説明

ドアラッチ装置

【課題】補強ビードを改良してより強度的に優れたドアラッチ装置を提供する。
【解決手段】ラッチ4が係合位置にある場合には、ラッチ4のアーム部42はストライカ進入溝23を跨いで、アーム部42の先端部421は、ベース部21における補強ビード24の片側ビード部241上で、かつ片側ビード部241の前端の段差dに重なる位置にある。これにより、片側ビード部241に対して下向きの力が作用したときの片側ビード部241の変形を最小限に抑えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用のドアラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用のドアラッチ装置においては、車両のドアに固定されるベース部に、ドアの閉鎖時に車体側のストライカが進入する進入溝を形成すると共に、ストライカと噛合可能なラッチ及び当該ラッチに係合することによりラッチの回動を阻止するラチェットがそれぞれ枢支される。そして、ラッチの先端部をストライカの進入溝を跨ぐように延出すると共に、ベース部における進入溝の縁部にラッチの先端部を受け止め可能な補強ビードを設けてストライカの進入溝の周囲を補強することによって、車両の衝突等によってラッチとストライカとの間に大きな荷重が作用した場合、ベース部におけるストライカの進入溝の周囲が変形してラッチの先端部が外方へ抜け出すのを阻止することで、ラッチとストライカとの噛合強度の向上を図っている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−244990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、車両用のドアラッチ装置においては、上記特許文献1に記載された発明のように、ベース部におけるストライカの進入溝の周囲に補強ビードを設けることによって噛合強度の向上は図られるが、近年の車体強度向上に伴ってより強度的に優れたドアラッチ装置が望まれている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑み、補強ビードを改良してより強度的に優れたドアラッチ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、第1の発明は、車体またはドアのいずれか一方に固定され、前記ドアの閉鎖時に他方のストライカが進入可能なストライカ進入溝を有するベース部に、各軸をもって、前記ストライカと係脱可能なラッチと、該ラッチと係合し前記ラッチの回動を阻止するラチェットとをそれぞれ枢支し、前記ストライカに係合した係合位置にある前記ラッチのアーム部が前記ストライカ進入溝を跨いで前記アーム部の先端部が前記ベース部における前記ストライカ進入溝の縁に近接する縁部に重なると共に、前記ベース部の前記縁部に、前記ストライカ進入溝の縁に沿うように延設され、かつ前記アーム部の前記先端部が当接可能な補強ビードを設けたドアラッチ装置において、前記補強ビードは、長手方向の端の段差が前記係合位置にある前記ラッチの前記先端部と重なる位置にあって、当該位置から前記ストライカ進入溝の奥端へ向けて延出することを特徴とする。
【0007】
第2の発明は、前記第1の発明において、前記補強ビードは、前記係合位置にある前記ラッチの前記先端部が重なる領域を前記ストライカ進入溝を向く側に段差を有しないで当該側の反対側に段差を有する片側ビード部とし、前記ラッチの前記先端部が重ならない領域を長手方向に沿って両側に段差を有する両側ビード部として、前記片側ビード部と前記両側ビード部とを連続して形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、ラッチにおけるアーム部の先端部がベース部に設けた補強ビードの長手方向の端、すなわちベース部の平面との間に段差を有して補強ビードのうち最も強度が高い部分に当接可能となるため、ベース部におけるストライカ進入溝の周辺の変形を少なくしてラッチ強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係わるドアラッチ装置の側面図である。
【図2】図1において矢印II方向から見たドアラッチ装置の平面図である。
【図3】図1において矢印III方向から見たドアラッチ装置の底面図である。
【図4】係合状態にあるドアラッチ装置の内部構造を示す平面図である。
【図5】離脱状態にあるドアラッチ装置の内部構造を示す平面図である。
【図6】図4におけるVI−VI線拡大断面図である。
【図7】図4におけるVII−VII線拡大断面図である。
【図8】図4におけるVIII−VIII線拡大断面図である。
【図9】他の実施形態におけるベースプレート及びラッチの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態を、図1〜8に基づいて説明する。なお、以下の説明では、図1における左方及び図2〜5における下方を「前方」とし、図1における右方及び図2〜5における上方を「後方」とする。
【0011】
本実施形態のドアラッチ装置1は、車体後部に上下方向へ開閉可能に枢支されたバックドアDに適用され、バックドアDの下部パネルに固定される金属製のベースプレート2と、ベースプレート2に枢支され、車体B側に固定されたストライカ3と係脱可能なラッチ4と、ベースプレート2に枢支され、ラッチ4に係脱可能なラチェット5とを有する。ベースプレート2上には、ラッチ4及びラチェット5の上方を覆う合成樹脂製のカバー部材6が固定され、さらに、カバー部材6上には、金属製のブラケット7が固定される。ラッチ4及びラチェット5は、ベースプレート2とカバー部材6間に枢支される。
【0012】
ベースプレート2は、バックドアDの下部パネルから車体B側へ向けて突出する凹状のベース部21と、ベース部21の左右上部に折曲形成されバックドアDの下部パネルにボルト(図示略)により固定される左右1対のフランジ部22、22とを有する。ベースプレート2のベース部21及びカバー部材6の左右方向の中央には、バックドアDが閉じられたとき、ストライカ3が前方から進入可能な前方が開口し後方が閉塞したストライカ進入溝23及び61が設けられる。
【0013】
図4、5に示すように、ラッチ4は、上下方向を向くラッチ軸8をもって、ベース部21の平坦な支持面上におけるストライカ進入溝23の右側に枢支されると共に、ラチェット5の先端に設けられた爪部51が係合可能な係合部41と、係合部41の前側(ストライカ進入溝23の開口する側)に設けられるアーム部42と、係合部41とアーム部42間にあって、ストライカ進入溝23に進入したストライカ3が噛合可能な係合溝43とを有し、バックドアDの閉動作に伴って、図5に示す離脱位置から時計方向へ所定角度回動した図4に示す係合位置へ回動して停止する。
【0014】
図4に示すように、ラッチ4が係合位置にある場合には、係合部41は、ストライカ進入溝23の奥端(後端)の後方に位置し、また、アーム部42は、ストライカ進入溝23を跨いでその先端部421がベース部21におけるストライカ進入溝23の左縁に近接する左縁部上(ラッチ軸8の軸線方向)に重なる。
【0015】
ラチェット5は、上下方向を向くラチェット軸9によりベース部21におけるストライカ進入溝23の左側に枢支されると共に、後部には、図4に示すようにラッチ4が係合位置にあるとき、ラッチ4の係合部41に係合してラッチ4の係合位置から離脱位置への回動を阻止する爪部51が設けられる。
【0016】
バックドアDが閉じられると、ストライカ3がベースプレート2及びカバー部材6のストライカ進入溝23及び61に進入してラッチ4の係合溝43に噛合する。これにより、ラッチ4は、ラッチ軸8に巻装されたバネ10の付勢力に抗して、図5に示す離脱位置から時計方向へ回動して図4に示す係合位置に回動し、ラチェット5は、ラチェット軸9に巻装されたバネ11の付勢力により回動して爪部51がラッチ4の係合部41に係合することで、ラッチ4の係合位置から離脱位置への回動を阻止してバックドアDを閉鎖状態に拘束する。
【0017】
図4、5に示すように、ベースプレート2のベース部21には、ストライカ進入溝23の縁に沿うように、平面視ほぼL字状の補強ビード24が設けられる。補強ビード部24は、ベース部21の平面から上方へ隆起し、ラッチ4とストライカ3間に大きな荷重が作用した場合、ストライカ進入溝23の周囲の変形を抑止してベース部21におけるストライカ進入溝23の周囲を補強するものである。
【0018】
補強ビード24は、ストライカ進入溝23の左縁(図3においては右縁)及び当該左縁に近接する縁部にあって、ストライカ進入溝23の開口側からストライカ3の進入方向に延出する前後方向のビード部と、当該ビード部の後端側から右方(図3においては左方)へ90度屈曲してストライカ進入溝23の奥端に近接する左右方向のビード部243とを連続形成している。
【0019】
補強ビード24における前後方向のビード部は、ストライカ進入溝23の開口側に近い位置にあって、ラッチ4のアーム部42の先端部421を受け止め可能な片側ビード部241と、当該片側ビード部241の後端に連設される両側ビード部242とを有する。両側ビード部242の後端には、凸状の左右方向のビード部243が繋がる。
【0020】
片側ビード部241は、主に図6に示すように、補強ビード24の長手方向(前後方向)に沿って両側のうち、ストライカ進入溝23の縁を向く側に段差を有しないで当該側の反対側に段差aを有する形状である。両側ビード部242は、図8に示すように、補強ビード24の長手方向に沿って両側に段差b、cを有する凸状の形状である。
【0021】
主に図7に示すように、補強ビード24の長手方向の前端、すなわち片側ビード部241の前端に形成される段差dは、ラッチ4が係合位置にあるときアーム部42の先端部421と重なる位置に設定される。また、片側ビード部241の後端の段差e、すなわち両側ビード部242との境部は、ラッチ4のアーム部42の先端部421が重ならないように、係合位置にあるラッチ4のアーム部42の先端部421よりも後方に設定される。
なお、本実施形態において、片側ビード部241の後端の段差eを、係合位置にあるラッチ4のアーム部42の先端部421と重ならない位置に設定したが、本発明は、これに限定されるものでなく、片側ビード部241の後端の段差eを、係合位置にあるラッチ4のアーム部42の先端部421と重なる位置に設定しても良い。
【0022】
図4に示すように、ラッチ4が係合位置にある場合には、ラッチ4のアーム部42はストライカ進入溝23を跨いで、先端部421は、ベース部21における補強ビード24における片側ビード部241上で、かつ片側ビード部241の前端の段差dに重なる位置にある。さらに、図6に示すように、先端部421の左端は、片側ビード241部の段差aよりも左方へ若干突出している。また、ラッチ4の係合部41は、図4に示すように、補強ビード24の左右方向のビード部243に重なる位置にある。
【0023】
車両の衝突によりラッチ4と当該ラッチ4に噛合しているストライカ3間に大きな荷重が作用して、ラッチ軸8が傾こうとしたり、ラッチ4自体が変形しようとしたりすると、アーム部42の先端部421がベース部21における補強ビード24の片側ビード部241上に当接して、ベース部21におけるストライカ進入溝23の左縁を含む近傍の領域を下方へ向けて変形させる力が作用する。
【0024】
この場合、本実施形態においては、ラッチ4のアーム部42の先端部421が当接する部分は、補強ビード24の片側ビード部241上で、かつ片側ビード部241のうち最も強度的に優れた長手方向の前端の段差d上であるので、片側ビード部241に対して下向きの力が作用したときの片側ビード部241の変形を最小限に抑えることができる。これにより、ラッチ強度の向上を図ることができる。
【0025】
さらに、片側ビード部241の後端にストライカ進入溝23の左縁に沿って両側ビード部242を連続形成したことにより、両側ビード部242をもって、片側ビード部241及びストライカ進入溝23の周辺の変形を効果的に抑止して、ラッチ強度をより向上させることができる。
【0026】
図9は、本発明の他の実施形態を示す。他の実施形態は、ベースプレート2に設けられる上方へ隆起する補強ビード240以外は前記実施形態と同一であるので、補強ビード240以外については前記実施形態と同一符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0027】
他の実施形態における補強ビード240は、ベース部21のストライカ進入溝23の周囲を囲むように形成され、ベース部21におけるストライカ進入溝23の左縁に沿って設けられる片側ビードの第1ビード部240aと、ストライカ進入溝23の奥端からストライカ進入溝23の右側へ延出する第2ビード部240bとを連続して形成される。第1ビード部240aの長手方向の前端に形成される段差fは、前記実施形態と同様に係合位置にあるラッチ4のアーム部42の先端部421が重なる位置に設定される。第2ビード部240bは、ラッチ軸8が支持される部分及びラッチ4の前部が当接可能な部分を含むように延設される。
なお、他の実施形態においては、第1ビード部240a及び第2ビード部240bによって、ストライカ進入溝23全体の強度向上を図ることができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、本実施形態に対して、次のような種々の変形や変更を施すことが可能である。
(i)ドアラッチ装置1が取り付けられるドアを、バックドアDに代えて、トランクリッド、サイドドアまたはスライドドアとする。
(ii)ドアラッチ装置1を車体B側に設け、ストライカ3をドア側に設ける。
【符号の説明】
【0029】
1 ドアラッチ装置
2 ベースプレート
3 ストライカ
4 ラッチ
5 ラチェット
6 カバー部材
7 ブラケット
8 ラッチ軸
9 ラチェット軸
10 バネ
11 バネ
21 ベース部
22 フランジ部
23 ストライカ進入溝
24 補強ビード
41 係合部
42 アーム部
43 係合溝
51 爪部
61 ストライカ進入溝
240 補強ビード
240a 第1ビード部
240b 第2ビード部
241 片側ビード部
242 両側ビード部
243 左右方向のビード部
421 先端部
B 車体
D バックドア
a、b、c、d、e、f 段差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体またはドアのいずれか一方に固定され、前記ドアの閉鎖時に他方のストライカが進入可能なストライカ進入溝を有するベース部に、各軸をもって、前記ストライカと係脱可能なラッチと、該ラッチと係合し前記ラッチの回動を阻止するラチェットとをそれぞれ枢支し、前記ストライカに係合した係合位置にある前記ラッチのアーム部が前記ストライカ進入溝を跨いで前記アーム部の先端部が前記ベース部における前記ストライカ進入溝の縁に近接する縁部に重なると共に、前記ベース部の前記縁部に、前記ストライカ進入溝の縁に沿うように延設され、かつ前記アーム部の前記先端部が当接可能な補強ビードを設けたドアラッチ装置において、
前記補強ビードは、長手方向の端の段差が前記係合位置にある前記ラッチの前記先端部と重なる位置にあって、当該位置から前記ストライカ進入溝の奥端へ向けて延出することを特徴とするドアラッチ装置。
【請求項2】
前記補強ビードは、前記係合位置にある前記ラッチの前記先端部が重なる領域を前記ストライカ進入溝を向く側に段差を有しないで当該側の反対側に段差を有する片側ビード部とし、前記ラッチの前記先端部が重ならない領域を長手方向に沿って両側に段差を有する両側ビード部として、前記片側ビード部と前記両側ビード部とを連続して形成したことを特徴とする請求項1記載のドアラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−97490(P2012−97490A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247032(P2010−247032)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000148896)三井金属アクト株式会社 (127)
【Fターム(参考)】