説明

トルクリミッタ

【課題】樹脂製円筒体とインサート成形されながら、温度変化による樹脂製円筒体の割れを防止できる、トルクリミッタを提供する。
【解決手段】トルクリミッタは、円筒状外周部を有する第1回転体11と、円筒状外周部に対向する円筒状内周部を有し、第1回転体11と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体とからなり、円筒状外周部は筒状の永久磁石18で、円筒状内周部はヒステリシス材である。第1回転体11は、樹脂製筒状体12と、樹脂製筒状体12とのインサート成形により一体化された、筒状永久磁石18とを含み、樹脂製円筒体12のフランジ部14には、温度変化によって永久磁石18との間に生じる応力を逃がすための丸穴14a〜14dが設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば複写機やプリンター・ファクシミリ等の給紙分離装置等に用いられるトルクリミッタに関し、特に、樹脂を用いてインサート成形されるトルクリミッタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の、トルクリミッタが、たとえば、特開平10−78043号公報(特許文献1)に記載されている。同公報によれば、トルクリミッタを構成する、相互に対向する磁石とヒステリシス材とからなる2つの回転体の、少なくとも一方の回転体を合成樹脂とのインサート成形によって形成している。
【特許文献1】特開平10−78043号公報(段落番号0052、図4等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の、トルクリミッタにおいては、上記のように、樹脂と磁石、または樹脂とヒステリシス材がインサート成形で形成される場合があった。このような成形は、製造が簡単であるため、好ましい。しかしながら、トルクリミッタが高回転、高トルク化されるに伴い、発生熱量が上昇し、従来のようなインサート成形部品では、樹脂と磁石、または、樹脂とヒステリシス材との熱膨張係数の違いにより、発生熱量が上昇するほど、樹脂または磁石に強い応力が発生する。このため、特にトルクリミッタ停止時に温度が下降するのに伴い、発生する樹脂収縮により、樹脂に割れが発生するという問題があった。
【0004】
この発明は上記のような問題点に鑑みてなされたもので、樹脂とインサート成形により一体化されながら、温度変化による樹脂の割れを防止できる、トルクリミッタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に係る、トルクリミッタは、円筒状外周部を有する第1回転体と、円筒状外周部に対向する円筒状内周部を有し、第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体とからなり、円筒状外周部および内周部のうちのいずれか一方は永久磁石で、いずれか他方はヒステリシス材である。第1回転体は、樹脂製筒状体と、樹脂製筒状体にインサート成形により一体化された、筒状永久磁石または筒状ヒステリシス材とを含み、樹脂製筒状体は、筒部と、筒部の端部に設けられ、筒状永久磁石または筒状ヒステリシス材を位置決めするためのフランジ部とを有する。フランジ部には、温度変化によって永久磁石またはヒステリシス材との間に生じる応力を逃がすための応力逃がし部分が設けられている。
【0006】
樹脂製筒状体と、筒状永久磁石または筒状ヒステリシス材とはインサート成形されているとともに、筒状永久磁石または筒状ヒステリシス材を位置決めするためのフランジ部には応力逃がし部分が設けられている。したがって、温度変化によって樹脂製筒状体と永久磁石またはヒステリシス材との間に温度変化に伴う応力が生じても、その応力は応力逃がし部分で逃がされる。
【0007】
その結果、樹脂とインサート成形されることにより、確実に一体化されるとともに、温度変化による樹脂の割れを防止できる、トルクリミッタを提供できる。
【0008】
好ましくは、フランジ部は筒部の両端に設けられている。
【0009】
さらに好ましくは、応力逃がし部分はフランジ部に形成された穴である。この穴は、第1回転体の軸に対して回転対称の位置に複数設けられてもよい。
【0010】
なお、応力逃がし部分はフランジ部に形成された溝であってもよいし、円周状の溝であってもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。図1はこの発明の一実施の形態に係るトルクリミッタ10の要部断面図である。図1を参照して、トルクリミッタ10は、図示のない駆動用のシャフトに止めネジ(図示なし)を介して一体的に回転するようにされた、円筒状外周部を有する第1回転体11と、第1回転体11の円筒外周部に対向する円筒状内周部を有する第2回転体20とを含む。
【0012】
第1回転体11は、樹脂製筒状体12と、樹脂製筒状体12の外周部に設けられた筒状の永久磁石18とを含む。
【0013】
第2回転体20は、筒状の永久磁石18の外周部に対向する円周面を有する、筒状であるヒステリシス材(半硬質磁石)21と、ヒステリシス材21の両端部において、ヒステリシス材21を樹脂製筒状体12に対して回転可能に支持するための、一対の円板状の蓋体23,25とを含む。
【0014】
蓋体23と樹脂製筒状体12とは、樹脂製筒状体12の外周部12aに軸摺動部16を有し、蓋体25と樹脂製筒状体12との間には摺動部は設けられない。
【0015】
次に図1に示したトルクリミッタ10の第1転体11について説明する。図2は、第1回転体11を横方向から見た断面図(A)と図2(A)において、B−Bで示す部分の矢視図(B)である。図2を参照して、樹脂製筒状体12と筒状の永久磁石18とはインサート成形されている。樹脂製筒状体12の軸方向の両端部には、永久磁石18を位置決めするとともに、永久磁石18が樹脂製筒状体12から抜けないようにするための抜け止めとなるフランジ部13および14が形成されている。一方のフランジ部14には、図2(B)に示すように、第1回転体11の軸に対して回転対称となる4つの位置に丸穴14a〜14dが形成されている。なお、穴は、任意の回転対象位置に設けてもよい。
【0016】
このような構成のトルクリミッタにおいて、温度が上昇すると、樹脂製筒状体12が先に膨張するため、第1回転体11のフランジ部14において、軸方向に伸びようとする。このとき、フランジ部13において永久磁石18と樹脂製筒状体12とが固定された状態で、フランジ部14側に膨張するが、樹脂製筒状体12は、外周部を永久磁石18で固定されているため、図3(A)に示すようにフランジ部14の穴14a〜14dは円周方向に広げられる。一方、温度が低下すると、樹脂製筒状体12が先に収縮するため、第1回転体のフランジ部14において、軸方向に縮もうとするが、外周部を永久磁石で固定されているため、図3(B)に示すように穴14a〜14dは半径方向に伸ばされる。
【0017】
以上のように、この実施の形態においては、インサート成形された筒状永久磁石18と樹脂製筒状体12からなる第1回転体11において、樹脂製筒状体12のフランジ部14に穴14a〜14dを設けたため、トルクリミッタの温度上昇や温度低下時に、永久磁石18と樹脂製筒状体12との間に熱膨張係数の差に基づく応力が発生しても、その応力は、穴14a〜14dによって逃がされる。すなわち、穴14a〜14dは、応力逃がし部分として作用する。その結果、永久磁石18と樹脂製筒状体12とがインサート成形により確実に一体化されるとともに、トルクリミッタに温度変化が生じても、樹脂製筒状体12の割れを防止できる。
【0018】
なお、樹脂製筒状体12のフランジ部13,14の一方側に穴を設けた場合について説明したが、これに限らず、両フランジ部13,14に設けてもよい。
【0019】
次に、応力逃がし部分の他の例について説明する。図4は、応力逃がし部分の他の例を示す図である。図4を参照して、ここでは、応力逃がし部分として、フランジ部14に矩形状の切り欠き14e〜14hを設けている。温度が上昇すると、図4(A)に示すように切り欠き14eから14hは円周方向に広げられる。一方、温度が低下すると、図4(B)に示すように切り欠き14e〜14hは半径方向に伸ばされる。
【0020】
このような切り欠きを設けた場合の効果について説明する。このような切り欠きを設けたトルクリミッタと、従来のトルクリミッタをそれぞれ20個用意し、それぞれについて、85℃で1時間保持し、その後40℃に1時間保持するというヒートサイクルを100サイクル行った。
【0021】
その結果、従来のトルクリミッタにおいては、20個中20個の全てに樹脂製円筒体の割れが生じた。これに対して、このような切り欠きを設けたトルクリミッタにおいては、20個中割れが生じたのは2個だけであった。以上から、この実施の形態における効果は明らかである。
【0022】
次に、応力逃がし部分のさらに他の例について説明する。図5は、応力逃がし部分のさらに他の例を示す図である。
【0023】
図5(A)は、応力逃がし部分として、フランジ部14に半径方向に延びる複数の溝14iを設けた例を示す図である。ここでも、溝14iの幅寸法や数は任意でよい。
【0024】
図5(B)は、応力逃がし部分として、フランジ部14に複数の、異なる穴を設けた例を示す図である。すなわち、ここでは、図2に示したものと同様の4個の貫通孔14aとそれらの間に貫通しない穴14jを設けている。ここでも、孔14aや穴14jの寸法や個数は任意でよい。
【0025】
図5(C)は、応力逃がし部分として、フランジ部14に円周方向に溝14kを設けた例を示す図である。ここでも、溝14kの寸法や個数は任意でよい。
【0026】
なお、上記実施の形態においては、フランジ部に穴や溝を設けて応力を逃がすようにしたが、これに限らず、フランジ部を構成する材質や厚さ等を変えて応力を逃がすようにしてもよい。
【0027】
また、フランジ部に設けた穴や溝に弾力性のあるものを詰めて、応力を逃がすようにしてもよい。
【0028】
また、上記実施の形態においては、第1回転体として筒状の永久磁石と樹脂製円筒体とをインサート成形した場合について説明したが、これに限らず、筒状のヒステリシス材と樹脂製円筒体とをインサート成形し、ヒステリシス材と樹脂製円筒体との熱膨張による応力を、フランジ部に設けた応力逃がし部分で逃がすようにしてもよい。
【0029】
また、上記実施の形態においては、樹脂製円筒体の両端部にフランジ部を設けた場合について説明したが、これに限らず、一方端にのみフランジ部を設けてもよい。
【0030】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0031】
この発明に係るトルクリミッタは、筒状の永久磁石またはヒステリシス材と樹脂製円筒体とがインサート成形されて一体化されている場合に、温度変化によって両者間に生じた応力を逃がす部分を設けたため、永久磁石またはヒステリシス材が所定の位置で確実に一体化されるとともに、温度変化による合成樹脂の割れを防止できるトルクリミッタとして有利に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の一実施の形態に係るトルクリミッタの断面図である。
【図2】図1に示したトルクリミッタの詳細を示す図である。
【図3】丸穴の応力逃がし部の動作を示す図である。
【図4】矩形状の切り欠きを応力逃がし部とした場合の応力逃がし部の動作を示す図である。
【図5】応力逃がし部の他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
10 トルクリミッタ、11 第1回転体、12 樹脂製筒状体、13,14 フランジ部、18 永久磁石、20 第1回転体、21 ヒステリシス材、23,25 蓋体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状外周部を有する第1回転体と、前記円筒状外周部に対向する円筒状内周部を有し、前記第1回転体と同軸状で互いに対して相対的に回転可能に設けられた第2回転体とからなり、前記円筒状外周部および前記内周部のうちのいずれか一方は永久磁石で、いずれか他方はヒステリシス材であるトルクリミッタであって、
前記第1回転体は、樹脂製筒状体と、前記樹脂製筒状体にインサート成形により一体化された、筒状永久磁石または筒状ヒステリシス材とを含み、
前記樹脂製筒状体は、筒部と、前記筒部の端部に設けられ、前記筒状永久磁石または筒状ヒステリシス材を位置決めするためのフランジ部とを有し、
前記フランジ部には、温度変化によって前記永久磁石またはヒステリシス材との間に生じる応力を逃がすための応力逃がし部分が設けられている、トルクリミッタ。
【請求項2】
前記フランジ部は、前記筒部の両端に設けられている、請求項1に記載のトルクリミッタ。
【請求項3】
前記応力逃がし部分は前記フランジ部に形成された穴である、請求項1または2に記載のトルクリミッタ。
【請求項4】
前記穴は前記第1回転体の軸に対して回転対称の位置に複数設けられる、請求項3に記載のトルクリミッタ。
【請求項5】
前記応力逃がし部分は前記フランジ部に形成された溝である、請求項1または2に記載のトルクリミッタ。
【請求項6】
前記応力逃がし部分は前記フランジ部に形成された円周状の溝である、請求項1または2に記載のトルクリミッタ。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate