説明

トリグリセリドの製造方法

トリグリセリドの製造方法は以下のステップを含む:(a) グリセリド中の全アシル基を基準にして、少なくとも40モル%のオレイン酸残基を含む第一のトリグリセリドを、ステアリン酸、ステアリン酸の少なくとも一種のエステル、又はそれらの混合物との反応にかけて、1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリドとトリオレオイルグリセリドとを含む組成物を得るステップ;(b) 前記組成物を処理して、前記組成物と比較して増大した量(質量で)のオレオイル基を有する第一の画分と、前記組成物と比較して増大した量(質量で)のステアロイル基を有する第二の画分とを形成するステップ;(c) 前記第一の画分を加水分解してオレイン酸を形成するステップ;及び(d) 前記オレイン酸又はそのエステルを、全アシル基を基準にして少なくとも50モル%のパルミチン酸残基を含むトリグリセリドと反応させて、1,3-ジオレイル2-パルミトイルグリセリドを含む組成物を形成するステップ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトリグリセリドを製造する方法に関する。特に、本発明は、1,3-ジオレオイル2-パルミトイルグリセリド(OPO)及び/又は1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリド(StOSt)を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トリグリセリドは多くの製品、特に食品製品の重要な成分である。トリグリセリド、1,3-ジオレオイル-2-パルミトイルグリセリドは人乳脂肪の重要なグリセリド成分である。
【0003】
人乳脂肪中に存在する主要脂肪酸を類似した量で含む脂肪組成物は、植物起源のオイル及び脂肪から誘導されうる。しかし、自然源から誘導されたミルク代替脂肪の組成と人乳脂肪の組成との間には大きな違いが残っている。この違いは、植物起源の多くのグリセリドは、2位が不飽和であることによって生じる。対照的に、多量のパルミチン酸が、人乳脂肪中のグリセリドの2位を占めている。
【0004】
グリセリドの位置に沿った酸の分布の違いは、重要な栄養上の結果をもたらすと考えられる。栄養上重要ないくつかの乳脂肪のトリグリセリド中の脂肪酸の分布は、Freemanら(J. Dairy Sci., 1965, p. 853)によって研究された。Freemanらは人乳脂肪が、反芻動物の乳脂肪よりも、多い割合の2位のパルミチン酸と多量の1、3位のステアリン酸及びオレイン酸を含んでいることを報告した。乳児によるトリグリセリドの2位のパルミチン酸のより大きな吸収は、Filerら(J. Nutrition, 99, pp. 293-298)によって報告されており、Filerらは、人乳脂肪と比較して、乳児によるバター脂肪の比較的低い吸収は、その脂肪のグリセリド位置間におけるパルミチン酸の実質的に均一な分布に起因することを示唆している。
【0005】
自然源から得られるトリグリセリド脂肪又はオイルの化学的及び/又は物理的特性を人乳脂肪のそれにもっと近づけて合わせるためには、グリセリド位置上の脂肪酸残基の分布を制御する必要がある。
【0006】
欧州特許出願公開第0209327号は、トリグリセリドである1,3-ジオレオイル-2-パルミトイルグリセリドを含むミルク代替脂肪組成物を開示している。欧州特許出願公開第0209327号によれば、これらの脂肪組成物は、より飽和された2-パルミトイルグリセリドから実質的になるグリセリドを含む脂肪混合物に、転位触媒、例えばリパーゼ(これはグリセリドの1位及び3位における活性が位置特異的である)の作用を受けさせることによって得ることができる。この種の酵素過程も英国特許第1577933号明細書に記載されている。触媒の影響下で、不飽和のフリーの脂肪酸又はそれらのアルキルエステルとの交換によって2-パルミトイルグリセリドの1位及び3位に不飽和脂肪酸残基が導入されうる。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0209327号公報
【特許文献2】英国特許第1577933号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トリグリセリド、例えば1,3-ジオレオイル-2-パルミトイルグリセリド(OPO)及び1,3-ジステアロイル2-オレイルグリセリド(StOSt)のより効率的及び/又は費用効果の高い製造法を提供する必要性が依然として残っている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方法は、一つの側面では、トリグリセリドの製造方法を提供し、その方法は以下のステップ:
(a) トリグリセリド中の全アシル基を基準にして、少なくとも40モル%のオレイン酸残基を含む第一のトリグリセリドを、ステアリン酸、ステアリン酸の少なくとも一種のエステル、又はそれらの混合物と反応させて、1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリドとトリオレオイルグリセリドを含む組成物を得るステップ;
(b) 前記組成物を処理して前記組成物と比較して増大した量(質量で)のオレオイル基を有する第一の画分と、前記組成物と比較して増大した量(質量で)のステアロイル基を有する第二の画分とを形成するステップ;
(c) 前記第一の画分を加水分解してオレイン酸を生成させるステップ;及び
(d) 前記オレイン酸又はそのエステルを、全アシル基を基準にして少なくとも50モル%のパルミチン酸残基を含むトリグリセリドと反応させて、1,3-ジオレオイル2-パルミトイルグリセリドを含む組成物を生成させるステップ、
を含む。
【0009】
別の側面では、本発明は、1,3-ジオレオイル2-パルミトイルグリセリドを含む組成物の製造のためのオレイン酸又はそのエステルの使用を提供し、そこではオレイン酸とそのエステルは、トリグリセリド中の全アシル基を基準にして少なくとも40モル%のオレイン酸残基を含むトリグリセリドを、ステアリン酸、ステアリン酸の少なくとも一種のエステル、又はそれらの混合物と反応させて、1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリドとトリオレオイルグリセリドを含む組成物を得るステップを含み、かつ任意選択でトリオレオイルグリセリドを加水分解するステップを含んでもよい方法によって形成される。
【0010】
なお別の側面では、本発明は1,3-ジオレオイル2-パルミトイルグリセリドと1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリドの両方を製造するための方法におけるトリグリセリドの使用を提供する。
【0011】
「ステアリン」の用語には、本明細書で用いるように、少なくとも10%の低融点成分が、何らかの種類の分画、例えば、乾式分画、Lanza分画、又は溶媒分画によって除去されたトリグリセリド混合物又は脂肪ブレンドが含まれる。
【0012】
本明細書で用いる、脂肪酸、脂肪アシル基の用語、及び関連する用語は、4〜24の炭素原子、好ましくは12〜22の炭素原子を有する飽和又は不飽和の直鎖カルボン酸をいう。不飽和酸は、1つ、2つ、又はそれより多くの二重結合、好ましくは1つ又は2つの二重結合を含みうる。
【0013】
アルキルの用語は、本明細書で用いるように、1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝した飽和炭化水素をいう。
【0014】
本発明のステップ(a)で用いる第一のトリグリセリドは、高オレインヒマワリ油(HOSF)又はその画分であることが好ましい。画分は、生成物の組成を変える分画、例えば溶媒もしくは乾式分画によってHOSFから得られる生成物を包含する。高オレインヒマワリ油又はその画分は、トリグリセリド中の全アシル基を基準にして、少なくとも40モル%、好ましくは少なくとも50モル%、例えば少なくとも60モル%、及び最も好ましくは少なくとも70モル%のオレイン酸残基を有する。高オレインヒマワリ油は、典型的には、ヒマワリの種子に含まれる油から得られる。
【0015】
上記の第一のトリグリセリドをステアリン酸、又はステアリン酸のエステル、又はそれらの混合物と、本発明の方法のステップ(a)で反応させる前に、第一のトリグリセリドは当分野で公知の標準手法を用いて、任意選択により精錬及び/又は精製してもよい。
【0016】
本発明の方法のステップ(a)及び/又は(d)は、酵素、より好ましくはリパーゼの存在下で行うことが好ましい。
【0017】
ステップ(a)は、典型的には、生体触媒として1,3特異的リパーゼの存在下で行われる。ステップ(a)の間、第一のグリセリドの2位の脂肪酸は、典型的には本方法の間に変化しない(例えば、2位の脂肪アシル基の数(モル数)で10%未満、より好ましくは5%未満、例えば1%未満)。
【0018】
ステップ(a)の間に、飽和のステアロイル脂肪酸残基が、第一のグリセリドの1位及び3位に導入される。この反応は、第一のトリグリセリドと、ステアリン酸、ステアリン酸の少なくとも一種のエステル、ステアリン酸とステアリン酸の一種以上のエステルとの混合物、又はステアリン酸の二種以上のエステルの混合物との間で行う。好ましいステアリン酸エステルは、グリセリド(モノ、ジ、及びトリグリセリドを含む)、及び1〜6の炭素原子を有するアルコールとのアルキルエステルである。
【0019】
ステップ(a)での反応を行い、第一のグリセリドを基準にして、最低50モル%、好ましくは少なくとも60モル%、最も好ましくは少なくとも70モル%の1,3-ジステアロイル2-オレイルグリセリドへの変換率で平衡に達するか又は平衡に近づく。
【0020】
ステップ(a)の生成物は、典型的には、1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリド、トリオレイン(すなわち、トリオレオイルグリセリド)、1,2-ジオレオイル3-ステアロイルグリセリド、及び、方法の選択性に応じておそらく1,2-ジステアロイル3-オレオイルグリセリドをも含む混合物を含有する。
【0021】
ステップ(a)で得られる組成物は、第一の画分中の少なくとも一部の、好ましくは少なくとも70質量%、より好ましくは少なくとも80質量%、例えば少なくとも90%質量%、最も好ましくは95質量%の1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリドを、第二の画分から分離するためにステップ(b)で処理する。第二の画分は、ステップ(a)で製造された全トリオレオイルグリセリドの少なくとも70質量%を含むことが好ましい。
【0022】
本発明の方法のステップ(b)で得られる第一及び第二の画分は、従来法によって、ステップ(a)で製造された組成物から分離できる。この分離は、(a)で得られた組成物の分画、例えばステップ(a)で得られた組成物の溶媒(湿式)分画、Lanza分画、又は乾式分画、例えば、多段向流乾式分画によって達成できる。例えば、第一及び第二の画分は、有機溶媒(例えば、C〜C10ケトン、例えばアセトン)又は界面活性剤を含む水性媒体を用いた湿式分画を含めた方法によって調製されうる。
【0023】
ステップ(b)では、ステップ(a)で得られた組成物と比較しての、第一の画分中のオレオイル(オレイン酸とオレオイルを含めた)基の質量での増加量は、(a)で得られた組成物中のオレオイル(オレイン酸及びオレオイルを含めた)基の質量を基準にして、存在するオレオイル(オレイン酸及びオレオイルを含めた)基の好ましくは10質量%より多く、より好ましくは20質量%より多く、例えば30質量%より多く、最も好ましくは40質量%より多い。
【0024】
ステップ(a)で得られた組成物と比較した、第二の画分中のステアロイル(ステアリン酸とステアロイルを含めた)基の質量での増加量は、(b)で得られる組成物中のステアロイル(ステアリン酸とステアロイルを含めた)基の質量を基準にして、存在するステアロイル(ステアリン酸とステアロイルを含めた)基の10質量%より多く、より好ましくは20質量%より多く、例えば30質量%より多く、特に好ましくは40質量%より多い。
【0025】
本発明の方法に従ってステップ(b)で得られた第二の画分は、第二の画分が1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリドについて濃縮されるように処理されることが好ましい。
【0026】
本発明は、ステップ(b)で第二の画分として得られた1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリドを精製するさらなるステップを含むことができる。1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリド(StOStとしても知られる)は、有用な商品である。例えば、それは単独で、又はその他のグリセリド、例えば、1,3-ジパルミトイル2-オレオイルグリセリドとともに、カカオバター同等物又は代替物として用いることができる。
【0027】
本発明の方法のステップ(c)における上記第一の画分の加水分解は、当分野で公知の、脂肪又は油の加水分解に用いられる任意の方法、例えば、(アルカリを用いた)鹸化もしくは酸加水分解により、又は酵素加水分解により、例えば第一の画分をリパーゼと接触させることにより、行うことができる。リパーゼは、オレイン酸以外の脂肪酸残基に優先してオレイン酸残基を選択的に加水分解する可能性も、しない可能性もある。
【0028】
ステップ(c)の加水分解反応においては、オレオイル残基は、対応するフリー脂肪酸、オレイン酸、又はその塩類(例えば、ナトリウム又はカリウム塩;アニオンの同一性は加水分解に用いる試薬に左右される)に加水分解される。
【0029】
ステップ(c)での加水分解に続いて、オレイン酸は任意選択で、例えば、少なくとも50質量%、より好ましくは少なくとも60質量%、例えば少なくとも70質量%、少なくとも80質量%、少なくとも90質量%、又は少なくとも95質量%の純度に精製してもよい。
【0030】
それに変えて又はそれに加えて、オレイン酸は、本方法のステップ(d)での反応の前に、エステルに変換することもできる。例えば、オレイン酸は(モノ、ジ、及びトリグリセリドを含めた)グリセリド、又はアルキルエステル(例えば、C〜Cアルキルエステル)に変換してもよい。本方法のステップ(d)で用いるオレイン酸は、フリーのオレイン酸のみ、単一のエステル、フリーのオレイン酸と一種以上のオレイン酸エステル、又はオレイン酸の二種以上のエステルの混合物であることができる。
【0031】
ステップ(c)のオレイン酸は、任意選択でさらなる精製及び/又は一種以上のエステルへの変換の後で、ステップ(d)においてトリグリセリドと反応させて1,3-ジオレオイル2-パルミトイルグリセリドを含む組成物を形成させる。
【0032】
本発明の代替の態様では、加水分解ステップ(c)は省略でき、第一の画分をステップ(d)で直接用いることができる。
【0033】
本発明の方法のステップ(d)で別の出発物質として用いられるトリグリセリドは、全アシル基を基準にして、少なくとも50モル%、好ましくは少なくとも60モル%、最も好ましくは少なくとも70モル%のパルミチン酸残基を含むことが好ましい。好ましくは、ステップ(d)で用いられるトリグリセリドは、グリセロール骨格の2位にパルミチン酸を含むグリセリドを含有し、これはパーム油の高融点画分から得ることができる。パーム油は、トリパルミチンを含めたトリ飽和酸グリセリドを最大12%まで含む。一般に、トップ画分は、4質量部のトリパルミチンと1質量部の対称ジ飽和トリグリセリドを含む。パーム油の高融点画分を好ましくは分画してパーム油ストレインを得て、これは好ましくは飽和2-パルミトイルグリセリドを、典型的には60質量%より多い量、例えば、70質量%より多い量、又は75質量%より多い量で含んでいる。パーム油の分画は、パーム油の溶媒(湿式)分画、Lanza分画、又は乾式分画、例えば、多段向流乾式分画などによって行うことができる。パーム油は粗製パーム油、精製パーム油、パーム油の画分、又はそれらの混合物であることができる。好ましくは、パーム油は、有機溶媒(例えば、C〜C10ケトン、例えばアセトン)又は界面活性剤含有水性媒体を用いる湿式分画にかけられる。パーム油ストレインは典型的には精製され、これは好ましくは漂白及び脱臭を含む。パーム油ストレインの漂白は、高温、好ましくは100℃より上、例えば110℃で行うことが好ましい。脱臭ステップでは、揮発性不純物が、200℃より高い温度でパーム油ストレインから除去されて、脱臭されたパーム油ストレインが得られる。脱臭ステップで除去された不純物は、通常は、フリーの脂肪酸、アルデヒド、ケトン、アルコール、及びその他の炭化水素不純物を含む。漂白と脱臭は、当分野で公知の標準条件下で行われ、単一工程又は二以上の工程で実施しうる。例えば、本ステップは減圧下(例えば、10mmHg以下)で実施することができ、そこではパーム油ストレインは、不純物の蒸発を助けるためのスチームと接触させられるか、又はそれに代えて、脱臭ステップは高温かつ例えば10mmHg以下の圧力で行うこともできる。
【0034】
本発明の方法のステップ(d)は、酵素の存在下、好ましくは1,3特異的リパーゼの存在下で行うことが好ましい。第二のグリセリドとオレイン酸画分との反応時に、第二のグリセリドの2位の脂肪酸は、典型的には変化しない(例えば、2位の脂肪アシル基の数で(すなわちモル数で)10%未満、より好ましくは5%未満、例えば1%未満しか本方法の間に変化しない)。
【0035】
ステップ(d)で、1,3リパーゼの影響下で、オレオイル残基は、トリグリセリドの1位及び3位に、トリグリセリドの脂肪酸残基との交換によって導入される。交換は、オレイン酸又はそのエステルとグリセリドとの間で起こることが好ましい。この方法で変性された2-パルミトイルグリセリドは、反応混合物から分離できる。
【0036】
本発明の方法のステップ(d)おける反応は、2位よりもむしろ1,3位でパルミチン酸をオレイン酸で選択的に交換する。このエステル交換反応が行われて、トリグリセリドを基準にして、最小で50%、好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは少なくとも70%の、1,3-ジオレイル2-パルミトイルグリセリドに対する転化率で、平衡に達するか又は平衡に近づく。
【0037】
好ましくは、ステップ(d)において、トリグリセリドとしてのパーム油ステアリンは、例えば、オレイン酸濃縮物(これは、65質量%より高い、好ましくは70質量%より高い、最も好ましくは75質量%より高い濃度でフリーのオレイン酸を含む)と混合される。パーム油ステアリンとオレイン酸濃縮物との比は、好ましくは、質量基準で、0.1:1〜2:1、より好ましくは0.4:1〜1.2:1、なおさらに好ましくは0.4:1〜1:1、最も好ましくは1:1.1〜1:2である。反応は、30℃〜90℃、好ましくは50℃〜80℃、例えば、約60℃〜70℃の温度で行うことが好ましく、水と混和性の有機溶媒を用いるか又は用いずに、回分法又は連続法で実施できる。
【0038】
上記反応の前に、用いる生体触媒システムの種類に応じて、水分を0.05〜0.55、好ましくは0.1〜0.5の水分活性に調節することが好ましい。この反応は、例えば、60℃にて、撹拌タンク中又は充填床反応器中で、リパーゼD(以前はリゾパス・デレマール(Rhizopus delemar)として分類されていたリゾパス・オリザエ(Rhizopus oryzae)、Amano Enzyme社(日本)から)の濃縮物又はリゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)の固定化濃縮物(Nobozymes(デンマーク)からのLipozyme RM IM)に基づいた生体触媒の上で行うことができる。
【0039】
ステップ(d)で用いる反応条件と同様の反応条件をステップ(a)で用いることができる。
【0040】
ステップ(d)で得た1,3-ジオレオイル2-パルミトイルグリセリドは、それを精製するさらなるステップにかけることが好ましい。生成物のトリグリセリド画分から脂肪酸と脂肪酸エステルを分離するために、ステップ(d)で得た組成物(任意選択で、さらなる処理、例えば脂肪相の分離、の後で)を低圧(<10mbar)且つ高温(>200℃)で蒸留することができる。
【0041】
ステップ(d)で得られた組成物の蒸留後、トリグリセリド画分はOPOグリセリドを回収するために分画することが好ましい。これは、溶媒分画又は乾式分画を用い、単一、2段階、又は多段階分画法を用いて行うことができるが、一段階乾式分画を用いて行うことが好ましい。分画は、変換されていないトリパルミチンが15質量%未満、好ましくは10質量%未満、最も好ましくは6質量%未満の量に低下するまで、変換されていないトリパルミチンを除去することが好ましい。OPO画分は、全ての残存する脂肪酸と不純物を除去して、精製されたOPO画分を製造するために、典型的には完全に精製される。
【0042】
本発明は1,3-ジオレオイル2-パルミトイルグリセリドをさらに精製する1つ以上の追加のステップを含むことができる。
【0043】
本方法は(a)〜(d)の前、その間、又はその後にさらなるステップを含んでもよく、例えば、生成物の所望する成分についての部分的な精製又は濃縮などである。
【0044】
本発明の方法によって製造されるOPOグリセリドを含む組成物は、少なくとも50質量%、より好ましくは少なくとも60質量%の量でOPOグリセリドを含みうる。残りは、その他の非OPOトリグリセリドを含む。本組成物はトリグリセリドの混合物を含み、そこでは不飽和脂肪酸残基を含めた様々な脂肪酸残基が、1位及び3位の間でランダムに分配され、2位の脂肪酸残基の少なくとも半分がC16及び/又はC18の飽和の好ましくは実質的にパルミチン酸残基からなり、特に全部の2位の脂肪酸の60〜90質量%である。好ましくは、本組成物のグリセリド中の脂肪酸残基の全て又は実質的に全て(例えば99質量%より多く)が偶数炭素のものであることが好ましい。1位及び3位の不飽和脂肪酸残基は、ほとんどがオレイン酸、リノール酸、及びパルミチン酸からなることが好ましい。本組成物は、1位及び3位を合わせたなかの飽和脂肪酸と少なくとも同じくらいの量(モル基準で)の2位の飽和脂肪酸を含むことが好ましく、さらに好ましくは(モル基準で)最大2倍まで含むことが好ましい。1,3-位は、不飽和C18及び飽和C4〜C14脂肪酸の両方を含むことが好ましい。これらの脂肪酸の割合及び種類は、必要とする組成物の食品及び物性としての必要性にしたがって定めることができる。例えば、ミルク代替脂肪は液体状食餌中で血温で乳化することができるべきであり、したがって、好ましくはこの温度(37℃)で溶融可能であるべきである。脂肪の融点はその脂肪酸組成によって定まり、したがって選択可能である。正しい脂肪酸組成を有する脂肪が、したがって、特定の所望する物理特性をもつ脂肪組成物を製造する目的で、本発明での使用のために選択できる。
【0045】
本発明によって製造される最も好ましい組成物は、sn−2位置に存在する少なくとも50質量%のパルミチン酸を含むOPOグリセリド、8質量%未満のSSS(Sは少なくとも18の炭素原子、好ましくは18の炭素原子を有する飽和脂肪酸を表す)、及び1位及び3位に存在する少なくとも40質量%のオレイン酸残基を含む組成物である。
【0046】
本発明の方法によって得られる組成物は、好ましくは、10質量%未満の1,2,3-トリ飽和グリセリド、好ましくは8質量%未満の1,2,3-トリ飽和グリセリドしか含まない。
【0047】
本発明の方法は、OPO画分をその他の脂肪及び/又は油、好ましくは少なくとも一種の植物油とブレンドして脂肪ブレンド物を形成するさらなるステップを含んでいてもよい。適した脂肪は、40質量%以下の中鎖トリグリセリド;30質量%以下のラウリン脂肪;50質量%以下のその他の植物油;又は40質量%以下のバター脂肪;又はそれら脂肪の画分もしくは混合物、を含む脂肪である。特に、ラウリン脂肪、好ましくはパーム核油が、本組成物に含まれて、ミルク脂肪の組成又はその溶融特性に適合するブレンド物を提供し、及び/又は植物油、例えば、ヒマワリ油、高オレインヒマワリ油、パーム核油、なたね油、高オレインサフラワー油、ココナツ油、及び大豆油(これらはポリ不飽和脂肪酸グリセリドの高い含有量を有し、本組成物の食餌としての利点を高める)を含みうる。このように、本発明の方法によって製造される組成物は、ミルク脂肪の組成又はその溶融特性に一致したブレンド物を好ましくは提供する。最良の組成物は、非安定化脂肪についてのNMRパルスにより測定された固体含有量指数が、以下の範囲内である:N0=35〜55; N10=25〜50、及びN30</=10。これらの値は、脂肪を80℃で溶かし、その脂肪を60℃以上に少なくとも10分間保持し、0℃に冷却し、脂肪を0℃で16時間保持し、脂肪を測定温度Nに加熱し、N値を測定する前30分間、脂肪をその温度で保持することによって得た。
【0048】
本発明の方法によって製造される脂肪組成物又は脂肪ブレンド物は、乳児食配合物中の脂肪の少なくとも一部を置き換えるために適している。したがって、本発明はまた、脂肪、タンパク質、及び炭水化物成分を、概略の相対質量比2.5:1:5で含む幼児食組成物の製造方法も提供し、そのような配合物中に通常用いる脂肪の少なくとも一部が、本発明に従って作られた脂肪組成物又は脂肪ブレンド物によって置き換えられる。この混合物をそのような配合物中に慣用の追加成分とともに含む乾燥配合物は、使用するために充分な水中に分散させて、100mlの分散物当たり約3.5グラムの脂肪のエマルションを作るべきである。したがって、別な側面では、本発明は、本方法のステップ(v)の後で得られるOPOトリグリセリドを含む組成物を包装し且つラベル添付することによって幼児食配合物を製造する方法を提供する。
【0049】
以下の非制限的な実施例は本発明を例証し、かつその範囲をけっして制限しない。本実施例において及び本明細書を通じて、全てのパーセンテージ、部数、及び比は別に示されていない限り質量に基づく。
【実施例】
【0050】
(実施例)
トリオレインを(トリオレインの質量を基準にして)2質量%の1,3-特異的リパーゼ〔例えば、RML(リゾムコール・ミエヘイ(Rhizomucor miehei)由来のリパーゼ)又はRDL(リゾパス・デレマール(Rhizopus delemar)由来のリパーゼ)〕の存在下で、過剰のステアリン酸と反応させて、1,3-ジステアロイル-2-オレオイルグリセリド、未転化のトリオレイルグリセリド、及びその他のステアリン酸含有グリセリドを得る。この反応は撹拌しながら且つ反応時に生成する水を除去するための真空下で、50℃にて行う。様々なトリグリセリド画分が、標準条件下での乾式分画によって分離される。オレオイル分が多いグリセリド画分は、非特異的リパーゼ0.2%CRL(カンジダ・ルゴサ・リパーゼ)(オレオイルグリセリドに対する質量基準)を用いて水中で加水分解する。この反応は、撹拌下、40℃で行う。オレイン酸が多いフリーの脂肪酸は、短いパスの蒸留によって除去し、以下の反応条件下で、トリパルミチンを用いて、1,3-ジオレオイル-2-パルミトイルグリセリドに変換する:無溶媒、1,3-特異的リパーゼ(RML又はRDLなど)の(トリパルミチンの質量基準で)2%存在下、水を除去するための真空下。この反応は、撹拌しながら50℃で行う。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ:
(a) トリグリセリド中の全アシル基を基準にして、少なくとも40モル%のオレイン酸残基を含む第一のトリグリセリドを、ステアリン酸、ステアリン酸の少なくとも一種のエステル、又はそれらの混合物と反応させて、1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリドとトリオレオイルグリセリドを含む組成物を得るステップ;
(b) 前記組成物を処理して前記組成物と比較して増大した量(質量で)のオレオイル基を有する第一の画分と、前記組成物と比較して増大した量(質量で)のステアロイル基を有する第二の画分とを形成するステップ;
(c) 前記第一の画分を加水分解してオレイン酸を生成させるステップ;及び
(d) 前記オレイン酸又はそのエステルを、全アシル基を基準にして少なくとも50モル%のパルミチン酸残基を含むトリグリセリドと反応させて、1,3-ジオレオイル2-パルミトイルグリセリドを含む組成物を生成させるステップ、
を含む、トリグリセリドの製造方法。
【請求項2】
前記第二の画分を処理して、第二の画分を1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリドについて濃縮する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
ステップ(a)及び/又は(d)を酵素の存在下で行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記酵素がリパーゼである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記第一のトリグリセリドが高オレインヒマワリ油(HOSF)又はその画分である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリドが精製される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記1,3-ジオレオイル2-パルミトイルグリセリドが精製される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
1,3-ジオレオイル2-パルミトイルグリセリドを含む組成物の製造のためのオレイン酸又はそのエステルの使用であって、
前記オレイン酸が、
トリグリセリド中の全アシル基を基準にして少なくとも40モル%のオレイン酸残基を含むトリグリセリドを、ステアリン酸、ステアリン酸の少なくとも一種のエステル、又はそれらの混合物と反応させて、1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリドとトリオレオイルグリセリドを含む組成物を得るステップによって形成される、前記の使用。
【請求項9】
前記トリオレオイルグリセリドを加水分解するステップをさらに含む、請求項8に記載の使用。
【請求項10】
1,3-ジオレオイル2-パルミトイルグリセリドと1,3-ジステアロイル2-オレオイルグリセリドの両方を製造するための方法におけるトリグリセリドの使用。
【請求項11】
前記トリグリセリドが高オレインヒマワリ油(HOSF)又はその画分である、請求項8〜10のいずれか一項に記載の使用。

【公表番号】特表2009−507479(P2009−507479A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529692(P2008−529692)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【国際出願番号】PCT/GB2006/003339
【国際公開番号】WO2007/029015
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(503352660)ローダース・クロクラーン・ベスローテンフェンノートシャップ (10)
【住所又は居所原語表記】Hogeweg 1, NL−1521 AZ Wormerveer, Netherlands
【Fターム(参考)】