説明

トレハロースからなる気道杯細胞過形成抑制剤。

【課題】優れた気道杯細胞過形成抑制剤を提供すること。
【解決手段】トレハロースからなる気道杯細胞過形成抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレハロースからなる気道杯細胞過形成抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
正常な気道の表面の多くは線毛上皮細胞で被われており、その中に気道粘液を産生する杯細胞が散在し、気道分泌液と線毛との協調作用により異物を排除している。しかし、何らかの原因で気道分泌が亢進すると、気道内にそれらが貯留して細菌増殖の温床となるため、気道感染を反復したり気道閉塞をきたしたりすることが知られている。また、感冒時には気道分泌亢進のみならず杯細胞の過形成等が惹起され、こじらせてしまうと慢性の難治性呼吸器疾患へ移行してしまう怖れがある(以上、例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
このような悪循環を防ぐためには、急性期における通常の去痰剤による治療のみならず杯細胞の過形成を抑制するための対処も必要である。しかし、これまでの感冒薬、感冒用医薬部外品又は健康食品等にはこのような観点からの配慮がなく、充分な鎮咳/去痰作用を示さない。
【0004】
これまでに、杯細胞過形成抑制作用を有する医薬としてはフドステインを含有する医薬が知られている。フドステインを含有する医薬は2001年に本邦で開発された医薬であり、慢性気管支炎、気管支拡張症、気管支喘息、肺結核、塵肺症、肺気腫、びまん性汎気管支炎等の慢性気道疾患における去痰の適応症を有する医薬である(以上、例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
一方、トレハロースは、二糖類の1種であり、甘味剤や安定剤として食品添加物に、保湿剤として化粧品に使用されてきた。また、これまでに、トレハロースの血清脂質調節作用(特許文献1参照)、抗骨粗鬆症作用(特許文献2参照)、グルコース負荷時の血糖値上昇抑制作用(特許文献3参照)、膵機能調節作用(特許文献4参照)、肝機能調節作用(特許文献5参照)、脳浮腫予防作用(特許文献6参照)、免疫賦活作用に基づく抗腫瘍作用(特許文献7参照)、神経変性疾患の予防作用(特許文献8参照)等が知られている。
【0006】
また、トレハロースが生体成分安定化作用を有することも知られており、食品、細胞、細菌の安定保存用に応用されている(例えば、特許文献1参照)。タバコ等の細胞障害性物質を溶解させた培養液中にヒト気管上皮細胞を培養して生存率や細胞障害の程度を調べたin vitro試験の結果、糖類(スクロース、マルトース、トレハロース)を培地に添加した場合には、細胞の生存率が改善することが報告されている(特許文献9参照)。同文献では、ネブライザー等による経鼻・経肺投与や点眼・化粧品等の局所投与以外にも、経口(飲食品)にも使用することができることが記載されている(特許文献9の13ページ)。しかし、内服でも有効であることを裏付ける根拠もデータも開示されていない。また、これまでに糖類の内服が気道細胞の保護・変性・障害の抑制につながったという報告は一つもない。
【0007】
以上、これまでに、トレハロースに気道杯細胞の形成を抑制する作用があるかどうかは不明であり、これまでの公知情報から、それを裏付ける根拠も知られていない。
【特許文献1】特開平5-186353号公報
【特許文献2】特開2000-198736号公報
【特許文献3】特開2000-7570号公報
【特許文献4】特開平11-158075号公報
【特許文献5】特開平11-60490号公報
【特許文献6】特開2001-302517号公報
【特許文献7】特開2003-81839号公報
【特許文献8】特開2003-267874号公報
【特許文献9】特開2006-316053号公報
【非特許文献1】医薬ジャーナル、2002年、第38巻、第12号、p.121-126
【非特許文献2】呼吸、2004年、第23巻、第2号、p.143-148
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
優れた気道杯細胞過形成抑制作用を有する化合物を見出すことが本発明の課題である。これまでに、当該分野における研究は十分になされてきたとはいえず、本発明の成果により、新規な予防又は治療効果を有する内服薬又は食品が提供できるものと考えられる。特に本発明は、感冒等の予防又は治療に役立つものと考えられる。
【0009】
本発明者らは、気道杯細胞過形成抑制作用を有する化合物について長年にわたり鋭意研究を行った結果、トレハロースに杯細胞過形成抑制作用が発現するという結果を見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
(1)トレハロースからなる気道杯細胞過形成抑制剤、
(2)(1)に記載の気道杯細胞過形成抑制剤を含有することを特徴とする気道杯細胞過形成抑制用内服薬、
(3)(1)に記載の気道杯細胞過形成抑制剤を含有することを特徴とする気道杯細胞過形成抑制用食品、
(4)(1)に記載の気道杯細胞過形成抑制剤を含有することを特徴とする鎮咳及び/又は去痰用内服薬及び
(5)感冒の治療又は予防に用いるための(2)〜(4)から選ばれるいずれか1項に記載の内服薬又は食品である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のトレハロースからなる気道杯細胞過形成抑制剤、それを含有することを特徴とする気道杯細胞過形成抑制用内服薬及び気道杯細胞過形成抑制用食品は、気道感染等で引き起こされる杯細胞過形成を有意に抑制する作用を示し、鎮咳及び/又は去痰作用を示すため有用である。また、本発明は、感冒の治療又は予防にも有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
トレハロースは、α−グルコースが1,1−グリコシド結合してできた二糖の1種であり、食品添加物として既存添加物名簿に収載されている。
【0013】
本発明の内服薬又は食品におけるトレハロースの1回投与量は、性別、適応症や年齢等により異なり、適宜検討し、適当な投与量を決めればよいが、通常10mg〜10000mgであり、好適には30mg〜3000mgであり、これを1日に1〜3回投与すればよい。
【0014】
本発明の内服薬又は食品の具体的な剤形としては、医薬としては、例えば、錠剤、細粒剤(散剤を含む)、カプセル剤等の固形製剤、液剤(シロップ剤を含む)等を挙げることができる。食品としては、甘味料として種々の飲食品、例えば、清涼飲料、ゼリー、プリン、クッキー、ガム、チョコレート、パン等を挙げることができる。
【0015】
各剤形に適した添加剤や基材を適宜使用し、日本薬局方等に記載された通常の方法に従い、製造・加工することができる。
【0016】
上記各剤形においては、その剤形に応じ、通常使用される各種添加剤を使用することもできる。
【0017】
例えば、錠剤の場合、乳糖、結晶セルロース等を賦形剤として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は酸化マグネシウム等を安定化剤として、ヒドロキシプロピルセルロース等をコーテイング剤として、ステアリン酸マグネシウム等を滑沢剤として、使用することができ、細粒剤及びカプセル剤の場合、乳糖等を賦形剤として、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は酸化マグネシウム等を安定化剤として、トウモロコシデンプン等を吸着剤として、ヒドロキシプロピルセルロース等を結合剤として、使用することができる。食品では、種々の食品素材や食品添加物等を配合することができる。
【0018】
上記各剤形において、必要に応じ、クロスポビドン等の崩壊剤;ポリソルベート等の界面活性剤;ケイ酸カルシウム等の吸着剤;三二酸化鉄、カラメル等の着色剤;安息香酸ナトリウム等のpH調節剤;香料;その他の食品添加物等を添加することもできる。
【実施例】
【0019】
以下に、実施例及び試験例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)錠剤
(1)成分
(表1)
1〜3錠中 (mg)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
トレハロース 600
タルク 30
ステアリン酸マグネシウム 10
ヒドロキシプロピルセルロース 5
結晶セルロース 150
乳糖 適量
香料 微量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
【0021】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「錠剤」の項に準じて錠剤を製造する。
【0022】
(実施例2)顆粒剤
(1)成分
(表2)
1包中 (mg)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−―
トレハロース 600
酒石酸 2
ヒドロキシプロピルセルロース 50
乳糖 適量
香料 微量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−――。
【0023】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製造する。
【0024】
(実施例3)カプセル剤
(1)成分
(表3)
1〜3カプセル中 (mg)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−――
トレハロース 600
ヒドロキシプロピルセルロース 20
ステアリン酸マグネシウム 10
乳糖 適量
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−―。
【0025】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、日局製剤総則「顆粒剤」の項に準じて細粒剤を製造した後、カプセルに充てんして硬カプセル剤を製造する。
【0026】
(実施例4)ホワイトチョコレート
(1)成分
(表4)
1枚100g中 (g)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−――
トレハロース 3
ビターチョコレート 20
カカオバター 22
全脂粉乳 20
レシチン 0.3
バニリン 微量
砂糖 残部
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−―。
【0027】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、通常のチョコレート製造方法に準じて製造する。
【0028】
(実施例5)キャンデー
(1)成分
(表5)
1枚100g中 (g)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−――
トレハロース 3
水あめ 55
クエン酸 適量
香料 微量
砂糖 残部
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−―。
【0029】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、通常のキャンデー製造方法に準じて製造する。
【0030】
(実施例6)パン
(1)成分
(表6)
1枚100g中 (g)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−――
トレハロース 3
小麦粉 85
食塩 適量
ショートニング 適量
イースト 3
水 残部
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−―。
【0031】
(2)製法
上記成分及び分量をとり、通常のパン製造方法に準じて製造する。
【0032】
(試験例)杯細胞過形成抑制効果試験
(1)被験物質
トレハロースは(株)林原商事製のものを使用した。当該被験物質は、試験当日に0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)液を加えて被験薬を調製して投与し、対照群には0.5%CMC液を投与した。投与液量はいずれの場合も5mL/Kgとなるようにした。
【0033】
(2)動物
F344/DuCrj雄性ラットの10週齢を日本チャールズリバー(株)から購入し、温度20〜26℃、湿度30〜70%、照明時間7時〜19時に制御されたラット飼育室内でラット用ブラケットテーパーケージに5匹ずつ入れ、飼料(マウス・ラット飼育用F−2、船橋農場製)および水フィルターを通した水道水を自由に摂取させて約1週間予備飼育した。試験開始日に肉眼で動物の健康状態を観察し良好なことを確認して体重を測定し無作為に1群7匹に群分けして用いた。
【0034】
(3)方法
ラットにペントバルビタール50mg/Kgを腹腔内投与して麻酔させ、仰臥位に固定し、頚部喉頭側皮膚を正中に切開して、気管露出部から確認しながら気管内に挿入し、1%リポポリサッカライド(LPS)溶液を100μL投与した。直ちに、気管周囲筋肉と切開部皮膚を縫合して気道粘膜障害動物を作成した。
【0035】
試験開始日の午前中に被験物質(対象群にはCMC液)を経口投与した後に、上述の方法でLPS溶液を気管内投与し、その日の16:00以降に再度被験物質(対象群にはCMC液)を経口投与した。2日目及び3日目には午前(11時前後)と午後(16時前後)の1日2回経口投与した。
【0036】
4日目に体重を測定した後、ペントバルビタール麻酔下で頚動脈を切断して放血安楽死させてから、喉頭蓋部より肺までの気管を採取し、生理食塩水で洗浄後、10%中性緩衝ホルマリン液に浸漬し充分に固定した。
【0037】
充分に固定後、気管を左右主気管支分岐部より上部約10mmで横断し、さらに上方に6mm以上の長さで横断し、管状の気管を切り出し観察材料とした。
【0038】
常法により、管状の気管を縦断して短冊状の薄切気管標本を作製し、これをアルシアン青・PAS染色で染色後、6mm長の範囲内の杯細胞数を顕微鏡下で計測した。なお、1例について2本の短冊状気管組織標本の杯細胞合計数を計測数とした。
【0039】
杯細胞過形成抑制率(%)を次式より求めた。
【0040】
杯細胞過形成抑制率(%)=[1−B/A]×100
A:CMC投与群の杯細胞数の平均値
B:被験物質投与群の杯細胞数の平均値
(4)試験結果
得られた杯細胞過形成抑制率の結果を表7に示す。なお、値は1群7匹の平均値である。
【0041】
(表7)
被験物質(投与量:mg/Kg) 杯細胞過形成抑制率(%)
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
トレハロース(14) 31
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−。
【0042】
表7より、トレハロースに優れた杯細胞過形成抑制作用があることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のトレハロースからなる気道杯細胞過形成抑制剤、それを含有することを特徴とする気道杯細胞過形成抑制用内服薬及び気道杯細胞過形成抑制用食品は、気道感染等で引き起こされる杯細胞過形成を有意に抑制する作用を示し、フドステインを含有する製剤鎮咳及び/又は去痰作用を示すため有用である。また、本発明は、感冒の治療又は予防にも有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレハロースからなる気道杯細胞過形成抑制剤。
【請求項2】
請求項1に記載の気道杯細胞過形成抑制剤を含有することを特徴とする気道杯細胞過形成抑制用内服薬。
【請求項3】
請求項1に記載の気道杯細胞過形成抑制剤を含有することを特徴とする気道杯細胞過形成抑制用食品。
【請求項4】
請求項1に記載の気道杯細胞過形成抑制剤を含有することを特徴とする鎮咳及び/又は去痰用内服薬。
【請求項5】
感冒の治療又は予防に用いるための請求項2〜4から選ばれるいずれか1項に記載の内服薬又は食品。

【公開番号】特開2009−1548(P2009−1548A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126631(P2008−126631)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】