説明

ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類、及び、その製造方法

【課題】光透過性が高く、溶媒に対する溶解性に優れ、高度な耐熱性を有するポリイミドを製造する際の原料モノマーの提供。
【解決手段】下記一般式(1):


で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類、並びに、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、テトラカルボン酸二無水物類は、ポリイミド樹脂を製造するための原料やエポキシ硬化剤等に有用である。このようなテトラカルボン酸二無水物類の中でも、例えば、電子機器分野等に用いられるポリイミド樹脂の原料としては、ピロメリット酸二無水物等の芳香族系のテトラカルボン酸二無水物が主に用いられてきた。しかしながら、このような芳香族系のテトラカルボン酸二無水物は、その芳香族性に由来して、得られるポリイミド樹脂が着色してしまうことから、光学分野等の用途に用いるポリミイミド樹脂の原料としては十分なものではなかった。また、このような芳香族系のテトラカルボン酸二無水物を用いて得られるポリイミド樹脂は、溶媒に対する溶解性が低く、その加工性の点においても十分なものではなかった。そのため、光透過性が高く且つ溶媒に対する溶解性に優れるポリイミド樹脂を製造するために、種々の脂肪族系のテトラカルボン酸二無水物が検討されてきた。
【0003】
例えば、特開昭55−36406号公報(特許文献1)においては、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)―3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物が開示されている。また、特開昭63−57589号公報(特許文献2)においては、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物類が開示されている。また、特開平7−304868号公報(特許文献3)においては、ポリイミド樹脂の原料としてビシクロ[2.2.2]オクタンテトラカルボン酸二無水物類が開示されている。更に、特開2001−2670号公報(特許文献4)及び特開2002−255955号公報(特許文献5)においては、1,2−ビス(4’−オキサ−3’,5’−ジオキソトリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−8’−イルオキシ)エタンが開示されている。しかしながら、このような特許文献1〜5に記載されているような従来の脂肪族系のテトラカルボン酸二無水物類を用いた場合には、得られるポリイミド樹脂は、耐熱性の点で十分なものではなく実用上十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭55−36406号公報
【特許文献2】特開昭63−57589号公報
【特許文献3】特開平7−304868号公報
【特許文献4】特開2001−2670号公報
【特許文献5】特開2002−255955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、光透過性が高く、溶媒に対する溶解性に十分に優れ、しかも十分に高度な耐熱性を有するポリイミドを製造するための原料モノマーとして使用することが可能なドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類、その中間体として得られるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類、並びに、前記ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類を効率よく確実に製造することが可能なドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(1)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類により、光透過性が高く、溶媒に対する溶解性に優れ、しかも十分に高度な耐熱性を有するポリイミドを製造することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類は、下記一般式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
[式(1)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類は、下記一般式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
[式(2)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示し、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基及び炭素数7〜20のアラルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類の製造方法は、パラジウム触媒及び酸化剤の存在下において、下記一般式(3):
【0014】
【化3】

【0015】
[式(3)中、R、R10は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されるオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン類をアルコール及び一酸化炭素と反応させて下記一般式(2):
【0016】
【化4】

【0017】
[式(2)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示し、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基及び炭素数7〜20のアラルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類を得る工程と、
ギ酸、酸触媒及び無水酢酸を用いて、前記ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類から下記一般式(1):
【0018】
【化5】

【0019】
[式(1)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類を得る工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、光透過性が高く、溶媒に対する溶解性に優れ、しかも十分に高度な耐熱性を有するポリイミドを製造するための原料モノマーとして使用することが可能なドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類、その中間体として得られるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類、並びに、前記ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸二無水物類を効率よく確実に製造することが可能なドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類の製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】合成例1で得られたオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオンのIRスペクトルを示すグラフである。
【図2】合成例1で得られたオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオンのH−NMR(CDCl)スペクトルを示すグラフである。
【図3】合成例1で得られたオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオンの13C−NMR(CDCl)スペクトルを示すグラフである。
【図4】合成例1で得られたオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオンの二次元NMR(CDCl)スペクトルを示すグラフである。
【図5】実施例1で得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステルのIRスペクトルを示すグラフである。
【図6】実施例1で得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステルのH−NMR(CDCl)スペクトルを示すグラフである。
【図7】実施例1で得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステルの13C−NMR(CDCl)スペクトルを示すグラフである。
【図8】実施例1で得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステルの二次元NMR(CDCl)スペクトルを示すグラフである。
【図9】実施例2で得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物のIRスペクトルを示すグラフである。
【図10】実施例2で得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物のH−NMR(DMSO−d)スペクトルを示すグラフである。
【図11】実施例2で得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物のH−NMR(DMSO−d)スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0023】
先ず、本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類について説明する。すなわち、本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類は、下記一般式(1):
【0024】
【化6】

【0025】
[式(1)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されることを特徴とするものである。
【0026】
このような一般式(1)中のR、Rとして選択され得るアルキル基は、炭素数が1〜10のアルキル基である。このような炭素数が10を超えると、ポリイミドのモノマーとして用いた場合に得られるポリイミドの耐熱性が低下する。また、このようなR、Rとして選択され得るアルキル基の炭素数としては、ポリイミドを製造した際により高度な耐熱性が得られるという観点から、1〜5であることが好ましく、1〜3であることがより好ましい。また、このようなR、Rとして選択され得るアルキル基としては直鎖状の物であっても分岐鎖状のものであってもよい。
【0027】
また、前記一般式(1)中のR、Rとしては、ポリイミドを製造した際により高度な耐熱性が得られるという観点から、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基が好ましく、水素原子、メチル基が特に好ましい。
【0028】
また、このような一般式(1)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類としては、例えば、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノメチルアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノジメチルアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物等が挙げられる。
【0029】
次に、本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類について説明する。本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類は、下記一般式(2):
【0030】
【化7】

【0031】
[式(2)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示し、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基及び炭素数7〜20のアラルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されることを特徴とするものである。
【0032】
このような一般式(2)中のR、Rは、上記一般式(1)中のR、Rと同様のものであり、その好適な基も上記一般式(1)中のR、Rと同様である。
【0033】
また、前記一般式(2)中のR、R、R、Rとして選択され得るアルキル基は炭素数が1〜10のアルキル基である。このようなアルキル基の炭素数が10を超えると精製が困難となる。また、このようなR、R、R、Rとして選択され得るアルキル基の炭素数としては、精製がより容易となるという観点から、1〜5であることがより好ましく、1〜3であることが更に好ましい。また、このようなR、R、R、Rとして選択され得るアルキル基は直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。
【0034】
また、前記一般式(2)中のR、R、R、Rとして選択され得るシクロアルキル基は、炭素数が3〜10のシクロアルキル基である。このようなシクロアルキル基の炭素数が10を超えると精製が困難となる。また、このようなR、R、R、Rとして選択され得るシクロアルキル基の炭素数としては、精製がより容易となるという観点から、3〜8であることがより好ましく、5〜6であることが更に好ましい。
【0035】
さらに、前記一般式(2)中のR、R、R、Rとして選択され得るアルケニル基は、炭素数が2〜10のアルケニル基である。このようなアルケニル基の炭素数が10を超えると精製が困難となる。また、このようなR、R、R、Rとして選択され得るアルケニル基の炭素数としては、精製がより容易となるという観点から、2〜5であることがより好ましく、2〜3であることが更に好ましい。
【0036】
また、前記一般式(2)中のR、R、R、Rとして選択され得るアリール基は、炭素数が6〜20のアリール基である。このようなアリール基の炭素数が20を超えると精製が困難となる。また、このようなR、R、R、Rとして選択され得るアリール基の炭素数としては、精製がより容易となるという観点から、6〜10であることがより好ましく、6〜8であることが更に好ましい。
【0037】
また、前記一般式(2)中のR、R、R、Rとして選択され得るアラルキル基は、炭素数が7〜20のアラルキル基である。このようなアラルキル基の炭素数が20を超えると精製が困難となる。また、このようなR、R、R、Rとして選択され得るアラルキル基の炭素数としては、精製がより容易となるという観点から、7〜10であることがより好ましく、7〜9であることが更に好ましい。
【0038】
さらに、前記一般式(2)中のR、R、R、Rとしては、精製がより容易となるという観点から、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル、t−ブチル、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、アリル基、フェニル基、ベンジル基であることが好ましく、メチル基であることが特に好ましい。なお、前記一般式(2)中のR、R、R、Rは同一のものであっても異なっていてもよいが、合成上の観点からは、同一のものであることが好ましい。
【0039】
このような一般式(2)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類としては、例えば、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステル、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエチルエステル、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラプロピルエステル、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラブチルエステル、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラ(2−エチルヘキシル)エステル、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラアリルエステル、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラシクロヘキシルエステル、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラフェニルエステル、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラベンジルエステル、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノメチルアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステル、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノジメチルアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステル等が挙げられる。
【0040】
次に、上記本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類を製造する際に好適に採用することが可能な本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類の製造方法について説明する。なお、本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類の製造方法においては、その製造時に、中間体として上記本発明の一般式(2)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類を得ることが可能である。
【0041】
本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類の製造方法は、パラジウム触媒及び酸化剤の存在下において、下記一般式(3):
【0042】
【化8】

【0043】
[式(3)中、R、R10は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されるオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン類をアルコール及び一酸化炭素と反応させて上記一般式(2)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類を得る工程(第1工程)と、
ギ酸、酸触媒及び無水酢酸を用いて、前記ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類から上記一般式(1)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類を得る工程(第2工程)と、
を含むことを特徴とする方法である。以下、第1工程と第2工程とを分けて説明する。
【0044】
このような第1工程は、上記一般式(3)で表されるオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン類(以下、場合により単に「一般式(3)で表される化合物」という。)を、アルコール及び一酸化炭素と反応させて上記一般式(2)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類(以下、場合により単に「一般式(2)で表される化合物」という。)を得る工程である。
【0045】
このような第1工程において用いられる上記一般式(3)で表されるオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン類において、その一般式(3)中のR、R10は、それぞれ上記一般式(1)中のR、Rと同様のものであり、その好適な基も上記一般式(1)中のR、Rと同様である。また、このような一般式(3)で表される化合物としては、例えばオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン、オクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノメチルアントラセン-9,10-ジオン、オクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノジメチルアントラセン-9,10-ジオン等が挙げられる。
【0046】
また、このような一般式(3)で表される化合物を製造するための方法は特に制限されないが、例えば、0〜60℃(好ましくは室温(25℃)程度)の条件下において、溶媒(好ましくは、トルエン、キシレン、テトラハイドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトニトリル、クロロホルム、塩化メチレン、酢酸エチル、シクロヘキサン、ヘキサン等の有機溶媒)と、p−キノンと、アルキル基を置換基として有していてもよいシクロペンタジエンとの混合物を1〜48時間撹拌することにより、p−キノンと、アルキル基を置換基として有していてもよいシクロペンタジエンとを反応せしめて前記一般式(3)で表される化合物を製造する方法を採用してもよい。また、このようなシクロペンタジエンが含有し得るアルキル基は、前記一般式(1)中のR、Rとして選択され得るアルキル基と同様のものである。
【0047】
また、第1工程に用いられるアルコールは、下記一般式(4):
11OH (4)
[式(4)中、R11は前記一般式(2)中のR、R、R又はRと同義である。]
で表されるアルコールであることが好ましい。すなわち、このようなアルコールとしては、炭素数が1〜10のアルキルアルコール、炭素数が3〜10のシクロアルキルアルコール、炭素数が2〜10のアルケニルアルコール、炭素数が6〜20のアリールアルコール、炭素数が7〜20のアラルキルアルコールを用いることが好ましい。このようなアルコールとしては、具体的には、メタノール、エタノール、ブタノール、アリルアルコール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール等が挙げられ、中でも、得られる化合物の精製がより容易となるという観点から、メタノール、エタノールがより好ましく、メタノールが特に好ましい。また、このようなアルコールは1種を単独であるいは2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
このようなアルコールを用いる第一工程における反応は、パラジウム触媒及び酸化剤の存在下、前記アルコール(R11OH)及び一酸化炭素(CO)と、前記一般式(3)で表される化合物とを反応せしめて、前記一般式(3)で表されるオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン類中のオクタハイドロアントラセン環の2位、3位、6位及び7位に、それぞれ下記一般式(5):
−COOR11 (5)
[式(5)中、R11は前記一般式(2)中のR、R、R又はRと同義である。]
で表されるエステル基(かかるエステル基は導入される位置ごとにR11が同一であっても異なっていてもよい。)を導入して、前記一般式(2)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類を得る反応(エステル化反応)である。
【0049】
このようなエステル化反応におけるアルコールの使用量は、前記一般式(2)で表される化合物を得ることが可能な量であればよく、特に制限されず、例えば、前記一般式(2)で表される化合物を得るために理論上必要となる量(理論量)以上に前記アルコールを加えて、余剰のアルコールをそのまま溶媒として使用してもよい。
【0050】
また、前記エステル化反応においては、前記一酸化炭素は必要量を反応系に供給できればよい。そのため、前記一酸化炭素としては、一酸化炭素の高純度ガスを用いる必要は無く、前記エステル化反応に不活性なガス(例えば窒素)と一酸化炭素とを混合した混合ガスを用いてもよい。また、このような一酸化炭素の圧力は特に制限されないが、常圧(約0.1Mpa[1atm])以上1.5MPa以下であることが好ましい。
【0051】
また、第1工程に用いられる前記パラジウム触媒としては特に制限されず、パラジウムを含有する公知の触媒を適宜用いることができ、例えば、パラジウムの無機酸塩、パラジウムの有機酸塩、担体にパラジウムを担持した触媒等が挙げられる。このようなパラジウム触媒としては、具体的には、塩化パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、プロピオン酸パラジウム、パラジウム炭素、パラジウムアルミナ及びパラジウム黒等が挙げられる。このようなパラジウム触媒の使用量としては、前記パラジウム触媒中のパラジウムのモル量が前記一般式(3)で表される化合物に対して0.001〜0.1倍モルとなる量とすることが好ましい。
【0052】
さらに、第1工程において用いられる酸化剤としては、前記エステル化反応において、前記パラジウム触媒中のPd2+がPdに還元された場合に、そのPdをPd2+に酸化することが可能なものであればよく、特に制限されず、例えば、銅化合物、鉄化合物等が挙げられる。このような酸化剤としては、具体的には、塩化第二銅、硝酸第二銅、硫酸第二銅、酢酸第二銅、塩化第二鉄、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、酢酸第二鉄等が挙げられる。このような酸化剤の使用量は、一般式(3)のオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン類に対して2〜16倍モル(より好ましくは8倍モル程度)とすることが好ましい。
【0053】
また、前記一般式(3)で表される化合物とアルコール及び一酸化炭素との反応(エステル化反応)には溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒としては特に制限されず、例えば、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ペンタン等の炭化水素系溶媒が挙げられる。
【0054】
さらに、前記エステル化反応においては、前記酸化剤等から酸が副生されることから、かかる酸を除去するために塩基を添加してもよい。このような塩基としては、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム等の脂肪酸塩が好ましい。また、このような塩基の使用量は酸の発生量等に応じて適宜調整すればよい。
【0055】
また、前記エステル化反応の際の反応温度条件としては特に制限されないが、0℃〜60℃であること(より好ましくは常温(25℃)程度)が好ましい。反応温度が前記上限を超えると収量が低下する傾向にあり、反応温度が前記下限未満では、反応速度が低下する傾向にある。また、前記エステル化反応の反応時間は特に制限されないが、30分〜24時間程度とすることが好ましい。
【0056】
また、このようにしてエステル化反応を行った後においては、より純度の高い化合物を得るために、再結晶等の精製工程を適宜実施してもよい。このような精製の方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。そして、このような第1の工程により、前記一般式(2)で表される上記本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類を高収率で得ることができる。
【0057】
次に、第2工程について説明する。このような第2工程は、ギ酸、酸触媒及び無水酢酸を用いて、前記ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類から前記一般式(1)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類(以下、場合により単に「一般式(1)で表される化合物」という。)を得る工程である。
【0058】
このような第2工程に用いる酸触媒としては特に制限されないが、酸強度の観点から、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸が好ましく、p−トルエンスルホン酸がより好ましい。このような第2工程に用いる酸触媒の使用量としては、前記一般式(2)で表される化合物に対して0.01〜0.2倍モルとすることが好ましい。このような酸触媒の使用量が前記下限未満では、反応速度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、収量が低下する傾向にある。
【0059】
また、第2工程に用いるギ酸の使用量としては特に制限されないが、前記一般式(2)で表される化合物に対して4〜100倍モルとすることが好ましい。このようなギ酸の使用量が前記下限未満では反応速度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると収量が低下する傾向にある。
【0060】
さらに、第2工程に用いる無水酢酸の使用量としては特に制限されないが、前記一般式(2)で表される化合物に対して4〜100倍モルとすることが好ましい。このような無水酢酸の使用量が前記下限未満では、反応速度が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、収量が低下する傾向にある。
【0061】
また、このような第2工程は特に制限されないが、例えば、以下に示す工程(A)〜(C)を含むことが好ましい。すなわち、このような第2工程としては、前記一般式(2)で表される化合物とギ酸と酸触媒との混合液を調製し、前記混合液を加熱還流する工程(A)と、前記混合液中の液体の一部を減圧留去して前記混合液を濃縮し、得られた濃縮液に再度ギ酸を添加して加熱還流した後、得られた混合液中の液体の一部を減圧留去して再度濃縮することにより濃縮液を得る工程(B)と、前記濃縮液にギ酸と無水酢酸とを加えて加熱還流することにより前記一般式(1)で表される化合物を得る工程(C)とを含むことが好ましい。このような方法を採用することにより、効率よく前記一般式(2)で表される化合物から、前記一般式(1)で表される化合物を得ることが可能となる。
【0062】
また、このような方法を採用する場合には、工程(B)において、前記濃縮液に対するギ酸の添加・濃縮を行う工程を繰り返し実施(好ましくは1〜5回繰り返し実施)することが好ましい。工程(B)において、濃縮液に対してギ酸の添加・濃縮を行う工程を繰り返し実施することにより、テトラエステルを完全にテトラカルボン酸にすることが可能となり、その後に実施する工程(C)により、効率よく前記一般式(1)で表される化合物を得ることが可能となる。更に、前記工程(A)において混合液を製造する際におけるギ酸の使用量は、前記一般式(2)で表される化合物に対して50倍モル程度とすることが好ましい。また、工程(B)及び(C)において濃縮液に添加するギ酸の量は濃縮の際に留去した液体の量と同程度とすることが好ましい。
【0063】
また、前記工程(B)における混合液の濃縮(減圧留去)の方法は特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。また、前記工程(A)〜(C)における加熱還流の温度条件としては、100℃〜140℃とすることが好ましい。このような加熱還流の温度が前記下限未満では収量が低下する傾向があり、他方、前記上限を超えると、副生物が増加する傾向にある。また、このような加熱還流の時間としては30分から24時間程度とすることが好ましい。
【0064】
さらに、このような第2工程においては、前記一般式(2)で表される化合物から前記一般式(1)で表される化合物の粗生成物を得た後に、その粗生成物に対して再結晶等の精製工程を適宜実施してもよい。このような精製工程により、より高純度の一般式(1)で表される化合物を得ることが可能となる。このような精製の方法としては、特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。このように第2工程を実施することにより、前記一般式(1)で示される上記本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類を高収率で得ることができる。
【0065】
以上、本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類の製造方法について説明したが、次いで、上記本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類を製造することが可能な他の方法について説明する。このような他の方法としては、前記第1工程を実施して前記一般式(2)で示されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類を得た後、かかるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類を酸触媒又は塩基触媒の存在下において加水分解して、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸を製造し、その後、得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸を加熱により或いは脱水剤を用いることにより脱水閉環せしめ、前記一般式(1)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類を製造する方法が挙げられる。
【0066】
また、上記本発明の前記一般式(1)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類は、ポリアミド酸の原料やポリイミド等の耐熱性樹脂の原料として特に有用である。
【0067】
このようなポリイミドの製造方法としては、例えば、溶媒中において前記一般式(1)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類をアミン化合物と反応させてポリアミド酸を得た後、かかるポリアミド酸を加熱或いは酸無水物により脱水閉環することでポリイミドを得る方法を採用してもよい。
【0068】
このようなアミン化合物としては特に制限されず、ポリイミド又ポリアミド酸の製造に用いることが可能な公知のアミン化合物を適宜用いることができ、例えば、芳香族系アミン、脂肪族系アミン、脂環式系アミン等を適宜用いることができる。このような芳香族系アミンとしては、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン酸等が挙げられる。前記脂肪族系アミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。また、前記脂環式系アミンとしては、4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノ−ジシクロヘキシルメタン、3,5−ジエチル−3’,5’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン等が挙げられる。なお、このようなアミン化合物は1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
また、前記ポリイミドの製造に用いる溶媒としては特に制限されず、ポリイミドの製造に用いることが可能な公知の溶媒を適宜用いることができ、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキサイド、クレゾール等が挙げられる。
【0070】
また、前記一般式(1)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類とアミン化合物との使用量は特に制限されないが、これらのモル比([一般式(1)で表される化合物]:[アミン化合物])が0.5:1.0〜1.0:0.5(より好ましくは0.9:1.0〜1.0:0.9)となるようにすることが好ましい。このような一般式(1)で表される化合物の使用量が前記下限未満では収量が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えても収量が低下する傾向にある。
【0071】
また、ポリアミド酸を加熱する工程における温度条件や加熱時間は特に制限されず、ポリイミドを製造することが可能な条件に適宜調整すればよく、例えば、100〜400℃程度で0.1〜24時間程度加熱する条件を採用してもよい。更に、前記ポリアミド酸の脱水閉環に用いる酸無水物としては特に制限されず、ポリアミド酸を脱水閉環させることが可能なものであればよく公知の酸無水物を適宜用いることができ、例えば、無水プロピオン酸、無水酢酸等が挙げられる。また、このような酸無水物を用いた脱水閉環の方法としては特に制限されず、前記ポリアミド酸を脱水閉環させることが可能な公知の条件を適宜採用すればよい。
【0072】
さらに、このようにして得られる前記ポリイミドは、前記一般式(1)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類をモノマーの一つとして用いているため、脂肪族系のテトラカルボン酸二無水物を用いているにも関わらず、十分に高度な溶媒溶解性を有しながら無色透明であり、しかも熱重量分析からみた耐熱性が十分に高く、従来公知の脂肪族系テトラカルボン酸二無水物から作られるポリイミドと比較して十分に高度な熱分解開始温度を有するものとすることができる。従って、上記本発明の前記一般式(1)で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類は、フレキシブル配線基板用のポリイミド、耐熱絶縁テープ用のポリイミド、電線エナメル用のポリイミド、半導体の保護コーティング用のポリイミド、液晶配向膜用のポリイミド等を製造するための材料として特に有用である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
なお、以下において、各合成例及び各実施例で得られた化合物の分子構造の同定は、IR測定機(日本分光株式会社製、商品名:FT/IR−460)及びNMR測定機(VARIAN社製、商品名:UNITY INOVA−600及び日本電子株式会社製JNM−Lambda500)を用いて、IR及びNMRスペクトルを測定することにより行った。また、試験例で示した5%重量減少温度は、セイコー電子工業株式会社製SCC5000熱重量分析装置を使用して測定した。
【0075】
(合成例1)
p−キノン(9.73g、94mmol)、シクロペンタジエン(12.34g、187mmol)及びトルエン(200ml)を300mlのナスフラスコに仕込み、混合物を得た。次に、前記混合物を室温(25℃)で2日間攪拌し、前記混合物中に析出した白色固体を濾別した。また、残ったろ液からも、そのろ液を濃縮することにより、白色固体を得た。次いで、これら全ての白色個体をエタノール中に溶解し、再結晶させてオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオンを得た(収量9.1g、収率42%)。
【0076】
このようにして得られた化合物の構造確認のために、IR及びNMR測定を行った。このような化合物のIRスペクトルを図1に示し、H−NMR(CDCl)スペクトルを図2に示し、13C−NMR(CDCl)スペクトルを図3に示し、二次元NMR(CDCl)スペクトルを図4に示す。図1〜4に示す結果からも明らかなように、得られた化合物はオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオンであることが確認された。
【0077】
(実施例1)
合成例1で得られたオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン(7.99g、33mmol)、メタノール(700ml)、酢酸ナトリウム(30.06g、366mmol)、CuCl(II)(35.50g、264mmol)及びPdCl(1.36g、7.67mmol)を2L四つ口フラスコに仕込んで混合液を得た後、フラスコ内部の雰囲気を窒素置換した。次に、前記フラスコ内部にバルーンを用いて一酸化炭素(10.2L)を導入しながら、25℃、0.1MPaの条件下において前記混合液を1時間激しく攪拌して反応液を得た。次いで、前記フラスコ内部から一酸化炭素を除き、前記反応液をエバポレーターで濃縮して、反応液中からメタノールを完全に除去し、反応生成物を得た。その後、前記反応生成物にクロロホルム(100ml)を加え、セライトろ過した後、ろ液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で分液し、有機層を集めた。そして、前記有機層に乾燥剤(無水硫酸マグネシウム)を加えて2時間攪拌した。次いで、前記有機層から前記乾燥剤を濾別し、その有機層をエバポレーターで濃縮して、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステルを得た(収量12.2g、収率77%)。
【0078】
このようにして得られた化合物の構造確認のために、IR及びNMR測定を行った。このようにして得られた化合物のIRスペクトルを図5に示し、H−NMR(CDCl)スペクトルを図6に示し、13C−NMR(CDCl)スペクトルを図7に示し、二次元NMR(CDCl)スペクトルを図8に示す。図5〜8に示す結果からも明らかなように、得られた化合物はドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステルであることが確認された。
【0079】
(実施例2)
実施例1で得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステル(1.93g、4.05mmol)、ギ酸(14ml、222mmol)、p−トルエンスルホン酸(無水、0.1g、0.306mmol)を100ml三口フラスコに仕込み、120℃のオイルバスで6時間加熱還流を行って混合液を得た。次いで、前記混合液の液体量が半分程度になるように減圧留去により濃縮を行い、濃縮液を得た。その後、前記濃縮液にギ酸(7ml、111mmol)を添加し、120℃で6時間加熱還流を行った後、得られた混合液の液体量が半分程度になるように再度減圧留去により濃縮を行って濃縮液を得た。そして、このような濃縮液に対するギ酸添加・濃縮の操作を計3回更に繰り返した後、得られた濃縮液にギ酸(7ml、111mmol)、無水酢酸(18ml、127mmol)を加えて120℃で3時間加熱還流を行い、反応液を得た。そして、得られた反応液をエバポレーターで濃縮することにより乾固せしめ、固形分を得た。次に、このようにして得られた固形分に対してジエチルエーテルを加えて洗浄し、灰色の粗生成物を得た(1.56g、定量的)。次いで、得られた粗生成物に対して無水酢酸(66ml)を添加し、120℃に加熱して溶解せしめた後、これを5℃まで冷却することにより白色の結晶を析出させた。次いで、このような白色の結晶をろ過し、得られた結晶を減圧乾燥することにより、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物を1.1g(収率71%)得た。
【0080】
このようにして得られた化合物の構造確認のために、IR及びNMR測定を行った。このようにして得られた化合物のIRスペクトルを図9に示し、H−NMR(DMSO−d)スペクトルを図10及び11に示す。図9〜11に示す結果からも明らかなように、得られた化合物はドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物であることが確認された。
【0081】
(合成例2)
p−キノン(9.73g、94mmol)、メチルシクロペンタジエン(14.98g、187mmol)及びトルエン(200ml)を300mlのナスフラスコに仕込み、混合物を得た。次に、前記混合物を室温(25℃)で2日間攪拌して反応液を得た。次いで、このようにして得られた反応液を濃縮して白色固体を得た。次に、このようにして得られた白色固体を濾別し、これをエタノールで再結晶することにより、オクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノジメチルアントラセン−9,10−ジオンを得た(収量6.0g、収率24%)。
【0082】
このようにして得られた化合物の構造確認のために、IR及びNMR測定を行ったところ、得られた化合物は、オクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノジメチルアントラセン−9,10−ジオンであることが確認された。
【0083】
(実施例3)
合成例2で得られたオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノジメチルアントラセン−9,10−ジオン(5.00g、19mmol)、メタノール(400ml)、酢酸ナトリウム(17.28g、210mmol)、CuCl(II)(20.41g、152mmol)及びPdCl(0.78g、4.41mmol)を2L四つ口フラスコに仕込んで混合液を得た後に、フラスコ内部の雰囲気を窒素置換した。次に、前記フラスコ内部にバルーンを用いて一酸化炭素(6.0L)を導入しながら、25℃、0.1MPaの条件下において前記混合液を1時間激しく攪拌して反応液を得た。次いで、前記フラスコ内部から一酸化炭素を除き、前記反応液をエバポレーターで濃縮して、反応液中からメタノールを完全に除去し、反応生成物を得た。その後、前記反応生成物にクロロホルム(60ml)を加え、セライトろ過した後、ろ液を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で分液し、有機層を集めた。そして、前記有機層に乾燥剤(無水硫酸マグネシウム)を加えて2時間攪拌した。次いで、前記有機層から前記乾燥剤を濾別し、その有機層をエバポレーターで濃縮して、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノジメチルアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステルを得た(収量7.7g、収率80%)。
【0084】
このようにして得られた化合物の構造確認のために、IR及びNMR測定を行ったところ、得られた化合物は、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノジメチルアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステルであることが確認された。
【0085】
(実施例4)
実施例3で得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノジメチルアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラメチルエステル(2.04g、4.05mmol)、ギ酸(14ml、222mmol)、p−トルエンスルホン酸(無水、0.1g、0.306mmol)を100ml三口フラスコに仕込み、120℃のオイルバスで6時間加熱還流を行って混合液を得た。次いで、前記混合液の液体量が半分程度になるように減圧留去により濃縮を行い、濃縮液を得た。その後、前記濃縮液にギ酸(7ml、111mmol)を添加し、120℃で6時間加熱還流を行った後、得られた混合液の液体量が半分程度になるように再度減圧留去により濃縮を行って濃縮液を得た。そして、このような濃縮液に対するギ酸添加・濃縮の操作を計3回更に繰り返した後、得られた濃縮液にギ酸(7ml、111mmol)、無水酢酸(18ml、127mmol)を加えて120℃で3時間加熱還流を行い、反応液を得た。次いで、このようにして得られた反応液をエバポレーターで濃縮することにより乾固せしめて固形分を得た。次に、このようにして得られた固形分にジエチルエーテルを加えて、前記固形分を洗浄し、灰色の粗生成物を得た(1.56g、定量的)。その後、得られた粗生成物に対して無水酢酸(66ml)を添加し、120℃に加熱して溶解せしめた後、これを冷却することにより白色の結晶を析出させた。次いで、このような白色の結晶をろ過し、得られた結晶を減圧乾燥することにより、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノジメチルアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物を1.1g(収率66%)得た。
【0086】
このようにして得られた化合物の構造確認のために、IR及びNMR測定を行ったところ、得られた化合物は、ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノジメチルアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物であることが確認された。
【0087】
(試験例1:ポリイミドの調製)
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(6.01g、0.03mol)をクレゾール(63g)に溶解した溶液中に、実施例2で得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物(11.53g、0.03mol)を少量ずつ攪拌しながら5分間にわたって添加し、混合液を得た。なお、このような混合液を得る工程においては、前記溶液の温度を20〜30℃に保持した。次に、前記混合液の温度が30〜40℃となるようにして10時間保持し、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物とを反応させることにより、ポリアミド酸のクレゾール液を得た。
【0088】
次いで、得られたポリアミド酸のクレゾール液中に室温(25℃)条件下でキシレン(7.5g)を添加し、そのクレゾール液を3時間かけて200℃まで昇温し、更に200℃で4時間保持して反応液を得た。なお、前記ポリアミド酸のクレゾール液を200℃に昇温してその温度で保持する間に留出した水及びキシレンを捕集したところ、総量は8.5gであった。次いで、前記反応液を室温(25℃)まで冷却せしめ、79.5gのポリイミド溶液を得た。そして、得られたポリイミド溶液をガラス板上に流延し、120℃で30分乾燥させた後、更に200℃で1時間乾燥させ、膜厚25μmのフィルム状のポリイミドを得た。
【0089】
このようにして得られたフィルム状のポリイミドの熱重量分析(TGA)による5%重量減少温度を測定したところ、5%重量減少温度は470℃であった。このような熱重量分析(TGA)の結果から、本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類(実施例2)を用いることにより得られるポリイミドは、十分に耐熱性に優れたものとなることが確認された。
【0090】
(試験例2:ポリイミドの調製)
4,4’−ジアミノジフェニルメタン(5.94g、0.03mol)をジメチルアセトアミド63gに溶解した溶液中に、実施例2で得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物(11.53g、0.03mol)を少量ずつ攪拌しながら5分間にわたって添加し、混合液を得た。なお、このような混合液を得る工程においては、前記溶液の温度を20〜30℃に保持した。次に、前記混合液の温度が30〜40℃となるようにして6時間保持し、4,4’−ジアミノジフェニルメタンとドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物とを反応させて、ポリアミド酸のジメチルアセトアミド液を得た。
【0091】
次に、このようにして得られたポリアミド酸のジメチルアセトアミド液をガラス板上に流延し、120℃で30分乾燥した後、更に230℃で1時間乾燥して膜厚25μmのフィルム状のポリイミドを得た。
【0092】
このようにして得られたポリイミドの熱重量分析(TGA)による5%重量減少温度を測定したところ、5%重量減少温度は460℃であった。このような熱重量分析(TGA)の結果から、本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類(実施例2)を用いることにより得られるポリイミドは十分に耐熱性に優れたものとなることが確認された。
【0093】
(比較試験例1:比較のためのポリイミドの調製)
実施例2で得られたドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物の代わりに、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸無水物(7.92g、0.03mol、大日本インキ社製の商品名「Epiclon B−4400」)を用いた以外は、試験例1と同様にして比較のためのポリイミドフィルムを得た。このようにして得られたポリイミドフィルムの熱重量分析(TGA)による5%重量減少温度を測定したところ、5%重量減少温度は385℃であった。
【0094】
このような試験例1〜2及び比較試験例1の結果から、本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類を用いた場合(試験例1〜2)には、ポリイミドが有機溶媒に十分に溶解しており、フィルムの製造の際に十分な加工性があることが確認されるとともに、十分に高度な耐熱性を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上説明したように、本発明によれば、光透過性が高く、溶媒に対する溶解性に優れ、しかも十分に高度な耐熱性を有するポリイミドを製造する際の原料モノマーとして使用することが可能なドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類、その製造時の中間体として得られるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類、並びに、前記ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類を効率よく確実に製造することが可能なドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類の製造方法を提供することが可能となる。
【0096】
したがって、本発明のドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類は、脂肪族系のテトラカルボン酸二無水物類であるにもかかわらず、十分に高度な耐熱性を有することから、フレキシブル配線基板用のポリイミド、耐熱絶縁テープ用のポリイミド、電線エナメル用のポリイミド、半導体の保護コーティング用のポリイミド、液晶配向膜用のポリイミド等を製造するための材料(原料モノマー)等として特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

[式(1)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されることを特徴とするドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類。
【請求項2】
下記一般式(2):
【化2】

[式(2)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示し、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基及び炭素数7〜20のアラルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されることを特徴とするドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類。
【請求項3】
パラジウム触媒及び酸化剤の存在下において、下記一般式(3):
【化3】

[式(3)中、R、R10は、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されるオクタハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン類を、アルコール及び一酸化炭素と反応させて下記一般式(2):
【化4】

[式(2)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示し、R、R、R、Rは、それぞれ独立に、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜20のアリール基及び炭素数7〜20のアラルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類を得る工程と、
ギ酸、酸触媒及び無水酢酸を用いて、前記ドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸テトラエステル類から下記一般式(1):
【化5】

[式(1)中、R、Rは、それぞれ独立に、水素原子及び炭素数1〜10のアルキル基よりなる群から選択される少なくとも1種を示す。]
で表されるドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類を得る工程と、
を含むことを特徴とするドデカハイドロ−1,4:5,8−ジメタノアントラセン−9,10−ジオン−2,3,6,7−テトラカルボン酸−2,3:6,7−二無水物類の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2010−184898(P2010−184898A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−30315(P2009−30315)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(597040902)学校法人東京工芸大学 (28)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】