説明

トルク伝達装置

【課題】最大トルクを維持しながらも原動機に必要な平均負荷を調節することが可能であり、しかもトルクを伝達する周期の調節も可能であるトルク伝達装置を提供する。
【解決手段】モータXの回転により原動回転体1が回転し、原動回転体1の回転により生じる電磁力で従動回転体2が回転することにより、原動回転体1から従動回転体2にトルクを伝達する。原動回転体1は複数極の永久磁石12を備え、従動回転体2は永久磁石12により生じる磁束が鎖交する環状の誘導用導体22を備える。誘導用導体22はスイッチング素子により開閉され、誘導電流を流す閉状態と誘導電流を遮断する開状態とが選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として原動機の出力軸の連続的かつほぼ一定であるトルクを受けて不連続かつ周期的にトルクの伝達を行うトルク伝達装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、電動機などの原動機の出力軸は連続的かつほぼ一定であるトルクを出力しているが、時計の歩進やインパクトドライバの回転のように不連続かつ周期的なトルクが必要である場合に、原動機の出力軸からトルクを受けて不連続かつ周期的にトルク伝達を行うトルク伝達装置が必要になる。機械要素の組み合わせによって、この種のトルク伝達装置を構成する技術は多々提案されている。ただし、機械要素の組み合わせによるトルク伝達装置は、騒音が発生するという問題がある。
【0003】
一方、電磁力によるトルク伝達を行うトルク伝達装置が開示されている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載されたトルク伝達装置は、原動側である原動回転体と従動側である従動回転体とを同軸に配置し、原動回転体と従動回転体との一方に磁石を設けるとともに他方に板状の導体を設けた構成を有している。
【0004】
この構成では、原動回転体の回転に伴って磁石により生成された磁束が導体に鎖交するとともにその磁束が時間経過に伴って変化するから、導体に誘導電流(渦電流)が流れ、この誘導電流と磁束との作用による電磁力で原動回転体のトルクが従動回転体に伝達されるようになっている。したがって、磁石と導体とを適宜に配置することによって、原動回転体のトルクを従動回転体に間欠的に伝達することが可能になる。
【特許文献1】特開2007−228735号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載されたトルク伝達装置では、原動回転体を駆動する原動機から出力されるほぼ一定のトルクを間欠的に従動回転体に伝達することはできるが、従動回転体に伝達されるトルクは磁石と導体との配置および原動回転体の回転速度によって決まるから、原動機の回転速度が一定であれば原動機の平均負荷は一定になり、平均負荷を調節したり、トルクを伝達する周期を調節したりすることはできない。
【0006】
本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、最大トルクを維持しながらも原動機に必要な平均負荷を調節することが可能であり、しかもトルクを伝達する周期の調節も可能であるトルク伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、原動側である原動回転体と、原動回転体と同軸に配置され従動側となる従動回転体とを有し、原動回転体と従動回転体との一方は回転面内において回転方向に交差する方向の磁束を生じさせるとともに回転方向において磁束に分布を付与する磁石を備え、原動回転体と従動回転体との他方は前記一方の回転中に磁石により生じる磁界が鎖交するように環状に形成された誘導用導体を備え、さらに、誘導用導体に誘導電流を流す閉状態と誘導電流を遮断する開状態とを切り替える制御部を備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明では、請求項1の発明において、前記制御部は、前記原動回転体と前記従動回転との一方の回転位置を検出する位置センサにより検出したタイミングで閉状態と開状態とを切り替えることを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明では、請求項1又は2の発明において、前記誘導用導体は、複数回巻回されていることを特徴とする。
【0010】
請求項4の発明では、請求項1又は2の発明において、前記誘導用導体は、環状の分割導体を口軸方向において複数層に積層して形成されていることを特徴とする。
【0011】
請求項5の発明では、請求項1又は2の発明において、前記誘導用導体は、電流路の断面において口軸方向の厚み寸法が口軸方向に直交する面内の幅寸法よりも大きく形成されていることを特徴とする。
【0012】
請求項6の発明では、請求項1〜5のいずれかの発明において、前記誘導用導体の内側に磁性体からなるコアが付加されていることを特徴とする。
【0013】
請求項7の発明では、請求項6の発明において、前記コアを前記誘導用導体に鎖交する磁束と交差する方向に分割された磁性薄板の積層体により形成していることを特徴とする。
【0014】
請求項8の発明では、請求項1〜7のいずれかの発明において、前記原動回転体と前記従動回転体との一方には、前記誘導用導体における前記磁石との反対面側に磁路を形成する第1ヨークが付加されていることを特徴とする。
【0015】
請求項9の発明では、請求項1〜5のいずれかの発明において、前記原動回転体と前記従動回転体との一方には、前記誘導用導体の内側に磁性体からなるコアが付加され、前記原動回転体と前記従動回転体との他方には、前記誘導用導体における前記磁石との反対面側に磁路を形成する第1ヨークが付加され、コアと第1ヨークとは一体であることを特徴とする。
【0016】
請求項10の発明では、請求項1〜9のいずれかの発明において、前記原動回転体と前記従動回転体との一方には、前記磁石における前記誘導用導体との反対面側に磁路を形成する第2ヨークが付加されていることを特徴とする。
【0017】
請求項11の発明では、請求項1〜10のいずれかの発明において、前記制御部は、前記誘導用導体を閉状態と開状態とに切り替えるスイッチング素子を備えることを特徴とする。
【0018】
請求項12の発明では、請求項1〜11のいずれかの発明において、前記原動回転体と前記従動回転体との一方には、前記誘導用導体とともに前記磁石により生じる磁界が鎖交するように環状に形成した発電用導体と、発電用導体に生じた誘導起電力を蓄電して前記制御部の電源に用いる電源回路とが付加されていることを特徴とする。
【0019】
請求項13の発明では、請求項12の発明において、前記誘導用導体の少なくとも一部が前記発電用導体と兼用されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1の発明の構成によれば、原動回転体と従動回転体とが相対的に回転することにより、誘導用導体に鎖交する磁束が時間経過に伴って変化し、原動回転体から従動回転体にトルクが伝達される。また、誘導用導体に誘導電流を流す閉状態と誘導電流を遮断する開状態とを制御部により切り替えるので、閉状態では誘導電流が流れてトルクが発生し、開状態では誘導電流が流れないからトルクが発生しなくなる。すなわち、適宜のタイミングで誘導用導体を閉状態とすることにより誘導電流によるトルクの最大値は確保しながらも、他期間では誘導用導体を開状態として誘導電流を流さないようにして原動回転体を回転させるための平均負荷を調節することができる。また、誘導用導体に誘導電流を流すタイミングを制御部により調節するから、トルクを伝達する周期の調節も可能になる。
【0021】
請求項2の発明の構成によれば、原動回転体と従動回転体との一方の回転位置を検出する位置センサを備えており、位置センサにより検出したタイミングで閉状態と開状態とを切り替えるから、原動回転体と従動回転体とのいずれかの回転位置に応じて周期的かつ自動的にトルクを伝達するタイミングを制御することが可能になる。
【0022】
請求項3の発明の構成によれば、誘導用導体を複数回巻回しているから、磁石により生じた磁束が鎖交する誘導用導体のターン数が多くなり、それだけ大きな電磁力が発生することになる。すなわち、1ターンの誘導用導体に比較して、同程度のサイズであれば伝達トルクが大きくなり、同程度の伝達トルクであれば小型化が可能になる。
【0023】
請求項4の発明の構成によれば、環状の分割導体を積層して形成しているから、ターン数を大きくとることができるともに、誘導用導体に鎖交する磁束に直交する面内での寸法を小さくすることができるから、誘導用導体の表面に流れる渦電流での損失を低減することができる。なお、分割導体は絶縁シートを基材に用いた印刷配線基板を用いることができ、この構成では分割導体を位置決めして積層するのが容易になる。
【0024】
請求項5の発明の構成によれば、誘導用導体の断面において誘導用導体に鎖交する磁束に直交する面内での寸法を小さくすることができるから、誘導用導体の銅損を増加させずに、誘導用導体の表面に流れる渦電流での損失を低減することができる。
【0025】
請求項6の発明の構成によれば、誘導用導体の内側に磁性体からなるコアを配置しているから、誘導用導体に鎖交する磁束を増加させることができ、それだけ伝達トルクの最大値を大きくすることが可能になる。
【0026】
請求項7の発明の構成によれば、誘導用導体に鎖交する磁束と交差する方向に分割した磁性薄板の積層体をコアに用いているから、コア内に渦電流が流れにくくなり、コアによる鉄損を低減することができる。
【0027】
請求項8の発明の構成によれば、誘導用導体における磁石との反対面側に磁路を形成する第1ヨークを設けているから、誘導用導体に鎖交する磁束が通る磁路の磁気抵抗を低減することになり、伝達トルクの最大値を大きくすることができる。
【0028】
請求項9の発明の構成によれば、誘導用導体に鎖交する磁束が通る磁路を形成する第1ヨークと、誘導用導体に鎖交する磁束を増加させるコアとを一体に設けているから、誘導用導体に鎖交する磁束が通過する磁路の磁気抵抗を小さくするとともに誘導用導体に鎖交する磁束を増加させることになり、それだけ伝達トルクの最大値を大きくすることが可能になる。また、第1ヨークとコアとは一体に形成されているから、第1ヨークとコアとの連結部位での磁気抵抗の増加がない上に、コアの位置に誘導用導体を配置することで誘導用導体の位置決めが容易になるという利点がある。
【0029】
請求項10の発明の構成によれば、磁石の磁路を形成する第2ヨークを設けていることにより、磁路の磁気抵抗を低減させることができ、伝達トルクの最大値を大きくすることができる。なお、第2ヨークは磁石を着磁する際の着磁用のヨークとして機能させることができる。
【0030】
請求項11の発明の構成によれば、スイッチング素子により誘導用導体を閉状態と開状態とに切り替えるので、閉状態と開状態とを高速にスイッチングすることが可能であり、微少時間で閉状態と開状態とを切り替えることにより、平均負荷やトルクを伝達するタイミングを様々に変化させることが可能になる。
【0031】
請求項12の発明の構成によれば、発電用導体を設けるとともに発電用導体に生じた誘導起電力を制御部の電源に用いるから、別途に電源回路を設けることなく制御部に給電することが可能になる。その結果、外部からの電源供給が不要であり、給電のための接触子などが不要になるから、長寿命化かつ低騒音化が可能になる。
【0032】
請求項13の発明の構成によれば、誘導用導体の少なくとも一部が発電用導体と兼用されているから、別途に発電用導体を設けることなく簡単な構成で制御部の電力を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本実施形態において説明するトルク伝達装置Zは、図2に示すように、原動機であるモータXとトルクが伝達される負荷Yとの間に介在し、モータXの出力軸から連続的かつほぼ一定の大きさで出力されるトルクを受けて、不連続かつ周期的にトルクを伝達するものである。
【0034】
トルク伝達装置Zは、モータXが結合される原動回転体1と、負荷Yが結合される従動回転体2とを備える。また、トルク伝達装置Zは、後述する誘導用導体に誘導電流を流す閉状態と、誘導用導体に誘導電流を流さない開状態とを切り替える制御部3を備える。原動回転体1と従動回転体2との間では電磁力を利用してトルク伝達が行われ、原動回転体1と従動回転体2とは機械的には結合されていない(この意味で、図2において原動回転体1と従動回転体2との間を破線で結合してある)。
【0035】
本実施形態では、図1に示すように、原動回転体1および従動回転体2がそれぞれカップ状(一方の底面が開放された有底円筒状)に形成されており、従動回転体2の内側に原動回転体1を配置した例を示す。図示例では、原動回転体1と従動回転体2とは互いに反対側の底面(つまり、原動回転体1は下底面、従動回転体2は上底面)が開放されているが、同側の底面を開放させた構成を採用してもよい。また、小型化のために原動回転体1を回転させるモータXを原動回転体1の内側に配置しているが、モータXは原動回転体1の外側に配置してもよい。従動回転体2には回転中心である底面の中心に回転軸21が突設され、原動回転体1の回転中心であるモータXの出力軸11と回転軸21とは同軸上に配置される。
【0036】
上述のように、原動回転体1が従動回転体2の内側に配置されることにより、原動回転体1の周壁の外側面は従動回転体2の周壁の内側面と対向することになる。原動回転体1の周壁には、原動回転体1の回転方向において交互に異磁極となるように複数極(図示例は8極)に着磁された永久磁石(磁石)12が設けられている。したがって、永久磁石12は、原動回転体1の回転方向に交差する方向の磁束を生じさせ、かつ回転方向において磁束に分布を付与することになる。
【0037】
原動回転体1の周壁は、独立した永久磁石12を合成樹脂などの保持部材で保持することにより形成することが可能であるが、円筒状の磁性体に多極着磁を行うことによって形成するのが望ましい。また、着磁方向はラジアル方向(半径方向)としてあり、原動回転体1の内側と外側とが異磁極となるように着磁されている。
【0038】
一方、従動回転体2の周壁には、環状(円環状や矩形環状)に形成された複数個(図示例では8個)の誘導用導体22が設けられている。誘導用導体22が従動回転体2の回転中心を見込む中心角は約40度に設定されている。従動回転体2の周壁23は、合成樹脂のような非磁性体で絶縁性を有する材料により円筒状に形成され、周壁22の内側面に誘導用導体22が固定されている。誘導用導体22は、永久磁石12と対向可能である部位に配置され、原動回転体1の回転に伴って永久磁石12から生じた磁束が誘導用導体22に鎖交する。また、この磁束は原動回転体1の回転により時間経過に伴って変化する。
【0039】
ところで、上述したように、誘導用導体22には制御部3が接続されており、誘導用導体22に誘導電流が流れる閉状態と誘導電流を阻止する開状態とを選択することが可能になっている。誘導用導体22は、図3(a)に示すように直列に接続されるか、図3(b)に示すように並列に接続され、複数個の誘導用導体22の直列回路または並列回路の両端間にスイッチング素子SWを接続してある。並列接続の場合は直列接続に比べてインダクタンスを低減することができる。図3に示す矢印は永久磁石12の移動方向を示している。
【0040】
制御部3はスイッチング素子SWおよびスイッチング素子SWのオンオフを制御する制御回路(図10参照)を含む。スイッチング素子SWには、バイポーラトランジスタやMOSFET、IGBT、3端子双方向サイリスタなどを用いることができる。また、高速なオンオフが不要であれば、電磁リレーのような他のスイッチ要素により閉状態と開状態とを切り替えるようにしてもよい。
【0041】
ここに、従動回転体2の回転方向において隣り合う各一対の誘導用導体22には逆向きに電流が流れるから、隣接する誘導用導体22では図3における左右の異なる一端同士が接続される。なお、図1に示した構成では、永久磁石12が8極とし誘導用導体22を8個設けているが、図3では永久磁石12を6極とし誘導用導体22を6個設けている。
【0042】
スイッチング素子SWのオンオフのタイミングは適宜に設定することができるが、図示しない位置センサを制御部3に設け、位置センサにより原動回転体1または従動回転体2の回転位置を検出し、検出した回転位置に応じてスイッチング素子SWのオンオフを制御するのが望ましい。位置センサには、永久磁石12の回転位置を検出するホールICのような磁気センサを用いるか、出力軸11または回転軸21に結合したロータリエンコーダを用いることができる。また、誘導用導体22の一部を流用して位置センサとして用いれば、他の部材を追加することなく回転位置を検出することができるから低コストで位置センサの機能を付加することができる。
【0043】
以下に動作を説明する。まず、スイッチング素子SWがオンである閉状態について説明する。モータXが回転し原動回転体1が回転すると、永久磁石12から生じ誘導用導体22に鎖交する磁束が時間経過に伴って変化するから、磁束の変化を妨げるように誘導用導体22に誘導電流が流れる。したがって、誘導電流と永久磁石12からの磁束との間に電磁力が生じ、この電磁力により従動回転体2が回転する。つまり、誘導電動機と同様の原理で従動回転体2を回転させることができる。ここで、原動回転体1の回転に伴って従動回転体2が回転するから、上述した電磁力を介在させて、原動回転体1から従動回転体2にトルクを伝達することになる。
【0044】
ここで、複数個の誘導用導体22が従動回転体2の回転方向に離間して配置されるとともに、複数極の永久磁石12が原動回転体1とともに回転するから、誘導用導体22に作用する電磁力は周期的に変化し、従動回転体2に作用するトルクは、図4(a)に示すように周期的に増減する。図1に示す構成では8極の永久磁石12と8個の誘導用導体22とを組み合わせているから、原動回転体1の1回転の間にトルクは8周期で変化する。言い換えると、原動回転体1の1回転の間に最大トルク(トルクのピーク値)が8回出現する。具体的には、原動回転体1の45度ずつの回転角度で、−22.5〜22.5度、22.5〜67.5度、……の各角度範囲ごとに同じパターンでトルクが変化する。
【0045】
一方、スイッチング素子SWをオフにした開状態では誘導電流が流れないから、誘導用導体22には上述した電磁力が作用せず、このときには従動回転体2にトルクを伝達することはできない。そこで、原動回転体1が適宜の回転位置である期間においてのみ閉状態とし残りの期間は開状態とすれば、閉状態の期間にのみ従動回転体2にトルクを伝達することが可能になる。
【0046】
図4(b)に示す例では、原動回転体1が22.5〜67.5度である角度範囲においてスイッチング素子SWをオンにした(つまり、閉状態にした)場合を示している。このようなタイミングでスイッチング素子SWのオンオフを制御するには、上述した位置センサを用いればよい。図4(b)に示す例では、原動回転体1が22.5〜67.5度である角度範囲である期間においてのみ原動回転体1から従動回転体2にトルクが伝達され、他の期間には従動回転体2にはトルクが伝達されないことになる。その結果、全期間に亘ってトルクを伝達していた図4(a)の動作に比較して平均負荷トルクが約8分の1に低減されることになる。
【0047】
ところで、誘導用導体22には、可撓性を有する絶縁シートを基材に用いた印刷配線基板に環状の導体パターンを形成したものを用いる。この導体パターンは一部開放されており、開放部位にスイッチング素子SWが設けられる。したがって、面実装型のスイッチング素子SWを印刷配線基板に実装することにより、誘導用導体22とスイッチング素子SWとを一体に設けることができる。
【0048】
ところで、導体パターンは1ターンでも誘導用導体22として機能するが、誘導用導体22の1ターンであるときに生じる電磁力をFとすれば、ターン数がNになれば、N・Fの電磁力が作用する。そこで、図5(a)に示すように、誘導用導体22として機能する導体パターン22aを渦巻き状に形成することにより、複数ターンとすれば誘導用導体22に作用する電磁力を1ターンの場合よりも大きくすることができ、結果的に従動回転体2に伝達するトルクを大きくすることが可能になる。つまり、誘導用導体22を複数回巻回することにより、同程度のサイズでの伝達トルクを増加させることができる。また、1ターンの場合と同程度の伝達トルクであれば、原動回転体1の永久磁石12や従動回転体2の誘導用導体22を小型化することが可能になり、全体としての小型化に貢献する。
【0049】
誘導用導体22のターン数を増やすには、図5(b)のように、1ターンに形成した環状の分割導体22bを複数個設け、分割導体22bを誘導用導体22の口軸方向に積層するとともに、1個の巻線を形成するように電気的に接続してもよい。この場合、トルクを確保しながらも誘導用導体22に鎖交する磁束に直交する面内での寸法を小さくすることができ、結果的に、誘導用導体22の表面に流れる渦電流での損失を低減することができる。また、分割導体22bは絶縁シートを基材として用いているから、積層の際の位置決めが容易である。
【0050】
図5に示す構成例では、誘導用導体22を印刷配線基板により形成することで、誘導用導体22の位置関係を導体パターンによりあらかじめ定めておくことができるから、誘導用導体22を従動回転体2に取り付ける際の組立作業が容易になる。
【0051】
ところで、誘導用導体22に生じる渦電流を低減するには、上述のように、誘導用導体22に鎖交する磁束に直交する面内での誘導用導体22の寸法を小さくすることが有効である。そこで、誘導用導体22における電流路の電気抵抗が同じであれば、図6(b)のように電流路の断面において口軸方向の厚み寸法D1と口軸方向に直交する面内の幅寸法W1とがほぼ等しい場合(D1≒W1)に比較して、図6(a)のように厚み寸法D2を幅寸法W2よりも大きくする(D2>W2)ほうが渦電流を低減することができる。すなわち、誘導用導体22における電流路の断面を、このような寸法関係とすることにより、渦電流をより低減し、渦電流が生じることにより損失を低減させることができる。
【0052】
従動回転体2に伝達するトルクを増加させるには、誘導用導体22に鎖交する磁束を増加させるか、永久磁石12と誘導用導体22とを含む磁路の磁気抵抗を低減する構成を採用してもよい。たとえば、図7に示すように、誘導用導体22の内側に磁性体からなるコア24を設けると、誘導用導体22に鎖交する磁束を増加させることができ、それだけ伝達トルクの最大値を大きくすることが可能になる。ここに、磁性体は電気抵抗の大きいフェライトなどを用いることによって渦電流の発生を抑制し鉄損を抑制することができる。
【0053】
コア24としては、図8に示すように、磁性薄板24aを誘導用導体22に鎖交する磁束と交差する方向に積層したものを用いてもよい。この場合、コア24が積層鉄芯になり、コア24内に渦電流が流れることによる鉄損を低減することができる。積層方向は、図8(a)のように従動回転体2の回転方向としたり、図8(b)のように従動回転体2の回転軸21の延長方向としたりすることができる。なお、磁性薄板24aを従動回転体2の半径方向(ラジアル方向)に積層する構成も考えられる。
【0054】
一方、磁路の磁気抵抗を低減する構成としては、図9(a)に示すように、従動回転体2の周壁23と誘導用導体22との間(つまり、誘導用導体22における永久磁石12との反対面側)に磁性体からなる第1ヨーク25を配置する構成を採用することができる。また、図9(b)のように、図8に示したコア24と第1ヨーク25とを併用してもよい。この場合、コア24と第1ヨーク25とを一体に形成するのが望ましい。すなわち、第1ヨーク25の内側面にコア24となる凸部を設けることにより、コア24と第1ヨーク25とを連続一体に形成することができる。この構成を採用すれば、コア24と第1ヨーク25との連結部での磁気抵抗の増加を防止することができ、しかもコア24を誘導用導体22の位置決めに用いることができるから、製造が容易になる。なお、従動回転体2の周壁23を磁性体で形成することにより第1ヨーク25として用いる構成も可能である。
【0055】
原動回転体1においては、図9(c)のように、周壁の内周側に磁性体からなる第2ヨーク13を配置することによって磁路の磁気抵抗を低減することができる。第2ヨーク13は、各永久磁石12の一方の磁極と磁気結合され、永久磁石12の一方の磁極からの漏れ磁束を抑制するとともに、磁路の磁気抵抗を低減することによって、誘導用導体22に鎖交する磁束の増加に貢献する。
【0056】
図9(a)(b)の構成と図9(c)の構成とは組み合わせることができ、組み合わせることによって磁路の磁気抵抗を一層低減することができるから、原動回転体1と従動回転体2との間の伝達トルクの最大値をより大きくすることが可能になる。
【0057】
ところで、制御部3はスイッチング素子SWのオンオフを制御するから、駆動用の電源が必要である。もちろん制御部3に対して別途の接触子を用いて給電することが可能であるが、騒音が発生する上に接触子により寿命が短くなるおそれがある。そこで、図10(a)に示すように、誘導用導体22と並べて環状に形成した発電用導体26を配置し、永久磁石12により生じた磁束が発電用導体26と鎖交することにより生じる誘導起電力を制御部3の電源に用いてもよい。
【0058】
この場合、発電用導体26で生じた誘導起電力を、ダイオードブリッジなどからなる整流回路31により全波整流または半波整流し、二次電池や大容量のキャパシタを用いた蓄電回路32により蓄電する。蓄電回路32は電圧の安定化も行っている。このように、整流回路32と蓄電回路33とからなる電源回路を用いることによって、電源回路から制御回路33に給電することが可能になり、外部電源を用いることなくスイッチング素子SWの駆動が可能になる。ただし、この電源回路は、原動回転体1が回転を開始した後でなければ、制御回路33に給電されないから、スイッチング素子SWのオンオフは原動回転体1の回転が開始され、蓄電回路32からの給電が可能になった後に行われる。
【0059】
図10(a)の構成では、発電用導体26を誘導用導体22とは別に設けているが、誘導用導体22にも誘導起電力が生じているから、図10(b)に示すように、スイッチング素子SWがオフであるとき(開状態であるとき)の誘導用導体22の誘導起電力を利用して制御回路33に給電するようにしてもよい。なお、図10では、誘導用導体22を並列接続しているが、直列接続した構成でもよい。
【0060】
上述の構成例では、原動回転体1に永久磁石12を設け、従動回転体2に誘導用導体22を設けた例を示したが、逆に、原動回転体1に誘導用導体22を設け、従動回転体2に永久磁石12を設ける構成であっても同様に動作する。また、永久磁石12に代えて電磁石を用いることも可能である。さらに、誘導用導体22が見込む中心角や永久磁石12および誘導用導体22の個数は上述の例に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】実施形態を示し、(a)は縦断面図、(b)は水平断面図である。
【図2】同上の概略構成図である。
【図3】(a)(b)は同上に用いる誘導用導体の接続例を示す図である。
【図4】同上の動作説明図である。
【図5】(a)(b)は同上に用いる誘導用導体の他例を示す図である。
【図6】(a)は同上の要部斜視図であり、(b)は比較例の要部斜視図である。
【図7】同上の他の構成例を示す要部斜視図である。
【図8】(a)(b)は同上に用いるコアの構成例を示す斜視図である。
【図9】(a)(b)(c)は同上の別の構成例を示す水平断面図である。
【図10】同上のさらに別の構成例を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
1 原動回転体
2 従動回転体
3 制御部
12 永久磁石(磁石)
13 第2ヨーク
22 誘導用導体
22a 導体パターン
22b 分割導体
24 コア
24a 磁性薄板
25 第1ヨーク
26 発電用導体
31 整流回路
32 蓄電回路
33 制御回路
SW スイッチング素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動側である原動回転体と、原動回転体と同軸に配置され従動側となる従動回転体とを有し、原動回転体と従動回転体との一方は回転面内において回転方向に交差する方向の磁束を生じさせるとともに回転方向において磁束に分布を付与する磁石を備え、原動回転体と従動回転体との他方は前記一方の回転中に磁石により生じる磁界が鎖交するように環状に形成された誘導用導体を備え、さらに、誘導用導体に誘導電流を流す閉状態と誘導電流を遮断する開状態とを切り替える制御部を備えることを特徴とするトルク伝達装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記原動回転体と前記従動回転体との一方の回転位置を検出する位置センサにより検出したタイミングで閉状態と開状態とを切り替えることを特徴とする請求項1記載のトルク伝達装置。
【請求項3】
前記誘導用導体は、複数回巻回されていることを特徴とする請求項1又は2記載のトルク伝達装置。
【請求項4】
前記誘導用導体は、環状の分割導体を口軸方向において複数層に積層して形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のトルク伝達装置。
【請求項5】
前記誘導用導体は、電流路の断面において口軸方向の厚み寸法が口軸方向に直交する面内の幅寸法よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項1又は2記載のトルク伝達装置。
【請求項6】
前記誘導用導体の内側に磁性体からなるコアが付加されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のトルク伝達装置。
【請求項7】
前記コアを前記誘導用導体に鎖交する磁束と交差する方向に分割された磁性薄板の積層体により形成していることを特徴とする請求項6記載のトルク伝達装置。
【請求項8】
前記原動回転体と前記従動回転体との一方には、前記誘導用導体における前記磁石との反対面側に磁路を形成する第1ヨークが付加されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のトルク伝達装置。
【請求項9】
前記原動回転体と前記従動回転体との一方には、前記誘導用導体の内側に磁性体からなるコアが付加され、前記原動回転体と前記従動回転体との他方には、前記誘導用導体における前記磁石との反対面側に磁路を形成する第1ヨークが付加され、コアと第1ヨークとは一体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のトルク伝達装置。
【請求項10】
前記原動回転体と前記従動回転体との一方には、前記磁石における前記誘導用導体との反対面側に磁路を形成する第2ヨークが付加されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のトルク伝達装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記誘導用導体を閉状態と開状態とに切り替えるスイッチング素子を備えることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載のトルク伝達装置。
【請求項12】
前記原動回転体と前記従動回転体との一方には、前記誘導用導体とともに前記磁石により生じる磁界が鎖交するように環状に形成した発電用導体と、発電用導体に生じた誘導起電力を蓄電して前記制御部の電源に用いる電源回路とが付加されていることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載のトルク伝達装置。
【請求項13】
前記誘導用導体の少なくとも一部が前記発電用導体と兼用されていることを特徴とする請求項12記載のトルク伝達装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−154722(P2010−154722A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332914(P2008−332914)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】