説明

ドプラ画像表示方法および装置

【課題】クラッタ成分を残すことなく、確実に血流成分のみを表示することができるドプラ画像表示方法を得る。
【解決手段】被検体に向けてプローブ11から超音波を送信し、被検体で反射した反射超音波を受信して得た超音波エコー信号からドプラ信号を生成し、このドプラ信号をハイパスフィルタリング処理にかけて、クラッタ成分を除去する一方血流成分を抽出し、このハイパスフィルタリング処理後のドプラ信号に基づいて、血流成分を示す画像を表示手段14に表示するドプラ画像表示方法において、光源13から被検体にパルス光を照射し、このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出手段11,22により検出して光音響信号を得、フィルタ帯域制御手段40,42により、この光音響信号が示す血流成分の周波数帯域に基づいてハイパスフィルタリング処理の遮断周波数を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波エコー信号からドプラ信号を得、そのドプラ信号に基づいて血流成分を表示するようにしたドプラ画像表示方法および、その方法を実施する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1や2に示されているように、人体等の被検体に向けて超音波を送信し、そのとき被検体で反射した反射超音波を受信して得た超音波エコー信号からドプラ信号(ドプラ偏移信号)を生成し、このドプラ信号に基づいて血流成分を表示するドプラ画像表示方法が公知となっている。この種のドプラ画像表示方法においては一般に、ドプラ信号をハイパスフィルタリング処理にかけて、低周波成分であるクラッタ成分つまり、ゆっくりした動きの有る臓器等の成分を除去して、高周波成分である血流成分を抽出するようにしている。なお上記ハイパスフィルタリング処理は、通常、MTI(Moving Target Indicator)フィルタを用いてなされる。
【0003】
他方、例えば特許文献3や4に示されているように、光音響効果を利用して生体の内部を画像化する光音響画像化装置が知られている。この光音響画像化装置においては、例えばパルスレーザ光等のパルス光が生体に照射される。このパルス光の照射を受けた生体内部では、パルス光のエネルギーを吸収した生体組織が熱によって体積膨張し、音響波を発生する。そこで、この音響波を超音波プローブなどで検出し、それにより得られた電気的信号(光音響信号)に基づいて生体内部を可視像化することが可能となっている。この光音響画像化技術は、特定の吸光体から放射される音響波のみに基づいて画像を構築するようにしているので、生体における特定の組織、例えば血管等を画像化するのに好適なものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−312632号公報
【特許文献2】特開平8−010259号公報
【特許文献3】特開2005−21380号公報
【特許文献4】特表2010−512929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述のハイパスフィルタリング処理により高周波成分である血流成分を抽出するようにした従来のドプラ画像表示方法においては、ハイパスフィルタリング処理の際に血流成分の一部が失われたり、クラッタ成分が除去し切れない、といった問題が認められていた。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、クラッタ成分を残すことなく、確実に血流成分のみを表示することができるドプラ画像表示方法を提供することを目的とする。
【0007】
また本発明は、上述のようなドプラ画像表示方法を実施することができるドプラ画像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による第1のドプラ画像表示方法は、
被検体に向けて超音波を送信し、
前記被検体で反射した反射超音波を受信して得た超音波エコー信号からドプラ信号を生成し、
このドプラ信号をハイパスフィルタリング処理にかけて、クラッタ成分を除去する一方血流成分を抽出し、
前記ハイパスフィルタリング処理後のドプラ信号に基づいて、前記血流成分を示す画像を表示するドプラ画像表示方法において、
前記被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、
このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得、
この光音響信号が示す血流成分の周波数帯域に基づいて、前記ハイパスフィルタリング処理の遮断周波数を決定することを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明による第2のドプラ画像表示方法は、
被検体に向けて超音波を送信し、
前記被検体で反射した反射超音波を受信して得た超音波エコー信号からドプラ信号を生成し、
このドプラ信号をハイパスフィルタリング処理にかけて、クラッタ成分を除去する一方血流成分を抽出し、
前記ハイパスフィルタリング処理後のドプラ信号に基づいて、前記血流成分を示す画像を表示するドプラ画像表示方法において、
前記被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、
このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得、
この光音響信号が示す血流成分のピーク値および/またはスペクトラム幅に基づいて、前記ハイパスフィルタリング処理に用いるハイパスフィルタのフィルタ特性を決定することを特徴とするものである。
【0010】
なお、この第2のドプラ画像表示方法においては、前記ピーク値がより大きい場合および/または前記スペクトラム幅がより狭い場合ほど、フィルタ特性を遮断特性がより急峻なものとすることが望ましい。
【0011】
また、以上述べた本発明による第1、第2のドプラ画像表示方法においては、ハイパスフィルタリング処理をMTIフィルタによって行うことが望ましい。
【0012】
さらに、本発明による第3のドプラ画像表示方法は、
被検体に向けて超音波を送信し、
前記被検体で反射した反射超音波を受信して得た超音波エコー信号からドプラ信号を生成し、
このドプラ信号に基づいて、前記血流成分を示す画像を表示するドプラ画像表示方法において、
前記被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、
このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得、
この光音響信号が示す血流成分に近似するように、前記画像における血流成分を補正することを特徴とするものである。
【0013】
なお上記の補正は、空間フィルタリング処理によって行うことが望ましい。
【0014】
また、以上説明した本発明による第1〜3のドプラ画像表示方法は、カラードプラ画像、パルスドプラ画像、連続波ドプラ画像およびパワードプラ画像のいずれを表示する方法においても適用可能である。
【0015】
他方、本発明による第1のドプラ画像表示装置は、
被検体に向けて超音波を送信する超音波送信手段と、
前記被検体で反射した反射超音波を受信して超音波エコー信号を得る超音波受信手段と、
前記超音波エコー信号からドプラ信号を生成する手段と、
前記ドプラ信号からクラッタ成分を除去する一方血流成分を抽出するハイパスフィルタリング手段と、
このハイパスフィルタリング手段を経たドプラ信号に基づいて、前記血流成分を示す画像を表示する画像表示手段とを備えてなるドプラ画像表示装置において、
前記被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射する光照射手段と、
このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得る手段と、
この光音響信号が示す血流成分の周波数帯域に基づいて、前記ハイパスフィルタリング処理の遮断周波数を決定するフィルタ帯域制御手段とが設けられたことを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明による第2のドプラ画像表示装置は、
被検体に向けて超音波を送信する超音波送信手段と、
前記被検体で反射した反射超音波を受信して超音波エコー信号を得る超音波受信手段と、
前記超音波エコー信号からドプラ信号を生成する手段と、
前記ドプラ信号からクラッタ成分を除去する一方血流成分を抽出するハイパスフィルタリング手段と、
このハイパスフィルタリング手段を経たドプラ信号に基づいて、前記血流成分を示す画像を表示する画像表示手段とを備えてなるドプラ画像表示装置において、
前記被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射する光照射手段と、
このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得る手段と、
この光音響信号が示す血流成分のピーク値および/またはスペクトラム幅に基づいて、前記ハイパスフィルタリング処理に用いるハイパスフィルタのフィルタ特性を決定するフィルタ特性制御手段とが設けられたことを特徴とするものである。
【0017】
なお上記のフィルタ特性制御手段は、前記ピーク値がより大きい場合および/または前記スペクトラム幅がより狭い場合ほど、フィルタ特性の遮断特性をより急峻にするものであることが望ましい。
【0018】
また、以上述べた本発明による第1、第2のドプラ画像表示装置において、ハイパスフィルタリング手段はMTIフィルタからなるものであることが望ましい。
【0019】
さらに、本発明による第3のドプラ画像表示装置は、
被検体に向けて超音波を送信する超音波送信手段と、
前記被検体で反射した反射超音波を受信して超音波エコー信号を得る超音波受信手段と、
前記超音波エコー信号からドプラ信号を生成する手段と、
前記ドプラ信号に基づいて、前記血流成分を示す画像を表示する画像表示手段とを備えてなるドプラ画像表示装置において、
前記被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射する光照射手段と、
このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得る手段と、
この光音響信号が示す血流成分に近似するように、前記画像における血流成分を補正する補正手段とが設けられたことを特徴とするものである。
【0020】
なお上記の補正手段は、空間フィルタリング手段であることが望ましい。
【0021】
また、以上説明した本発明による第1〜3のドプラ画像表示装置は、カラードプラ画像、パルスドプラ画像、連続波ドプラ画像およびパワードプラ画像のいずれを表示するものとして形成されてもよい。
【発明の効果】
【0022】
先に述べた通り光音響画像化技術は、特定の吸光体から放射される音響波のみに基づいて画像を構築するようにしているので、血流の有る血管を精度良く画像化できるものとなっている。つまり、この光音響画像化技術によれば、良好な光吸収体である血液が流れている部分を正確に画像化可能となっている。
【0023】
この点に着目して本発明による第1のドプラ画像表示方法においては、前述した通り、被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得、この光音響信号が示す血流成分の周波数帯域に基づいて、ハイパスフィルタリング処理の遮断周波数を決定するようにしたので、正確に血流の有る部分を示している光音響信号を利用して上記遮断周波数を、クラッタ成分を残すことなく、確実に血流成分のみを残せる適正な値に決めることが可能になる。そこでこのドプラ画像表示方法によれば、クラッタ成分を残すことなく、確実に血流成分のみを示すドプラ画像を表示できるようになる。
【0024】
また本発明による第2のドプラ画像表示方法でも上記の点に着目して、被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得、この光音響信号が示す血流成分のピーク値および/またはスペクトラム幅に基づいて、前記ハイパスフィルタリング処理に用いるハイパスフィルタのフィルタ特性を決定するようにしたので、正確に血流の有る部分を示している光音響信号を利用してハイパスフィルタのフィルタ特性を、クラッタ成分を残すことなく、確実に血流成分のみを残せる適正な値に決めることが可能になる。そこでこのドプラ画像表示方法によれば、クラッタ成分を残すことなく、確実に血流成分のみを示すドプラ画像を表示できるようになる。
【0025】
また本発明による第3のドプラ画像表示方法でも上記の点に着目して、被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得、この光音響信号が示す血流成分に近似するように、ドプラ画像における血流成分を補正しているので、正確に血流の有る部分を示している光音響信号を利用して、クラッタ成分を残すことなく、確実に血流成分のみを示すドプラ画像を表示できるようになる。
【0026】
他方、本発明による第1のドプラ画像表示装置は、前述した通り、被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射する光照射手段と、このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得る手段と、この光音響信号が示す血流成分の周波数帯域に基づいて、ハイパスフィルタリング処理の遮断周波数を決定するフィルタ帯域制御手段とが設けられたものであるので、この装置によれば本発明による第1のドプラ画像表示方法を実施可能となる。
【0027】
また本発明による第2のドプラ画像表示装置は、前述した通り、被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射する光照射手段と、このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得る手段と、この光音響信号が示す血流成分のピーク値および/またはスペクトラム幅に基づいて、ハイパスフィルタリング処理に用いるハイパスフィルタのフィルタ特性を決定するフィルタ特性制御手段とが設けられたものであるので、この装置によれば本発明による第2のドプラ画像表示方法を実施可能となる。
【0028】
また本発明による第3のドプラ画像表示装置は、前述した通り、被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射する光照射手段と、このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得る手段と、この光音響信号が示す血流成分に近似するように、ドプラ画像における血流成分を補正する補正手段とが設けられたものであるので、この装置によれば本発明による第3のドプラ画像表示方法を実施可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態によるドプラ画像表示装置の概略構成を示すブロック図
【図2】光音響信号が示す血流成分を示すグラフ
【図3】本発明によるハイパスフィルタの遮断周波数の設定を説明する図
【図4】本発明によるハイパスフィルタ特性の設定を説明する図
【図5】本発明によるドプラ画像の補正を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるドプラ画像表示方法を実施する装置の基本構成を示すブロック図である。このドプラ画像表示装置10は一例としてカラードプラ画像表示装置であって、光音響画像と超音波画像の双方を取得可能とされたもので、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、レーザ光源ユニット13、および例えばCRTや液晶表示装置等からなる画像表示手段14を備えている。
【0031】
上記レーザ光源ユニット13は、一例として中心波長756nmのレーザ光を発するものとされている。レーザ光源ユニット13から出射したレーザ光は被検体に照射される。このレーザ光は、例えば複数の光ファイバなどの導光手段を用いてプローブ11まで導光され、プローブ11の部分から被検体に向けて照射されるのが望ましい。
【0032】
プローブ11は、被検体に対する超音波の出力(送信)、および被検体から反射して戻って来る反射超音波の検出(受信)を行う。そのためにプローブ11は、例えば一次元に配列された複数の超音波振動子を有する。またプローブ11は、被検体内の観察対象物がレーザ光源ユニット13からのレーザ光を吸収することで生じた超音波(音響波)を、上記複数の超音波振動子によって検出する。プローブ11は、上記音響波を検出して音響波検出信号を出力し、また上記反射超音波を検出して超音波エコー信号を出力する。
【0033】
なお、このプローブ11に上述した導光手段が結合される場合は、その導光手段の端部つまり複数の光ファイバの先端部等が、上記複数の超音波振動子の並び方向に沿って配置され、そこから被検体に向けてレーザ光が照射される。以下では、このように導光手段がプローブ11に結合される場合を例に取って説明する。
【0034】
被検体の光音響画像情報を得る際、あるいは超音波画像を取得する際、プローブ11は上記複数の超音波振動子が並ぶ一次元方向に対してほぼ直角な方向に移動され、それにより被検体がレーザ光および超音波によって二次元走査される。この走査は、検査者が手操作でプローブ11を動かして行ってもよく、あるいは、走査機構を用いてより精密な二次元走査を実現するようにしてもよい。
【0035】
超音波ユニット12は、受信回路22、受信メモリ23、データ分離手段24、光音響情報処理部25、CF(カラーフロー)モード処理部26、Bモード処理部27、送信制御回路30、および該超音波ユニット12内の各部等の動作を制御する制御手段31を有している。
【0036】
上記受信回路22は、プリアンプやAD変換器等を含むものであり、プローブ11が出力した音響波検出信号および超音波エコー信号を受信する。受信回路22は、受信した音響波検出信号および超音波エコー信号をプリアンプにより増幅した後、サンプリング手段としての上記AD変換器によりサンプリングして、それぞれデジタル信号である光音響データおよび超音波データに変換し、さらにこの変換後のデータに位相整合、直交検波等の処理を施す。なお上記サンプリングは、例えば外部から入力されるADクロック信号に同期して、所定のサンプリング周期でなされる。
【0037】
レーザ光源ユニット13は、Ti:Sapphireレーザ等からなるQスイッチパルスレーザ32と、その励起光源であるフラッシュランプ33とを含むものである。このレーザ光源ユニット13には、前記制御手段31から光出射を指示する光トリガ信号が入力されるようになっており、該光トリガ信号を受けると、フラッシュランプ33を点灯させてQスイッチパルスレーザ32を励起する。制御手段31は、例えばフラッシュランプ33がQスイッチパルスレーザ32を十分に励起させると、Qスイッチトリガ信号を出力する。Qスイッチパルスレーザ32は、Qスイッチトリガ信号を受けるとそのQスイッチをオンにし、波長756nmのパルスレーザ光を出射させる。
【0038】
ここで、フラッシュランプ33の点灯からQスイッチパルスレーザ33が十分な励起状態となるまでに要する時間は、Qスイッチパルスレーザ33の特性などから見積もることができる。なお、上述のように制御手段31からQスイッチを制御するのに代えて、レーザ光源ユニット13内において、Qスイッチパルスレーザ32を十分に励起させた後にQスイッチをオンにしてもよい。その場合は、Qスイッチをオンにしたことを示す信号を超音波ユニット12側に通知してもよい。
【0039】
また制御手段31は、送信制御回路30に、超音波送信を指示する超音波トリガ信号を入力する。送信制御回路30は、この超音波トリガ信号を受けると、プローブ11から超音波を送信させる。制御手段31は、先に前記光トリガ信号を出力し、その後、超音波トリガ信号を出力する。光トリガ信号が出力されることで被検体に対するレーザ光の照射、および音響波の検出が行われ、その後、超音波トリガ信号が出力されることで被検体に対する超音波の送信、および反射超音波の検出が行われる。
【0040】
制御手段31はさらに、受信回路22の前記AD変換器に対して、サンプリング開始を指示するサンプリングトリガ信号を出力する。このサンプリングトリガ信号は、前記光トリガ信号が出力された後で、かつ超音波トリガ信号が出力される前、より好ましくは被検体に実際にレーザ光が照射されるタイミングで出力される。そのためにサンプリングトリガ信号は、例えば制御手段31がQスイッチトリガ信号を出力するタイミングに同期して出力される。受信回路22のAD変換器は上記サンプリングトリガ信号を受けると、プローブ11が出力して受信回路22が受信した音響波検出信号のサンプリングを開始する。
【0041】
制御手段31は、光トリガ信号を出力した後、音響波の検出を終了するタイミングで超音波トリガ信号を出力する。このとき、受信回路22のAD変換器は音響波検出信号のサンプリングを中断せず、サンプリングを継続して実施する。言い換えれば、制御手段31は、上記AD変換器が音響波検出信号のサンプリングを継続している状態で、超音波トリガ信号を出力する。超音波トリガ信号に応答してプローブ11が超音波送信を行うことで、プローブ11の検出対象は、音響波から反射超音波に変わる。上記AD変換器は、検出された超音波エコー信号のサンプリングを継続することで、音響波検出信号と超音波エコー信号とを、連続的にサンプリングする。
【0042】
受信回路22は、サンプリングして得られた光音響データおよび超音波データを、共通の受信メモリ23に格納する。受信メモリ23に格納されたサンプリングデータは、ある時点までは光音響データであり、ある時点からは超音波データとなる。データ分離手段24は、受信メモリ23に格納された光音響データと超音波データとを分離し、光音響データは光音響情報処理部25に入力され、超音波データはCFモード処理部26およびBモード処理部27に入力される。
【0043】
以下、ドプラ画像の生成および表示について説明する。図1のBモード処理部27には前述した通り超音波データが入力され、Bモード処理部27はこの超音波データに基づいて、反射超音波の振幅を点の明るさ(輝度)として示す通常の超音波断層画像を生成する。この超音波断層画像を示す画像信号は、B/CF混合表示処理部46に入力される。なおこの場合、後述するドプラデータを生成するために、超音波の送受信は同一断層面に関して複数回繰り返される。そして上記Bモードの超音波断層画像も、それら複数回の超音波送受信で得た超音波データに基づいて生成される。
【0044】
そして、上記複数回の超音波送受信で得られた各超音波データはCFモード処理部26に入力される。CFモード処理部26のMTI処理部42は、MTIフィルタや自己相関演算部等を有するものである。MTI処理部42は、まずMTIフィルタにより上記超音波データから、クラッタ成分である比較的低周波の信号成分を除去し、それよりも高周波の成分である血流成分を抽出するハイパスフィルタリング処理を行う。次いでMTI処理部42は、ハイパスフィルタリング処理後の信号に対して自己相関演算等を行うことにより、ドプラ偏移信号を得る。このドプラ偏移信号は血流情報演算部43に入力される。血流情報演算部43は入力された信号から、血流速度、血流エコー強度および血流速度分散等を算出し、例えば浮動小数で保持された各点の血流エコー強度値をカラーマッピングして、RGB信号として出力する。
【0045】
この血流情報演算部43の出力は次にノイズ除去処理部44においてノイズ除去処理を受けた後、後処理部45に入力される。後処理部45は、上記「1」が与えられた点については例えば赤色で着色し、「0」が与えられた点については着色をしないカラーフロー処理を行い、その処理による画像、つまりカラードプラ画像を示す画像信号を前記B/CF混合表示処理部46に入力する。B/CF混合表示処理部46はこのカラードプラ画像すなわち血流成分がカラーマップとして示される画像と、前記Bモード処理による通常の超音波断層画像とを重ね合わせて合成し、その合成画像を画像表示手段14に表示させる。
【0046】
以上の処理は、前述したプローブ11の移動による走査に伴って、被検体の複数の断面について逐次行われる。それら複数の断面に関するカラードプラ画像および超音波断層画像を用いれば、血流部分をカラーマップとして三次元的に示す画像を生成、表示することも可能である。
【0047】
図3は、上記MTI処理部42によるハイパスフィルタリング処理における遮断周波数の例を示すものである。同図(1)に示されるようにMTIフィルタの遮断周波数がf2に設定されているとすると、ドプラ偏移信号から、クラッタ成分である低周波信号成分とともに血流成分も除去されてしまうことになる。このように極端ではないにしても、MTIフィルタの遮断周波数の設定が不適切であると、ドプラ偏移信号から血流成分の一部が除去される問題が発生し得る。
【0048】
また反対に、MTIフィルタの遮断周波数がf2よりも極端に低い場合は、血流成分は除去されないものの、クラッタ成分の多くが除去されずに抽出されてしまう問題も発生し得る。
【0049】
以下、上記の問題を防止する点について説明する。図1に示した光音響情報処理部25のスペクトラム処理部40は、上記ドプラ偏移信号を生成した超音波データを得た断面と同じ断面に関する光音響データから、それが示す血流部分のスペクトラムを解析して、例えば該スペクトラムのピーク値、スペクトラム幅、ピーク値を取る周波数等を求める。このスペクトラムは例えば図2に示すようなものであり、前述したように血流部分を精度良く画像化できる光音響データに基づくものであるから、該スペクトラムは、血流成分を正確に示すものとなっている。スペクトラム処理部40は、このスペクトラムの最低周波数f1を求める。なおこの最低周波数f1は、例えば(ピーク値を取る周波数)−(スペクトラム幅/2)なる計算によって求められる。
【0050】
スペクトラム処理部40は、上述のようにして求めた最低周波数f1を示す情報を、前記MTI処理部42に入力する。MTI処理部42はこの情報に基づいて、前記ハイパスフィルタリング処理における遮断周波数を、図2(2)に示すような周波数f3に設定する。なおこの周波数f3は一例として、上記最低周波数f1よりも所定周波数Δfだけ高い値とされたものである。MTIフィルタの遮断周波数を上述のようなf3の値とすることにより、図2(2)に明示されている通り、クラッタ成分を残すことなく、確実に血流成分のみを示すカラードプラ画像を表示できるようになる。
【0051】
以上の説明から明らかな通り本実施形態では、スペクトラム処理部40およびMTI処理部42がフィルタ帯域制御手段を構成している。また上記所定周波数Δfの適切な値は、実験や経験に基づいて求めることができる。
【0052】
次に、本発明の別の実施形態によるドプラ画像表示方法について説明する。本実施形態の方法も、図1に示したカラードプラ画像表示装置10によって実施され得るものである。すなわち本実施形態においては、スペクトラム処理部40が求めた血流成分のピーク値およびスペクトラム幅に基づいて、MTI処理部42がMTIフィルタの特性を決定する。より詳しくは、血流成分のピーク値がより大きいほど、そして上記スペクトラム幅がより狭いほど、MTIフィルタの遮断特性がより急峻なものに設定される。
【0053】
図4は、以上のことを分かりやすく示すものである。つまり同図の(1)と(2)は光音響データが示す血流成分を2つ例示するものであるが、前者の例は後者の例と比べると、ピーク値がより大きく、かつスペクトラム幅がより狭くなっている。そこでこの場合は、図2中に1点鎖線で示すMTIフィルタの遮断特性を、(1)の場合はより急峻なチェビシェフタイプの特性とし、(2)の場合は比較的ゆるやかなバターワースタイプの特性とする。より具体的には、フィルタ係数の一部あるいは全部が互いに異なる複数タイプのフィルタ特性を、それぞれ上記ピーク値とスペクトラム幅との組毎に対応させて記憶手段に記憶させておき、検出されたピーク値およびスペクトラム幅からフィルタ特性を選択し、その選択された特性のフィルタ係数をMTIフィルタにおいて設定するのが望ましい。
【0054】
なお本実施形態では、光音響データが示す血流成分のピーク値とスペクトラム幅の双方に基づいてフィルタ特性を決定するようにしているが、ピーク値とスペクトラム幅の一方だけに基づいてフィルタ特性を決定するようにしてもよい。
【0055】
以上の説明から明らかな通り本実施形態では、スペクトラム処理部40およびMTI処理部42がフィルタ特性制御手段を構成している。
【0056】
次に、本発明のさらに別の実施形態によるドプラ画像表示方法について説明する。本実施形態の方法も、図1に示したカラードプラ画像表示装置10によって実施され得るものである。すなわち本実施形態においては、データ分離手段24が出力した光音響データが、光音響情報処理部25の空間フィルタ作成部41に入力される。空間フィルタ作成部41は、前記ドプラ偏移信号を生成した超音波データを得た断面と同じ断面に関する光音響データから、血流が存在する点を「1」とし、血流が存在しない点を「0」として示すマスクからなる空間フィルタを作成する。なお図5(1)は、この空間フィルタを概念的に示すものであり、1つのマス目が複数画素やあるいは1画素からなるマスクサイズを示し、ハッチングを付した部分が血流部分を示している。
【0057】
上記の空間フィルタはCFモード処理部26の後処理部45に送られる。後処理部45はこの空間フィルタに基づいて、カラードプラ画像の血流部分を、光音響データが示す血流成分に近似するように補正する。すなわち、図5(2)のハッチングを付した部分はカラードプラ画像における血流成分を示しているが、これに図5(1)のマスクを重ねると、ハッチングを付した部分以外にも「1」部分があり、反対に血流成分を示す位置に「0」部分が存在することもある。そこで後処理部45は、ハッチングを付した部分以外に存在する「1」部分は血流部分として補間する一方、「0」部分に重なっている血流成分は除去する空間フィルタリング処理を行う。
【0058】
上記のマスクは、前述したように血流部分を精度良く画像化できる光音響データに基づくものであるから、このマスクを用いた上記空間フィルタリング処理を行えば、その処理後の信号によるカラードプラ画像は、クラッタ成分は残すことなく、正確に血流成分のみを示すものとなる。
【0059】
以上の説明から明らかな通り本実施形態では、空間フィルタ作成部41および後処理部45が、ドプラ画像における血流成分を補正する補正手段を構成している。
【0060】
なお以上説明した3つの実施形態のドプラ画像表示方法は、全て併せて実施されてもよいし、あるいはそれらの中の2つが併せて実施されてもよいし、さらには、それらの中の1つのみが実施されてもよい。
【0061】
また、本発明のドプラ画像表示装置および方法は、上記実施形態にのみ限定されるものではなく、上記実施形態の構成から種々の修正および変更を施したものも、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
10 カラードプラ画像表示装置
11 プローブ
12 超音波ユニット
13 レーザ光源ユニット
14 画像表示手段
22 受信回路
23 受信メモリ
24 データ分離手段
25 光音響情報処理部
26 CFモード処理部
27 Bモード処理部
30 送信制御回路
31 制御手段
32 Qスイッチレーザ
33 フラッシュランプ
40 スペクトラム処理部
41 空間フィルタ作成部
42 MTI処理部
43 血流情報演算部
44 ノイズ除去処理部
45 後処理部
46 B/CF混合表示処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に向けて超音波を送信し、
前記被検体で反射した反射超音波を受信して得た超音波エコー信号からドプラ信号を生成し、
このドプラ信号をハイパスフィルタリング処理にかけて、クラッタ成分を除去する一方血流成分を抽出し、
前記ハイパスフィルタリング処理後のドプラ信号に基づいて、前記血流成分を示す画像を表示するドプラ画像表示方法において、
前記被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、
このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得、
この光音響信号が示す血流成分の周波数帯域に基づいて、前記ハイパスフィルタリング処理の遮断周波数を決定することを特徴とするドプラ画像表示方法。
【請求項2】
被検体に向けて超音波を送信し、
前記被検体で反射した反射超音波を受信して得た超音波エコー信号からドプラ信号を生成し、
このドプラ信号をハイパスフィルタリング処理にかけて、クラッタ成分を除去する一方血流成分を抽出し、
前記ハイパスフィルタリング処理後のドプラ信号に基づいて、前記血流成分を示す画像を表示するドプラ画像表示方法において、
前記被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、
このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得、
この光音響信号が示す血流成分のピーク値および/またはスペクトラム幅に基づいて、前記ハイパスフィルタリング処理に用いるハイパスフィルタのフィルタ特性を決定することを特徴とするドプラ画像表示方法。
【請求項3】
前記ピーク値がより大きい場合および/または前記スペクトラム幅がより狭い場合ほど、前記フィルタ特性を遮断特性がより急峻なものとすることを特徴とする請求項2記載のドプラ画像表示方法。
【請求項4】
前記ハイパスフィルタリング処理をMTIフィルタによって行うことを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のドプラ画像表示方法。
【請求項5】
被検体に向けて超音波を送信し、
前記被検体で反射した反射超音波を受信して得た超音波エコー信号からドプラ信号を生成し、
このドプラ信号に基づいて、前記血流成分を示す画像を表示するドプラ画像表示方法において、
前記被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射し、
このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得、
この光音響信号が示す血流成分に近似するように、前記画像における血流成分を補正することを特徴とするドプラ画像表示方法。
【請求項6】
前記補正を空間フィルタリング処理によって行うことを特徴とする請求項5記載のドプラ画像表示方法。
【請求項7】
被検体に向けて超音波を送信する超音波送信手段と、
前記被検体で反射した反射超音波を受信して超音波エコー信号を得る超音波受信手段と、
前記超音波エコー信号からドプラ信号を生成する手段と、
前記ドプラ信号からクラッタ成分を除去する一方血流成分を抽出するハイパスフィルタリング手段と、
このハイパスフィルタリング手段を経たドプラ信号に基づいて、前記血流成分を示す画像を表示する画像表示手段とを備えてなるドプラ画像表示装置において、
前記被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射する光照射手段と、
このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得る手段と、
この光音響信号が示す血流成分の周波数帯域に基づいて、前記ハイパスフィルタリング処理の遮断周波数を決定するフィルタ帯域制御手段とが設けられたことを特徴とするドプラ画像表示装置。
【請求項8】
被検体に向けて超音波を送信する超音波送信手段と、
前記被検体で反射した反射超音波を受信して超音波エコー信号を得る超音波受信手段と、
前記超音波エコー信号からドプラ信号を生成する手段と、
前記ドプラ信号からクラッタ成分を除去する一方血流成分を抽出するハイパスフィルタリング手段と、
このハイパスフィルタリング手段を経たドプラ信号に基づいて、前記血流成分を示す画像を表示する画像表示手段とを備えてなるドプラ画像表示装置において、
前記被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射する光照射手段と、
このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得る手段と、
この光音響信号が示す血流成分のピーク値および/またはスペクトラム幅に基づいて、前記ハイパスフィルタリング処理に用いるハイパスフィルタのフィルタ特性を決定するフィルタ特性制御手段とが設けられたことを特徴とするドプラ画像表示装置。
【請求項9】
前記フィルタ特性制御手段が、前記ピーク値がより大きい場合および/または前記スペクトラム幅がより狭い場合ほど、前記フィルタ特性の遮断特性をより急峻にするものであることを特徴とする請求項8記載のドプラ画像表示装置。
【請求項10】
前記ハイパスフィルタリング手段がMTIフィルタからなるものであることを特徴とする請求項7から9いずれか1項記載のドプラ画像表示装置。
【請求項11】
被検体に向けて超音波を送信する超音波送信手段と、
前記被検体で反射した反射超音波を受信して超音波エコー信号を得る超音波受信手段と、
前記超音波エコー信号からドプラ信号を生成する手段と、
前記ドプラ信号に基づいて、前記血流成分を示す画像を表示する画像表示手段とを備えてなるドプラ画像表示装置において、
前記被検体にその内部で吸収される波長のパルス光を照射する光照射手段と、
このパルス光を受けて被検体から発せられた音響波を検出して光音響信号を得る手段と、
この光音響信号が示す血流成分に近似するように、前記画像における血流成分を補正する補正手段とが設けられたことを特徴とするドプラ画像表示装置。
【請求項12】
前記補正手段が空間フィルタリング手段であることを特徴とする請求項11記載のドプラ画像表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate