説明

ドップラセンサ

【課題】 誤検出が抑えられるドップラセンサを提供する。
【解決手段】 送受信回路1が出力し送信信号の周波数と受信信号の周波数との差の周波数を有するドップラ信号を高速フーリエ変換するFFT部22と、FFT部22の出力において所定のノイズ判定時間以上にわたって振幅が所定のノイズ判定振幅以上であり続けている周波数であるノイズ周波数が存在する場合には、ノイズ周波数のうち最も低い周波数である除去対象周波数の成分を少なくとも減衰させるようにドップラ信号を整形した整形信号を生成して出力し、ノイズ周波数が存在しない場合には、ドップラ信号をそのまま整形信号として出力する信号整形部23と、信号整形部23が出力した整形信号に基いて検出範囲に移動物体が存在するか否かを判定する判定部24とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドップラセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばミリ波のような電波(送信波)を検出範囲に照射するとともに、検出範囲で反射された電波(反射波)を受信し、送信波と反射波とから得られるドップラ信号を用いて人体等の移動体を検出するドップラセンサが提供されている。この種のドップラセンサは、例えば、人体の検出に応じて光源の点灯・消灯を切り替える照明システムにおいて、人体の検出に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
人体を検出するセンサしては他には例えば人体から放射される熱線を検出する熱線センサがあるが、ドップラセンサは熱線センサに比べて遠距離の人体を検出することができるという利点があるため、天井が高い建物内で天井に取り付けられるような使用形態に適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−238272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ドップラセンサ自体が振動すると、静止した物体とドップラセンサとの間に相対速度が発生することにより、静止した物体で反射した反射波にもドップラシフトが生じ、実際には人体が存在しないにも関わらず人体が検出されるという誤検出が発生する可能性がある。
【0006】
また、上記のようにドップラセンサが天井に取り付けられて用いられる場合であって、天井の下側にダクトが露出して配設されている場合、ダクトによる死角が発生することを避けるためにドップラセンサは天井面から吊下げ支持されることがあり、このような場合には特に上記のような誤検出が発生しやすくなる。
【0007】
本発明は、上記事由に鑑みて為されたものであり、その目的は、誤検出が抑えられるドップラセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明は、所定の検出範囲に電波を送信するとともに検出範囲からの電波を受信し検出範囲に存在する移動物体との距離の変化速度に応じた周波数のドップラ信号を含む出力を生成する送受信回路と、送受信回路の出力を解析して検出範囲における移動物体の有無を判定する信号処理回路とを備え、送受信回路は、所定の周波数の送信信号を生成する発振器と、送信信号が変換された電波である送信波を検出範囲に対して送信する送信アンテナと、送信アンテナから送信された送信波が検出範囲において反射された電波である反射波を受信して受信信号に変換する受信アンテナと、発振器が出力した送信信号と受信アンテナが出力した受信信号とを混合して送信信号の周波数と受信信号の周波数との差の周波数を有するドップラ信号を信号処理回路に出力するミキサとを有し、信号処理回路は、送受信回路が出力したドップラ信号を高速フーリエ変換するFFT部と、FFT部の出力において所定のノイズ判定時間以上にわたって振幅が所定のノイズ判定振幅以上であり続けている周波数であるノイズ周波数が存在する場合には、ノイズ周波数のうち最も低い周波数である除去対象周波数を得るとともにドップラ信号において除去対象周波数の成分を少なくとも減衰させるようにドップラ信号を整形した整形信号を生成して出力し、ノイズ周波数が存在しない場合には、ドップラ信号をそのまま整形信号として出力する信号整形部と、信号整形部が出力した整形信号に基いて検出範囲に移動物体が存在するか否かを判定する判定部とを有することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、ノイズ周波数が存在する場合にはノイズ周波数のうち最も低い周波数である除去対象周波数の成分が少なくとも減衰するようにドップラ信号が整形された整形信号に基いて移動物体の存否が判定されるので、常にドップラ信号がそのまま判定に用いられる場合に比べ、ドップラセンサ自体の振動による誤検出が抑えられる。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、信号整形部は、ノイズ周波数が存在する場合には、除去対象周波数の逆数であるノイズ周期を用い、整形信号の強度を、送受信回路がノイズ周期前に出力したドップラ信号の強度Vpcと、送受信回路が出力したドップラ信号の強度のノイズ周期分の平均値Vavとの差(Vpc−Vav)を、最新のドップラ信号の強度Vorから減じた強度(Vor−Vpc+Vav)とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、ノイズ周波数が存在する場合にはノイズ周波数のうち最も低い周波数である除去対象周波数の成分が少なくとも減衰するようにドップラ信号が整形された整形信号に基いて移動物体の存否が判定されるので、常にドップラ信号がそのまま判定に用いられる場合に比べ、ドップラセンサ自体の振動による誤検出が抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示すブロック図である。
【図2】FFT部の出力の一例を示す説明図である。
【図3】整形信号の波形の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
本実施形態は、図1に示すように、所定の検出範囲(図示せず)に電波を送信するとともに検出範囲からの電波を受信し検出範囲に存在する移動物体(図示せず)との距離の変化速度に応じた周波数のドップラ信号を含む出力を生成する送受信回路1と、送受信回路1の出力を解析して検出範囲における移動物体の有無を判定する信号処理回路2とを備える。
【0015】
具体的に説明すると、送受信回路1は、所定の周波数の送信信号を生成する発振器11と、送信信号が変換された電波である送信波を検出範囲に対して送信する送信アンテナ12と、送信アンテナ12から送信された送信波が検出範囲において反射された電波である反射波を受信して受信信号に変換する受信アンテナ13と、発振器11が出力した送信信号と受信アンテナ13が出力した受信信号とを混合(乗算)した混合信号を生成するとともに送信信号の周波数と受信信号の周波数との差の周波数を有するドップラ信号を混合信号から抽出して信号処理回路2に出力するミキサ14とを有する。つまり、ミキサ14は、混合信号において送信信号の周波数と受信信号の周波数との和の周波数の成分を選択的に減衰させることでドップラ信号を抽出して出力するローパスフィルタを含む。送信信号の周波数は例えば24GHzである。
【0016】
信号処理回路2は、送受信回路1のミキサ14が出力したドップラ信号を増幅して出力する増幅部21を有する。増幅部21は、送信信号の周波数と受信信号の周波数との差の周波数に相当する比較的に低い周波数に対して増幅率が高いという特性を有しており、これによりS/N比が改善される。また、信号処理回路2は、増幅部21が出力したドップラ信号を高速フーリエ変換するFFT部22と、増幅部21の出力とFFT部22の出力とに応じた整形信号を出力する信号整形部23と、信号整形部23が出力した整形信号に基いて検出範囲に移動物体が存在するか否かを判定する判定部24とを有する。
【0017】
具体的には、信号整形部23は、入力段にA/D変換回路(図示せず)を有しており、このA/D変換回路によってA/D変換されたドップラ信号の強度(電圧値)の履歴を、所定の保存時間分記憶し随時更新している。さらに、信号整形部23は、FFT部22の出力を随時参照し、FFT部22の出力において各周波数の振幅|V|をそれぞれ所定のノイズ判定振幅Vthと比較し、振幅|V|がノイズ判定振幅Vth以上である周波数が存在する場合にはその周波数について振幅|V|がノイズ判定振幅Vth以上となった回数を計数する。そして、所定のノイズ判定回数以上にわたって振幅がノイズ判定振幅以上であり続けている周波数(以下、「ノイズ周波数」と呼ぶ。)が少なくとも1個存在する場合には、ノイズ周波数のうち最も低いものを除去対象周波数とし、除去対象周波数の逆数(すなわち周期)をノイズ周期Ta(図3参照)とする。つまり、信号整形部23がFFT部の出力を参照する周期、言い換えるとFFT部22の出力の周期(窓関数の幅)に、上記のノイズ判定回数を乗じたものが、請求項におけるノイズ判定時間になるのであり、このノイズ判定時間は例えば10秒である。例えば、図2のように2個の周波数fa,fbでそれぞれノイズ判定回数にわたって振幅|V|がノイズ判定振幅Vthを上回った場合、より低い周波数faの逆数1/faが上記のノイズ周期Taとされる。
【0018】
信号整形部23は、上記のようなノイズ周波数が存在せずノイズ周期Taが得られない期間には、図3のタイミングt1以前のように、増幅部21が出力したドップラ信号の強度(電圧値)Vorをそのまま整形信号の強度Vとして出力する。一方、信号整形部23は、ノイズ周波数が存在しノイズ周期Taが得られている期間には、図3のタイミングt1以後のように、増幅部21がノイズ周期Ta前に出力したドップラ信号の強度Vpcと、増幅部21が出力したドップラ信号の強度のノイズ周期Ta分の平均値(つまり長さがノイズ周期Taの期間であって最新の期間内での平均値であり、いわゆる単純移動平均)Vavとの差(Vpc−Vav)を、最新のドップラ信号の強度Vorから減じた強度(Vor−Vpc+Vav)を演算してこれを整形信号の強度Vとする。つまり、ドップラ信号において上記のノイズ判定時間(例えば10秒)にわたって周期的に繰り返されている成分は送受信回路1自体の振動に起因するノイズであると見なして、これを上記演算によってドップラ信号から除去するのである。
【0019】
判定部24は、信号整形部23が出力した整形信号の強度(以下、「整形強度」と呼ぶ。)Vの履歴を、新しいものから所定の監視期間(例えば5秒間)分だけ記憶して随時更新している。さらに、判定部24は、監視期間分の整形強度の平均値(いわゆる単純移動平均。以下、「監視平均強度」と呼ぶ。)Vmと、整形強度Vの上側ピーク値(すなわち、増加から減少に転じる直前の整形強度Vの値)の監視期間内での平均値Vuと整形強度Vの下側ピーク値(すなわち、減少から増加に転じる直前の整形強度Vの値)の監視期間内での平均値Vlとの差の半分(以下、「監視平均振幅」と呼ぶ。)Vp=(Vu−Vl)/2と、監視平均振幅Vpの1.5倍と監視平均強度Vmとの和である存在判定閾値Vb=Vm+1.5Vpとを随時演算するとともに、得られた存在判定閾値Vbと最新の整形強度Vとを随時比較し、最新の整形強度Vが存在判定閾値Vb以上であれば移動物体が存在すると判定し、最新の整形強度Vが存在判定閾値Vb未満であれば移動物体が存在しないと判定して、判定結果に応じた電圧値の判定信号を出力する。
【0020】
判定部24が出力する判定信号に示された判定結果は、例えば、電気的な光源をオンオフする照明制御システム(図示せず)において、光源が消灯した状態で移動物体(主に人体)が存在すると判定されたときに光源の点灯を開始させ、その後に移動物体が存在すると判定されない状態が所定の点灯保持時間だけ継続したときに光源を消灯させるといった制御に用いられる。増幅部21は、用途に応じて、検出すべき移動物体(例えば人体)の通常の移動速度に応じた周波数の成分を選択的に増幅するように設計される。
【0021】
上記のような送受信回路1及び信号処理回路2の各構成は電子回路を適宜用いて周知技術で実現可能であるので、詳細な図示並びに説明は省略する。
【0022】
上記構成によれば、ドップラ信号において所定のノイズ判定振幅以上の振幅を所定のノイズ判定時間以上にわたって維持しているノイズ周波数が存在する場合には、ノイズ周波数のうち最も低い周波数である除去対象周波数の成分がドップラ信号から除去された整形信号に基いて移動物体の存否が判定されるので、常にドップラ信号がそのまま判定部24に入力されて判定に用いられる場合に比べ、ドップラセンサ(送受信回路1)自体の振動による誤検出が抑えられる。従って、送受信回路1を天井から吊下げ支持するような使用形態に適する。
【0023】
なお、ノイズ周波数が存在する期間における信号整形部23の動作を上記のようなものとする代わりに、周波数特性が可変であってノイズ周波数が存在する期間にはドップラ信号において主に除去対象周波数の成分を減衰させることで整形信号を生成する可変フィルタ(図示せず)を信号整形部23に設けてもよい。上記のような可変フィルタは周知技術で実現可能であるので図示並びに詳細な説明は省略する。
【符号の説明】
【0024】
1 送受信回路
2 信号処理回路
11 発振器
12 送信アンテナ
13 受信アンテナ
14 ミキサ
21 増幅部
22 FFT部
23 信号整形部
24 判定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の検出範囲に電波を送信するとともに検出範囲からの電波を受信し検出範囲に存在する移動物体との距離の変化速度に応じた周波数のドップラ信号を含む出力を生成する送受信回路と、
送受信回路の出力を解析して検出範囲における移動物体の有無を判定する信号処理回路とを備え、
送受信回路は、所定の周波数の送信信号を生成する発振器と、送信信号が変換された電波である送信波を検出範囲に対して送信する送信アンテナと、送信アンテナから送信された送信波が検出範囲において反射された電波である反射波を受信して受信信号に変換する受信アンテナと、発振器が出力した送信信号と受信アンテナが出力した受信信号とを混合して送信信号の周波数と受信信号の周波数との差の周波数を有するドップラ信号を信号処理回路に出力するミキサとを有し、
信号処理回路は、送受信回路が出力したドップラ信号を高速フーリエ変換するFFT部と、FFT部の出力において所定のノイズ判定時間以上にわたって振幅が所定のノイズ判定振幅以上であり続けている周波数であるノイズ周波数が存在する場合には、ノイズ周波数のうち最も低い周波数である除去対象周波数を得るとともにドップラ信号において除去対象周波数の成分を少なくとも減衰させるようにドップラ信号を整形した整形信号を生成して出力し、ノイズ周波数が存在しない場合には、ドップラ信号をそのまま整形信号として出力する信号整形部と、信号整形部が出力した整形信号に基いて検出範囲に移動物体が存在するか否かを判定する判定部とを有することを特徴とするドップラセンサ。
【請求項2】
信号整形部は、ノイズ周波数が存在する場合には、除去対象周波数の逆数であるノイズ周期を用い、整形信号の強度を、送受信回路がノイズ周期前に出力したドップラ信号の強度Vpcと、送受信回路が出力したドップラ信号の強度のノイズ周期分の平均値Vavとの差(Vpc−Vav)を、最新のドップラ信号の強度Vorから減じた強度(Vor−Vpc+Vav)とすることを特徴とする請求項1記載のドップラセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−223623(P2010−223623A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68755(P2009−68755)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】