説明

トロンビンとフィブリノーゲンの連続的製造方法

【課題】血液からトロンビン含有液とフィブリノーゲン濃縮液を簡便且つ連続的に製造する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】血液を抗凝固剤を含む溶液で2倍〜8倍に希釈してから、血漿分離膜に導入し循環させて血漿を採取する工程(1)、
該血漿を、アルブミン有効交換容量が該血漿の総蛋白量に対して3重量%〜60重量%であるアニオン交換基を有する多孔材に接触させて、該多孔材にプロトロンビンを吸着させる工程(2)、
前記工程(2)の後に、前記アニオン交換基を有する多孔材に溶離液を接触させてトロンビン含有液を回収する工程(3)、
前記工程(2)の後に、前記アニオン交換基を有する多孔材に接触させ素通りした血漿の温度を28℃〜41℃とし、分画分子量が20万Da〜80万Daである血漿成分分離膜で濾過して、フィブリノーゲンを濃縮する工程(4)、
を具備することを特徴とする、血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブリン糊の原料となるトロンビン含有液及びプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィブリン糊は、生理的な血液凝固作用を利用して、組織の接着、閉鎖及びそれに続く創傷治療を行うための外用接着剤あるいは止血剤として、現在各種外科手術に広く用いられている(非特許文献1、非特許文献2)。また、フィブリン糊を再生医療分野における生物学的足場材に用いる技術も多数知られている(非特許文献3、非特許文献4)。
【0003】
フィブリン糊を使用する際は、使用部位、すなわち、止血、接着あるいは創傷治癒を必要としている部位に、フィブリノーゲンとトロンビンを同時に滴下あるいは噴霧し、両者の混合によって、凝固を惹起し、フィブリン糊を形成させる方法が一般的である。凝固した後の止血効果、接着効果、あるいは安定した付着を維持するために、基本的には、ヒト血漿中のフィブリノーゲン濃度より高いフィブリノーゲンを含有するフィブリノーゲン製剤が使用される。また、急速な凝固を実現するため、通常血漿にはプロトロンビンとして存在する血液凝固第II因子を活性化させトロンビンに転換した状態で、フィブリノーゲンと混合される。それによって、凝固カスケードの最終段階であるフィブリノーゲンの切断、フィブリンモノマー形成、フィブリンポリマー化の過程が急速に進行する(非特許文献5)。
【0004】
以上のようなフィブリン糊の調製には、フィブリノーゲン濃縮液とトロンビン含有液の両者が必要である。現状では、フィブリノーゲンとしては、ヒトプール血漿から抽出したフィブリノーゲン製剤、トロンビンとしてはウシ血漿から精製したトロンビンが広く用いられている。しかし、ヒトプール血漿から得られたフィブリン糊は、C型肝炎等の感染の危険性や、アレルギー反応やショック等、免疫反応等の副作用の危険があり、また、ウシ血漿由来のトロンビン含有液にはvCJD感染の危険性がある。
【0005】
フィブリノーゲン単独については、自己血、すなわち、治療を受ける患者本人から採血し、濃縮精製したものを患者本人に用いる方法がこれまでにも実施されている。自己血からのフィブリノーゲンの濃縮方法として、たとえば、自己血漿から調製したクリオプレシピテート(クリオ)を使用する方法(非特許文献6)があり、冷凍、解凍の操作によってフィブリノーゲンを得る方法が開発されている(特許文献1)。また、フィルターによるフィブリノーゲンの濃縮方法として、限外濾過膜を用いる方法(特許文献2)、分画分子量として10万ダルトン(Da)〜100万ダルトン(Da)のフィブリノーゲンを阻止するフィルターを用いる方法(特許文献3)、更には、遠心分離に組み込んだ形でフィルターによって濃縮する方法(特許文献4)が開示されている。いずれも自己血から一定の濃縮度でフィブリノーゲンを濃縮することが可能であるが、トロンビン採取を考慮していないため、自己血由来のトロンビンを得るためには、トロンビン調製用の原料血液を別に採血する必要がある。別々に調製する場合、採血量、調製時間とも増大し、手術当日での調製は不可能となるが、そのことに関する記載はない。また、実用接着強度を得るための、フィブリノーゲンの高濃縮化において課題を有しており、特に限外濾過膜のような小孔径の分離膜を使用した場合、濃縮血漿の粘度が急速に上昇するため、濃縮倍率に限界があり、実用的な接着強度を得るための妨げとなる。
【0006】
トロンビンについて、特許文献5には、血漿からエタノールによってトロンビンを回収する方法が開示されているが、得られるトロンビンの活性値が不充分である。そのため、フィブリノーゲン濃縮液と混合した際、直ちには凝固しないため、止血剤として広く採用されるには至っていない。特許文献6には、血漿を凝固させた後、粉砕し、血清をそのままトロンビン含有液として使用する方法が開示されているが、この方法では、トロンビン活性値がさらに低く、実用的な止血剤、あるいは組織の接着剤として使用することはできない。
【0007】
トロンビンを精製する方法として、アニオン交換基によってプロトロンビンを吸着精製する方法は、イオンクロマトという形で古くから知られている(非特許文献7)。特に、プール血漿からのトロンビンの工業的生産においては、血漿中の蛋白の大部分を占めるマイナス荷電を有する蛋白をアニオン交換基に吸着し、溶離液のイオン強度を徐々に上げながら、各種の蛋白をクロマト的に分離する方法は良く知られている。また、プロトロンビンの等電位点が〜4.6と他の蛋白に比べて低く、アニオン交換基には高い親和性を有することから、プロトロンビンを精製する目的で、アニオン交換基を採用する例が開示されている(特許文献7)。以上のように、自己血からプロトロンビンのみを回収する方法は、いくつかの開発例があるが、これらの方法では、血漿からプロトロンビンを精製すると、その血漿中の他の凝固因子が回収できないため、フィブリン糊調製に必要な他の凝固因子、すなわち、フィブリノーゲンや第13因子などを濃縮するために、新たに血漿を準備する必要がある。
【0008】
クリオ法によって、フィブリノーゲンを沈殿させた上清からプロトロンビンを回収する試みがあるが(特許文献8、9)、この方法では、プロトロンビンを活性化する成分が上清中に充分には存在しないため、グリセリンやポリエチレングリコールなどの活性化剤を新たに添加する方法となっており、インキュベート時間を数日以上とることが必要な場合もあり、自己血由来のフィブリン糊を短時間に調製することはできない。
【0009】
特許文献10においては、溶離液として塩化カルシウムを用いることにより、アニオン交換基からプロトロンビンを溶離する際に、同時にトロンビンへの活性化を行い、トロンビン液として回収する方法が開示されている。この方法によれば、自己血由来のトロンビンを比較的短時間で精製することができるが、アニオン交換基のプロトロンビンに対する選択性に限界があること、また、アニオン交換基に吸着したプロトロンビンを活性化したトロンビンとして回収する比率が充分に得られないことから、処理血漿中に溶存するプロトロンビンをトロンビンとして回収できる量に限界があり、実用レベルのトロンビンを得るためには、多くの量の血漿を処理する必要が生じる。患者血からトロンビンを得る場合、回収率が低いことは、患者負担の点から好ましくない。
【0010】
特許文献11に、採血後、遠心分離によって血漿分離を行なった後、該血漿中のフィブリノーゲンを沈殿させ、さらに遠心分離で濃縮し、pHを低下させることによって、液化して使用する方法が開示されている。フィブリノーゲンを予めフィブリンモノマーに分解し、酸性液中で液化して保存し、使用現場で中和することによって凝固させるもので、トロンビンの精製を必要としないことが特徴である。しかし、この発明は、フィブリノーゲンをフィブリンモノマーに分解する際に、蛇毒を使用しており、すなわち、他種生物由来の製剤を使用しており、完全自己血由来を実現するには至っていない。
【0011】
血漿分離の手段は、遠心分離による方法と膜分離による方法がある。体外循環治療以外の用途で、一般に使用されている方法は遠心分離法である。遠心分離法の場合、採漿率を高く取ることができる。採漿率とは、血液中に含まれる血漿の内、採取できる血漿の容積比率である。すなわち、遠心分離には、血球成分を遠心力で沈殿させた後、上清のほとんどを原料血漿として採取できるというメリットがある。それに対して膜分離による血漿分離では、採漿率が60%程度であり、この工程で40%の原料血漿の損失が生じる。できる限り少量の採血から、高い回収率でフィブリノーゲン及びトロンビンを回収することを目的とした場合、これは致命的な欠点となる。つまり、当業者の常識では、遠心分離法の採用となる。
【0012】
たとえば、特許文献12には、血漿分離を膜分離で実施する方法が例示の一つとして挙げられてはいるが、例示のみであって、膜分離による血漿分離について検討も試みもなされていない。血漿分離を膜分離で実施するには、採漿率を上げるための特殊な工夫が必要となり、その工夫が後工程に影響を与えないような特殊なシステム構築が必要となる。特許文献11に記載されている方法が、全工程を遠心分離を軸として構成しているのは、遠心分離と膜分離の混合がシステム構成上、非効率にならざるを得ないことによる。
しかし、遠心分離の基本は固液分離であり、常に分離対象を沈殿させる必要が生じるばかりでなく、この方法によって沈殿を回収すると、沈殿した特定蛋白以外の液中の共存物質が、すべて除去されることになる。分離後のフィブリノーゲンを活性化するための蛋白は既に液中には存在していないことから、あえて蛇毒を添加せざるを得なくなり、特許文献11においては完全自己血由来を断念せざるを得なくなっている。
【0013】
完全自己由来で、手術当日の調製に適し、少量の血液から、短時間で自動的に、実用レベルの性能と量のフィブリン糊を得る手段は、まだないのである。
【特許文献1】特表2001−513073号公報
【特許文献2】特表平11−508813号公報
【特許文献3】国際公開第93/17776号パンフレット
【特許文献4】欧州特許出願公開第0877632号明細書
【特許文献5】特表2004−500026号公報
【特許文献6】特表2002−541924号公報
【特許文献7】特開平10−150980号公報
【特許文献8】特開平10−52267号公報
【特許文献9】特開平11−228443号公報
【特許文献10】米国特許第5,143,838号明細書
【特許文献11】米国特許第6,077,507号明細書
【特許文献12】特表平7−508275号公報
【非特許文献1】井上勉、北谷照雄、小林孝好、林昌亮「Fibrin接着剤(Beriplast)の接着効果と創の自然治癒過程に及ぼす影響」応用薬理31(3)641-648,1986
【非特許文献2】嘉悦洋、他、「ボルヒール(HG−4)の接着、止血および創傷治癒効果促進効果」基礎と臨床vol.23 No.10 Jul. '89
【非特許文献3】Hoch RE., et al. 「Single-cell suspensions of cultured human keratinocytes in fibrin-reconstitute the epidermis」Cell Transplantation、7、309-317, 1998
【非特許文献4】Meana A., et al. 「Large surface of cultured human epithelium obtained on a dermal matrix based on live fibroblast-containing fibrin gels」Burn、24、621-630、1998
【非特許文献5】松田道夫「フィブリン糊」Biomedical Perspective Vol.7 no.3 (1998)
【非特許文献6】木ノ下義宏、宇田川晴司、高橋孝喜「フィブリン糊」医学のあゆみ別冊(5月)p249-252、(2002)
【非特許文献7】「血液凝固―止血と血栓・上」p.121(宇宙堂 八木書店 1982)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、血液からトロンビン含有液とフィブリノーゲン濃縮液を簡便且つ連続的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討した結果、血漿分離、プロトロンビン吸着及び溶離、フィブリノーゲン濃縮の3工程から成り、これらの2工程乃至3工程を同時進行で実行し、血漿分離とフィブリノーゲン濃縮のそれぞれの膜分離を効率化し、プロトロンビン吸着及び溶離工程で蛇毒等の活性化剤を使用せずに高活性のトロンビンを得る方法を導入することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を成すに至った。
【0016】
即ち、本発明は以下に関する。
[1] 血液を抗凝固剤を含む溶液で2倍〜8倍に希釈してから、血漿分離膜に導入し循環させて血漿を採取する工程(1)、
該血漿を、アルブミン有効交換容量が該血漿の総蛋白量に対して3重量%〜60重量%であるアニオン交換基を有する多孔材に接触させて、該多孔材にプロトロンビンを吸着させる工程(2)、
前記工程(2)の後に、前記アニオン交換基を有する多孔材に溶離液を接触させてトロンビン含有液を回収する工程(3)、
前記工程(2)の後に、前記アニオン交換基を有する多孔材に接触させ素通りした血漿の温度を28℃〜41℃とし、分画分子量が20万Da〜80万Daである血漿成分分離膜で濾過して、フィブリノーゲンを濃縮する工程(4)、
を具備することを特徴とする、血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。
[2] 前記血液が、被手術者の血液であることを特徴とする、請求項1に記載の血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。
[3] 前記工程(3)と前記工程(4)を同時に進行させることを特徴とする、請求項1または2に記載の血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。
[4] 前記抗凝固剤を含む溶液が1mM〜20mMのクエン酸を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。
[5] 前記溶離液が2mM〜100mMの塩化カルシウムを含有する溶液であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。
[6] 前記血漿分離膜及び/または前記血漿成分分離膜が中空糸膜であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によれば、血液からトロンビン及びフィブリノーゲンを高い回収率で簡便且つ連続的に製造することができる。
さらに、本発明の方法によって製造されたトロンビン含有液とフィブリノーゲン濃縮液を用いれば、接着強度が従来品より顕著に高いフィブリン糊が得られる。
【0018】
本発明の方法は迅速且つ簡便なので、手術や再生医療の現場で好適に使用することができる。本発明の方法を用いれば、現場で使用直前にトロンビン含有液とフィブリノーゲン濃縮液を製造することができるので、保存におけるトラブルや、血液の取り違え等のリスクがない。
また、トロンビン含有液とフィブリノーゲン濃縮液の製造を被手術者の血液から行い、該トロンビン含有液とフィブリノーゲン濃縮液を該被手術者に対して使用する場合、被手術者にとっては外来成分を含まない自己由来製品の使用となるので、血液由来の感染等の危険性がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の特徴は、血液からの血漿分離、トロンビン回収、フィブリノーゲン濃縮を連続的に行なうことにある。従って、たとえば、第1プロセスの血漿分離工程にある条件を設定することによって、その後の工程に障害が出るならば、そのような条件を採用することは許されない。システム全体のバランスから、効率的にフィブリノーゲンとトロンビンが得られるシステムを構築する必要がある。
第1プロセスの血漿分離は膜分離によって実施される必要がある。トロンビン精製、フィブリノーゲン濃縮まで含めて、全工程を膜あるいは吸着剤を充填した容器に連続的に通液するシステムにすれば、システム全体をコンパクトにすることができる。1工程のみ、例えば、血漿分離工程のみに遠心分離を採用し、後工程のフィブリノーゲン濃縮を膜によって行なう場合、全く概念の異なる工程をシステム化することになり、装置が複雑かつ大仰になり、短時間処理の実現が困難となる。
【0020】
まず、血漿分離工程で採漿率を上げる必要がある。しかも、そのための条件設定は後工程に障害を与えないようにしなければならない。
本発明者らは、血漿分離で採漿率を上げる手段として、原料血液を希釈する方法を採用した。たとえば、ヘマトクリット値が40%の血液を50mL採血した場合、血球成分は20mL、血漿成分は30mLになる。血球の流動性を保つために必要で血球成分と不可分な液体量が12mLであるとすると、希釈しない血液から採取できる血漿量は18mLとなり、採漿率は60%である。一方、血液50mLに希釈液50mLを加えて血液を2倍に希釈した場合、血球成分が20mL、血漿の希釈液が80mLとなり、このうち採取できる血漿の希釈液の量は、血球成分と不可分な液体量を除いた68mLである。ここに含まれる血漿量は25.5mLであるから採漿率は85%となり、血液を希釈しない場合と比較して採漿率を大幅に改善できる。
【0021】
なお、ここでは、便宜上、採血量を50mLでいくつかの試算を行なっているが、採血量が50mLに限定されるわけではない。使用目的に応じて、適宜採血量は決定されるべきであり、採血量に応じて、試算結果は、比例的に適用することが可能である。
いうまでもないが、希釈倍率を大きくするほど、後工程のフィブリノーゲン濃縮にかかる負担は大きくなる。希釈して濃縮するのは、単なる時間的損失であり、この方法で、最適ポイントを探るのみでは、そもそもフィブリン糊を得るシステムとして、最良の方法かどうかは疑わしいと考えざるをえない。
【0022】
本発明者らは、含有アルブミンの量が、フィブリン糊の接着強度に大きな影響を与えていることを発見した。フィブリノーゲン濃縮液中のアルブミンの濃度は80mg/mL以下が好ましく、さらに好ましくは50mg/mL以下である。接着強度とアルブミンの関係を図4に示す。図4に示したのは、製剤フィブリノーゲン液にアルブミンを添加して、アルブミンの濃度と接着強度との関係を示したグラフである。製剤フィブリノーゲンは、化学及血清療法研究所製 ボルヒール(登録商標)を使用した。接着強度はアルブミン添加量0の場合を1とした場合の比率で示している。
【0023】
後工程のフィブリノーゲン濃縮の効率を上げるためには、希釈はしない方がよい。しかし、アルブミンのような低分子量蛋白を除去するためには、後工程のフィブリノーゲン濃縮においても、アルブミンなどの低分子量物質と高分子量物質であるフィブリノーゲンを効率的に分離するため、希釈のメリットがあることが判明した。さらに、得られるフィブリノーゲン濃縮液による接着強度が、市販されているフィブリン糊製剤の濃度と接着強度の関係に比べて同じ濃度で高い接着強度が得られることを発見した。アルブミンなどの低分子量物質を除去し、且つ、血漿成分分離膜による濃縮で、多くの共存蛋白が存在することによって、フィブリノーゲンを単離した形での通常の製剤では得られない凝固特性が得られるものと考えられる。
【0024】
希釈倍率は2倍〜8倍の範囲に入る必要がある。好ましくは3倍〜5倍である。
希釈倍率が2倍未満であると、血漿分離における回収率が低くなる。また、後工程で得られるフィブリノーゲン濃縮液中の残存アルブミン量が多くなり、実用接着強度が得られなくなる。希釈倍率が8倍を超えると、工程全体の所要時間が長くなる。
【0025】
希釈液には抗凝固剤が含まれている必要がある。抗凝固剤含有量が少なすぎると、血漿分離やフィブリノーゲン濃縮工程で、凝固が活性化し、目詰まりを生じさせる可能性がある。抗凝固剤含有量が多すぎると、フィブリノーゲン濃縮液中に同濃度の抗凝固剤が残存することになり、凝固特性を低下させ、接着強度低下の原因となる。抗凝固剤の種類は、クエン酸の他、フサン、ヘパリン、EDTAなど公知のものを使用することができるが、システム適用上、クエン酸を好適に使用することができ、希釈液中の含有濃度は1mMから20mMの範囲が好ましい。なお、採血においてバッグ採血を行う場合、採血バッグに抗凝固剤のみを予め入れておき、採血後、希釈液を採血バッグに注入する方法も好適に採用される。その場合、最終的に、クエン酸の希釈液中の含有濃度が1mMから20mMの範囲であれば好ましい。
【0026】
血漿分離膜は、公知のものを使用することができる。中空糸状が好ましく、細孔径が0.1μm〜0.5μm、中空糸内径が200μm〜400μm、膜厚みが20μm〜80μmのものが好適に採用される。本発明者らは、最も標準的な旭化成クラレメディカル社製のOPシリーズを採用した。中空糸内径330μmであり、膜厚みは50μmである。
体外循環等に用いる場合、通常は、One Passである。つまり、1回中空糸内部に原料血液を流通させ、その間に血漿成分を濾過し、中空糸出口より流出する血液は体内に戻すのが通常の使用形態である。
【0027】
本システムにおいては、希釈された血液を処理するため、One Passで必要な血漿分離を達成することは困難である。すなわち、原料血液が中空糸より流出した後、該血液を血液バッグに戻し、原料血液中に混合させ、再循環させる必要がある。
接触する膜面積が大きければ、短時間での血漿分離が可能となるが、膜面へのフィブリノーゲンの吸着による損失が無視できなくなる。吸着による損失が無視できる範囲で、できる限り膜面積を大きく取ることが必要である。中空糸の充填本数は、単位時間あたりの原料血液の処理量に影響を与え、中空糸の長さは、中空糸入り口に流入した原料血液が中空糸出口に達するまでの間の採漿率に影響を与える。これらを総合的に勘案して、血漿分離膜モジュールを作製した。
50mLの原料血液を処理する場合、上記、内径330μmの血漿分離膜ならば、膜面積は0.01m〜0.1mが好適に採用され、充填本数は100本〜1000本、膜長さは5cm〜15cmが好適である。
【0028】
本発明におけるアニオン交換基を有する多孔材とは、アニオン交換基が化学的に結合された多孔材を意味する。アニオン交換基としては、水中でプラスに荷電する官能基であれば適用可能である。強塩基性のトリメチルアンモニウム基、弱塩基性のジメチルエタノールアンモニウム基等も使用可能であるが、生体液のクロマト分離で広く採用されているジエチルアミノエチル基は好適に使用できる。また、ここでいう多孔材とは、液体が浸入可能な細孔を有する材料を意味し、ビーズ状のイオン交換樹脂、セファロースゲル、不織布、あるいはその他の多孔性膜や焼結体の細孔内表面にアニオン交換基を結合させたものが採用可能である。この中でも、セファロースゲルは、生体液のクロマト分離において使用されており、好適に採用できる。あるいは、細孔のないビーズや繊維状のイオン交換体をカラムに充填し、実質的に多孔性のアニオン交換体を形成したものを使用することもできる。
【0029】
アニオン交換基を有する多孔材のアルブミンの有効交換容量は、例えば、「イオン交換クロマトグラフィーハンドブック」(ファルマシアバイオテク株式会社、ISBN91970490−3−4)の第104頁に記載の測定方法により測定することができる。使用するアニオン交換樹脂をカラムに充填し、アルブミンの溶液を流通させて、有効交換容量を求めることができる。アニオン交換樹脂の有効交換容量は一般的に処理液中の総蛋白量の2〜5倍がよいとされている。これよりアニオン交換樹脂の容量が小さくなると、吸着されずにカラム出口より流出する割合が増えるため好ましくないというのが、アニオン交換樹脂カラムを使用する上での当業者の常識である。しかし、本発明者らは、プロトロンビンとフィブリノーゲンとの両者を含む希釈血漿の処理においては、トロンビンを吸着回収する場合の実用的な条件が、これとは異なる領域にあることを見出した。すなわち、アニオン交換基を有する多孔材のアルブミンの有効交換容量が接触させる希釈血漿中の総蛋白量の重量に対して3重量%〜60重量%であることが必要であり、好ましくは5重量%〜30重量%である。即ち、本発明においては、アニオン交換樹脂の有効交換容量が、処理液中の総蛋白量より少ない状態で処理を行う。
【0030】
希釈血漿中には、目的とするプロトロンビンとともに多くの共存蛋白が存在する。特異的な選択性のないアニオン交換樹脂において、フィブリノーゲンとプロトロンビンを選択的に分離するには、通常は、全蛋白を吸着後、溶離液のイオン強度を次第に増大させ、アニオン交換樹脂に対する親和性の低いものから順次溶離させる手段をとる。ほとんどのフィブリノーゲンを通過させ、しかし、プロトロンビンはほぼすべてを吸着させるには、プロトロンビンを特異的に吸着する官能基の合成を試みるのが、当業者の考え方である。
【0031】
しかし、本発明者らは、血漿あるいは希釈血漿を処理する場合に限り、大量に存在するアルブミンが有効なバッファー効果を生み出すらしいことを見出した。すなわち、大量に存在するアルブミンがアニオン交換基をまず占有するが、等電位点の低いプロトロンビンは次第にアルブミンと置き換わる。但し、フィブリノーゲンはアルブミンと同等の等電位点であり、高濃度に存在するアルブミンとの競争反応のために吸着に至らず、透過することが想定されるのである。以上の検討から、本発明者らは、プロトロンビンを吸着し、フィブリノーゲンが透過する適切なアニオン交換樹脂の充填量が存在することを見出した。
【0032】
アニオン交換樹脂充填量が3重量%未満であるとプロトロンビンの流出が生じ、60重量%より多いととフィブリノーゲンやその他の蛋白の吸着量が増大する。フィブリノーゲンの吸着量が増大することによる弊害は2つある。一つ目は最終的に回収されるフィブリノーゲンの回収率が減少することであり、二つ目は、アニオン交換樹脂充填カラム内に、プロトロンビンとフィブリノーゲンが共存することによって、凝固が活性化されて、トロンビンが消費され、結果的にトロンビンの回収率が得られないことである。
【0033】
希釈血漿流通後のアニオン交換樹脂には、プロトロンビンを含む陰性荷電の蛋白が吸着しているはずである。該アニオン交換樹脂に吸着したプロトロンビンを回収する際、回収操作に先立って、リンス液を流通させることが好ましい。生理食塩水をリンス液として採用できる。充填したアニオン交換樹脂容積の2倍〜20倍のリンス液を流通させることによって、特に陰性荷電の強いプロトロンビンなどの蛋白以外を洗浄することができる。アニオン交換樹脂の間隙に微量のフィブリノーゲンを含む血漿成分が残存していたり、あるいは微量のフィブリノーゲンが吸着していることもあり、洗浄液も希釈血漿に続いてフィブリノーゲン濃縮工程に供給することによって、アニオン交換樹脂吸着分のフィブリノーゲンの損失を防ぐことができて好ましい。
【0034】
引き続いて、該アニオン交換樹脂に溶離液を接触させる。2mM〜100mMの塩化カルシウムを含む液を溶離液として採用すると、溶離と同時にトロンビンへの活性化を行なうことができ好ましい。該アニオン交換樹脂と該溶離液との接触時間は、アニオン交換樹脂の孔構造や粒子径などによって好適に決定される。通常のセファロースゲルの場合、10分の接触時間で、ほとんどの吸着プロトロンビンは活性化され、トロンビンとして溶離回収することができる。接触時間は、10分〜90分が好ましく、さらに好ましくは15分〜30分である。接触させる溶離液の量は最終的に必要とするトロンビン含有液量と一致させると、回収後、そのままトロンビン含有液として使用できて好都合である。
【0035】
本発明におけるトロンビン精製方法は、フィブリノーゲンを濃縮する血漿に含まれるトロンビンすべてを回収し得るため、高い活性値を得ることができる。また、アニオン交換樹脂に吸着したプロトロンビンを活性化溶離する際の溶離液量によって得られるトロンビン含有液の量を調整できる。フィブリノーゲン濃縮液に対して少量のトロンビン含有液を混合すれば、得られるフィブリン糊液中のフィブリノーゲンは高い濃度を維持することができる。通常、製剤フィブリン糊は、フィブリノーゲン液とトロンビン含有液を等量で混合し、結果的に、フィブリノーゲン濃度は原料のフィブリノーゲン含有液の半分になるが、本発明において、たとえば、フィブリノーゲン濃縮液2.5mLとトロンビン含有液0.5mLを混合すれば、濃度低下は20%に過ぎず、得られるフィブリン糊において高い凝固性能が得られる。
溶離時間の間に、それに続く工程であるフィブリノーゲン濃縮を行なうと、全体の処理時間が短縮できるので好ましい。フィブリノーゲン濃縮工程は、アニオン交換樹脂を通過した希釈血漿を中空糸状の血漿成分分離膜に供給し、濾過することによって行なう。
【0036】
血漿成分分離膜は、アルブミン等の低分子量蛋白とフィブリノーゲン、第13因子、フィブロネクチンなどの高分子量の凝固性蛋白を分離濃縮するものである。膜形状は、中空糸状が好ましい。中空糸状の場合、濃縮終了後、中空部内に残存する液をフィブリノーゲン濃縮液として回収する。中空糸の充填本数と中空糸の中空部内容積によって、フィブリノーゲン濃縮液の回収量は設定できる。
【0037】
血漿成分分離膜の中空糸の構造は、中空糸内表面にスキン層を有するものが好ましい。ここでいうスキン層とは、当業者間で認められている膜表面に存在する緻密層のことである。一般には限外濾過膜において、2000〜10000倍程度の電子顕微鏡による観察では無孔層として観察される厚さ10μm以下の層を指すが、ここで使用する中空糸は、限外濾過膜より分画分子量の高い膜を使用することが好ましく、電子顕微鏡によるスキン層の表面観察においても、倍率10000倍程度で孔の存在の確認は可能である。従って、ここでいうスキン層とは、膜断面方向の構造に対して、孔径の小さな薄い層が表面に存在する状態を指す。内表面にこのようなスキン層が存在すると、回収対象となるフィブリノーゲンが中空糸膜の構造の中に入り込むことがなく、中空部内に濃縮されたフィブリノーゲンが溶存するため、中空部内のフィブリノーゲン濃縮液を効果的に回収できる。
【0038】
ここでいう使用条件における分画分子量とは、特定の分子量の物質が90%阻止される時の分子量によって表現されるもので、実際に本発明からなる中空糸を充填したモジュールによって血漿を濾過したときの、濾液側の各種蛋白の濃度を測定し、原料血漿の内、膜内に阻止された比率を求めることによって得られた値である。詳細は特開2005−239613号公報に記載されている。測定対象となるタンパクは、アルブミン(分子量6.6万Da)、イムノグロブリンG(分子量15万Da)、フィブリノーゲン(分子量35万Da)、イムノグロブリンM(分子量95万Da)である。各分子量の阻止率から、分画分子量を推定し、値として求める。使用条件における分画分子量として、20万Da〜80万Daの範囲に入る必要がある。さらに好ましくは20万Da〜35万Daである。
少なくとも、上記のような分画分子量の範囲の中空糸膜を使用すれば、フィブリノーゲンを効果的に濃縮でき、アルブミンの不透過による目詰まりを回避することができると考える。
【0039】
フィブリノーゲンの濃縮が製剤の製造プロセスで使用される例が、開示されているが(特開2006−505508号公報)、その場合は、液中の共存蛋白がほとんど存在しなくなるまで、液体置換がなされた後の工程である場合が多い。その場合は、除水による濃縮となり、本発明で実施している分子量の異なる蛋白の分離操作とは異なる。本発明では、血漿中の蛋白が実質的にすべて共存する状態で、大量に共存するアルブミンなどの低分子量蛋白を透過させ、フィブリノーゲンなどの高分子量蛋白の透過を阻止して中空糸内部に留めて、分離濃縮を行なう工程であるため、目詰まりに対する特別な配慮が必要となる。
そればかりでなく、本発明者らは、血漿中に元々大量に存在するアルブミンの例えば90%が透過し、10%が中空糸内部に残った場合でも、フィブリノーゲン濃縮液中に蓄積されるアルブミンの濃度は、かなり高くなり、仮に目詰まりという形で、工程そのものに、影響が現れなかった場合においても、最終性能に顕著な影響を与えることを見出した。従って、単に適切な膜孔径を選択するだけでは、本発明は完結しないのである。
【0040】
本発明者らは、血漿分離工程において回収率向上を目的に導入した希釈液添加が、フィブリノーゲン濃縮工程において、アルブミンとフィブリノーゲンの分離特性の向上という形で、接着強度に顕著な効果を与えることを発見し、本発明を完結させることができた。
中空糸内径は100μm〜400μmが好ましい。中空部内容積を最終的なフィブリノーゲン濃縮液の回収液量に対応させて設定した場合、中空糸内径がこれより大きくなると、中空部内容積に対する膜面積が小さくなるため、一定の中空部内容積に対応する濃縮液を得るための単位膜面積あたりの希釈血漿の処理量が大きくなり、目詰まりが起りやすくなる。中空糸内径が小さすぎると、希釈血漿そのものの中空部内の流動抵抗が生じ、効率的な濾過が行なわれなくなる。
【0041】
中空糸素材は目的や条件に応じて適宜選択することができる。血液処理に適した生体適合性と目的に応じた構造を有するものであれば、市販の中空糸から適当なものを選択して使用することができる。たとえば透析膜や体外循環用の膜として使用実績のあるものが好適に採用され、親水化ポリスルホン、エチレンービニルアルコール共重合体、ポリアクリロニトリル, セルロースジアセテート, セルローストリアセテート、親水化ポリプロピレン、親水性の高分子をコーティングしたポリエステルなどは、素材として、好ましく用いることができる。目的に応じたスキン層を形成させるためには、乾湿式紡糸と呼ばれる製膜方法が好適に用いられ、素材としては親水化ポリスルホンが好適に採用される。
【0042】
血漿成分分離中空糸膜に供給される希釈血漿の温度は制御される必要がある。アニオン交換樹脂充填カラム通過後、一度加温容器に貯留し、加温した後、血漿成分分離膜に供給し、供給される該希釈血漿の温度が28℃〜41℃の間に温度制御されていることが必要であり、34℃〜41℃の間に制御されていることが好ましい。温度が28℃未満であると、希釈血漿中の蛋白が凝集する場合があったり、希釈血漿中の脂質がやはり固化する場合があったりするため、目詰まりの原因となりやすい。温度が41℃を超えると、蛋白の変性の可能性が生じる。
【0043】
血漿成分分離膜モジュール自体を加温し、濃縮工程においても、一定の温度に保持できれば、さらに好ましい。
濃縮工程は、原則として、処理するべき希釈血漿のすべてがモジュール内に濃縮されるまで継続する。もちろん、回収するフィブリノーゲン濃縮液の液量の設定値によって、これは、随時調整されるものである。血漿成分分離膜のモジュールに最終液面が達しない状態で終了する場合も、液面がモジュール内に入った後、所定時間、濃縮を続ける場合もありうる。また、原料血液によっては、凝固活性が強い場合があり、目詰まりによって、濾過を中断せざるを得ない場合も生じ得る。その場合は、希釈血漿がある程度残った状態で、分離濃縮を終了し、中空部内の液を濃縮液として回収することになる。
【0044】
中空部内に濃縮されたフィブリノーゲン濃縮液の回収方法は、モジュールの出口側からの吸引で回収することによって、中空糸の内壁に付着したフィブリノーゲンも取れやすくなるため好ましいが、この方法に限定されない。モジュール入口からの加圧による回収方法も含め、システム上、採用しやすい方法を適宜、採用する。
【0045】
以下に、システムの例を上げ、詳細に説明する。
図1は、本発明の方法を実施するためのシステムの一例であり、システムが本例に限定されるものでないことは言うまでもない。
図1のシステムは、システム装置201と、システム装置201に装着されるシステム回路200からなる。システム回路200は、排液バッグ6と、トロンビン回収バッグ10と、フィブリノーゲン回収バッグ11と、血液バッグ12と、プライミング液バッグ13と、溶離液バッグ14のバッグ類と、血漿分離膜モジュール3と、アニオン交換樹脂カラム2と、血漿成分分離膜モジュール1のモジュール類と、これらバッグ類とモジュール類を接続する流路とから構成される。なお、図1に示したシステム回路200は、ドライの状態、すなわち液体が充填されていない状態で供給される。
システム装置201は、送液手段7〜9と、圧力測定手段19、エアディテクター21〜24と、開閉手段31〜44と、加温手段20を有する。
【0046】
血漿分離膜モジュール3は血液入口60と血液出口61と2つの血漿出口62、63を有し、血液入口60には血液導入流路100が接続され、血液出口61には血液導出流路101が接続されている。血液導入流路100にはコック16が取り付けられており、血液導出流路101の血液出口61付近には逆止弁25が設けられている。血漿出口62には血漿流路102が接続され、血漿出口63には通気流路103が接続されており、通気流路103の他端はエアフィルタ52に接続されている。
【0047】
アニオン交換樹脂カラム2は2つの出入口64、65を有し、出入口64には血漿流路102の他端が接続され、出入口65には送液流路105が接続され、送液流路105の他端は加温容器5の出入口66に接続されている。血漿流路102は分岐部151を有し、送液流路105は、出入口65に近い側から分岐部152、153、154、156、157をこの順序で有しており、分岐部151と154は送液流路107によって接続されている。送液流路107の途中には分岐部155があり、分岐部155と分岐部156はプライミング流路108によって接続されている。分岐部152には溶離液導入流路104が接続されており、溶離液導入流路104の他端には溶離液バッグ14が接続される。溶離液導入流路104の溶離液バッグ14付近には逆止弁27が設置される。分岐部153にはリンス液導入流路106とトロンビン回収流路109が接続されており、リンス液導入流路106の他端はリンス液容器4に接続され、トロンビン回収流路109の他端はトロンビン回収バッグ10に接続されている。
加温容器5は厚さの薄い容器でシステム装置201の加温手段20と接しており、加温容器5の上部にはエアフィルタ53を端部に有する通気流路116が接続されている。
【0048】
血漿成分分離膜モジュール1は入口67と出口68と2つの濾液出口69、70を有し、入口67には送液流路110が接続され、送液流路110の他端は加温容器5の出入口66付近にある送液流路105の分岐部157に接続されており、送液流路110は入口67に近い方から分岐部160、159、158をこの順序で有している。分岐部160には端部にエアフィルタ54を有する通気流路112が接続されており、分岐部159には圧力測定流路113が接続されている。出口68は送液流路111によって分岐部158と接続されており、送液流路111には分岐部161を介して他端がフィブリノーゲン回収バッグ11に接続されたフィブリノーゲン回収流路114が接続されている。濾液出口70は封止されており、濾液出口69には排液流路115が接続されていて、排液流路115の他端には排液バッグ6が接続されている。排液流路115の排液バッグ6付近には、逆止弁26が設置されている。エアフィルタ51〜54は、外気と連通している。
【0049】
システム装置201の送液手段7は血液導入流路100に配置され、送液手段8は送液流路105の分岐部154と分岐部156の間に配置され、送液手段9は送液流路110の分岐部157と分岐部158の間に配置される。またエアディテクター21は血漿流路102上のアニオン交換樹脂カラムの出入口64付近に設置され、エアディテクター22は加温容器5の所定位置に配置され、エアディテクター23は送液流路105上の加温容器5の出入口66付近に設置され、エアディテクター24は送液流路110上の血漿成分分離膜モジュール1の入口67付近に設置される。圧力測定流路113の端部は、圧力測定手段19に接続される。加温手段20は、加温容器5を挟むように配置されている。
【0050】
表6は、図1のシステムを用いて、システム回路200をプライミングする場合の操作1〜10と、トロンビン含有液とフィブリノーゲン濃縮液を調製する場合の操作11〜20における開閉手段31〜44の閉塞状態(S)と開放状態(O)を表示している。以下、表6の操作1〜20に従って説明する。
【0051】
[操作1] プライミング液バッグ13のポート71、72に、血漿分離膜モジュール3の血液導入流路100と血液導出流路101を接続する。
[操作2] 溶離液バッグ14をアニオン交換樹脂カラム2の溶離液導入流路104に接続して、コック16を開く。
【0052】
以下の操作3〜操作10はシステム装置201によって自動的に行なわれる。また、引き続いて、トロンビン含有液及びフィブリノーゲン濃縮液の調製操作11〜20が行なわれるが、該操作は、手技による操作11の他はシステム装置201による自動操作によって行なわれる。
【0053】
[操作3] 開閉手段34と43を開放し、他の開放手段を閉塞した状態で、送液手段7によって図1の送液手段7の矢印方向にプライミング液が流される。プライミング液は、血液導入流路100、血漿分離膜モジュール3、血漿流路102、分岐部151を経て送液流路107、分岐部155を経てプライミング流路108、分岐部156を経て送液流路105を通り、加温容器5に達する。プライミング液が加温容器5に貯留され、エアディテクター22が液面を検知すると、送液手段7が停止する。
【0054】
[操作4] 操作3のプライミングでは、プライミング液はアニオン交換樹脂カラム2をバイパスしている。加温容器5に貯留された液を送液手段8によって、逆方向に流通させ、アニオン交換樹脂カラム2内のエア抜きを行なう。開閉手段31と42を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段8によって図1の送液手段8上の矢印とは逆向きにプライミング液が流される。送液手段8は、加温容器5に貯留されたプライミング液を送液流路105、アニオン交換樹脂カラム2、血漿流路102に流し、エアディテクター21によって液面が検知された後、更に所定量を流通させ、プライミング液が血漿分離膜モジュール3の血漿出口62まで満たされるようにする。
【0055】
[操作5] 次に開閉手段36、44を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段9によって図1の送液手段9上の矢印方向にプライミング液が流される。送液手段9は、加温容器5に貯留されたプライミング液を送液流路105、分岐部157を経て送液流路110、分岐部158、159、160を経て血漿成分分離膜モジュール1、排液流路115に流し、プライミング液は排液バッグ6に貯留される。この操作によって、血漿成分分離膜モジュール1にいたるチューブ内のエアは排出される。
【0056】
[操作6] 送液流路111経由で血漿成分分離膜モジュール1にプライミング液を導入する。送液手段9は、血漿成分分離膜モジュール1内のエアが抜ける量として適当な液量を流す。開閉手段35と37を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段9によって図1の送液手段9上の矢印方向にプライミング液が流される。送液手段9は、加温容器5に貯留されたプライミング液を送液流路105、分岐部157を経て送液流路110、分岐部158を経て送液流路111、分岐部161を経て血漿成分分離膜モジュール1、送液流路110に流す。エアディテクター24が液面を検知した後、所定量のプライミング液を流すと、送液手段9は停止する。
【0057】
[操作7] 開閉手段36と44を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段9が送液手段9上の矢印方向にプライミング液を流す。加温容器5に貯留されたプライミング液は、送液流路105、分岐部157を経て送液流路110に入り、送液流路110の分岐部158,159,160を経て血漿成分分離膜モジュール1、排液流路115を流れて排液バッグ6に達する。エアディテクター23が液面を検知すると、送液手段9は停止する。プライミング液は排液バッグ6に貯留される。
【0058】
[操作8] 血漿分離膜モジュール3とアニオン交換樹脂カラム2の洗浄を行なう。開閉手段41〜43を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段7が送液手段7横の矢印方向にプライミング液を流し、プライミング液を加温容器5に貯留する。プライミング液バッグ13のプライミング液は、血液導入流路100、血漿分離膜モジュール3、血漿流路102、アニオン交換樹脂カラム2、送液流路105、分岐部152、153、154を経て送液流路107、分岐部155を経てプライミング流路108、分岐部156を経て再び送液流路105に入り、分岐部157を経て加温容器5に達する。エアディテクター22が液面を検知したら、送液手段7が停止する。
【0059】
[操作9] 加温容器5に貯留されたプライミング液の一部を送液手段8によってリンス液容器4に供給する。開閉手段32と42を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段8が、送液手段8上の矢印とは逆方向に加温容器5に貯留されたプライミング液を送液して、送液流路105、分岐部157、156、154、153を経てリンス液導入流路106に流し、リンス液容器4に供給する。
【0060】
[操作10] 加温容器5中の残りのプライミング液を血漿成分分離膜モジュール1に供給し、濾過し、排液バッグ6に排出する。開閉手段36と44を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段9が、送液手段9上の矢印方向に加温容器5に貯留されたプライミング液を送液して、送液流路105、分岐部157を経て送液流路110、送液流路110の分岐部158、159、160を経て血漿成分分離膜モジュール1、排液流路115に流し、プライミング液を排液バッグ6に貯留する。エアディテクター23が液面を検知したら、送液手段9は停止する。
【0061】
以上でプライミング操作は終了する。ここからトロンビン含有液及びプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液の調製操作に入る。
プライミング終了後に、採血を行なうと、採血後、直ちに、フィブリノーゲン濃縮液及びトロンビン含有液の調製操作に入ることができ、好ましい。血液バッグ12に血液を入れる。予め抗凝固剤入りの希釈液を入れた血液バッグ12にシリンジ等を用いて血液を導入することによって、血液バッグ12内に希釈血液を調製することができる。血液と希釈液の混合を促すため、血液バッグ12を揺らす等の操作を行なうことが好ましい。
【0062】
[操作11] プライミング液バッグ13に接続されていた血液導入流路100と血液導出流路101を外し、血液バッグ12のポート73、74に血液導入流路100と血液導出流路101を接続する。
【0063】
[操作12] 血漿分離膜モジュール3による血漿分離操作とアニオン交換樹脂カラム2によるプロトロンビンの吸着操作を行なう。開閉手段40と42を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段7と8が矢印方向に送液する。血液バッグ12の希釈血液が、送液手段7によって血液導入流路100、血漿分離膜モジュール3、血液導出流路101、血液バッグ12を循環し、分離された血漿は血漿流路102を通ってアニオン交換樹脂カラム2に入り、送液手段8によって送液流路105を通って加温容器5に貯留される。エアディテクター22が液面を検知したら、送液手段7と8は停止する。
エアディテクター22で検知することにより血漿分離量を設定する方法の他に、送液手段8の回転数で制御する方法もある。一定流量の送液手段8で加温容器5に流入する希釈血漿を送液手段9によって、同時に血漿成分分離膜モジュール1に供給し、フィブリノーゲンの濃縮工程を進行させることができる。血漿分離操作、アニオン交換樹脂によるプロトロンビン吸着操作、フィブリノーゲン濃縮操作を同時進行で実施することが可能となり、短時間でトロンビン含有液及びフィブリノーゲン濃縮液を得ることができ、好適である。その場合、エアディテクター22を低い位置に設置し、そのレベルを常に超えている状態を維持しながらフィブリノーゲン濃縮工程の流量を制御するという方法も考え得る。この場合、加温手段20を分岐部157と送液手段9の間の送液流路110に設置すると、確実に加温することができ、好ましい。
【0064】
[操作13] 流路内、アニオン交換樹脂カラム2内に残存する希釈血漿をすべて、加温容器5内に導入する。アニオン交換樹脂カラム2内には空気が導入される。開閉手段31と42を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段8が矢印方向に送液する。空気がエアフィルタ52から血漿分離膜モジュール3の濾過側空間に入って希釈血漿を押し出し、血漿分離膜モジュール3、血漿流路102、アニオン交換樹脂カラム2、送液流路105に残っていた希釈血漿は、加温容器5に回収される。エアディテクター23が液面を検知したら、送液手段8は停止する。
【0065】
[操作14] アニオン交換樹脂カラム2にリンス液容器4からリンス液を導入する。開閉手段32、34、41を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段8が矢印方向に送液する。リンス液容器4に貯留されたリンス液(プライミング液)は、リンス液導入流路106、分岐部153を経て送液流路105、分岐部152を経てアニオン交換樹脂カラム2、血漿流路102、分岐部151を経て送液流路107、分岐部155、154を経て再び送液流路105に入り、分岐部156、157を経て加温容器5に達する。所定量のリンス液を流し、エアディテクター21が液面を検知し、必要に応じさらに所定量流した後、送液手段8は停止する。
【0066】
[操作15] リンス液をアニオン交換樹脂カラム2から排出する。排出されたリンス液は、加温容器5に導入し、希釈血漿と混合する。開閉手段31、42を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段8が矢印方向に送液する。アニオン交換樹脂カラム2に残っていたリンス液は、送液流路105に入り、分岐部152、153、154、156、157を経て加温容器5に導入される。エアディテクター23が液面を検知したら、送液手段8は停止する。
リンス液を加温容器5に導入すると、操作18以下の操作によって、希釈血漿と共にフィブリノーゲン濃縮工程にかけられ、リンス液中に含まれるフィブリノーゲン等のアニオン交換樹脂に吸着した凝固因子も回収することができるので好ましい。但し、アニオン交換樹脂充填量やリンス液量等の条件によっては、リンス液容器4に戻してもよい。
【0067】
[操作16] リンス液を送液流路107から排出する。排出されたリンス液は、加温容器5に導入され、希釈血漿と混合される。開閉手段31、34、41を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段8が矢印方向に送液する。送液流路107に残っていたリンス液は、分岐部154を経て、送液流路105に入り、分岐部156、157を経て加温容器5に導入される。送液流路107内の残存リンス液が加温容器5に導入されるに足る量が送液手段8によって送液されて、送液手段8は停止する。送液流路107内の残存液が僅かの場合、この操作は、操作20のトロンビン含有液回収前に実施してもよい。
【0068】
[操作17] アニオン交換樹脂カラム2に溶離液を導入する。開閉手段33、34、41を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段8が矢印方向に送液する。溶離液バッグ14中の溶離液は、溶離液導入流路104、分岐部152を経て流路105、アニオン交換樹脂カラム2、血漿流路102に入る。エアディテクター21が液面を検知したら、送液手段8は停止する。この後、フィブリノーゲン濃縮工程の間、アニオン交換樹脂は溶離液に浸漬されたまま静置される。
【0069】
[操作18] フィブリノーゲン濃縮操作に入る。送液手段9による加圧によって、血漿成分分離膜モジュール1による分離濃縮を行なう。開閉手段36と44を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段9が矢印方向に送液する。加温容器5に貯留された希釈血漿とリンス液の混合液は、送液流路105、分岐部157を経て送液流路110、送液流路110の分岐部158、159、160を経て血漿成分分離膜モジュール1に入り、その濾液は排液流路115に入って排液バッグ6に貯留される。エアディテクター24が液面を検知したら、送液手段9は停止する。エアディテクター24が液面を検知して直ちに送液手段9を停止させるか、あるいは一定量の濾過を継続してから停止させるかは、最終的に求めるフィブリノーゲン濃縮液量等によって設定する。
このとき、希釈血漿が加温容器5内で28℃〜41℃に加温される。また、圧力測定手段19によって圧力をモニターし、一定レベルの圧力に達した場合には、送液手段9の流量を低下させるか、または逆向きに送液して逆濾過する等の操作を行い、目詰まりを回避する工夫が行なわれると好ましい。
【0070】
[操作19] フィブリノーゲン濃縮液の回収操作に入る。開閉手段36と38を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段9が矢印方向に送液する。送液手段9は、所定量を送液した後、停止する。この操作で、血漿成分分離膜モジュール1の中空糸内部に濃縮されたフィブリノーゲン濃縮液は、フィブリノーゲン回収バッグ11に回収される。
【0071】
[操作20] 操作17が終了してから10分以上経過した後、アニオン交換樹脂カラム2から溶離液を回収する。開閉手段34、39、41を開放し、他の開閉手段を閉塞した状態で、送液手段8が矢印とは逆方向に送液する。アニオン交換樹脂カラム2内のトロンビン含有液は、送液流路105、分岐部152、153を経てトロンビン回収流路109を通り、トロンビン回収バッグ10に回収される。
【実施例】
【0072】
以下に実施例を示す。本発明は実施例によって、限定されるものではない。
[血漿処理量]
血漿分離膜モジュール当りの血漿処理量は以下のように設定した。
図2に、吸着によるフィブリノーゲンの損失をグラフで示す。旭化成クラレメディカル株式会社製のOP膜を使用した。内径330μm、孔径0.2μmレベルの中空糸を、200本充填したモジュール及び400本充填したモジュールを用いて、血漿を全濾過で濾過した。モジュール内の中空糸の有効長、すなわち、液と接触している部分の長さは9cmであった。横軸に濾過した血漿量(処理血漿量)、縦軸に吸着によるフィブリノーゲンの損失率を示した。吸着による損失率(吸着率)を5%以下にするためには、処理血漿量は、200本の場合、30mL以上、400本の場合、60mL以上となる。この値は、ヘマトクリット値を標準の40%程度と考えると、それぞれ血液処理量としては、200本の場合、50mL以上、400本の場合、100mL以上に相当する。
【0073】
[血漿の希釈倍率]
200本の中空糸を充填したモジュールを使用し、処理血液量が50mLの場合の、血漿分離工程におけるフィブリノーゲンの回収率と希釈倍率との関係を図3に示す。ヘマトクリット40.5%の血液を使用し、最終液量が35mLになるまで、血漿分離を行なった。フィブリノーゲン回収率が80%を超えるためには、希釈倍率は2倍以上必要であった。
【0074】
[フィブリン糊の接着強度の測定法]
本発明の方法によって得られたフィブリノーゲン濃縮液の性能は、トロンビンと混合した結果生成するフィブリン糊の接着強度で評価した。
接着強度は以下のようにして測定した。
スライドガラスの摺りガラス部分、すなわち、幅2.9cmのスライドガラスの摺り部分、端から1.5cmまでを接着面とした。片方の摺りガラス部分に、トロンビン溶液250U/mLを15μL塗布した。トロンビン溶液は、化学及血清療法研究所製、ボルヒール(登録商標)を使用した。もう片方のスライドガラスの摺りガラス部分に試験サンプルのフィブリノーゲン濃縮液を15μL塗布し、両者を張り合わせ、3分間、輪ゴムで圧着した。輪ゴムを外して、1時間、室温に放置した後、接着強度を測定した。接着強度は、テンシロン万能機(ORIENTEC:RTC-1250)を使用し、荷重レンジ100N、引張速度0.5mm/minの条件で引張試験によって評価した。
【0075】
[総蛋白量の測定法]
血漿中の総蛋白量は、ビゥレット溶液を発色試薬として以下のように測定した。すなわち、サンプル及び標準血清を100μLずつ採取し、ビゥレット溶液5mLの入った試験管に注入し、10秒間、振とうさせ、30分静置後、測定波長540nmで、ブランク液を対照に吸光度を測定した。
【0076】
[アルブミンの有効交換容量の測定法]
アルブミンの有効交換容量は以下の手順で測定した。上記セファロースゲルを1mLカラムに充填した。緩衝液として生理食塩水を使用し、該生理食塩水を50mL、20分かけてカラムに通液した。引き続いて、市販の牛血清アルブミンを2mg/mLの濃度となるように生理食塩水に投入し、均一なアルブミン溶液を作成し、該液を1.25mL/minでカラムに通液した。透過液中のアルブミン濃度はUV吸収によってモニターした。透過液のアルブミン濃度が原料液中のアルブミン濃度の50%となるまでアルブミン溶液の添加を続け、引き続いて、再び生理食塩水を1.25mL/minで流し始め、アルブミンの溶出が0となるまで継続した。溶離は2M食塩水を1.25mL/minで通液することによって行った。溶離液中のアルブミン濃度をUV吸収によって測定した。
【0077】
[分画分子量の測定法]
血漿成分分離中空糸膜で血漿を濾過した時の濾過前の血漿中と濾液中の、アルブミン(分子量6.6万Da)、イムノグロブリンG(分子量15万Da)、フィブリノーゲン(分子量35万Da)、イムノグロブリンM(分子量95万Da)の各濃度を測定し、式(1)で阻止率を求めた。次に、前記各蛋白質の分子量を対数で、阻止率を実数でプロットし、各点の近似直線を求めて、阻止率90%となる分子量を分画分子量とした。
阻止率(%)=100×(濾過前の血漿中の蛋白濃度−濾液中の蛋白濃度)/濾過前の血漿中の蛋白濃度・・・(1)
【0078】
[フィブリノーゲンの回収率]
フィブリノーゲン濃度は、トロンビン凝固時間法によって測定した。測定試薬「データファイ・フィブリノーゲン」(製造社名;デイドベーリングマールブルグ社、販売社;シスメックス株式会社)を使用した。測定装置「血液凝固自動測定装置 KC4デルタ」(Trinity Biotech plc社製)により、凝固時間を測定し、濃度を求めた。 フィブリノーゲン回収率とは、一定の処理を行なった後、処理液中に含まれるフィブリノーゲンの総量の原料液中のフィブリノーゲンの総量に対する比率を示すもので、下記式(2)によって求めた。
フィブリノーゲン回収率=(処理後の液中に含まれるフィブリノーゲン量/処理前の液中に含まれるフィブリノーゲン量)×100・・・(2)
【0079】
[アルブミン濃度測定法]
アルブミンの濃度は、BCG法により測定した。測定試薬 「A/G B−テストワコー」(和光純薬工業株式会社製;Code 274−24301)を使用した。サンプル及び標準血清を20μLずつ採取し、BCG溶液5mLの入った試験管に注入し、10秒間振とうさせ、10分静置後、測定波長630nmで、ブランク液を対照に吸光度を測定した。
【0080】
[トロンビン及びプロトロンビンの活性値測定法]
トロンビン含有液中のトロンビン活性値の測定は発色法によって行なった。150mM NaCl 1.753g、10mM EDTA・2Na 0.744g、20mM Tris-HCl (pH8.0) 4mL、0.1% BSA 0.2gを、注射用蒸留水196mLに溶解させ、アッセイバッファー200mLを調製した。合成基質はS−2238(積水メディカル株式会社製:テストチーム発色基質)を注射用蒸留水20mLで溶解し、濃度を 2μmol/mLにしたものを使用し、標準物質としてのトロンビンは、ボルヒール(登録商標:化学及血清療法研究所製)250U/mLを使用した。アッセイバッファーによって一定の希釈操作を行なったサンプルに合成基質を添加し、405nmの吸光度を測定して、トロンビン活性値を求めた。
フィブリノーゲン濃縮液中のプロトロンビン活性値は、株式会社エスアールエルに測定を依頼し、コード07662の凝固時間法によって求めた。
【0081】
[実施例1]
図1に示したシステム回路、システム装置によって、トロンビン含有液及びフィブリノーゲン濃縮液の調製を行なった。
血漿分離膜は、旭化成クラレメディカル株式会社製のOP膜を使用した。内径330μm、有効長9cmで、モジュール内に200本充填して、血漿分離膜モジュール3を作製した。
アニオン交換樹脂は、ジエチルアミノエチル基を有するセファロースゲル(関東化学株式会社製、DEAE KANTO500)を使用した。該セファロースゲルを2mL分取し、カラムに充填して、アニオン交換樹脂カラム2を作製した。実験に用いたアニオン交換樹脂のアルブミンの有効交換容量は、アニオン交換樹脂1mLあたり、82mgであった。
血漿成分分離膜は、中空糸状の多孔膜を使用した。ポリスルホンとポリビニルピロリドンを素材とする中空糸膜を以下の方法によって製膜した。ポリスルホン(米国Amoco Engineering Polymers社製 P−1700)18重量%、ポリビニルピロリドン(独国BASF社製 K90、重量平均分子量1,200,000)4.3重量%を、ジメチルアセトアミド(和光純薬工業株式会社製)77.7重量%に溶解して均一な溶液とした。この製膜原液を60℃に保ち、内部液とともに、紡口(2重環状ノズル 0.1mm−0.2mm−0.3mm)から吐出させ、水の凝固浴へ浸漬した。巻き取った糸束を切断後、80℃熱水シャワーによって洗浄し、膜中の残溶剤を除去した。内径203μm、膜厚42μmであった。分画分子量は、32万Daであった。中空糸膜の有効長9cmで、モジュール内に800本充填して、血漿成分分離膜モジュール1を作製した。中空糸膜の中空部内容積が2.3cmとなり、モジュール内空間に残存する濃縮液も含めて、2.5mLから3mLのフィブリノーゲン濃縮液が回収できる。
50mL採血し、希釈液を50mL添加して2倍に希釈した。希釈液添加後の希釈血液100mLあたり、CPDが4.1mL溶存するように、CPDを生理食塩水に添加したものを希釈液として用いた。クエン酸モル濃度としては4.9mMとなった。CPDは、クエン酸三ナトリウム二水和物30g、ブドウ糖23.2g、クエン酸一水和物3.58g、リン酸二水素ナトリウム二水和物2.51gを注射用水1Lに溶解して作製した。試薬はいずれも和光純薬工業株式会社製を使用した。
運転は表6に従って実施した。血漿分離の際は、送液手段7による原料希釈血液の循環流量は30mL/min、送液手段8による吸引濾過流量は4mL/minとした。濾過された希釈血漿はアニオン交換樹脂カラム2を通過した後、加温容器5に貯留された。加温容器5の温度は39℃±1℃に保たれた。血漿分離終了後、アニオン交換樹脂カラム2にリンス液10mLを導入し、アニオン交換樹脂カラム2と接触後のリンス液は、加温容器5に移送した。引き続いてアニオン交換樹脂カラム2に溶離液2.5mLを注入した。溶離液は、塩化カルシウムを注射用超純水に溶解させ、40mMの濃度に調製したものである。
血漿成分分離膜モジュール1によるフィブリノーゲン濃縮工程は、加温容器5に貯留された希釈血漿を送液手段9によって、血漿成分分離膜モジュール1に加圧供給することによって行なった。初期流量は、8mL/minから始め、圧力測定手段19で圧力をモニターし、圧力が20kPaに達した時点で、5mL/min、3.5mL/min、2mL/min、0.5mL/minの順に流量を低下させた。
【0082】
[実施例2]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して3倍に希釈した以外は、実施例1と同様に行った。
【0083】
[実施例3]
50mL採血し、希釈液を200mL添加して5倍に希釈した以外は、実施例1と同様に行った。
【0084】
[実施例4]
50mL採血し、希釈液を350mL添加して8倍に希釈した以外は、実施例1と同様に行った。
【0085】
[比較例1]
50mL採血し、希釈液で希釈せずに処理した以外は、実施例1と同様に行った。フィブリノーゲン濃縮工程で血漿成分分離膜が目詰まりしたので、処理開始後180分の時点で濃縮操作を中止した。残存液は16mLであった。
【0086】
[比較例2]
50mL採血し、希釈液を25mL添加して1.5倍に希釈した以外は、実施例1と同様に行った。
【0087】
[比較例3]
50mL採血し、希釈液を450mL添加して10倍に希釈した以外は、実施例1と同様に行った。
以上、実施例1〜4と比較例1〜3の結果を、表1に示す。
【0088】
【表1】

【0089】
フィブリン糊の接着強度が1000g/cm2を超えるためには、希釈倍率は2倍以上必要であった。フィブリン糊の接着強度は、濃縮液中のアルブミン濃度と相関しており、アルブミン濃度が60mg/mL以下の場合に、1000g/cm2以上の接着強度を得ることができた。さらに、安定な接着強度を得るためには、希釈倍率は3倍以上であることが好ましい。また、トロンビン含有液とフィブリノーゲン濃縮液を手術当日に調製するための総処理時間の上限は3時間であり、希釈倍率は8倍以下である必要がある。総処理時間は2時間以内であることが好ましく、希釈倍率は5倍以下であることが好ましい。
上記結果より、希釈倍率は、2倍〜8倍の範囲であることが必要であり、好ましくは3倍〜5倍である。
【0090】
[実施例5]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して血液を3倍に希釈した。アニオン交換樹脂充填量を1mLとして、血漿の総蛋白量に対するアルブミン有効交換容量比(A/B)を3.6重量%とした。それ以外は実施例1と同様に行った。
【0091】
[実施例6]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して血液を3倍に希釈した。アニオン交換樹脂充填量を15mLとして、血漿の総蛋白量に対するアルブミン有効交換容量比(A/B)を58.6重量%とした。アニオン交換樹脂の溶離液量は、アニオン交換樹脂を十分浸すために、アニオン交換樹脂充填量の半分量に当たる7.5mLとした。それ以外は実施例1と同様に行った。
【0092】
[比較例4]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して血液を3倍に希釈した。アニオン交換樹脂充填量を0mLとして、血漿の総蛋白量に対するアルブミン有効交換容量比(A/B)を0重量%とした。それ以外は実施例1と同様に行った。
【0093】
[比較例5]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して血液を3倍に希釈した。アニオン交換樹脂充填量を0.5mLとして、血漿の総蛋白量に対するアルブミン有効交換容量比(A/B)を1.9重量%とした。それ以外は実施例1と同様に行った。
【0094】
[比較例6]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して血液を3倍に希釈した。アニオン交換樹脂充填量を20mLとして、血漿の総蛋白量に対するアルブミン有効交換容量比(A/B)を78.5重量%とした。アニオン交換樹脂の溶離液量は、アニオン交換樹脂を十分浸すために、アニオン交換樹脂充填量の半分量に当たる10mLとした。それ以外は実施例1と同様に行った。溶離液浸漬中に沈殿が発生した。残存フィブリノーゲンの凝固によると考えられた。
以上、実施例5〜6、比較例4〜6の結果を表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
実施例6及び比較例6のトロンビン活性値は2.5mL換算で表示した。また、塩化カルシウム添加後の接着強度は、フィブリノーゲン濃縮液1mLに25mMの塩化カルシムを含有する水溶液を0.2mL添加し、37℃で30分静置後、本明細書記載のスライドガラスによる方法により測定した。アニオン交換樹脂充填量が少なすぎた場合(比較例4、5)、プロトロンビンがフィブリノーゲン濃縮液中に混入するため、塩化カルシウム添加後のフィブリン糊の接着強度が極端に低下した。
また、アニオン交換樹脂充填量が多すぎた場合(比較例6)、フィブリノーゲンがアニオン交換樹脂に吸着してしまい、リンス液処理によって十分に洗浄除去できなかった。そのため、塩化カルシウムを含む溶離液を注入すると、アニオン交換樹脂カラム内で凝固反応が起り、フィブリノーゲンの沈殿が生じ、トロンビンが消費されるため、得られるトロンビン液の活性値が極端に低くなった。
以上より、アニオン交換樹脂のアルブミン交換容量と処理血液中の蛋白量の比は、3重量%〜60重量%の範囲に設定する必要がある。
【0097】
[実施例7]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して血液を3倍に希釈した。血漿成分分離膜は、分画分子量が20×10Daのものを使用した。それ以外は実施例1と同様に行った。
【0098】
[実施例8]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して血液を3倍に希釈した。それ以外は実施例1と同様に行った。
【0099】
[実施例9]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して血液を3倍に希釈した。血漿成分分離膜は、分画分子量が80×10Daのものを使用した。それ以外は実施例1と同様に行った。
【0100】
[比較例7]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して血液を3倍に希釈した。血漿成分分離膜は、分画分子量が14×10Daのものを使用した。それ以外は実施例1と同様に行った。フィブリノーゲン濃縮工程で血漿成分分離膜が目詰まりしたので、処理開始後180分の時点で濃縮操作を中止した。残存液は31mLであった。
【0101】
[比較例8]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して血液を3倍に希釈した。血漿成分分離膜は、分画分子量が95×10Daのものを使用した。それ以外は実施例1と同様に行った。
以上、実施例7〜9、比較例7〜8の結果を表3に示す。
【0102】
【表3】

【0103】
分画分子量が小さすぎると(比較例7)、目詰まりのため濃縮を完了させることができなくなり、分画分子量が大きすぎると(比較例8)、フィブリノーゲンを十分に中空糸膜内部に濃縮することができなくなり、いずれも得られるフィブリノーゲン濃度が低くなった。
以上の結果より、分画分子量は20万Da〜80万Daの範囲に設定する必要がある。
【0104】
[実施例10]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して3倍に希釈した。加温容器の温度を29℃±1℃に設定した。それ以外は、実施例1と同様に行った。
【0105】
[実施例11]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して3倍に希釈した。加温容器の温度を35℃±1℃に設定した。それ以外は、実施例1と同様に行った。
【0106】
[実施例12]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して3倍に希釈した。加温容器の温度を40℃±1℃に設定した。それ以外は、実施例1と同様に行った。
【0107】
[比較例9]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して3倍に希釈した。加温容器の温度を20℃±1℃に設定した。それ以外は、実施例1と同様に行った。目詰まりにより濾過継続不能となったため、180分で強制終了とした。43mLの残液があった。
【0108】
[比較例10]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して3倍に希釈した。加温容器の温度を43℃±1℃に設定した。それ以外は、実施例1と同様に行った。
以上、実施例10〜12、比較例9〜10の結果を表4に示す。
【0109】
【表4】

【0110】
加温容器の温度が低すぎると、目詰まりにより、濃縮操作そのものが完結しなくなり(比較例9)、得られるフィブリノーゲン濃度が低くなり、十分な接着強度が得られなかった。また、加温容器の温度が高すぎても、同様に得られるフィブリノーゲン濃度が低くなり、接着強度も不十分であった(比較例10)。原因としては、蛋白の変性の影響などが考えられる。
以上より、加温容器の温度は28℃〜41℃に設定する必要がある。処理時間を2時間以内にするためには、34℃〜41℃の間に制御されていることがさらに好ましい。
【0111】
[実施例13]
50mL採血し、希釈液を100mL添加して血液を3倍に希釈した。それ以外は実施例1と同様に行った。
【0112】
[比較例11]
用手法、すなわち手作業によるフィブリノーゲンの濃縮方法であって、血漿を凍結し、ゆっくり解凍することによってフィブリノーゲンを沈殿させ、回収する方法によって調製したフィブリノーゲン濃縮液及び製剤における接着強度を測定した。用手法によるフィブリノーゲン濃縮液の調整方法は、非特許文献6に準じる方法を採用した。すなわち、400mL採血し、遠心分離によって200mLの血漿を血液バッグ中に採取し、−80℃で一晩凍結させ、4℃の冷蔵庫に4時間保管した。血液バッグの底に生じた沈殿を残し、上清をできる限り、ピペットで除去した後、残った沈殿を含む液を遠沈管に入れ、さらに遠心分離した。遠沈管の上清をピペットで取り、底の部分の沈殿をできる限り単離できるようにして、沈殿を回収した。得られたフィブリノーゲン濃縮液のフィブリノーゲン濃度は45.1mg/mLであった。トロンビン溶液はボルヒール(登録商標)のトロンビン溶液を使用した。
【0113】
[比較例12]
製剤は化学及血清療法研究所のボルヒール(登録商標)を使用した。フィブリノーゲン濃度の実測値は、78.6mg/mLだった。トロンビン溶液はボルヒール(登録商標)のトロンビン溶液を使用した。
以上、実施例13、比較例11〜12の結果を表5、図5に示す。
【0114】
【表5】

【0115】
本発明の方法(実施例13)で得られたフィブリノーゲン濃縮液から作製されたフィブリン糊の接着強度は1000g/cm2を超え、従来技術の方法(比較例11、12)で作製したフィブリン糊より著しく高い接着強度を示した(図5)。従来技術品で、フィブリノーゲン濃度が高いにも関わらず十分な強度が得られていない理由は、摺りガラス表面での凝固因子活性化能の差が出たことによる可能性がある。本発明は、血漿成分分離膜による濃縮によってフィブリノーゲン濃縮液を得ており、多くの種類の蛋白が共存している。それら各種蛋白の相乗効果により、高い接着強度が得られたものと推測する。
【0116】
【表6−1】

【表6−2】

【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の方法を用いれば、各種手術や再生医療の現場で、使用直前に、患者から採血した少量の血液から、完全自己由来のフィブリン糊を短時間で調製することが可能なので、事前採血による保存のトラブルや血液取り違えなどのリスクを回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明の方法を実施するためのシステムの一実施態様である。
【図2】吸着によるフィブリノーゲン損失率を表すグラフである。
【図3】希釈倍率とフィブリノーゲン回収率との関係を表すグラフである。
【図4】接着強度に及ぼすフィブリノーゲン濃縮液中のアルブミン濃度の影響を表すグラフである。
【図5】フィブリノーゲン濃縮液の調製方法と接着強度の関係を表すグラフである。
【符号の説明】
【0119】
1 血漿成分分離膜モジュール
2 アニオン交換樹脂カラム
3 血漿分離膜モジュール
4 リンス液容器
5 加温容器
6 排液バッグ
7〜9 送液手段
10 トロンビン回収バッグ
11 フィブリノーゲン回収バッグ
12 血液バッグ
13 プライミング液バッグ
14 溶離液バッグ
15 除菌フィルター
16 コック
19 圧力測定手段
20 加温手段
21〜24 エアディテクター
25〜27 逆止弁
31〜44 開閉手段
51〜54 エアフィルタ
60 血液入口
61 血液出口
62、63 血漿出口
64、65、66 出入口
67 入口
68 出口
69、70 濾液出口
71〜74 ポート
100 血液導入流路
101 血液導出流路
102 血漿流路
103、112、116 通気流路
104 溶離液導入流路
105、107、110、111 送液流路
106 リンス液導入流路
108 プライミング流路
109 トロンビン回収流路
113 圧力測定流路
114 フィブリノーゲン回収流路
115 排液流路
151〜161 分岐部
200 システム回路
201 システム装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液を抗凝固剤を含む溶液で2倍〜8倍に希釈してから、血漿分離膜に導入し循環させて血漿を採取する工程(1)、
該血漿を、アルブミン有効交換容量が該血漿の総蛋白量に対して3重量%〜60重量%であるアニオン交換基を有する多孔材に接触させて、該多孔材にプロトロンビンを吸着させる工程(2)、
前記工程(2)の後に、前記アニオン交換基を有する多孔材に溶離液を接触させてトロンビン含有液を回収する工程(3)、
前記工程(2)の後に、前記アニオン交換基を有する多孔材に接触させ素通りした血漿の温度を28℃〜41℃とし、分画分子量が20万Da〜80万Daである血漿成分分離膜で濾過して、フィブリノーゲンを濃縮する工程(4)、
を具備することを特徴とする、血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。
【請求項2】
前記血液が、被手術者の血液であることを特徴とする、請求項1に記載の血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。
【請求項3】
前記工程(3)と前記工程(4)を同時に進行させることを特徴とする、請求項1または2に記載の血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。
【請求項4】
前記抗凝固剤を含む溶液が1mM〜20mMのクエン酸を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。
【請求項5】
前記溶離液が2mM〜100mMの塩化カルシウムを含有する溶液であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。
【請求項6】
前記血漿分離膜及び/または前記血漿成分分離膜が中空糸膜であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の血液からトロンビン含有液とプロトロンビンを含まないフィブリノーゲン濃縮液を連続的に製造する方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−30919(P2010−30919A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−192730(P2008−192730)
【出願日】平成20年7月25日(2008.7.25)
【出願人】(000116806)旭化成クラレメディカル株式会社 (133)
【Fターム(参考)】