説明

トリフェニレン誘導体の製造法

【課題】有機EL発光層のホスト分子やホール輸送材料等の広範な用途展開が期待されているトリフェニレン誘導体の工業的製法を提供する。
【解決手段】下式(1)で表される2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体に紫外線を照射し、脱ハロゲン化水素反応により閉環させるトリフェニレン誘導体の製造方法。


(式中、Xは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表し、R、R、Rは同一または異なり、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、水酸基、炭素数1〜12のアルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、アミノ基、カルボキシル基、アセトアミド基、シアノ基等を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体の光化学的反応によるトリフェニレン誘導体の新規な製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トリフェニレンの製造法として、光化学的方法が古くから研究されており、ヨウ素存在下でのo−ターフェニルの紫外線照射による方法が報告されている(非特許文献1及び非特許文献2)。
【0003】
しかし、本発明者等が当該方法について検討したところ、副生成物が少ない特徴を持つものの、反応速度が遅く収率が低い、o−ターフェニルと同モルのヨウ素を使用するためリサイクルを含め後処理工程が煩雑である、等の欠点があり、工業的製法としては問題を有していた。
【先行技術文献】
【0004】
【非特許文献1】Chem.Commun.,1965,242
【非特許文献2】Bull.Chem.Soc.Japan,40,1994(1967)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トリフェニレン誘導体は有機EL発光層のホスト分子やホール輸送剤材料等広範な用途への展開が進められており、本発明が解決しようとする課題はヨウ素等の酸化剤を必要としないトリフェニレン誘導体の工業的製法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは種々検討を行い、o−ターフェニル誘導体の2位にハロゲン基を導入することにより、紫外線照射で脱ハロゲン化水素による分子内アリールカップリング反応が効率的に進行し、トリフェニレン誘導体を生成することを見いだし、本発明を完成した。すなわち、本発明は2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体の紫外線照射によるトリフェニレン誘導体の製造法である。
【0007】
また、本発明は下記式(1)で表される2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体の紫外線照射による下記式(2)で表されるトリフェニレン誘導体の製造法である。
【化1】

【化2】

(式中、Xは塩素基、臭素基またはヨウ素基であり、R、R、Rは同一であっても異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アセトアミド基、シアノ基である)
【0008】
【発明の効果】
【0009】
本発明の2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体の紫外線照射によるトリフェニレンの製造法は酸化剤等の添加物を必要とせずに、高収率で、高純度のトリフェニレン誘導体を製造できる新規な光化学的製法であり、各種用途への展開の可能性を拓くものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は下記式(1)で表される2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体の紫外線照射による下記式(2)で表されるトリフェニレン誘導体の製造法である。
【化1】

【化2】

(式中、Xは塩素基、臭素基またはヨウ素基であり、R、R、Rは同一であっても異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アセトアミド基、シアノ基である)
【0011】
本発明の2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体は式(1)で表される化合物であり、特に限定されないが、具体例としては式(3)で示すようにパラジウム触媒と塩基の存在下で、2−ビフェニルホウ酸誘導体とハロゲン化アリールとを反応させて得られる化合物を挙げることができる(この反応は鈴木・宮浦カップリング反応と呼ばれている)。
【化3】

(式中、Xは塩素基、臭素基またはヨウ素基であり、R、R、Rは同一であっても異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アセトアミド基、シアノ基である)
【0012】
本発明の2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体の紫外線照射反応は有機溶剤溶液で窒素雰囲気下、攪拌しながら行なう。2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体を溶解する有機溶剤は紫外線に安定な溶剤であれば特に制限はなく、特に好ましい有機溶剤としてはベンゼン、クロロベンゼン、シクロヘキサン等が挙げられる。
【0013】
本発明の紫外線照射に使用する光源としては低圧水銀UVランプ、高圧水銀UVランプ、メタルハライドUVランプ、インジウムランプ等が挙げられる。特に好ましい光源は紫外線の低波長領域光量の多い低圧水銀ランプである。
【0014】
本発明の反応は光化学的脱ハロゲン化水素反応であり、発生するハロゲン化水素を系外へ効率的に飛散させるため、紫外線照射反応中に窒素バブリングを行なうことが好ましい。
【0015】
本発明で使用される反応器の材質は紫外線を透過するものであれば特に制限はない。特に好ましい反応器は低波長光線の透過性の良好なシリカ純度の高い石英製、バイコール製のものである。
【0016】
【実施例】
【0017】
以下、2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体の合成例、実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0018】
[実施例で使用した2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体の合成例]
【0019】
(合成例1)2−クロロ−o−ターフェニル

コンデンサー、マグネチックスターラーが装着され、窒素充填された三ツ口丸底フラスコに、2.3g(12.1mmol)の2−ブロモクロロベンゼン、2.0g(10.1mmol)の2−ビフェニルボロン酸、10mLのエチレングリコールジメチルエーテル、1.6g(15.1mmol)の炭酸ナトリウム/10mL水溶液を加えた後、触媒のパラジウムテトラキストリフェニルホスフィン0.1gを加え、TLCで反応を追跡しながら、6時間加熱還流を行なった。原料消失を確認した後、酢酸エチルで抽出して分液した。得られた有機層を水洗、硫酸マグネシウムで脱水した後、濾過により硫酸マグネシウムを除去した。次いで減圧下で有機層を濃縮し粗生成物を得た。粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン)により精製し、1.8g(収率69%)の2−クロロ−o−ターフェニルを得た。構造はH−NMR、GC−MSで確認した。
H−NMR(CDCl,ppm):7.47・7.36(m,4H)、7.17・7.08(m,9H)、m/z%:264(M,44%)
【0020】
(合成例2)2−ブロモ−o−ターフェニル

合成例1における2−ブロモクロロベンゼンの代わりに2.85g(12.1mmol)のo−ジブロモベンゼンを用いて同様な反応及び後処理条件で合成を行い2.3g(収率73%)の2−ブロモ−o−ターフェニルを得た。構造はH−NMR、GC−MSで確認した。なお、H−NMRデータは特開2001−335516の2−ブロモ−o−ターフェニルデータと一致していた。
H−NMR(CDCl,ppm):7.53・7.32(m,5H),7.16・7.05(m,8H)、m/z%:308(M,20%)
【0021】
(合成例3)2−クロロ−4−メトキシ−o−ターフェニル

合成例1における2−ブロモクロロベンゼンの代わりに2.70g(12.1mmol)の4−ブロモ−3−クロロアニソールを用いて同様な反応及び後処理条件で合成を行い、2−クロロ−4−メトキシ−o−ターフェニルを得た。構造はH−NMR、GC−MSで確認した。
H−NMR(CDCl,ppm):7.46・7.34(m,4H),7.20・7.14(m,5H),6.97(m,1H),6.86(m,1H),6.67(m,1H),3.76(s,3H)、m/z%:294(M,78%)
【0022】
(合成例4)2−クロロ−4−メチル−o−ターフェニル

合成例1における2−ブロモクロロベンゼンの代わりに2.70g(12.1mmol)の4−ブロモ−3−クロロトルエンを用いて同様な反応及び後処理条件で合成を行い、2−クロロ−4−メチル−o−ターフェニルを得た。構造はH−NMR、GC−MSで確認した。
H−NMR(CDCl,ppm):7.45・7.34(m,4H),7.19・7.13(m,6H),6.97・6.91(m,2H),2.28(s,3H)、m/z%:278(M,55%)
【0023】
2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体の紫外線照射反応の実施例を以下に示す。紫外線照射に使用した低圧水銀ランプ及び高圧水銀ランプは次の通りである。
低圧水銀ランプ:セン特殊光源(株)社製の「低圧UVB−125」
高圧水銀ランプ:東芝(製)の「UV−04MTIA」
【実施例1】
【0024】

132mg(0.50mmol)の2−クロロ−o−ターフェニルを30mLのベンゼンに溶解した溶液を径が20mmの石英管に仕込み、低圧水銀灯から1cmの距離に設置した。次いで、窒素バブリング下、低圧水銀ランプで3.5時間光照射した。ガスクロマトグラフィーPA比によるトリフェニレンの生成率は99.3%であった。原料以外の副生物は認められなかった。トリフェニレンの構造解析はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン)で精製した生成物のH−NMR、GC−MSで行った。
融点:196〜197℃
H−NMR(CDCl,ppm):8.65・8.64・8.63・8.63(m,6H),7.65・7.65・7.64・7.63(m,6H)
m/z%:228(M,100%)
なお、H−NMRデータは非特許文献2に準じて実施した比較例1のトリフェニレンデータと一致していた。
【実施例2】
【0025】

実施例1の2−クロロ−o−ターフェニルの代わりに155mg(0.50mmol)の2−ブロモ−o−ターフェニルを用いる以外は実施例1と同一条件下で3.5時間光照射した。ガスクロマトグラフィーPA比によるトリフェニレンの生成率は98.7%であった。
【実施例3】
【0026】
実施例1の30mLのベンゼンの代わりに30mLのシクロヘキサンを用いる以外は実施例1と同一条件下で3.5時間光照射した。ガスクロマトグラフィーPA比によるトリフェニレンの生成率は91.5%であった。
【実施例4】
【0027】
132mg(0.50mmol)の2−クロロ−o−ターフェニルを30mLのベンゼンに溶解した溶液を径が20mmの石英管に仕込み、高圧水銀灯から1cmの距離に設置した。次いで、窒素バブリング下、高圧水銀ランプで1.5時間光照射した。ガスクロマトグラフィーPA比によるトリフェニレンの生成率は99.2%であった。
【実施例5】
【0028】

実施例1の2−クロロ−o−ターフェニルの代わりに147mg(0.50mmol)の4−メトキシ−2−クロロ−o−ターフェニルを用いる以外は実施例1と同一条件下で3.5時間光照射した。ガスクロマトグラフィーPA比による2−メトキシトリフェニレンの生成率は99.6%であった。原料以外の副生物は認められなかった。2−メトキシトリフェニレンの構造解析はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン)で精製した生成物のH−NMR、GC−MSで行った。なお、H−NMRデータはJ.Am.Chem.Soc.,2005,V127(45),P15716−15717の2−メトキシトリフェニレンデータと一致していた。
融点:96.0〜98.0
H−NMR(CDCl,ppm):8.50・8.35(m,5H)、7.90(s,1H),7.52(m,4H),7.11(d,1H),3.87(s,3H),
m/z%:258(M,100%)
【実施例6】
【0029】

実施例1の2−クロロ−o−ターフェニルの代わりに139mg(0.50mmol)の4−メチル−2−クロロ−o−ターフェニルを用いる以外は実施例1と同一条件下で3.5時間光照射した。ガスクロマトグラフィーPA比による2−メチルトリフェニレンの生成率は98.7%であった。原料以外の副生物は認められなかった。2−メチルトリフェニレンの構造確認はシリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン)で精製した生成物のH−NMR、GC−MSで行った。なお、H−NMRデータはJ.Am.Chem.Soc.,2005,V127(45),P15716−15717の2−メトキシトリフェニレンデータと一致していた。
融点:96.0〜102℃
H−NMR(CDCl,ppm):8.58・8.56(m,4H)、8.45(d,1H),8.36(s,1H),7.58・7.57(m,4H),7.39(d,1H),2.54(s,3H),
m/z%:242(M,100%)
【比較例1】
【0030】

115mg(0.50mmol)のo−ターフェニルと130mg(0.51mmol)のヨウ素を30mLのベンゼンに溶解した溶液を石英管に仕込み、実施例1と同じ条件下で光照射した。3.5時間及び70時間光照射時の反応液はチオ硫酸ナトリウム水溶液処理によりヨウ素を除去し、水洗、硫酸マグネシウム脱水後にガスクロマトグラフィーでトリフェニレンの生成率を分析した。PA比による生成率は3.5時間の光照射時で6.6%、70時間の光照射時で77.7%であった。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開液:n−ヘキサン)で精製したトリフェニレンのH−NMR、GC−MSは次の通りであった。
融点:196〜197℃
H−NMR(CDCl,ppm):
8.65・8.64・8.63・8.63(m,6H),7.65・7.65・7.64・7.63(m,6H)
m/z%:228(M,100%)
【0031】
実施例及び比較例の結果をまとめて表1に示す。
実施例1及び比較例1より、本発明の2−クロロ−o−ターフェニル誘導体の紫外線照射によるトリフェニレン誘導体の製造法は短時間の光照射でほぼ定量的に進行し、ヨウ素共存下でのo−ターフェニルの紫外線照射法に比べて格段に優れている。又、各種のトリフェニレン誘導体も高収率で製造できる。
【表−2】

【産業上の利用可能性】
本発明の2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体の紫外線照射によるトリフェニレンの製造法は酸化剤等の添加物を必要としない、高収率で、高純度のトリフェニレン誘導体を製造できる工業的製法であり、トリフェニレン誘導体の広範な用途への展開の可能性を拓くものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体の紫外線照射反応によるトリフェニレン誘導体の製造法。
【請求項2】
2−ハロゲノ−o−ターフェニル誘導体が下記式(1)で表される化合物であり、トリフェニレン誘導体が下記式(2)で表される化合物である請求項1記載のトリフェニレン誘導体の製造法。

(式中、Xは塩素基、臭素基またはヨウ素基であり、R、R、Rは同一であっても異なっていてもよい、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、メルカプト基、ハロゲン基、アミノ基、カルボキシル基、エステル基、アセトアミド基、シアノ基である)

【公開番号】特開2012−144508(P2012−144508A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15759(P2011−15759)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(511024045)株式会社ウェルグリーン (1)
【Fターム(参考)】