説明

トンネル接合素子及びその製造方法

【課題】 熱的に安定な極微細なトンネル接合を再現性良く製作することは困難であった。
【解決手段】 耐火性金属材料であるニオブを蒸着して耐火性のニオブ金属電極を形成し、次に、酸素プラズマを照射することによって耐火性金属電極上に、当該ニオブ酸化膜(Nb)を形成する。続いて、蒸着角度を変化させて、酸化膜上にニオブ金属電極を形成して、酸化膜と極微細なトンネル接合を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一電子素子のように、トンネル接合を備えたトンネル接合素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種のトンネル接合を備えた単一電子素子等のトンネル接合素子は、クーロンブロッケード効果を動作原理として利用したものである。ここで、クーロンブロッケード効果は、トンネル接合のキャパシタンスが極めて小さくなると、トンネル接合に一個の電子が蓄積されているか否かで静電エネルギーに差が現れる現象である。即ち、トンネル接合のキャパシタンスをCとし、電気素量をeとすると、静電エネルギーの大きさは、e/2Cであらわされ、電気素量eは1.6×10−19Cであるから、Cが極めて小さくなると、上記した静電エネルギーは急激に大きくなり、実験で観測できるようになる。このような微小なトンネル接合における特徴を生かした単一電子素子及びその製造方法が提案されている。
【0003】
特開平7-94759号公報(特許文献1)には、シリコン基板上のシリコン酸化膜上に形成された単一電子トンネリング素子が開示されている。特許文献1に示された単一電子トンネリング素子は、第1及び第2の電極と、第1及び第2の電極に対してそれぞれ単一電子トンネル接合を介して接続された第3の電極と、第3の電極に対して絶縁膜を介して接続された第4の電極とを備えている。ここで、第3及び第4の電極は絶縁膜と共にキャパシタを構成している。
【0004】
特許文献1では、第1及び第2の電極の中間に配置され、中間電極として動作する第3の電極を電子スピンの揃った、例えば、強磁性体からなる電極とすることによって、中間電極の強磁性体のスピンの向きによってトンネルの容易さを変化させることができる。特許文献1には、第1及び第2の電極をアルミニウムによって形成し、他方、中間電極である第3の電極をニッケルによって構成する例があげられている。また、強磁性体として、Fe、Coが例示されており、常磁性体として、Al,Cu,Ag, Au,反磁性体の材料として、Cr,MnO等が列挙されている。
【0005】
特開平10-107340号公報(特許文献2)には、微小トンネル接合部及び接合素子を製造するために、中空に持ち上げられた懸架マスクを基板上に配置して、3回以上蒸着角度を変化させて、基板上に金属蒸着膜を順次成膜する製造方法が開示されている。また、金属蒸着膜を形成した後、金属蒸着膜表面を酸化して酸化膜バリアを形成することも特許文献2は開示している。
【0006】
また、特許文献2は、蒸着する金属膜の材料として、表面に安定な自然酸化膜を形成できるアルミニウムを使用することを提案すると共に、金属膜成膜後に、同一真空装置中に酸素を導入することによって、金属膜表面に酸化膜バリアを作製することも提案している。
【0007】
更に、特開平11-289079号公報(特許文献3)には、基板面に凹部を形成すると共に、当該凹部内に、島状電極及び凹部側壁にトンネル接合を形成した積層構造を有する単一電子素子及びその製造方法が開示されている。また、特許文献3は、従来技術として、懸架マスクを使用して、異なる角度から二重蒸着する技術を上げている。
【0008】
特許文献3は、島状電極等の導電体をアルミニウム、不純物をドープしたポリシリコンなどの導電材料によって形成することも明らかにしている。
【0009】
特開平9-199708号公報(特許文献4)は、半導体結合単一電子トンネリング素子及びその製造方法を開示しており、当該単一電子トンネリング素子の金属下部電極及び金属上部電極の材料として、金属電極と2次元電子ガスとの間の界面抵抗を考慮し、ショットキーバリアを構成しないアルミニウム、ニオブが上げられている。
【0010】
【特許文献1】特開平7-94759号公報
【特許文献2】特開平10-107340号公報
【特許文献3】特開平11-289079号公報
【特許文献4】特開平9-199708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜3は、熱的に安定な動作を再現性良く行うための手段について何等開示していない。また、特許文献1〜3はトンネル接合素子を構成する電極として、アルミニウム、ポリシリコンを用いることを明らかにしているだけで、アルミニウム、ポリシリコンを電極材料として使用した場合に生じる欠点について全く触れていない。
【0012】
また、特許文献4は、超伝導SETトランジスタにおいて、超伝導エネルギーギャップ(Δ)と帯電エネルギー(Ec)に応じた周期性をみるために、熱的に励起された状態にある準電子を取り除き、系全体が熱平衡状態にあるようにしなければならないことが指摘されている。しかしながら、特許文献4は、ヘテロ構造半導体における2次元電子ガスと、微小トンネル接合とを結合した構造を提案しているだけであり、トンネル接合自体を構成する部材の改善については何等開示していない。
【0013】
本発明の第1の課題は、アルミニウム、ポリシリコンを使用したトンネル接合素子では、熱サイクル特性が悪く、熱特性を再現することが困難であると云う事実を見出し、熱サイクル特性を改善できるトンネル接合及びトンネル接合素子を提供することである。
【0014】
本発明の第2の課題は、ピンホールの無い極微細のトンネル障壁を形成できるトンネル接合の製造方法を提供することである。
【0015】
本発明の第3の課題は、耐火性金属材料によって全部材を形成されたトンネル接合、トンネル接合素子、及び、その製造方法を提供することである。
【0016】
本発明の第4の課題は、耐火性金属材料のトンネル接合を形成するのに適した製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によれば、全ての部材を耐火性金属材料であるニオブ材料によって構成され、このため、熱的に安定なトンネル接合及びトンネル接合素子(全ニオブ型トンネル接合及び接合素子と呼ぶ)を高い再現性で実現できる。このため、転移温度が高く、超伝導ギャップ及びジョセフソンエネルギーの大きいトンネル接合或いはトンネル接合素子を得ることができる。
【0018】
本発明によれば、耐火性金属材料によって形成された下部電極膜と、当該下部電極膜表面に形成され、前記下部電極膜表面をイオンガンからの酸素に曝すことによって形成された前記耐火性金属材料の酸化膜と、前記酸化膜と極微細部分で接触して、極微細なトンネル接合を形成する上部電極膜とを備えたトンネル接合が得られる。
【0019】
本発明によれば、前記耐火性金属材料が高融点を有するニオブであり、前記酸化膜はイオンガンからの酸素を照射することによって得られたニオブ酸化膜(Nb)であることを特徴とするトンネル接合が得られる。また、前記耐火性金属材料である金属ニオブは蒸着によって形成されていることを特徴とするトンネル接合が得られる。
【0020】
更に、本発明は、上記したトンネル接合を一部に含むトンネル接合素子が得られる。
【0021】
本発明によれば、懸架マスクを用意する工程と、当該懸架マスクに対して、予め定められた傾斜角度で耐火性金属材料を供給し、耐火性金属材料の下部電極を堆積する工程と、当該耐火性金属材料の下部電極表面をイオンガンからの酸素に曝すことによって、前記耐火性金属材料のプラズマ酸化膜を形成する工程と、前記予め定められた傾斜角度とは異なる傾斜角度から前記耐火性金属材料を供給し、前記耐火性金属材料の上部電極を形成すると共に、前記酸化膜との間に極微細のトンネル接合を形成する工程とを含むトンネル接合の製造方法が得られる。
【0022】
また、本発明では、前記下部電極を形成する耐火性金属材料は金属ニオブであり、当該金属ニオブは、前記傾斜角度を持たせた状態で、蒸着によって形成され、他方、前記酸化膜は電極表面にイオンガンからの酸素を照射することによって形成される。更に、前記極微細のトンネル接合を形成するために、前記上部電極を形成するニオブは前記下部電極用のニオブとは異なる傾斜角度で照射される。
【発明の効果】
【0023】
本発明ように、耐火性金属材料であるニオブ材料によって構成された全ニオブ型トンネル接合は、アルミニウムによって形成された接合に比較して優れた熱サイクル特性を有している。また、ニオブをプラズマ酸化することによって、ピンホールの無いトンネル障壁を得ることができ、且つ、プラズマ酸化によって得られたニオブ酸化膜はNbによって形成され、他のニオブ酸化物を含んでいないため、安定な特性を有するトンネル接合を得ることができる。また、接合抵抗は酸化条件、即ち、酸化時間、酸素圧力等によって容易に制御できると云う利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
図1(a)〜(f)を参照して、本発明の一実施形態に係るトンネル接合素子の製造方法を工程順に説明する。また、本発明に係る製造方法は、懸架マスク形成工程と、懸架マスク形成後に行われる素子形成工程に分けることができる。
【0025】
懸架マスク形成工程では、図1(a)に示すように、基板10表面に、下地層111、中間層112、及び、上面層113が順次形成されている。これら3層構造は、熱的に安定な材料によって構成されている。ここで、基板10として、シリコン(Si)基板、又は、酸化シリコン(SiO)を表面に有する基板が用いられるものとし、基板10表面には、金パッド(図示せず)が予め堆積されている。
【0026】
具体的に説明すると、下地層111はPES(phenylene-ether-sulfone)をスピンコーティングし、オーブン内で250℃の温度で1時間、ベーキングすることによって形成されており、図示された下地層111は200nm の厚さを有している。
【0027】
一方、中間層112は、0.5Å/秒の蒸着速度で電子ビーム蒸着された30nmの厚さを有するゲルマニウムによって形成され、更に、上面層113はPMMA(poly-methyl-methacrylate)をスピンコーティングし、オーブン内で150℃の温度で20分ベーキングすることによって形成されている。この例に示された上面層113は50nmの厚さを有している。
【0028】
次に、下地層111、中間層112、及び、上面層113の3層構造に対して、電子ビーム露光及びドライエッチングを施すことによって、図1(b)に示されたような懸架マスク11を作成する。即ち、電子ビーム露光装置を用いて、上記した3層構造に所定のパターンを露光した後、PMMAの上面層113を現像して、上面層113に所定のパターンを形成する。
【0029】
続いて、CFガスを用いたRIE(reactive-ion etching)により、PMMAによって形成された上面層113のパターンをGe中間層112に転写する。
【0030】
次に、図1(b)に示すように、下地層(PES)111を酸素プラズマ中でエッチングして、傾斜蒸着に必要なアンダーカット部分を有する懸架マスク11を作成する。下地層111のエッチング中、上面層113は除去される。
【0031】
懸架マスク11の作成後、トンネル接合素子を形成する素子形成工程に移行する。この場合、懸架マスク11を有するウェハが傾斜ステージ、電子銃、及びイオンガンを備えた蒸着装置の真空容器内に取り付けられる。
【0032】
ここで、本発明の実施形態で製造されるトンネル接合素子は、熱的に安定なニオブ材料によって構成されたトンネル接合を有するトンネル接合素子であり、特性の再現性が高いと云う特徴を有している。即ち、本発明の実施形態に係るトンネル接合素子は、基板10表面に、互いに間隔を置いて配置され、金属ニオブによって形成された第1及び第2の電極(下部電極)と、当該第1及び第2の電極上に配置された第3の電極(上部電極)と、第1及び第3の電極間に設けられたニオブ酸化膜(Nb)とを備えている。この構成からも明らかな通り、本発明に係るトンネル接合素子は、素子を構成する全ての部分が耐火性に優れた高融点金属であるニオブ材料によって形成されていることを特徴としている。このため、転移温度が高く、且つ、超伝導ギャップ及びジョセフソンエネルギーの大きいトンネル接合或いはトンネル接合素子を得ることができる。
【0033】
図1(c)を参照すると、基板10表面に対して垂直な直線に対して、反時計方向に20度(−20度)傾斜した方向から、懸架マスク11をマスクとして、電子銃からの電子ビームを用いて、ニオブ(Nb)が蒸着される。即ち、懸架マスク11に形成されたアンダーカット部に電極が形成されないように、ニオブ(Nb)の傾斜蒸着が行われる。
【0034】
このような傾斜蒸着を行うことによって、金属ニオブ(Nb)膜が基板10表面の懸架マスク11によってマスクされていない部分及び懸架マスクの表面部分に蒸着される。この結果、第1及び第2の電極となる下部電極21が基板10上に形成される一方、懸架マスク11上にもニオブ層22が45〜50nm程度の厚さに堆積される。尚、傾斜蒸着の際におけるニオブ膜の蒸着速度は4Å/秒である。
【0035】
次に、図1(d)に示すように、下部電極21及びニオブ層22に対して、同一のチャンバ内で、イオンガンから酸素を照射する。イオンガンから照射された酸素は、ニオブ層22上にプラズマ酸化されたニオブ酸化膜(Nb)を形成する。この結果、第1及び第2の電極21上にプラズマ酸化された厚さ2nm程度のニオブ酸化膜が被着される。この場合、イオンガンからの酸素は、基板10表面に対して垂直な直線に対して、時計方向に20度、即ち、+20度傾斜させた方向から供給される。
【0036】
これによって、第1及び第2の電極21の表面、及び、懸架マスク10上の表面には、ニオブ酸化膜(Nb)23(太線)が被着される。このように、プラズマ酸化によって得られたニオブ酸化膜(Nb)は、熱酸化膜に比較して低級酸化物を含まず、しかも、ピンホールの無いトンネル障壁を形成できることが判明した。
【0037】
続いて、図1(e)に示すように、ニオブの上部電極24が蒸着される。この場合、上部電極24は、下部電極23上のニオブ酸化膜23と部分的に重なるように、下部電極23の傾斜角(−20度)とは異なる+20度の傾斜角で4Å/秒の蒸着速度で蒸着されている。
【0038】
次に、懸架マスク11をリフトオフによって取り除くことによって、図1(f)に示すように、下部電極21、ニオブ酸化膜23、及び、上部電極24を備えたトンネル接合素子が得られる。図1(f)からも明らかな通り、下部電極21は互いに間隔を置いて基板10上に配置されており、且つ、これら下部電極21の表面には、酸化膜バリアとしてのニオブ酸化膜23が酸素プラズマを照射することによって形成されている。ニオブ酸化膜23は、上部電極24と、下部電極21を形成する第1の電極と重複する部分に、極微細なトンネル接合を形成している。
【0039】
尚、蒸着の際における角度は、PES層によって形成された懸架マスク11の厚さに応じて変化させることができる。
【0040】
このように、電子銃、イオンガン、チャンバ内に傾斜ステージ及びイオン源を備えた蒸着装置を使用することによって、再現性の高いトンネル接合素子を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、極微細構造の全ニオブ型トンネル接合及びこのようなトンネル接合を有するデバイス素子に適用できる。即ち、本発明は単一電子トランジスタ、クーパーペアポンプ、ジョセフソン量子ビット等に適用できる。更に、本発明は、ニオブに限定されることなく、他の耐火性金属、例えば、タンタル、モリブデン、タングステン等にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】(a)〜(f)は本発明の一実施形態に係るトンネル接合素子を製造する工程を工程順に説明する断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 基板
111 下地層(PES)
112 中間層
113 上面層
11 懸架マスク
21 ニオブ膜(下部電極)
23 ニオブ酸化膜(上部電極)
24 ニオブ膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐火性金属材料によって形成された下部電極膜と、当該下部電極膜表面に形成され、前記下部電極膜表面をイオンガンからの酸素に曝すことによって形成された前記耐火性金属材料の酸化膜と、前記酸化膜と極微細部分で接触して、極微細なトンネル接合を形成する上部電極膜とを備えたトンネル接合。
【請求項2】
請求項1において、前記耐火性金属材料が高融点を有するニオブであり、前記酸化膜はイオンガンから酸素を照射することによって得られたニオブ酸化膜(Nb)であることを特徴とするトンネル接合。
【請求項3】
請求項1において、前記耐火性金属材料である金属ニオブは蒸着によって形成されていることを特徴とするトンネル接合。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、上記したトンネル接合を一部に含むトンネル接合素子。
【請求項5】
懸架マスクを用意する工程と、当該懸架マスクに対して、予め定められた傾斜角度で耐火性金属材料を供給し、耐火性金属材料の下部電極を堆積する工程と、当該耐火性金属材料の下部電極表面を、イオンガンから酸素を照射し、当該酸素に曝すことによって、前記耐火性金属材料の酸化膜を形成する工程と、前記予め定められた傾斜角度とは異なる傾斜角度から前記耐火性金属材料を供給し、前記耐火性金属材料の上部電極を形成すると共に、前記酸化膜との間に極微細のトンネル接合を形成する工程とを含むトンネル接合の製造方法。
【請求項6】
請求項5において、前記下部電極を形成する耐火性金属材料は金属ニオブであり、当該金属ニオブは、前記傾斜角度を持たせた状態で、蒸着によって形成され、他方、前記酸化膜は電極表面にイオンガンから酸素を照射することによって形成されたプラズマ酸化膜であることを特徴とするトンネル接合の製造方法。
【請求項7】
請求項6において、前記極微細のトンネル接合を形成するために、前記上部電極を形成するニオブは前記下部電極用のニオブとは異なる傾斜角度で照射されることを特徴とするトンネル接合の製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかにおいて、前記トンネル接合を含むトンネル接合素子を製造することを特徴とするトンネル接合素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−227407(P2007−227407A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−348368(P2005−348368)
【出願日】平成17年12月1日(2005.12.1)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】