説明

ドデカトリエナールの単離法、及びその香料としての使用

本発明は、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ有する、少なくとも1つの化合物の製造方法に関し、本方法は少なくとも以下の工程:(a1)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する環状オレフィンを少なくとも含む組成物(A)を、一酸化二窒素により酸化して、組成物A1を得る工程、(a2)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの環状オレフィンを、工程(a1)から得られる組成物(A1)から分離して、組成物(A2)を得る工程、(b1)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を有する少なくとも1つの環状化合物を、工程(a2)から得られる組成物(A2)から分離して、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物を含有する組成物(B1)を得る工程、を含み、ここでZは1、2、3、又は4である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物の製造方法に関し、本方法は少なくとも以下の工程:
(a1)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する環状オレフィンを少なくとも含む組成物(A)を、一酸化二窒素により酸化して、組成物(A1)を得る工程、ここでこの組成物(A1)は少なくとも
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物、
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの環状オレフィン、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物、
を含有し、
(a2)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの環状オレフィンを、工程(a1)から得られる組成物(A1)から分離して、組成物(A2)を得る工程、ここでこの組成物(A2)は少なくとも、
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物
を含有し、
(b1)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物を、工程(a2)から得られる組成物(A2)から分離して、組成物(B1)を得る工程、ここでこの組成物(B1)は、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物
を少なくとも50質量%含有する
を有するものであり、ここでZは1、2、3、又は4である。本発明はさらに、4,8,11−ドデカトリエナール、及び、1,5,9−シクロドデカトリエンを含む混合物、並びにこの混合物の、匂い物質としての使用、例えば香水、化粧品、石鹸、洗浄剤、シャンプー、栄養剤、衛生用品、又は医薬品における使用に関する。
【0002】
アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する化合物を匂い物質として用いる使用、若しくは当該化合物の製造方法は、従来技術から既に公知である。
【0003】
匂い物質として使用される、C−C二重結合を少なくとも2つ有する市販の限られたアルデヒドは、以下のイメージに示されており、大括弧により慣用名が示されている(これについては、H. Surburg, J. Panten, "Common Fragrance and Flavor Materials", 5th ed., Wiley-VCH (2006)参照)。
【化1】

【0004】
日本国特許出願(公開番号、S62-16412及びS62-12735)には、2E,4E(又は4Z)−2,4,11−ドデカトリエナールの製造法が開示されており、ここでは2E−(又は2Z)−ドデカナールを相応するWittig試薬と反応させて、所望の生成物のジエチル完全アセタール(Diethylvollacetal)を得る。完全アセタールの酸加水分解により、相応するアルデヒドが得られる。
【0005】
Blank et al., J. Agric. Food Chem. 2001 , 49, 2959-2965は、アラキドン酸の酸化による(E,Z,Z)−2,4,7−トリデカトリエナールの製造方法、及びその不飽和アルデヒドの芳香剤としての使用を開示している。
【0006】
Ran et al.は"Tetrahedron Letters 45 (2004), 7851-7853"で、2E,4E,6E−ドデカトリエナールの製造方法を開示している。この方法は、2E,4E−デカジエナールのレジオ選択性連鎖延長に基づく。
【0007】
Bohlmann et al.は"Liebigs Ann. Chem. 1982, 1216〜1218p"で、(2E,4Z)−2,4,11−ドデカトリエン−1−アールの製造法を開示しており、この方法は、1,7−オクタジエンベースの相応するホスホリライド(Phosphorylid)と、フマルアルデヒド酸エチルエステルとの反応、及び後続のアルデヒド官能基へのエステル官能基の還元によるものである。
【0008】
4,8,11−ドデカトリエナールは適切な合成による説明が困難であるため、これまで文献にその合成法は記載されていない。直鎖状の不飽和アルデヒドは有用な匂い物質として公知である(H. Surburg, J. Panten, "Common Fragrance and Flavor Materials" Wiley-VCH, 5th edition, 2006, 15〜16p)。
【0009】
よって本発明の課題は、7〜16個のC原子を有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、環状又は非環状の化合物を高収率、高純度で入手可能な方法を提供することである。本発明のさらなる課題は、7〜16個のC原子を有する環状ケトンを製造するための既存のプラント若しくは装置を、付加的な装置構成をできるだけ少なく保ったままで更に利用可能なことである。
【0010】
この課題は本発明により、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物の製造方法により解決され、本方法は少なくとも以下の工程:
(a1)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する環状オレフィンを少なくとも含む組成物(A)を、一酸化二窒素により酸化して、組成物(A1)を得る工程、ここでこの組成物(A1)は少なくとも
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物、
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの環状オレフィン、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物、
を含有し、
(a2)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの環状オレフィンを、工程(a1)から得られる組成物(A1)から分離して、組成物(A2)を得る工程、ここでこの組成物(A2)は少なくとも、
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物、
を含有し、
(b1)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物を、工程(a2)から得られる組成物(A2)から分離して、組成物(B1)を得る工程、ここでこの組成物(B1)は、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物
を少なくとも50質量%含有する、
を有するものであり、ここでZは1、2、3、又は4である。
【0011】
意外なことにとりわけ、使用出発化合物よりも環の数が1つ少ない(Z−1個の環を有する)アルデヒドは、上記出発原料を一酸化二窒素で酸化することにより、高純度かつ良好な収率で得られることが判明した。好ましい実施態様では、本発明による方法により製造可能な、Z−1個の環と7〜16個の炭素原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ有する化合物は、1つのアルデヒド基を有する。
【0012】
本発明による方法によって、とりわけZ−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒドを少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する化合物が、例えば少なくとも95%の純度、好ましくは少なくとも98%の純度で得られる。純度は当業者に公知の方法、例えばガスクロマトグラフィーによって測定可能である。本発明による方法のさらなる利点は、既存のプラントと容易に組み合わせられることであり、これによりコストのかかる改造は必要ない。
【0013】
以下、本発明による方法のそれぞれの工程を詳しく記載する。
【0014】
工程(a1)
(a1)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する環状オレフィンを少なくとも含む組成物(A)を、一酸化二窒素により酸化して、組成物(A1)を得る工程、ここでこの組成物(A1)は少なくとも
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物、
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの環状オレフィン、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物、
を含有する。
【0015】
工程(a1)による反応は一般的に、オレフィンと一酸化二窒素を相互に反応させるあらゆる方法実施で行うことができる。
【0016】
本発明による方法の工程(a1)では、環状オレフィンを一酸化二窒素との反応によって酸化させる。この際、環状オレフィンと一酸化二窒素との反応には、少なくとも1つの適切な溶剤又は希釈剤が使用できる。そのような溶剤や希釈剤はとりわけ、環状アルカン、例えばシクロドデカン又はシクロドデカノン、又は飽和脂肪族若しくは飽和芳香族の、場合によりアルキル置換された炭化水素基を挙げることができ、ここで基本的にあらゆる慣用の溶媒及び/又は希釈剤が適しているが、ただし、これらはC−C二重結合も、C−C三重結合も、アルデヒド基も有していない。
【0017】
一般的に、環状オレフィンと一酸化二窒素との反応の際には、溶剤又は希釈剤の添加は必要ではない。
【0018】
環状オレフィンと一酸化二窒素との反応の際の温度は、好ましくは140〜350℃、さらに好ましくは180〜320℃、徳に好ましくは200〜300℃である。
【0019】
環状オレフィンと一酸化二窒素との反応は、2つ又はそれより多い温度で、若しくは2つ又はそれより多い温度範囲で行うことができるが、これらの温度はそれぞれ上記範囲内にある。反応経過における温度変化は、連続的に、又は非連続的に行うことができる。
【0020】
環状オレフィンと一酸化二窒素との反応の際の圧力は好ましくは、1つ又は複数の選択された反応温度における出発原料若しくは生成混合物の原圧よりも高い。圧力は好ましくは1〜1000bar、さらに好ましくは40〜325bar、特に好ましくは50〜200barである。
【0021】
環状オレフィンと一酸化二窒素との反応は、2つ又はそれより多い圧力、若しくは2つ又はそれより多い圧力範囲で行うことができるが、これらの圧力はそれぞれ上記範囲内にある。反応経過における圧力変化は、連続的に、又は非連続的に行うことができる。
【0022】
環状オレフィンと一酸化二窒素との反応に使用可能な反応器について、特に制限はない。反応はとりわけ、バッチ運転法又は連続運転法で行うことができる。従って例えば反応器として、少なくとも1つの内部及び/又は外部の熱交換器を有する少なくとも1つのCTSR(Continuous Stirred Tank Reactor)、少なくとも1つの管型反応器、少なくとも1つの管束型反応器、又は少なくとも1つのループ型反応器が使用できる。同様にまた、これらの反応器の少なくとも1つが、少なくとも2つの異なるゾーンを有するように構成されていてよい。このようなゾーンは例えば、反応条件、例えば温度又は圧力、及び/又はゾーンの形状、例えば体積若しくは断面が異なり得る。2つ又はそれよい多い反応器で反応を行う場合、2つ又はそれより多い同一タイプの反応器、又は少なくとも2つの異なるタイプの反応器が使用できる。
【0023】
環状オレフィンと一酸化二窒素との反応は好ましくは、唯一の反応器で行うことができる。反応は例えば好ましくは、連続的な運転法で行う。適切な反応器は例えば、未公開の特許出願EP 09151002.4に記載されている。
【0024】
環状オレフィンと一酸化二窒素との反応の際、少なくとも1つの反応器内での反応物の滞留時間は、一般的に最大20時間、好ましくは0.1〜20時間の範囲、さらに好ましくは0.2〜15時間の範囲、及び特に好ましくは0.25〜10時間の範囲である。
【0025】
一酸化二窒素と環状オレフィンとの反応に添加されるフィードは、一酸化二窒素対環状オレフィンのモル比の値が、一般的に0.05〜4の範囲、好ましくは0.06〜1の範囲、さらに好ましくは0.07〜0.5の範囲、特に好ましくは0.1〜0.4の範囲である。
【0026】
Z個の環と7〜16個のC原子を戸有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する環状オレフィンと一酸化二窒素との反応は、環状オレフィンの反応率が、最大50%の範囲、好ましくは5〜30%の範囲、とりわけ好ましくは10〜20%の範囲に達するように行う。
【0027】
本発明によって、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する基本的にあらゆる環状オレフィン、又はZ個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合をそれぞれ少なくとも2つ有する、2つ以上の異なる環状オレフィンからの混合物を、一酸化二窒素と反応させることができる。
【0028】
本発明によれば「Z個の環」という表現は、相応して記載された化合物が、Z個の数の環状単位を有することを意味する。本発明によればZは1、2、3、又は4であり、例えば好ましい化合物(I)〜(VIII)、及び(XI)に対してZは1であり、好ましい化合物(IX)及び(X)に対して、Zは2である。特に好ましい場合、Zは1であり、これにより本発明による方法によって特に好ましい非環状化合物(Z=1、よってZ−1=0)、すなわち環を有さず、7〜16個のC原子を有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する化合物が製造される。
【0029】
環状オレフィンは好ましくは、本発明によれば2つ、3つ、又は4つのC−C二重結合を有する。
【0030】
よって本発明はさらなる実施態様によればまた、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ有する化合物を製造するための上記方法に関し、ここで環状オレフィンは、C−C二重結合を3つ有する。
【0031】
本発明は好ましくはまた、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンが、1,5−シクロオクタジエン、1,5−シクロドデカジエン、1,9−シクロヘキサデカジエン、1,8−シクロテトラデカジエン、1,6−シクロデカジエン、1,6,11−シクロペンタデカトリエン、1,5,9−シクロドデカトリエン、ビニルシクロヘキセン、ノルボルナジエン、エチリデンノルボルネン、及びこれらの混合物から成る群から選択されている、本発明による方法に関する。1,5−シクロオクタジエン、1,5−シクロドデカジエン、1,9−シクロヘキサデカジエン、1,8−シクロテトラデカジエン、1,6−シクロデカジエン、1,6,11−シクロペンタデカトリエン、1,5,9−シクロドデカトリエン、及びビニルシクロヘキセンは、1つの環を有し、よってこれらの場合には、Zは1である。ノルボルナジエンとエチリデンノルボルネンの場合、Zは2である。
【0032】
1,5−シクロオクタジエン(I)、1,5−シクロドデカジエン(II)、1,9−シクロヘキサデカジエン(III)、1,8−シクロテトラデカジエン(IV)、1,6−シクロデカジエン(V)、1,6,11−シクロペンタデカトリエン(VI)、1,5,9−シクロドデカトリエン(VII)、1,5,9,13−シクロヘキサデカトリエン(VIII)、ノルボルナジエン(IX)、エチリデンノルボルネン(X)、ビニルシクロヘキセン(XI)を以下に示すが、それぞれあり得る異性体の内の1つしか記載していない。
【化2】

【0033】
特に好ましくは環状オレフィンとして、1,5,9−シクロドデカトリエン(VII)を使用する。1,5,9−シクロドデカトリエンは一般的に、存在し得るあらゆる異性体で使用でき、例えばシス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエン、シス,シス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエン、オールトランス−1,5,9−シクロドデカトリエン、又はオールシス−1,5,9−シクロドデカトリエン、極めて特に好ましくはシス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエンである。本発明による方法ではまた、上記異性体の混合物、とりわけ主にシス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエンを含む異性体混合物を反応させることもできる。
【0034】
従って本発明は好ましい実施態様では、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、二重結合を少なくとも2つ有する環状オレフィンが、シクロドデカトリエン、好ましくは1,5,9−シクロドデカトリエン、特に好ましくはシス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエンである、上記アルデヒドの製造方法に関する。
【0035】
本発明による方法で好適に使用されるシクロドデカトリエンは一般的に、当業者に公知の方法によって得ることができ、好ましい実施態様ではシクロドデカトリエンはブタジエンの三量化によって得られる。
【0036】
よって本発明はさらなる実施態様によればまた、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、二重結合を少なくとも2つ有する環状オレフィンが、ブタジエンの三量化により製造された1,5,9−シクロドデカトリエンである、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する化合物の、上記製造方法に関する。
【0037】
1,5,9−シクロドデカトリエンは例えば、純粋な1,3−ブタジエンの三量化により製造でき、例えばT. Schiffer, G. Oenbrink, "Cyclododecatriene, Cyclooctadiene, and 4-Vinylcyclohexene", in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 6th Edition (2000), Electronic Release, Wiley VCH, 1〜4pに記載されているように製造できる。この方法の範囲では例えば、チーグラー触媒の存在下で三量化の際にシス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエン、シス,シス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエン、及びオールトランス−1,5,9−シクロドデカトリエンが生成し、このことは例えばWeber et al. "Zur Bildungsweise von cis,trans,trans- Cyclododecatrien-(1.5.9) mittels titanhaltiger Katalysatoren" Liebigs Ann. Chem. 681 (1965) 10〜20pに記載されている。シクロドデカトリエンは例えば、チタン触媒又はニッケル触媒を用いた1,3−ブタジエンの三量化により、例えばDE 1283836に記載のように製造できる。
【0038】
基本的には三量化のためのあらゆる適切なチタン触媒が使用できるが、Weber et al.の論文に記載された四塩化チタン/エチルアルミニウムセスキクロリド触媒が特に適している。
【0039】
基本的には三量化のためのあらゆる適切なニッケル触媒が使用できるが、DE 1283836に記載されたビス−シクロオクタジエニルニッケル/エトキシジエチルアルミニウム触媒が特に適している。
【0040】
三量化に使用されるブタジエンはとりわけ、ガスクロマトグラフィーによって測定される純度が好適には、少なくとも99.6%、さらに好適には少なくとも99.65%である。とりわけ好適には、使用される1,3−ブタジエンは検出精度の範囲で1,2−ブタジエンも、2−ブチンも含まない。
【0041】
この三量化からは一般的に、シス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエンを少なくとも95質量%、好適には少なくとも96質量%、さらに好適には少なくとも97質量%含む混合物が得られる。この混合物はとりわけ好適には、シス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエンを約98質量%含む。
【0042】
このシス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエン含有混合物はそのまま、工程(a1)に従って本発明による反応に使用できる。同様に、少なくとも1つの適切な手法、例えば好適には少なくとも1つの蒸留によって、シス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエンを混合物から分離し、工程(a1)に従った反応で使用することができる。
【0043】
本発明による方法の極めて特に好ましい実施態様では、シクロドデカトリエンとして、主にシス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエン、トランス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエン、又はシス,シス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエンを含む異性体混合物を使用する。好適には、シス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエンを異性体混合物に対して60質量%超、さらに好適には70質量%超、とりわけ80質量%超、特に好適には90質量%超、例えば91質量%超、92質量%超、93質量%超、94質量%超、95質量%超、96質量%超、97質量%超、又は98質量%超、含む異性体混合物を使用する。
【0044】
本発明により使用可能なオレフィンは例えば、以下の文献に記載の方法により製造できる:
(I)シクロオクター1,5−ジエンが化合物(VII)の合成の際に副生成物として生じる場合、これは例えばT. Schiffer, G. Oenbrink著、"Cyclododecatriene, Cyclooctadiene, and 4-Vinylcyclohexene", Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 6th Edition (2000), Electronic Release, Wiley VCHに記載されている。
(II)シクロドデカ−1,5−ジエンは例えば、化合物(VII)の触媒還元によって、例えばUS 3,182,093に記載されているように得ることができる。
(III)シクロヘキサデカ−1,9−ジエンは、シクロオクタンのメタセシスにより、例えばEP 1288181に記載されているように得ることができる。
(IV)シクロテトラデカ−1,8−ジエンは、シクロヘプタンのメタセシスにより、例えばS. Warwel, H. Kaetker, Synthesis (1987) (10), 935-7に記載されているように得ることができる。
(V)シクロデカ−1,6−ジエン、好適にはシス,シス異性体は、シス,トランス−シクロデカ−1,5−ジエンの異性体化により得ることができ、例えばDE 1 230 023に記載されている。
(VI)シクロペンタデカ−1,6,11−トリエンは、シクロペンテンのシクロオリゴマー化により、例えばDD 1 15480に記載されているように得ることができる。
(VII)(I)を参照。
(VIII)シクロヘキサデカ−1,5,9,13−テトラエンは、ブタジエンの三量化により、例えばU. M. Dzhemilev, L. Yu. Gubaidullin, G. A. Tolstikov, Zhurnal Organicheskoi Khimii (1976), 12(1 ), 44-6に記載されているように得ることができる。
(IX)ノルボルナジエンは、シクロペンタジエンとアセチレンとの反応により、例えばUS 2875256に記載されているように得ることができる。
(X)エチリデンノルボルネンは、塩基触媒による5−ビニル−2−ノルボルネンの転位反応により、例えばEP 0 279 397に記載されているように得ることができる。
【0045】
(XI)4−ビニルシクロヘキセンは、ブタジエンそれ自体のジール・アドラー反応(Diels-Alder-Reaktion)により製造でき(化合物(VII)製造の際に副生成物としても生じる)、例えば T. Schiffer, G. Oenbrink著、"Cyclododecatriene, Cyclooctadiene, and 4-Vinylcyclohexene", Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 6th Edition (2000), Electronic Release, Wiley VCH,1-4pに記載されているように製造できる。
【0046】
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する環状オレフィンを少なくとも含有する組成物(A)を、一酸化二窒素により反応させる本発明による工程から組成物(A1)が得られ、この組成物(A1)は少なくとも
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物、
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの環状オレフィン、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物、
を含有する。
【0047】
工程(a1)に従ったシス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエンと一酸化二窒素との本発明による好ましい反応からは一般的に、シクロドデカ−4,8−ジエノン−異性体混合物が生じ、この混合物は、シス,トランス−シクロドデカ−4,8−ジエノン、トランス,シス−シクロドデカ−4,8−ジエノン、及びトランス,トランス,シクロドデカ−4,8−ジエノンのうち少なくとも2つの異性体を、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する環状化合物として含む。
【0048】
本発明によれば好ましくは、このケトンのトランス,シス異性体とシス,トランス異性体がほぼ同量で形成される異性体混合物が得られ、トランス,トランス異性体は他の2つの異性体に比べてほんの僅かな量で形成される。よって典型的な異性体混合物は例えば、上記異性体を約1:1:0.08のモル比で有する。
【0049】
組成物(A1)に含まれる、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物は、量的に本発明による方法の工程(a1)の主生成物である。
【0050】
好ましくは基質として、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、二重結合を3つ有する少なくとも1つの環状化合物を使用するので、量的に好ましい生成物として本発明による方法の工程(a1)で、これらの二重結合のうちの1つを酸化することにより、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、二重結合を2つ、ケト基を1つ有する、少なくとも1つの環状化合物が形成される。本発明による方法の好ましい実施態様では、Z個の環、7〜16個のC原子、及び1つのケト基を有する当該環状化合物をさらなる後続の段階で水素化して、7〜16個のC原子と、ケト基、とりわけシクロドデカノンを有する少なくとも1つの飽和環状化合物にする。
【0051】
組成物(A1)は本発明の範囲では、Z個の環、7〜16個のC原子、及び1つのケト基を有する少なくとも1つの環状化合物を、一般的に5質量%超の量、好ましくは10質量%超の量、好適には10〜90質量%の量、とりわけ11〜50質量%の量、特に好適には12〜40質量%の量、とりわけ好適には13〜30質量%の量、例えば14〜20質量%の量、又は15〜18質量%の量で含む。
【0052】
本発明によれば組成物(A1)中には少なくともまた、
Z個の環と7〜16個のC原子、少なくとも2つのC−C二重結合を有する環状オレフィンが少なくとも1つ、
Z−1個の環と7〜16個のC原子、少なくとも1つのアルデヒド基と少なくとも2つのC−C二重結合を有する環状オレフィンが少なくとも1つ、
存在する。
【0053】
組成物(A1)中に存在する、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンは、酸化前に組成物(A)中で出発化合物として使用されているものと同じ化合物である。よって組成物(A1)中の、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンは、本発明による方法の工程(a1)で酸化されていない出発原料のままである。本発明によれば、組成物(A1)中の、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンは、出発原料として使用されているものと同じ異性体構造で存在しうる。好ましい実施態様では組成物(A1)中、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つのオレフィンについて、工程(a1)で使用される出発原料とはやや異なる異性対比が存在する。このことは例えば、個々の異性体の様々な反応性に基づき、例えばオールトランス異性体は、シス,トランス,トランス異性体よりも早く反応し、このシス,トランス,トランス異性体は、シス,シス,トランス異性体よりもやや早く反応するからである。
【0054】
組成物(A1)中に存在する、本発明による方法の所望の生成物、すなわち、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ有する少なくとも1つの化合物は、一般的に、出発原料として使用される、二重結合を少なくとも2つ有するオレフィンから、二重結合の酸化開裂により生成する。
【0055】
上記のように、Zは上記化合物中に存在する環の数を表すので、「Z−1個の環」という表現は、本発明による方法の所望の生成物には、Z個の環を有する化合物よりも数が1つ少ない環が存在する。所望の生成物は、本発明によれば開環反応によって得られ、よって出発原料よりも環の数が1つ少なくなる。
【0056】
本発明による方法の工程(a1)ではまた、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ有する、少なくとも1つの化合物が副生成物として形成される。この少なくとも1つの副生成物は、工程(a1)で使用される出発原料と同じ数の環を有する。この少なくとも1つの化合物は好ましくは、環の狭隘化(Ringverengung)により生じるアルデヒド基を少なくとも1つ有する環状化合物である。よって、場合により存在するこの副生成物は、出発原料と同じ数の環を有する。
【0057】
本発明による方法で出発原料として1,5,9−シクロドデカトリエン、とりわけシス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエン(Z=1)を使用する好ましい場合には、本発明による所望の生成物として、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物が、特に好ましくはアルデヒド基を1つ、二重結合を3つ有する非環状化合物の異性体混合物、例えば4,8,11−ドデカトリエナールが得られる。特に好ましくは、シス,トランス−異性体、トランス,シス−異性体、トランス,トランス−異性体を含む4,8,11−ドデカトリエナールの混合物が得られ、例えば50質量%がシス,トランス−異性体、45質量%がトランス,シス−異性体、5質量%がトランス,トランス−異性体である。シス,トランス−異性体は、化合物(XIII)として下記に示す。
【化3】

【0058】
本発明はまた、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物が、4,8,11−ドデカトリエナールである、本発明による方法に関する。
【0059】
本発明による方法の好ましい実施態様では、工程(a1)で得られる組成物(A1)がさらに、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状化合物を有する。この化合物は、出発原料として使用される、二重結合を少なくとも2つ有するオレフィンから、存在する二重結合のうち2つを一酸化二窒素で酸化することによって生成する。
【0060】
本発明による方法で出発原料として1,5,9−シクロドデカトリエン、とりわけシス,トランス,トランス−1,5,9−シクロドデカトリエンを使用する特に好ましい場合には、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状化合物として、特に好ましくは2つのケト官能基と1つの二重結合を有する環状化合物の異性体混合物が得られ、とりわけシクロドデセンジオン、例えば8−シス−シクロドデセン−1,5−ジオン異性体、9−シス−シクロドデセン−1,6−ジオン異性体、8−シス−シクロドデセン−1,4−ジオン異性体、8−トランス−シクロドデセン−1,5−ジオン異性体、8−トランスシクロドデセン−1,4−ジオン異性体、及び9−トランスシクロドデセン−1,6−ジオン異性体の混合物が、例えば大まかな比で38:19:19:12:6:6で得られる。主な異性体として形成される8−シス−シクロドデセン−1,5−ジオンは、化合物(XII)として表される。
【化4】

【0061】
上記所望の生成物、上記副生成物、及び未反応の出発原料の他に、組成物(A1)は通常、さらなる化合物、とりわけ有機化合物、例えば酸素含有基を有する有機化合物、例えばアルコール、アルデヒド、又はエポキシドを有する。ここで有機化合物はとりわけ、組成物(A1)中に含まれている環状アルデヒドのC原子と同じ数のC原子、又はこれとは異なる数のC原子を有していてよい。組成物(A1)中には上記成分に加えて、未反応の一酸化二窒素と、形成された窒素が存在し得る。よって工程(a1)は、特に好ましい実施態様では、以下の工程
(a1)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する環状オレフィンを少なくとも含む組成物(A)を、一酸化二窒素により酸化して、組成物(A1)を得る工程
を有し、ここでこの組成物(A1)は少なくとも
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物、
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの環状オレフィン、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物、
一酸化二窒素と窒素
を含有する。
【0062】
本発明の範囲において工程(a1)で一酸化二窒素は、純粋な形で、又は一酸化二窒素を含むガス混合物の形で使用することができる。
【0063】
本発明による方法の工程(a1)では基本的に、一酸化二窒素を含むあらゆるガス混合物が使用できる。本発明によれば、一酸化二窒素を含むガス混合物を工程(a)で使用する前に精製、又は濃縮することもできる。適切な精製方法は例えば、有機溶剤又は水中へのガス混合物の吸収、負荷された有機溶剤又は負荷された水からのガス混合物の脱着、及びガス混合物中の窒素酸化物NOx含分を、ガス混合物の全体積に対して最大0.01〜0.001体積%に調整することを含む。このような方法は例えば、DE 10 2004 046 167.8に記載されており、その内容については完全に本願の文脈に組み込まれるものとする。
【0064】
ここで使用される一酸化二窒素含有ガス混合物は基本的に、あらゆる任意の供給源に由来し得る。一酸化二窒素供給源としてはとりわけ、WO 2006/032502、WO 2007/060160、WO 2008/071632、及び未公開の出願EP 08153953.8及びEP 08153952.0に記載された方法の排ガスが使用できる。
【0065】
本発明の範囲において用いられる「ガス混合物」という言葉は、周辺圧力及び周辺温度で気体状で存在する2つ又はそれより多い化合物からの混合物をいう。温度や圧力を変えた場合にこのガス混合物は、他のアグリゲート状態(例えば液状)で存在することがあり、本発明の範囲ではこれもガス混合物と呼ぶ。
【0066】
本発明によればまた、様々な排ガスの混合物も使用できる。
【0067】
本発明のさらなる好ましい実施態様によれば、少なくとも一酸化二窒素を含む排ガスは、アジピン酸プラント、ドデカンジ酸プラント、ヒドロキシアミンプラント、及び/又は硝酸プラントに由来し、ここで硝酸プラントは再度、アジピン酸プラント、ドデカンジ酸プラント、グリオキサールプラント、又はヒドロキシアミンプラントの少なくとも1つの排ガスで稼働させるのが好ましい。
【0068】
本発明によれば、ガス混合物は気体状で使用できる。しかしながら、一酸化二窒素含有ガス混合物をまず、ガス混合物若しくは一酸化二窒素を液状又は超臨界状態で存在するように処理し、それから使用することもできる。ガス混合物若しくは一酸化二窒素は、圧力又は温度の適切な選択によって液状化することができる。本発明の範囲では同様に、ガス混合物を溶剤中に溶解させることができる。
【0069】
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンと、一酸化二窒素との反応(工程a1)は、基本的に触媒の存在下で行うことができるが、触媒を添加せずに行うこともできる。
【0070】
工程(a1)で得られる組成物(A1)は、工程(a1)に引き続いて本発明による工程(a2)で処理する。
【0071】
好ましい実施態様では、工程(a1)から得られる組成物(A1)を第一工程(a1b)で放圧し、なお存在する気体状の出発原料又は生成物、例えば未反応のN2O、又は形成されるN2を除去してから、組成物(A1)を工程(a2)で用いる。放圧は当業者に公知の方法、例えば組成物(A1)を減圧空間に移すことによって行うことができる。
【0072】
よって本発明による方法は好ましくは、工程(a1b)を有する。
【0073】
(a1b)一酸化二窒素及び窒素を除去して、一酸化二窒素及び窒素がほとんどない組成物(A1)を得るために、組成物(A1)を放圧する工程。
【0074】
工程(a2):
(a2)工程(a1)から得られる組成物(A1)から、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンを分離して、組成物(A2)を得る工程、この組成物(A2)は、
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物、及び
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物、
を少なくとも含む。
【0075】
本発明による方法の工程(a2)において、工程(a1)における酸化反応で反応していない本発明による方法の出発原料が組成物(a1)から分離され、組成物(A2)が得られる。
【0076】
工程(a2)は当業者に公知の方法で行うことができる。好ましい実施態様において、本発明による方法の工程(a2)では蒸留を行い、未反応の出発原料、すなわちZ個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンを生成物流から分離し、これを好ましくは本発明による方法の工程(a1)に返送する。
【0077】
好ましい実施態様では、工程(a2)における蒸留のために、当業者に公知の充填物を備える単純な蒸留塔を使用する。本発明による方法の工程(a2)における蒸留は、好ましくは真空中、例えば≦1000mbar、好ましくは≦500mbar、特に好ましくは≦300mbarの圧力で行う。出発原料としてC原子を12個有するオレフィン化合物を使用する、本発明による好ましい場合のために、工程(a2)は好ましくは≦120mbar、特に好ましくは≦70mbar、極めて特に好ましくは≦60mbarの圧力で行う。本発明によれば当業者に公知の蒸留塔が使用でき、好ましくは理論分離段を少なくとも20、好ましくは少なくとも25、特に好ましくは少なくとも30有するものを使用する。さらなる好ましい実施態様において、分離段の35〜55%が蒸留塔の分離部に存在する。出発原料としてC原子を12個有するオレフィン化合物を使用する好ましい実施態様において、返送比の値は、1〜2、好ましくは1.2〜1.8である。他の前述の出発原料についても、当業者は返送比を適合させることができる。
【0078】
この蒸留の塔頂生成物としては、ほぼ純粋な出発原料、すなわちZ個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンが得られ、この環状オレフィンは特に好ましい実施態様において、本発明による方法の工程(a1)における基質として返送する。
【0079】
好ましい実施態様において本発明は、工程(a2)で分離された、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンを返送する、本発明による方法に関する。
【0080】
上記蒸留において工程(a2)で得られる塔底生成物は、上記組成物(A2)にほぼ相当する。
【0081】
本発明による所望の生成物(Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物)は、組成物(A2)中に一般的には、0.1〜50.0質量%、好ましくは0.5〜10.0質量%、特に好ましくは1.0〜5.0質量%の量で存在する。
【0082】
組成物(A1)が、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状化合物も含む、本発明による方法の好ましい実施態様では、本発明による方法の工程(a2)で組成物(A2)が得られ、この組成物(A2)は少なくとも
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物、及び
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状化合物
を含む。
【0083】
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状化合物は、好ましい実施態様において組成物(A2)中に一般的には、0.1〜20.0質量%、好ましくは0.5〜10.0質量%、特に好ましくは1.0〜5.0質量%の量で存在する。
【0084】
本発明による方法のさらなる実施態様では工程(a2)を、所望の生成物(Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ有する少なくとも1つの化合物)が上記蒸留塔で側方排出流として得られるように行うこともできる。この際、この工程で分離すべき出発原料、すなわちZ個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つのオレフィンは、工程(a1)の塔頂生成物のままである。側方排出として得られる、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物は、この場合さらに、工程(a1)で未反応の出発原料、すなわちZ個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンを、例えば0.1〜5質量%、好ましくは1〜3質量%の量で含む。側方排出として得られる画分は好ましい実施態様において、所望の生成物を匂い物質に必要な純度で得るため、直接工程(b2)で使用することができる。
【0085】
工程(b1):
本発明による方法の工程(b1)は、以下の工程
(b1)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物を、工程(a2)から得られる組成物(A2)から分離して、組成物(B1)を得る工程、
を有し、ここでこの組成物(B1)は、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物
を少なくとも50質量%含有する。
【0086】
本発明による方法の工程(b1)における、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物の分離は一般的に、当業者に公知のあらゆる適切な精製法によって行うことができる。特に好ましい実施態様において、本発明による方法の工程(b1)における分離は、蒸留により行う。
【0087】
好ましい実施態様において、本発明による方法の工程(b1)は、少なくとも2つの塔で行う。特に好ましい実施態様において、工程(a2)からの組成物(A2)は、第一工程で単純な蒸留塔(T1)で処理する。ここで好ましくは塔頂流(K1)が得られ、この塔頂流(K1)は、基本的にZ−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物から成り、場合によりZ個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物を最大35質量%、好ましくは最大30質量%、特に好ましくは最大25質量%含む。さらに、あらゆる残りの成分、とりわけZ個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの化合物、及びZ個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状化合物をも含み得る塔底流(S1)が得られる。
【0088】
蒸留塔(T1)としては、当業者に適切と知られているあらゆる塔が使用できる。好ましい実施態様において塔(T1)は、理論分離段を少なくとも15、特に好ましくは少なくとも20有する。ここでさらに好ましくは、たいていの分離段、例えば少なくとも50%の分離段が、塔の強化部分に存在する。蒸留塔(T1)における蒸留は好ましくは、大気圧を下回る圧力、例えば、出発原料としてC原子を12個有するオレフィン化合物を用いるとりわけ好ましい場合には、50mbar未満の塔頂圧力、特に好ましくは20mbar未満の塔頂圧力で行う。本発明により使用可能な他の化合物について、当業者は適切な圧力を調べることができる。蒸留塔(T1)での蒸留は、出発原料としてC原子を12個有するオレフィン化合物を用いる好ましい場合、120〜220℃、特に好ましくは150〜200℃の塔底温度で行う。本発明による他の適切な出発原料について蒸留温度は、調整される圧力にも依存して、当業者が選択できる。
【0089】
第一蒸留塔(T1)からの塔底流(S1)は好ましくは、少なくとも1つのさらなる単純な蒸留塔(T2)で処理する。ここで好ましい実施態様では、基本的にZ個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を少なくとも1つ有する少なくとも1つの環状化合物を含有する、塔頂流(K2)が得られる。好ましい実施態様においてこの塔頂流(K2)は、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する化合物をほとんど含まない、すなわち1.0質量%未満、好ましい実施態様では最大0.2質量%しか含まない。本発明による方法の第二の蒸留T2(工程b1)ではさらに、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状化合物と、工程(a1)の酸化による他の副生成物とを含有する塔底流(S2)が得られるが、この塔底流(S2)は、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物を最大40質量%、好ましくは最大25質量%含む。
【0090】
蒸留塔(T2)としては、当業者に適切と知られているあらゆる塔が使用できる。好ましい実施態様では、塔は分離段を少なくとも30、特に好ましくは少なくとも35有する。さらなる好ましい実施態様では、たいていの分離段が分離部に存在し、特に好ましくは少なくとも28の理論分離段が分離部に存在する。蒸留塔(T2)における蒸留は好ましくは、大気圧を下回る圧力、例えば、出発原料としてC原子を12個有するオレフィン化合物を用いる好ましい場合には、≦50mbarの塔頂圧力、特に好ましくは≦25mbarの塔頂圧力で行う。蒸留塔(T2)での蒸留は、C原子を12個有するオレフィン化合物を用いる好ましい場合、120〜220℃、特に好ましくは150〜200℃の塔底温度で行う。本発明による他の適切な出発原料について温度は、調整される圧力にも依存して、当業者が容易に調整できる。
【0091】
本発明によればまた、蒸留塔(T1)及び(T2)は逆の順序で稼働させることができる。すなわち、第一の塔でZ個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を少なくとも1つ有する環状化合物と、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物とを、塔頂を介して分離し、第二の塔でZ−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状化合物を分離することができる。
【0092】
使用される好ましい塔(T1)及び(T2)は例えば、Olujic et al., Chem. Biochem. Eng. Q. 2003, 17, p301〜309に記載されている。本発明による方法の工程(b1)のさらなる好ましい実施態様では、塔(T1)及び(T2)は熱的に相互に連結されており、例えば側方塔を独自の蒸発器や冷却器無しで使用する(ペトリューク制御(Petlyuk-Schaltung))。
【0093】
極めて特に好ましくは、2つの蒸留塔(T1)及び(T2)の代わりに、本発明による方法の工程(b1)で唯一の分離塔を使用する。
【0094】
本発明によれば、本発明による方法の工程(b1)において、当業者により当該分離問題に適切と認められるあらゆる分離塔を使用することができる。適切な分離塔は、Olujic et al., Chem. Biochem. Eng. Q. 2003, 17, p301〜309に挙げられている。
【0095】
好ましい実施態様では、好ましくは少なくとも3つの領域を用いる連続的な分離塔を使用する。好ましくは分離塔は、好ましくは少なくとも2つ、特に好ましくは少なくとも4つの理論床を有する下部領域を備える。さらに好ましくは、使用される分離塔は、理論床を好ましくは少なくとも15、特に好ましくは25有する中央部を有する。さらなる好ましい実施態様では、使用される分離塔は、理論床を少なくとも4つ、特に好ましくは少なくとも7つ有する上部を有する。中央部は好ましくは、真ん中に配置された分離壁によって、入口領域と出口領域に区切られている。
【0096】
さらなる好ましい実施態様において、分離塔は適切な充填物で充填されている。適切な塔充填物は、例えばJ. F. Fair in "Handbook of Separation Process Technology", R. W. Rousseau (Hrsg.), (1987), John Wiley & Sons, p295-312から当業者に公知である。
【0097】
分離塔における蒸留の際の温度を出来る限り低く保てるように、好ましくは大気圧未満の圧力、例えば分離塔内部の圧力が500mbar未満、好ましくは200mbar未満、とりわけ100mbar未満、極めて特に好ましくは50mbar未満で稼働させる。塔底と塔頂の間の圧力差は、好ましくは50mbar未満である。好ましい実施態様において、分離塔における塔頂圧力は0.1〜100mbar、特に好ましくは3〜50mbarである。
【0098】
分離塔では、蒸留を好ましくは150〜220℃の塔底温度、特に好ましくは160〜200℃の塔底温度で行う。これらの値はとりわけ、12個のC原子を有するオレフィン化合物を出発原料として使用する好ましい場合にも通用し、本発明により使用可能な他の出発原料に対して、当業者は適切にその値を適合させることができる。
【0099】
分離塔の塔頂を介して、好ましくは組成物(B1)の低沸点成分を、塔頂流(K3)として分離する。塔頂流(K3)は一般的に、本発明による方法の所望の生成物、すなわち、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物を含む。塔頂流(K3)は一般的に、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物を、少なくとも50質量%、特に好ましくは少なくとも70質量%、極めて好ましくは少なくとも75質量%含む。塔頂流(K3)は所望の生成物に加えてまた、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィン(すなわち工程(a1)で未反応の出発原料)を含むことがあり、場合により、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物を最大35質量%、好ましくは最大30質量%、特に好ましくは最大25質量%含み得る。
【0100】
分離塔の塔底として、好ましくは組成物(A2)の高沸点成分を塔底流(S2)として分離する。好ましい実施態様において塔底流(S2)は、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状化合物と、工程(a1)の酸化に由来する他の副生成物を含む。(S2)は一般的に、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物を、最大40質量%、好ましくは最大25質量%含む。
【0101】
分離塔の側方排出を介して基本的には、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物を含む組成物が得られる。さらにこの組成物中には場合により、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状化合物、及びZ−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物が存在しうる。好ましくは、これら2つの副成分の量が、側方排出で最少になるように蒸留を行う。具体的には側方排出で、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状化合物が0.5質量%未満、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物が1質量%未満、含まれているように蒸留を行う。
【0102】
基本的に所望の生成物(Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物)を含む塔頂流(K3)にはさらに、工程(a1)で未反応の出発原料、すなわちZ個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つのオレフィンが、例えば0.1〜20質量%、好ましくは1〜15質量%の量で存在し得る。本発明による生成物を匂い物質として使用するためには、一般的にZ個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンの含分は、0〜5質量%、好ましくは0〜1質量%、特に好ましくは0〜0.1質量%、極めて特に好ましくは0〜0.05質量%必要である。従って、本発明により塔頂流(K3)として得られる生成物は好ましい実施態様において、以下の工程で精製される。
【0103】
本発明は好ましい実施態様において、工程(b1)で分離された、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物が、C−C二重結合を少なくとも1つ有する、本発明による方法に関する。
【0104】
さらなる好ましい実施態様では本発明はまた、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ、C−C二重結合を少なくとも1つ有する少なくとも1つの環状化合物を、工程(b1)の後に水素化して、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの飽和環状化合物にする、本発明による方法に関する。水素化のための適切な方法は、当業者に公知である。
【0105】
よって本発明は好ましい実施態様において、工程(b1)に引き続いて以下の工程(b2)を行う、本発明による方法に関する。
【0106】
(b2)工程(b1)で得られる組成物(B1)を精製する工程、ここでZ−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物を少なくとも92質量%含む混合物が得られる。
【0107】
本発明による方法の任意の工程(b2)における精製は、当業者に公知のあらゆる方法によって行うことができる。好ましい実施態様では、工程(B2)における精製は、蒸留により行う。この蒸留は連続的に、又は非連続的に(すなわちバッチ法で)行うことができる。工程(b2)における蒸留は好ましくは、バッチ法で行う。
【0108】
特に好ましい実施態様では、本発明による方法の工程(b2)を、設置された塔を備える蒸留釜で行う。塔は特に好ましくは、少なくとも20の分離段を有する。さらなる好ましい実施態様では、本発明による方法の工程(b2)における蒸留は、減圧下、すなわち大気圧未満の圧力で行う。12個のC原子を有するオレフィンを用いる好ましい場合、この蒸留は0.1〜100mbar、極めて特に好ましくは3〜50mbarの塔頂圧で行う。本発明により使用可能な他の出発原料に対して、当業者は蒸留圧力を適切に適合させる必要がある。蒸留をバッチ法で行う場合、一般的にはまず、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンを含む画分を得る。これに引き続き、所望の生成物を相応する純度で含む画分が得られる。
【0109】
本発明による方法の工程(b2)後に混合物が得られ、この混合物は、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物、好ましくは少なくとも1つの4,8,11−ドデカトリエナールを一般的には92〜99.8質量%、好ましくは94〜99.5質量%、特に好ましくは95〜99.2質量%、極め特に好ましくは96〜99質量%含み、かつ、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィン、好ましくは少なくとも1つの1,5,9−シクロドデカトリエンを0.0001〜5質量%、好ましくは0.001〜2質量%、特に好ましくは0.01〜0.5質量%、極めて特に好ましくは0.05〜0.4質量%含む。100質量%に対する残分としては、混合物中にさらになお同定不能な化合物が少量、例えば最大2質量%存在する。Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する化合物の量と、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンの量、及びさらなる同定不能な化合物の量、すなわち本発明による方法に由来する副生成物の量の合計は、その都度100質量%になる。各成分の量の合計は、100質量%を越えることはない。組成物は当業者に公知の方法、例えばガスクロマトグラフィーによって測定可能である。
【0110】
本発明はまた、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状化合物を92〜99.8質量%、好ましくは94〜99.5質量%、特に好ましくは95〜99.2質量%、極めて特に好ましくは96〜99質量%含み、かつ、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンを0.0001〜5質量%、好ましくは0.001〜2質量%、特に好ましくは0.01〜0.5質量%、極めて特に好ましくは0.05〜0.4質量%含む、混合物に関する。これらの成分の量の合計については、先に述べたことが当てはまる。
【0111】
本発明は好ましくは、少なくとも1つの4,8,11−ドデカトリエナールを92〜99.8質量%、好ましくは94〜99.5質量%、特に好ましくは95〜99.2質量%、極めて特に好ましくは96〜99質量%含み、かつ1,5,9−シクロドデカトリエンを0.0001〜5質量%、好ましくは0.001〜2質量%、特に好ましくは0.01〜0.5質量%、極めて特に好ましくは0.05〜0.4質量%含む、混合物に関する。これらの成分の量の合計については、先に述べたことが当てはまる。
【0112】
本発明による混合物は特に好ましくは、(E,Z)4,8,11−ドデカトリエナールを40〜50質量%、(Z,E)4,8,11−ドデカトリエナールを40〜50質量%、(E,E)4,8,11−ドデカトリエナールを0.1〜10質量%、及び1,5,9−シクロドデカトリエンを0.0001〜5質量%含む。これらの成分の量の合計については、先に述べたことが当てはまる。
【0113】
本発明により製造された混合物は、匂い物質として適している。本発明により製造された混合物は、モミの針葉及びモミの木の香りを有する。
【0114】
よって本発明はまた、本発明による混合物の匂い物質としての使用、例えば香水、化粧品、石鹸、洗浄剤、シャンプー、栄養剤、衛生用品、又は医薬品における使用に関する。
【0115】
本発明による混合物は、本発明による適用の際に通常の量、例えば0.0001〜5質量%存在する。本発明による混合物を、匂い物質として単独で存在させることができる。さらにまた本発明による混合物は、さらなる匂い物質との混合物、及び/又はさらなる当業者に公知の添加剤、例えば安定剤、乳化剤、界面活性剤、又は着色剤との混合物で使用できる。
【0116】
本発明による工程(b1)で分離された、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物は、場合により当業者に公知の方法によってさらに処理することができ、その例は例えば水素化、塩基、ブレンステッド酸、及び/又はルイス酸による処理、蒸留処理である。適切な方法は例えば、WO 2008/000757 A1、WO 2008/000756 A1、WO 2005/030690 A2、WO 2008/000754 A1に記載されている。
【0117】
以下、実施例を用いて本発明をより詳しく説明する。
【0118】
実施例:
実施例1:1,5,9−シクロドデカトリエン(CDT)の、N2Oによる酸化
適切な装入容器から適切な供給ポンプによって、1,5,9−シクロドデカトリエン2000g/h、及び液状N2O 68g/hをスタチックミキサによって管型反応器に圧送する(ダブルジャケット管、巻型、内径6mm、長さ36m)。熱媒油をダブルジャケット中に生成物に対して向流で流すことによって、管を280℃に熱的に安定させるが、ここで油の出口温度は油入口温度を2℃未満、上回っている。反応圧力は、圧力弁を介して反応器出口で100barに調節する。反応器出口における1,5,9−シクロドデカトリエンの反応率は、11.3%である。反応ゾーンを通過後、反応混合物は2つの隔離されていない洗浄容器でまず3barに、引き続き60mbarに放圧し、形成されたN2、及び未反応のN2Oを排出する。この際、生成物は100℃未満に冷却される。それからこの液状生成物を、少なくとも7つの理論分離段を有する充填塔で、60mbarで蒸留する(T(塔底)=170℃、T(塔頂)=130℃)。塔頂生成物として、未反応の1,5,9−シクロドデカトリエンが純度>99%で得られ、これは再度反応に返送する。塔底排出物は、やや黄色い液体のみであり、ガスクロマトグラフィー測定によれば表1に記載した組成を有する。
【0119】
【表1】

【0120】
生成物を集め、実施例2で使用する。
【0121】
実施例2:4,8,11−ドデカトリエナールの、粗製物としての単離
実施例1からの生成混合物を蒸留するため、内径64mm、長さ2.6m(これにより充填物の全長が表される)の連続式実験用分離塔を使用する。試験混合物による予備試験では、塔が35の理論分離段を有するように測定した。塔は3つの領域に分かれている。下部領域(段階1〜9)は、長さが0.65mである。中央領域(段階9〜27)は、長さが1.3mであり、中央に設置された分離壁により入口側と出口側に分けられている。入口側には、工程19の高さへの供給管が設置されている。出口側では、工程12の高さで側方流生成物が気体状で排出される。上部領域(段階27〜35)は、長さが0.65mである。塔全体は、充填物で充填されている(Montz A3 750)。蒸留は約44mbarの塔頂圧で行い、充填物による圧力損失は3.6mbarである。滞留時間、ひいては塔底での熱負荷時間を最少にするために、塔底蒸発器としてサンベー蒸発器(wiped film evaporator)を使用する。塔頂温度は137℃、塔底温度は185℃である。供給ポンプによって、蒸留すべき混合物501g/hを供給し、ここでこの混合物を事前に180℃に加熱する。側方流を介して生成物481g/hが得られ、この生成物はガスクロマトグラフィー測定によると、表に記載された組成を有している。
【0122】
【表2】

【0123】
ここで無色の液体は、融点が+1℃である。
【0124】
蒸留の塔底では塔底生成物が暗い黄色〜茶色の液体として6g/h得られ、この液体はガスクロマトグラフィー測定によると、表3に記載された組成を有している。
【0125】
【表3】

【0126】
塔頂では塔頂生成物が14kg/h、無色の液体として得られ、この液体はガスクロマトグラフィー測定によると表4に記載された組成を有している。
【0127】
【表4】

【0128】
記載された流量は、全部で80kgの供給量で稼働させた、連続的な蒸留からの平均値である。
【0129】
側方流生成物はこの後、例えばWO 2005/030690若しくはWO 2008/000754に記載のように、さらに加工してシクロドデカノンにすることができる。
【0130】
塔頂生成物は既に充分に4,8,11−ドデカトリエナールが富化されている。ここで含まれる4,8,11−ドデカトリエナールはさらに、実施例1からの生成混合物となお同じ比で存在する3つの異性体の混合物から成る。
【0131】
実施例3:4,8,11−ドデカトリエナールの精製蒸留
実施例2から得られる塔頂生成物770gを(当該箇所で記載した組成で)、オートメーション化されたバッチ蒸留装置で減圧下、精留する。この装置は、充填物(Sulzer DX、全長3.17m)で満たされた、直径30mm、高さ3.5mの塔を有する。この蒸留は、40mbarの一定の塔頂圧力で行い、蒸留塔の塔頂と塔底との差圧は、約5mbarである。還流比は当初(最初の100gが再度蒸留されるまで)、100に調整する。この時点から、還流比を150に上げる。常に約25gが蒸留され、それから新たな画分が得られる(最初、又は条件が急激に変化した場合には、これよりかなり少ない画分も集まる)。蒸留物217〜317gの間の4つの画分は、ほぼすべて同じ組成であり、すべて138.8〜144.0℃の塔頂温度で蒸留する。これら4つの画分(無色の液体)は、所望の4,8,11−ドデカトリエナール98.2質量%を、シス,トランス異性体と、トランス,シス異性体とを約1:1の混合物として含んでいる(トランス、トランス異性体はより沸点が高く、塔底に残る)。不純物としてはさらに、1,5,9−シクロドデカトリエン0.26質量%、及び4,8−シクロドデカジエノン0.06質量%が、他の同定不能な副成分以外に含まれていた。
【0132】
実施例4:香り試験
容積370mlの新たに洗浄された蓋付きガラス瓶(直径70mm)に、実施例3から得られる生成物1mlを満たし、ガラス瓶をプラスチック製の新品の蓋で閉鎖する。閉鎖されたガラス瓶はそれから15分、室温で静置する。匂いを出すために、平衡後にガラス瓶を短時間開け、調香師が匂いを判断する。匂いの印象は、非常にモミの針葉、木材、及びアルデヒドの匂いとして記載される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ有する、少なくとも1つの化合物の製造方法であって、以下の工程:
(a1)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する環状オレフィンを少なくとも含む組成物(A)を、一酸化二窒素により酸化して、組成物(A1)を得る工程、ここでこの組成物(A1)は少なくとも
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物、
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの環状オレフィン、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物、
を含有し、
(a2)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの環状オレフィンを、工程(a1)から得られる組成物(A1)から分離して、組成物(A2)を得る工程、ここでこの組成物(A2)は少なくとも、
Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物、
を含有し、
(b1)Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物を、工程(a2)から得られる組成物(A2)から分離して、組成物(B1)を得る工程、ここでこの組成物(B1)は、
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する、少なくとも1つの化合物
を少なくとも50質量%含有する、
を有し、Zは1、2、3、又は4である、前記製造方法。
【請求項2】
工程(b1)に以下の工程(b2):
(b2)工程(b1)で得られた組成物(B1)を精製して、Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの化合物を少なくとも92質量%含有する混合物を得る工程、
が連続することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a2)で分離される、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンを、再度工程(a1)に返送することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程(b1)で分離される、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの環状化合物が、C−C二重結合を少なくとも1つ有することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
Z個の環と7〜16個のC原子を有し、ケト基を1つ、C−C二重結合を少なくとも1つ有する少なくとも1つの環状化合物を工程(b1)後に水素化して、Z個の環と7〜16個のC原子とを有し、ケト基を1つ有する少なくとも1つの飽和環状化合物にすることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程(b1)における分離を、蒸留により行うことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
C−C二重結合を少なくとも2つ有する少なくとも1つの環状オレフィンが、1,5−シクロオクタジエン、1,5−シクロドデカジエン、1,9−シクロヘキサデカジエン、1,8−シクロテトラデカジエン、1,6−シクロデカジエン、1,6,11−シクロペンタデカトリエン、1,5,9−シクロドデカトリエン、ビニルシクロヘキセン、ノルボルナジエン、エチリデンノルボルネン、及びこれらの混合物から成る群から選択されていることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記環状オレフィンが、ブタジエンの三量化により製造された1,5,9−シクロドデカトリエンであることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
Z−1個の環と7〜16個のC原子とを有し、アルデヒド基を少なくとも1つ有する少なくとも1つの化合物が、4,8,11−ドデカトリエナールであることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの4,8,11−ドデカトリエナールを92〜99.8質量%、1,5,9−シクロドデカトリエンを0.0001〜5質量%含む、混合物。
【請求項11】
(E,Z)−4,8,11−ドデカトリエナールを40〜50質量%、(Z,E)−4,8,11−ドデカトリエナールを40〜50質量%、(E,E)−4,8,11−ドデカトリエナールを0.1〜10質量%、及び1,5,9−シクロドデカトリエンを0〜1質量%含むことを特徴とする、請求項10に記載の混合物。
【請求項12】
匂い物質としての、請求項10又は11に記載の混合物の使用。
【請求項13】
香水、化粧品、石鹸、洗浄剤、シャンプー、栄養剤、衛生用品、又は医薬品での、請求項12に記載の使用。

【公表番号】特表2012−516300(P2012−516300A)
【公表日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546823(P2011−546823)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/050887
【国際公開番号】WO2010/086313
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】