説明

ドライガスシール装置

【課題】起動/停止を繰り返しても、回転環及び固定環の摩耗が少なく、両者間のシール性能を長時間維持することができるドライガスシール装置を提供する。
【解決手段】固定部2に固定され円筒形内面11を有する固定環10と、回転体1に固定されこれと共に回転する回転環ベース12と、回転軸Z−Zに対し周方向に分割され、全体として円筒形内面11の内側に位置する中空円筒形の回転環を構成する複数の回転環セグメント14と、各回転環セグメントを半径方向内方に引っ張る弾性体16とを備える。固定環10の円筒形内面11又は回転環セグメント14の外面に、回転体1の回転により両者間に動圧効果によりクリアランスを形成する動圧溝が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転環及び固定環の摩耗が少ないドライガスシール装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドライガスシール装置とは、圧縮空気、燃焼ガス、等のガスを、潤滑液を用いないドライ状態でシール(密封)する装置であり、例えば産業用の圧縮機において、回転体と固定部との間をシールするために用いられる。
【0003】
従来のドライガスシール装置には、種々の構造のものが既に提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−61781号公報、「ドライガスシール」
【特許文献2】特開平11−304006号公報、「ドライガスシール装置」
【特許文献3】特開2004−190783号公報、「ドライガスシール式回転機械の起動方法およびドライガスシール式回転機械」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1は、従来のドライガスシール装置の一般的な構成図である。この図において、1は回転体(例えば、回転軸)、2は固定部材、3は回転環、4は固定環、5は圧縮バネ、6はシール部材(例えばOリング)である。
【0006】
図1において、回転体1は、回転環3と共に回転軸Z−Zを中心に回転する。また、固定環4は、軸方向に移動可能に構成され、固定部材2と固定環4の間をシール部材6でシールしながら、圧縮バネ5により固定部材2から回転環3に向けて押し付けられている。また、回転環3の固定環4との接触面には、図示しない動圧溝が設けられ、両者間の相対運動により、回転時には動圧効果でその間に微小なクリアランスが形成されるようになっている。
この構成により、回転体1の回転時には、回転環3と固定環4の接触面に微小なクリアランスが形成され、その間のガス漏れと摩耗を最小限に抑えることができる。
【0007】
上述したように、従来のドライガスシール装置では、回転体1の回転時には回転環3と固定環4の接触面に微小なクリアランスが形成される。しかし、回転体1の静止時及び低速回転時には回転環3と固定環4が接触しており、摩耗が発生する。そのため、起動/停止の多い航空用ガスタービンに適用した場合、この摩耗による損傷が激しく、これにより動圧効果が低下し、さらなる摩耗による損傷が増加し、最悪の場合破壊に至る可能性があると予想される。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、起動/停止を繰り返しても、回転環及び固定環の摩耗が少なく、両者間のシール性能を長時間維持することができるドライガスシール装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、回転軸Z−Zを中心に回転する回転体と固定部との間をドライ状態でシールするドライガスシール装置であって、
前記固定部に固定され円筒形内面を有する固定環と、
前記回転体に固定されこれと共に回転する回転環ベースと、
回転軸Z−Zに対し周方向に分割され、全体として前記円筒形内面の内側に位置する中空円筒形の回転環を構成する複数の回転環セグメントと、
前記各回転環セグメントを半径方向内方に引っ張る弾性体と、を備え、
前記固定環の円筒形内面又は回転環セグメントの外面に、回転体の回転により両者間に動圧効果によりクリアランスを形成する動圧溝が設けられている、ことを特徴とするドライガスシール装置が提供される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記回転環セグメントの周方向中央位置にそれぞれ位置し、前記回転環ベースに固定された複数の回転環ガイドを備える。
また、前記回転環セグメントの周方向端面間にそれぞれ設けられ、その間をシールする周方向端面シール部材、又は
前記回転環ベースの内面の低圧側に設けられ、回転環セグメントの軸方向端面との間をシールする軸方向端面シール部材を備える。
【0011】
また、前記回転環セグメントはその周方向端面に、外周面に沿って延びる外周面シール溝と、軸方向端面に沿って延びる軸方向端面シール溝とを有し、
前記周方向端面シール部材は、隣接する回転環セグメントの外周面シール溝に周方向両端が嵌合する外周面シール板と、隣接する回転環セグメントの軸方向端面シール溝に周方向両端が嵌合する軸方向端面シール板とからなる。
【発明の効果】
【0012】
上記本発明の構成によれば、回転体の停止時、起動時、及び低速回転時には、弾性体により各回転環セグメントが内方に引っ張られるので、回転環セグメントと固定環の間にクリアランスが確保され、その間の摩耗を防止することができる。
また、回転上昇時に遠心力によりクリアランスが狭まるが、動圧溝による動圧効果と弾性体の引っ張り力により回転環セグメントと固定環の間にクリアランスが維持されるので、その間の摩耗を防止することができる。
さらに、高速回転の状態が保持される場合には巻き込んだエアの動圧効果により、最適なクリアランスが保たれ、良好なシール性能が発揮される。
従って、回転体の起動から停止までのすべての運転状態において、固定環と回転環セグメントの接触を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】従来のドライガスシール装置の一般的な構成図である。
【図2】本発明によるドライガスシール装置の側面断面図である。
【図3】図2のA-A線における断面図である。
【図4】図2のB-B線における矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0015】
図2は、本発明によるドライガスシール装置の側面断面図であり、図3は、図2のA-A線における断面図、図4は図2のB-B線における矢視図である。
【0016】
本発明のドライガスシール装置は、回転軸Z−Zを中心に回転する回転体1と固定部2の間に存在するガス(例えば二次空気)をドライ状態でシールする装置である。
図2〜図4において、本発明のドライガスシール装置は、固定環10、回転環ベース12、複数の回転環セグメント14、弾性体16、複数の回転環ガイド18、周方向端面シール部材20及び軸方向端面シール部材22を備える。
図2では左側がシールするガスの高圧側、右側が低圧側である。
【0017】
固定環10は、固定部2に気密に固定されたリング状部材であり、その内面に円筒形内面11を有する。
この例において、円筒形内面11は、凹凸のない平滑な円筒面であるが、後述する動圧溝15を設けてもよい。
【0018】
回転環ベース12は、回転体1に固定され、回転体1と共に回転軸Z−Zを中心に回転する。
この例において、回転環ベース12は、回転体1の外面に気密に固定されたリング状部材12aと、その両端部に位置し半径方向に延びる2つ鍔状部材12bとからなり、2つ鍔状部材12bの間に外側が開いた空間を形成している。
【0019】
図3に示すように、複数(この例では12個)の回転環セグメント14は、回転軸Z−Zに対し周方向に分割され、全体として円筒形内面11の内側に位置する中空円筒形の回転環を構成している。
この例において、回転環セグメント14は周方向に等分割され、かつその端面は分割面からオフセットし、その間に周方向端面シール部材20が収納されている。
なお、分割面からのオフセットは必須ではなく、周方向端面同士が接触した状態で、全体として中空円筒形の回転環を構成してもよい。
【0020】
弾性体16は、この例では、コイルバネであり、各回転環セグメント14の内面と回転環ベース12のリング状部材12aとを連結し、各回転環セグメント14を半径方向内方に引っ張る。この引っ張り力は、回転体の停止時、起動時、及び低速回転時に、各回転環セグメント14の外面が固定環10の円筒形内面11と接触しないように設定する。
【0021】
この例において、弾性体16は、各回転環セグメント14に1つずつ、回転環セグメントと同数が設けられている。しかし、本発明はこの構成に限定されず、複数の回転環セグメント14を1つの弾性体16で引っ張ってもよい。また、例えばリング状のコイルバネを用いて、回転環セグメント14の全体を1つの弾性体で半径方向内方に引っ張ってもよい。さらに弾性体16は、同様の機能を有する限り、その他のもの、例えば磁石、弾性体であってもよい。
【0022】
複数(この例では12個)の回転環ガイド18は、回転環セグメント14の周方向中央位置にそれぞれ位置し、回転環ベース12の鍔状部材12bの内面に固定され、各回転環セグメント14が周方向に移動せず、かつ各回転環セグメント14を半径方向に移動可能に案内する。
なお、回転環ガイドは、回転環セグメント14の周方向移動を防止し、かつこれを半径方向に移動可能に案内できる限りで、他の構造(例えば、半径方向スプライン)であってもよい。
【0023】
周方向端面シール部材20は、回転環セグメント14の周方向端面間にそれぞれ設けられ、その間をシールする。
【0024】
本発明において、複数の回転環セグメント14は、回転軸Z−Zに対し周方向に分割され、全体として中空円筒形の回転環を構成するので、回転環セグメント14の周方向端面の間に隙間があるので、この隙間を通してガス漏れが発生する。
しかし、本発明では、回転環セグメント14の周方向端面の間をシールする周方向端面シール部材20を備えるので、その間のガス漏れを最小限に抑えることができる。
【0025】
図2及び図4において、回転環セグメント14はその周方向端面に、外周面に沿って延びる外周面シール溝14aと、軸方向端面に沿って延びる軸方向端面シール溝14bとを有する。
また、周方向端面シール部材20は、隣接する回転環セグメント14の外周面シール溝14aに周方向両端が嵌合する外周面シール板20aと、隣接する回転環セグメント14の軸方向端面シール溝14bに周方向両端が嵌合する軸方向端面シール板20bとからなる。
外周面シール溝14aの断面形状は、外周面シール板20aよりも大きく、軸方向端面シール溝14bの断面形状は、軸方向端面シール板20bよりも大きく、それぞれゆるい嵌合となっている。
【0026】
この構成により、外周面シール板20a及び2枚の軸方向端面シール板20bにより、回転環セグメント14の周方向端面間をシールしながら、回転環セグメント14を半径方向に移動可能にすることができる。
【0027】
軸方向端面シール部材22は、この例では回転環ベース12の鍔状部材12bの内面の低圧側に設けられたOリングであり、回転環セグメント14の軸方向端面との間をシールする。Oリングは好ましくは弾性材料(例えば、耐熱ゴム、シリコン)からなる。
【0028】
回転環セグメント14の周方向端面の間と軸方向端面シール部材22との間に隙間があるので、この隙間を通してガス漏れが発生するが、上述した構成により、回転環ベース12の鍔状部材12bの内面の低圧側に設けられたOリングを備えるので、Oリングの弾性により、上記隙間におけるガス漏れを最小限に抑えることができる。
【0029】
さらに、図4に示すように、この例では、回転環セグメント14の外面に、回転体1の回転により両者(固定環10と回転環セグメント14)の間に動圧効果によりクリアランスを形成する動圧溝15が設けられている。なお、この動圧溝15を、固定環10の円筒形内面11に設けてもよい。
このとき、回転環セグメント14は高圧側と低圧側の圧力差により、低圧側(右側)に押し付けられることになり、Oリングに押し付けられることでガス漏れを防ぐ。
【0030】
上述した本発明の構成によれば、回転体1の停止時、起動時、及び低速回転時には、弾性体16により各回転環セグメント14が内方に引っ張られるので、回転環セグメント14と固定環10の間にクリアランスが確保され、その間の摩耗を防止することができる。
また、回転上昇時に遠心力によりクリアランスが狭まるが、動圧溝15による動圧効果と弾性体16の引っ張り力により回転環セグメント14と固定環10の間にクリアランスが維持されるので、その間の摩耗を防止することができる。
さらに、高速回転が維持された状態では巻き込んだエアの動圧効果により、最適なクリアランスが保たれ、良好なシール性能が発揮される。
従って、回転体1の起動から停止までのすべての運転状態において、固定環10と回転環セグメント14の接触を回避することができる。
【0031】
また、本発明の構成により、従来のラビリンスシールと比較した場合、同一条件で、ラビリンスシールのガス漏れ量の約1/6まで漏れ量を低減できることが、シミュレーションにより確認された。
すなわち、本発明の構成により、良好なシール性能を発揮しつつ、起動と停止を繰り返しても、回転環及び固定環の摩耗が少なく、両者間のシール性能を長時間維持することができる。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0033】
1 回転体、2 固定部、
10 固定環、11 円筒形内面、
12 回転環ベース、
12a リング状部材、12b 鍔状部材、
14 回転環セグメント、
14a 外周面シール溝、14b 軸方向端面シール溝、
15 動圧溝、16 弾性体、
18 回転環ガイド、20 周方向端面シール部材、
20a 外周面シール板、20b 軸方向端面シール板、
22 軸方向端面シール部材(Oリング)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸Z−Zを中心に回転する回転体と固定部との間をドライ状態でシールするドライガスシール装置であって、
前記固定部に固定され円筒形内面を有する固定環と、
前記回転体に固定されこれと共に回転する回転環ベースと、
回転軸Z−Zに対し周方向に分割され、全体として前記円筒形内面の内側に位置する中空円筒形の回転環を構成する複数の回転環セグメントと、
前記各回転環セグメントを半径方向内方に引っ張る弾性体と、を備え、
前記固定環の円筒形内面又は回転環セグメントの外面に、回転体の回転により両者間に動圧効果によりクリアランスを形成する動圧溝が設けられている、ことを特徴とするドライガスシール装置。
【請求項2】
前記回転環セグメントの周方向中央位置にそれぞれ位置し、前記回転環ベースに固定された複数の回転環ガイドを備える、ことを特徴とする請求項1に記載のドライガスシール装置。
【請求項3】
前記回転環セグメントの周方向端面間にそれぞれ設けられ、その間をシールする周方向端面シール部材、又は
前記回転環ベースの内面の低圧側に設けられ、回転環セグメントの軸方向端面との間をシールする軸方向端面シール部材を備える、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のドライガスシール装置。
【請求項4】
前記回転環セグメントはその周方向端面に、外周面に沿って延びる外周面シール溝と、軸方向端面に沿って延びる軸方向端面シール溝とを有し、
前記周方向端面シール部材は、隣接する回転環セグメントの外周面シール溝に周方向両端が嵌合する外周面シール板と、隣接する回転環セグメントの軸方向端面シール溝に周方向両端が嵌合する軸方向端面シール板とからなる、ことを特徴とする請求項3に記載のドライガスシール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−255807(P2010−255807A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109273(P2009−109273)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】