説明

トルエンジイソシアネートの製造方法

【課題】TDIの製造において、環状のイソシアナトシクロアルケノン類、イソシアナトシクロアルカノン類及び/又はクロロイソシアナトシクロアルケン類の濃度を、色付与する付加物又は二量体の形成が僅かに少ない程度までしか生じないほど減少させ、生成物として得られるTDIの着色を殆どなくす。
【解決手段】ジニトロトルエンを触媒の存在下で水素化して、粗製トルエンジアミン混合物を得て、該粗製トルエンジアミン混合物を精製して、トルエンジアミンの100質量%に対して0.1質量%未満の全量の環状ケトンを含有するトルエンジアミンを得て、トルエンジアミンの100質量%に対して0.1質量%未満の全量の環状ケトンを含有するトルエンジアミンをホスゲン化して、トルエンジイソシアネートを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルエンジイソシアネートの製造方法において、ジニトロトルエンの水素化から得られた粗製トルエンジアミンを精製して、次いでホスゲン化する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジイソシアネート及びポリイソシアネートを、相応のジアミン及びポリアミンのホスゲン化によって製造することは公知である。蒸留可能なジイソシアネート及びポリイソシアネートの場合には、ホスゲン化と使用される溶剤の分離とに引き続き、イソシアネートの蒸留を行う。例えば、トルエンジイソシアネート(TDI)は、蒸留された生成物の形で得られる一方で、ジフェニルメタン系列のポリイソシアネートの高分子量混合物は、底部生成物として蒸留されていない形で得られる。
【0003】
トルエンジイソシアネート(TDI)の後処理において、大規模に溶剤が除去された粗生成物を蒸留して、溶剤が分離除去された後に残留する高沸点成分並びに低沸点成分を分離する。そのために、多段階蒸留を実施して、粗生成物中に残留する低沸点物と高沸点物が分離除去されるか[Industrielle Aromatenchemie,H.−G.Franck,J.Stadelhoefer,Springer−Verlag Berlin,1987,p.253を参照]、又は選択的に、よりエネルギー効率の高い一体型の隔壁塔(partition column)が使用される(EP−A1−1413571号又はDE−A1−1260092号に相当すると思われる公開された米国出願第2004/118672号に記載される)。
【0004】
TDIの蒸留において、著しく着色した粗製TDI生成物は、透明な、ほぼ無色の最終生成物をもたらす。しかしながら、大いに蒸留されたTDIでさえも、時としてTDIの不所望な着色を引き起こす色付与成分が完全に含まれないわけではない。
【0005】
蒸留されたTDI生成物の不所望な着色には、様々な原因が考えられ、それらの回避のためには種々の方法が必要となる。
【0006】
例えば、EP−A1−187808号に相当すると思われる米国特許第6,900,348号では、ジフェニルメタン系列のイソシアネートの製造において50ppm未満の臭素含量を有するホスゲンを使用することで、ホスゲン化に際して淡色のイソシアネートがもたらされうることが記載されている。
【0007】
同様に、EP−A1−816333号は、TDIの減色のための方法において、粗製TDI溶液を、溶剤の分離除去前に水素で処理する方法を記載している。
【0008】
ホスゲン化後の粗製イソシアネート生成物の処理に加えて、アミン流の処理も、ホスゲン化により製造されるイソシアネートの減色をもたらしうる。EP−A1−866057号に相当すると思われる米国特許第5,872,278号は、アミンを、ホスゲンとの反応前に、ルイス酸及び/又はブレンステッド酸の酸中心を有する固体物質で処理する方法を記載している。得られたイソシアネートは、その際、未処理のアミンを使用した場合よりも淡色を呈する。
【0009】
ここで、蒸留されたTDIの色値は、ホスゲン化で使用されるトルエンジアミン(TDA)が、使用されるTDAの100質量%に対して、0.1質量%未満の環状ケトンの全含量を有する場合に顕著に低減できることが判明した。
【0010】
これらの環状ケトンは、TDAから生じてよく、かつ0、1又は2個の二重結合を有する6員の骨格を基礎とすることができる。二重結合は、ケト官能基に関して共役であってよく、又は選択的に、二重結合は、それに対して孤立であってもよい。0、1又は2個の二重結合を有するシクロアルカン骨格又はシクロアルケン骨格は、1又は2個のアミノ官能基によって置換されていてよい。また更に、メチル基によって置換されていてもよい。
【0011】
TDA中の環状ケトン又はその前駆体は、ジニトロトルエン(DNT)の水素化の間に、例えば水性媒体中の水によるアミノ官能の交換によって形成しうる。ニトロ化過程の間の酸化的攻撃によるケト官能基の酸化的導入も可能であり、それによりニトロクレゾール類が形成しうる。
【0012】
トルエンジアミン(TDA)の他に、工業用TDAは通常は、水素化の副生成物、例えば環での水素化が完全もしくは部分的であるTDAも含んでいる。例えばアミノ官能基が、環での水素化が完全もしくは部分的であるTDAにおいて水によって交換されれば、アミノメチルシクロヘキサノン又はアミノメチルシクロヘキセノンが形成される。例えばアミノ官能基が、環での水素化が完全もしくは部分的であるTDAにおいて水によって交換され、かつ更に脱アミノ化されれば、例えばメチルシクロヘキサノン又はメチルシクロヘキセノンが形成される。例えば両方のアミノ官能基が水によって交換されれば、メチルシクロヘキサジオン類が形成しうる。ジニトロトルエンの製造からのニトロクレゾール類を水素化に送れば、それらは同様にそこで環での部分水素化により反応して、環状ケトンとなりうる。
【0013】
後続のホスゲン化工程において、TDA中に存在する環状ケトンは次いでホスゲン化され、場合により塩素化されることがあり、その際、第一の場合には、イソシアナトシクロアルケノン類又はイソシアナトシクロアルカノン類が形成し、又は第二の場合には、またクロロイソシアナトシクロアルケン類が形成しうる。
【0014】
環状のイソシアナトシクロアルケノン類、イソシアナトシクロアルカノン類及び/又はクロロイソシアナトシクロアルケン類は反応性物質なので、これらは、TDIとの付加物、それ自体との付加物又は他のTDI副生成物との付加物を形成する可能性がある。イソシアナトシクロアルケノン類は、例えばジエン類又は芳香族化合物ともディールス・アルダー反応を開始する可能性がある(Angell,E.Charles;Fringuelli,Francesco;Guo,Ming;Minuti,Lucio;Taticchi,Aldo;Wenkert,Ernest.Diels−Alder reactions of cycloalkenones.14.Endo diastereoselectivity of 2−cyclohexenones in reactions with cyclopentadiene.Journal of Organic Chemistry(1988),53(18),4325−8)。同様に、二量体が形成することがある(An Enone−Dienol Tautomerism and an Iron(III)−Catalysed Dimerization of Cycloalkenone−2−carboxylates.Christoffers,Jens.Institut fuer Organische Chemie,Technische Universitaet Berlin,Berlin,Germany.Journal of Organic Chemistry(1998),63(13),4539−4540)。蒸留による粗製TDI生成物の一段階又は多段階の後処理において、低沸点物としての環状のイソシアナトシクロアルケノン類、イソシアナトシクロアルカノン類及び/又はクロロイソシアナトシクロアルケン類は、循環流において不所望に濃縮状態になることがあり、それは二量体又はディールス・アルダー付加物の形成について反応性を更に高める。
【特許文献1】EP−A1−1413571号
【特許文献2】DE−A1−1260092号
【特許文献3】米国出願第2004/118672号
【特許文献4】EP−A1−187808号
【特許文献5】EP−A1−816333号
【特許文献6】EP−A1−866057号
【特許文献7】米国特許第5,872,278号
【非特許文献1】Industrielle Aromatenchemie,H.−G.Franck,J.Stadelhoefer,Springer−Verlag Berlin,1987,p.253
【非特許文献2】Angell,E.Charles;Fringuelli,Francesco;Guo,Ming;Minuti,Lucio;Taticchi,Aldo;Wenkert,Ernest.Diels−Alder reactions of cycloalkenones.14.Endo diastereoselectivity of 2−cyclohexenones in reactions with cyclopentadiene.Journal of Organic Chemistry(1988),53(18),4325−8
【非特許文献3】An Enone−Dienol Tautomerism and an Iron(III)−Catalysed Dimerization of Cycloalkenone−2−carboxylates.Christoffers,Jens.Institut fuer Organische Chemie,Technische Universitaet Berlin,Berlin,Germany.Journal of Organic Chemistry(1998),63(13),4539−4540
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
イソシアナトシクロアルケノン類、イソシアナトシクロアルカノン類及び/又はクロロイソシアナトシクロアルケン類から、TDIとか、それら自体とか、又は他の副生成物と形成される二量体又はディールス・アルダー付加物は、多かれ少なかれある程度で色が付与されることがある。その際、環状のイソシアナトシクロアルケノン類、イソシアナトシクロアルカノン類及び/又はクロロイソシアナトシクロアルケン類から蒸留作業の間に形成される大きな割合の前記の着色された付加物又は二量体は、TDI蒸留から、着色されたTDIをもたらすTDI流とともに排出されうる。
【0016】
TDAの100質量%に対して0.1質量%未満の環状ケトンの全含量を有するTDA流をホスゲン化で使用すれば、TDIの製造において、例えばTDI製造プロセスの蒸留の循環流中で環状のイソシアナトシクロアルケノン類、イソシアナトシクロアルカノン類及び/又はクロロイソシアナトシクロアルケン類の濃度を、色付与する付加物又は二量体の形成が僅かに少ない程度までしか生じないほど減少させることができる。より少ない色付与する付加物又は二量体がTDI生成物とともにプロセスを出て行けば、生成物として得られるTDIは、顕著に殆ど着色がなくなる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、トルエンジアミンのホスゲン化によるトルエンジイソシアネートの製造方法に関する。本方法は、
a)ジニトロトルエンを触媒の存在下で水素化して、粗製トルエンジアミン混合物を得ること、
b)該粗製トルエンジアミン混合物を精製して、トルエンジアミンの100質量%に対して0.1質量%未満の全量の環状ケトンを含有するトルエンジアミンを得ること、及び
c)b)で形成された、トルエンジアミンの100質量%に対して0.1質量%未満の全量の環状ケトンを含有するトルエンジアミンをホスゲン化して、トルエンジイソシアネートを得ること
を含む。
【0018】
精製工程b)から得られるトルエンジアミンにおいて、トルエンジアミンの100質量%に対して0.1質量%未満の全量で環状ケトンが含まれる。a)で形成される粗製トルエンジアミン混合物は、種々のTDA異性体、例えば2,4−TDA、2,6−TDA、3,5−TDA(m−TDA)、2,5−TDA(p−TDA)及び2,3−TDA、3,4−TDA(o−TDA)と、環状ケトン並びに種々の量の水、ヘキサヒドロ−TDA、ヘキサヒドロトルイジン、ニトロトルイジン、トルイジンと、高沸点物、例えばジフェニルアミン、ジフェニルメタン及び/又はフェナジン誘導体を含有する。この粗製TDA混合物は、一般に、少なくとも約98質量%のTDAを含有する。
【0019】
精製工程b)で得られるトルエンジアミンは、環状ケトンを、トルエンジアミンの100質量%に対して0.1質量%未満、有利には0.07質量%未満、より有利には0.04質量%未満の全量で含有する。有利には、精製工程b)から得られるトルエンジアミンは、アルキル化された環状ケトンを、トルエンジアミンの100質量%に対して、0.1質量%未満、有利には0.07質量%未満の濃度で含有する。
【0020】
存在する環状ケトンの全量(すなわち質量%)は、精製されたトルエンジアミン中に工程b)後に残留する全ての環状ケトンの全質量を意味すると解されるべきである。これらの環状ケトンは、例えばメチル置換された、エチル置換された又は非置換のシクロアルカノン類、シクロアルケノン類、アミノシクロアルカノン類、アミノシクロアルケノン類及びシクロアルカジオン類、有利にはメチルシクロヘキサノン類、メチルシクロヘキセノン類、アミノメチルシクロヘキサノン類、アミノメチルシクロヘキセノン類及びメチルシクロヘキサジオン類、より有利にはアミノメチルシクロヘキサノン類及びアミノメチルシクロヘキセノン類を含む。
【0021】
本発明によれば、ジニトロトルエンの触媒の存在下での工程a)における水素化は、通常の様式で、触媒、例えばニッケル触媒又は貴金属触媒を含有する反応槽中で、懸濁液、流動床又は固定床の形で実施される。係る方法は、当該技術分野で知られており、かつ例えばDE2135154号、DE3734344号、米国特許第5,563,296号(EP−634391号Aに相当すると思われる)、米国特許第5,779,995号(DE4435839号Aに相当すると思われる)、公開された米国出願第2003/049185号、同第2003/050510号及び同第2005/129594号(これらはEP−1287884号Aに相当すると思われる)、米国特許第6,005,143号(EP−978505号Aに相当すると思われる)及び米国特許第6,140,539号(EP−1033361号Aに相当すると思われる)に記載されており、これらの内容は参照をもって開示されたものとする。該水素化反応は、気相中で、又は選択的に液相中で実施することができる。液相中での反応の場合に必要な混合力は、撹拌機又はノズルを介して内部循環ポンプ及び/又は外部循環ポンプ中に導入することができる。熱の放散は、反応器中の熱交換器によって、又は選択的に外部回路において実施することができる。触媒が固定床触媒であれば、該触媒は、トリクルベッド又はモノリスの形で存在してよい。液相中での水素化の場合に、水素化は、付加的な溶剤を使用して又は使用せずに実施することができる。気相中での水素化の場合に、水素化は、キャリヤーガスを使用して又は使用せずに実施することができる。
【0022】
水素化の後に、粗製TDA混合物を工程b)において精製する。精製は、蒸留、結晶化及び/又は熱的後処理によって、並びに化学的な酸化又は還元の過程によって実施することができる。
【0023】
本方法の有利な一実施態様では、工程b)における精製工程は蒸留によって実施され、従って反応水並びに低沸点副生成物、例えばヘキサヒドロトルイジン、ヘキサヒドロ−TDA及び場合により溶剤は、部分的に又は完全に除去される。この水、低沸点物及び場合により溶剤の分離は、1もしくはそれより多い工程において実施することができる。引き続き1もしくはそれより多くのo−TDA異性体を蒸留により分離を行うことが好ましく、その際、このo−TDAの蒸留による分離は、1もしくはそれより多くの工程で実施することが可能である。これに引き続き、高沸点物を蒸留によって、残留するm−TDAから分離することが好ましい。
【0024】
当該技術分野によれば、高沸点物のm−TDAからの分離は、通常は、蒸発器と凝縮器の簡単な組み合わせを使用することによって実施され、それは、例えば米国特許第6,359,177号に記載されており、その内容は参照をもって開示されたものとする。しかしながら、この方法は、必ずしも0.1質量%未満の環状ケトンの全含量を有するTDAをもたらさないことが判明した。
【0025】
従って、本発明による方法の有利な一実施態様では、反応水、低沸点物及び場合により溶剤並びにo−TDAを、まず粗製トルエンジアミン混合物から部分的にもしくは完全に分離し、次いで高沸点物及び環状ケトンを、m−TDAから部分的に又は完全にのいずれかで分離する。高沸点物及び環状ケトンをm−TDAから分離することは、蒸発器と凝縮器を有する蒸留塔を用いて実施することが好ましい。その分離は、50〜2000ミリバール、より有利には60〜500ミリバール、最も有利には70〜200ミリバールの頂部絶対圧で実施される。それにより、有利には140〜320℃、より有利には190〜260℃、最も有利には195〜230℃の頂部温度が得られる。該塔は、有利には少なくとも3つ、より有利には少なくとも5つ、最も有利には7〜20つの理論段をストリッピング帯域中に有する。また、分離補助具として、当業者に公知の任意の取り付け要素、例えばシーブ、バブルキャップ又はバルブプレート又は規則充填材もしくは不規則充填材を使用することもできる。分離補助具を通した圧力損失は低く保つべきであり、その圧力損失は、有利には150ミリバール未満、より有利には100ミリバール未満である。バラ充填材(bulk packing material)及び規則充填材は、有利には100〜500m2/m3、より有利には200〜350m2/m3の比表面積を有する。底部温度は、高沸点物の含量と塔中の圧力損失によって規定される;その際、塔の作業条件は、有利には底部温度260℃未満、より有利には240℃未満が得られるように選択される。精留帯域における理論段数と還流比は、生成物中の環状ケトンの所望の含量によって左右される。しかしながら、本発明による方法は、精留帯域なくして実施できることも判明した。これは、プロセスコストの点で好ましい。
【0026】
本発明による方法の代替的な有利な一実施態様では、反応水、低沸点物及び場合により溶剤を、まず粗製トルエンジアミン混合物から部分的にもしくは完全に分離し、次いでo−TDA、高沸点物及び環状ケトンを、m−TDAから部分的に又は完全に分離する。o−TDA、高沸点物及び環状ケトンの蒸留による分離は、一段階又は多段階の蒸留シーケンスで、隔壁塔を用いて実施することができ、該塔により、有利にはo−TDAと高沸点物の分離が組み合わされる。該隔壁塔への供給物として、粗製トルエンジアミン混合物であって反応水、低沸点物及び場合により溶剤が部分的にもしくは完全に除去されて、トルエンジアミン100質量%に対して0.5質量%未満の環状ケトン、より有利には0.3質量%未満の環状ケトンを含有する混合物を使用することが好ましい。
【0027】
本願に適した隔壁塔は、例えば公開された米国出願第2003/0230476号A1に何度か既に記載されており、これらの文献は参照をもってその内容が開示されたものとする。本発明による方法の有利な別形では、環状ケトンが枯渇したm−TDAを側流として分離することが好ましい。該側流は、隔壁の水準で、つまり隔壁から側方で分離することが好ましい。それにより環状ケトンは、隔壁塔の底部から高沸点物とともに部分的にもしくは完全に排出される。有利には、その分離は、50〜2000ミリバール、より有利には60〜500ミリバール、最も有利には70〜200ミリバールの頂部絶対圧で実施される。m−TDAの側流除去の下方にあるストリッピング帯域において、該塔は、有利には少なくとも5つ、より有利には少なくとも6つ、最も有利には7〜20つの理論段を有する。また、分離補助具として、当業者に公知の任意の取り付け要素、例えばシーブ、バブルキャップ又はバルブプレート又は規則充填材もしくは不規則充填材を使用することもできる。分離補助具を通した圧力損失は低く保つべきであり、その圧力損失は、有利には150ミリバール未満、より有利には100ミリバール未満である。バラ充填材及び規則充填材は、有利には100〜500m2/m3、より有利には200〜350m2/m3の比表面積を有する。底部温度は、高沸点物の含量と塔中の圧力損失によって規定される;その際、塔の作業条件は、有利には底部温度260℃未満、より有利には240℃未満が得られるように選択される。
【0028】
工程b)の精製の間に、TDA中に存在する環状ケトンの全含量における大きな低下が有利には達成される。TDA中に存在する環状ケトンの質量に対する全含量は、有利には工程b)において、25質量%より多い量だけ、より有利には40質量%より多い量だけ減少される。
【0029】
工程b)の精製の後に、精製されたトルエンジアミンが得られる。この精製されたトルエンジアミンは、トルエンジアミンの100質量%に対して、全体で0.1質量%未満の環状ケトンを含有する。
【0030】
TDA粗製混合物中の比較的に低い含量の環状ケトンは、既に、工程a)での水素化のための条件を適宜選択することによって確立することができる。当該技術分野によれば、種々の触媒、種々の反応器及び種々の温度と圧力を、TDAの製造において使用することができる。本願で挙げることができる当該技術分野で公知のこれらの別形の例は、DE2135154号、DE3734344号、米国特許第5,563,296号(EP−634391号Aに相当すると思われる)、米国特許第5,779,995号(DE4435839号Aに相当すると思われる)、公開された米国出願第2003/049185号、同第2003/050510号及び同第2005/129594号(これらはEP−1287884号Aに相当すると思われる)、米国特許第6,005,143号(EP−978505号Aに相当すると思われる)及び米国特許第6,140,539号(EP−1033361号Aに相当すると思われる)を含み、これらの内容は参照をもって開示されたものとする。しかしながら、これらの参考資料に記載されたジニトロトルエンを水素化してTDAを得る方法は、0.1質量%未満の環状ケトンの全含量を有する粗製TDA混合物をもたらさない。
【0031】
しかしながら、水素化条件(例えば使用される水素化触媒、基礎的な反応パラメータ、例えば圧力、温度、滞留時間)を最適化することによって、水素化法によって製造される粗製TDA混合物中の環状ケトンの含量を、低減させることができる。例えば、比較的に低い含量の環状ケトンを有する粗製TDA混合物を、選択性の高い触媒、低温及び反応系におけるTDA生成物の短い滞留時間の組合せを選択することによって製造することが可能である。好適な触媒は、例えば選択性の高いドープされたもしくはドープされていないラネーニッケル触媒、ドープされたもしくはドープされていないニッケル触媒であって担持体に固定されたもの、又は貴金属触媒であって担持体に固定されかつ1もしくはそれより多くの貴金属で負荷されたものである。好適な水素化条件は、例えば120〜180℃、20〜40バールの水素圧及び反応系中での0.5〜4時間の滞留時間である。
【0032】
更に、工程a)で製造される粗製TDA混合物中の環状ケトンの含量は、更に、水素化工程のために、例えば0.05質量%未満の低い含量のニトロクレゾール類を有するジニトロトルエンを使用することによって低減させることができる。
【0033】
次いで、工程b)からの精製されたトルエンジアミンであって、トルエンジアミンの100質量%に対して0.1質量%未満の環状ケトンの全量を含有するトルエンジアミンを、工程c)でホスゲン化させる。該ホスゲン化は、液相中で実施することができる。好適な溶剤は、有利には非置換及び好適に置換された、5〜12個の炭素原子を有する芳香族又は脂肪族の溶剤、例えばトルエン、クロロベンゼン、ベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、デカリン、テトラリン、シクロヘキサン、ヘキサン、シクロヘプタン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、キシレン又はこれらの溶剤の混合物である。
【0034】
特に溶剤として、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンを使用することが好ましい。
【0035】
またトルエンジアミンのホスゲン化は、気相中で実施することもでき、その際、トルエンジアミンは、好適な圧力下で沸点より高い温度又は沸点より低い温度で使用される。
【0036】
以下の実施例は、本発明の方法について更に詳説するものである。前記の開示にある本発明は、これらの実施例によって趣旨又は範囲のどちらにおいても制限されるものではない。当業者は、以下の手順の条件の公知の変更を用いることができると容易に理解するはずである。特に記載されない限り、全ての温度は摂氏温度であり、かつ全てのパーセンテージは質量に対するパーセンテージである。
【実施例】
【0037】
実施例1〜3
第1表に示される環状ケトンの量を含有するトルエンジアミン(TDA)5.4t/hを、工業的なTDI製造方法でホスゲン化した。ホスゲン化は、多孔板塔中で70〜125℃の温度で実施した。純粋なTDIは、溶剤を分離除去し、粗製TDIを140〜160℃の温度で段階的に蒸留することによって得られた。最終蒸留工程は、充填隔壁塔中で実施し、その中で高沸点物を濃縮し、それを底部で分離除去し、そして入口流(inlet stream)中に含まれる低沸点物の大部分を濃縮し、それを頂部で分離除去した。高沸点物を、後続の蒸発による濃縮によってプロセスから排出した;該低沸点物は溶剤回路中に返送した。
【0038】
こうして得られた純粋なTDIの色を、LICO200型測定装置を用いて分析した。実施例1〜3のそれぞれについて測定した色指数も第1表に示す。
【0039】
実施例1〜3で使用されるTDAは、2種のTDAフラクションの配合によって得られた:
フラクションA:撹拌槽中で25バールの圧力でジニトロトルエンを水素化することによって製造された。使用される触媒はニッケル触媒であった。TDA反応の下流にある蒸留による分離シーケンスにおいて、水、低沸点物及びo−TDAを粗生成物から分離した。
【0040】
フラクションB:撹拌槽中で15〜30バールの圧力で120〜140℃でジニトロトルエンを水素化することによって製造された。使用される触媒はニッケル触媒であった。TDA反応の下流にある蒸留による分離シーケンスにおいて、水、低沸点物及びo−TDA、高沸点残留物及び存在する環状ケトンの一部を粗生成物から分離した。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例4〜5
第2表に示される環状ケトンの量を含有するトルエンジアミン(TDA)10.5t/hを、工業的なTDI製造方法でホスゲン化した。ホスゲン化は、多孔板塔中で70〜125℃の温度で実施した。純粋なTDIは、溶剤を分離除去し、粗製TDIを140〜180℃の温度で段階的に蒸留することによって得られた。最終蒸留工程は、充填塔中で実施し、その中で高沸点物を濃縮し、それを底部で分離除去し、そして入口流中に含まれる低沸点物の幾らかを濃縮し、それを頂部で分離除去した。高沸点物を、後続の蒸発による濃縮によってプロセスから排出した;頂部で分離除去された低沸点物を溶剤回路中に返送した。
【0043】
こうして得られた純粋なTDIの色を、LICO200型測定装置を用いて分析した。測定された色指数を表中に示す。
【0044】
実施例5で使用されるTDAは、撹拌槽中で25バールの圧力でジニトロトルエンを水素化することによって製造した。使用される触媒はニッケル触媒であった。TDA反応の下流にある蒸留による分離シーケンスにおいて、水、低沸点物、o−TDA、高沸点残留物及びまた存在する環状ケトンの25%より多くを粗生成物から分離した。
【0045】
実施例4で使用されたTDAの場合には、存在する更なる65%の環状ケトンを、実施例5と比較して、最後の蒸留工程の分離効率を改善することによって蒸留によって更に分離除去した。
【0046】
【表2】

【0047】
本発明を、説明を目的として前記において詳説したが、このような詳細は単にこの目的のためだけものであり、請求項により限定され得るものを除き、当業者によって本発明の趣旨および範囲を逸脱することなく変法が作られることができると理解すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルエンジイソシアネートの製造方法において:
a)ジニトロトルエンを触媒の存在下で水素化して、粗製トルエンジアミン混合物を得ること、
b)該粗製トルエンジアミン混合物を精製して、トルエンジアミンの100質量%に対して0.1質量%未満の全量の環状ケトンを含有するトルエンジアミンを得ること、及び
c)トルエンジアミンの100質量%に対して0.1質量%未満の全量の環状ケトンを含有するトルエンジアミンをホスゲン化して、トルエンジイソシアネートを得ること
を含む製造方法。

【公開番号】特開2007−326857(P2007−326857A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150682(P2007−150682)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(504213548)バイエル マテリアルサイエンス アクチエンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【住所又は居所原語表記】D−51368 Leverkusen, Germany
【Fターム(参考)】