説明

トルクコンバータの発進用スリップ制御装置

【課題】トルクコンバータの発進時スリップ制御において、アイドル回転数が高くて実スリップ回転が大きい場合でも、エンジン回転数がストール域に入らないようにする。
【解決手段】マップを基にアクセル開度APOおよび車速VSP(但し、除算器34で補正したもの)から目標スリップ回転tΔNetを求める。演算部32は上記のtΔNetに乗じてこれを補正するための補正ゲインGainを、エンジン回転数Ne、タービン回転数Nt、およびtΔNetからGain=Ne/(Nt+tΔNet)の演算により求める。乗算器33は補正済目標スリップ回転cΔNetを、cΔNet=tΔNet×Gainにより求め、これをトルクコンバータの発進時スリップ制御時の目標スリップ回転とする。アイドル回転数が高くて実スリップ回転が大きい場合、この目標スリップ回転cΔNetも大きくなることから、両者間のスリップ回転偏差が大きくなることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機などに用いられるトルクコンバータの入出力要素間相対回転、つまり実スリップ回転を、車両の発進時において目標スリップ回転に一致させるようにしたトルクコンバータの発進用スリップ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トルクコンバータは、流体を介して入出力要素間で動力伝達を行うため、トルク変動吸収機能や、トルク増大機能を果たす反面、伝動効率が悪い。
このため、これらトルク変動吸収機能や、トルク増大機能が不要な走行条件のもとでは、トルクコンバータの入出力要素間をロックアップクラッチにより直結(ロックアップ)するロックアップ式のトルクコンバータが多用されている。
【0003】
しかし、トルクコンバータをかように入出力要素間が直結されたロックアップ状態にするか、ロックアップクラッチの解放により流体伝動のみを行うコンバータ状態にするかの、オン・オフ的な制御では、トルクコンバータのスリップ回転を制限する領域が狭くて十分な伝動効率の向上を望み得ない。
【0004】
そこで、ロックアップクラッチを所謂半クラッチ状態にして、要求される必要最小限のトルク変動吸収機能や、トルク増大機能が確保されるような態様でトルクコンバータのスリップ回転を制限するスリップ制御領域を設定し、
これによりスリップ回転の制限を、停車を含む一層低車速まで行い得るようにしたトルクコンバータのスリップ制御技術も多々提案されている。
【0005】
かかるトルクコンバータのスリップ制御技術のうち、スリップ回転を車両発進時において目標スリップ回転に一致させるようにした発進用スリップ制御装置としては従来、例えば特許文献1に記載のようなものが提案されている。
【0006】
この提案になる発進用スリップ制御技術は、車両の発進に際してロックアップクラッチをスリップ締結させ、発進時のトルク伝達をトルクコンバータの流体伝動により行うのに並行して、ロックアップクラッチのスリップ伝動によっても行うもので、
トルクコンバータの流体伝動のみによる発進に比較して、ロックアップクラッチのスリップ伝動によっても発進が行われることから、原動機であるエンジンの回転上昇が抑制され、燃費の向上を実現し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−003193号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記提案になるトルクコンバータの発進用スリップ制御技術では、以下のような問題を生ずる。
つまり、発進用スリップ制御の開始時におけるエンジンのアイドル回転数が、補機駆動中のアイドルアップなどにより通常よりも高くされている場合、トルクコンバータの入力回転数がその分だけ高くなるために、トルクコンバータの入出力回転数差である実スリップ回転が大きくなる。
【0009】
一方トルクコンバータのスリップ制御は、発進用スリップ制御も含めて、この実スリップ回転と目標スリップ回転との間におけるスリップ回転偏差に応じ、このスリップ回転偏差が大きい場合、応答性が要求されることから、実スリップ回転を速やかに目標スリップ回転に近づけるような応答性重視の制御が行われる。
【0010】
そのため、発進用スリップ制御の開始時にエンジンのアイドル回転数が高いと、トルクコンバータの実スリップ回転が大きくて、スリップ回転偏差も大きいため、上記応答性重視の制御が行われることになる。
この場合、実スリップ回転をステップ的に目標スリップ回転に近づけることとなり、エンジン回転数の急低下を生じさせる。
かかるエンジン回転数の急低下は、時としてエンジン回転数をアンダーシュートによりエンジンストール域まで低下させることがある。
【0011】
ところで一般的な車両においては、特許文献1にも記載されている通り、このような場合もエンジンストールを生ずることのないよう、その兆候が現れたとき、ロックアップクラッチの解放によりトルクコンバータの発進用スリップ制御を中止するのが普通である。
しかし発進用スリップ制御の中止はエンジン回転数の上昇をもたらし、発進用スリップ制御による燃費向上効果を享受し得なくするだけでなく、エンジン回転数の上昇が運転者に違和感を与えるという問題をも生ずる。
【0012】
本発明は、発進用スリップ制御の開始時にアイドル回転数が高く、トルクコンバータの実スリップ回転が大きい場合でも、この実スリップ回転と、目標スリップ回転との間におけるスリップ回転偏差が大きくならないようにすれば、
前記応答性重視の制御が行われることがなくて、上記した諸々の問題を一挙に解消し得るとの事実認識に基づき、この着想を具体化したトルクコンバータの発進用スリップ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的のため、本発明によるトルクコンバータの発進用スリップ制御装置は、これを以下のごとくに構成する。
先ず、本発明の前提となる発進用スリップ制御装置は、トルクコンバータを経て原動機からの回転を伝達されて走行可能な車両に用いられ、
車両の発進に際し、トルクコンバータの入出力要素間における実スリップ回転を、少なくとも車速に応じ決定した目標スリップ回転に近づくよう制御するものである。
【0014】
本発明は、かかるトルクコンバータの発進用スリップ制御装置に対し、
トルクコンバータの実スリップ回転および目標スリップ回転間のスリップ回転偏差を演算するスリップ回転偏差演算手段と、
該手段により求めたスリップ回転偏差に応じて、該スリップ回転偏差が所定以上にならないよう前記目標スリップ回転を補正する目標スリップ回転補正手段とを設けた構成に特徴づけられる。
【発明の効果】
【0015】
かかる本発明の発進用スリップ制御装置によれば、
車両発進時にトルクコンバータの実スリップ回転を目標スリップ回転に近づくよう制御するに際し
これら実スリップ回転および目標スリップ回転間のスリップ回転偏差が所定以上にならないよう目標スリップ回転を補正するため、
原動機のアイドル回転数が高くされ、その分だけトルクコンバータの実スリップ回転が大きくなる場合でも、目標スリップ回転との間におけるスリップ回転偏差が所定以上になることがない。
【0016】
従って、発進用スリップ制御時に応答性を要求される状態に至ることがなく、実スリップ回転が緩やかに目標スリップ回転に近づくような発進用スリップ制御が行われることとなる。
そのため、発進用スリップ制御が原動機回転数の急低下を生じさせることがなく、原動機回転数がアンダーシュートによりストール域まで低下されるのを回避することができ、原動機のストール防止のための発進用スリップ制御が中止されることもない。
【0017】
よって本発明によれば、発進用スリップ制御の中止による原動機回転数の上昇を回避し得て、エンジン回転数の上昇による違和感を生じなくし得ると共に、発進用スリップ制御による燃費向上効果を継続的に享受し得なくなる事態を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例になる発進用スリップ制御装置を具えたトルクコンバータの制御系を示すシステム図である。
【図2】図1における変速機コントローラの目標スリップ回転補正処理に関した機能別ブロック線図である。
【図3】図1の変速機コントローラが目標スリップ回転の補正に際して用いる目標スリップ回転補正ゲインの算出プログラムを示すフローチャートである。
【図4】図1の変速機コントローラが実行するトルクコンバータの発進用スリップ制御プログラムを示すフローチャートである。
【図5】従来の発進用スリップ制御およびその問題点を説明するのに用いた動作タイムチャートである。
【図6】図1〜4に示す実施例で演算した補正済目標スリップ回転の、車速に対する変化特性を示す特性線図である。
【図7】図1〜4の実施例によるトルクコンバータの発進用スリップ制御の動作タイムチャートである。
【図8】図1〜4の実施例によるトルクコンバータの発進用スリップ制御の動作タイムチャートである。
【図9】図1〜4の実施例によるトルクコンバータの発進用スリップ制御の動作タイムチャートである。
【図10】図1〜4の実施例によるトルクコンバータの発進用スリップ制御の動作タイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
<実施例の構成>
図1は、本発明の一実施例になる発進用スリップ制御装置を具えたトルクコンバータの制御系を示し、1は、原動機としてのエンジン、2は、トルクコンバータである。
【0020】
トルクコンバータ2は、エンジン1および自動変速機3との間を結合するもので、
エンジン1により駆動される入力要素としてのポンプインペラ2aと、自動変速機3の入力軸に結合された出力要素としてのタービンランナ2bと、これらポンプインペラ2aおよびタービンランナ2b間を結合可能なロックアップクラッチ2cとを具えた、所謂ロックアップ式トルクコンバータとする。
【0021】
エンジン1の回転は、トルクコンバータ2を介して自動変速機3の入力軸に伝達され、自動変速機3は入力回転をギヤ比に応じ変速してディファレンシャルギヤ装置4に向かわせる。
ディファレンシャルギヤ装置4は、自動変速機3からの変速後の動力を左右駆動輪5に分配出力し、これら左右輪5の駆動により車両を走行させることができる。
【0022】
トルクコンバータ2はトルク伝達を、内部作動流体を介したポンプインペラ2aおよびタービンランナ2b間での流体伝動により行うことを旨とするが、
ロックアップクラッチ2cの締結時は、上記流体伝動によるトルク伝達に並行して、ロックアップクラッチ2cの締結力に応じたクラッチ伝動によってもトルク伝達を行うものである。
【0023】
ロックアップクラッチ2cの締結力は、その前後におけるアプライ圧Pa およびレリーズ圧Pr 間の差圧(ロックアップクラッチ締結圧)によって決まり、
アプライ圧Pa がレリーズ圧Pr よりも低ければ、ロックアップクラッチ2cは解放されてポンプインペラ2aおよびタービンランナ2b間をクラッチ結合せず、
トルクコンバータ2を、スリップ制限しないコンバータ状態で流体伝動を行うよう機能させる。
【0024】
アプライ圧Pa がレリーズ圧Pr よりも高い場合、その差圧に応じた力でロックアップクラッチ2cを締結させ、
トルクコンバータ2を、ロックアップクラッチ2cの締結力に応じてスリップ制限するスリップ制御状態で機能させる。
そして当該差圧が設定値よりも大きくなると、ロックアップクラッチ締結容量の増大で、ポンプインペラ2aおよびタービンランナ2b間の相対回転がなくなり、トルクコンバータ2を、スリップ回転が0のロックアップ状態で機械的伝動を行うよう機能させる。
【0025】
トルクコンバータ2は上記のスリップ制御状態では、ポンプインペラ2aおよびタービンランナ2b間の相対回転(スリップ回転)に起因した流体伝動によるコンバータトルクと、ロックアップクラッチ2cによる機械的伝動に起因したトルク(ロックアップクラッチ締結容量)との和値に相当するトルクを伝達することとなり、この和値に相当するトルクがエンジン出力トルクに等しい。
【0026】
本実施例においては、トルクコンバータ2のスリップ制御を行うべくアプライ圧Pa およびレリーズ圧Pr を決定するスリップ制御系を以下の構成とする。
図1におけるスリップ制御弁11は、変速機コントローラ12によりデューティ制御されるロックアップソレノイド13からの信号圧Ps に応じてアプライ圧Pa およびレリーズ圧Pr を決定するもので、
これらスリップ制御弁11およびロックアップソレノイド13はそれぞれ周知のものとする。
【0027】
即ち、ロックアップソレノイド13は一定のパイロット圧Pp を元圧として、コントローラ12からのソレノイド駆動デューティDの増大につれ信号圧Ps を高くするものとする。
一方でスリップ制御弁11は、上記の信号圧Ps およびフィードバックされたレリーズ圧Pr を一方向に受けると共に、他方向にバネ11aのバネ力およびフィードバックされたアプライ圧Pa を受け、
信号圧Ps の上昇につれて、アプライ圧Pa とレリーズ圧Pr との間の差圧(Pa −Pr )で表されるロックアップクラッチ2cの締結圧を、負値から正値へと連続的に変化させるものとする。
【0028】
ここでロックアップクラッチ締結圧(Pa −Pr )の負値はPa<Pr によりロックアップクラッチ2cを解放し、トルクコンバータ2をコンバータ状態にすることを意味し、
逆にロックアップクラッチ締結圧(Pa −Pr )が正である時は、その値が大きくなるにつれて、ロックアップクラッチ2cの締結力が増大され、トルクコンバータ2のスリップ回転を大きく制限し、遂にはトルクコンバータ2をクラッチ2cの完全締結によりロックアップ状態にすることを意味する。
【0029】
変速機コントローラ12には、図1に示すように、
ポンプインペラ2aの回転速度(トルクコンバータ入力回転数)であるエンジン回転数Neを検出するエンジン回転センサ21からの信号と、
タービンランナ2bの回転速度(トルクコンバータ出力回転数)であるタービン回転数Ntを検出するタービン回転センサ22からの信号と、
自動変速機3の出力回転速度である車速VSPを検出する車速センサ23からの信号と、
エンジン1への要求負荷であるアクセル開度(アクセルペダル踏み込み量)APOを検出するアクセル開度センサ24からの信号と、
ブレーキペダルを踏み込む制動時にONとなるブレーキスイッチ25からの信号と、
自動変速機3の選択レンジ(P,R,N,D,Lレンジ)を検出するインヒビタスイッチ26からの信号とを入力する。
【0030】
<発進用スリップ制御>
変速機コントローラ12は上記の入力情報をもとに、図2に示す機能別ブロック線図に沿った演算により、また図3,4に示す制御プログラムを実行して、ロックアップソレノイド13の駆動デューティDを決定し、本発明が狙いとするトルクコンバータ2の発進用スリップ制御を行う。
駆動デューティDは、図1のロックアップソレノイド13に供給され、そのデューティー駆動により、後で詳述するトルクコンバータ2の発進用スリップ制御を行う。
【0031】
本発明が狙いとするトルクコンバータ2の発進用スリップ制御を説明する前に、先ず、従来の発進用スリップ制御およびその問題点を説明する。
発進用スリップ制御は、停車状態でブレーキペダルを釈放するなどの発進準備操作があったとき開始される。
従来の場合、先ずトルクコンバータ2の実スリップ回転ΔNet=Ne−Ntを求め、
アクセル開度APOおよび車速VSPからトルクコンバータ2の目標スリップ回転tΔNetを予定マップから検索により求め、
これら実スリップ回転ΔNetおよび目標スリップ回転tΔNet間におけるスリップ回転偏差dΔNetの大きさに応じた応答で実スリップ回転ΔNetを目標スリップ回転tΔNetに一致させるように駆動デューティDを決定し、この駆動デューティーDをロックアップソレノイド13に指令して、実スリップ回転ΔNetを上記の応答で目標スリップ回転tΔNetに一致させる。
【0032】
しかし、図5に実線で示すようにエンジン回転数Neが、補機駆動中のアイドルアップなどにより、破線で示す通常アイドル回転よりも高くされている場合、トルクコンバータの入力回転数がその分だけ高いために、トルクコンバータ2の入出力回転数差である実スリップ回転ΔNetが図5に実線で示すように、破線で示す通常アイドル回転時の実スリップ回転ΔNetよりも大きくなる。
【0033】
そのため、図5の瞬時t1におけるブレーキスイッチ25のON→OFF切り替え(ブレーキペダルの釈放)に呼応して発進用スリップ制御が開始される時の実スリップ回転ΔNetおよび目標スリップ回転tΔNet間におけるスリップ回転偏差dΔNetが大きい。
一方で発進用スリップ制御は前記のごとく、スリップ回転偏差dΔNetの大きさに応じた応答で実スリップ回転ΔNetを目標スリップ回転tΔNetに一致させるように行われる。
【0034】
よって、発進用スリップ制御の開始瞬時t1にエンジンアイドル回転数Neが図5に実線で示すごとくに高いと、大きなスリップ回転偏差dΔNetに応じた高速で実スリップ回転ΔNetを図5に実線で示すごとく目標スリップ回転tΔNetに一致させる制御により、エンジン回転数Neの図5に実線で示す急低下を生じさせる。
かかるエンジン回転数Neの急低下は、時としてエンジン回転数Neを図5に実線で示すごとくアンダーシュートにより、通常アイドル回転数未満のエンジンストール域まで低下させることがある。
【0035】
ところで一般的な車両においては、このような場合もエンジンストールを生ずることのないよう、その兆候が現れた図5のエンジンストール判定瞬時t2に、ロックアップクラッチ2cの解放によりトルクコンバータ2の発進用スリップ制御を中止して、エンジンストールの発生を防止する。
しかし発進用スリップ制御の中止は、図5の瞬時t2以降に実線で示すようなエンジン回転数Neの上昇をもたらし、発進用スリップ制御による燃費向上効果を享受し得なくするだけでなく、エンジン回転数Neの上昇で運転者に違和感を与える。
【0036】
本実施例においては、発進用スリップ制御の開始時にアイドル回転数が高く、トルクコンバータの実スリップ回転ΔNetが大きい場合でも、この実スリップ回転ΔNetと、目標スリップ回転tΔNetとの間におけるスリップ回転偏差dΔNetが大きくならないようにすることで、上記の問題を生ずることなしに発進用スリップ制御を行い得るようにする。
そのため変速機コントローラ12は、図2に示す機能別ブロック線図に沿った演算により、また図3,4に示す制御プログラムを実行して、目標スリップ回転tΔNetを上記の狙いが達成されるよう補正し、発進用スリップ制御に資することとする。
【0037】
図2は、変速機コントローラ12が実行する目標スリップ回転の補正処理に関した機能別ブロック線図で、この図2に示す目標スリップ回転補正処理部分は、本発明におけるスリップ回転偏差演算手段および目標スリップ回転補正手段に相当し、目標スリップ回転演算部31と、補正ゲイン演算部32と、補正済目標スリップ回転演算部の用をなす乗算器33と、車速補正部の用をなす除算器34とにより構成する。
目標スリップ回転演算部31は、予定の目標スリップ回転マップを基にアクセル開度APOおよび車速VSP(但し、除算器34で後述の補正を行ったもの)から目標スリップ回転tΔNetを検索して求める。
【0038】
補正ゲイン演算部32は、上記の目標スリップ回転tΔNetに乗じてこれを補正するための目標スリップ回転補正ゲインGainを、図3の制御プログラムによって算出する。
図3のステップS41においては、インヒビタスイッチ26で検出した自動変速機3の選択レンジが前進走行(D)レンジか否かをチェックし、
ステップS42においては、ブレーキスイッチ25がONの制動中、またはアクセル開度APOが開いているアクセルON状態か否かをチェックし、
ステップS43においては、車速VSPが0の停車中か否かをチェックする。
【0039】
ステップS41で前進走行(D)レンジでないと判定したり、ステップS42で制動中またはアクセルON状態と判定したり、ステップS43で車速VSPが発生している走行中と判定するときは、目標スリップ回転補正ゲインGainを算出不要または算出不能であるため、制御をそのまま終了して、補正ゲインGainの算出を行わない。
ステップS41で前進走行(D)レンジと判定し、且つステップS42でブレーキOFFのアイドル中と判定し、更にステップS43で車速VSP=0の停車中と判定するときは、目標スリップ回転補正ゲインGainを正確に算出可能であるため、制御をステップS44以降に進めて補正ゲインGainの算出を行う。
【0040】
補正ゲインGainの算出に当たっては、先ずステップS44において前回の補正ゲインGainの初期化を行い、次のステップS45において、エンジン回転数Ne、タービン回転数Nt、および図2の演算部31で前記のようにして求めた目標スリップ回転tΔNetを用いる次式の演算により今回の補正ゲインGainを算出する。
Gain=Ne/(Nt+tΔNet) ・・・(1)
上式における(Nt+tΔNet)は、目標スリップ回転tΔNetを実現するのに必要な目標エンジン回転数tNeを意味し、補正ゲインGainは、この目標エンジン回転数tNeに対する実エンジン回転数Neの比である。
【0041】
図3のステップS46〜ステップS52は、上記補正ゲインGainの算出を終了するか否かを判定するもので、
ステップS46においては、自動変速機3の選択レンジがDレンジか否かをチェックし、
ステップS47においては、ブレーキスイッチ25がONの制動中、またはアクセル開度APOが開いているアクセルON状態か否かをチェックし、
ステップS48においては、前記トルクコンバータ2のロックアップを禁止する信号がON「ロックアップ禁止中」か否かをチェックし、
ステップS49においては、車速VSPが設定閾値V1未満の低車速か否かをチェックし、
ステップS51においては、補正ゲインGainが設定閾値Y1以下か否かをチェックし、
ステップS52においては、実スリップ回転ΔNetと、目標スリップ回転tΔNetとの間におけるスリップ回転偏差dΔNetが設定閾値Y2以下か否かをチェックする。
【0042】
ステップS46で前進走行(D)レンジでないと判定したり、ステップS47で制動中またはアクセルON状態と判定したり、或いは、
ステップS48でロックアップ禁止信号がOFF「ロックアップ禁止解除中」と判定している間において、
ステップS49で車速VSPが設定閾値V1以上であると判定したり、
ステップS51で補正ゲインGainが設定閾値Y1を超えていると判定したり、
ステップS52でスリップ回転偏差dΔNetが設定閾値Y2を超えていると判定するときは、
制御をそのまま終了して、ステップS45での補正ゲインGainの算出を終了させる。
【0043】
ステップS46で前進走行(D)レンジと判定し、且つステップS47でブレーキOFFのアイドル中と判定し、更にステップS48でロックアップ禁止信号がON「ロックアップ禁止中」と判定する場合や、
ステップS48でロックアップ禁止信号がOFF「ロックアップ禁止解除中」と判定している間であっても、ステップS49で車速VSPが設定閾値V1未満と判定し、且つステップS51で補正ゲインGainが設定閾値Y1以下と判定し、更にステップS52でスリップ回転偏差dΔNetが設定閾値Y2以下と判定する場合は、
制御をステップS45に戻して、ここでの前記補正ゲインGainの算出を引き続き行わせる。
【0044】
図2における演算部32が、上記のように図3の制御プログラムを実行して求めた目標スリップ回転補正ゲインGainと、同じく図2における演算部で求めた目標スリップ回転tΔNetとから、図2の乗算器33は次式のごとく補正ゲインGainの乗算により目標スリップ回転tΔNetを補正して、補正済目標スリップ回転cΔNetを求める。
cΔNet=tΔNet×Gain ・・・(2)
ちなみに、かかる補正済目標スリップ回転cΔNetを実現するのに必要な補正済目標エンジン回転数cNeは、次式で求め得る。
cNe=Nt+cΔNet ・・・(3)
【0045】
ところで、図2の演算部31で目標スリップ回転tΔNetを算出するに当たって車速VSPをそのまま用いる場合、図8につき後で詳述するが、上記の補正済目標スリップ回転cΔNetが補正ゲインGainに起因して車速VSPの上昇につれ低下することから、この補正済目標スリップ回転cΔNetによる発進用スリップ制御時にエンジン回転数Neが車速VSPの上昇につれて低下する。
かかるエンジン回転数Neの低下は、運転者に違和感を与えると共に、ロックアップクラッチ2cの急締結を惹起し、その締結ショックを生じさせる。
かようにエンジン回転数Neが車速VSPの上昇に伴って低下することのないようにするため、図2の除算器34において車速VSPを前記の補正ゲインGainにより除算することで補正し、この補正した車速VSPを演算部31での目標スリップ回転tΔNetの算出に資する。
【0046】
かようにすることで、補正前の車速VSPを用いて得られる目標スリップ回転tΔNetおよび補正済目標スリップ回転cΔNetがそれぞれ、車速VSPに対し図6の二点鎖線および破線で示すごとくに変化するのに対し、
補正後の車速VSP(←VSP÷Gain)を用いて得られる補正済目標スリップ回転cΔNetは、車速VSPに対し図6の実線で示すごとくに変化し、補正済目標スリップ回転cΔNetをΔVSPの車速拡大域においても存在させることができ、発進用スリップ制御中にエンジン回転数Neが車速VSPの上昇に伴って低下するのを防止、若しくは緩和することができる。
【0047】
図4は、上記した補正済目標スリップ回転cΔNetに基づく発進用スリップ制御を示す。
ステップS61においては、既に発進用スリップ制御中か否かをチェックし、スリップ制御中でなければ、そのまま制御を終了してスリップ制御を行わせない。
ステップS61でスリップ制御中と判定する場合、ステップS62において補正ゲインGainが設定閾値Y1以下であると判定し、且つステップS63においてスリップ回転偏差dΔNetが設定閾値Y2以下であると判定するとき、ステップS64において発進用スリップ制御の許可を指令する。
【0048】
この許可指令を受けてコントローラ12は、実スリップ回転ΔNetおよび補正済目標スリップ回転cΔNet間におけるスリップ回転偏差dΔNetの大きさに応じた応答で実スリップ回転ΔNetを補正済目標スリップ回転cΔNetに一致させるように駆動デューティDを決定し、この駆動デューティーDをロックアップソレノイド13に出力して、実スリップ回転ΔNetを上記の応答で補正済目標スリップ回転cΔNetに一致させる、トルクコンバータ2の発進用スリップ制御を行う。
【0049】
しかして、ステップS62で補正ゲインGainが設定閾値Y1を超えていると判定したり、或いはステップS63でスリップ回転偏差dΔNetが設定閾値Y2を超えていると判定するときは、制御をステップS65およびステップS66に進めて、ステップS64を実行しないことにより発進用スリップ制御を許可せず、中止させる。
【0050】
かかるスリップ制御の中止状態である間は、ステップS65において車速VSPが設定閾値X2以上か否かによりロックアップ車速域か否かを判定し、VSP≧X2のロックアップ車速域であれば、ステップS66において、トルクコンバータ2のアプライ圧Pa およびレリーズ圧Pr 間における差圧(ロックアップクラッチ締結圧)を、ショック対策用に所定の時間変化勾配で上昇させる、ロックアップクラッチ締結圧(Pa-Pr)のランプ上昇制御により、ロックアップを進行させる。
従ってステップS66は、本発明におけるスリップ回転低下速度制限手段に相当する。
【0051】
しかし、ステップS65でVSP<X2(ロックアップ車速域でない)と判定する場合は、VSP≧X2(ロックアップ車速域になる)となるまで待機してステップS66を実行しないことにより、ロックアップ車速域でないのにトルクコンバータ2がロックアップされるのを防止する。
【0052】
<実施例の効果>
上記した実施例の発進用スリップ制御装置においては、図2の演算部31でアクセル開度APOおよび車速VSPから求めた目標スリップ回転tΔNetをそのまま発進用スリップ制御に用いず、
図2の演算部32で、図7の瞬時t1(車速VSPが0になった時)から瞬時t3(車速VSPが設定閾値V1以上になった時)までの間に、図3につき前述した通り前記(1)式の演算により補正ゲインGainを求め、
乗算器33で、上記の目標スリップ回転tΔNetにこの補正ゲインGainを乗じて得られる補正済目標スリップ回転cΔNetを発進用スリップ制御に用いるため、以下の効果が奏し得られる。
【0053】
つまり上記したゲインGainによる目標スリップ回転tΔNetの補正によれば、その補正結果である補正済目標スリップ回転cΔNetが、エンジン回転数Neの上昇に応じて大きくなる。
このため、図7に破線で示すようにエンジンアイドル回転数Neが、補機駆動時のアイドルアップなどにより通常のアイドル回転よりも高くされている場合、その分だけ補正済目標スリップ回転cΔNetも目標スリップ回転tΔNetから図7に矢印で示すごとくに増大される。
【0054】
かようにエンジンアイドル回転数Neが高いと、図7に示すように実スリップ回転ΔNetも大きくなるが、このとき上記の通り補正済目標スリップ回転cΔNetも図7に矢印で示すごとくに増大されるため、
実スリップ回転ΔNetおよび補正済目標スリップ回転cΔNet間のスリップ回転偏差dΔNetは大きくなることがない。
【0055】
従って、図7の瞬時t2にブレーキスイッチ25のON→OFF切り替え(ブレーキペダルの釈放)に呼応して発進用スリップ制御が開始された時のスリップ回転偏差dΔNetが小さく、このスリップ回転偏差dΔNetの大きさに応じた応答で実スリップ回転ΔNetを補正済目標スリップ回転cΔNetに一致させるように行われる瞬時t2からの発進用スリップ制御は、エンジン回転数Neを図7に示すように、図5の実線で示す急低下なしに、滑らかに低下させる。
【0056】
図5の実線で示す発進用スリップ制御開始時t1におけるエンジン回転数Neの急低下は、時としてエンジン回転数Neをアンダーシュートにより、通常アイドル回転数未満のエンジンストール域まで低下させることがある。
このような場合、通常はエンジンストールを生ずることのないよう、その兆候が現れた図5のエンジンストール判定瞬時t2に、ロックアップクラッチ2cの解放によりトルクコンバータ2の発進用スリップ制御を中止するため、
これに伴うエンジン回転数Neの上昇で運転者に違和感を与えたり、発進用スリップ制御による燃費向上効果を享受し得なくなる。
【0057】
しかし本実施例においては、発進用スリップ制御の開始時にアイドル回転数が高く、トルクコンバータ2の実スリップ回転ΔNetが大きい場合、それに応じて目標スリップ回転tΔNetを前記補正ゲインGainにより図7の矢印方向へ補正して得られる補正済目標スリップ回転cΔNetを発進用スリップ制御に資するため、
図7につき上述した通り、実スリップ回転ΔNetと、補正後の目標スリップ回転cΔNetとの間におけるスリップ回転偏差dΔNetが大きくならず、エンジン回転数Neを図7に示すように、図5の実線で示す急低下なしに、滑らかに低下させることができる。
【0058】
従って本実施例によれば、エンジン回転数Neがアンダーシュートによりエンジンストール域まで低下することがなく、エンジンストール防止用に発進用スリップ制御が中止されるのを回避し得て、
発進用スリップ制御の中止に伴うエンジン回転数Neの上昇で運転者に違和感を与えたり、発進用スリップ制御による燃費向上効果を享受し得なくなるという問題を解消することができる。
【0059】
本実施例においては更に、図2の演算部31で目標スリップ回転tΔNetを求めるに際して用いる車速VSPを検出値のままとせず、除算器34において車速VSPの検出値を前記の補正ゲインGainで除算して補正した後に、目標スリップ回転tΔNetの算出に資することとしたため、以下の効果が奏し得られる。
【0060】
かかる車速VSPの補正を行わず、車速VSPを検出値のまま目標スリップ回転tΔNetの算出に用いた場合、当該算出結果の目標スリップ回転tΔNetを前記(1)式により補正して得られる補正済目標スリップ回転cΔNetが、発進(t2)後の車速上昇につれ、補正ゲインGainに起因して図8に破線で示すごとくに急低下する。
【0061】
かかる補正済目標スリップ回転cΔNetの図8に破線で示す急低下は、前記(3)式により求まる補正済目標エンジン回転数cNeを図8に破線で示すごとく発進(t2)後の車速上昇につれ低下させることとなり、
車速VSPを検出値のまま目標スリップ回転tΔNetの算出に用いた場合、エンジン回転数Neが発進(t2)後の車速上昇につれ、図8の破線cNe(車速補正無し)に沿って低下するのを避けられない。
かかる発進用スリップ制御中におけるエンジン回転数Neの低下は、運転者に違和感を与えるだけでなく、ロックアップクラッチ2cの急締結を惹起し、その締結ショックを生じさせる。
【0062】
ところで本実施例によれば、図2の除算器34において車速VSPの検出値を前記の補正ゲインGainで除算することにより補正し、当該補正後の車速VSPを、演算部31での目標スリップ回転tΔNetの算出に用いるため、
当該算出結果の目標スリップ回転tΔNetを前記(1)式により補正した補正済目標スリップ回転cΔNetの発生車速域を図6にΔVSPだけ拡大し得て、補正済目標スリップ回転cΔNetを図8に破線で示すごときものから、同図に実線で示すごときものへと修正することができ、発進(t2)後の車速上昇につれ低下する程度を弱めることができる。
【0063】
かかる補正済目標スリップ回転cΔNetの図8に実線で示す緩やかな低下は、前記(3)式により求まる補正済目標エンジン回転数cNeを図8に実線で示すごとく、発進(t2)後の車速上昇によっても低下させることがなくなり、
エンジン回転数Neを発進(t2)後の車速上昇中、図8の実線cNe(車速補正有り)に沿って変化させることができ、エンジン回転数Neの低下を防止することができる。
従って、発進用スリップ制御中におけるエンジン回転数Neの低下で運転者が違和感を覚えることがないと共に、当該エンジン回転数Neの低下でロックアップクラッチ2cが急締結して締結ショックを発生することもない。
【0064】
また本実施例によれば、図3のステップS48でロックアップ禁止信号がOFFになったと判定する場合、つまり発進用スリップ制御に係わる制御条件が変化してトルクコンバータを発進用スリップ制御状態から、スリップ回転を一層低下させるべきことになった場合、
スリップ回転偏差dΔNetが設定値Y2未満である間は(ステップS52)、ステップS45での目標スリップ回転tΔNetの補正(補正済目標スリップ回転cΔNetの算出)を継続し、スリップ回転偏差dΔNetが設定値Y2以上である間に(ステップS52)、ステップS45での目標スリップ回転tΔNetの補正(補正済目標スリップ回転cΔNetの算出)を禁止するため、以下の効果が得られる。
【0065】
つまり、発進用スリップ制御状態からスリップ回転を一層低下させることになった場合においても(ステップS48)、スリップ回転偏差dΔNetが設定値Y2未満である間は(ステップS52)、ステップS45での目標スリップ回転tΔNetの補正(補正済目標スリップ回転cΔNetの算出)を継続することで、目標スリップ回転tΔNetの補正(補正済目標スリップ回転cΔNetの算出)による前記の効果を最大限享受することができる。
【0066】
また、スリップ回転偏差dΔNetが設定値Y2以上である場合は(ステップS52)、ステップS45での目標スリップ回転tΔNetの補正(補正済目標スリップ回転cΔNetの算出)を禁止することで、
発進用スリップ制御状態からスリップ回転を一層低下させる要求を実現することができる。
【0067】
しかして、かように発進用スリップ制御状態からスリップ回転を一層低下させるに際しては、図9につき以下に説明するようなショックの問題を生ずる。
図9は、瞬時t1にステップS62およびステップS63(図4)の発進用スリップ制御開始条件が成立して、ステップS64で発進用スリップ制御が許可されたことにより、発進用スリップ制御が開始され、
瞬時t2に、図3のステップS48でロックアップ禁止信号がOFFになったと判定する場合、つまり発進用スリップ制御に係わる制御条件が変化してトルクコンバータを発進用スリップ制御状態から、スリップ回転を一層低下させるべきことになった場合のタイムチャートである。
【0068】
図9では、瞬時t2においてスリップ回転偏差dΔNetが設定値Y2以上であるため(ステップS52)、ステップS45での目標スリップ回転tΔNetの補正(補正済目標スリップ回転cΔNetの算出)が禁止され、図9の瞬時t2におけるロックアップクラッチ締結圧(Pa−Pr)の上昇により、トルクコンバータを発進用スリップ制御状態から、スリップ回転を一層低下させる制御状態へと切り替わる。
しかして図9の瞬時t2におけるロックアップクラッチ締結圧(Pa−Pr)の上昇が図示のように急峻だと、ロックアップクラッチ2cの締結進行も急峻で、エンジン回転数Neを一気にタービン回転数Ntに一致させ、瞬時t2の直後における車両の前後加速度変化から明らかなように、大きなロックアップショックが発生するという問題を生ずる。
【0069】
しかし本実施例においては、図4のステップS63でスリップ回転偏差dΔNetが設定閾値Y2を超えていると判定し、且つ、ステップS65で車速VSPが設定閾値X2以上と判定するとき、つまり図9の瞬時t2においてステップS66の実行により、ロックアップクラッチ締結圧(Pa−Pr)を、ショック対策用に所定の時間変化勾配で上昇させる、ロックアップクラッチ締結圧(Pa-Pr)のランプ上昇制御により、ロックアップクラッチ2cの締結を徐々に進行させる。
【0070】
図9と同じ条件での動作タイムチャートである図10を用いて詳述するに、瞬時t2までは図9と同じ波形であるものの、瞬時t2以降はロックアップクラッチ締結圧(Pa−Pr)を所定の時間変化勾配ΔPで上昇させる。
かかるロックアップクラッチ締結圧(Pa-Pr)のランプ上昇制御により、ロックアップクラッチ2cの締結がこの時間変化勾配ΔPに応じた速度で緩やかに進行し、エンジン回転数Neを図10に示すごとく徐々にタービン回転数Ntに接近させて、これら回転数Ne,Ntが相互に一致する瞬時t3にロックアップが完了する。
従って、瞬時t2の直後における車両の前後加速度変化も図10に示すように振動的とならず、大きなロックアップショックが発生するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 エンジン(原動機)
2 トルクコンバータ
2a ポンプインペラ(入力要素)
2b タービンランナ(出力要素)
2c ロックアップクラッチ
11 スリップ制御弁
12 変速機コントローラ
13 ロックアップソレノイド
21 エンジン回転センサ
22 タービン回転センサ
23 車速センサ
24 アクセル開度センサ
25 ブレーキスイッチ
26 インヒビタスイッチ
31 目標スリップ回転演算部
32 補正ゲイン演算部
33 乗算器(補正済目標スリップ回転演算部)
34 除算器(車速補正部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクコンバータを経て原動機からの回転を伝達されて走行可能な車両に用いられ、
該車両の発進に際し、前記トルクコンバータの入出力要素間における実スリップ回転を、少なくとも車速に応じ決定した目標スリップ回転に近づくよう制御するトルクコンバータの発進用スリップ制御装置において、
前記トルクコンバータの実スリップ回転および目標スリップ回転間のスリップ回転偏差を演算するスリップ回転偏差演算手段と、
該手段により求めたスリップ回転偏差に応じて、該スリップ回転偏差が所定以上にならないよう前記目標スリップ回転を補正する目標スリップ回転補正手段とを具備してなることを特徴とするトルクコンバータの発進用スリップ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたトルクコンバータの発進用スリップ制御装置において、
前記目標スリップ回転補正手段は、トルクコンバータ出力回転数および前記目標スリップ回転の和値に対するトルクコンバータ入力回転数の比で表される補正ゲインを求め、この補正ゲインを前記目標スリップ回転に乗じて該目標スリップ回転を補正するものであることを特徴とするトルクコンバータの発進用スリップ制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたトルクコンバータの発進用スリップ制御装置において、
前記目標スリップ回転補正手段は、車速の上昇によっても前記原動機の回転数が上昇しないよう前記補正済目標スリップ回転を更に補正するものであることを特徴とするトルクコンバータの発進用スリップ制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたトルクコンバータの発進用スリップ制御装置において、
前記目標スリップ回転補正手段は、前記車速を前記補正ゲインで除算して前記目標スリップ回転の決定に資することにより前記補正済目標スリップ回転の更なる補正を行うものであることを特徴とするトルクコンバータの発進用スリップ制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載されたトルクコンバータの発進用スリップ制御装置において、
前記目標スリップ回転補正手段は、前記発進用スリップ制御に係わる制御条件が変化してトルクコンバータを発進用スリップ制御状態から、スリップ回転を一層低下させるべきことになった場合でも、前記スリップ回転偏差が設定値未満である間は前記目標スリップ回転の補正を継続し、スリップ回転偏差が設定値以上である間に前記目標スリップ回転の補正を禁止するものであることを特徴とするトルクコンバータの発進用スリップ制御装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたトルクコンバータの発進用スリップ制御装置において、
前記目標スリップ回転補正手段が前記目標スリップ回転の補正を禁止した時から、トルクコンバータの前記一層のスリップ回転低下を所定の時間変化勾配で徐々に行わせるスリップ回転低下速度制限手段を設けたことを特徴とするトルクコンバータの発進用スリップ制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate