説明

トリハロメタン分析装置の分離溶解部構造

【課題】反応部におけるいわゆる藤原反応の効率を向上させ、ガス溶解膜のキャリア液取出し部の接続構造を液洩れが無く簡素化し、ガス分離膜及びガス溶解膜の表面での結露の発生を防止したトリハロメタン分析装置の分離溶解部構造を提供することにある。
【解決手段】トリハロメタンガス分析装置において、ガスチャンバ用の平板29の両側にガス分離用平膜30とガス溶解用平膜33とを配置し、ガス分離用平膜30及びガス溶解用平膜33のそれぞれを外側から挟み込むようにして一対の押え板32,35を配置し、押え板32,35同士を連結する連結手段によりガス分離用平膜30及びガス溶解用平膜33と各平板29,31,34とを密着させるように構成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中の低融点有機塩素化合物のトリハロメタン分析装置に使用する、トリハロメタンガス分離溶解部の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
トリハロメタンは、水中の有機化合物と疫学的安全性を確保するために使う塩素に起因して生成されるものである。水中のトリハロメタンは、揮発性であって、気体として微孔性の膜を透過できる性質を有している。この透過したトリハロメタンは、キャリア液に溶解することにより、水中の懸濁物、イオン及び種々の干渉物から分離することが可能となっている。
【0003】
上記トリハロメタンを自動分析するトリハロメタン分析装置としては、本件出願人の出願に係る特許文献1(特開平4−223266号公報)、特許文献2(特開平2−145961号公報)等の技術が提供されている。
図4は、かかるトリハロメタン分析装置の基本構成を示す系統図である。
このトリハロメタン分析装置では、送液ポンプ3等のキャリア液送液部と、送液ポンプ7等の試料送液部と、分離・溶解部38等のトリハロメタンガス分離・溶解部と、反応部9と、検出部10とを有している。
【0004】
送液ポンプ3は、ニコチン酸アミド電磁弁1を介して導入されるニコチン酸アミド溶液と、水酸化ナトリウム電磁弁2を介して導入される水酸化ナトリウム溶液とを混合したキャリア液12を分離・溶解部38に供給するように構成されている。
送液ポンプ7は、サンプル水電磁弁5を介して導入されるトリハロメタンを含むサンプル水4に、酸性還元剤溶液電磁弁6を介して導入される酸性還元剤溶液(硫酸ヒドラジン溶液)を混合させて分離・溶解部38に供給するように構成されている。この分離・溶解部38と関連して、当該分離・溶解部38内のガスチャンバ23中にエアを供給するエアポンプ11が設けられている。
分離・溶解部38では、ヒータ13,14によって70℃程度に加熱されたサンプル水4から内部のガス分離膜8を介してトリハロメタンガスが分離されることになる。分離されガス化されたトリハロメタンガスは、キャリア液12が流れるガス溶解膜25と接することにより、キャリア液12に溶解されて反応部9に搬送されることになる。
【0005】
反応部9では、ヒータ16によって90℃程度に保持されており、キャリア液12を流す過程でヒータ16にて90℃程度まで加温し、当該キャリア液12中のトリハロメタンをニコチン酸アミドと反応させている。
検出部10は、反応部9における反応生成物の蛍光強度を測定し、そのフォトマルセンサ信号を図示しない分析手段に伝送している。
以上の分析処理が行われた排水は、配管51を通り、分離・溶解部38から排水管52を通って排出されるサンプル水4の排水と共通配管53で合流し、外部に排出されることになる。
【0006】
図5は上記分離・溶解部38の構造を示す縦断面図、図6は図5におけるA部拡大断面図である。
図5及び図6において、19Bは外郭部を構成する断熱部であり、分離・溶解部38の内部は断熱部19Bで覆われている。22Aは分離・溶解部38の一端側に設けられたキャリア液入口であり、該キャリア液入口22Aからキャリア液管22zを通ったキャリア液12は、予熱ブロック18で予熱された後、ガスチャンバ23内に導入される。
20Aは分離・溶解部38の他端側寄りの下部に設けられたサンプル水入口であり、サンプル水4は、当該サンプル水入口20Aからガスチャンバ23内に導入され、加熱部19A(図4のヒータ13あるいは14)によって70℃程度に加熱される。サンプル水4は、内部のガス分離膜24を通ることによりトリハロメタンガス(該トリハロメタンガスの沸点は62.5℃)が分離され、分離されガス化されたトリハロメタンガスは、キャリア液12の流れるガス溶解膜25と接することでキャリア液12に溶解されて、トリハロメタンガス溶解キャリア液となり、分離・溶解部38の他端側に設けられた継手部50及びキャリア液22Bを通って反応部9(図4参照)に搬送されることになる。
上記サンプル水4の排水は、分離・溶解部38の中間部に設けられたサンプル水出口20Bから配管52に排出され、図4に示すように、分析処理がなされた排水と合流し、共通配管53を通して外部に排出される。なお、分離・溶解部38の下部には、キャリア液12中にエアを供給するための空気入口21Aと、使用済み空気排出用の空気出口21Bが設けられている。
【0007】
一方、上記継手部50は、図6で詳細に示すように、継手26が分離・溶解部38の内筒19Cにねじ込まれ、出口側にはキャリア液出口配管28がろう付け等によって固定されている。継手26の内側にはガス溶解膜固定用金属管27が挿入され、該ガス溶解膜固定用金属管27の外周と当該継手26の穴の内周との間にガス溶解膜25の端部が固定されている。
【特許文献1】特開平4−223266号公報
【特許文献2】特開平2−145961号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した従来のトリハロメタン分析装置、特にそのトリハロメタンガスの分離溶解部には、次のような解決すべき課題がある。
(1)第1の課題は、いわゆる藤原反応の効率向上である。
すなわち、反応部9において、トリハロメタンとニコチン酸アミドとが反応して蛍光物質を生成する反応、いわゆる藤原反応の効率を向上させるためには、キャリア液溶解膜25内を流れるキャリア液12と(サンプル水4中からガス化した)トリハロメタンガスとの接触時間(反応時間)を長くするか、あるいは接触面積を大きくする必要がある。その具体的手段としては、
(A)キャリア液12の流量を少なくして、流速を小さくすること、
(B)ガス分離膜24とガス溶解膜25との相互の表面積を大きくすること、
の2つの手段が考えられる。
【0009】
ところが、上記(A)の手段は、全体の処理時間が多く掛かるという欠点がある。
また、上記(B)の手段は、ガス分離膜24の表面積拡大は容易に行えるが、ガス溶解膜25については、表面積を大きくするためにその寸法を長くする必要がある。然るに、ガス溶解膜25のチューブ素材はPTFE(四フッ化エチレン)で柔らかいために張力が必要であるが、途中で折り曲げると流路が閉塞したり、膜に局部的な張力が加わり液漏れの原因となることから、寸法を長くすることは困難を伴い、上記従来技術のようなチューブ式のガス溶解膜25では効率に限界がある。
かかる問題点から、トリハロメタンガスの溶解量には限界があり、計測装置としての所定の感度を得るためには、キャリア液12の濃度を高くしておく必要があり、そのため、従来はキャリア液12のニコチン酸アミド溶液濃度を25%程度と高濃度にしている。
しかしながら、ニコチン酸アミドは非常に高価であるため、トリハロメタン分析装置の運転コストが高くなり、その結果、藤原反応の効率向上が重要な課題となっている。
【0010】
(2)第2の課題は、ガス溶解膜25のキャリア液出口配管28との接続構造にある。
すなわち、ガス溶解膜25は前後プロセスとの接続のため配管継手が必須であるが、図6に示されるような継手部50の構造では、この継手部分閉塞に伴うキャリア液のリークが発生し易い状態にある。
図6に示すように、ガス溶解膜25とキャリア液出口配管28との継手部50には、継手内部にガス溶解膜固定用金属配管27が挿入されており、継手26のねじを締めることで、キャリア液出口配管28とガス溶解膜25が共に固定される構造となっている。このため、ガス溶解膜固定用金属配管27を挿入したことで、該金属配管27とガス溶解膜25との間に段差が生じ、これによりキャリア液12が滞り易くなる。
【0011】
一方、トリハロメタン反応生成物の蛍光強度測定前後にトリハロメタンガスをパージするための空気が所定流量(200ml/分程度)流れるため、ガス溶解膜25を介して、キャリア液12がこの空気と接触する。
キャリア液12の主成分であるニコチン酸アミド溶液は、上記(1)に述べた課題から、反応効率の悪化を回避するため、キャリア液濃度を高くしておく必要があり、25%程度と高濃度に保持している。
このため、高粘度である上に(ニコチン酸アミド溶液の特性として)、空気と接触すると溶液が蒸発してニコチン酸アミドが粉末状に析出する。
したがって、この装置を長期間運転すると、上記のようなキャリア液12が滞る場所でニコチン酸アミドが空気と接触して析出することになる。かかるニコチン酸アミドの析出が発生すると、ガス溶解膜用金属配管27は径が細いために閉塞し、ガス溶解膜25の内部にもニコチン酸アミドが析出することになる。
ガス溶解膜25の素材はテフロン(PTFE)であるが、上記のようなニコチン酸アミドの析出で汚れると、撥水性が低下するため、ガス溶解膜25からキャリア液12がリークする。これにより、再現性の低下や膜寿命が低下することになる。
【0012】
(3)第3の課題は、ガス溶解膜25の交換に熟練を要する点である。
すなわち、ガス溶解膜25は上記(1)項で述べたように、キャリア液12が高濃度のため汚れ易い。ガス溶解膜25が汚れると撥水性が低下し、分析の再現性に影響するため、ガス溶解膜25を定期的に交換している。
そして、上記ガス溶解膜25の交換時には、図6における継手部50の継手26を取外し、新品のガス溶解膜25を取付け、再度継手部50の内部にガス溶解膜固定用金属配管27を挿入し、継手26のねじを締めることで、配管28とガス溶解膜25とを共に固定する作業を行っている。
かかる作業は、継手26の締付け度合いの微妙な調整が必要であり、締付け力が過大になると液漏れに繋がることから、ガス溶解膜固定用金属配管27を挿入する作業には熟練が必要で、かつ作業能率も低下することになる。
【0013】
(4)第4の課題は、ガス分離溶解膜25への水滴付着である。
上述のように、加熱部19Aの温度は70℃程度に保持されており、サンプル水4の中に含まれるトリハロメタンガスは沸点が62.5℃のため、ガス分離膜24を介してガスチャンバ23内でガス化するが、ガス分離膜24はガス透過性と合わせて水蒸気透過性も良いため、水蒸気が多量に発生してしまう。
そのため、過剰に供給された水蒸気はガスチャンバ23内で過飽和となり、ガス分離膜24、ガス溶解膜25等の表面に結露し、ガス分離と溶解性を阻害することになる。図5に示すように、ガス分離膜25は水平面状に設置されているため、水蒸気が付着しやすく、かかる水蒸気の付着があると測定再現性が低下することになる。
【0014】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、反応部におけるいわゆる藤原反応の効率を向上させ、ガス溶解膜のキャリア液取出し部の接続構造を液洩れが無く簡素化し、ガス分離膜及びガス溶解膜の表面での結露の発生を防止したトリハロメタン分析装置の分離溶解部構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記従来技術の有する課題を解決するために、本発明は、サンプル水からトリハロメタンガスを分離させてキャリア液に溶解させる分離・溶解部と、該分離・溶解部からのトリハロメタンガス溶解キャリア液を加熱してトリハロメタンをニコチン酸アミドと反応させる反応部とを備えたトリハロメタン分析装置において、前記サンプル水を流すための溝状のサンプル水流路を備えたサンプル水用の平板と、前記キャリア液を流すための溝状のキャリア液流路を備えたキャリア液用の平板と、前記トリハロメタンガスを保持するための貫通溝からなるトリハロメタンガス流路を備えたガスチャンバ用の平板と、前記サンプル水を保持してトリハロメタンガスを前記サンプル水から分離するためのガス分離用平膜と、前記キャリア液を保持してトリハロメタンガスを前記キャリア液に溶解させるためのガス溶解用平膜と、前記ガス分離用平膜及び前記ガス溶解用平膜を前記各平板の面に加圧するための押え板と、前記各平板を加熱する加熱手段とを具備し、前記ガスチャンバ用の平板の両側には、前記ガス分離用平膜と前記ガス溶解用平膜とを配置し、前記ガス分離用平膜及び前記ガス溶解用平膜のそれぞれを外側から挟み込むようにして一対の前記押え板を配置し、前記押え板同士を連結する連結手段により前記ガス分離用平膜及び前記ガス溶解用平膜と前記各平板とを密着させるように構成している。
また、本発明において、好ましくは、前記ガスチャンバ用の平板の貫通溝と前記サンプル水用の平板の溝とが、前記ガス分離用平膜を挟んで互いに対向するように配置されている。
さらに、本発明において、好ましくは、前記ガスチャンバ用の平板と前記サンプル水用の平板とが、装置設置面に対して垂直となるように配置されている。
【0016】
また、本発明においては、前記サンプル水用の平板における溝状のサンプル水流路、前記キャリア液用の平板における溝状のキャリア液流路、及び前記ガスチャンバ用の平板における貫通溝からなるトリハロメタンガス流路の、前記ガス分離用平膜あるいは前記ガス溶解用平膜と接触する側の端面には凸形状の突起が設けられ、該突起に前記ガス分離用平膜あるいは前記ガス溶解用平膜の面を圧接させることにより、前記各流路の流体シールが行われるように構成されている。
【0017】
さらに、本発明においては、前記サンプル水用の平板、前記キャリア液用の平板、及び前記ガスチャンバ用の平板の一部もしくは全部は、テフロンを含む熱溶着可能な材料で構成され、前記それぞれの平板に形成されたサンプル水流路、キャリア液流路、及びトリハロメタンガス流路の前記ガス分離用平膜あるいは前記ガス溶解用平膜と接触する側の端面には凸形状の突起が設けられ、該突起に前記ガス分離用平膜あるいは前記ガス溶解用平膜の面を接触させることにより、加熱溶着するように構成されている。
【発明の効果】
【0018】
上述の如く、本発明に係るトリハロメタン分析装置の分離溶解部構造によれば、サンプル水流路、キャリア液流路、及びトリハロメタンガス流路を平板に形成したので、従来のチューブのように屈曲部がなく、トリハロメタンガス分離・溶解用の膜の表面積を必要に応じて自在に増加させることが可能となる。これにより、分離したトリハロメタンガスと該ガスを溶解するためのキャリア液との接触時間を長くすることができ、反応を短時間に限界まで飽和させ、反応効率(いわゆる藤原反応の効率)を向上させることができる。
【0019】
また、本発明が適用されるトリハロメタン分析装置では、1回の計測時間(反応時間)は1時間程度が基本性能であるが、従来のチューブの流路による手段では、上記のように膜表面積に限界があったため、検出下限である5μg/LのクロロホルムをS/N比3以上で検出と反応時間とを両立させているため、キャリア液中のニコチン酸アミド溶液の濃度を25%以上とする必要があった。
然るに本発明によれば、サンプル水流路、キャリア液流路、及びトリハロメタンガス流路を平板に形成したことにより、キャリア液中のニコチン酸アミド溶液濃度を上記濃度の1/4の6.25%まで薄めても検出下限である5μg/LのクロロホルムをS/N比5以上で検出することが可能となった。
これにより、高価なニコチン酸アミドの使用量を少なくし、装置の運転コストを低減(従来の1/4程度)させることができる。
【0020】
さらに、本発明によれば、ガスチャンバ用の平板の両側にガス分離用平膜とガス溶解用平膜とを配置し、ガス分離用平膜及びガス溶解用平膜のそれぞれを外側から挟み込むようにして一対の押え板を配置し、該押え板同士を連結する連結手段によりガス分離用平膜及びガス溶解用平膜と各平板とを密着させるように構成したので、トリハロメタンガスを溶解する膜の部分には従来技術のような継手部は不要となる。
これにより、従来の継手部を備えた手段のような、継手部からのキャリア液の漏れの問題を解消し、トリハロメタンガス濃度測定の再現性を向上させることができる。
【0021】
また、本発明によれば、上記押え板同士を連結する連結手段によりガス分離用平膜及びガス溶解用平膜と各平板とを密着させるように構成したので、連結手段を構成するねじを取外すのみで、簡単にガス分離用平膜あるいはガス溶解用平膜の交換を行うことができる。
これにより、従来技術のような、ガス分離用膜あるいはガス溶解用膜の交換を行う際に継手部を取外し、新品のガス分離用膜あるいはガス溶解用膜を取付けて、再度継手部の内部にガス溶解膜固定用金属配管を挿入して継手部のネジを締めることで配管とガス分離用膜あるいはガス溶解用膜を共に固定する、という熟練を要する複雑な作業が不要となり、ガス分離用平膜あるいはガス溶解用平膜の交換作業能率の向上が図れるとともに、従来技術のような継手部からの液洩れの発生も回避できる。
【0022】
さらに、本発明によれば、トリハロメタンガスを保持するためのトリハロメタンガス流路をガスチャンバ用の平板が装置設置面に対して垂直に設置する構成としたことにより、トリハロメタンガス分離の際に多量に発生する結露水をガスチャンバ板のトリハロメタンガス流路の高さ方向に流して複数箇所から容易に外部に排出することが可能となる。
これにより、従来の装置のように、結露水の排水手段が無かったため、膜の表面に結露水が付着して繰返し再現性能が低下するという問題の発生を回避でき、計測中でも結露水の排水を容易に行うことができ、繰返し再現性が大幅に安定化することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明に係るトリハロメタン分析装置の分離溶解部構造について、その実施形態を詳細に説明する。
【0024】
[第1実施形態]
図1は本発明の第1実施形態に係るトリハロメタン分析装置の分離・溶解部の接続構造を示す分解斜視図、図2は上記第1実施形態における分離・溶解部の分解斜視図である。
図1において、38はサンプル水からトリハロメタンガスを分離させてキャリア液に溶解させる分離・溶解部であり、次のように構成されている。
すなわち、分離・溶解部38は、キャリア液流路押え板35とサンプル水流路押え板32とにより挟み込むようにして、設置面に対して垂直となるように配置されたキャリア液流路板34、ガス溶解平膜33、ガスチャンバ板29、ガス分離平膜30、サンプル水流路板31が、それぞれに空けた貫通孔を介して、この順序でねじ止め固定されている。
上記部材の両脇に配置されているサンプル水加熱部33A及びキャリア液加熱部33Bは、サンプル水4及びキャリア液12をそれぞれ加熱するためのヒータである。
【0025】
次に、図2に基づき、上記分離・溶解部38の詳細について説明する。
図2において、サンプル水4(図4参照)は、サンプル水入口20Aから注入され、サンプル水流路板31とガス分離平膜30とで構成された流路に流入し、サンプル水出口20Bから排出されるようになっている。
この際において、上記サンプル水4は、サンプル水流路板31のガス分離平膜30側の面に形成された凹溝状のサンプル水通路31sを、ガス分離平膜30と接触しながら所定流量(例えば、1ml/分以上の流量)流れている。そのため、サンプル水通路31sは、上下方向にわたって階段のような傾斜したジグザグ状(蛇行状)とすることにより、流路の長さが長くなるように形成されており、サンプル水入口20Aはサンプル水通路31sの下部に配設されているとともに、サンプル水出口20Bはサンプル水通路31sの上部に配設されている。
このようなサンプル水4中にトリハロメタンが含有されていると、サンプル水加熱部33Aで例えばトリハロメタンの沸点62.5℃以上に加熱されることによりガス化し、このトリハロメタンガスは、ガス分離平膜30を通して、水蒸気とともに後述するガスチャンバ板29のトリハロメタンガス流路29sに到達するようになっている。
【0026】
上記ガスチャンバ板29には、溝状のトリハロメタンガス流路29sが当該ガスチャンバ板29を貫通し、上下方向にわたって階段のような傾斜したジグザグ状(蛇行状)に形成されている。このようなガスチャンバ板29のトリハロメタンガス流路29sとサンプル水流路板31のサンプル水通路31sとは、ガス分離平膜30を挟んで互いに対向するように配置されている。したがって、このトリハロメタンガス流路29sに溜まったトリハロメタンガスは、ガス溶解平膜33と接触し、かつガス分離平膜30とも接触しながら流動することなる。
一方、キャリア液12(図4参照)は、キャリア液入口22Aから入り、サンプル水通路31sと同様の理由から、キャリア液流路板34のガス溶解平膜33側の面に上下方向にわたって階段のような傾斜したジグザグ状(蛇行状)に形成された凹溝状のキャリア液流路34sをガス溶解平膜33と接触しながら流れて、キャリア液出口22Bから排出されるようになっている。かかるキャリア液12の流動時に、上記トリハロメタンガスはガス溶解平膜33を介してキャリア液12に溶け込むことになる。
なお、上記ガス分離平膜30及びガス溶解平膜33は、共に例えば孔径0.1μm以下の微細な孔を有している。
かかる第1実施形態では、キャリア液流路板34及びガス溶解平膜33、並びにガスチャンバ板29及びサンプル水流路板31及びガス分離平膜30が平板状であるため、ガス溶解平膜33及びガス分離平膜30の素材にPTFE(四フッ化エチレン)等の柔らかい材料を用いても、その寸法を容易に大きくすることが可能である。これにより、キャリア液12の流路の長さを長くとれて、トリハロメタンガスの接触面積を拡大でき、センサとしての感度が向上することになる。
【0027】
次に、サンプル水4の加熱時における水蒸気排出について説明する。
上述のように、サンプル水4はサンプル水加熱部33Aで例えばトリハロメタンの沸点62.5℃以上に加熱されてガス化し、ガス分離平膜30を通して、水蒸気とともにガスチャンバ板29のトリハロメタンガス流路29sに到達する。
ガスチャンバ板29内におけるトリハロメタンガスの飽和時間と、トリハロメタンガスの溶解に要する時間は、少なくとも30分以上は掛かる。その間にトリハロメタンガスと共に大量の水蒸気が蒸発して、ガスチャンバ板29のトリハロメタンガス流路29sの両側に配置されたガス溶解平膜33及びガス分離平膜30の表面に付着して結露する。
【0028】
この結露水の排出手段として、ガスチャンバ板29は、図1及び図2に示すように、垂直となるように配置され、ガスチャンバ板29には、貫通溝からなるトリハロメタンガス流路29sが上下方向にわたり階段のように傾斜してジグザグ状(蛇行状)に形成されている。これにより、上記結露水は、図2に示すように、ガスチャンバ板29のトリハロメタンガス流路29sの高さ方向で3箇所に間隔を置いて設けられている3つの空気出口21Bを通して、外部に排出することが可能となっている。
【0029】
[第2実施形態]
図3は本発明の第2実施形態に係るキャリア液流路板34及びガス溶解平膜33の一部断面を示す分解側面図(図2のC−C矢視図)である。
この第2実施形態においては、ガス溶解平膜33とキャリア液流路板34とのシール性を確保するために、図3に示すように、キャリア液流路板34に刻設された凹溝からなるキャリア液流路34sのガス溶解平膜33側の端面に凸形状の突起34tが設けられている。
この突起34tにガス溶解平膜33を接触させ、図3中の矢印で示すように、ガス溶解平膜33及び突起34tの両側から、ガスチャンバ板29とキャリア液流路押え板35とで挟み込み、さらには図示しないねじのねじ込みによりガスチャンバ板29とキャリア液流路押え板35とを連結して圧力を加えることで、キャリア液流路34sの端面の突起34tのみに圧力が集中するように構成されている。
【0030】
これにより、ガス溶解平膜33を強固なシール性を保有してガスチャンバ板29とキャリア液流路押え板35との間に固定することが可能となる。
キャリア液流路板34の材質としては、耐食性ステンレス、耐食性エンジニアリングプラスチック、テフロン(PFA、PTFE、変性PTFE)が好適である。特に、テフロンは硬度及びヤング率が低いために、局部変形してガス溶解平膜33の素材であるPTFEとの間で高いシール性が得られやすい。
なお、図示を省略したが、図2中のサンプル水流路板31とガス分離平膜30とのシール部についても、図3に示されるような、前記キャリア液流路板34とガス溶解平膜33との間のシール部と同様なシール構造を取ることが可能である。
【0031】
[第3実施形態]
この第3実施形態は、上記第2実施形態の変形例であり、キャリア液流路板34の材料として、テフロン(PFA、PTFE、変性PTFE)を用い(熱溶着可能な材料であればよい)、該テフロン材からなるキャリア液流路板34について、図3に示すように、キャリア液流路板34に刻設された凹溝からなるキャリア液流路34sの端面に凸形状の突起34tが設けられている。
そして、キャリア液流路板34の突起34tとガス溶解平膜33とを接触させ、300℃以上の温度で加熱溶着させてから、ガスチャンバ板29とキャリア液流路押え板35とで挟み込むことにより固定されている。
なお、図示を省略したが、図2中のサンプル水流路板31とガス分離平膜30とのシール部についても、この実施形態におけるキャリア液流路板34とガス溶解平膜33との加熱溶着手段と同様な手段によって、シール構造を取ることが可能である。
【0032】
以上、本発明の実施の形態につき述べたが、本発明は既述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1実施形態に係るトリハロメタン分析装置の分離・溶解部の接続構造を示す分解斜視図である。
【図2】上記第1実施形態における分離・溶解部を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の第2及び第3実施形態に係るキャリア液流路板及びガス溶解平膜の一部断面を示す分解側面図(図2のC−C矢視図)である。
【図4】トリハロメタン分析装置の基本構成を示す系統図である。
【図5】従来技術に係る分離・溶解部の構造を示す縦断面図である。
【図6】図5におけるA部拡大断面図である。
【符号の説明】
【0034】
3 送液ポンプ
4 サンプル水
9 反応部
10 検出部
12 キャリア液
23 ガスチャンバ
25 ガス溶解膜
29 ガスチャンバ板
29s トリハロメタンガス流路
30 ガス分離平膜
31 サンプル水流路板
31s サンプル水通路
32 サンプル水流路押え板
33 ガス溶解平膜
33A サンプル水加熱部
33B キャリア液加熱部
34 キャリア液流路板
34s キャリア液流路
34t 突起
35 キャリア液流路押え板
38 分離・溶解部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル水からトリハロメタンガスを分離させてキャリア液に溶解させる分離・溶解部と、該分離・溶解部からのトリハロメタンガス溶解キャリア液を加熱してトリハロメタンをニコチン酸アミドと反応させる反応部とを備えたトリハロメタン分析装置において、
前記サンプル水を流すための溝状のサンプル水流路を備えたサンプル水用の平板と、前記キャリア液を流すための溝状のキャリア液流路を備えたキャリア液用の平板と、前記トリハロメタンガスを保持するための貫通溝からなるトリハロメタンガス流路を備えたガスチャンバ用の平板と、前記サンプル水を保持してトリハロメタンガスを前記サンプル水から分離するためのガス分離用平膜と、前記キャリア液を保持してトリハロメタンガスを前記キャリア液に溶解させるためのガス溶解用平膜と、前記ガス分離用平膜及び前記ガス溶解用平膜を前記各平板の面に加圧するための押え板と、前記各平板を加熱する加熱手段とを具備し、前記ガスチャンバ用の平板の両側には、前記ガス分離用平膜と前記ガス溶解用平膜とを配置し、前記ガス分離用平膜及び前記ガス溶解用平膜のそれぞれを外側から挟み込むようにして一対の前記押え板を配置し、前記押え板同士を連結する連結手段により前記ガス分離用平膜及び前記ガス溶解用平膜と前記各平板とを密着させるように構成したことを特徴とするトリハロメタン分析装置の分離溶解部構造。
【請求項2】
前記ガスチャンバ用の平板の貫通溝と前記サンプル水用の平板の溝とが、前記ガス分離用平膜を挟んで互いに対向するように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のトリハロメタン分析装置の分離溶解部構造。
【請求項3】
前記ガスチャンバ用の平板と前記サンプル水用の平板とが、装置設置面に対して垂直となるように配置されていることを特徴とする請求項1に記載のトリハロメタン分析装置の分離溶解部構造。
【請求項4】
前記サンプル水用の平板における溝状のサンプル水流路、前記キャリア液用の平板における溝状のキャリア液流路、及び前記ガスチャンバ用の平板における貫通溝からなるトリハロメタンガス流路の、前記ガス分離用平膜あるいは前記ガス溶解用平膜と接触する側の端面には凸形状の突起が設けられ、該突起に前記ガス分離用平膜あるいは前記ガス溶解用平膜の面を圧接させることにより、前記各流路の流体シールが行われるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のトリハロメタン分析装置の分離溶解部構造。
【請求項5】
前記サンプル水用の平板、前記キャリア液用の平板、及び前記ガスチャンバ用の平板の一部もしくは全部は、テフロン(登録商標)を含む熱溶着可能な材料で構成され、前記それぞれの平板に形成されたたサンプル水流路、キャリア液流路、及びトリハロメタンガス流路の前記ガス分離用平膜あるいは前記ガス溶解用平膜と接触する側の端面には凸形状の突起が設けられ、該突起に前記ガス分離用平膜あるいは前記ガス溶解用平膜の面を接触させることにより、加熱溶着するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のトリハロメタン分析装置の分離溶解部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−145163(P2008−145163A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−330313(P2006−330313)
【出願日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(507291316)富士電機水環境システムズ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】