説明

トンネル切羽前方探査装置

【課題】正確にトンネル前方の地中の状態を探査できる装置を提供する。
【解決手段】トンネル切羽前方の地盤内を探査する装置であって、台車1と、台車1に搭載し、円の軌跡上を移動する電磁レーダーのアンテナ2と、アンテナ2の軌跡上の位置を知る回転角発生装置と、台車1に搭載した固定枠5と、固定枠5の前面に取り付けた可撓体3と、データを収録、解析する解析装置とより構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル切羽前方探査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削では切羽前方の地質状況の把握がきわめて重要である。
前方に破砕帯などが存在することを知らずに発破で切羽を爆破した場合に、急激な出水が発生し、トンネルが水没したり岩盤が崩壊したりする、という惨事を引き起こす可能性があるからである。
そのためにシールドマシン、あるいはトンネルボーリングマシンを使用する掘削方法では特許文献1に示すような技術が開発されている。
一方、シールドマシンなどを用いず、爆破によって掘進する場合には、切羽から水抜きボーリングを行う方法、あるいはトンネルの掘削位置に沿って地表から地震探査や比抵抗探査を行う方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許3841483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した従来のトンネル切羽前方探査装置にあっては、次のような問題点がある。
<1>切羽から水抜きボーリングを行う方法ではその実施時期の決定方法があいまいなので、補助工法の実施時期を逃してしまう可能性がある。さらに、ボーリングを利用した検層は、ボーリング孔近傍のみを評価できるのみで、三次元的な地質評価ができない。
<2>トンネルの掘削位置に沿って地表から地震探査や比抵抗探査を行う方法は、探査データが十分であるとは言い難い。特に、土被りが数百メートルから千メートルを超えるような場合は、実際の地質状況を正確に捉えることが難しい。
<3>特許文献1記載の発明はシールドマシンやトンネルボーリングマシンのように切羽に押し付けた巨大なカッターフェースを備えた装置において、そのカッターフェースにアンテナを取り付け、このアンテナからの電磁波の発信、受信を行って前方の地質を探査する装置である。そのためにマシンを使用せずに爆破によって掘進するトンネルでは、探査の基準面を設定するためのカッターフェースが存在しないからそのまま転用することは出来ない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような課題を解決するために、本発明のトンネル切羽前方探査装置は、トンネル切羽前方の地盤内を探査する装置であって、台車と、台車に搭載し、円状測線上を移動する電磁レーダーのアンテナと、アンテナの軌跡上の位置を知る回転角発生装置と、電磁レーダーのアンテナと切羽との距離を測定する測距装置と、データを収録、解析する解析装置とより構成したことを特徴としたものである。
また本発明のトンネル切羽前方探査装置は、トンネル切羽前方の地盤内を探査する装置であって、台車と、台車に搭載し、円状測線上を移動する電磁レーダーのアンテナと、アンテナの軌跡上の位置を知る回転角発生装置と、電磁レーダーのアンテナと切羽との距離を測定する測距装置と、アンテナの切羽側に位置した板体であって、アンテナの移動方向の前方をソリ状に形成した摺動体と、摺動体のトンネル軸方向への移動を許容する伸縮バーと、データを収録、解析する解析装置とより構成したことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のトンネル切羽前方探査装置は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<1> 電磁波の発信の基準になるカッターフェースのような基盤が存在しないタイプのトンネルにおいて、その切羽前方の地質を正確に探査することができる。
<2> 特に凹凸の多い切羽面であって、探査の基準面を設定しにくい場合でも、正確に切羽前方の地質を探査することができる。
<3> 切羽に接近できるトンネル掘進工法の場合に本発明の装置を使用すれば、切羽を数分占拠するだけで、切羽前方の5〜20m程度の地盤状況の調査をすることができる。
<4> 爆破後のズリを撤去したばかりの凹凸の多い切羽の表面をなぞるように装置を移動して探査することができるから、正確な探査を行うことができる。
<5> リモートと自動で台車を移動でき、全部の作業が自動で行うように制御すること、すなわち、ロボット化を行うことできる。
<6> 自動化することによって、危険な切羽に作業員が接近する作業を避け、作業事故を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明のトンネル切羽前方探査装置の実施例の説明図。
【図2】固定枠と可撓体の実施例の説明図。
【図3】切羽に押し付けている状態の説明図。
【図4】信号ケーブル配線の説明図。
【図5】他の実施例の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図面を参照にしながら本発明の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【実施例】
【0009】
<1>装置の全体。
本発明のトンネル切羽前方探査装置は、トンネル切羽前方の地盤内の状態を探査する装置である。
そしてこの装置は、台車1と、円の軌跡上に移動する電磁レーダーのアンテナ2と、ケーブルの捩れを解決するスリップリング12と、アンテナ2の回転角発生装置44と、測距装置と、可撓体3を主要要素として構成する。
特に本発明の装置は、可撓体3を切羽に押し付けることによって、トンネルの軸方向を横断する仮想面上をアンテナが安定して走行できることを特徴とする。
【0010】
<2>台車。
台車1はトンネルの切羽まで走行、逆送が可能な車輪付きの台であり、リモート操縦も可能であるように構成する。
台車1にビデオカメラなどを装着してモニターを見ながら操縦しても良い。
台車には複数本の支柱11を鉛直に設置してある。
【0011】
<3>回転腕。
41台車1には、鉛直に立てた支柱11で支持させて、水平方向に向けた回転軸4を設置する。
この回転軸4の中間には、直交方向に向けて回転腕21を固定する。
さらに回転軸4には、その尾端に駆動源41を取り付ける。
この駆動源41の回転によって回転軸4、および回転軸4に固定した回転腕21に回転を与えることができる。
回転腕21の軌跡面は、トンネルの軸線を横断する仮想の横断面を形成することになる。
支柱11の高さを調整可能にしておくと、回転軸4の水平性を容易に確保できる。
【0012】
<4>アンテナ。
本発明のトンネル切羽前方地質探査システムは、トンネルを掘削した切羽面の前方の地中にレーダー信号(発信波)を発信し、地盤内から反射して戻ってきた受信波を受信し、波形処理を行うものである。
そのために回転腕21の先端付近には電磁レーダーのアンテナ2を取り付ける。
その結果、アンテナ2は円形に設計した測線上を移動することができる。
アンテナ2として例えば、中心周波数350〜400MHz程度のアンテナ2を使用する。
アンテナ2は、発信と受信を兼用する兼用アンテナ2(一体型)でも、あるいは発信用アンテナ2と受信用アンテナ2を別にしたもの(別体型)でもよい。但し、別体型の場合には、両アンテナは近接する必要がある。
電磁レーダーの発信機本体は台車1の上に搭載し、その本体と回転腕21先端のアンテナ2を電気的に接続する。
そのために回転軸4と支柱11との間にはスリップリング12を介在させて回転部分への電気信号の伝達を可能とする。
さらに回転軸4には回転角発生装置を設けて、アンテナ2の円軌跡上の位置を把握する。
【0013】
<5>発信と受信。
アンテナが一体型の場合は、アンテナ2から、同期信号により一定時間間隔で電磁波パルスのレーダー信号を発信すると、この信号が切羽前方の地層に存在する地層の境界面などの、種々の箇所で反射し、この反射した反射波をアンテナ2で受信する。
アンテナが別体型の場合は、送信アンテナから送信、受信アンテナ受信となる。
同期信号を変更して、発信間隔を調整することにより、回転腕21が1回転する間に多数回の発信ができ、それに伴って多数の受信波を受信し、受信波形を記録することが出来る。
【0014】
<6>固定枠。
回転軸4の先端には、回転軸4と直交する状態で固定枠5を取り付ける。
この固定枠5は、たとえば車輪状の枠体を2基、平行に配置し、両者間を連結材51で連結した枠体である。
この固定枠5をスリップリング12の外側やあるいは台車1に固定して設置する。
固定枠5と回転軸4とはベアリングなどを介して取り付ける。
そのために固定枠5は、回転軸4とは独立しており、回転しない。
【0015】
<7>可撓体。
この固定枠5の切羽側の面に可撓体3を取り付ける。
ここで「可撓」とは撓み性の大きい、という程度の意味である。
この可撓体3は、切羽岩盤と同程度の比誘電率(4〜8程度)を持つ材料か、あるいは比誘電率の低いゴムなどの可撓性の高い材料で浮輪状に形成いた袋体である。
この袋体の内部に、切羽岩盤と同程度の比誘電率を持つ流体か、水ガラスやシリコンオイルなど、比誘電率が低く、かつ粘性が高く、形状を自由に変形できる流体を封入して可撓体3を構成する。
固定枠5を切羽に近づけることによって、可撓体3を凹凸が分散している切羽に押し付けると、アンテナ2と切羽の隙間を、可撓体3によって充填する状態となる。
この固定枠5の押し付けによって、回転軸4および回転腕21の回転、すなわちアンテナ2の回転は、地山と可撓体や可撓体とアンテナの境界に空洞のない、電気的に安定した状態を確保することができるので、電磁レーダーの計測精度を向上させることができる。
【0016】
<8>解析装置。
データを収録、解析する解析装置を設ける。
本発明のトンネル切羽前方地質探査システムは、アンテナ2に発信システムから発信信号を与え、レーダー信号を発信する。
そしてアンテナ2で受けた受信波を受信システムで受信信号とし、電磁レーダー本体を介してコンピュータに入力する。
これらの信号を解析するコンピュータでは受信波形などの必要なデータを信号処理し、解釈し、保存し、また表示装置や印刷装置などの出力装置に出力する。
なお、本装置によって切羽前方の地中の状況を探査する手段、システムなどは特許文献1などによって公知であるので、重複した説明は省略する。
【0017】
<9>切羽凹凸の吸収。
アンテナ2の描く仮想平面は、トンネルの中心軸を横断する平面となる。
そして、固定枠5を切羽に近づけることによって可撓体3を、凹凸が分散している切羽に押し付けて密着させる。
この固定枠5の押し付けによって、回転軸4および回転腕21の回動は安定した状態となり、アンテナ2の移動軌跡は正確な仮想平面を形成することができ、電磁レーダーの計測精度を向上させることができる。
【0018】
<10>ロボットタイプ。
図5に示すように、多関節のロボット6を台車1の上に搭載する構成を採用することもできる。
このロボット6は先端に回転軸4を備え、その回転軸4に直交して回転腕21を取り付ける。
この回転腕21の先端に電磁レーダーのアンテナ2を搭載する。
ロボット6の回転する回転腕21には、回転した際にケーブルの捩れを生じさせないためのスリップリング12と、回転角を計測するエンコーダ13を装着している。
スリップリング12はレーダーアンテナ2でとらえた反射波受信信号と、電磁波の発信タイミングである同期信号、およびアンテナ2への給電ケーブルに対応して機能するようになっている。
回転角を計測するエンコーダ13をスリップリング12に内蔵することもできる
回転しない固定枠5と、その前面の可撓体3をロボット6に支持させて切羽に押し付ける構成は前記の実施例と同様である。
【符号の説明】
【0019】
1:台車
2:アンテナ
21:回転腕
3:可撓体
4:回転軸
5:固定枠
6:多関節ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル切羽前方の地盤内を探査する装置であって、
台車と、
台車に搭載し、円形に設計された測線上を移動する電磁レーダーのアンテナと、
アンテナの軌跡上の位置を知る回転角発生装置と、
台車の前面に設置した固定枠と、
固定枠の前面に取り付けた可撓体と、
データを収録、解析する解析装置とより構成したことを特徴とした、
トンネル切羽前方探査装置。
【請求項2】
前記の可撓体は、
その内部に、岩盤と同程度あるいはそれよりも比誘電率が低くく、かつ粘性が高く、形状が自由に変形する材料を封入した袋体によって構成した、
請求項1記載のトンネル切羽前方探査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate