説明

トロポロン誘導体のエーテル類の製造方法

【課題】トロポロン化合物のエーテル誘導体を短時間かつ高収率で製造し得る製造方法を提供すること。
【解決手段】トロポロン誘導体と、求電子剤とを、塩基存在下で反応させる際に、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルピロリドン、及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いる工程を含む、トロポロン誘導体のエーテル類の製造方法とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロポロン誘導体のエーテル類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トロポロン誘導体のエーテル類は、活性トロポノイドと称される化合物群に属し、その反応性の高さから合成中間体として極めて有用である。当該エーテル類の中で、メチルエーテルの合成法は古くから知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、トロポロン類にジアゾメタンを作用させる方法が記載されている。しかし、非特許文献1に記載の技術はメチルエーテルの合成に限られている。
【0004】
また、メチルエーテル以外のエーテル類の合成法として、非特許文献2の方法が知られている。非特許文献2には、トロポロン類のエーテル合成法として相間移動触媒を用いる方法などが記載されている。
【0005】
更に、非特許文献3には、アセトニトリルを溶媒とし、各種アルキルエーテル類を合成する方法が記載されている。
【0006】
【非特許文献1】大有機化学、第13巻、非ベンゼン系芳香族環化合物、小竹無二雄監修、朝倉書店(株)発行、1957年
【非特許文献2】Synthesis,1999,No.7,1149−1154
【非特許文献3】Arch.Pharm.Chem.Life Sci.2007,340,569−576
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、ジアゾメタンという発ガン性かつ爆発性の試薬を必要とするばかりか、メチルエーテルの合成に限られるという難点がある。
また、非特許文献2の方法は、アリル型のエーテル類の合成に限られるばかりか、高価な相間移動触媒を必要とするという難点がある。
更に、非特許文献3では、エーテル化に24〜72時間という長時間を要するばかりか、目的とするエーテル類の収率が概して低いという問題がある。
【0008】
即ち、上述のものをはじめとする従来の製造技術では、トロポロン誘導体のエーテル類を短時間かつ高収率で製造することは困難である。
【0009】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、トロポロン誘導体のエーテル類を短時間かつ高収率で製造し得る製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討の結果、意外にも特定の非プロトン性極性溶媒中で反応させることにより、トロポロン誘導体のエーテル類を短時間かつ高収率で製造し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は以下のものを提供する。
[1]トロポロン誘導体と、求電子剤とを、塩基存在下で反応させる際に、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルピロリドン及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いる工程を含む、トロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
[2]上記トロポロン誘導体は、下記式(1)で表される化合物であり、上記トロポロン誘導体のエーテル類は、下記式(2)で表される化合物である、[1]のトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
【化4】

(式中、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアミノ基を表す。R、R、R、R及びRは、それらのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよい。R、R、R、R及びRは、式(2)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有してもよい。)
【化5】

(式中、R、R、R、R及びRは、式(1)の定義と同じであり、Rは、置換又は非置換の炭化水素基を表す。R、R、R、R、R及びRは、式(2)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有してもよい。)
[3]上記非プロトン性極性溶媒は、ジメチルスルホキシド又はN,N−ジメチルホルムアミドである、[1]又は[2]のトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
[4]上記求電子剤は、下記式(3)で表される化合物である、[1]〜[3]のいずれか一つのトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
【化6】

(式中、Rは置換又は非置換の炭化水素基を表し、Xはハロゲン原子又はアルキルスルホネート基、ベンゼンスルホネート基又はp−トルエンスルホネート基を表す。)
[5]上記求電子剤は、臭化アルキルである、[4]のトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
[6]上記塩基は、アルカリ塩、金属炭酸塩、金属水酸化物、金属アルコキシド、金属水素化物及び金属アミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]〜[5]のいずれか一つのトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
[7]上記塩基は、炭酸カリウムである、[6]のトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
[8]更に、水を反応物に添加する工程を含む、[1]〜[7]のいずれか一つのトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トロポロン誘導体のエーテル類を、短時間かつ高収率で製造し得る製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本実施形態は以下に限定して解釈されるものではなく、その要旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0014】
本実施形態の製造方法は、トロポロン誘導体と求電子剤を塩基存在下で反応させる際に、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルピロリドン及びγ−ブチロラクトンからなる群(以下、これらを「非プロトン性極性溶媒群」と総称する場合がある。)より選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いるものである。
【0015】
本実施形態では、上述の溶媒を用いることによって、トロポロン誘導体のエーテル化反応を効率よく行うことができる。
【0016】
本実施形態の出発化合物であるトロポロン誘導体は、置換又は非置換のトロポロンを意味し、α−トロポロン誘導体、β−トロポロン誘導体、γ−トロポロン誘導体のいずれであってもよい。
特に、トロポロン誘導体として下記式(1)で表される化合物を用いる場合には、トロポロン誘導体のエーテル類として式(2)で表されるトロポロン誘導体のエーテル類を得ることができる。
【0017】
【化7】

【0018】
式(1)において、R〜Rは、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアミノ基を表す。
アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ヒドロキシエトキシカルボニル基があげられる。それらの中では、製造の容易さの観点からメトキシカルボニル基が好ましい。
アシル基としては、製造の容易さの観点からアセチル基が好ましい。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基があげられる。それらの中では、原料入手の容易性や性能の観点からイソプロピル基が好ましい。
アルケニル基としては、例えば、プロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基があげられる。
シクロアルキル基としては、例えば、シクロヘキシル基があげられる。
アラルキル基としては、例えば、ベンジル基があげられる。
アルキルスルファニル基としては、メチルスルファニル基、エチルスルファニル基、プロピルスルファニル基、2−メチルスルフィド−エチル基、3−メチルスルフィド−プロピル基があげられる。
アリール基としては、製造の容易性の観点からフェニル基が好ましい。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基があげられる。それらの中では、製造の容易さの観点からメトキシ基が好ましい。
ハロゲン原子としては、製造の容易さの観点から塩素原子又は臭素原子が好ましい。
アミノ基は置換していなくても置換していてもよい。モノ置換アミノ基としては、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基、ベンジルアミノ基、フェニルアミノ基があげられる。それらの中では、原料入手の容易性の観点からメチルアミノ基が好ましい。ジ置換アミノ基としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジシクロヘキシルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基があげられる。それらの中では、原料入手の容易性の観点からジメチルアミノ基が好ましい。
【0019】
式(1)において、R〜Rのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよい。そのような飽和環や不飽和環としては、例えば、ピラゾール環、イソオキサゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環のようなアゾール環があげられる。
また、R〜Rは、式(2)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有してもよい。例えば、R〜Rは式(2)で表される誘導体と結合していてもよい。このように、式(1)で表される誘導体は、1分子中にトロポロン構造を2以上有する構造であってもよい。
【0020】
式(1)において、R〜Rは上述のもののいかなる組合せであってもよい。
また、本実施形態で用いるトロポロン誘導体とは、酸素官能基がフリーである式(1)に由来する、金属塩(式(4))などであってもよい。
【0021】
【化8】

【0022】
(式中、R、R、R、R及びRは、式(1)と同じ定義であり、Mは金属元素を表す。)
【0023】
式(4)のMは、トロポロン誘導体の酸素原子に配位できる金属であればよく、例えば、Na、K、Mg、Ca、Zn、Ni、Fe、Cu、Al、Agなどの金属元素があげられる。
【0024】
更に、式(1)で表される化合物(トロポロン誘導体)は化学合成品であってもよいし、天然物抽出品であってもよい。
【0025】
式(1)で表される化合物(トロポロン誘導体)は公知の方法を応用して合成できる。例えば、大有機化学、第13巻、非ベンゼン系芳香族環化合物、小竹無二雄監修、1957年、朝倉書店(株)発行に記載の方法を応用すれば、様々な構造のトロポロン誘導体を合成できる。
また、シクロペンタジエンとジクロロケテンとの付加反応で生成する付加体をアルカリ加水分解する方法などによってもトロポロン誘導体を合成できる。
【0026】
また、天然物から抽出できる天然物抽出品としては、例えば、天然物から単離されるトロポロン誘導体として、ニオイヒバ(Thuja plicata D.Don)から単離されるツヤプリシンや、台湾ヒノキから単離されるヒノキチオールなどがあげられる。
【0027】
本実施形態の最終目的化合物はトロポロン誘導体のエーテル類である。例えば、上記式(1)のトロポロン誘導体を用いた場合には、下記式(2)で表される化合物である。
【0028】
【化9】

【0029】
式(2)において、R〜Rは、式(1)の定義と同じであり、Rは、置換又は非置換の炭化水素基を表す。
は、例えば、炭素数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基を表し、環状であってもよいし非環状であってもよい。また、不飽和結合が含まれていてもよい。また、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、ハロゲンなどのヘテロ原子が含まれていてもよい。
また、R〜Rは、式(2)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有してもよい。例えば、R〜Rは式(2)で表される誘導体と結合していてもよい。このように、式(2)で表される誘導体は、1分子中にトロポロン構造を2以上有する構造であってもよい。
【0030】
本実施形態において用いる求電子剤は、一般式RXで表される。Rは式(2)におけるRと同じ定義であり、例えば、炭素数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基を表し、環状であってもよいし、非環状であってもよい。また、不飽和結合が含まれていてもよい。また、酸素、窒素、硫黄、ケイ素、ハロゲンなどのヘテロ原子が含まれていてもよい。
このようなものとして、好ましくは炭素数1~12のアルキル基、より好ましくは炭素数1~6のアルキル基などがあげられる。
【0031】
なお、通常、RはRと同じ構造であるが、本実施形態における反応前、反応中又は反応後に、転移反応やその他反応によって構造が変化しうるものであってもよい。Rで起こりうる転移反応としては、例えば、熱、酸、アルカリ等の何らかの影響で分子内の原子の並びが変化するものが挙げられ、分子内転移、分子間転移を問わない。Rが転移反応を起こした場合には、式(2)のRは式(3)のRと異なる構造となりうる。
【0032】
求電子剤のXは、脱離能がある官能基であればよく、例えば、ハロゲン原子、スルホニル基などがあげられる。
ハロゲン原子としては、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子、フッ素原子などがあげられる。スルホニル基としては、ベンゼンスルホニル基、p−トルエンスルホニル基、アルキルスルホニル基などがあげられる。
【0033】
本実施形態において用いる塩基としては、特に制限されず、トロポロン類の活性水素を引き抜く能力を有する化合物であればよい。具体的には、金属水酸化物、金属炭酸塩、金属アルコキシド、金属水素化物、金属アミドなどがあげられる。
【0034】
本実施形態において求電子剤の使用量は、特に制限されず、反応条件等を考慮して適宜に決定できる。求電子剤の使用量は、好ましくはトロポロン類に対して1〜10倍モル、更に好ましくは、1〜5倍モルである。
求電子剤の使用量がトロポロン類に対して1倍モル以上であれば、トロポロン類をほぼ完全に転化させることができる。また10倍モル以下であれば、経済性を損なわない範囲で反応を加速できる。
【0035】
金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなどがあげられる。
金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどがあげられる。
金属アルコキシドとしては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムt−ブトキシド、カリウムトリフェニルメトキシドなどがあげられる。
金属水素化物としては、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化セシウムなどがあげられる。
金属アミドとしては、リチウムジイソプロピルアミド、リチウムヘキサメチルジシラジド、カリウムヘキサメチルジシラジドなどがあげられる。
これらの塩基のなかで、取り扱いの容易性等の観点から、好ましくは金属水酸化物又は金属炭酸塩であり、より好ましくは金属炭酸塩である。
【0036】
本実施形態において塩基の使用量は、特に制限されず、反応条件等を考慮して適宜に決定できる。塩基の使用量は、好ましくはトロポロン類に対して1〜10倍モル、更に好ましくは1.1〜5倍モルである。
塩基の使用量がトロポロン類に対して1倍モル以上であれば、トロポロン類の活性水素をほぼ完全に引き抜くことができる。また、10倍モル以下であれば、経済性を損なわない範囲で反応を加速できる。
【0037】
本実施形態では、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAC)、ヘキサメチルホスホルアミド(HMPA)、N−メチルピロリドン(NMP)及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いて反応を実施する。本実施形態では、これらの非プロトン性極性溶媒群の少なくとも1種を用いることによりトロポロン類のエーテル化反応を短時間かつ高収率で行うことが可能となる。これらの溶媒のなかで特に好ましいのは、塩基性条件下での安定性に優れるジメチルスルホキシド(DMSO)である。
なお、これらの溶媒は、単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
本実施形態において上記の非プロトン性極性溶媒群の使用量は、特に制限されず、試薬や反応条件などを考慮して適宜に決定できる。非プロトン性極性溶媒群の使用量は、好ましくはトロポロン誘導体に対して1〜100倍モル、より好ましくは2〜80倍モル、更に好ましくは5〜50倍モルである。
非プロトン性溶媒の使用量がトロポロン誘導体に対して1倍モル以上であれば、円滑に反応を実施できる。また、100倍モル以下であれば、経済性を損なわない範囲で反応を加速できる。
【0039】
本発明においては、上述の非プロトン性極性溶媒群に加え、その他の溶媒を使用してもよい。その他の溶媒として使用できる溶媒は特に制限されず、反応条件等を考慮して適宜に用いることができる。
例えば、炭化水素系溶媒としては、トルエン、キシレンなどがあげられる。アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノールなどがあげられる。エーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどがあげられる。ケトン系溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトンなどがあげられる。エステル系溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチルなどがあげられる。
【0040】
反応溶媒中における、その他の溶媒の含有量の範囲は、上述の非プロトン性極性溶媒群の合計量に対して、好ましくは0質量%以上90質量%未満であり、より好ましくは、0質量%以上80質量%未満であり、更に好ましくは、0質量%以上50質量%未満である。
【0041】
本実施形態におけるエーテル化の反応条件は、特に制限されず適宜に好適な条件を採用できる。
本実施形態において反応温度は、特に制限されず、適宜に決定できる。反応温度は、好ましくは30〜120℃であり、より好ましくは40〜100℃である。反応温度をこの範囲にすることで、実用的な反応速度を得ることができ、かつ非プロトン性極性溶媒の熱安定性を保つことができる。
【0042】
本実施形態において反応時間は、特に制限されず、適宜に決定できる。反応時間は、好ましくは1〜24時間であり、より好ましくは1〜12時間である。反応時間をこの範囲にすることで、実用的な反応速度を得ることができ、かつ効率的な反応を実施できる。
【0043】
本実施形態において、反応場の雰囲気は特に制限されず、大気中又は不活性ガス雰囲気中で実施できる。好ましくは不活性ガス中で反応を実施することが好ましく、より好ましくは、窒素ガス雰囲気下で反応を実施することが好ましい。不活性ガス雰囲気で反応を実施することにより、原料や生成物の変質を抑制できる。
【0044】
また、本実施形態では、クラウンエーテルのような相関移動触媒などを用いなくとも、効率よくトロポロン誘導体のエーテル化反応を行うことができる。これにより、反応コストにも優れたエーテル化反応が可能となる。
【0045】
本実施形態におけるエーテル化反応は以下のようにして進行すると考えられる。まず、トロポロン誘導体と塩基が反応することで、トロポロン誘導体の活性水素が引き抜かれ、トロポロン誘導体のアルコキシドが生成される。このアルコキシドと、式(3)で表される求電子剤が反応することで、トロポロン誘導体のエーテルが生成する。
【0046】
なお、本実施形態の効果の範囲内であれば、必要に応じて、他の化合物を反応系に加えることもできる。その際の化合物としては特に限定されず、適宜に選択できる。
【0047】
本実施形態では、エーテル化反応が終わった後、後処理を行うことができる。後処理工程は特に制限されず、公知の方法を採用できる。
【0048】
本実施形態では、水を反応物に加える工程を行うことが好ましい。これにより目的物であるトロポロン誘導体のエーテル類を、非プロトン性極性溶媒や反応副生物などのその他の成分から簡便に分離できる。本実施形態で用いうる非プロトン性極性溶媒は水と混和する性質を有する。従って、水を添加することによって、この非プロトン性極性溶媒を水層に落とし込むことができ、かつ反応で副生した塩類なども水層に落としこむことができる。その結果、目的生成物であるトロポロン誘導体のエーテル類を容易に分離できる。
水の添加量は、非プロトン性極性溶媒に対して1~100質量%であることが好ましい。これにより目的物であるトロポロン誘導体のエーテルを、非プロトン性極性溶媒や反応副生物などその他の成分と効率よくかつ容易に分離できる。
また、水の添加は1度に行ってもよいし、2回以上に分けて添加してもよい。
【0049】
例えば、エーテル化反応終了時後の反応物に水と有機溶媒(ヘキサン、トルエン、酢酸エチル、ジクロロメタン等)を加え、振とう後に分相することができる。この操作により、過剰に加えた塩基、未反応のトロポロン誘導体のアルコキシド及び反応で副生した塩類などが水相に抽出される。同時に、本実施形態で用いうる非プロトン性極性溶媒は極めて水溶性が高いので、それらと共に水相に抽出される。一方、目的物であるエーテルは有機相に抽出されるので、何ら特別な精製工程を要することなく目的物を単離できる。
【0050】
また、必要ならば、精製工程としてカラムクロマトグラフィーや再結晶操作を行うことにより、より高純度の目的化合物を得ることができる。特に、本実施形態ではエーテル化反応の反応効率がよいため、後処理工程や精製工程が煩雑にならない。
【0051】
本実施形態により得られるトロポロン誘導体のエーテル類は、種々の用途に応用できる。その用法や用途は何ら制限されず、例えば、抗菌剤、医薬、香料、食品などに用いることができる。
具体的には、例えば、蚊、ゴキブリ、ダニ、ノミなどを対象とする、加熱又は室温蒸散タイプの殺虫剤、殺虫スプレー、蚊忌避剤(スプレーや塗布剤など);シロアリを対象とする、土壌散布剤、木材保存剤(塗布剤、浸漬剤、加圧注入剤など)、防蟻塗料(ウレタン系、アクリル系、エチレン−酢酸ビニル系など)、断熱剤(押出し法やビーズ法のポリスチレンやポリエチレン系、ポリウレタン系、フェノール系などの合成樹脂系発泡断熱剤、グラスウール、ロックウールなど)に練り込み・塗布・含漬などすることによる防蟻断熱剤、製造工程において接着剤に配合することによる防蟻合板、防蟻集成材、合成樹脂シート、紙、不織布などに配合する防蟻シートや防蟻テープなどがあげられる。
【0052】
また、本実施形態により得られるトロポロン誘導体のエーテル類は、アニオン硬化性樹脂などに配合できる光塩基発生剤の合成中間体として用いることもできる。例えば、式(2)で表されるエーテル結合をアミノ基に変換することで、2−アミノトロポン誘導体とすることもできる。
この2−アミノトロポン誘導体は光塩基発生剤などとして好適に用いることができる。
また、2−アミノトロポン誘導体に紫外線を照射すると分子内環化反応がおこる。これにより得られる構造の化合物は消炎作用を有する医薬として有用である。
【0053】
本実施形態の製造方法によれば、メチルエーテルに限らず種々のエーテル構造を2−アミノトロポン誘導体に導入することができる。その結果、重要な合成中間体となりうるトロポロン誘導体のエーテル類を効率よく合成できる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
4−イソプロピルトロポロン(旭化成ファインケム(株)製)2.5g(15.2mmol)をジメチルスルホキシド(DMSO)15mLに溶解させて溶液とした。この溶液に炭酸カリウム2.53g(18.3mmol)を加えて25℃で10分間撹拌した後、25℃で臭化n−ブチル(東京化成工業(株)製)4.17g(30.0mmol)を滴下して、60℃で3時間反応させた。
反応物を25℃に冷却した後、これに水80mLとトルエン100mLを加え、十分混合した後静置し、トルエン相を分離した。得られたトルエン相に水20mLを加え、十分混合した後静置し、トルエン相を分離した。
得られたトルエン相のトルエンを減圧下で留去し、4−イソプロピルトロポロンのn−ブチルエーテル3.3g(15.0mmol)を粘調液体として得た。4−イソプロピルトロポロンに対する収率は99%であった。
なお、得られた4−イソプロピルトロポロンのn−ブチルエーテルの確認はH−NMR(日本電子(株)製「ECA−500」)によって行った。
【0056】
[実施例2]
臭化n−ブチルの代わりに臭化n−ヘキシル(東京化成工業(株)製)4.95g(30.0mmol)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で反応を実施した。その結果、4−イソプロピルトロポロンのn−ヘキシルエーテルが95%の収率で得られた。
なお、得られた4−イソプロピルトロポロンのn−ヘキシルエーテルの確認はH−NMR(日本電子(株)製「ECA−500」)によって行った。
【0057】
[実施例3]
ジメチルスルホキシドの代わりにN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で反応を実施した結果、4−イソプロピルトロポロンのn−ブチルエーテルが90%の収率で得られた。
なお、得られた4−イソプロピルトロポロンのn−ブチルエーテルの確認はH−NMR(日本電子(株)製「ECA−500」)によって行った。
【0058】
[比較例1]
4−イソプロピルトロポロン(旭化成ファインケム(株)製)2.5g(15.2mmol)をアセトニトリル40mLに溶解させて溶液とした。この溶液に炭酸カリウム8.4g(60.78mmol)を加えて(25)℃で10分間撹拌した後、(25)℃で臭化n−ブチル(東京化成工業(株)製)4.17g(30.0mmol)を滴下して、還流温度(約82℃)で24時間反応させた。
反応物からアセトニトリルを減圧下で留去した後、水80mLとトルエン100mLを加え、十分混合した後静置し、トルエン相を分離した。得られたトルエン相に水20mLを加え、十分混合した後静置し、トルエン相を分離した。得られたトルエン相のトルエンを減圧下で留去し、4−イソプロピルトロポロンのn−ブチルエーテル2.0gを粘調液体として得た。4−イソプロピルトロポロンに対する収率は60%であった。
なお、得られた4−イソプロピルトロポロンのn−ブチルエーテルの確認はH−NMR(日本電子(株)製「ECA−500」)によって行った。
【0059】
実施例1〜3、比較例1の結果を表1に表す。
【0060】
【表1】

【0061】
アセトニトリルを用いた比較例1では、エーテル類の収率は60%であった。
これに対して、実施例1,2(溶媒:ジメチルスルホキシド)、実施例3(溶媒:N,N−ジメチルホルムアミド)はいずれも収率が90%以上であった。これにより、本実施形態の非プロトン性極性溶媒を用いた実施例1〜3が、アセトニトリルを用いた比較例1よりも、高収率であることが示された。
そして、実施例3の収率は90%であったのに対して、実施例1,2はいずれも95%以上の収率であった。これにより、非プロトン性極性溶媒の中でもジメチルスルホキシドを用いた実施例1,2が、N,N−ジメチルホルムアミドを用いた実施例3よりも、更に高収率であることが示された。
そして、ジメチルスルホキシドを用いた場合であれば、臭化n−ブチルを塩基として用いた実施例1も、臭化n−ヘキシルを塩基として用いた実施例2も、エーテル類を高収率で得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0062】
電子材料や医薬品の中間体などとして有用である、トロポロン誘導体のエーテル類を短時間かつ高収率で製造しうる製造方法を提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロポロン誘導体と、求電子剤とを、塩基存在下で反応させる際に、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルピロリドン及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒を用いる工程を含む、トロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
【請求項2】
前記トロポロン誘導体は下記式(1)で表される化合物であり、前記トロポロン誘導体のエーテル類は下記式(2)で表される化合物である、請求項1に記載のトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
【化1】

(式中、R、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、カルボキシル基、アルコキシカルボニル基、シアノ基、ホルミル基、アシル基、ニトロ基、ニトロソ基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アラルキル基、メルカプト基、アルキルスルファニル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアミノ基を表す。R、R、R、R及びRは、それらのうち少なくとも2つが互いに結合し飽和環又は不飽和環を形成していてもよい。R、R、R、R及びRは、式(2)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有してもよい。)
【化2】

(式中、R、R、R、R及びRは、式(1)の定義と同じであり、Rは、置換又は非置換の炭化水素基を表す。R、R、R、R、R及びRは、式(2)で表される化合物から1つの水素原子が脱離した1価の基を置換基として有してもよい。)
【請求項3】
前記非プロトン性極性溶媒は、ジメチルスルホキシド又はN,N−ジメチルホルムアミドである、請求項1又は2に記載のトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
【請求項4】
前記求電子剤は、下記式(3)で表される化合物である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
【化3】

(式中、Rは置換又は非置換の炭化水素基を表し、Xはハロゲン原子、アルキルスルホネート基、ベンゼンスルホネート基又はp−トルエンスルホネート基を表す。)
【請求項5】
前記求電子剤は、臭化アルキルである、請求項4に記載のトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
【請求項6】
前記塩基は、アルカリ塩、金属炭酸塩、金属水酸化物、金属アルコキシド、金属水素化物及び金属アミドからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
【請求項7】
前記塩基は、炭酸カリウムである、請求項6に記載のトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。
【請求項8】
更に、水を反応物に添加する工程を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載のトロポロン誘導体のエーテル類の製造方法。

【公開番号】特開2010−105961(P2010−105961A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−279673(P2008−279673)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】