説明

トルク検出装置および電動パワーステアリング装置

【課題】体格の小型化が図られるトルク検出装置および電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】トルクセンサ7は、入力軸21に固定されて所定の軸倍角を有する第1のロータ31と、出力軸22に固定されて第1のロータ31と異なる軸倍角を有する第2のロータ32とを備えてなる。また、第1および第2のロータ31,32の外周面に配設されるステータ30に、第1および第2のロータ31,32の回転にともなうステータ30と第1および第2のロータ31,32間のギャップ変化に応じて位相の異なる電気信号を生成する第1〜第4の出力コイル33a〜33dが配設されてなる。そして、第1〜第4の出力コイル33a〜33dにおいて生成される電気信号に基づき入力軸21および出力軸22の間に連結されるトーションバー23の捩れ角として算出され、当該捩れ角に基づき入力軸21と出力軸22との間に作用するトルクが算出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルク検出装置および電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、たとえば特許文献1に示されるようなトルク検出装置が知られている。当該装置は、入力軸と出力軸とがトーションバーを介して同軸上に連結されるとともに、入力軸の回転角を検出する第1の回転角検出装置、および出力軸の回転角を検出する第2の回転角検出装置を備えてなる。当該トルク検出装置は、第1および第2の回転角検出装置により検出される入力軸の回転角と出力軸の回転角との差分、すなわちトーションバーの捩れ角に基づき入力軸に印加されるトルクを検出する。当該トルク検出装置は、たとえば電動パワーステアリング装置に使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−69106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第1の回転角検出装置は、入力軸と一体的に回転する環状の磁石、および当該磁石の回転にともない変化する磁界に応じた電気信号を生成する3つの磁気センサを備えてなる。これら磁気センサは、磁石の軸線方向において当該磁石に対向して設けられている。第1の回転角検出装置は、この3つの電気信号に基づき磁石、ひいては入力軸の回転角を演算する。第2の回転角検出装置も同様の構成とされている。
【0005】
ここで、第1および第2の回転角検出装置を近接して設けた場合、これら装置の2つの磁石から発せられる磁界が互いの磁気センサに影響を及ぼし合うことにより、正確な回転角が得られないおそれがある。このため、特許文献1では、第1の回転角装置の各磁気センサに対して第2の回転角検出装置の磁石から発せられる磁界が及ばない程度、換言すれば第2の回転角検出装置の各磁気センサに対して第1の回転角検出装置の磁石から発せられる磁界が及ばない程度に、第1および第2の回転角検出装置を離間させている。
【0006】
このようにすれば確かに各磁気センサの検出精度を維持することが可能になる。しかしその反面で、第1および第2の回転角検出装置との間に一定の離間距離を確保する必要があり、これがトルク検出装置の体格の小型化を阻害する一因となっていた。特に自動車の電動パワーステアリング装置に適用されるトルク検出装置においては、その体格の小型化に対する要求は依然として厳しいところ、前述したように第1および第2の回転角検出装置との間には一定の離間距離を確保する必要がある以上、トルク検出装置の小型化には限界があった。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、体格の小型化が図られるトルク検出装置および電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、トーションバーの両端に連結された第1および第2の軸の間に作用するトルクを検出するトルク検出装置において、前記第1の軸に固定されて所定の軸倍角を有する第1のレゾルバロータ(以下、ロータという)と、前記第2の軸に固定されて前記第1のロータと異なる軸倍角を有する第2のレゾルバロータ(以下、ロータという)と、前記第1および第2のロータの外周面に近接して配設されるレゾルバステータ(以下、ステータという)と、前記ステータに配設されて前記第1および第2のロータの回転にともなう前記ステータと前記第1および第2のロータ間のギャップの変化に応じて位相の異なる電気信号を生成する4つの出力コイルと、前記4つの出力コイルにおいて生成される電気信号に基づき前記第1および第2の軸の回転角の差分を前記トーションバーの捩れ角として算出し、当該捩れ角に基づきトルクを算出する演算手段と、を備えてなることをその要旨とする。
【0009】
本発明によれば、第1および第2のロータの外周面に近接してステータを配設し、このステータに配設される4つの出力コイルにおいて生成される電気信号を共用して第1および第2のロータ、ひいては第1および第2の軸の回転角が求められる第1および第2のロータの間隔を小さく設定することができ、その間隔を小さくする分だけ、トルク検出装置の体格の小型化が図られる。また、4つの出力コイルにおいて生成される電気信号に基づきトーションバーの捩れ角を算出するところ、第1および第2のロータの間隔は、小さく設定するほどよく、トルク検出装置の体格の小型化につながる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のトルク検出装置において、前記電気信号は、前記ステータと前記第1のロータ間のギャップの変化に基づく第1の信号成分、および前記ステータと前記第2のロータ間のギャップの変化に基づく第2の信号成分が合成されたものであって、前記演算手段は、前記電気信号から前記第1の信号成分を前記第1のロータの軸倍角を有する前記第1の軸の電気角として抽出する第1の抽出手段と、前記電気信号から前記第2の信号成分を前記第2のロータの軸倍角を有する前記第2の軸の電気角として抽出する第2の抽出手段と、前記第1の抽出手段により抽出される前記第1の電気角に対応する第2の抽出手段と、前記第1の抽出手段により抽出される前記第1の軸の電気角に対応する複数の機械角、および前記第2の抽出手段により抽出される前記第2の軸の電気角に対応する複数の機械角の差分をそれぞれ求めるとともに、これら差分と前記トーションバーの最大許容捩れ角との比較を通じて前記第1の軸および前記第2の軸の機械角をそれぞれ算出する機械角算出手段と、を備えてなることをその要旨とする。
【0011】
ステータの4つの出力コイルには、ステータと第1のロータ間のギャップ変化と、ステータと第2のロータ間のギャップ変化とを検出して合成された出力電圧が出力される。このため、4つの出力コイルにおいて生成される電気信号は、ステータと第1のロータ間のギャップ変化に基づく第1の信号成分、およびステータと第2のロータ間のギャップの変化に基づく第2の信号成分が合成されたものとなる。
【0012】
本発明によれば、第1の抽出手段により、4つの出力コイルの電気信号から、第1の信号成分を第1のロータの軸倍角を有する第1の軸の電気角として抽出する。また、第2の抽出手段により、4つの出力コイルの電気信号から、第2のロータの軸倍角を有する第2の軸の電気角として抽出する。ここで、第1および第2の軸の電気角は、それぞれの軸倍角に応じた複数の機械角に対応する。そこで、第1および第2の軸の回転角(機械角)は、トーションバーの最大許容捩れ角によって制限されることを利用して、第1および第2の軸の回転角を求める。すなわち、第1および第2の軸の電気角に対応する複数の回転角の差分とトーションバーの最大許容捩れ角との大小をそれぞれ比較することにより、第1および第2の軸の回転角をそれぞれ算出することが可能である。
【0013】
請求項3に記載の発明は、電動パワーステアリング装置において、請求項1または請求項2に記載のトルク検出装置を備えてなることをその要旨とする。
請求項1または請求項2に記載のトルク検出装置によれば、電動パワーステアリング装置の小型化が図られる。このため、当該トルク検出装置は、車両への搭載性を向上できる。
【0014】
請求項4に記載の発明は、電動パワーステアリング装置において、前記機械角算出手段により算出される前記第1の軸の機械角に基づき、ステアリングホイールの操舵角を求めることができることをその要旨とする。
請求項4に記載の電動パワーステアリング装置によれば、算出された第1の軸の回転角(機械角)をステアリングホイールの操舵角として求めることができる。そして、この操舵角を、車両の安定性制御システムなどの各種システムに利用することも可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、トルク検出装置および電動パワーステアリング装置の体格の小型化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電動パワーステアリング装置の概略構成を示す構成図。
【図2】トルクセンサ(トルク検出装置)の半断面図。
【図3】(a)は図2のA−A線断面図、(b)は図2のB−B線断面図。
【図4】トルクセンサの電気的な構成を示すブロック図。
【図5】(a)は第1のロータとステータ間のギャップ変化に対する一の出力コイルの出力波形図、(b)は第2のロータとステータ間のギャップ変化に対する一の出力コイルの出力波形図、(c)は第1および第2のロータとステータ間のギャップ変化に対する一の出力コイルの出力波形図。
【図6】入力軸および出力軸の回転角の算出処理手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を、電動パワーステアリング装置に具体化した一実施の形態を図1〜図6に基づいて説明する。
【0018】
<電動パワーステアリング装置の概要>
図1に示すように、電動パワーステアリング装置1において、ステアリングホイール(以下、ハンドルという)2と一体回転するステアリングシャフト3は、ハンドル2側からコラムシャフト8、インターミディエイトシャフト9およびピニオンシャフト10の順に連結されてなる。ピニオンシャフト10はこれに直交して設けられるラック軸5のラック部分5aに噛合されている。ステアリング操作にともなうステアリングシャフト3の回転は、ピニオンシャフト10およびラック部分5aからなるラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルアームに伝達されることにより、転舵輪12の舵角が変更される。
【0019】
また、電動パワーステアリング装置1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置13、および操舵力補助装置13の作動を制御する電子制御装置(以下、ECUという)14を備えてなる。
操舵力補助装置13の駆動源であるモータ15は、ウォーム16およびウォームホイール17からなる減速機構18を介してコラムシャフト8に作動連結されている。モータ15の回転力は減速機構18により減速されて、この減速された回転力がアシスト力として操舵系、正確にはコラムシャフト8に伝達される。ECU14は、このアシスト力を次のようにして制御する。すなわち、ECU14は、転舵輪2等に設けられる車速センサ19を通じて車速Vを、またコラムシャフト8に設けられるトルクセンサ(トルク検出装置)7を通じてハンドル2に印加される操舵トルクτを取得する。そして、ECU14は、これら車速Vおよび操舵トルクτに基づき運転者の要求および走行状態に応じた目標アシスト力を算出し、この算出される目標アシスト力を発生させるべくモータ15の給電制御を行う。このモータ15の給電制御を通じて操舵系に印加されるアシスト力が制御される。
【0020】
<トルクセンサ>
次に、トルクセンサの構成について詳細に説明する。図1に示されるように、トルクセンサ7は、コラムシャフト8におけるハンドル2と操舵力補助装置13との間に設けられている。図2に示すように、トルクセンサ7は、入力軸21、出力軸22、およびこれらの間を連結するトーションバー23を備えてなる。入力軸21は、コラムシャフト8のハンドル2側の部分に、出力軸22はコラムシャフト8の操舵力補助装置13側の部分に連結される。入力軸21および出力軸22の互いに対向する2つの端部には、それぞれ円筒状の第1および第2の支持部21a,22aが形成されている。これら第1および第2の支持部21a,22aの外径は、それぞれ入力軸21および出力軸22の外径よりも大きく設定されている。
【0021】
また、入力軸21および出力軸22の間には、回転角センサ24が設けられている。回転角センサ24は、第1のロータ31、第2のロータ32、およびステータ30を備えてなる。
第1および第2のロータ31,32は、それぞれ両端が開口した円筒状に例えば珪素鋼板を積層して形成される。第1のロータ31は、トーションバー23に挿通された状態で、第1の支持部21aの入力軸21と反対側の側面に固定されている。第2のロータ32は、トーションバー23に挿通された状態で、第2の支持部22aの出力軸22と反対側の側面に固定されている
そして、第1および第2のロータ31,32の外周面に近接して例えば珪素鋼板を積層して形成されるステータ30が配設されている。
【0022】
図3に示すように、ステータ30に円周方向に等しい間隔をおいて形成された複数のティースに周知の励磁コイル(図示せず)と第1〜第4の出力コイル33a〜33dが、それぞれ所定の位置に変圧器を構成するように巻回されている。
第1および第2のロータ31,32は、外周面形状がそれらの周方向に沿って複数の凸部が形成された回転体であり、図3(a)に示す第1のロータ31には合計4つの凸部が、同じく図3(b)に示す第2のロータ32には合計5つの凸部が形成されている。
【0023】
図3(a),(b)に示されるように、第1〜第4の出力コイル33a〜33dから位相のずれた4つの信号(出力電圧)が出力されるよう第1および第3の出力コイル33a,33c、ならびに第2および第4の出力コイル33b,33dは、それぞれ互いに180°だけ配置をずらして設けられている。詳述すると、図3(b)に示すように、入力軸21側から第2のロータ32を見たとき、第1の出力コイル33aは、第2のロータ32の12時位置に対応して設けられている。第2の出力コイル33bは、第2のロータ32の12時位置を0°としたとき、22.5°の位置に対応して設けられている。同様に、第3の出力コイル33cは180°の位置、第4の出力コイル33dは、202.5°の位置にそれぞれ対応して設けられている。
【0024】
<電気的な構成>
次に、トルクセンサの電気的な構成を説明する。図4に示すように、第1〜第4の出力コイル33a〜33dは、マイクロコンピュータ(以下、CPUという)34に接続されている。
本例では、第1〜第4の出力コイル33a〜33dとしてレゾルバが採用されている。レゾルバは、ロータの回転角によってステータとロータ間のギャップを変化させ、磁気抵抗変化を検出する。正弦波状の励磁電圧が図示しない励磁コイルに供給され、第1〜第4の出力コイル33a〜33dは、その磁気抵抗の変化に応じた正弦波状の電気信号(出力電圧)を生成する。
【0025】
例えば、第1のロータ31とステータ30間のギャップ変化のみが発生する場合を想定する。この場合、第1の出力コイル33aは、第1のロータ31の回転にともない磁気抵抗の変化に応じた電気信号を生成する。この場合、入力軸21の回転角(機械角)と、第1の出力コイル33aの出力との関係は、図5(a)のグラフのようになる。当該グラフの横軸は入力軸21の回転角、同じく縦軸は第1の出力コイル33aの出力(電圧値)である。当該グラフに示されるように、入力軸21の回転にともない、第1の出力コイル33aにおいて生成される電気信号は正弦波状に変化する。本例では、入力軸21が1回転する間に、第1の出力コイル33aでは4周期分の電気信号が生成される。すなわち、入力軸21の回転角(機械角)に対する当該電気信号の電気角の比である軸倍角は4倍角(4X)とされている。軸倍角は、第1のロータ31の凸部の数により決まる。
【0026】
また、第2のロータ32とステータ30間のギャップ変化のみが発生する場合を想定する。第1の出力コイル33aは、第2のロータ32の回転にともない磁気抵抗の変化に応じた電気信号を生成する。この場合、出力軸22の回転角(機械角)と、第1の出力コイル33aの出力との関係は、図5(b)のグラフのようになる。
当該グラフに示されるように、出力軸22の回転にともない、第1の出力コイル33aにおいて生成される電気信号は正弦波状に変化する。本例では、出力軸22が1回転する間に、第1の出力センサ33aでは5周期分の電気信号が生成される。すなわち、軸倍角は、5倍角(5X)とされている。軸倍角は、第2のロータ32の凸部の数により決まる。
【0027】
なお、第2〜第4の出力コイル33b〜33dについても同様である。これら第2〜第4の出力コイル33b〜33dでは、第1の出力コイル33aに対する相対的な位置関係に応じて位相がずれた正弦波状の電気信号が生成される。第1の出力コイル33aの位相を0°としたとき、第2〜第4の出力コイル33b〜33dの出力波形は、図5(a)および図5(b)に示される第1の出力コイル33aの出力波形に対して、それぞれ22.5°、180°、202.5°だけ位相がずれた波形となる。
【0028】
前述したように、第1〜第4の出力コイル33a〜33dは、第1および第2ロータ31,32の外周面に近接して配設されたステータ30に設けられている。また、入力軸21および出力軸22の回転角は互いに異なる。このため実際には、第1〜第4の出力コイル33a〜33dの出力は、第1および第2のロータ31,32から磁気干渉し合ってなる合成出力になり、当該合成出力に応じた電気信号が生成される。
【0029】
すなわち、第1〜第4の出力コイル33a〜33dにおいて生成される電気信号は、それぞれ第1のロータ31の回転角に応じて生成される電気信号(以下、「4倍角成分(第1の信号成分)」という)と、第2のロータ32の回転角に応じて生成される電気信号(以下、「5倍角成分(第2の信号成分)」という)とが合成されたものとなる。第1の出力コイル33aを例に挙げると、入力軸21あるいは出力軸22の回転角(機械角)と、第1の出力コイル33aの出力との関係は、実際には、図5(c)のグラフのようになる。当該グラフに示されるように、入力軸21あるいは出力軸22の回転にともない、第1の出力コイル33aにおいて生成される電気信号は、正弦波状に変化する部分も見られるものの、全体として不規則な曲線を描くように変化する。第2〜第4の出力コイル33b〜33dにおいても同様である。
【0030】
CPU34は、回転角検出部35、操舵トルク検出部36、および異常判定部37を備えてなる。回転角検出部35は、第1〜第4の出力コイル33a〜33dにおいて生成される電気信号に基づき、入力軸21および出力軸22の回転角θ1,θ2をそれぞれ演算する。これら2つの回転角θ1,θ2の算出処理については、後に詳述する。操舵トルク検出部36は、回転角検出部35により算出される2つの回転角θ1,θ2の差分、すなわちトーションバー23の捩れ角に基づき操舵トルクτを演算する。異常判定部37は、第1〜第4の出力コイル33a〜33dにおいて生成される電気信号に基づき、第1〜第4の出力コイル33a〜33dの異常の有無を検出する。第1〜第4の出力コイル33a〜33dの異常検出処理についても、後に詳述する。
【0031】
<θ1,θ2演算処理>
次に、前述のように構成されたトルクセンサ7による入力軸21および出力軸22の回転角の検出処理手順を図6のフローチャートに従って説明する。このフローチャートは、CPU34に記憶された制御プログラムに基づき、定められた制御周期で実行される。
CPU34は、第1〜第4の出力コイル33a〜33dにおいて生成される電気信号S1〜S4を取り込む(ステップS601)。
これら電気信号S1〜S4の値、すなわちサンプリング値V1〜V4は、それぞれ次式(A)〜(D)のように表わすことができる。
V1=sin(4θ1)+sin(5θ2) ・・・(A)
V2=sin4(θ1+22.5°)+sin5(θ2+22.5°)
=sin(4θ1+90°)+sin(5θ2+112.5°)
=cos(4θ1)+sin(5θ2+112.5°) ・・・(B)
V3=sin4(θ1+180°)+sin5(θ2+180°)
=sin(4θ1+720°)+sin(5θ2+900°)
=sin(4θ1)−sin(5θ2) ・・・(C)
V4=sin(4θ1+202.5°)+sin5(θ2+202.5°)
=sin(4θ1+810°)+sin(5θ2+1012.5°)
=sin(4θ1+90°)+sin(5θ2+292.5°)
=cos(4θ1)−sin(5θ2+112.5°) ・・・(D)
ただし、θ1は入力軸21の回転角(機械角)、θ2は出力軸22の回転角(機械角)、4θ1は入力軸21の回転角(電気角)、5θ2は出力軸22の回転角(電気角)である。
【0032】
<4倍角成分の抽出処理>
次に、CPU34は、第1〜第4の出力コイル33a〜33dにおいて生成される電気信号から、第1の信号成分である4倍角成分(4θ1が含まれる項)を第1のロータ31の軸倍角を有する入力軸21の電気角として抽出する。
CPU34は、まずサンプリング値V1〜V4に含まれる5倍角成分(5θ2が含まれる項)を除去する。すなわち、CPU34は、次式(E)で示されるように、第1および第3の出力コイル33a,33cにおいて生成される電気信号S1,S3のサンプリング値V1,V3の平均値を算出する(ステップS602)。
(V1+V3)/2
=[{sin(4θ1)+sin(5θ2)}+{sin(4θ1)−sin(5θ2)}]/2
=sin(4θ1) ・・・(E)
【0033】
また、CPU34は、次式(F)で示されるように、第2および第4の出力コイル33b,33dにおいて生成される電気信号S2,S4のサンプリング値V2,V4の平均値を算出する(ステップS603)。
(V2+V4)/2
=[{cos(4θ1)+sin(5θ2+112.5°)}+{cos(4θ1)−sin(5θ2+112.5°)}]/2
=cos(4θ1) ・・・(F)
【0034】
次に、CPU34は、ステップS602およびステップS603の演算結果を使用して、入力軸21の回転角(電気角)4θ1を次式(G)に基づき演算する(ステップS604)。
4θ1
=arctan{sin(4θ1)/cos(4θ1)}
=arctan[{(V1+V3)/2}/{(V2+V4)/2}] ・・・(G)
【0035】
<5倍角成分の抽出処理>
次に、CPU34は、第1〜第4の出力コイル33a〜33dにおいて生成される電気信号から、第2の信号成分である5倍角成分(5θ2が含まれる項)を第2のロータ32の軸倍角を有する出力軸22の電気角として抽出する。
CPU34は、まずサンプリング値V1〜V4に含まれる4倍角成分(4θ1が含まれる項)を除去する。すなわち、CPU34は、次式(H)で示されるように、第1および第3の出力コイル33a,33cにおいて生成される電気信号S1,S3のサンプリング値V1,V3の差を求め、その差の値を2で割る(ステップS605)。
(V1−V3)/2
=[{sin(4θ1)+sin(5θ2)}−{sin(4θ1)−sin(5θ2)}]/2
=sin(5θ2) ・・・(H)
また、CPU34は、次式(I)で示されるように、第2および第4の出力コイル33b,33dにおいて生成される電気信号S2,S4のサンプリング値V2,V4の差を求め、その差の値を2で割る(ステップS606)。
(V2−V4)/2
=[{cos(4θ1)+sin(5θ2+112.5°)}−{cos(4θ1)−sin(5θ2+112.5°)}]/2
=sin(5θ2+112.5°) ・・・(I)
【0036】
次に、CPU34は、ステップS605およびステップS606の演算結果を使用して、出力軸22の回転角(電気角)5θ2を次式(J)に基づき演算する(ステップS607)。
5θ2=arctan{sin(5θ2)/cos(5θ2)} ・・・(J)
ただし、式(J)のcos(5θ2)は、次式(K)で示されるように、先の式(I)を変形することにより得られる。
sin(5θ2+112.5°)
=sin(5θ2)cos(112.5°)+cos(5θ2)sin(112.5°)
・・・(K)
そして、式(K)に基づき、cos(5θ2)は次式(L)で表される。
cos(5θ2)={sin(5θ2+112.5°)−sin(5θ2)cos(112.5°)}/sin(112.5°) ・・・(L)
【0037】
<機械角の算出処理>
次に、CPU34は、入力軸21の回転角4θ1(電気角)、および出力軸22の回転角5θ2(電気角)を使用して、入力軸21の回転角θ1(機械角)および出力軸22の回転角θ2(機械角)を演算する(ステップS608)。
ここで、入力軸21および出力軸22の電気角は、それぞれの軸倍角に応じた複数の機械角に対応する。すなわち、軸倍角が4倍である電気角に対応する機械角は、次の4つである。ただし、α=4θ1である。
θ1=(α/4)+0°、(α/4)+90°、(α/4)+180°、(α/4)+270°
また、軸倍角が5倍である電気角に対応する機械角は、次の5つである。ただし、β=5θ2である。
θ2=(β/5)+0°、(β/5)+72°、(β/5)+144°、(β/5)+216°、(β/5)+288°
【0038】
そこで、CPU34は、入力軸21および出力軸22の回転角θ1,θ2(機械角)がトーションバー23の最大許容捩れ角Δθの範囲内に制限されることを利用して、2つの回転角θ1,θ2を求める。すなわち、入力軸21および出力軸22の回転角の差分(絶対値)が最大許容捩れ角Δθを超えることはない。このため、入力軸21および出力軸22の差分とトーションバー23の最大許容捩れ角Δθとの比較を通じて入力軸21および出力軸22の回転角θ1,θ2をそれぞれ算出することが可能である。
CPU34は、次式(M)を満たす回転角θ1,θ2をその時々の回転角θ1,θ2と推定する。
|θ1−θ2|≦Δθ ・・・(M)
以上で、入力軸21の回転角θ1、および出力軸22の回転角θ2の算出処理は完了となる。CPU34は、算出される2つの回転角θ1,θ2の差分に基づき操舵トルクτを演算する。
【0039】
<異常判定処理>
次に、第1〜第4の出力コイル33a〜33dの異常判定処理について説明する。
第1〜第4の出力コイル33a〜33dの少なくとも一に異常が発生した場合、その異常が発生した出力コイルにおいて生成される電気信号の値(サンプリング値V1〜V4)は、正常時の値と異なる。このため、先の図6のフローチャートにおけるステップS604で算出される回転角4θ1(電気角)、およびステップS607で算出される回転角5θ2(電気角)についても、それぞれ正常時の値と異なる。このことを利用して、CPU34(異常判定部37)は、第1〜第4の出力コイル33a〜33dの異常の有無を検出する。
【0040】
すなわち、CPU34は、回転角4θ1(=α),5θ2(=β)を、先の式(A)〜(D)に代入することにより得られるサンプリング値V1c〜V4cと、正常時のサンプリング値V1〜V4(理論値)とを比較する。CPU34は、各サンプリング値V1c〜V4cと各サンプリング値V1〜V4とが一致する旨判断されるときには正常、一致しない旨判断されるときには異常である旨判定する。なお、正常時のサンプリング値V1〜V4(理論値)は、CPU34に予め記憶される。
【0041】
CPU34は、第1〜第4の出力コイル33a〜33dの少なくとも一に異常がある旨判定したときには、たとえば、入力軸21および出力軸22の回転角の算出処理、あるいは操舵トルクτの算出処理を停止する。なお、sin2θ+cos2θ=1であることを利用して、第1〜第4の出力コイル33a〜33dの異常の有無を判定することも可能である。
【0042】
<実施の形態の効果>
従って、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)第1および第2のロータ31,32の外周面に近接してステータ30を配設し、このステータ30に配設された第1〜第4の出力コイル33a〜33dにおいて生成される電気信号S1〜S4を共用して第1および第2のロータ31,32、ひいては入力軸21および出力軸22の回転角θ1,θ2を求めるようにした。このため、第1および第2のロータ31,32の間隔を小さく設定する分だけ、トルクセンサ7の体格の小型化が図られる。
【0043】
(2)また、第1〜第4の出力コイル33a〜33dにおいて生成される電気信号に基づきトーションバー23の捩れ角を算出するところ、第1および第2のロータ31,32の間隔は、小さく設定するほどよい。
【0044】
(3)第1〜第4の出力コイル33a〜33dにおいて生成される電気信号は、ステータ30と第1のロータ31間のギャップ変化に基づく第1の信号成分(4倍角成分)、およびステータ30と第2のロータ32間のギャップ変化に基づく第2の信号成分(5倍角成分)が合成されたものとなる。
【0045】
本例によれば、第1の抽出手段として機能するCPU34により、第1〜第4の出力コイル33a〜33dの電気信号から、第1の信号成分を第1のロータ31の軸倍角を有する入力軸21の電気角として抽出する。また、第2の抽出手段としても機能するCPU34により、第1〜第4の出力コイル33a〜33dの電気信号から、第2の信号成分を第2のロータ32の軸倍角を有する出力軸22の電気角として抽出する。
【0046】
ここで、入力軸21および出力軸22の電気角は、それぞれの軸倍角に応じた複数の機械角に対応する。そこで、機械角算出手段としても機能するCPU34は、入力軸21および出力軸22の回転角(機械角)はトーションバー23の最大許容捩れ角Δθによって制限されることを利用して、入力軸21および出力軸22の回転角を求める。すなわち、入力軸21および出力軸22の回転角の差分(絶対値)が最大許容捩れ角Δθを超えることはない。このため、入力軸21および出力軸22の電気角に対応する複数の回転角θ1,θ2の差分とトーションバー23の最大許容捩れ角Δθとの大小を比較することにより、入力軸21および出力軸22の回転角をそれぞれ算出することが可能である。
【0047】
(4)本例のトルクセンサ7によれば、その体格の小型化が図られる。このため、当該トルクセンサ7は、車両への搭載性の観点などから小型化に対する要望がある電動パワーステアリング装置1に好適である。電動パワーステアリング装置1の体格の小型化も可能となる。
【0048】
(5)第1〜第4の出力コイル33a〜33dにおいて生成される電気信号に基づき、入力軸21および出力軸22の回転角をそれぞれ検出することができる。このため、入力軸21および出力軸22にそれぞれ個別に磁気センサ群を設ける場合に比べて、簡単な構成が可能となる。特に、異常検出機能を持たせる場合には有効である。例えば、特許文献1を例に挙げると、第1および第2の軸にそれぞれ3つ(合計6つ)の磁気センサを設ける必要がある。本例では、4つの出力コイルを設けるだけでよい。
【0049】
(6)入力軸21の回転角θ1をハンドル2の操舵角θsとして求めることができる。このトルクセンサ7により算出される操舵角θsを、車両の安定性制御システムなどの各種システムで利用することにより、専用の舵角センサが不要となる。トルクセンサ7、ひいては電動パワーステアリング装置1の付加価値も高められる。
【0050】
(7)出力軸22の回転角θ2に基づき、モータ15の回転角速度ωを求めることができる。そして、この回転角速度ωをモータ15の制御に利用することも可能である。例えば、モータ15としてブラシ付モータを使用する場合、ECU14はトルクセンサ7を通じてモータ15の回転角速度ωを正確に把握することができるので、当該モータ15のより精度の高い制御を実行可能となる。
【0051】
<他の実施の形態>
なお、前記実施の形態は、次のように変更してもよい。
・本例では、トルクセンサ7をいわゆるコラム型の電動パワーステアリング装置に適用したが、いわゆるピニオン型あるいはラックアシスト型のものに適用することも可能である。
【0052】
・本例では、ECU14は、操舵トルクτおよび車速Vに基づき目標アシスト力(正確には、目標アシスト力に応じた電流指令値)を算出するようにしたが、当該算出のパラメータとして操舵角θsを加えてもよい。運転者の要求をより反映させた目標アシスト力の算出が可能になる。操舵角θsは、前述したように入力軸21の回転角θ1に基づき算出可能である。
【0053】
・本例では、4つの出力コイル33a〜33dを設けたが、5つ以上の出力コイルを設けてもよい。例えば、5つの出力コイルのうち任意の4つの出力コイルにおいて生成される電気信号に基づき、入力軸21および出力軸22の回転角、ならびに入力軸21に印加されるトルクの検出が可能である。5つの出力コイルのうちいずれか一の出力コイルに異常が発生した場合であれ、残りの4つの出力コイルを使用して、操舵トルクτなどを算出可能である。また、この場合、各出力コイルを第1あるいは第2のロータ31,32の回転方向に沿って等間隔に配設してもよい。6つ以上の出力コイルを設ける場合も同様である。
【0054】
・第1および第2のロータ31,32の軸倍角は、適宜変更してもよい。ただし、互いの軸倍角は異ならせる。
・本例では、電動パワーステアリング装置1のトルクセンサ7を例に挙げて説明したが、当該トルクセンサ7は、電動パワーステアリング装置以外の用に供することも可能である。
【0055】
<他の技術的思想>
次に、前記実施の形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)請求項2に記載のトルク検出装置において、前記4つの出力コイルは、前記第1および第2のロータの回転方向に沿って、かつ第1および第3の出力コイル、ならびに第2および第4の出力コイルは、それぞれ互いに180°だけ配置をずらして設け、前記第1の抽出手段は、第1および第3の出力コイルにより生成される2つの電気信号の加算値を当該2つの電気信号を生成した出力コイルの個数である2で除算することにより前記電気信号から前記第2の信号成分が除去された第1の抽出信号を生成するとともに、第2および第4の出力コイルにより生成される2つの電気信号の加算値を当該2つの電気信号を生成した出力コイルの個数である2で除算することにより前記電気信号から前記第1の信号成分が除去された第2の抽出信号を生成し、前記第1および第2の抽出信号の逆正接値を前記第1の軸の電気角として算出し、前記第2の抽出手段は、第1および第3の出力コイルにより生成される2つの電気信号の減算値を当該2つの電気信号を生成した出力コイルの個数である2で除算することにより前記第1の信号成分が除去された第3の抽出信号を生成するとともに、第2および第4の出力コイルにより生成される2つの電気信号の減算値を当該2つの電気信号を生成した出力コイルの個数である2で除算することにより前記電気信号から前記第1の信号成分が除去された第4の抽出信号を生成し、前記第3および第4の抽出信号の逆正接値を前記第2の軸の電気角として算出するトルク検出装置。なお、先のステップS602,S603の演算結果は、それぞれ第1および第2の抽出信号に相当する。また、先のステップS605,S606の演算結果は、それぞれ第3および第4の抽出信号に相当する。
【符号の説明】
【0056】
1:電動パワーステアリング装置、7:トルクセンサ(トルク検出装置)、14:電子制御装置(ECU)、15:モータ、21:入力軸(第1の軸)、22:出力軸(第2の軸)、23:トーションバー、30:レゾルバステータ、31:第1のレゾルバロータ、32:第2のレゾルバロータ、33a〜33d:第1〜第4の出力コイル、34:マイクロコンピュータ(CPU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トーションバーの両端に連結された第1および第2の軸の間に作用するトルクを検出するトルク検出装置において、
前記第1の軸に固定されて所定の軸倍角を有する第1のレゾルバロータと、
前記第2の軸に固定されて前記第1のレゾルバロータと異なる軸倍角を有する第2のレゾルバロータと、
前記第1および第2のレゾルバロータの外周面に近接して配設されるレゾルバステータと、
前記レゾルバステータに配設されて、前記第1および第2のレゾルバロータの回転にともなう前記レゾルバステータと前記第1および第2のレゾルバロータ間のギャップの変化に応じて位相の異なる電気信号を生成する4つの出力コイルと、
前記4つ出力コイルにおいて生成される電気信号に基づき前記第1および第2の軸の回転角の差分を前記トーションバーの捩れ角として算出し、当該捩れ角に基づきトルクを算出する演算手段と、を備えてなるトルク検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載のトルク検出装置において、
前記電気信号は、前記レゾルバステータと前記第1のレゾルバロータ間のギャップの変化に基づく第1の信号成分、および前記レゾルバステータと前記第2のレゾルバロータ間のギャップの変化に基づく第2の信号成分が合成されたものであって、
前記演算手段は、前記電気信号から前記第1の信号成分を前記第1のレゾルバロータの軸倍角を有する前記第1の軸の電気角として抽出する第1の抽出手段と、
前記電気信号から前記第2の信号成分を前記第2のレゾルバロータの軸倍角を有する前記第2の軸の電気角として抽出する第2の抽出手段と、
前記第1の抽出手段により抽出される前記第1の軸の電気角に対応する複数の機械角、および前記第2の抽出手段により抽出される前記第2の軸の電気角に対応する複数の機械角の差分をそれぞれ求めるとともに、これら差分と前記トーションバーの最大許容捩れ角との比較を通じて前記第1の軸および前記第2の軸の機械角をそれぞれ算出する機械角算出手段と、を備えてなるトルク検出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のトルク検出装置を備えてなる電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動パワーステアリング装置において、前記機械角算出手段により算出される前記第1の軸の機械角に基づき、ステアリングホイールの操舵角を求めることができることを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−185144(P2012−185144A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66927(P2011−66927)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】