説明

ドパミン産生細胞を調節する方法

Nurrl誘導体が開示される。更に、ドパミン産生ニューロンの分化誘導方法と、前記誘導体を介してp57kip2の発現を調節する方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、ここにその全部を参考文献として合体させる2002年8月26日出願の出願番号60/408,132の一部継続出願である。
発明の分野
本発明は、Nurrl及びその誘導体と他の分子との相関作用、及びそれらの利用法に関する。
【背景技術】
【0002】
背景及び従来技術
中枢神経系(以後、「CNS」)に於ける細胞多様化は、最終的には、領域及び細胞型特異的転写因子の調整された発現をもたらす、厳密に調節された相互に絡みあったシグナリング事象のセットに依存する。ジェッセル(Jessell)他,Curr. Opin Neurobiol. 10:599-611(2000),ビスクー(Briscoe)他,Curr. Opin. Neurobiol. 11:43-49(2001)の記事を参照。たとえば、いかにして転写因子がCNSの発達において細胞多様性を作り出すかに関する理解は、CNS関連疾患の治療等のために注目される。
【0003】
腹側中脳に位置するニューロンの集団は、カテコールアミン神経伝達物質「ドパミン」、以後「DA」と略称する、を合成し遊離する。中脳DAニューロンは、それらの頭側神経支配標的と共に、主要なドーパミン作動性系路を構成し、たとえば、運動神経支配、認識、判定メカニズム(award mechanism)、記憶処理の調節と制御に関連している。パーローネ‐カパーノ(Perrone-Capano)他,Int. J. Dev. Biol. 44:679-687(2000)を参照。DA細胞が重要であるもう1つの理由は、臨床的に、これらの細胞は、パーキンソン病などのCNS障害を有する患者において変性し、精神分裂やその他の障害に関連するプロセスに影響を与えるということである。デュネット(Dunnett)他,Nature 399:A32-39(1999);バセット(Bassett)他,Can. J. Psychiatry 46:131-137(2001)。
【0004】
DA細胞は、胚中脳の腹側床(ventral floor)において発生する。ハインズ(Hynes)他,Curr. Op. Neurobiol. 9:26-36(1999)を参照。「ソニックヘッジホッグ(Sonic hedgehog)」、及び「線維芽細胞成長因子8」として知られている因子による初期シグナリングは、パターニング事象、更に、レチンアルデヒドデハイドロゲナーゼ(“Raldh/AHD2”)を発現する増殖するドパミン作動性前駆体細胞集団の確立に寄与する。ハインズ(Hynes)他,Neuron 15:33-44(1995);イェ(Ye)他,Cell 93:755-766(1998),ウォリーン(Walleen)他,Exp. Cell Res. 253:737-746(1999)を参照。細胞が増殖を停止すると、それらは、Nurrl 又は“NR4A2”として知られている分子を発現し始める。「Nurrl」は、以後言及するように、核内受容体ファミリのメンバである。ここに共に参考文献として合体させるロー(Law)他,Mol. Endocrinol. 6(12):2129-35(1992)及びロー(Law)他,NCBI受託番号A46225を参照。
【0005】
ロー(Law)他によって開示されているマウスNurrl配列を、ここに配列識別番号1として提示する。尚、ここに記載されるNurrlの誘導体は、更に、位置131,134及び354の三つの残基のみマウスNurrlと異なるヒトNurrl配列も含むことが意図されている。それもここに参考文献として合体させるスタウスバーグ(Stausberg)他,NCBI受託番号AAH09288を参照。ヒトNurrl配列中の位置131,134及び354は、t,g及びeであるのに対して、マウスNurrl中の位置131,134及び354はs,s及びdである。ここでの使用においてNurrlとは、種の違いに拘わらず(たとえば、哺乳類、ヒト、マウス、霊長類、及びその他の動物種)、全ての形態の分子と、更に、GenBank等の公開データベースに開示されているもののような全てのアイソフォームをいう。
【0006】
Nurrlは、中脳DAニューロン発達のために必須であることが示されている。詳述すると、Nurrlノックアウト動物は、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)、又、その他のドパミン作動性特徴が欠失している。ゼッターストローム(Zetterstrom)他,Science 276:248-250(1997);カスティロ(Castillo)他,Mol. Cell Neurosci. 11:36-46(1998);ソースドゥ‐カルデナス(Saucedo-Cardenas)他,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95:4013-4018(1998)を参照。更に、Nurrlは、DA細胞特異的遺伝子の発現の維持、正常細胞の遊走、標的領域神経支配、及び細胞生存のために必要とされる。ソースドゥ‐カルデナス(Saucedo-Cardenas)他,前出;ウォリーン(Walleen)他,Exp. Cell. Res. 253:737-746(1999)。ウォリーン(Walleen)他,Mol. Cell Neurosci 18:649-663(2001)を参照。
【0007】
ホメオドメイン含有転写因子Engrailed 1及び2(“En1”及び”En2”)及びLmx1b)を含むDA細胞発達には、その他の転写因子が関連している。しかし、Nurrlと異なり、これらのたん白質は、発達中の胚におけるよりグローバルなパターニング事象に影響を与えるもののようである。ジョイナー(Joyner)他,Science 251:1239-1243(1991);ワースト(Wurst)他,Development 120:857-887(1994);シュミット(Smidt)他,Nat. Neurosci. 3:337-341(2000);サイモン(Simon)他,J. Neurosci. 21:3126-3134(2001)を参照。しかしこれらの因子全てに共通することは、DA細胞発達に寄与するそれらが調節する遺伝子がいまだに同定されていないことである。
【0008】
細胞分化と、細胞周期からの離脱とは、特に発達中の胚においては互いに密に調節されるプロセスである。細胞周期の調節にとって必須であるいくつかの調節機序が、細胞分化に影響を与えるものであることが示されている。チェラッパン(Chellappan)他,Curr. Top. Microbiol. Immunol. 227:57-103(1998)を参照。
【0009】
細胞周期制御にとって重要な1つの機序は、CDK抑制因子、又は、「Cki」によるサイクリン依存性キナーゼ、又は、「CDK」の抑制に関連する。たとえば、ヴィダル(Vidal)他,Gene 247:1-15(2000)を参照。CkiのCip/Kipファミリは、p21Cip1,p27Kip1及びp57Kip2から成る。それらは、イン・ヴィヴォでの細胞周期離脱(cell cycle exit)と種々の組織の分化とに関連する。たとえば、チェラッパン(Chellapan)他,前出、を参照。これらの内、p57Kip2のみが、他のCkiによって埋め合わせすることができない胚形成中における重要な役割を果たすものであることが示されている。たとえば、p57Kip2ヌル変異体マウスは、口蓋裂、消化管異常、腎髄質異形成、副腎皮質過形成及び水晶体細胞過剰増殖、を含む重度の欠陥を示す。ヤン(Yan)他,Genes Dev. 11:973-983(1997),ツァン(Zhang)他,Nature 387:151-158(1997)を参照。更に、p57Kip2は、p21Cip1と共に、管状筋細胞と肺の細胞との分化にも関連している。ツァン(Zhang)他,Genes Dev. 13:213-224(1994)参照。これに対して、網膜アマクリン介在ニューロンの異常成熟化を例外として、p57Kip2遺伝子標的化マウスにおいてCNS−関連不全は報告されていない。ダイアー(Dyer)他,Development 127:3593-3605(2000)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以下の開示は、Nurrlによって調節される遺伝子の決定を含む、上述した問題のいくつかについて詳述する。本発明の別の態様は、DA細胞成熟化の機序に関連する因子の決定に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のこれら及びその他の特徴について以下の開示において詳述する。
【0012】
いかにNurrlが、DAニューロン分化及び成熟化の過程において必須であるp57Kip2の発現にとって、必須であるかを説明するものである。従って、本発明の1つの特徴は、Nurrl又はその誘導体の投与を介して、DAニューロン分化又は成熟化を誘導するための方法に関する。ここで「その誘導体」とは、配列識別番号1に記載のNurrlのアミノ酸配列の70以上300以下のアミノ酸が欠失した分子を意味する。より好ましくは、「その誘導体」とは、配列識別番号1に記載のNurrlのアミノ酸配列の80以上275以下のアミノ酸が欠失した分子、そして最も好ましくは、配列識別番号1に記載のNurrlのアミノ酸配列の90以上250以下のアミノ酸が欠失した分子を意味する。前記欠失は、好ましくは、前記Nurrl分子のカルボキシ末端で起こる。
【0013】
本発明の前記誘導体は、配列識別番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも70%相同性である。好ましくは、誘導体は、配列識別番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも85%相同性であり、更に好ましくは少なくとも90%相同性である。最も好ましくは、誘導体は配列識別番号1に記載アミノ酸配列に対して少なくとも95%相同性である。ここで「相同性」とは、配列識別番号1とある程度同一であり、その分子の残りの部分は、同類置換可能である、と定義される。「同類置換」とは、配列識別番号1にあるアミノ酸が、この分子の機能、即ち、そのp57Kip2と相関作用する能力、を変化させないアミノ酸によって置換可能である、ということを意味する。そのような置換は当業者に知られている。たとえば、もしも分子の特定のポイントにおいてグリシンが存在しているならば、アラニンによる置換は同類置換と考えられる。というのは、この置換は、機能に影響しないと予測されるからである。これに対して、もしも前記位置がシトシンによって占められている場合は、遊離スルフヒドリル基により、アラニンによる置換は、実際に、機能に影響を与えると予測される。ロイシンのイソロイシンによる置換、又はその逆、等のその他の例も当業者に知られているので、ここでは繰り返さない。
【0014】
そのような誘導体の具体例として、Nurrlのアミノ酸1−335のみから成る前記Nurrl誘導体等の、前記分子のカルボキシ末端が欠失した切断バリアントがある。前記諸例に記載した方法を使用して、当業者はその他のバリアントを同定し使用することが可能である。前記Nurrl又はその誘導体は、たとえば、ポリペプチド自身として、又は、前述した例に記載したプラスミドによって例示されるように、組換えデリバリシステム、として投与することができる。ニューロンのほかに、幹細胞等の前駆体細胞も処理可能である。
【0015】
そのような分子を使用することは、CNS関連疾患、特に、ドパミン遊離ニューロンに関連するもの、の治療に有用であると考えられる。そのようなニューロンの変性は、パーキンソン病等の状態の特徴であり、これに対して精神分裂は、過剰なドパミン作動性システムによって特徴付けられる。当業者にとってその他の状態も知られており、ここではそれらについての説明は不要である。
【0016】
後述する実験は、p57Kip2とNurrlとが直接的な物理的相関作用を含むプロセスにおいて、ニューロンの成熟化において協同作用することを示している。従って、p57Kip2はCDK、そして、細胞タイプ特異的転写因子の両方と相関作用することがわかる。従って、本発明の別の特徴は、それを、Nurrl又はその誘導体等の前記分子のアゴニスト又はアンタゴニストなどの調節物質と接触させることによってp57Kip2を調節する方法である。
【0017】
尚、p57Kip2は、ニューロンが細胞周期を逸脱したあと、ニューロンの分化を促進する。このことは前記データに示されている。
【0018】
後述するデータは、Nurrlとp57Kip2との間に相反関係が存在することを示している。本質的には、Nurrlがp57Kip2の発現を活性化し、これに対してp57Kip2は前述したようにNurrlと協同作用する。前記例に詳述されているように、恐らく前記相関作用には少なくとも1つの中間工程が含まれる。又、発達中のDA細胞におけるp57Kip2の発現が、En1,En2,Raldh1及びPtx3等の大半のその他の分析されたマーカが正常に発現される発達段階においてNurrlに依存することも明らかである。
【0019】
後述するデータは、事実、p57Kip2がNurrlの転写活性に対して負の影響を与える可能性があることを示唆している。但し、別のプロモータの状況においては、これら二つの分子間の相関作用は正の影響を与える可能性があることも可能である。これにも拘わらず、本発明の更に別の態様は、Nurrlを抑制するべく、Nurrlに対して、p57Kip2又はその一部のいずれかを投与することによる、あるいは反対に、Nurrlを刺激するべく、p57Kip2に対する抗体などのp57Kip2アゴニスト、Nurrlの非機能性誘導体、等を添加することによる、細胞中のNurrl活性の調節に関する。
【0020】
ここに記載の発達機序は、他の細胞タイプのものに類似するものと推測される。たとえば、前記「背景技術」の項で説明したように、Ckiのための要件の一部は、それらのCDKインヒビタとしての機能から独立している。他のシステムからの結果がこれを支持している。たとえば、p57Kip2は、恐らく転写因子MyoDに関連するプロセスにおいて筋肉分化を促進することが知られている。更に、細胞増殖の制御と結びつかない機序を介して正常な肺胞の発達に必要とされるp21Cip2とp57Kip2の重複性の活性化(redundant activates)が存在する。前記分子は、又、増殖網膜前駆体細胞の制御と、アマクリン細胞サブセットの運命決定とにおいて機能することも証明されている。又、p27Xiclとして知られているp27Kip1のアフリカツメガエル(xenopus)同族体が、CDKの抑制を必要としない機序を介したミューラーグリア細胞分化に関与していることも観察されている。又、胎盤spongiotrophoblastの適切な発達が、CDK活性におけるなんら測定可能な増加無く、p57Kip2遺伝子標的化マウスにおいて乱されることも観察されている。
【0021】
全体として、ここに記載したDAニューロン発達の特徴付けは、たとえばパーキンソン病などにおける、特に治療用移植用に構成された幹細胞の使用に有用であると見なされる。たとえば、この点に関しては、ここに参考文献として合体させるキム(Kim)他,Nature 418:50-56(2002年7月4日)を参照。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
好適実施例の詳細説明
例1
ここに参考文献として合体させるチョイ(Choi)他,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:8943-8947(1992)は、MN9Dと称されるドパミン合成神経細胞ラインについて記載している。MN9D細胞におけるNurrlの過剰発現は、細胞周期停止(arrest)、および、平坦な細胞形態、長神経突起の延伸、及びドパミン合成の増加によって特徴付けられる形状成熟化をもたらす。Nurrlの発現をテトラクリンの制御下においてこのラインのクローンを発達させた。このラインのクローンを「MN9D−NurlTet−On」と称する。前記クローンは、MN9D細胞を、プラスミドpTR−NurrlとpTK−Hygroとによってコトランスフェクトすることによって発達させた。前記第1のプラスミドは、宿主ベクターpTRE中において、NurrlをコードするcDNAを含んでいた。コトランスフェクションは、逆テトラクリン制御トランスアクチベータ(reverse tetracycline controlled transactivator)を発現するMN9D細胞中で、ここに参考文献として合体させるカストロ(Castro)他,J. Biol. Chem 276:43277-43284(2001)に従って行われた。細胞を、ドキシサイクリン(“dox”)、テトラクリン誘導体、(2μg/ml)の存在下で培養した。
【0023】
前記ドキシサイクリンでの24時間の処理中に、前記MN9D−NurlTet−On細胞は、細胞周期のG1期において集積された。
【0024】
免疫細胞蛍光発光法による測定で、前記dox処理細胞におけるNurrlの核内分布を含めて、48時間後の前記細胞において成熟形態表現型が明らかであった。簡単に説明すると、前述したウォリーン(Walleen)によって記載されているように、市販のフルオロフォアに共役結合された抗−IgGと共に、一次抗体として抗−Nurrl抗体を使用した。細胞を、PFAで固定し、断片を、PBS/0.5% FBS/0.3%−Triton中でブロックし、その後、一次抗体(4℃で16時間)と二次抗体(室温で1時間)とによって連続的にインキュベートした。
【0025】
例2
これらの実験は、前記MN9D細胞の分化に影響を与えた遺伝子の検索について記載するものである。
【0026】
この目的のために、標準方法を使用してdox処理MN9D−NurlTet−On細胞から全RNAを単離し、再び標準方法を使用してcDNAに逆転写した。次に、以下のプライマーを使用してRT−PCRを行った。

tttaccctcg aagccgaag (配列識別番号2)
tgtatgctaa gcgcagaac (配列識別番号3)

(Nurrl用);

cggtggaact ttgacttcgt (配列識別番号4)
gagtgcaaga cagcgacaag (配列識別番号5)

(p21Cip1用);

ccgaggagga agatgtcaaa (配列識別番号6)
aaattccact tgcgctgact (配列識別番号7)

(p27Kip1用);および、

gagagaactt gctgggcatc (配列識別番号8)
gctttacacc ttgggaccag (配列識別番号9)

(p57Kip2用)。
【0027】
更に、G3PDH用には市販のプライマーを使用した。前記RT−PCRは、各反応を94℃にて3分間、その後、種々の回数のサイクルで、94℃にて30秒間、54℃にて45秒間、72℃にて1分間、その後、72℃で3分間行った。種々のサイクルを使用する理由は、種々のたん白質のmRNAは、細胞における発現レベルが異なるからである。G3PDHは、全部で28サイクル、Nurrlとp21Cip1は30サイクル、そしてp27Kip1とp57Kip2は33サイクル増幅された。前記dox処理後、0,1及び12時間後にアッセイを行った。Cip/kipメンバをコードするcDNAが陽性対照であったのに対して、GP3PDHアッセイは、これが内部対照として作用するハウスキーピング遺伝子であるがために行われた。
【0028】
その結果は、p27Kip1のmRNAは、いずれの測定時点においても誘導されていなかったが、p21Cip1は、1時間の処理後にアップレギュレーションされ、p57Kip2も12時間の処理後に顕著にアップレギュレーションされたが、最初は堆積した。p57Kip2とp21Cip1たん白質のレベルの対応する増加も観察された。
【0029】
別の実験において、前記テトラサイクリン依存転写因子を発現したMN9Dラインのサブクローンも、上述した要領でdoxによって処理され、細胞周期停止及びCki発現に対する影響が特異的で、Nurrl発現に依存するものであるか否かを調べた。これは実際に確認された。
【0030】
これらの実験は、Nurrlは実際は、p21Cip1とp57Kip2との両方を調節するが、その調節の機序は異なるものであるということを示している。後者の比較的遅い誘導は、Nurrlとの相関作用が直接的なものではなく、更に1つ又はそれ以上の中間工程が関与している、ということを示唆している。
【0031】
例3
これらの実験は、正常な野生型(Sv126/C57B16)マウスの胚腹側中脳における分子の発現を測定するために構成された。13.5日齢のマウス胚から矢状断片を取り出し、標準方法と、前出のウォリーン(Walleen)他に拠るジゴキシゲニン標識リボプローブを使用してin−situハイブリダイゼーションアッセイでアッセイした。p27Kip1分析は免疫蛍光アッセイによって行われたので、これには1つの例外がある。Nurrl、TH,p17Cip1,p27Kip1,p57Kip2の発現パターンを分析した。
【0032】
腹側中脳において強いNurrl発現が見られ、ゼッターストローム(Zetterstroem)他,Mol. Brain. Res. 41:111-120(1996)の結果が確認された。(E13.5)の時点で、p21Cip1は、全CNS中においてかなり全般的に分布していたのに対して、p57Kip2は特徴的な発現パターンを示し、主として脳室をライニングしている脳室有糸分裂活性細胞に局在化していた。それは、又、腹側中脳において、THによって示されたパターンから視覚的に識別不能なパターンにおいても検出された。それは、Nurrl発現ドメインと重複し、それが、分化中のDA細胞に発現されることを示した。これに対して、p27Kip1発現は、この時点では検出されなかった。E13.5腹側中脳からの冠状断片の免疫組織化学的画像診断と、共焦点画像診断との両方によって、p57Kip2とNurrlとが、発達中のDA細胞中に共発現されることが確認され、DA細胞分化の重要な段階、即ち、E13からE16.5までの間に、比較的一過性のp57Kip2発現があったことが銘記された。
【0033】
例4
これらの実験は、Nurrlが発達中のDAニューロンにおいてp57Kip2の発現を調節するか否かを調べるために構成された。上述したようにして、in situハイブリダイゼーションアッセイを、野生型及びNurrlヌル変異マウスに対して行った。前出のゼッターストローム(Zetterstroem)他を参照。E13.5で冠状断片を採取した。p57Kip2mRNAレベルは、NurrlとTHとの両方が野生型の胚においては分化DA細胞中に発現される、前記ヌルマウスの外套帯おいては劇的に減少した。p57Kip2は、外套帯においては選択的に減少調節されたが、隣接する脳室帯においては正常レベルに留まった。p57Kip2発現のレベル低下は、細胞不全によるものではなかった。というのは、En1/En2,Raldh 1及びPtx3等の他のDAマーカは、発達のこの段階において正常発現レベルに留まったからである。
【0034】
従って、これらの結果は、Nurrlが、成熟中の分裂終了DA細胞に於けるp57Kip2発現にとって必須であることを明確にしている。
【0035】
例5
前出のカストロ(Castro)他は、Nurrlは長い一般的には二極神経突起によって特徴付けられるMN9D細胞の形態的分化を誘導することを示した。ここに記載の実験は、p57Kip2がDA細胞成熟において機能的に重要であるか否かを調べるために構成された。
【0036】
これをテストするために、MN9D細胞を、強化緑色蛍光たん白質(EGFP)をコードする発現ベクターと、Nurrlとp57Kip2との一方又は両方と、前述したように、標準方法を使用して、コトランスフェクトした。EGFPを発現した細胞の数を、前記コトランスフェクション実験の三日後に数え、それらは、前出のカストロ(Castro)他に従って、分化したものと見なした。
【0037】
その結果は、p57Kip2の過剰発現は細胞分化を促進するのに不十分であるが、p57Kip2とNurrlとの発現は、細胞分化の劇的な賦活をもたらすものであることを示した。
【0038】
例6
これらの実験は、p57Kip2とNurrlとの間になんらかの直接的な相関作用が存在するか否かを判断するために構成された。これをテストするために、ヒト胚腎臓293細胞を使用した。これらを、pCMX−Flag−Nurrlを使用した“Flag”免疫タグされたNurrl、又は、レイノー(Reynaud)他,Mol. Cell Biol 19:7621-7629(1999)に記載されているように、pCMV−HA−p57Kip2を使用したHA−免疫タグされたp57Kip2のいずれか、又はこれらの両方でトランスフェクトした。トランスフェクションプロトコルは、前出のカストロ(Castro)他に従った。対照として、空ベクターを使用した。
【0039】
前記細胞のトランスフェクションと培養後、ディグマン(Digman)他,Nucleic Acids Res 11:1475-1489(1983)に従って、核内たん白質抽出物を得て、次に、これらを、SDS−PAGE上で分解した。核細胞抽出物を、抗−Nurrl又は抗−p57Kip2抗体のいずれかを使用して免疫沈降させた。次に、これらを、ジョゼフ(Joseph),Oncogene 20:2877-2888(2001)に従って、市販の抗−FLAG及びHA−抗体で免疫ブロットした。その結果は、これらのたん白質が物理的に相関作用することを示した。
【0040】
これらの実験に対する追跡実験で、前出のカストロ(Castro)他に従って、
agcttgagtt ttaaaaggtc atgctcaatt t
(配列識別番号10)と、その32P標識相補体NBRE(特異的Nurrl DNA結合部位)プローブとを使用して、ゲルシフト実験を行った。これは、定義されたNurrl結合部位である。前記配列“aaaggtca”は、特に重要であった。バンドをオートラジオグラフィーによって可視化した。Nurrlにおけるシフトと、NBREに結合したNurrl/p57Kip2複合物におけるスーパーシフトが見られた。更に別の実験において、前記抽出物と、HA特異的抗体との組み合わせは、NBREプローブに結合したNurrlに対するp57Kip2の結合を消滅させた。
【0041】
p57Kip2とNurrlとの間に直接的な相関作用があるか否かを調べる別の実験において、15日齢のラット胚の腹側中脳からの細胞を使用した。上述した手順に従って、全細胞抽出物を調製した。次に、これらを、抗−Nurrl又は抗−IgG(対照)抗体を使用して免疫沈降させた。その結果得られた免疫複合体を、上述したプロトコルに従って、抗−p57Kip2抗体を使用して免疫ブロットした。前述したように、p57Kip2をコードする発現ベクターによってトランスフェクトされたHEK−293細胞からの核細胞抽出物を、対照として使用した。これらの結果も、前記たん白質間の物理的相関作用を示した。
【0042】
これらの実験は、p57Kip2がNurrl転写活性を調節可能であるということを示唆した。このことについて以下の例で説明する。
【0043】
例7
p57Kip2とNurrlとの間の相関作用を確認するために、哺乳類細胞ツーハイブリッドアッセイを行った。前述のカストロ(Castro)他に記載の方法を使用して、発現ベクターVP16-p57Kip2とGal4DBD−Nurrl(1−262)のいずれか一方又は両方、および、H.simplexチミジンキナーゼ遺伝子最小プロモーター(パールマン(Perlmann)他,Genes Dev 9, 769-82 (1995)を参照)の上流側でクローニングされた4 UAS Gal4結合部位によって駆動されるルシフェラーゼレポーター遺伝子で、HEK−293細胞をコトランスフェクトした。VP16−p57Kip2は、pCMX−VP16からの、単純ヘルペスウイルスからのVP16転写トランス活性化ドメインをコードし、そのあと、全長、インフレームの、マウスp57Kip2のcDNA配列が続く。Gal4DBD−Nurrl (1−262)は、pCMX−Gal4ベクターの酵母Gal4 DNA結合ドメイン(残基1−147)とインフレームの、Nurrlの最初の262のアミノ酸残基をコードする。Gal4DBD−Nurrlプラスミドが使用された理由は、それが前記レポーター遺伝子をNurrlアミノ末端ドメイン内のトランス活性化ドメインの存在によって活性化するからである。更に、VP16のみをコードするプラスミドと、Gal4DBDのみをコードするプラスミドとが使用された。
【0044】
次に、細胞を収集し、前出のパールマン(Perlmann)他に従って分析した。β−ガラクトシダーゼ活性への正規化後、相対的光ユニット(RLU)を算出した。その結果は、予想通り、Gal4DBD−Nurrl (1−262)はレポーター遺伝子を活性化することを示した。レポーター遺伝子の活性化は、VP16−p57Kip2でのコトランスフェクションによって強力に増強された。これらの結果も、p57Kip2とNurrlとの間に物理的相関作用が起こることを示した。
【0045】
例8
この次の実験は、p21Cip1又はp27Kip1のいずれかがNurrlと相関作用するか否かを調べるように構成された。HEK−293細胞を、HA−p21Cip1又はHA−p27Kip1をコードする発現ベクターでトランスフェクトさせた。対照として空の発現ベクターを使用した。トランスフェクションは、前述した標準プロトコルに従って行われた。トランスフェクション処理が成功するように、細胞のトランスフェクションと培養後、核細胞抽出物を、前出のディグナム(Dignam)他に従って得て、SDS−PAGE上で分解した。次に、それらを、前出のジョゼフ(Joseph)他に従って、市販の抗−p21及び抗−p27抗体によって免疫ブロットした。
【0046】
次に、HEK−293細胞を、HA−p21Cip1又はHA−p27Kip1のいずれかをコードする発現ベクターと前記空のベクター(対照)、或いは、Flag−Nurrlをコードする発現ベクターpCMX−Flag−Nurrl、即ち、NurrlのFLAG標識化したもの、のいずれかでコトランスフェクトさせた。核細胞抽出物を得て、抗−Nurrl抗体を使用して免疫沈降させた。免疫複合体を、抗−p21Cip1又は抗−p27Kip1を使用して免疫ブロットした。すべてのプロトコルは前述したものに従った。その結果は、前記免疫ブロットが抗−p21Cip1又は抗−p27Kip1抗体によってプローブされた時になんらシグナルが発生しないことから、p21Cip1とp27Kip1のいずれもNurrlと相関作用しないこと、を示した。
【0047】
例9
これらの実験は、p57Kip2がNurrlの転写活性に対していかなるタイプの影響を与えるかを調べるように構成された。
【0048】
MN9D細胞を、先ず、前出のパールマン(Perlmann)他に記載されているように“NBRE−tk−luc”と称されるNBREの三つのコピーを含むルシフェラーゼレポータープラスミドと、Nurrlを発現するベクター、又は、p57Kip2を発現するベクターのいずれか、でトランスフェクトした。トランスフェクションと培養の24時間後に細胞を収集し、細胞抽出物を採取し、次に、これらのルシフェラーゼ活性と、対照として、β-ガラクトシダーゼ活性、とをアッセイした。
【0049】
その結果は、p57Kip2が、投与量依存的に、レポーター遺伝子活性に対して負の影響を与えることを示した。対照実験において、p57Kip2は、レチノール酸レポーター依存レポーター遺伝子を抑制しなかった。
【0050】
これらの結果から、Nurrlとp57Kip2は、これら二つのたん白質間の直接的相関作用に依存する可能性のある機序を介して、MN9D細胞の成熟化を誘導において協同作用するものであるという結論が導かれる。
【0051】
例10
この例は、前述したたん白質−たん白質相関作用の構造的特長を明らかにするように構成された実験を記載するものである。
【0052】
ベクターpCMX−Nurrl1−355,pCMX−Nurrl94−598及びpCMX−Nurrl1183−598を使用して、Nurrlの三つの切断端誘導体が作成された。第1のものは、カルボキシ末端LBD/AF2ドメインを欠失したもので、残りの二つは、それぞれ、AF1トランス活性化ドメインの最初のアミノ末端93及び182アミノ酸残基を欠失したものである。これらのベクターと、更に、NurrlとHA−p57Kip2とをコードするベクターとを、前述した要領で、HEK293細胞をトランスフェクションするのに使用した。全ての細胞は、HA−p57Kip2ベクターと、前記Nurrコンストラクトの1つ又は対照ベクターとによってコトランスフェクションされた。
【0053】
培養後、共免疫沈降アッセイを行い、これにより、Nurrlに対する抗体(前出のウォリーン(Walleen)他を参照)と、HAに対する抗体と、プロテインセファロース−プレ清澄化核抽出物をインキュベートした。抽出物は、核抽出物緩衝液中で一晩4℃で抗体とインキュベートされた。プロテインA又はプロテインGセファロースに結合した免疫複合体を、遠心分離によって収集し、RIPA緩衝液中で三回洗浄した。
【0054】
その結果は、カルボキシ末端LBD/AF2ドメインの欠失はp57Kip2との相関作用に影響しなかったのに対して、前記アミノ末端ドメインの短い欠失と長い欠失との両方は、相関作用を完全に消滅させたことを示した。
【0055】
追跡実験において、MN9D細胞を、前述したEGFPベクターと、前述した4つのNurrlベクターの1つのみ、又は、p57Kip2発現ベクターと共にコトランスフェクションし、細胞の成熟におけるNurrlと前記三つのNurrl切断誘導体の影響を調べた。分化を、前述したように三日後にアッセイした。
【0056】
前記Nurrl94−598とNurrl183−598誘導体は、成熟化の誘導においてp57Kip2と協同作用しなかったが、前記カルボキシ末端の欠失は、協同性と成熟化に対してなんら影響を与えなかった。Nurrlに加えて、前記三つの誘導体は、単体で発現された時には、MN9D細胞成熟化を誘導したが、但しそのレベルは低かった。従って、最高レベルの分化には、p57Kip2とp57Kip2と相互作用可能なNurrl誘導体との両方の発現が必要であった。
【0057】
又、Nurrl183−598のみならず野生型Nurrlもp57Kip2の発現を誘導することも観察された。これは、この誘導体が細胞成熟において、p57Kip2と機能的に協同作用することが出来ないことが、他の必須のNurrl機能の不活性化によるものではないということを示している。
【0058】
例11
p57Kip2とNurrlとの共発現によって誘導される成熟化に対する観察された影響に鑑みて、p57Kip2によって細胞成熟に対してどのような寄与が提供されるのかを調べるための実験を行った。
【0059】
これをテストするために、MN9D細胞を、前述したように、EGFP及びNurrlの発現ベクター単体、又は、アンチセンスコンストラクトpCMX−asp57Kip2と共に、コトランスフェクションさせた。このアンチセンスコンストラクトは、pEX10X−p57Kip2からのNcoI−HindIIIフラグメントを、そのEcoRI部位として、アンチセンス配向で発現ベクターpCMXに挿入することによって得られた。前述したように、成熟化を判断するためのものと同じシステムを使用した。“asp57”RNA、即ち、前記アンチセンスコンストラクト、は、Nurrlによって誘導される細胞成熟化を消滅させた。それは、又、内因性p57Kip2のたん白質発現と、更に、コトランスフェクションされた発現ベクターから発現されたp57Kip2のたん白質発現を抑制した。
【0060】
更に別の実験において、24時間後にトランスフェクション細胞を収集し、ここに参考文献として合体させるジョゼフ(Joseph)他,Oncogene 21:65-77(2002)に記載されているようにFACSによって分析した。細胞をEGFP発現によって選別し、細胞周期の異なる時期におけるそれらの分布を、DNAの定量化によって決定した。asp57発現は、恐らくは、前述したp21Cip1のNurrl誘導発現により、Nurrlによって誘導される細胞周期停止を乱さなかった。従って、これらのデータは、これらの細胞において、成熟化と細胞周期停止が互いに独立的に制御されることを示している。この観察の派生的内容について以下の例で詳述する。
【0061】
例12
この実験は、細胞成熟化のための具体的な要件を更に調べるために行われた。ワタナベ(Watanabe)他,Proc Natl AcadSci USA 95, 1392-7(1998)に記載されているようにp57Kip2の変異誘導体(p57CKmut)を使用した。なぜなら、p57CKmutは、CDK活性を抑制するために使用することができないからである。MN9D細胞を、EGFPとNurrl又はNurrl1−355のいずれかをコードする発現ベクター、のみ、又は、p57Kip2又はp57CKmutの発現ベクター、とトランスフェクションした。トランスフェクションは、前述した方法によって行われた。p57CKmutの発現は、細胞周期停止を誘導することは出来ないが、p57CKmutはMN9D細胞の成熟化においてNurrlと協同作用する能力は保持していた。これらのデータは、p57Kip2は、CDK活性を抑制するその能力とは独立的な機序によってDA細胞成熟化を促進する、ということを示している。それは、更に、p57Kip2が、Nurrlとの直接的相関作用に関連する機序を介して、MN9D細胞成熟化において協同作用するとの見解を支持している。
【0062】
例13
前述の実験において得られた結果は、p57Kip2がDA細胞発達に関与しているかもしれないことを示唆した。これを調べるために、p57Kip2ヌルマウスを使用した(前出のヤン(Yan)他を参照)。具体的には、上述したように、13.5日と18.5日齢のマウスの胚から冠状断片を採取し、それらを、同様に前述したように分析した。
【0063】
E13.5において、中脳DA細胞は、DAニューロンマーカ遺伝子、細胞増殖及びアポトーシスとに基づき、前記ヌルマウス胚において正常に見えた。
【0064】
しかしながら、E18.5において、p57Kip2の不在は腹側中脳におけるTH免疫応答性において劇的な低下をもたらした。TH発現は、青斑核と嗅球とを含む、カテコールアミン作動性ニューロンが位置する、脳の他の領域においては影響されなかった。従って、前記表現型は、中脳DAニューロンに対して選択的である。
【0065】
Nurrlのin situハイブリダイゼーションアッセイを行い、Nurrl発現が、前記ヌルマウスE18.5胚の腹側中脳においては減少するが、他の領域においては正常であることが確認された。
【0066】
更に、THとNurrlの発現は、腹側中脳の側方領域において特に弱く、このことは、TH及びNurrl発現細胞が変異脳の内側部位に留まることを示唆している。
【0067】
これらのデータは、後期懐胎期間中にp57Kip2発現の開始が起こるということの裏付けを提供するものである。
【0068】
例14
前の実験は、MN9D細胞におけるp57Kip2の重要性を示した。イン・ヴィヴォでのDA細胞分化の重要な段階におけるこのたん白質の発現によって、p57Kip2がDA細胞発達において役割を果たすものであるか否かを調べる追加実験が示唆された。より具体的には、この実験は、CSM14.1細胞におけるp57Kip2発現を調べるために行われた。
【0069】
CSM14.1は、ラットの胚腹側中脳から確立され、温度感応性ラージT−抗原によって不死化された細胞である(デュランド(Durand)他, Neurosci. Abstr.(1990)を参照)。これらの細胞が使用された理由は、それらは、未熟神経前駆体細胞に類似し、低濃度の血清中で39℃にて成長させ、成熟DA細胞表現型に分化するように誘導可能であるからである。
【0070】
CSM14.1細胞を、5%CO中で、10%FBS,100U/mlペニシリンと100g/mlストレプトマイシンとを添加したDME−Glutamax I中で35℃(許容温度)で維持した。細胞分化を誘導するために、FBSを1%に減らし、温度を39℃(非許容温度)に上げた、前出デュランド(Durand)他,Anat. 20: 61-69(2002)。これら両方のケースにおいて、細胞は4日間培養された。
【0071】
標準方法により細胞から全細胞抽出物を得て、SDS−PAGE上で分離した。次に、これらを市販の抗−Nurrl又は抗−p57抗体又は、一般ニューロンマーカNeuNで免疫ブロットした。均一なローディングを確保するためにフィルターをポンソー(Ponceau)染色した。その結果は、Nurrl,p57Kip2及びNeuNは、細胞が分化するとき誘導されることを示した。
【0072】
別の実験において、細胞のサンプルを、前述した発現ベクターpCMX−asp57Kip2でトランスフェクションし、33℃(10%FBS)又は39℃(1%FBS)のいずれかで4日間培養した。対照として、空発現ベクターを使用した。ここでも、細胞は4日間培養された。pCMX−asp57Kip2でのトランスフェクションによって、低レベルのNeuNによって示されているように、成熟表現型の獲得が抑制された。このことは、pCMX−asp57Kip2が細胞分化において重要であることを示している。
【0073】
例15
これらの実験は、p57Kip2ヌルマウス(E18.5マウス)の腹側中脳における細胞死の発生を分析するために構成された。
【0074】
ここに参考文献として合体させるジョゼフ(Joseph)他,Oncogene 21:65-77(2002)に従って、予めTH免疫検出の処理をされた細胞に対してin situ核内DNAフラグメンテーションアッセイを行った。陽性の細胞を、二の異なる個体によって個々に計数した。
【0075】
野生型との比較において、ヌルマウスにおいて全ドパミン作動性領域におけるアポトーシス細胞の増加が観察された。実際、この増加は2倍以上であった。この増加は、前記中脳ドパミン作動性領域に特異的であり、その他の部位では観察されず、これによって、中脳DA細胞の正常な発達においてp57Kip2が厳格に要求されるという結論が導かれた。
【0076】
以上の開示は、いかにNurrlが、DAニューロン分化及び成熟化の過程において必須であるp57Kip2の発現にとって必須であるかを説明するものである。従って、本発明の1つの特徴は、Nurrl又はその誘導体の投与を介して、DAニューロン分化又は成熟化を誘導するための方法に関する。ここで「その誘導体」とは、配列識別番号1に記載のNurrlのアミノ酸配列の70以上300以下のアミノ酸が欠失した分子を意味する。より好ましくは、「その誘導体」とは、配列識別番号1に記載のNurrlのアミノ酸配列の80以上275以下のアミノ酸が欠失した分子、そして最も好ましくは、配列識別番号1に記載のNurrlのアミノ酸配列の90以上250以下のアミノ酸が欠失した分子を意味する。前記欠失は、好ましくは、前記Nurrl分子のカルボキシ末端で起こる。
【0077】
本発明の前記誘導体は、配列識別番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも70%相同性である。好ましくは、誘導体は、配列識別番号1のアミノ酸配列に対して少なくとも85%相同性であり、更に好ましくは少なくとも90%相同性である。最も好ましくは、誘導体は配列識別番号1に記載アミノ酸配列に対して少なくとも95%相同性である。ここで「相同性」とは、配列識別番号1とある程度同一であり、その分子の残りの部分は、同類置換可能である、と定義される。「同類置換」とは、配列識別番号1にあるアミノ酸が、この分子の機能、即ち、そのp57Kip2と相関作用する能力、を変化させないアミノ酸によって置換可能である、ということを意味する。そのような置換は当業者に知られている。たとえば、もしも分子の特定のポイントにおいてグリシンが存在しているならば、アラニンによる置換は同類置換と考えられる。というのは、この置換は、機能に影響しないと予測されるからである。これに対して、もしも前記位置がシトシンによって占められている場合は、遊離スルフヒドリル基により、アラニンによる置換は、実際に、機能に影響を与えると予測される。ロイシンのイソロイシンによる置換、又はその逆、等のその他の例も当業者に知られているので、ここでは繰り返さない。
【0078】
そのような誘導体の具体例として、前述したように、Nurrlのアミノ酸1−335のみから成る前記Nurrl誘導体等の、前記分子のカルボキシ末端が欠失した切断バリアントがある。前記諸例に記載した方法を使用して、当業者はその他のバリアントを同定し使用することが可能である。前記Nurrl又はその誘導体は、たとえば、ポリペプチド自身として、又は、前述した例に記載したプラスミドによって例示されるように、組換えデリバリシステム、として投与することができる。ニューロンのほかに、幹細胞等の前駆体細胞も処理可能である。
【0079】
そのような分子を使用することは、CNS関連疾患、特に、ドパミン遊離ニューロンに関連するもの、の治療に有用であると考えられる。そのようなニューロンの変性は、パーキンソン病等の状態の特徴であり、これに対して精神分裂は、過剰なドパミン作動性システムによって特徴付けられる。当業者にとってその他の状態も知られており、ここではそれらについての説明は不要である。
【0080】
上述した実験は、p57Kip2とNurrlとが直接的な物理的相関作用を含むプロセスにおいて、ニューロンの成熟化において協同作用することを示している。従って、p57Kip2はCDK、そして、細胞タイプ特異的転写因子の両方と相関作用することがわかる。従って、本発明の別の特徴は、それを、Nurrl又はその誘導体等の前記分子のアゴニスト又はアンタゴニストなどの調節物質と接触させることによってp57Kip2を調節する方法である。
【0081】
尚、p57Kip2は、ニューロンが細胞周期を逸脱したあと、ニューロンの分化を促進する。このことは前記データに示されている。
【0082】
前記データは、Nurrlとp57Kip2との間に相反関係が存在することを示している。本質的には、Nurrlがp57Kip2の発現を活性化し、これに対してp57Kip2は前述したようにNurrlと協同作用する。前記例に詳述されているように、恐らく前記相関作用には少なくとも1つの中間工程が含まれる。又、発達中のDA細胞におけるp57Kip2の発現が、En1,En2,Raldh1及びPtx3等の大半のその他の分析されたマーカが正常に発現される発達段階においてNurrlに依存することも明らかである。
【0083】
前述したデータは、事実、p57Kip2がNurrlの転写活性に対して負の影響を与える可能性があることを示唆している。但し、別のプロモータの状況においては、これら二つの分子間の相関作用は正の影響を与える可能性があることも可能である。これにも拘わらず、本発明の更に別の態様は、Nurrlを抑制するべく、Nurrlに対して、p57Kip2又はその一部のいずれかを投与することによる、あるいは反対に、Nurrlを刺激するべく、p57Kip2に対する抗体などのp57Kip2アゴニスト、Nurrlの非機能性誘導体、等を添加することによる、細胞中のNurrl活性の調節に関する。
【0084】
ここに記載の発達機序は、他の細胞タイプのものに類似するものと推測される。たとえば、前記「背景技術」の項で説明したように、Ckiのための要件の一部は、それらのCDKインヒビタとしての機能から独立している。他のシステムからの結果がこれを支持している。たとえば、p57Kip2は、恐らく転写因子MyoDに関連するプロセスにおいて筋肉分化を促進することが知られている。更に、細胞増殖の制御と結びつかない機序を介して正常な肺胞の発達に必要とされるp21Cip2とp57Kip2の重複性の活性化(redundant activates)が存在する。前記分子は、又、増殖網膜前駆体細胞の制御と、アマクリン細胞サブセットの運命決定とにおいて機能することも証明されている。又、p27Xiclとして知られているp27Kip1のアフリカツメガエル(xenopus)同族体が、CDKの抑制を必要としない機序を介したミューラーグリア細胞分化に関与していることも観察されている。又、胎盤spongiotrophoblastの適切な発達が、CDK活性におけるなんら測定可能な増加無く、p57Kip2遺伝子標的化マウスにおいて乱されることも観察されている。
【0085】
全体として、ここに記載したDAニューロン発達の特徴付けは、たとえばパーキンソン病などにおける、特に治療用移植用に構成された幹細胞の使用に有用であると見なされる。たとえば、この点に関しては、ここに参考文献として合体させるキム(Kim)他,Nature 418:50-56(2002年7月4日)を参照。
【0086】
本発明のその他の特徴は、当業者にとって明らかであり、ここに繰り返す必要はない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列識別番号1に記載のNurrlのアミノ酸配列の70以上300以下のアミノ酸が欠失した単離Nurrl誘導体であって、前記誘導体は、配列識別番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも70%相同である、単離Nurrl誘導体。
【請求項2】
配列識別番号1に記載のNurrlのアミノ酸配列の80以上275以下のアミノ酸が欠失している、請求項1の単離Nurrl誘導体。
【請求項3】
配列識別番号1に記載のNurrlのアミノ酸配列の90以上250以下のアミノ酸が欠失している、請求項1の単離Nurrl誘導体。
【請求項4】
前記アミノ酸を配列識別番号1のC末端において欠失している、請求項1の単離Nurrl誘導体。
【請求項5】
前記誘導体は、配列識別番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも85%相同である、請求項1の単離Nurrl誘導体。
【請求項6】
前記誘導体は、配列識別番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%相同である、請求項1の単離Nurrl誘導体。
【請求項7】
前記誘導体は、配列識別番号1に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも95%相同である、請求項1の単離Nurrl誘導体。
【請求項8】
Nurrlのアミノ酸1-182が欠失している、請求項1の単離Nurrl誘導体。
【請求項9】
Nurrlのアミノ酸1-355から成る、請求項1の単離Nurrl誘導体。
【請求項10】
Nurrlのアミノ酸1-93が欠失している、請求項1の単離Nurrl誘導体。
【請求項11】
請求項1の単離Nurrl誘導体をコードする単離核酸分子。
【請求項12】
プロモータに作動リンクされている、請求項1の単離核酸分子を備える発現ベクター。
【請求項13】
請求項1の単離核酸分子でトランスフォーム又はトランスフェクトされた組換え細胞。
【請求項14】
請求項12の発現ベクターでトランスフォーム又はトランスフェクトされた組換え細胞。
【請求項15】
ドパミン産生ニューロン又は幹細胞を、前記ニューロン又は幹細胞の分化又は成熟化を刺激するのに十分な、Nurrl又は請求項1のNurrl誘導体と接触させる工程を含む、ドパミン産生ニューロンの分化又は成熟化を誘導する方法。
【請求項16】
前記Nurrl誘導体は、Nurrlのカルボキシ末端の一部を欠失している、請求項15の方法。
【請求項17】
前記Nurrl誘導体はNurrlのアミノ酸1-355から成る、請求項16の方法。
【請求項18】
更に、前記ドパミン産生ニューロン又は幹細胞を、該ニューロン又は幹細胞の分化又は成熟化を刺激するのに十分な、p57Kip2と接触させる工程を有する、請求項15の方法。
【請求項19】
パーキンソン病の患者に於ける分化と成熟化を誘導する、請求項15の方法。
【請求項20】
前記細胞を調節物質と接触させる工程を有する、p57Kip2を発現する細胞におけるp57Kip2の発現を調節する方法。
【請求項21】
前記調節物質は、Nurrl又は請求項1のNurrl誘導体である、請求項20の方法。
【請求項22】
前記Nurrl誘導体は、Nurrlのカルボキシ末端の一部を欠失している、請求項21の方法。
【請求項23】
前記Nurrl誘導体は、Nurrlのアミノ酸1−355から成る、請求項21の方法。
【請求項24】
Nurrlをp57Kip2又はその一部と接触させる工程を有する、細胞におけるNurrl活性を抑制する方法。
【請求項25】
Nurrlをp57Kip2アンタゴニストと接触させる工程を有する、細胞におけるNurrl活性を刺激する方法。
【請求項26】
前記アンタゴニストは、p57Kip2に対する抗体である、請求項25の方法。
【請求項27】
前記アンタゴニストは、Nurrlの非機能性誘導体である、請求項25の方法。
【請求項28】
ニューロン細胞の発達を、それを必要とする対象体において、誘導する方法であって、幹細胞のサンプルを、対象体のニューロン細胞発達が望まれる部位に導入する工程を有し、その後、p57Kip2とNurrl又は請求項1のNurrl誘導体を、前記幹細胞の成熟化を加速するのに十分な量、投与する、ニューロン細胞の発達を誘導する方法。
【請求項29】
ニューロン細胞の発達を、それを必要とする対象体において、誘導する方法であって、幹細胞のサンプルを、対象体のニューロン細胞発達が望まれる部位に導入する工程を有し、前記サンプルは、導入に先立って、前記幹細胞の成熟化を加速するのに十分な量のp57Kip2と、Nurrl又は請求項1のNurrl誘導体とによって処理されている、ニューロン細胞の発達を誘導する方法。
【請求項30】
幹細胞を、該幹細胞のドパミン産生細胞への分化を刺激するのに十分な量の、p57Kip2と、Nurrl又は請求項1のNurrl誘導体とに接触させる工程を有する、ドパミン産生細胞を生成する方法。

【公表番号】特表2006−511205(P2006−511205A)
【公表日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−531219(P2004−531219)
【出願日】平成15年8月26日(2003.8.26)
【国際出願番号】PCT/US2003/026687
【国際公開番号】WO2004/018643
【国際公開日】平成16年3月4日(2004.3.4)
【出願人】(500025570)ルードヴィッヒ インスティテュート フォー キャンサー リサーチ (16)
【Fターム(参考)】