重量%、およびHVO 50重量%−ヒマワリ油50重量%を含む供給原料が水素化処理された。水素化脱硫および水素化脱窒素の結果が、それぞれ図2および3に示されている。これらの図からわかるように、植物油を混合しても、水素化処理プロセスがHVO供給原料からイオウまたは窒素を除く能力は減少しない。
【0042】
図4は、種々の供給原料の水素化処理についての模擬蒸留の結果を示す。図5は、種々の供給原料の水素化処理についての顕著なアルカン、COおよびCOの収率を示す。ヒマワリ油の濃度が増加するにつれ、ガス収率は増加する(図4A)。これは、図5に示されるようにトリグリセリドの水素化処理の間に、プロパン、COおよびCOが生成される故である。ヒマワリ油濃度の増加および温度の増加のどちらとともにも、380〜520℃および520〜1000℃画分の収率は減少する。ヒマワリ油濃度が増加するにつれ、250〜380℃画分(主としてジーゼル燃料)の収率は増加する。この画分はnC15〜nC18生成物を含有し、これらはヒマワリ油から生成される。図5Eに示されたnC15〜nC18収率は、ヒマワリ油の濃度の増加とともに増加する。30重量%および50重量%のヒマワリ油を含有する供給原料の場合、反応温度が350℃より上に上がると、nC15〜nC18収率は減少する。これは、65〜150℃収率、150〜250℃収率およびnC〜nC12収率の増加によって示されるように、より高い温度においてnC15〜nC18はより軽質の生成物に分解される故である。
【0043】
図6は、ジーゼル燃料画分(250〜380℃)中のnC15〜nC18の割合を示す。供給原料中のヒマワリ油濃度が増加するにつれて、この割合は増加する。30重量%および50重量%のヒマワリ油供給原料の場合、温度が350℃から450℃まで上がるにつれて、該割合は減少もする。
【0044】
図7に本発明者らは、種々のHVO−ヒマワリ油混合物についての最大nC15〜nC18収率の達成率(パーセンテージ)を示す。最大nC15〜nC18収率の達成率(PMCY)は、nC15〜nC18収率からHVOからのnC15〜nC18収率を引いたものを、トリグリセリド中に存在するすべての脂肪酸がnC15〜nC18に転化されたと仮定した場合の最大nC15〜nC18収率で割ったものとして定義される。図7に示されたように5重量%ヒマワリ油供給原料の場合、温度が増加するにつれてPMCYは増加し、この供給原料についてのPMCYは350〜450℃の温度において65〜70%である。15重量%ヒマワリ油供給原料の場合、温度が300から350℃まで上がると、PMCYは9から83%まで増加し、温度がさらに450℃まで上がるとPMCYは40%まで下がる。30重量%ヒマワリ油供給原料の場合、温度が350℃から400℃までそして450℃まで上がると、PMCYは85%から56%までそして26%まで減少する。50重量%ヒマワリ油供給原料の場合、温度が350℃から450℃まで上がると、PMCYは70%から26%まで減少する。したがって、nC15〜nC18の最適収率を得るためには、最適温度および最適植物油濃度の双方が存在する。
【0045】
このようにして、上で検討された特定の実施態様を参照して、本発明は記載されてきた。これらの実施態様は、当業者に周知の各種の変形を受けやすくおよび代替形にされやすいことは理解されるだろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
含酸素炭化水素化合物を穏やかに水素化転化する方法であって、含酸素炭化水素化合物を含んでいる反応供給原料を、100バール未満の反応圧力において水素化転化触媒物質と接触させる段階を含む方法。
【請求項2】
反応圧力が、40バール未満である、請求項1に従う方法。
【請求項3】
含酸素炭化水素化合物が、バイオマス物質から誘導されたものである、請求項1または2に従う方法。
【請求項4】
反応供給原料が、水をさらに含んでいる、請求項1〜3のいずれか1項に従う方法。
【請求項5】
反応供給原料が、原油から誘導された物質をさらに含んでいる、請求項1〜4のいずれか1項に従う方法。
【請求項6】
原油から誘導された物質が、減圧軽油を含む、請求項5に従う方法。
【請求項7】
含酸素炭化水素化合物が、多糖、オリゴ糖、糖、多価アルコール、オリゴ価アルコール、一価アルコール、カルボン酸、およびこれらの混合物から成る群から選択された物質を含んでいる、請求項1〜6のいずれか1項に従う方法。
【請求項8】
含酸素炭化水素化合物が、グリセロールを含んでいる、請求項1〜7のいずれか1項に従う方法。
【請求項9】
水素化処理装置において実施される、請求項1〜8のいずれか1項に従う方法。
【請求項10】
水素化処理が、原油由来の第一の供給原料および含酸素炭化水素化合物を含んでいる第二の供給原料を用いて実施され、該第一の供給原料が第一の点において水素化処理装置中に入れられる、そして該第二の供給原料が該第一の点とは別個の第二の点において水素化処理装置中に入れられる、請求項9に従う方法。
【請求項11】
第二の点が、第一の点から上流にある、請求項10に従う方法。
【請求項12】
第二の点が、第一の点から下流にある、請求項10に従う方法。
【請求項13】
第一の供給原料が、減圧軽油を含む、請求項10〜12のいずれか1項に従う方法。
【請求項14】
第二の供給原料が、グリセロールを含む、請求項10〜12のいずれか1項に従う方法。
【請求項15】
第二の供給原料が、水をさらに含んでいる、請求項10〜14のいずれか1項に従う方法。
【請求項16】
第二の供給原料が、バイオジーゼル油エステル交換プロセスにおいて製造されたグリセロール/水混合物を含む、請求項10〜15のいずれか1項に従う方法。
【請求項17】
触媒が、塩基性物質を含んでいる、請求項10〜16のいずれか1項に従う方法。
【請求項18】
塩基性物質が、層状物質、または層状物質の熱処理された形のものである、請求項17に従う方法。
【請求項19】
層状物質が、スメクタイト、アニオン性粘土、層状ヒドロキシ塩、およびこれらの混合物から成る群から選択される、請求項18に従う方法。
【請求項20】
層状物質が、Mg−Al、Mg−FeまたはCa−Alのアニオン性粘土である、請求項18または19に従う方法。
【請求項21】
触媒物質が、慣用の水素化処理触媒をさらに含んでいる、請求項17〜20のいずれか1項に従う方法。
【請求項22】
含酸素炭化水素が、固形バイオマスの液化によって製造されたものである、請求項1〜21のいずれか1項に従う方法。
【請求項23】
含酸素炭化水素が、穏やかな条件下の固形バイオマスの液化によって製造されたものである、請求項1〜22のいずれか1項に従う方法。
【請求項24】
反応供給原料が、無機物質を含有している、請求項1〜23のいずれか1項に従う方法。
【請求項25】
反応供給原料が、有機繊維を含有している、請求項1〜24のいずれか1項に従う方法。
【請求項26】
無機物質が、触媒または触媒担体として機能している、請求項24に従う方法。
【請求項27】
有機繊維が、触媒または触媒担体として機能している、請求項25に従う方法。
【請求項28】
有機繊維が、金属と接触している、請求項25または27に従う方法。
【請求項29】
15〜C22アルカンの製造に使用され、水素化処理触媒の存在において300〜450℃の範囲の温度および35〜200バールの反応器入口H分圧で、脂肪酸化合物0.1〜50.0重量%と減圧軽油99.5〜50重量%とを含んでいる混合物を水素化処理する段階を含む、請求項6に従う方法。
【請求項30】
水素化処理段階の液時空間速度が、0.2〜15時−1の範囲にある、請求項29に従う方法。
【請求項31】
脂肪酸化合物がトリグリセリドを含む、請求項29または30に従う方法。
【請求項32】
トリグリセリドが、ヒマワリ油、菜種油、カノーラ油、大豆油、廃棄植物油、ブラウングリース、動物性脂肪、ならびにこれらの誘導体および混合物から成る群から選択される、請求項31に従う方法。
【請求項33】
トリグリセリドがヒマワリ油を含む、請求項32に従う方法。
【請求項34】
水素化処理触媒が、Mo、W、またはこれらの混合物を含む、請求項29〜33のいずれか1項に従う方法。
【請求項35】
触媒が、Ni、Co、またはこれらの混合物を含む、請求項29〜34のいずれか1項に従う方法。
【請求項36】
触媒が、硫化された形のものである、請求項29〜35のいずれか1項に従う方法。
【請求項37】
触媒が、Ni/Mo触媒またはCo/Mo触媒である、請求項29〜36のいずれか1項に従う方法。
【請求項38】
触媒が、アルミナ担持の硫化されたNi/Mo、またはアルミナ担持の硫化されたCo/Moである、請求項29〜37のいずれか1項に従う方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図4A】
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【図4C】
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【図4F】
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【図5E】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−500465(P2010−500465A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524193(P2009−524193)
【出願日】平成19年8月15日(2007.8.15)
【国際出願番号】PCT/EP2007/058468
【国際公開番号】WO2008/020048
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(508328877)バイオイーコン インターナショナル ホールディング エヌ.ブイ. (11)
【Fターム(参考)】