説明

トンネル施工領域での管理方法

【課題】切羽観察作業員の切羽観察報告書作成に要する負担を軽減し、その的確性を高める。
【解決手段】管理用サーバー21を備えるトンネル施工現場事務所4とトンネル1掘削坑内の切羽領域とをLAN20で結ぶと共に、トンネル掘進及び切羽領域の移動に伴ってLANを延長し、かつ前記LANのアクセスポイントを順次増設し、切羽観察作業員10は、切羽3手前において、切羽3を観察し、その撮像した切羽写真及び切羽観察報告書作成に必要な情報を、携帯した操作端末11に入力し、LAN20を介して管理用サーバー21に送信し、送信された情報に基づき最終切羽観察報告書を作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネル施工領域での管理方法に係り、特に切羽観察及び切羽観察報告書作成作業を的確に行い得るようにした管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネル掘削を行う場合の施工管理項目は多岐にわたる。たとえば特許文献1に記載のように、切羽面形状データ、切羽面進行データ、掘削マシン位置姿勢データ、掘削サイクルタイムデータ、余堀データ、内空変位データを、トンネル施工現場事務所の設置した中央演算制御部に与えて施工管理を行うようにすることが開示している。
さらに先行文献1は、「トンネル工事現場に無線通信用アンテナを適宜配置し、前記無線通信用アンテナを介して通信可能な、画像表示機能、画像撮影機能、音声通話機能、データ通信機能を備えた作業員用無線通信機器を配置し、前記作業員用無線通信機器とトンネル工事現場に配置された測量機器およびトンネル外のトンネル工事管理用コンピュータシステムとで構成されるネットワークを構成する」トンネル工事現場用総合管理システムを提案している。
しかし、この発明は、トンネル施工現場事務所での施工管理が中心であり、切羽観察作業員の切羽観察報告書作成に要する負担や的確性について考慮されていない。
【特許文献1】特開2005−344418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の主たる課題は、切羽観察作業員の切羽観察報告書作成に要する負担を軽減し、その的確性を高めることにある。他の課題は下記の説明から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明は次記のとおりである。
<請求項1記載の発明>
管理用サーバーを備えるトンネル施工現場事務所とトンネル掘削坑内の切羽領域とをLANで結ぶと共に、トンネル掘進及び前記切羽領域の移動に伴ってLANを延長し、かつ前記LANのアクセスポイントを順次増設し、
切羽観察作業員は、前記切羽手前において、切羽を観察し、その撮像した切羽写真及び切羽観察報告書作成に必要な情報を、携帯した操作端末に入力し、そのデータを対応するアクセスポイントに無線で送信し、前記LANを介して前記管理用サーバーに送信し、
送信された情報に基づき最終切羽観察報告書を作成することを特徴とするトンネル施工領域での管理方法。
【0005】
(作用効果)
トンネル掘削において、切羽観察は重要な作業である。すなわち、切羽観察により、測点番号(ステーション番号)、坑口からの距離、断面番号、支保パターン、土被りの高さ、岩石名・地質時代、岩石グループ、岩石名コード、補助工法の諸元、増し支保工の諸元、A,B計測、崩壊の有無、インバート早期閉合の有無、圧縮強度、風化変質、割れ目観察、割れ目状態、走向傾斜、湧水量、劣化などの要素について観察し、各項目について切羽観察データシートに記入し、5段階評価区分の対象のものについては、当該切羽の左肩、中央及び右肩について評価区分を記入して評価点を算出したものも切羽観察データシートに記入するものである。さらに、切羽観察データシートには、実際の切羽の撮影写真を貼付するとともに、その切羽の撮影写真に対応して岩や割れ目を記入したスケッチを作成し、そのスケッチ中に各種の観察評価(たとえば、「大目で滑落した岩がある」「安山岩質火砕岩」「割れ目は細かく、その間隔は5〜20cm」)を記入することも行う。なお、これらの例については、2006年制定の「トンネル標準示方書(山岳工法)・同解説」の247頁〜270頁に詳しく説明されている。
【0006】
しかるに、従来においては、切羽観察要素群の大半を野帳(手持ちの帳面)に簡単なメモ的に記入し、トンネル施工現場事務所に帰所した後に、未記入の切羽観察データシートにメモデータ及び記憶に基づき最終データとして、未記入の切羽観察データシートに写し換えていた。また、切羽観察用撮影データは、トンネル施工現場事務所に帰所した後に、写真としてプリントアウトし、切羽観察データシートに貼付し、その写真に対応してスケッチを作成し、そのスケッチ中に記入しておくべき事項を、野帳からのメモや記憶に基づき切羽観察データシートに記入していた。
【0007】
しかし、切羽観察データシートに記入すべき項目(要素)の数は多く、これらのすべてを野帳にメモ的に記入しておいたとしても、トンネル施工現場事務所に帰所した後に、未記入の切羽観察データシートに写し換える際に、記憶要素が多分に多いので、記入ミスが生じ易い。
さらに、切羽観察写真に対応してスケッチ中に記入する事項は、野帳からのメモや記憶に基づき記入するので、正確性が十分でない。
【0008】
しかるに、本発明に従えば、切羽観察作業員は、切羽手前において、切羽を現実に直視して観察し、その撮像した切羽写真及び切羽観察報告書作成に必要な情報を、携帯した操作端末に直接的に入力するから、記憶違いなどの誤りの要因を排除でき、正確性が高まる。
【0009】
また、従来の切羽観察写真に対応してスケッチ中に記入していた事項については、本発明においては、たとえばカメラ機能を搭載している携帯した操作端末中に撮像データをそのまま取り込み、あるいは別途持参したカメラによる撮像データを操作端末中に取り込み、撮像データの表示画面中に、あるいは撮像データをモデファイした表示画面中に、その画像をなぞるなどして記録しておくべき事項の記入(たとえば前述の岩や割れ目の記入)、さらには観察判断情報(たとえば、「大目で滑落した岩がある」「安山岩質火砕岩」「割れ目は細かく、その間隔は5〜20cm」)を記入するようにすれば、スケッチ様記入事項及び観察評価事項が正確となる。
【0010】
従来、切羽観察データシートの記入項目は、支保パターンの変更(支保工の追加、増強、軽減)の基準となり、その変更が必要な場合には、施工業者は施主の技術監理者に現切羽の観察を依頼し、その施主側の了解の下で次のゾーンでは変更した支保パターンを採用しながら施工を行うようにしている。このように、施工業者は、切羽観察データシートに記載の内容に基づき支保パターンの変更が必要であると判断した都度、切羽観察データシートを施主の技術監理者に提示し、同技術監理者は都市から山奥に切羽観察のために出向くものである。
【0011】
しかしながら、支保パターンの変更の都度、技術監理者が切羽まで出向くことは施工能率の低下の要因である。しかし、現実には、切羽まで出向かない以上、切羽観察データシートの内容のみでは十分に確認できる情報を得ることができ難いことが、出向を余儀なくしている要因である。本発明に従えば、支保パターンの変更判断に必要な情報の信頼性が高いものとなるので、たとえば、技術監理者の出向回数を減らす又は出向をなくすことが可能である。
【0012】
<請求項2記載の発明>
前記現場事務所の管理者は、受信した前記切羽写真に映った切羽状況に基づき、前記LANを介して切羽観察作業員に対し指示を与えるようにする請求項1記載のトンネル施工領域での管理方法。
【0013】
(作用効果)
切羽観察作業員が十分な経験者であるほか、初心者である場合がある。この場合、LANを介して管理用サーバーに送信された切羽写真に映った切羽状況に基づき、LANを介して切羽観察作業員に対し指示を与えることにより、切羽観察報告書作成に必要な情報を的確に入力することが可能となる。また、切羽観察作業員が経験者であっても、より高い又は的確な情報記入経験を積ませることが可能である。
【0014】
<請求項3記載の発明>
切羽観察作業員は、前記撮像した切羽写真に対し、切羽観察判断情報を加えた状態で、前記操作端末に入力し、前記管理用サーバーに送信する請求項1または2記載のトンネル施工領域での管理方法。
【0015】
(作用効果)
前述の「切羽観察判断情報」を撮像した切羽写真に対して加えた状態で、操作端末に入力し、管理用サーバーに送信すると、切羽写真と判断情報との関係がバラバラにならないで利用が可能である。
【0016】
<請求項4記載の発明>
さらに、坑内に設けた粉塵量検出器の粉塵量データを、前記LANを介して前記管理用サーバーに送信する請求項1〜3のいずれか1項記載のトンネル施工領域での管理方法。
【0017】
(作用効果)
トンネル掘削において、粉塵量の管理は作業員の健康管理上重要である。しかるに、本発明に従って、坑内に設けた粉塵量検出器の粉塵量データを、前記LANを介して前記管理用サーバーに送信するようにすれば、トンネル掘削作業及び切羽の進行に伴うリアルタイムの管理を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
以上、本発明によれば、切羽観察作業員の切羽観察報告書作成に要する負担を軽減できるとともに、その的確性を高めることができるなどの利点をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、トンネル1掘削現場周辺に設置の設備関係を示したもので、坑口2からの掘進がある程度進んでいる状態を示している。3は切羽である。坑口2外には、これに連なる道路や現場事務所4が建てられている。また、吹付材料プラント5,受配電設備6、濁水処理設備7などが設置されている。
【0020】
トンネル1坑内には、各種の掘削機器、たとえば削岩機、吹付機、トラック、集塵機、測量機器、炭酸ガス濃度計、及び前記集塵機と関連して粉塵量を制御・管理するための粉塵量検出器8Aなどの各種検出器8が設けられている。
【0021】
そして、切羽観察作業員10は、携帯可能な操作端末11や携帯電話12などを持ち込み、それらの出力情報は、無線で中継機20aに送り、有線のLAN20を介して、現場事務所4に設置した管理用サーバー21に送信できるようになっている。
【0022】
さらに、トンネルは順次掘進し、切羽3が進行するので、送受信電波の安定性を確保するために、LAN20は中継機20a、20a…を介して順次延長するようにしてある。
【0023】
現場事務所4には、CRT表示装置を含めた信号処理装置22が設けられ、管理用サーバー21との間で情報の加工が可能となっている。
【0024】
以上の構成の下では、坑口2外における吹付材料プラント5での材料使用量,受配電設備6での受配電及び時間単位での使用積算電力量、濁水処理設備7での濁水量及びその濃度などの信号が、管理用サーバー21との間で制御信号及び記録信号としてやりとりされる。
【0025】
他方、トンネル1坑内からは、その坑内設置の各種検出器からの信号が、LAN20を介してあるいはLAN20との別に敷設した有線を介して管理用サーバー21に送信され、各種検出器からの信号は、トンネル1坑内での安全管理用に利用するようになっている。特に、坑内集塵機と関連する粉塵量検出器8Aの信号は、必要により、坑口2の入口に設置した表示計及び警報機9に取り込まれ、トンネル1内への入坑可否のために利用するようにしてある。
【0026】
他方、切羽観察作業員10は、携帯可能な操作端末11や携帯電話12などをトンネル1坑内に持ち込み、切羽まで出向き、切羽3をCCDカメラ(図示せず)などにより撮像するとともに、目視観察し、前述のように、羽観察報告書作成に必要な情報を、携帯した操作端末に直接的に入力する。この場合、切羽撮像信号に対してスケッチ及びそのコメントの記入も行うことが望ましい。これらの操作が完了したならば、最寄りのアクセスポイントとしての中継機20aを介してLAN20により、管理用サーバー21に送信する。
【0027】
他の作業員あるいは切羽観察作業員10は、必要により、トンネル1坑内での変位などの測量情報、支保工建て込み情報、各種掘削機器の稼働情報などを、LAN20により、管理用サーバー21に送信する、又は電話機能を利用して現場事務所4に知らせることができる。そして、必要により、現場事務所4側からの電話連絡を受けたり、管理用サーバー21から現在又は過去の情報を取り出すことができる。
【0028】
この管理用サーバー21から情報を取り出すことについて説明すると、切羽又は支保工の測量信号の処理を行うに際し、トンネル1坑内にコンピュータを持ち込めば、そのコンピュータで簡単な演算は可能であるが、複雑な処理はでき難い。そこで、切羽での測量信号を一旦LAN20によりを介して管理用サーバー21に送信し、たとえば他の蓄積しておいた情報と関係させるなどの複雑な演算処理を行い、その結果をLAN20を介して操作端末11に受けるなどすれば、リアルタイムで切羽又は支保工の座標値を算出できるため、切羽又は支保工に施工精度を高めることができる利点がある。
【0029】
他方、切羽観察作業員10は、管理用サーバー21から過去の切羽データを、LAN20を介して受信することにより、現在の切羽の置かれている状態を判断するための重要な参考情報となり、支保パターンの変更の判断をより適切に行うことが可能となる。
【0030】
図2には、切羽観察データシートの例を示した。図3には、日本国内の某トンネルにおける、ある時点における切羽撮像写真(ただし、鮮明に図示することはできないので、その部位が当該写真であることのみしか表していない)及びスケッチ例を示した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】トンネル掘削現場周辺における設備の配置関係図である。
【図2】切羽観察データシートの例の説明図である。
【図3】切羽撮像写真及びスケッチ例の説明図である。
【符号の説明】
【0032】
1…トンネル、2…坑口、3…切羽、4…現場事務所、5…吹付材料プラント、6…受配電設備、7…濁水処理設備、8…検出器、8A…粉塵量検出器、10…切羽観察作業員、11…操作端末、12…携帯電話、20…LAN、20a…中継機、21…管理用サーバー21、22…信号処理装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管理用サーバーを備えるトンネル施工現場事務所とトンネル掘削坑内の切羽領域とをLANで結ぶと共に、トンネル掘進及び前記切羽領域の移動に伴ってLANを延長し、かつ前記LANのアクセスポイントを順次増設し、
切羽観察作業員は、前記切羽手前において、切羽を観察し、その撮像した切羽写真及び切羽観察報告書作成に必要な情報を、携帯した操作端末に入力し、そのデータを対応するアクセスポイントに無線で送信し、前記LANを介して前記管理用サーバーに送信し、
送信された情報に基づき最終切羽観察報告書を作成することを特徴とするトンネル施工領域での管理方法。
【請求項2】
前記現場事務所の管理者は、受信した前記切羽写真に映った切羽状況に基づき、前記LANを介して切羽観察作業員に対し指示を与えるようにする請求項1記載のトンネル施工領域での管理方法。
【請求項3】
切羽観察作業員は、前記撮像した切羽写真に対し、切羽観察判断情報を加えた状態で、前記操作端末に入力し、前記管理用サーバーに送信する請求項1または2記載のトンネル施工領域での管理方法。
【請求項4】
さらに、坑内に設けた粉塵量検出器の粉塵量データを、前記LANを介して前記管理用サーバーに送信する請求項1〜3のいずれか1項記載のトンネル施工領域での管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−138568(P2010−138568A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314004(P2008−314004)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000172813)佐藤工業株式会社 (73)
【出願人】(394017446)マック株式会社 (7)
【Fターム(参考)】