トンネル覆工内面の剥落防護構造
【課題】例えば既設トンネルにおける覆工コンクリート等のトンネル覆工内面が剥落するのを防ぐための剥落防護構造に係り、施工が容易で、しかも少々大きなコンクリート破片や塊がトンネル覆工内面から剥離した場合にも良好に落下を防止することのできるトンネル覆工内面の剥落防護構造を提供する。
【解決手段】トンネル覆工内面Faに網状物1を取付けて剥落を防止するトンネル覆工内面の剥落防護構造であって、上記トンネル覆工内面Faにアンカー2を打設し、そのアンカー2に支持金具3を介して上記網状物1をトンネル覆工内面に取付け支持させたことを特徴とする。上記支持金具3としては、例えば略方形の金属板の4つの偶部にトンネル覆工側に突出する脚部3bを一体的に設けてなるものを用いることができる。また上記網状物1とトンネル覆工内面Faとの間には必要に応じて防水シート等の防護シート4を介在させることができる。
【解決手段】トンネル覆工内面Faに網状物1を取付けて剥落を防止するトンネル覆工内面の剥落防護構造であって、上記トンネル覆工内面Faにアンカー2を打設し、そのアンカー2に支持金具3を介して上記網状物1をトンネル覆工内面に取付け支持させたことを特徴とする。上記支持金具3としては、例えば略方形の金属板の4つの偶部にトンネル覆工側に突出する脚部3bを一体的に設けてなるものを用いることができる。また上記網状物1とトンネル覆工内面Faとの間には必要に応じて防水シート等の防護シート4を介在させることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば既設トンネルにおける覆工コンクリート等のトンネル覆工内面が剥落するのを防ぐための剥落防護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1においては既設のコンクリート構造物の経時的な劣化やひび割れ等による欠損部を補修するに際し、下地処理剤を使用して上記欠損部に平滑化処理を施し、その平滑化した処理面に所定粘度の接着剤樹脂塑性物を塗布した後、繊維強化合成樹脂等よりなる強化材シートを貼着することが提案されている。
【0003】
しかしながら、上記のように下地処理を施した後、所定粘度の接着剤樹脂塑性物を塗布して強化材シートを貼着するのは施工作業が煩雑かつ面倒でコストが嵩む等の不具合がある。しかも、上記のようにシートを貼着するものは、寒冷地では樹脂の凍結融解によって剥離しやすく、また例えば道路トンネルや鉄道トンネルに適用した場合には、通過する車両の風圧でシートが端から剥離する等のおそれがある。さらにコンクリート表面にシートを貼着すると、コンクリート表面の性状変化や劣化状況が見ずらく、耐久性診断や補修の要否および時期等を予見するのが困難になる等の問題があった。
【0004】
そこで、下記特許文献2および特許文献3においては、トンネル覆工内面に剥落等が予想される場合に、金属または合成樹脂等よりなる網状物をトンネル覆工内面に取付けてコンクリート破片や塊の落下を防止することが提案されている。特に、特許文献2は覆工コンクリート(コンクリート覆工)を貫通して地山内に打設したロックボルトや鉄筋等の支持部材により取付ける構成であり、また特許文献3は、金網を構成する線材に略U字状の止金具を巻き掛け、その止金具の両端部に貫通させたピンを釘打機でトンネル内壁に打設して取付ける構成である。
【0005】
【特許文献1】特開2005−163385号公報
【特許文献2】特開2001−173396号公報
【特許文献3】特開2003−148092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献2のように、ロックボルトや鉄筋等の支持部材を覆工コンクリートを貫通して地山内に打設するものは、その覆工コンクリートを貫通して地山内に至る比較的長い孔を削孔したり、その孔内に支持部材を挿入した状態でセメントやモルタル等を注入して固定するなど、施工に大掛かりな重機が必要で作業性や経済性に欠ける嫌いがある。
【0007】
また、上記特許文献3のようにU字状の止金具とピンとで金網を取付けるものは、取付作業が簡単である反面、必ずしも充分な取付強度が得られないおそれがある。そのため、例えば少々大きなコンクリート破片や塊がトンネル覆工内面から剥離した場合、その荷重の殆どが金網を介してピンに作用し、そのピンが抜けると金網ごと落下するおそれがあった。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みて提案されたもので、施工が容易で、しかも少々大きなコンクリート破片や塊がトンネル覆工内面から剥離した場合にも良好に落下を防止することのできるトンネル覆工内面の剥落防護構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造は、以下の構成としたものである。すなわち、トンネル覆工内面に網状物を取付けて剥落を防止するトンネル覆工内面の剥落防護構造であって、上記トンネル覆工内面にアンカーを打設し、そのアンカーに支持金具を介して上記網状物をトンネル覆工内面に取付け支持させたことを特徴とする。
【0010】
なお、上記の支持金具としては、例えば略方形の金属板の4つの偶部にトンネル覆工側に突出する脚部を一体的に設けてなるものを用いることができる。また上記網状物とトンネル覆工内面との間には、必要に応じて防護シートを介在させることができる。その場合、上記防護シートのトンネル覆工側の面にはトンネル周方向に延びる凸リブを多数形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記のように本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造は、トンネル覆工内面に打設したアンカーに支持金具を介して網状物をトンネル覆工内面に取付け支持させるようにしたから、上記網状物の取付施工が容易で、しかもアンカーは覆工への打設定着によって覆工コンクリートと一体になり、その引抜強度はコンクリートのせん断強度となるため、ピンのようにそれだけが抜けることはなく、そのアンカーで支持するので少々大きなコンクリート破片や塊がトンネル覆工内面から剥離した場合にも良好に落下を防止することができる。
【0012】
なお、上記のように支持金具として、略方形の金属板の4つの偶部にトンネル覆工側に突出する脚部を一体的に設けてなるものを用いると、上記支持金具が網状物を構成する線材を跨ぐようにして取付けることが可能となり、施工時もしくは施工後に網状物が大きくずれるのを防止することができる。特に所定大きさのパネル状の網状物を並べて取付ける場合には隣接する2つ又は4つのパネルを同時に容易に且つ確実に固定することが可能となる。
【0013】
また上記のように網状物とトンネル覆工内面との間に防水シート等の防護シートを介在させると、その防護シートによってトンネル覆工内面から滴下する湧水等をトンネルの側方に誘導排水できると共に、上記の網状物と相まってトンネル覆工内面のコンクリート等の剥落を更に良好に防止することができる。特に、上記の防護シートによって網状物の網目よりも小さいコンクリート破片や塊の剥落をも防止することが可能となる。また、網状物が防護シートを押さえる形となるため、防護シートがトンネル覆工内面に対してたるむことなく湧水の円滑な誘導排水が行なわれ得る。
【0014】
さらに上記防護シートのトンネル覆工側の面にトンネル周方向に延びる凸リブを多数形成すると、その凸リブによってシートの保形性や強度が増大すると共に、トンネル覆工内面から滴下した湧水をトンネル周方向に円滑に誘導して排出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造を図に示す実施形態に基づいて具体的に説明する。図1は本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造の一実施形態を示すトンネルの上部の横断面図、図2はその一部を内面側から見た図、図3(a)はその一部の拡大図、(b)はその断面図、図4は(a)は更にその一部の拡大図、(b)はその断面図、図5および図6はそれぞれ図4(a)のA部およびB部の拡大図である。
【0016】
図に示す実施形態は、予め所定の大きさ・形状に形成したパネル状の網状物1を、トンネルTにおけるコンクリート製の覆工(覆工コンクリート)Fの内面Faに並べて取付けるようにしたもので、特に実施形態においては、図1に示すようにトンネル覆工内面Faの上半部のほぼ全面を覆うようにして上記網状物1を取付けたものであるが、その網状物1の取付範囲は適宜変更可能である。
【0017】
また上記網状物1の材質や構成および大きさ・形状は適宜であるが、本実施形態においては図9に示すように、直径約2mmのステンレス等よりなる金属線材10を縦横に格子状に配置して交差部を溶接等で一体的に固着してなる金属メッシュが用いられ、その全体長さLは約2000mm、幅Wは約1000mmの長方形状に形成されている。また上記の格子状の開口部(網目)の大きさは、図5に示すように約30mmのコンクリート破片や塊f等の剥落を防止できるように縦横それぞれ約25mmに形成されている。
【0018】
図示例は上記の長方形状の網状物1を横長に配した状態、すなわち長さL方向をトンネル軸方向に向けた状態で、図2〜図4に示すようにトンネル周方向および軸方向に並べて配置すると共に、隣り合う網状物1・1の角部や縁部および各網状物1の中央部付近を図4〜図7に示すようにアンカー2と支持金具3とでトンネル覆工内面Faに取付けたものである。
【0019】
上記アンカー2は、本実施形態においては図7および図10に示すように、図10右側に示す先端側に円錐台状のヘッド部22aを有するテーパーボルト22に、略筒状のスリーブ21を軸方向に摺動自在に外嵌させたものであり、スリーブ21の先端部には、円周方向4箇所からスリット21cが設けられ拡開部21aを構成していると共に、抜け止め用の凹凸部21bが設けられている。アンカー2は、コンクリート製の覆工(覆工コンクリート)Fにスリーブ21の外径と同等もしくはそれより極僅かに大径に形成した取付孔hに装填後、スリーブ21の後端をパイプ状の打ち込み治具Pを用いて叩き込むか又はテーパーボルト22を引く形で、そのヘッド部22aでスリーブ21のスリット21cが設けられた拡開部21aを拡開し、抜け止め保持させる構成である。
【0020】
また上記アンカー2には、図7および図10に示すように上記テーパーボルト22のねじ部22bに螺合するナット23とが備えられ、そのナット23の内部には図10(b)に示すようにねじ部22bのねじ山に引っ掛かって緩み止め機能を発揮し得る板ばね23a、23aが設けられている。図中、24はワッシャである。
【0021】
一方、前記の支持金具3は、本実施形態においては図5〜図7および図10に示すように鋼板等の金属板により略方形、特に図の場合は長方形状に形成して、その略中央部に取付孔3aを形成すると共に、4つの偶部にトンネル覆工側に突出する脚部3bを一体的に設けることによって、前記の網状物1を構成する線材10を跨ぐようにして該網状物1をトンネル覆工内面Faに取付け支持させるようにしたものである。上記取付孔3aは本実施形態においては横方向に長い長孔状に形成されている。
【0022】
また上記脚部3bは、図の場合は略方形の金属板よりなる支持金具3の4つの偶部をトンネル覆工側に折り曲げることによって上記支持金具3と一体に形成したものであるが、上記脚部3bの構成は適宜であり、例えば上記支持金具3と別体に形成した棒状その他所望形状の脚を支持金具3の4つの偶部に、それぞれ溶接やリベット等で一体的に固着して設けることもできる。
【0023】
上記支持金具3で網状物1を取付け支持するに当たっては、図7に示すように前記アンカー取付孔h内に打設したアンカー2のテーパーボルト22に前記網状物1および支持金具3を挿通させると共に、上記テーパーボルト22に螺合したナット23で上記支持金具3をトンネル覆工内面Fa側に押し付けることによって、その支持金具3とトンネル覆工内面Faとの間に上記網状物1を挟んで固定する構成である。
【0024】
なお、上記アンカー2のテーパーボルト22には、図7に示すようにナット23の抜け止め用の段落とし部22cを設けるのが望ましい。その段落とし部22cの外径はナット23のねじ部の内径よりも小さく、また段落とし部22cの軸線方向長さは、ナット23のねじ部の軸線方向長さと同等もしくはそれよりも長く形成する。そのようにすると、例えば何らかの振動等で万一ナット23が徐々に緩んで図8に示すように段落とし部22cまで移動すると、その段落とし部22cに上記ナット23が芯ずれしてルーズに嵌った状態となって、その状態で人為的に上記ナット23とテーパーボルト22とをねじ係合させない限りは、そのナット23はそれ以上ボルトの端部側には移動不能となり、それによって上記ナット23や支持金具3および網状物1の不用意な脱落を防止することができるものである。
【0025】
次に、上記のように構成された本発明による剥落防護構造を前記図1に示すようなトンネル覆工内面Faに施工する場合の具体的な手順の一例について説明する。先ず、上記のトンネル覆工内面Faに前記の網状物1を敷設するに当たっては、そのトンネル覆工内面Faを、例えば図11(a)に示すように網状物1の大きさ・形状に対応した寸法で区画割Dをして、その各区画にパネルの割付を行う。
【0026】
そして、隣接するパネルの境界部と各パネルの中央部の所定位置に対応するトンネル覆工内面Faの所定の位置に、図12(a)に示すようなアンカー挿入孔hを図に省略したドリル等で形成し、その各アンカー挿入孔h内にアンカー2を打設するもので、例えば図示例のような金属拡張式のアンカーにあっては、テーパーボルト22にスリーブ21を嵌めた状態で、それらをアンカー挿入孔h内に挿入し、スリーブ21の後端に同図(b)に二点鎖線で示すパイプ状の打ち込み治具Pを当て、その治具Pを図に省略したハンマー等で打ち込む。すると、スリーブ21の拡開部21aがテーパーボルト22のヘッド部22aにより拡開して、アンカー2が覆工Fのコンクリートに定着される。なお、こうしてコンクリートに定着されたアンカー2に引抜方向の力が作用した場合には、アンカー2が覆工Fに対して抜けるのではなく、覆工Fがせん断破壊する形で引抜耐力が決まることが周知である。
【0027】
次いで、図12(c)のようにトンネル覆工内面Faの所定の位置に網状物1を配置すると共に、上記のようにしてアンカー挿入孔h内に打設したアンカー2のテーパーボルト22のねじ部22bに支持金具3およびワッシャ24を挿通したのち、上記テーパーボルト22のねじ部22bにナット23をねじ込んで前記図7のように支持金具3とトンネル覆工内面Faとの間に上記網状物1を挟んで締付け固定するものである。
【0028】
上記のようにしてトンネル覆工内面Faに網状物1を順次並べて取付けることによって、図13(a)のようにトンネル覆工内面Faを網状物1で覆うことができる。それによってコンクリート破片や塊f等が剥落するのを防止できるもので、特に本発明においてはトンネル覆工内面Faに打設したアンカー2に支持金具3を介して網状物1を取付けるようにしたから、該網状物を簡単・確実に取付け支持させることができる。
【0029】
その結果、前記特許文献1のようにコンクリート表面にシートを接着するものに比べ、コンクリート破片や塊f等の剥落を良好に防止できると共に、前記特許文献2のように網状物を支持するロックボルトや鉄筋等の支持部材を、覆工を貫通して地山内に打設する面倒がない。さらに前記特許文献3のように金網を構成する線材に略U字状の止金具を巻き掛けてピンで取付けるものに比べ取付強度が高く信頼性を大幅に向上させることができる等の利点がある。
【0030】
また上記実施形態のように略方形の金属板よりなる支持金具3の4つの偶部にトンネル覆工側に突出する脚部3bを一体的に設けると、その脚部3bを有する支持金具3によって、前記図5および図6に示すように網状物1を構成する線材10を跨ぐようにして該網状物1をトンネル覆工内面Faに更に簡単かつ確実に取付け支持させることができる。特に、隣接する網状物1、1の各線材10を脚部3bで連結するように支持金具3を設置することによって、網状物1同士の目開きを防止することができる。なお、図5は隣接する網状物1の4つの角部を互いに突き合わせるようにして配置したが、隣接する網状物1の角部が互いに重なるようにして、その重合部に支持金具3を係合させて取付けるようにしてもよい。上記角部以外のトンネル周方向および軸方向に隣り合う網状物1の縁部および該縁部を取付け支持する支持金具についても同様である。
【0031】
なお、本発明による剥落防護構造を、トンネル覆工内面Faに湧水等が生じやすい又は生じるおそれのある領域に施工する場合、特に例えば図11(a)に示すようにトンネル覆工内面にジャンカ等のコンクリート施工不良箇所Nや劣化箇所等がある場合、または図13(b)のようにクラックC等がある場合、若しくは図11(a)及び図13(c)のように覆工コンクリートの打継目J等がある場合などには、必要に応じて上記網状物1とトンネル覆工内面Faとの間に防水シート等の防護シートを介在させてもよい。
【0032】
上記図13の(b)、(c)および図14、図15はその一例を示すもので、本例においては上記と同様の要領でアンカー2と支持金具3とでトンネル覆工内面Faに網状物1を取付ける際に、その網状物1とトンネル覆工内面Faとの間に防護シート4を介在させたものである。なお、湧水処理の目的で防護シート4を取り付ける場合には、アンカー2のテーパーボルト22が貫通する部分に止水ゴムを介在させるとなお良い。その防護シート4の材質は適宜であるが、本例においては耐衝撃性および止水性を有するポリエチレンやEVA樹脂等の合成樹脂シートが用いられている。
【0033】
上記の防護シート4は、少なくとも前記の湧水等が生じやすい又は生じるおそれのある領域に施工するもので、その領域がトンネル覆工内面Faの幅方向両側の最外側よりも内側の上部にある場合には、少なくとも上記の領域から上記最外側の位置まで連続的に設けるのが望ましい。
【0034】
また上記防護シート4のトンネル覆工側の面には、必要に応じて図13の(b)、(c)および図14、図15に示すようにトンネル周方向に延びるストライプ状の凸リブ4aをトンネル軸方向に多数設けるとよく、その凸リブ4aの材質や構成は適宜であるが、本例においては、上記防護シート4のトンネル覆工側の面に、防護シート4と同材質の凸リブ4aを一体に形成したものである。
【0035】
上記のように網状物1とトンネル覆工内面Faとの間に防護シート4を介在させると、トンネル覆工内面Fa側に湧水等が浸透してきた場合にも、上記防護シート4によって湧水等がトンネル内に滴下することなく、トンネル覆工内面Faに沿うようにしてトンネル側方に排水することができる。特に、前記のようにジャンカ等のコンクリート施工不良箇所Nや劣化箇所またはクラックCや覆工コンクリートの打継目J等がある場合には、それらによって湧水等がトンネル覆工内面Fa側に浸透しやすいが、多量の湧水等が浸透してきても良好に排水することができる。また、防護シート4は、網状物1によって覆工内面Fa押しつけられる形となるため、通常可撓性を有するシート単体をトンネル覆工内面Faに敷設した場合には当然生じることとなる弛みが発生することなく、適正な設置状態となって、湧水の円滑な誘導排水が行なわれ得る。
【0036】
また上記のように必要に応じて防護シート4のトンネル覆工F側の面にトンネル周方向に延びるストライプ状の凸リブ4aをトンネル軸方向に多数設けると、その凸リブ4aに沿って上記の湧水等を円滑に排水することが可能となると共に、上記の凸リブ4aが補強リブとしての機能をも発揮して防護シート4の保形性や強度を高めることができる等の利点もある。
【0037】
なお、上記防護シート4の大きさ・形状は適宜であるが、例えば上記網状物1とほぼ同じ大きさ・形状に形成して、その防護シート4と網状物1とを予め重ねた状態で施工するようにしてもよい。その場合、トンネル周方向に隣り合う防護シート4・4は上側の防護シート4の下端部が、下側の防護シート4の上端部のトンネル覆工側の面にオーバーラップするように構成するのが望ましい。
【0038】
また上記防護シート4は、上記網状物1よりも大きく形成してもよく、特にトンネル周方向の長さを、網状物1のトンネル周方向長さよりも長く形成すると、上記のオーバーラップ処理を少なくすることができる。さらに前記の覆工コンクリートの打継目J位置に配置される防護シート4は、少なくともトンネル上半部の周方向ほぼ全長にわたって設けるのが望ましく、また上記の打継目J位置については、場合によっては上記の網状物1を省略して図13(d)のように防護シート4のみを設けるようにしてもよい。その場合の防護シート4としては上記以外にポリカーボネイトやPVC等のシート材や透明板等も使用可能である。
【0039】
さらに上記のような網状物1はトンネル覆工内面Faを塞いでしまわないため、それと併用して他の覆工補強構造や補強工法を施工することができる。例えば上記網状物1を取付けた後または前に覆工コンクリートに対する固結材の注入や覆工背面地山に対するロックボルト打設、さらに覆工内周面に沿って帯鋼材等の補強材を支保工状に設置する手法などとの併用が可能かつ容易であり、これによって複合的且つ一層効果的なトンネルの補修・補強が可能となる。
【0040】
図16〜図18はその一例を示すもので、本例はトンネル覆工背面側の地山内に複数本のロックボルト11を放射状に打設すると共に、前記と同様に取付けた網状物1の内面側に帯鋼材よりなる補強材12を取付けたものである。特に図の場合は上記各ロックボルト11のトンネル内空側の端部11aを補強材12に貫通させ、上記各端部11aに形成した雄ねじにナット13をねじ込んで該ナット12と覆工内面Faとの間に上記補強材12と網状物1とを挟んで固定した構成である。図中、14はワッシャである。
【0041】
なお、上記ロックボルト11と補強材12とは各々独立に取付けてもよく、例えば上記各ロックボルト11のトンネル内空側の端部11aには単にワッシャ14を嵌めてナット13をねじ込むだけでもよい。また上記補強材12は図19に示すように前記と同様のアンカー2等で取付けることもできる。その場合にも補強材12とトンネル覆工内面Faとの間に網状物1を挟んで固定するとよく、またテーパーボルト22に前記と同様の段落とし部22cを設けると、ナット23および補強材12、網状物1の不用意な脱落を防止することができる。さらに上記各構成例においても前記と同様に必要に応じて防護シート4を設けるようにしてもよく、その場合にも前記と同様の要領で図18および図19における網状物1とトンネル覆工内面Faとの間に防護シート4を介在させればよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
上記のように構成された本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造によれば、トンネル覆工内面に打設したアンカーに支持金具を介して網状物をトンネル覆工内面に取付け支持させるだけの極めて簡単な構成によって、上記網状物を容易・迅速に且つ強固に取付け支持させることができるもので、既設トンネルや新規施工のトンネルにおける剥落防護構造として有効に適用することができるものである。
また、網状物と防護シートとの併用が容易であるのは勿論、本発明は覆工内面を塞いでしまわないため、本発明以外の他の覆工補強構造乃至工法すなわち覆工コンクリートに対する固結材の注入や覆工背面地山に対するロックボルト打設や覆工内周面に沿って帯鋼材を支保工状に設置する手法などとの併用が容易であり、これによって複合的且つ一層効果的なトンネルの補修・補強が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造の一実施形態を示すトンネルの上部の横断面図。
【図2】上記剥落防護構造の一部をトンネル内空側から見た側面図。
【図3】(a)は上記図2の一部の拡大図、(b)はその展開縦断面図。
【図4】(a)は上記図2(a)の更に一部の拡大図、(b)はその展開縦断面図。
【図5】図4(a)におけるA部の拡大図。
【図6】図4(a)におけるB部の拡大図。
【図7】網状物の取付部の縦断面図。
【図8】ナットが緩んだ状態の同上図。
【図9】網状物の一例を示す正面図。
【図10】(a)はアンカーと支持金具の一部切欠き分解側面図、(b)はナットの正面図、(c)は支持金具の斜視図。
【図11】(a)はトンネル覆工内面への剥落防護構造の施工要領を示す説明図、(b)は施工後のトンネル内空側から見た側面図。
【図12】(a)〜(c)はアンカーの施工手順を示す説明図。
【図13】(a)〜(d)は網状物等の施工状態を示す概略構成の横断平面図。
【図14】網状物とトンネル覆工内面との間に防護シートを介在させた例の断面図。
【図15】上記防護シートと網状物との配置構成を示す斜視図。
【図16】本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造の他の構成例を示す斜視図。
【図17】上記の剥落防護構造の横断面図。
【図18】その一部の拡大図。
【図19】補強材の他の取付例を示す断面図。
【符号の説明】
【0044】
T トンネル
F 覆工
Fa 覆工内面
1 網状物
10 線材
2 アンカー
21 スリーブ
21a 拡開部
21b 凹凸部
21c スリット
22 テーパーボルト
22a ヘッド部
22b ねじ部
22c 段落とし部
23 ナット
24 ワッシャ
3 支持金具
3a 取付孔
3b 脚部
4 防護シート
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば既設トンネルにおける覆工コンクリート等のトンネル覆工内面が剥落するのを防ぐための剥落防護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記特許文献1においては既設のコンクリート構造物の経時的な劣化やひび割れ等による欠損部を補修するに際し、下地処理剤を使用して上記欠損部に平滑化処理を施し、その平滑化した処理面に所定粘度の接着剤樹脂塑性物を塗布した後、繊維強化合成樹脂等よりなる強化材シートを貼着することが提案されている。
【0003】
しかしながら、上記のように下地処理を施した後、所定粘度の接着剤樹脂塑性物を塗布して強化材シートを貼着するのは施工作業が煩雑かつ面倒でコストが嵩む等の不具合がある。しかも、上記のようにシートを貼着するものは、寒冷地では樹脂の凍結融解によって剥離しやすく、また例えば道路トンネルや鉄道トンネルに適用した場合には、通過する車両の風圧でシートが端から剥離する等のおそれがある。さらにコンクリート表面にシートを貼着すると、コンクリート表面の性状変化や劣化状況が見ずらく、耐久性診断や補修の要否および時期等を予見するのが困難になる等の問題があった。
【0004】
そこで、下記特許文献2および特許文献3においては、トンネル覆工内面に剥落等が予想される場合に、金属または合成樹脂等よりなる網状物をトンネル覆工内面に取付けてコンクリート破片や塊の落下を防止することが提案されている。特に、特許文献2は覆工コンクリート(コンクリート覆工)を貫通して地山内に打設したロックボルトや鉄筋等の支持部材により取付ける構成であり、また特許文献3は、金網を構成する線材に略U字状の止金具を巻き掛け、その止金具の両端部に貫通させたピンを釘打機でトンネル内壁に打設して取付ける構成である。
【0005】
【特許文献1】特開2005−163385号公報
【特許文献2】特開2001−173396号公報
【特許文献3】特開2003−148092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記特許文献2のように、ロックボルトや鉄筋等の支持部材を覆工コンクリートを貫通して地山内に打設するものは、その覆工コンクリートを貫通して地山内に至る比較的長い孔を削孔したり、その孔内に支持部材を挿入した状態でセメントやモルタル等を注入して固定するなど、施工に大掛かりな重機が必要で作業性や経済性に欠ける嫌いがある。
【0007】
また、上記特許文献3のようにU字状の止金具とピンとで金網を取付けるものは、取付作業が簡単である反面、必ずしも充分な取付強度が得られないおそれがある。そのため、例えば少々大きなコンクリート破片や塊がトンネル覆工内面から剥離した場合、その荷重の殆どが金網を介してピンに作用し、そのピンが抜けると金網ごと落下するおそれがあった。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みて提案されたもので、施工が容易で、しかも少々大きなコンクリート破片や塊がトンネル覆工内面から剥離した場合にも良好に落下を防止することのできるトンネル覆工内面の剥落防護構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造は、以下の構成としたものである。すなわち、トンネル覆工内面に網状物を取付けて剥落を防止するトンネル覆工内面の剥落防護構造であって、上記トンネル覆工内面にアンカーを打設し、そのアンカーに支持金具を介して上記網状物をトンネル覆工内面に取付け支持させたことを特徴とする。
【0010】
なお、上記の支持金具としては、例えば略方形の金属板の4つの偶部にトンネル覆工側に突出する脚部を一体的に設けてなるものを用いることができる。また上記網状物とトンネル覆工内面との間には、必要に応じて防護シートを介在させることができる。その場合、上記防護シートのトンネル覆工側の面にはトンネル周方向に延びる凸リブを多数形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記のように本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造は、トンネル覆工内面に打設したアンカーに支持金具を介して網状物をトンネル覆工内面に取付け支持させるようにしたから、上記網状物の取付施工が容易で、しかもアンカーは覆工への打設定着によって覆工コンクリートと一体になり、その引抜強度はコンクリートのせん断強度となるため、ピンのようにそれだけが抜けることはなく、そのアンカーで支持するので少々大きなコンクリート破片や塊がトンネル覆工内面から剥離した場合にも良好に落下を防止することができる。
【0012】
なお、上記のように支持金具として、略方形の金属板の4つの偶部にトンネル覆工側に突出する脚部を一体的に設けてなるものを用いると、上記支持金具が網状物を構成する線材を跨ぐようにして取付けることが可能となり、施工時もしくは施工後に網状物が大きくずれるのを防止することができる。特に所定大きさのパネル状の網状物を並べて取付ける場合には隣接する2つ又は4つのパネルを同時に容易に且つ確実に固定することが可能となる。
【0013】
また上記のように網状物とトンネル覆工内面との間に防水シート等の防護シートを介在させると、その防護シートによってトンネル覆工内面から滴下する湧水等をトンネルの側方に誘導排水できると共に、上記の網状物と相まってトンネル覆工内面のコンクリート等の剥落を更に良好に防止することができる。特に、上記の防護シートによって網状物の網目よりも小さいコンクリート破片や塊の剥落をも防止することが可能となる。また、網状物が防護シートを押さえる形となるため、防護シートがトンネル覆工内面に対してたるむことなく湧水の円滑な誘導排水が行なわれ得る。
【0014】
さらに上記防護シートのトンネル覆工側の面にトンネル周方向に延びる凸リブを多数形成すると、その凸リブによってシートの保形性や強度が増大すると共に、トンネル覆工内面から滴下した湧水をトンネル周方向に円滑に誘導して排出することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造を図に示す実施形態に基づいて具体的に説明する。図1は本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造の一実施形態を示すトンネルの上部の横断面図、図2はその一部を内面側から見た図、図3(a)はその一部の拡大図、(b)はその断面図、図4は(a)は更にその一部の拡大図、(b)はその断面図、図5および図6はそれぞれ図4(a)のA部およびB部の拡大図である。
【0016】
図に示す実施形態は、予め所定の大きさ・形状に形成したパネル状の網状物1を、トンネルTにおけるコンクリート製の覆工(覆工コンクリート)Fの内面Faに並べて取付けるようにしたもので、特に実施形態においては、図1に示すようにトンネル覆工内面Faの上半部のほぼ全面を覆うようにして上記網状物1を取付けたものであるが、その網状物1の取付範囲は適宜変更可能である。
【0017】
また上記網状物1の材質や構成および大きさ・形状は適宜であるが、本実施形態においては図9に示すように、直径約2mmのステンレス等よりなる金属線材10を縦横に格子状に配置して交差部を溶接等で一体的に固着してなる金属メッシュが用いられ、その全体長さLは約2000mm、幅Wは約1000mmの長方形状に形成されている。また上記の格子状の開口部(網目)の大きさは、図5に示すように約30mmのコンクリート破片や塊f等の剥落を防止できるように縦横それぞれ約25mmに形成されている。
【0018】
図示例は上記の長方形状の網状物1を横長に配した状態、すなわち長さL方向をトンネル軸方向に向けた状態で、図2〜図4に示すようにトンネル周方向および軸方向に並べて配置すると共に、隣り合う網状物1・1の角部や縁部および各網状物1の中央部付近を図4〜図7に示すようにアンカー2と支持金具3とでトンネル覆工内面Faに取付けたものである。
【0019】
上記アンカー2は、本実施形態においては図7および図10に示すように、図10右側に示す先端側に円錐台状のヘッド部22aを有するテーパーボルト22に、略筒状のスリーブ21を軸方向に摺動自在に外嵌させたものであり、スリーブ21の先端部には、円周方向4箇所からスリット21cが設けられ拡開部21aを構成していると共に、抜け止め用の凹凸部21bが設けられている。アンカー2は、コンクリート製の覆工(覆工コンクリート)Fにスリーブ21の外径と同等もしくはそれより極僅かに大径に形成した取付孔hに装填後、スリーブ21の後端をパイプ状の打ち込み治具Pを用いて叩き込むか又はテーパーボルト22を引く形で、そのヘッド部22aでスリーブ21のスリット21cが設けられた拡開部21aを拡開し、抜け止め保持させる構成である。
【0020】
また上記アンカー2には、図7および図10に示すように上記テーパーボルト22のねじ部22bに螺合するナット23とが備えられ、そのナット23の内部には図10(b)に示すようにねじ部22bのねじ山に引っ掛かって緩み止め機能を発揮し得る板ばね23a、23aが設けられている。図中、24はワッシャである。
【0021】
一方、前記の支持金具3は、本実施形態においては図5〜図7および図10に示すように鋼板等の金属板により略方形、特に図の場合は長方形状に形成して、その略中央部に取付孔3aを形成すると共に、4つの偶部にトンネル覆工側に突出する脚部3bを一体的に設けることによって、前記の網状物1を構成する線材10を跨ぐようにして該網状物1をトンネル覆工内面Faに取付け支持させるようにしたものである。上記取付孔3aは本実施形態においては横方向に長い長孔状に形成されている。
【0022】
また上記脚部3bは、図の場合は略方形の金属板よりなる支持金具3の4つの偶部をトンネル覆工側に折り曲げることによって上記支持金具3と一体に形成したものであるが、上記脚部3bの構成は適宜であり、例えば上記支持金具3と別体に形成した棒状その他所望形状の脚を支持金具3の4つの偶部に、それぞれ溶接やリベット等で一体的に固着して設けることもできる。
【0023】
上記支持金具3で網状物1を取付け支持するに当たっては、図7に示すように前記アンカー取付孔h内に打設したアンカー2のテーパーボルト22に前記網状物1および支持金具3を挿通させると共に、上記テーパーボルト22に螺合したナット23で上記支持金具3をトンネル覆工内面Fa側に押し付けることによって、その支持金具3とトンネル覆工内面Faとの間に上記網状物1を挟んで固定する構成である。
【0024】
なお、上記アンカー2のテーパーボルト22には、図7に示すようにナット23の抜け止め用の段落とし部22cを設けるのが望ましい。その段落とし部22cの外径はナット23のねじ部の内径よりも小さく、また段落とし部22cの軸線方向長さは、ナット23のねじ部の軸線方向長さと同等もしくはそれよりも長く形成する。そのようにすると、例えば何らかの振動等で万一ナット23が徐々に緩んで図8に示すように段落とし部22cまで移動すると、その段落とし部22cに上記ナット23が芯ずれしてルーズに嵌った状態となって、その状態で人為的に上記ナット23とテーパーボルト22とをねじ係合させない限りは、そのナット23はそれ以上ボルトの端部側には移動不能となり、それによって上記ナット23や支持金具3および網状物1の不用意な脱落を防止することができるものである。
【0025】
次に、上記のように構成された本発明による剥落防護構造を前記図1に示すようなトンネル覆工内面Faに施工する場合の具体的な手順の一例について説明する。先ず、上記のトンネル覆工内面Faに前記の網状物1を敷設するに当たっては、そのトンネル覆工内面Faを、例えば図11(a)に示すように網状物1の大きさ・形状に対応した寸法で区画割Dをして、その各区画にパネルの割付を行う。
【0026】
そして、隣接するパネルの境界部と各パネルの中央部の所定位置に対応するトンネル覆工内面Faの所定の位置に、図12(a)に示すようなアンカー挿入孔hを図に省略したドリル等で形成し、その各アンカー挿入孔h内にアンカー2を打設するもので、例えば図示例のような金属拡張式のアンカーにあっては、テーパーボルト22にスリーブ21を嵌めた状態で、それらをアンカー挿入孔h内に挿入し、スリーブ21の後端に同図(b)に二点鎖線で示すパイプ状の打ち込み治具Pを当て、その治具Pを図に省略したハンマー等で打ち込む。すると、スリーブ21の拡開部21aがテーパーボルト22のヘッド部22aにより拡開して、アンカー2が覆工Fのコンクリートに定着される。なお、こうしてコンクリートに定着されたアンカー2に引抜方向の力が作用した場合には、アンカー2が覆工Fに対して抜けるのではなく、覆工Fがせん断破壊する形で引抜耐力が決まることが周知である。
【0027】
次いで、図12(c)のようにトンネル覆工内面Faの所定の位置に網状物1を配置すると共に、上記のようにしてアンカー挿入孔h内に打設したアンカー2のテーパーボルト22のねじ部22bに支持金具3およびワッシャ24を挿通したのち、上記テーパーボルト22のねじ部22bにナット23をねじ込んで前記図7のように支持金具3とトンネル覆工内面Faとの間に上記網状物1を挟んで締付け固定するものである。
【0028】
上記のようにしてトンネル覆工内面Faに網状物1を順次並べて取付けることによって、図13(a)のようにトンネル覆工内面Faを網状物1で覆うことができる。それによってコンクリート破片や塊f等が剥落するのを防止できるもので、特に本発明においてはトンネル覆工内面Faに打設したアンカー2に支持金具3を介して網状物1を取付けるようにしたから、該網状物を簡単・確実に取付け支持させることができる。
【0029】
その結果、前記特許文献1のようにコンクリート表面にシートを接着するものに比べ、コンクリート破片や塊f等の剥落を良好に防止できると共に、前記特許文献2のように網状物を支持するロックボルトや鉄筋等の支持部材を、覆工を貫通して地山内に打設する面倒がない。さらに前記特許文献3のように金網を構成する線材に略U字状の止金具を巻き掛けてピンで取付けるものに比べ取付強度が高く信頼性を大幅に向上させることができる等の利点がある。
【0030】
また上記実施形態のように略方形の金属板よりなる支持金具3の4つの偶部にトンネル覆工側に突出する脚部3bを一体的に設けると、その脚部3bを有する支持金具3によって、前記図5および図6に示すように網状物1を構成する線材10を跨ぐようにして該網状物1をトンネル覆工内面Faに更に簡単かつ確実に取付け支持させることができる。特に、隣接する網状物1、1の各線材10を脚部3bで連結するように支持金具3を設置することによって、網状物1同士の目開きを防止することができる。なお、図5は隣接する網状物1の4つの角部を互いに突き合わせるようにして配置したが、隣接する網状物1の角部が互いに重なるようにして、その重合部に支持金具3を係合させて取付けるようにしてもよい。上記角部以外のトンネル周方向および軸方向に隣り合う網状物1の縁部および該縁部を取付け支持する支持金具についても同様である。
【0031】
なお、本発明による剥落防護構造を、トンネル覆工内面Faに湧水等が生じやすい又は生じるおそれのある領域に施工する場合、特に例えば図11(a)に示すようにトンネル覆工内面にジャンカ等のコンクリート施工不良箇所Nや劣化箇所等がある場合、または図13(b)のようにクラックC等がある場合、若しくは図11(a)及び図13(c)のように覆工コンクリートの打継目J等がある場合などには、必要に応じて上記網状物1とトンネル覆工内面Faとの間に防水シート等の防護シートを介在させてもよい。
【0032】
上記図13の(b)、(c)および図14、図15はその一例を示すもので、本例においては上記と同様の要領でアンカー2と支持金具3とでトンネル覆工内面Faに網状物1を取付ける際に、その網状物1とトンネル覆工内面Faとの間に防護シート4を介在させたものである。なお、湧水処理の目的で防護シート4を取り付ける場合には、アンカー2のテーパーボルト22が貫通する部分に止水ゴムを介在させるとなお良い。その防護シート4の材質は適宜であるが、本例においては耐衝撃性および止水性を有するポリエチレンやEVA樹脂等の合成樹脂シートが用いられている。
【0033】
上記の防護シート4は、少なくとも前記の湧水等が生じやすい又は生じるおそれのある領域に施工するもので、その領域がトンネル覆工内面Faの幅方向両側の最外側よりも内側の上部にある場合には、少なくとも上記の領域から上記最外側の位置まで連続的に設けるのが望ましい。
【0034】
また上記防護シート4のトンネル覆工側の面には、必要に応じて図13の(b)、(c)および図14、図15に示すようにトンネル周方向に延びるストライプ状の凸リブ4aをトンネル軸方向に多数設けるとよく、その凸リブ4aの材質や構成は適宜であるが、本例においては、上記防護シート4のトンネル覆工側の面に、防護シート4と同材質の凸リブ4aを一体に形成したものである。
【0035】
上記のように網状物1とトンネル覆工内面Faとの間に防護シート4を介在させると、トンネル覆工内面Fa側に湧水等が浸透してきた場合にも、上記防護シート4によって湧水等がトンネル内に滴下することなく、トンネル覆工内面Faに沿うようにしてトンネル側方に排水することができる。特に、前記のようにジャンカ等のコンクリート施工不良箇所Nや劣化箇所またはクラックCや覆工コンクリートの打継目J等がある場合には、それらによって湧水等がトンネル覆工内面Fa側に浸透しやすいが、多量の湧水等が浸透してきても良好に排水することができる。また、防護シート4は、網状物1によって覆工内面Fa押しつけられる形となるため、通常可撓性を有するシート単体をトンネル覆工内面Faに敷設した場合には当然生じることとなる弛みが発生することなく、適正な設置状態となって、湧水の円滑な誘導排水が行なわれ得る。
【0036】
また上記のように必要に応じて防護シート4のトンネル覆工F側の面にトンネル周方向に延びるストライプ状の凸リブ4aをトンネル軸方向に多数設けると、その凸リブ4aに沿って上記の湧水等を円滑に排水することが可能となると共に、上記の凸リブ4aが補強リブとしての機能をも発揮して防護シート4の保形性や強度を高めることができる等の利点もある。
【0037】
なお、上記防護シート4の大きさ・形状は適宜であるが、例えば上記網状物1とほぼ同じ大きさ・形状に形成して、その防護シート4と網状物1とを予め重ねた状態で施工するようにしてもよい。その場合、トンネル周方向に隣り合う防護シート4・4は上側の防護シート4の下端部が、下側の防護シート4の上端部のトンネル覆工側の面にオーバーラップするように構成するのが望ましい。
【0038】
また上記防護シート4は、上記網状物1よりも大きく形成してもよく、特にトンネル周方向の長さを、網状物1のトンネル周方向長さよりも長く形成すると、上記のオーバーラップ処理を少なくすることができる。さらに前記の覆工コンクリートの打継目J位置に配置される防護シート4は、少なくともトンネル上半部の周方向ほぼ全長にわたって設けるのが望ましく、また上記の打継目J位置については、場合によっては上記の網状物1を省略して図13(d)のように防護シート4のみを設けるようにしてもよい。その場合の防護シート4としては上記以外にポリカーボネイトやPVC等のシート材や透明板等も使用可能である。
【0039】
さらに上記のような網状物1はトンネル覆工内面Faを塞いでしまわないため、それと併用して他の覆工補強構造や補強工法を施工することができる。例えば上記網状物1を取付けた後または前に覆工コンクリートに対する固結材の注入や覆工背面地山に対するロックボルト打設、さらに覆工内周面に沿って帯鋼材等の補強材を支保工状に設置する手法などとの併用が可能かつ容易であり、これによって複合的且つ一層効果的なトンネルの補修・補強が可能となる。
【0040】
図16〜図18はその一例を示すもので、本例はトンネル覆工背面側の地山内に複数本のロックボルト11を放射状に打設すると共に、前記と同様に取付けた網状物1の内面側に帯鋼材よりなる補強材12を取付けたものである。特に図の場合は上記各ロックボルト11のトンネル内空側の端部11aを補強材12に貫通させ、上記各端部11aに形成した雄ねじにナット13をねじ込んで該ナット12と覆工内面Faとの間に上記補強材12と網状物1とを挟んで固定した構成である。図中、14はワッシャである。
【0041】
なお、上記ロックボルト11と補強材12とは各々独立に取付けてもよく、例えば上記各ロックボルト11のトンネル内空側の端部11aには単にワッシャ14を嵌めてナット13をねじ込むだけでもよい。また上記補強材12は図19に示すように前記と同様のアンカー2等で取付けることもできる。その場合にも補強材12とトンネル覆工内面Faとの間に網状物1を挟んで固定するとよく、またテーパーボルト22に前記と同様の段落とし部22cを設けると、ナット23および補強材12、網状物1の不用意な脱落を防止することができる。さらに上記各構成例においても前記と同様に必要に応じて防護シート4を設けるようにしてもよく、その場合にも前記と同様の要領で図18および図19における網状物1とトンネル覆工内面Faとの間に防護シート4を介在させればよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
上記のように構成された本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造によれば、トンネル覆工内面に打設したアンカーに支持金具を介して網状物をトンネル覆工内面に取付け支持させるだけの極めて簡単な構成によって、上記網状物を容易・迅速に且つ強固に取付け支持させることができるもので、既設トンネルや新規施工のトンネルにおける剥落防護構造として有効に適用することができるものである。
また、網状物と防護シートとの併用が容易であるのは勿論、本発明は覆工内面を塞いでしまわないため、本発明以外の他の覆工補強構造乃至工法すなわち覆工コンクリートに対する固結材の注入や覆工背面地山に対するロックボルト打設や覆工内周面に沿って帯鋼材を支保工状に設置する手法などとの併用が容易であり、これによって複合的且つ一層効果的なトンネルの補修・補強が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造の一実施形態を示すトンネルの上部の横断面図。
【図2】上記剥落防護構造の一部をトンネル内空側から見た側面図。
【図3】(a)は上記図2の一部の拡大図、(b)はその展開縦断面図。
【図4】(a)は上記図2(a)の更に一部の拡大図、(b)はその展開縦断面図。
【図5】図4(a)におけるA部の拡大図。
【図6】図4(a)におけるB部の拡大図。
【図7】網状物の取付部の縦断面図。
【図8】ナットが緩んだ状態の同上図。
【図9】網状物の一例を示す正面図。
【図10】(a)はアンカーと支持金具の一部切欠き分解側面図、(b)はナットの正面図、(c)は支持金具の斜視図。
【図11】(a)はトンネル覆工内面への剥落防護構造の施工要領を示す説明図、(b)は施工後のトンネル内空側から見た側面図。
【図12】(a)〜(c)はアンカーの施工手順を示す説明図。
【図13】(a)〜(d)は網状物等の施工状態を示す概略構成の横断平面図。
【図14】網状物とトンネル覆工内面との間に防護シートを介在させた例の断面図。
【図15】上記防護シートと網状物との配置構成を示す斜視図。
【図16】本発明によるトンネル覆工内面の剥落防護構造の他の構成例を示す斜視図。
【図17】上記の剥落防護構造の横断面図。
【図18】その一部の拡大図。
【図19】補強材の他の取付例を示す断面図。
【符号の説明】
【0044】
T トンネル
F 覆工
Fa 覆工内面
1 網状物
10 線材
2 アンカー
21 スリーブ
21a 拡開部
21b 凹凸部
21c スリット
22 テーパーボルト
22a ヘッド部
22b ねじ部
22c 段落とし部
23 ナット
24 ワッシャ
3 支持金具
3a 取付孔
3b 脚部
4 防護シート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネル覆工内面に網状物を取付けて剥落を防止するトンネル覆工内面の剥落防護構造であって、上記トンネル覆工内面にアンカーを打設し、そのアンカーに支持金具を介して上記網状物をトンネル覆工内面に取付け支持させたことを特徴とするトンネル覆工内面の剥落防護構造。
【請求項2】
上記支持金具は、略方形の金属板の4つの偶部にトンネル覆工側に突出する脚部を一体的に設けてなる請求項1に記載のトンネル覆工内面の剥落防護構造。
【請求項3】
上記網状物とトンネル覆工内面との間に防水シート等の防護シートを介在させてなる請求項1または2に記載のトンネル覆工内面の剥落防護構造。
【請求項4】
上記防護シートのトンネル覆工側の面にトンネル周方向に延びるストライプ状の凸リブを多数形成してなる請求項3に記載のトンネル覆工内面の剥落防護構造。
【請求項1】
トンネル覆工内面に網状物を取付けて剥落を防止するトンネル覆工内面の剥落防護構造であって、上記トンネル覆工内面にアンカーを打設し、そのアンカーに支持金具を介して上記網状物をトンネル覆工内面に取付け支持させたことを特徴とするトンネル覆工内面の剥落防護構造。
【請求項2】
上記支持金具は、略方形の金属板の4つの偶部にトンネル覆工側に突出する脚部を一体的に設けてなる請求項1に記載のトンネル覆工内面の剥落防護構造。
【請求項3】
上記網状物とトンネル覆工内面との間に防水シート等の防護シートを介在させてなる請求項1または2に記載のトンネル覆工内面の剥落防護構造。
【請求項4】
上記防護シートのトンネル覆工側の面にトンネル周方向に延びるストライプ状の凸リブを多数形成してなる請求項3に記載のトンネル覆工内面の剥落防護構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−169627(P2008−169627A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−4001(P2007−4001)
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年1月12日(2007.1.12)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【Fターム(参考)】
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