説明

トルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法

【課題】 完成品でのころ軸受の転走面やころに存在する微少な欠陥を精度良く検出でき、また回転がロックしてしまう大欠陥も安定して検出でき、検出の所要時間も短縮できるトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法を提供する。
【解決手段】 この発明のトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法は、外輪およびこの外輪の転走面を転動する複数のころを備えたころ軸受において、前記外輪の転走面およびころのいずれか一方または両方の欠陥を検出する方法である。この検出方法では、ころ軸受におけるころの配列内にテーパ軸3を挿入し、その楔効果でテーパ軸3ところと転走面を密着させた状態で、テーパ軸3を回転させる。このテーパ軸3の回転トルクの変動をトルクセンサ5で検出し、トルクセンサ5で検出された信号を信号処理することで前記転走面またはころの欠陥を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ころ軸受の転走面およびころのいずれか一方または両方の欠陥を検出するトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受の転走面や転動体での欠陥を部品単体の状態で検出する方法として、顕微鏡による肉眼での外観検査などが行われている。
また、完成品の状態での軸受の欠陥検出方法としては、加速度ピックアップまたは速度ピックアップを用いた振動検査による方法が行われている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−171351号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記した顕微鏡による肉眼での外観検査では、検査に多大な時間がかかるうえに、人的作業のため見落としが発生する可能性がある。また、部品単体での検査では、製品の組立時に発生する打ち傷やバリの圧着などを検出することは不可能である。
また、振動検査では、比較的大きな欠陥を検出することは可能であるが、微少に引っ掛かり感が認められる程度の小欠陥を検出することが困難であった。また、回転がロックしてしまうほどの大欠陥では、かえって振動値が小さくなるため、良品と誤判定する可能性があるなどの問題点もあった。
【0004】
この発明の目的は、完成品でのころ軸受の転走面やころに存在する微少な欠陥を精度良く検出でき、また回転がロックしてしまう大欠陥も安定して検出でき、検出の所要時間も短縮できるトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明のトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法は、外輪およびこの外輪の転走面を転動する複数のころを備えたころ軸受において、前記外輪の転走面およびころのいずれか一方または両方の欠陥を検出する方法であって、ころ軸受におけるころの配列内にテーパ軸を挿入し、その楔効果でテーパ軸ところと転走面を密着させた状態で、テーパ軸を回転させ、このテーパ軸の回転トルクの変動をトルクセンサで検出し、トルクセンサで検出された信号を信号処理することで前記転走面またはころの欠陥を検出することを特徴とする。
この方法によると、完成品でのころ軸受の転走面やころに存在する微少な欠陥を精度良く検出でき、また回転がロックしてしまう大欠陥も安定して検出でき、検査の所要時間も短縮できる。すなわち、微小な欠陥から大欠陥までの高い検出性能が得られる。また、検査時間が短くて済むため、軸受の生産工程における欠陥検出処理のインライン化が可能となる。
【0006】
この発明において、前記信号処理は、トルクセンサから得られた信号波形から所定の不要周波数帯の信号成分をフィルタ処理で除去するものであっても良い。また、前記信号処理は、包絡線検波処理を行い、この包絡線検波処理された信号の周波数分析により、欠陥成分の定量化を行うものであっても良い。さらに、前記信号処理は、パルスの計数を行うものであっても良い。また、前記信号処理は、実効値によって定量化を行う方法であっても良い。
【発明の効果】
【0007】
この発明のトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法は、外輪およびこの外輪の転走面を転動する複数のころを備えたころ軸受において、前記外輪の転走面およびころのいずれか一方または両方の欠陥を検出する方法であって、ころ軸受におけるころの配列内にテーパ軸を挿入し、その楔効果でテーパ軸ところと転走面を密着させた状態で、テーパ軸を回転させ、このテーパ軸の回転トルクの変動をトルクセンサで検出し、トルクセンサで検出された信号を信号処理することで前記転走面またはころの欠陥を検出するものとしたため、完成品でのころ軸受の転走面やころに存在する微少な欠陥を精度良く検出でき、また回転がロックしてしまう大欠陥も安定して検出でき、検出の所要時間も短縮できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明の一実施形態を図1ないし図6と共に説明する。図1は、この実施形態によるころ軸受の欠陥検出方法に用いられる検査装置の構成図を示す。この欠陥検出方法が適用される検査対象のころ軸受11は、図6に完成品の一例を示すように、円筒状のシェル型外輪12と、この外輪12の内径面である転走面12aに沿って配列され転走面12aを転動する複数のころ13と、これらのころ13を回転自在に保持する保持器14とでなるシェル型のラジアル軸受である。この欠陥検出方法では、上記ころ軸受11における外輪12の転走面12aおよびころ13の欠陥を検出する。
【0009】
図1に示す検査装置1は、検査対象のころ軸受11を、その外輪12の外周から把持するチャック2と、このチャック2に対向配置され前記ころ軸受11におけるころ13の配列内に挿入されるテーパ軸3と、このテーパ軸3を回転駆動するモータ4と、テーパ軸3の回転トルクの変動を検出するトルクセンサ5と、このトルクセンサ5で検出された信号を信号処理する分析器6とを備える。前記チャック2は、リニアスライド8に沿って昇降自在に支持されており、シリンダ装置等からなる昇降駆動源7により昇降駆動される。また、チャック2は、調芯機構9により調芯可能とされている。テーパ軸3の近傍には、ころ軸受11へのテーパ軸3の挿入量を監視するロードセル10が設けられている。
【0010】
テーパ軸3は、チャック2の上昇により、チャック2が把持するころ軸受11に挿入される。ロードセル10は、テーパ軸3の挿入時にテーパ軸3にかかる加圧力を計測し、その計測値からテーパ軸3の挿入量を推定する。ロードセル10の監視するテーパ軸3の挿入量が一定の値を超えると、これに応答して昇降駆動源7が停止される。このとき、テーパ軸3の楔効果で、テーパ軸3ところ軸受11のころ13と外輪転走面12aが密着した状態となる。この状態で、モータ4によりテーパ軸3が回転駆動され、テーパ軸3の回転トルクの変動がトルクセンサ5で検出される。このトルクセンサ5で検出された信号を前記分析器6で信号処理することにより、ころ軸受11の外輪転走面12aまたはころ13の欠陥の有無が検出される。
【0011】
図2は、前記分析器6のブロック図を示す。この分析器6は、前段のプリアンプ回路部21と後段の分析用PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)22とでなる。 プリアンプ回路部21は、帯域フィルタ24によりトルクセンサ5で得られた信号波形から不要周波数帯の信号成分を除去するフィルタ処理を行った後、その信号を増幅器25で増幅する第1のフィルタ回路23Aと、低域フィルタ26によりトルクセンサ5で得られた信号波形から不要周波数帯の信号成分を除去するフィルタ処理を行った後、その信号を増幅器27で増幅する第2のフィルタ回路23Bとを有する。
【0012】
分析用PLC22は、包絡線検波・周波数分析処理手段27と、パルスカウント手段28と、実効値演算処理手段29と、判定手段30とを備える。
【0013】
包絡線検波・周波数分析処理手段27は、プリアンプ回路部21における第1のフィルタ回路23Aを経由した信号を包絡線検波処理し、この包絡線検波処理された信号の周波数分析を行うことにより欠陥成分の定量化を行うものである。包絡線検波・周波数分析処理手段27は、絶対値検波部27a、包絡線処理部27b、および周波数分析部27cを入力側からこの順に有し、入力信号を絶対値検波部27aで絶対値検波し、その検波した信号を包絡線処理部27bで包絡線処理し、その包絡線処理された信号を周波数分析部27cで周波数分析する。
【0014】
パルスカウント手段28は、第1のフィルタ回路23Aを経由した信号のパルス計数を行うものである。パルスカウント手段28は、絶対値検波部28a、クレストファクタ処理部28b、およびパルスカウント部28cを、入力側からこの順に有し、入力信号を絶対値検波部28aで絶対値検波し、この検波された信号をクレストファクタ処理部28bでクレストファクタ処理し、その処理後の信号のパルス係数を、パルスカウント部28cにより行う。
【0015】
実効値演算処理手段29は、前記プリアンプ回路部21における第2のフィルタ回路23Bを経由した信号の実効値を演算し、その実効値により欠陥成分の定量化を行うものである。
【0016】
判定手段30は、包絡線検波・周波数分析処理手段27、パルスカウント手段28、および実効値演算処理手段29の処理結果から、ころ軸受11の欠陥の有無を判定し、判定信号を出力するものである。判定手段30は、通常品判定部30aとロック品判定部30bとを有しており、通常品判定部30aは、包絡線検波・周波数分析処理手段27、およびパルスカウント手段28の出力に対して、所定の判定基準に従って、通常の疵品の判別を行う。ロック品判定部30bは、実効値演算処理手段29の処理結果から、所定の基準に従ってロック品の判別を行う。
【0017】
表1には、上記分析器6における分析用PLC22での各信号処理手段27〜29の機能名と、その内容と、検査項目を対照させて示している。
【0018】
【表1】

【0019】
すなわち、判定手段30では、包絡線検波・周波数分析処理手段27で行われる「包絡線検波+FFT」の判定と、パルスカウント手段28で行われるパルスカウントの判定で、微少な欠陥によるゴリ感の検出を行い、実効値演算処理手段29で行われる実効値の演算結果の判定により、ころ軸受11が回転せずにロックしてしまう非常に大きな疵の検出を行う。
【0020】
図3〜図5には、上記した欠陥検出方法により行った具体的な検査結果をグラフにして示す。そのうち、図3は包絡線検波処理のデータに基づくゴリ感の有無の検査結果を、図4はパルスカウントのデータに基づくゴリ感の有無の検査結果を、図5は実効値に基づくロック品の有無の検査結果をそれぞれ示す。なお、この検査は、以下に挙げる測定条件で行った。
加圧力 :3N
テーパ軸テーパ角 :0.0035°
テーパ軸回転数 :300rpm
測定チャック前進速度 :30mm/sec
測定時間 :0.51sec
判定内容 :(1)包絡線検波+FFT(搬送波帯域 120−320Hz ,繰り返し周波数 23Hz)
(2)パルスカウント
(3)実効値
【0021】
図3に示す「包絡線検波+FFT」での測定結果のグラフにおいて、要求精度のゴリ感が中程度の製品はグラフの横軸3.0以上の製品であるが、グラフ中のレベル線AをNG(不良)レベルとすると100%NG判定されており、要求精度を満足していることが分かる。また、ゴリ感が小程度の製品もある程度検出可能であることも分かる。
【0022】
図4に示すパルスカウントでの測定結果のグラフによると、ゴリ感が中程度以上の製品の判定を、「包絡線検波+FFT」による判定の場合と比較した場合、流動品と測定値が近接している場合が見られる。
【0023】
図5に示す実効値判定でロック品の有無を測定した結果のグラフでは、「包絡線検波+FFT」の判定値とパルスカウント数はOK品(良品)と同レベルであるが、実効値ではOK品の3〜10倍の値を示している。
【0024】
以上の結果により、微少な欠陥によるゴリ感の検出は「包絡線検波+FFT」判定を基本とし、パルスカウント判定を組み合わせて行い、ロックして回らないほどの重大NGを実効値判定で行えば、正確な欠陥検出が可能であることが確認できた。
【0025】
このことから、この発明のトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法では、完成品の状態でのころ軸受11の外輪転走面12aやころ13に存在する微少な欠陥を精度良く検出することができる。また、従来例の振動検査では検出が困難な、回転がロックしてしまう大欠陥も安定して検出することができる。さらに、従来例の目視による単体部品での外観検査の場合と比べて、検査時間が短くなるので、インラインでの全数自動検査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(A)はこの発明の一実施形態にかかるトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法に用いられる検査装置の概略構成図、(B)はその軸受とテーパ軸の関係を示す部分拡大断面図である。
【図2】同検査装置における分析器のブロック図である。
【図3】前記欠陥検出方法における「包絡線検波+FFT」判定による測定結果のグラフである。
【図4】前記欠陥検出方法におけるパルスカウント判定による測定結果のグラフである。
【図5】前記欠陥検出方法における実効値判定による測定結果のグラフである。
【図6】同欠陥検査方法の検査対象となるころ軸受の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0027】
3…テーパ軸
5…トルクセンサ
6…分析器
11…ころ軸受
27…包絡線検波・周波数分析処理手段
28…パルスカウント手段
29…実効値演算処理手段
30…判定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪およびこの外輪の転走面を転動する複数のころを備えたころ軸受において、前記外輪の転走面およびころのいずれか一方または両方の欠陥を検出する方法であって、
ころ軸受におけるころの配列内にテーパ軸を挿入し、その楔効果でテーパ軸ところと転走面を密着させた状態で、テーパ軸を回転させ、このテーパ軸の回転トルクの変動をトルクセンサで検出し、トルクセンサで検出された信号を信号処理することで前記転走面またはころの欠陥を検出することを特徴とするトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法。
【請求項2】
請求項1において、前記信号処理として、トルクセンサから得られた信号波形から所定の不要周波数帯の信号成分をフィルタ処理で除去するトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記信号処理として、包絡線検波処理を行い、この包絡線検波処理された信号の周波数分析により、欠陥成分の定量化を行うトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記信号処理として、パルスの計数を行うトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、前記信号処理として、実効値によって定量化を行うトルク監視によるころ軸受の欠陥検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−205760(P2007−205760A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22481(P2006−22481)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】