説明

ドライガスシール構造

【課題】ハウジングの内部に超臨界状態の流体が収容される回転機械に適用した場合でも、回転軸の駆動開始時にシール隙間で不具合が生じることのないドライガスシール構造を提供する。
【解決手段】本発明に係るドライガスシール構造10は、超臨界状態の流体を収容するハウジング12と、該ハウジング12を貫通する回転軸13と、該回転軸13と一体的に回転する回転環25と、回転軸13の停止時に回転環25と当接し、回転軸13の回転時に回転環25との間にシール隙間30を開けた状態で静止する静止環28と、シール隙間30の入口部分に対し、流体の一部を供給する循環配管路20と、循環配管路20を流れる流体の温度を調節する温調装置と、回転軸13を駆動する前に、シール隙間30の入口部分が所定温度まで加熱されるよう、温調装置の動作を制御する制御部と、を備えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハウジングを貫通して設けられたドライガスシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ハウジングを貫通して回転軸が設けられる回転機械では、回転軸とハウジング間を密封するためのシール構造として、ドライガスシール構造が広く用いられている(例えば、特許文献1参照)。ここで、図13は、従来例に係るドライガスシール構造70を示す概略縦断面図である。図に示すように、ドライガスシール構造70は、回転軸71に固定されて一体回転する回転環72と、この回転環72に対向するようにしてハウジング73に設けられた静止環74とから構成され、回転環72の表面に螺旋状の溝(不図示)が形成されるとともに、静止環74はコイルバネ75によって回転環72の側へ付勢される。このような構成によれば、回転軸71が停止している時は、コイルバネ75の付勢力によって回転環72と静止環74とが当接している。一方、回転軸71が回転すると、ハウジング73内のガスが螺旋状の溝の内部に導入され、その動圧効果によって回転環72と静止環74との間に微小なシール隙間76が生じる。そして、このシール隙間76を通してハウジング73内のガスが微量だけ外部へリークすることにより、回転軸71とハウジング73の間が密封される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−190783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のドライガスシール構造70は、いわゆるCOインジェクションポンプのように吐出圧が高圧なポンプに適用した場合、回転環72と静止環74との間に生じるシール隙間76において不具合が生じる問題がある。ここで、図14は、従来のドライガスシール構造70の問題点を説明するための説明図である。ドライガスシール構造70をCOインジェクションポンプに適用した場合、ハウジング73内に収容されるCOは、例えば圧力が20MPaであって温度が30℃以上といった超臨界状態である。このような超臨界状態下では、回転軸71の駆動開始前であってハウジング73内のCOの温度がまだ低い場合、例えば図14に示すようにCOの温度が50℃である場合、このCOは、シール隙間76を通過する際に減圧されることにより、その状態が超臨界状態から変化し、気液2相状態すなわち気体と液体とが混在した状態になる。そうすると、COの物性、具体的には密度や粘度が急激に変化する。この状態で回転駆動を開始した場合、コイルバネ75によって付勢された静止環74の挙動が不安定になり、静止環74と回転環72とが接触して焼き付く等の損傷が生じる。尚、本発明における「超臨界状態」とは、気体と液体とが共存できる限界の温度や圧力を有する点、すなわち臨界点を超えた状態を意味する。
【0005】
また、回転軸71の駆動開始前であってハウジング73内のCOの温度がまだ低い場合、例えば図7に示すようにCOの温度が40℃である場合、超臨界状態のCOは気体状態のCOに比べて粘度が高い。この状態で回転駆動を開始した場合、COがシール隙間76を通過する際の粘性発熱量が大きくなり、回転環72と静止環74において、互いに接触するような、過大な熱変形を生じる問題が生じる。
【0006】
更に、回転軸71の駆動開始前であってハウジング73内のCOの温度がまだ低い場合、シール隙間76を通過する際にCOが断熱膨張することにより、シール隙間76の出口部分でCOの温度が氷点下になる場合がある。この場合、シール隙間76の出口部分の周辺で大気中の水分が氷となり、シール隙間76を塞ぐ或いは回転環72や静止環74のシール面を傷付けるという問題が生じる。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、ハウジングの内部に超臨界状態の流体が収容されるような回転機械に適用した場合でも、回転軸の駆動開始時にシール隙間で不具合が生じることのないドライガスシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。すなわち、本発明に係るドライガスシール構造は、超臨界状態の流体を収容するハウジングと、該ハウジングを貫通して設けられ回転駆動される回転軸と、該回転軸を包囲して設けられこれと一体的に回転する回転環と、前記ハウジングに設けられ、前記回転軸の停止時に前記回転環と全周で当接し、前記回転軸の回転時に前記回転環との間にシール隙間を開けた状態で静止する静止環と、前記シール隙間の入口部分に対し、前記ハウジングに収容された流体の一部を供給する配管路と、前記配管路を流れる流体の温度を調節する温調装置と、前記回転軸を駆動する前に、前記シール隙間の入口部分が所定温度まで加熱されるよう、前記温調装置の動作を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
このような構成によれば、回転軸の駆動開始前に、温調装置によって加熱された超臨界状態の流体が供給されることにより、シール隙間の入口部分が予め所定温度まで加熱される。
【0010】
また、本発明に係るドライガスシール構造は、前記配管路に、前記シール隙間の入口部分に供給した流体を循環させて前記シール隙間の入口部分に再度供給する循環ポンプが設けられたことを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、ハウジングに収容された流体の一部を、循環して繰り返しシール隙間の入口部分に供給するので、ハウジングに収容された流体の全てを加熱する必要がない。従って、温調装置による流体の温度コントロールに要する時間を短縮することができ、また温調装置を構成するヒータの容量を縮小化することができる。
【0012】
また、本発明に係るドライガスシール構造は、前記温調装置が、前記配管路を流れる流体を加熱するヒータを備え、該ヒータの熱源が、前記循環ポンプ、または前記回転軸を回転自在に支持する軸受けに対して潤滑油を供給する潤滑用油ポンプのいずれかであることを特徴とする。
【0013】
このような構成によれば、流体を加熱するために専用のヒータを設ける必要がないため、コスト削減を図ることができる。
【0014】
また、本発明に係るドライガスシール構造は、超臨界状態の流体を収容するハウジングと、該ハウジングを貫通して設けられ回転駆動される回転軸と、該回転軸を包囲して設けられこれと一体的に回転する回転環と、前記ハウジングに設けられ、前記回転軸の停止時に前記回転環と全周で当接し、前記回転軸の回転時に前記回転環との間にシール隙間を開けた状態で静止する静止環と、前記回転環及び前記静止環の少なくともいずれか一方に設けられたヒータと、前記回転軸を駆動する前に、前記シール隙間の入口部分が所定温度まで加熱されるよう、前記ヒータの動作を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、回転軸の駆動開始前に、回転環や静止環に設けられたヒータにより、シール隙間の入口部分が予め所定温度まで加熱される。また、流体の温度を調節するための温調装置等をハウジングの外部に設置する必要がないため、回転機械全体としての省スペース化を図ることができる。
【0016】
また、本発明に係るドライガスシール構造は、超臨界状態の流体を収容するハウジングと、該ハウジングを貫通して設けられ回転駆動される回転軸と、該回転軸を包囲して設けられこれと一体的に回転する回転環と、前記ハウジングに設けられ、前記回転軸の停止時に前記回転環と全周で当接し、前記回転軸の回転時に前記回転環との間にシール隙間を開けた状態で静止する静止環と、前記ハウジングにおける前記シール隙間の直前位置に設けられたヒータと、前記回転軸を駆動する前に、前記シール隙間の入口部分が所定温度まで加熱されるよう、前記ヒータの動作を制御する制御部と、を備えることを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、回転軸の駆動開始前に、ハウジングに設けられたヒータにより、シール隙間の入口部分が予め所定温度まで加熱される。また、流体の温度を調節するための温調装置等をハウジングの外部に設置する必要がないため、回転機械全体としての省スペース化を図ることができる。
【0018】
また、本発明に係るドライガスシール構造は、前記ハウジングの内部に形成され前記超臨界状態の流体が流れる流通路は、前記シール隙間の直前部分がその他の部分より幅狭に形成されたことを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、回転軸の駆動開始後は、流通路の幅狭の部分を流体が流れる際の攪拌損失により、シール隙間の入口部分が加熱される。従って、駆動開始前にシール隙間の入口部分を加熱するために使用する温調装置やヒータを、回転軸の駆動開始後は停止させることができる。従って、温調装置やヒータのランニングコストが不要になる分、コスト削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るドライガスシール構造によれば、回転軸の駆動開始前に、シール隙間の入口部分が予め加熱されるので、回転軸の駆動開始時にシール隙間を通過する超臨界状態の流体の温度が高くなる。従って、超臨界状態の流体は、シール隙間を通過する際に減圧されると、超臨界状態から気体状態に変化する。これにより、流体の物性が急激に変化することがなく、静止環の挙動は安定しているため、静止環と回転環とが接触して焼き付きが発生することを未然に防止することができる。
【0021】
また、回転軸の駆動開始時にシール隙間を通過する流体の温度が高くなるため、流体の粘度が低下する。これにより、流体がシール隙間を通過する際に生じる粘性発熱量が小さくなり、静止環等に熱変形が生じることもない。
【0022】
更に、回転軸の駆動開始時にシール隙間を通過する流体の温度が高くなるため、シール隙間を通過する際に流体が断熱膨張しても、シール隙間の出口部分で流体の温度が氷点下になるのを防止することができる。これにより、シール隙間の出口部分の周辺で大気中の水分が氷となってシール隙間を塞いだり傷付けたりする問題が生じることもない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の第1実施形態に係るドライガスシール構造を示す概略縦断面図。
【図2】CO循環システムの構成を示す模式図。
【図3】リーク排出システムの構成を示す模式図。
【図4】本発明の第1実施形態に係るドライガスシール構造を備えたCOインジェクションポンプにおける起動時の処理の流れを示すフローチャート。
【図5】本発明の第1実施形態に係るドライガスシール構造を備えたCOインジェクションポンプにおける起動時の処理の流れを示すフローチャート。
【図6】回転軸の駆動開始前にシール隙間を加熱することの作用効果を説明するための説明図であって、COのエンタルピーを横軸にCOの圧力を縦軸に取ったグラフ。
【図7】回転軸の駆動開始前にシール隙間を加熱することの作用効果を説明するための説明図であって、COの圧力を横軸にCOの粘度を縦軸に取ったグラフ。
【図8】本発明の第2実施形態に係るドライガスシール構造を示す概略縦断面図。
【図9】第2実施形態の変形例を示す部分拡大縦断面図。
【図10】本発明の第3実施形態に係るドライガスシール構造を示す概略縦断面図。
【図11】本発明の第4実施形態に係るドライガスシール構造を示す概略縦断面図。
【図12】第4実施形態の変形例を示す部分拡大縦断面図。
【図13】従来例に係るドライガスシール構造を示す概略縦断面図。
【図14】従来のドライガスシール構造の問題点を説明するための説明図であって、COのエンタルピーを横軸にCOの圧力を縦軸に取ったグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の第1実施形態に係るドライガスシール構造の構成について説明する。図1は、本実施形態のドライガスシール構造10を示した概略縦断面図である。ドライガスシール構造10は、複数の流路11が形成されたハウジング12と、ハウジング12を貫通して設けられ回転駆動される回転軸13と、回転軸13を回転自在に支持する軸受け14と、軸受け14に潤滑油を供給する潤滑用油ポンプ15と、回転軸13に沿って設けられた第1シール構造16及び第2シール構造17と、ハウジング12の第1シール構造16より機内側に設けられた2個の機内側ラビリンス18と、ハウジング12の第2シール構造17より機外側に設けられた2個の機外側ラビリンス19と、循環配管路20を介して第1シール構造16より機内側に接続されたCO2循環システム21と、排出配管路22を介して第1シール構造16より機外側に接続されたリーク排出システム23と、を備えている。
【0025】
前記ハウジング12は、COインジェクションポンプの壁面を構成するものである。このハウジング12の内部には、超臨界状態のCO(二酸化炭素)が収容されている。そして、このハウジング12には、2個の機内側ラビリンス18の中間に第1流路11Aが、第1シール構造16より機内側の位置に第2流路11Bが、第1シール構造16より機外側の位置に第3流路11Cが、それぞれ形成されている。
【0026】
前記第1シール構造16は、図1に示すように、回転軸13と一体回転するシャフトスリーブ24に固定された回転環25と、ハウジング12に固定されたリテーナ26に一端が取り付けられたコイルバネ27と、リテーナ26に形成された凹溝に嵌合されてコイルバネ27の他端が取り付けられた静止環28と、回転環25のシャフトスリーブ24への取り付け位置及び静止環28のリテーナ26への取り付け位置をシールするために各所に設けられたOリング29と、を有している。そして、図1に詳細は示さないが、回転環25のシール面25aすなわち静止環28に対向する側の面には、螺旋状の溝が形成されている。尚、静止環28のシール面28aすなわち回転環25に対向する側の面に螺旋状の溝を形成してもよい。
【0027】
このように構成される第1シール構造16によれば、回転軸13の回転が停止している時は、コイルバネ27の付勢力により、静止環28のシール面28aが回転環25のシール面25aに密着する。これにより、機内のCOが機外へ漏れ出さないよう、回転軸13とハウジング12の間が第1シール構造16によって密封される。一方、回転軸13が回転し始めると、機内のCOが、回転環25のシール面25aに形成された螺旋状の溝(不図示)の内部に導入され、その動圧効果によって回転環25と静止環28との間に微小なシール隙間30が生じる。そして、機内のCOのうち微量だけが、このシール隙間30を通過し、リテーナ26とシャフトスリーブ24の間に形成された流通路31を経て、第3流路11Cからリーク排出システム23へ排出される。このように、機内のCOが微量だけ外部へ漏れ出すことにより、その余の大部分のCOが機外へ漏れ出さないよう、回転軸13とハウジング12の間が第1シール構造16によって密封される。
【0028】
前記第2シール構造17は、前述のように第1シール構造16のシール隙間30を通過した微量なCOが、リーク排出システム23以外の機外へ漏れ出すのを防止するためのものである。この第2シール構造17の構成は、第1シール構造16と同じであるため、第1シール構造16と同じ符号を用い、その説明を省略する。このように構成される第2シール構造17によれば、第1シール構造16のシール隙間30を通過した微量なCOのうち、更にその一部のCOが第2シール構造17のシール隙間30を通過することにより、その余の大部分のCOが機外へ漏れ出すことが防止される。そして、第1シール構造16を通過した微量のCOは、その大部分が第3流路11Cを通って機外に排出される。また、第1シール構造16が損傷等によりシール機能を喪失した際、第2シール構造17がバックアップとして第1シール構造16のシール機能を代替する。尚、本実施形態では、第1シール構造16に加えて第2シール構造17も設けることでいわゆるタンデム構造としたが、この第2シール構造17は本発明に必須の構成ではなく、第1シール構造16だけを備えた構成としてもよい。
【0029】
前記機内側ラビリンス18及び機外側ラビリンス19は、圧縮ガスのシールに用いられるいわゆるラビリンスシールである。この機内側ラビリンス18及び機外側ラビリンス19は、図1に示すように、回転軸13とハウジング12の間に、幅狭部と拡幅部を交互に形成する。このような構成によれば、機内のCOが幅狭部を通過した後に拡幅部で膨張することによってCOに圧力低下が生じ、それを繰り返すことによって漏れ出すガスが徐々に減少するようになっている。また、第2シール構造17と機外側ラビリンス19との間に設けられた第4流路11Dにも、排出配管路22を介してリーク排出システム23が接続されている。尚、機内側ラビリンス18と機外側ラビリンス19は本発明に必須の構成ではないが、本実施形態のように第1シール構造16の機内側と第2シール構造17の機外側にそれぞれ設置すれば、次に示すメリットがある。機内側ラビリンス18により、第1流路11Aを通ってCO循環システム21に循環するCOの体積は、機内のCOの体積に比べ少ないので、後述のヒータの容量を低減できるとともに、温度コントロールの時間を短縮できる。また、機外側ラビリンス19の間の第5流路11Eより、窒素もしくは空気のガスを供給することで、軸受の潤滑油が機内に侵入することを防ぐことができる。もちろん、機内側ラビリンス18及び機外側ラビリンス19の個数や設置位置等は適宜変更が可能である。
【0030】
前記CO循環システム21は、機内のCOを循環して回転環25と静止環28との間に生じるシール隙間30に対して機内のCOを繰り返し供給するためのものである。ここで、図2は、CO循環システム21の構成を示す説明図である。CO循環システム21は、一端が図1に示すハウジング12の第1流路11Aに接続され他端が第2流路11Bに接続された循環配管路20の所定箇所に、機内から延びる供給配管路32の一端が接続され、循環配管路20と供給配管路32の各所に種々の構成要素が設置されたものである。
【0031】
循環配管路20には、図2に示すように、前記第1流路11Aへの接続箇所から前記第2流路11Bへの接続箇所に至るまでの間に、図に矢印で示すCO流通方向に向かって順に、第1フィルタユニット33、循環ポンプ34、チェック弁35、第2フィルタユニット36、温調装置37、流量計38、圧力計39、温度計40、が設置されている。
【0032】
第1フィルタユニット33は、循環配管路20に設置されてCOから異物等を除去するフィルタ33aと、フィルタ33aに目詰まり等が生じた場合に予備的に機能する予備フィルタ33bと、フィルタ33aを挟んで上流側位置と下流側位置の圧力差を測定する差圧計33cと、を有している。また、第2フィルタユニット36も、フィルタ36aと予備フィルタ36bと差圧計36cとを有しており、各構成の機能は第1フィルタユニット33の各構成と同じである。
【0033】
循環ポンプ34は、循環配管路20に沿ってCOを強制的に循環させるものである。また、チェック弁35は、循環配管路20におけるCOの流れを常に一定に保ち、逆流を防止する機能を持つバルブである。
【0034】
温調装置37は、循環配管路20を流れるCOの温度を任意に調整するものである。この温調装置37は、図2に示すように、冷却水との間で熱交換させることでCOの温度を低下させる熱交換器37aと、COを加熱してその温度を上昇させるヒータ37bと、を有している。そして、この温調装置37は、制御部Cによってその動作が制御されている。尚、図2に詳細は示さないが、制御部Cは、温調装置37の動作だけでなくドライガスシール構造10を構成する各部の動作も制御している。更に、ヒータ37bは、ドライガスシール構造10に別用途で設けられた構成要素を熱源として用いてもよい。具体的には、循環ポンプ34で発生した循環ポンプ損失、或いは図1に示す潤滑用油ポンプ15で発生した潤滑用油ポンプ損失を熱エネルギーに変換し、この熱エネルギーをヒータ37bの熱源として用いてもよい。また、ヒータ37bの熱源としては、循環ポンプ34と潤滑用油ポンプ15だけに限られず、他の用途でドライガスシール構造10に設置された各種ポンプを用いることも可能である。このような構成によれば、専用のヒータ37bを設ける場合と比較すると、専用のヒータ37bが不要であってランニングコストも不要である分、コスト削減を図ることができるという利点がある。また、温調装置37の構成として熱交換器37aは必須ではなく、温調装置37は少なくともヒータ37bを有していれば足りる。
【0035】
流量計38は、循環配管路20を循環するCOの流量を測定するものである。また、圧力計39は、前記第2流路11Bへの接続箇所の付近におけるCOの圧力を測定するものである。また、温度計40は、前記第2流路11Bへの接続箇所の付近におけるCOの温度を測定するものである。
【0036】
一方、供給配管路32には、図2に示すように、CO流通方向に向かって順に、圧力調整弁41と、チェック弁42とが設置されている。圧力調整弁41は、供給配管路32の開閉度を調整することにより、COの供給圧を任意に調整可能なバルブである。一方、チェック弁42は、供給配管路32におけるCOの流れを常に一定方向に保ち、逆流を防止する機能を持つバルブであって、循環配管路20を循環するCOが供給配管路32に流入するのを阻止している。
【0037】
前記リーク排出システム23は、第1シール構造16のシール隙間30を通過した微量なCOを機外へ排出するためのものである。ここで、図3は、リーク排出システム23の構成を示す模式図である。リーク排出システム23は、一端が図1に示すハウジング12の第3流路11Cに接続された排出配管路22が機外へ引き出され、この排出配管路22の各所に種々の構成要素が設置されたものである。
【0038】
排出配管路22には、図3に示すように、第3流路11CからCO流通方向に向かって順に、温度計43、圧力計44、流量計45、背圧弁46が設置されている。
【0039】
温度計43は、図1に示す第3流路11Cへの接続箇所の付近におけるCOの温度を測定するものである。また、圧力計44は、第3流路11Cへの接続箇所の付近におけるCOの圧力を測定するものである。また、流量計45は、排出配管路22を流れるCOの流量を測定するものである。また、背圧弁46は、自身より上流側におけるCOの圧力を一定に保つためのバルブである。すなわち、背圧弁46は、上流側の圧力が設定値以上になると、COを通してその圧力を低下させることによって上流側の圧力を一定に保持する。
【0040】
次に、第1実施形態に係るドライガスシール構造10を採用したCOインジェクションポンプを起動する際の手順について説明する。図4及び図5は、COインジェクションポンプが有する制御部Cが起動時に行う処理の流れを示すフローチャートである。
【0041】
COインジェクションポンプを起動する場合、まず制御部Cは、供給配管路32に対してCOをガスの状態で供給する(S1)。そして、配管各所、具体的には循環配管路20や供給配管路32や排出配管路22からCOガスの漏れがあるか否かを判定する(S2)。その結果、COガスの漏れがあると判断した場合には(S2:Yes)、その旨をユーザに報知し(S3)、漏れがなくなるまで待機する。報知を受けたユーザは、例えば配管の継ぎ手部分に石鹸水を塗って泡が出るか否かを判定することによってCOガスの漏れがあるか否かを判定する。尚、ユーザに報知する具体的な手段としては、図に詳細は示さないが、表示画面に警告を表示する方法や、スピーカから警告音を発する方法が挙げられる。
【0042】
一方、制御部Cは、COガスの漏れがないと判断した場合(S2:No)、次にシールリーク量が許容範囲内であるか否かを判定する(S4)。すなわち、制御部Cは、図3に示す排出配管路22に設置された流量計45の測定値を検出することにより、シールリーク量すなわち第1シール構造16のシール隙間30から漏れ出したCOの量を検出する。そして、検出されたシールリーク量が、回転軸13の回転が停止した状態でのシールリーク量として許容される範囲内に入っているか否かを判定する。その結果、シールリーク量は許容範囲内でないと判断した場合(S4:No)、制御部Cは、その旨をユーザに報知し(S5)、シールリーク量が許容範囲内に入るまで待機する。この場合、静止環28や回転環25等からCOがリークしている可能性があるため、報知を受けたユーザは、これらの箇所を点検して不具合が発見された場合には、修繕や交換等の適切な処置を実施する。一方、シールリーク量が許容範囲内に入っていると判断した場合(S4:Yes)、制御部Cは、次のステップに移行する。
【0043】
次に、制御部Cは、図2に示す循環配管路20に設置した循環ポンプ34を起動できる状態になるまで、具体的には機内のCOが超臨界状態になるまで、機内を昇温及び昇圧する(S6)。続いて、制御部Cは、循環ポンプ34を起動する(S7)。更に、制御部Cは、図2に示す循環配管路20に設置された流量計38の測定値を検出し、循環配管路20を循環するCOの流量が所定流量になるよう、循環ポンプ34の回転数を適宜調整する(S8)。このように、COの流量を所定流量以上とすることにより、循環配管路20から第2流路11Bに流れ込むCOは、第1シール構造16のシール隙間30の入口側にも、機内側ラビリンス18側にも十分な量が流れるので、後述するようにシール隙間30の入口部分を十分に加熱できるとともに、機内側ラビリンス18の側から第1シール構造16に向かって異物等が侵入するのを防止することができる。
【0044】
次に、制御部Cは、図2に示す循環配管路20に設置した第1フィルタユニット33と第2フィルタユニット36の各差圧計33c,36cの測定値を検出することにより、フィルタ差圧すなわちフィルタ33a,36aを挟んで上流側と下流側の圧力差をそれぞれ検出する。そして、検出されたフィルタ差圧が、既定のフィルタ交換差圧に達しているか否かを判定する(S9)。その結果、フィルタ差圧がフィルタ交換差圧に達していると判断した場合(S9:Yes)、制御部Cは、不図示の表示画面に表示する等して、フィルタ33aを交換すべき旨をユーザに報知し(S10)、フィルタ差圧がフィルタ交換差圧を下回るまで待機する。報知を受けたユーザは、予備フィルタ33b,36bに切り換える、或いはフィルタ33a,36aを新品に交換する等の適切な処置を実施する。
【0045】
一方、制御部Cは、フィルタ差圧がフィルタ交換差圧にまだ達していないと判断した場合(S9:No)、続いて第1シール構造16のシール隙間30の入口部分を所定温度まで加熱する(S11)。すなわち、制御部Cは、第1シール構造16のシール隙間30の入口部分が、第2流路11Bから流れ込むCOに加熱されて所定温度に達するように、図2に示す温調装置37を構成する熱交換器37aやヒータ37bの動作を制御する。尚、本発明において「シール隙間30の入口部分」とは、COの流通方向に向かってシール隙間30の最も上流部の近辺を意味し、回転環25や静止環28やシャフトスリーブ24やリテーナ26やハウジング12を含んでいる。
【0046】
ここで、図6及び図7は、シール隙間30の入口部分を加熱することによる効果を説明するための説明図である。シール隙間30の入口部分を加熱すると、シール隙間30を通過する際のCOの温度が上昇する。そして、図6に示すように、COの温度が例えば50℃から60℃に上昇すると、シール隙間30の通過時にCOが減圧されると、COの状態は超臨界状態から気体状態へと変化する。従って、前述のように超臨界状態から気液2相に変化する場合と比較すると、COの物性は急激に大きく変化しない。従って、静止環28の挙動は安定し、静止環28と回転環25との接触によって焼き付きが発生することがない。更に、図7に示すように、COの温度が例えば40℃から60℃に上昇すると、COの粘度は低下する。これにより、COがシール隙間30を通過する際の粘性発熱量が小さくなり、回転環25と静止環28において、互いに接触するような、過大な熱変形が生じることがない。
【0047】
次に、制御部Cは、COの供給圧を所定圧まで上昇させる(S12)。すなわち、制御部Cは、図2に示す供給配管路32に設置された圧力調整弁41の動作を制御することにより、COの供給圧を上昇させる。また、制御部Cは、これと併せて、第2シール構造17のシール隙間30の入口部分においてCOが所定圧になるように、第1シール構造16のシール隙間30の出口部分におけるCOの圧力を、排出配管路22に設置した背圧弁46の動作を制御することによって調節する。
【0048】
その後、制御部Cは、第1シール構造16のシール隙間30の出口部分の温度が、氷点下になっているか否かを判定する(S13)。すなわち、制御部Cは、図3に示す排出配管路22に設置した温度計43の測定値を検出することにより、第1シール構造16のシール隙間30の出口部分の温度を検出する。そして、検出された温度が氷点下である場合(S13:Yes)、制御部Cは、シール隙間30の入口部分を更に加熱する(S14)。すなわち、制御部Cは、第1シール構造16のシール隙間30の入口部分が、第2流路11Bから流れ込むCOに加熱されて更にその温度が上昇するように、図2に示す温調装置37の動作を制御する。
【0049】
このように、第1シール構造16のシール隙間30の入口部分の温度が氷点下になることを防止すれば、シール隙間30の出口部分で大気中の水分が氷になることがない。従って、シール隙間30が氷によって塞がれる問題や、回転環25のシール面25aや静止環28のシール面28aが氷によって損傷する問題を未然に防止することができる。尚、温調装置37の性能上、COの温度を更に上昇させることができない場合、図に詳細は示さないが、第1シール構造16のシール隙間30の出口部分に対して加熱したガスを吹き付ける等して、シール隙間30の出口部分が氷点下にならないようにしてもよい。
【0050】
次に、制御部Cは、シールリーク量が許容範囲内であるか否かを再度判定する(S15)。すなわち、制御部Cは、図3に示す排出配管路22に設置された流量計45の測定値を検出することにより、シールリーク量すなわち第1シール構造16のシール隙間30から漏れ出したCOの量を検出する。そして、検出されたシールリーク量が、回転軸13の回転が停止した状態でのシールリーク量として許容される範囲内に入っているか否かを判定する。その結果、シールリーク量は許容範囲内でないと判断した場合(S15:No)、制御部Cは、その旨をユーザに報知し(S16)、シールリーク量が許容範囲内に入るまで待機する。報知を受けたユーザは、シールリーク量が許容範囲内に入るよう、適切な処置を実施する。
【0051】
ここで、適切な処置としては、シールリーク量が許容範囲外であると判断した場合のうち、特にシールリーク量がゼロの場合、ユーザはシール隙間30の出口部分においてCOの風量が有るか否かを確認する。その結果、出口部分においてCOの風量がない場合、シール隙間30とは別の箇所から、例えばOリング29が損傷した箇所からCOが機外へ漏れ出している可能性がある。この場合、ユーザは、漏れ出している箇所を発見した上で修繕等の措置を施す。一方、シール隙間30以外の箇所でCOが機外へ漏れ出している箇所が発見できない場合は、COの供給を停止し、機内の圧力が減少するか否かを確認する。その結果、機内の圧力が減少しない場合は、シール隙間30が閉じている可能性があるため、ハンドターニング等の処置を実施する。また、ユーザは、それ以外の措置として、各種センサに故障が発生していないかを確認する。他方、シールリーク量が許容範囲外であると判断した場合のうち、特にシールリーク量が過大である場合、ユーザは回転環25や静止環28を検査した上で、修繕や交換等の措置を施す。
【0052】
一方、シールリーク量が許容範囲内であると判断した場合(S15:Yes)、制御部Cは、不図示のモータを起動することで回転軸13の回転を開始させ、その回転速度を所定速度まで上昇させる(S17)。この時、制御部Cは、回転軸13が既定の最低回転数以上に達するまで迅速に加速する。また、回転軸13の回転数上昇に伴い、シール隙間30におけるCOの撹拌損失や粘性発熱等によってシール隙間30の温度が上昇する。従って、制御部Cは、この温度上昇分に拘わらず、シール隙間30の入口部分の温度を適正な温度で維持できるよう、図2に示す温調装置37の動作を適宜制御する。そして、制御部Cは、最終的に撹拌損失や粘性発熱等によってシール隙間30の温度が十分に上昇した段階で、温調装置37を構成するヒータ37bの動作を停止させる。更に、制御部Cは、回転軸13の駆動開始に伴って、回転軸13の軸振動を測定し、測定された軸振動が既定のシール許容値アラーム値を超える場合は、回転軸13の回転を停止させ、軸振動がシール許容値以内になるように、回転軸系のバランス調整を行う。
【0053】
次に、制御部Cは、シールリーク量が許容範囲内であるか否かを再度判定する(S18)。すなわち、制御部Cは、図3に示す排出配管路22に設置された流量計45の測定値を検出することにより、シールリーク量すなわち第1シール構造16のシール隙間30から漏れ出したCOの量を検出する。そして、検出されたシールリーク量が、回転軸13が回転状態でのシールリーク量として許容される範囲内に入っているか否かを判定する。その結果、シールリーク量は許容範囲内でないと判断した場合(S18:No)、制御部Cは、その旨をユーザに報知し(S19)、シールリーク量が許容範囲内に入るまで待機する。報知を受けたユーザは、シールリーク量が許容範囲内に入るよう、適切な処置を実施する。
【0054】
ここで、適切な処置としては、シールリーク量が許容範囲外であると判断した場合のうち、特にシールリーク量がゼロの場合、ユーザはシール隙間30の出口部分においてCOの風量が有るか否かを確認する。その結果、出口部分においてCOの風量がない場合、ユーザは直ちに回転軸13の回転を停止させる。これは、回転軸13が回転している場合、シール隙間30が生じていないと、回転環25のシール面25aと静止環28のシール面28aとの接触によって焼き付きが発生する恐れがあるためである。そして、制御部Cは、回転軸13が停止した後、シールリーク量を再度検出し、検出されたシールリーク量が、回転軸13の回転が停止した状態でのシールリーク量として許容される範囲内に入っているか否かを確認する。他方、シールリーク量が許容範囲外であると判断した場合のうち、特にシールリーク量が過大である場合、ユーザは直ちに回転軸13の回転を停止させ、回転環25や静止環28を検査した上で、修繕や交換等の措置を施す。
【0055】
最後に、制御部Cは、図2に示す循環配管路20に設置された循環ポンプ34の回転数を下げていき、機内から供給するCOを循環配管路20で循環させる。そして、最終的に制御部Cは、循環ポンプ34を停止させ、定格運転を行う(S20)。
【0056】
次に、第2実施形態に係るドライガスシール構造の構成について説明する。図8は、本実施形態のドライガスシール構造50を示した概略縦断面図である。ドライガスシール構造50は、第1実施形態のドライガスシール構造10と比較すると、第1シール構造16の回転環51の構成が異なる点、及びCO2循環システム21を備えていない点で異なっている。尚、それ以外の構成は第1実施形態と同じであるため、図1と同じ符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0057】
第1シール構造16の回転環51は、その内部にヒータ52を収容し、このヒータ52の動作が不図示の制御部によって制御されている。そして、制御部は、回転軸13の駆動を開始する前に、このヒータ52をONすることによって、第1シール構造16のシール隙間30の入口部分を所定温度まで加熱する。このような構成によれば、第1実施形態と比較して省スペース化を図ることができる。すなわち、第1実施形態のように加熱したCOを供給することで第1シール構造16のシール隙間30の入口部分を加熱する構成では、CO循環システム21を機外に設置するスペースが必要である。これに対し本実施形態では、CO循環システム21を機外に設置する必要がない分、省スペース化を図ることができる。
【0058】
また、図9は、本実施形態の変形例を示した図である。図9(a)に示す変形例では、静止環53の内部にヒータ52を収容している。一方、図9(b)に示す変形例では、回転環51の内部にヒータ52を収容するとともに、静止環53の内部にもヒータ52を収容している。そして、回転軸13の駆動を開始する前に、これらヒータ52をONすることによって、第1シール構造16のシール隙間30の入口部分を所定温度まで加熱する。尚、回転環51は熱変形しにくい材質である炭化ケイ素で構成されるのが一般的であるため、この回転環51にヒータ52を収容した方が、熱変形を抑制することができ好適である。
【0059】
次に、第3実施形態に係るドライガスシール構造の構成について説明する。図10は、本実施形態のドライガスシール構造60を示した概略縦断面図である。ドライガスシール構造60は、第1実施形態のドライガスシール構造10と比較すると、ハウジング61の構成が異なる点、及びCO循環システム21を備えていない点で異なっている。尚、それ以外の構成は第1実施形態と同じであるため、図1と同じ符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0060】
本実施形態のハウジング61は、第2流路11Bの周辺部にヒータ62が収容されている。そして、回転軸13の駆動を開始する前に、このヒータ62をONすることによって、第1シール構造16のシール隙間30の入口部分を所定温度まで加熱する。このような構成によれば、第2実施形態と同様に、CO循環システム21を機外に設置するスペースが不要な分、省スペース化を図ることができるという利点がある。
【0061】
次に、第4実施形態に係るドライガスシール構造の構成について説明する。図11は、本実施形態のドライガスシール構造70を示した概略縦断面図であって、シール隙間30の周辺を拡大した図である。ドライガスシール構造70は、第1実施形態のドライガスシール構造10と比較すると、第2流路11Bからシール隙間30の入口部分までの間に形成された流通路71の形状が異なっている。尚、それ以外の構成は第1実施形態と同じであるため、図1と同じ符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0062】
本実施形態では、シャフトスリーブ72における回転環25の周辺部分が、第1実施形態と比較して大径に形成されている。これにより、ハウジング12の内部においてCOが流通する流通路71は、第1シール構造16のシール隙間30の直前部分が、その他の部分より幅狭に形成されている。このような構成によれば、回転軸13の駆動開始前は、第1〜第3実施形態と同様にしてシール隙間30の入口部分を加熱する必要があるが、回転軸13の駆動開始後は、COがこの幅狭の部分を通過する際の撹拌損失により、第1シール構造16のシール隙間30の入口部分の温度が上昇する。従って、回転軸13の駆動開始後は、駆動開始前にシール隙間30の入口部分を加熱するために使用していたヒータ37b,62等をOFFすることができる。これにより、ヒータ37b,62のランニングコストを低減できる分、コストダウンを図ることができる。
【0063】
また、図12は、本実施形態の変形例を示した図である。この変形例では、ハウジング73における第2流路11Bの周辺部分を、その他の部分より肉厚に形成している。これにより、ハウジング73の内部においてCOが流通する流通路71は、第1シール構造16のシール隙間30の直前部分が、その他の部分より幅狭に形成されている。このような構成によれば、第4実施形態と同様に、回転軸13の駆動開始後に、駆動開始前にシール隙間30の入口部分を加熱するために使用していたヒータ37b,62等をOFFすることができる。これにより、ヒータ37b,62のランニングコストを低減できる分、コストダウンを図ることができる。
【0064】
尚、上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ、或いは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0065】
10…ドライガスシール構造
12…ハウジング
13…回転軸
20…循環配管路
25…回転環
28…静止環
30…シール隙間
37…温調装置
C…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超臨界状態の流体を収容するハウジングと、
該ハウジングを貫通して設けられ回転駆動される回転軸と、
該回転軸を包囲して設けられこれと一体的に回転する回転環と、
前記ハウジングに設けられ、前記回転軸の停止時に前記回転環と全周で当接し、前記回転軸の回転時に前記回転環との間にシール隙間を開けた状態で静止する静止環と、
前記シール隙間の入口部分に対し、前記ハウジングに収容された流体の一部を供給する配管路と、
前記配管路を流れる流体の温度を調節する温調装置と、
前記回転軸を駆動する前に、前記シール隙間の入口部分が所定温度まで加熱されるよう、前記温調装置の動作を制御する制御部と、
を備えることを特徴とするドライガスシール構造。
【請求項2】
前記配管路に、前記シール隙間の入口部分に供給した流体を循環させて前記シール隙間の入口部分に再度供給する循環ポンプが設けられたことを特徴とする請求項1に記載のドライガスシール構造。
【請求項3】
前記温調装置が、前記配管路を流れる流体を加熱するヒータを備え、該ヒータの熱源が、前記循環ポンプ、または前記回転軸を回転自在に支持する軸受けに対して潤滑油を供給する潤滑用油ポンプのいずれかであることを特徴とする請求項2に記載のドライガスシール構造。
【請求項4】
超臨界状態の流体を収容するハウジングと、
該ハウジングを貫通して設けられ回転駆動される回転軸と、
該回転軸を包囲して設けられこれと一体的に回転する回転環と、
前記ハウジングに設けられ、前記回転軸の停止時に前記回転環と全周で当接し、前記回転軸の回転時に前記回転環との間にシール隙間を開けた状態で静止する静止環と、
前記回転環及び前記静止環の少なくともいずれか一方に設けられたヒータと、
前記回転軸を駆動する前に、前記シール隙間の入口部分が所定温度まで加熱されるよう、前記ヒータの動作を制御する制御部と、
を備えることを特徴とするドライガスシール構造。
【請求項5】
超臨界状態の流体を収容するハウジングと、
該ハウジングを貫通して設けられ回転駆動される回転軸と、
該回転軸を包囲して設けられこれと一体的に回転する回転環と、
前記ハウジングに設けられ、前記回転軸の停止時に前記回転環と全周で当接し、前記回転軸の回転時に前記回転環との間にシール隙間を開けた状態で静止する静止環と、
前記ハウジングにおける前記シール隙間の直前位置に設けられたヒータと、
前記回転軸を駆動する前に、前記シール隙間の入口部分が所定温度まで加熱されるよう、前記ヒータの動作を制御する制御部と、
を備えることを特徴とするドライガスシール構造。
【請求項6】
前記ハウジングの内部に形成され前記超臨界状態の流体が流れる流通路は、前記シール隙間の直前部分がその他の部分より幅狭に形成されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のドライガスシール構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−231880(P2011−231880A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103798(P2010−103798)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】