説明

ドラフト装置及び繊維機械

【課題】複数のドラフトローラを位置決めして支持するドラフト装置において、当該ドラフトローラにニップ力を付与するためのスプリングの位置調整を含めたゲージ変更作業を容易にする簡易な構成を提供する。
【解決手段】ドラフト装置は、クレードル20と、ローラ支持構造体31と、ローラ軸51と、対で配置されるトップローラ14,14xと、を備える。ローラ支持構造体31は、軸支持フレーム61と、押圧バネ64と、バネ保持フレーム63と、を備える。軸支持フレーム61は、ローラ軸51を支持する。押圧バネ64は、対で配置される前記トップローラ14,14xを押し付けるためのバネ力を、ローラ軸51の長手方向中央部に作用させる。バネ保持フレーム63には、押圧バネ64が取り付けられる。ローラ支持構造体31は長孔81を介してクレードル20に固定されており、クレードル20への取付位置を変更することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主要には、繊維機械に備えられるドラフト装置の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
紡績機のドラフト装置においては、ドラフトローラにニップされていない浮遊繊維が多くなるとドラフトが適正に行われないため、ドラフトローラの配置間隔(ゲージ)を適切な距離に合わせる必要がある。また、設定すべきドラフトローラのゲージは、紡績する繊維の種類や用途に応じて異なってくる。このため、従来から、ドラフト装置の複数のドラフトローラを位置決めするためのサイドプレートが用いられている。この種のサイドプレートは、例えば特許文献1及び2に開示されている。
【0003】
特許文献1は、以下の構成のゲージ調整機構を開示する。即ち、このゲージ調整機構においては、エプロンバンドを装架したセカンドトップローラより後方に位置する各トップローラのローラ軸を個々に支持するローラ軸支持部材を、クレードルのサイドプレートに移動可能に取り付ける。そして、該ローラ軸支持部材をドラフト装置の前後方向に移動することにより、ローラ間のゲージを変更調節可能とする。特許文献1は、この構成により、ゲージ間を所望のゲージに調整できるので多種多様のサイドプレートを用意する必要がなくなり、また、ゲージ変更の都度、サイドプレートを取り替えて再び取り付ける手間がなくなるとする。
【0004】
特許文献2は、ドラフト装置への取付位置が固定されるフロント部と、ドラフト装置に対する位置を所定のストローク範囲内で変更可能なバック部と、に分割して構成されたサイドプレートを開示する。そして、バック部が前記ストローク範囲の一端にあるときは、ドラフトローラ支持部に支持されるトップローラ(ドラフトローラ)の間に、予め定められた所定の第1ピッチが実現される。また、バック部が前記ストローク範囲の他端にあるときは、上記トップローラの間に、前記第1ピッチとは異なる所定の第2ピッチが実現される。特許文献2は、この構成により、製造コストを抑えるとともに、ゲージ調整を容易かつ確実に行うことができるとする。
【0005】
一方、特許文献3は、上記のようなサイドプレートを用いないでローラを位置決めできる構成を開示する。この特許文献3には、回転自在に装着した複数個のリテーナを所定の間隔をもってトップアームに取り付け、該ローラを機台に回転自在に装着されているボトムローラに押圧して繊維束をドラフト処理する2錘建のドラフト装置が開示されている。リテーナとばね受けの間には、トップローラの軸を押圧するためのコイルばねが装着されている。そして、この特許文献3のドラフト装置では、トップアームとリテーナ取り付け面に鋸歯状の凹凸部を形成して係合せしめるように構成している。特許文献3は、この構成により、ローラ間隔が簡単に変更でき、しかもローラの平行度が確実にだせるとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開平4−123268号公報
【特許文献2】特開2009−1928号公報
【特許文献3】特開昭64−33218号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的な構成のドラフト装置は、対で配置されるドラフトローラの間に繊維束をニップできるようにするために、一方のドラフトローラを他方のドラフトローラへ押し付けるスプリングを備えている。従って、上記のゲージ変更のためにドラフトローラを移動させた場合、それに伴ってスプリングの配置を調整する必要が生じ、メンテナンス作業が煩雑になっていた。従って、ゲージ変更作業をより効率的に行うことができる構成が望まれていた。
【0008】
この点、特許文献1はゲージの変更について開示するものの、ドラフトローラを付勢するスプリングについては言及がなく、上記の課題を解決することができない。
【0009】
一方、特許文献2においては、スプリングボックスによってトップローラがボトムローラに対し押圧されるように付勢される旨の開示がある。また、特許文献2は、トップローラをサイドプレートのローラ支持部に保持した状態でピッチ変更作業が可能である旨を述べる。しかしながら、特許文献2には、スプリングボックスのスプリングをどのように調整するかの具体的な開示がなく、特許文献1と同様に上記の課題を解決することができない。
【0010】
更には、特許文献1及び2の構成においては、錘ごとに少なくとも1枚のサイドプレートが必要になる。従って、多数の錘を備える繊維機械においては必要なサイドプレートの数も多くなり、コストアップの原因となっていた。
【0011】
この点、特許文献3の構成は、サイドプレートなしでローラ及びバネを位置決めすることができる。しかしながら、特許文献3におけるゲージの変更は、鋸歯状の凹凸部のピッチを単位とした段階的なものとなってしまい、ゲージをキメ細かく微調整することが困難であった。また、コイルばねがドラフトローラに1対1で対応して設けられているため、部品点数が増大して構造が複雑になるとともに、ローラ軸の両端に配置されたドラフトローラのニップ力が偏り易く、互いにバランスさせることが難しかった。
【0012】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、複数のドラフトローラを位置決めして支持するドラフト装置において、当該ドラフトローラにニップ力を付与するためのスプリングの位置調整を含めたゲージ変更作業を容易にする簡易な構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0013】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0014】
本発明の観点によれば、以下の構成のドラフト装置が提供される。即ち、このドラフト装置は、クレードルと、ローラ支持構造体と、ローラ軸と、第1ドラフトローラと、第2ドラフトローラと、を備える。前記ローラ支持構造体は、前記クレードルに固定される。前記ローラ軸は、前記ローラ支持構造体に回転可能に支持される。前記第1ドラフトローラは、前記ローラ軸の一端に取り付けられるともに、前記クレードルの一側に配置される。前記第2ドラフトローラは、前記ローラ軸の他端に取り付けられるともに、前記クレードルの他側に配置される。前記ローラ支持構造体は、軸支持部と、押圧バネと、バネ保持部と、を備える。前記軸支持部は、前記ローラ軸を支持する。前記押圧バネは、前記第1ドラフトローラ及び前記第2ドラフトローラを押し付けるためのバネ力を前記ローラ軸の長手方向中央部に作用させる。前記バネ保持部には、前記押圧バネが取り付けられる。そして、前記ローラ支持構造体は、前記クレードルへの取付位置を変更可能に構成されている。
【0015】
これにより、ゲージの変更と同時に押圧バネの位置の調整が完了するので、作業の効率化を実現できる。また、サイドプレートを不要にできるので、部品点数を削減できる。更に、1つの押圧バネで、2つの錘にそれぞれ配置される第1ドラフトローラ及び第2ドラフトローラを、ローラ軸を介して適切に押圧することができる。従って、押圧バネの共通化により部品点数を削減できるとともに、2つのドラフトローラを均等に押圧し、ニップ力の偏りを低減することができる。
【0016】
前記のドラフト装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記クレードルは、バネ収容部と、構造体取付部と、を備える。前記バネ収容部は、前記押圧バネを内部に収容可能である。前記構造体取付部は、前記バネ収容部の両側に対で配置される。前記ローラ支持構造体は、両側の前記構造体取付部に固定具を介してそれぞれ固定されている。
【0017】
これにより、押圧バネをバネ収容部で保護しつつ、当該バネ収容部を挟んだ少なくとも2箇所でローラ支持構造体をクレードルに確実に固定できるので、ドラフトローラの位置決め精度を安定させることができる。
【0018】
前記のドラフト装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記軸支持部は、前記ローラ軸の長手方向に沿って細長い部分を有するように形成されている。前記軸支持部の長手方向一側が一側の前記構造体取付部に、長手方向他側が他側の前記構造体取付部に、それぞれ固定されている。
【0019】
これにより、軸支持部の長手方向一側と他側をそれぞれクレードルに固定することで、ドラフトローラの位置決め精度を良好に維持することができる。
【0020】
前記のドラフト装置においては、前記バネ収容部は、前記ローラ支持構造体を取り付けるために前記構造体取付部が有する設置面から突出した形状に構成されていることが好ましい。
【0021】
これにより、ローラ軸の長手方向中央を押圧する押圧バネをバネ収容部に適切に収容しながら、ローラ支持構造体をクレードルに取り付けることができる。また、全体としてコンパクトな構成のドラフト装置を実現できる。
【0022】
前記のドラフト装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、それぞれの前記構造体取付部には長孔が形成されている。前記ローラ支持構造体は、この長孔を介してそれぞれの前記構造体取付部に固定される。
【0023】
これにより、長孔に沿ってローラ支持構造体を移動させる簡単な作業によって、ゲージを無段階で変更することができる。
【0024】
前記のドラフト装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、このドラフト装置は、前記ローラ支持構造体を複数備える。それぞれの前記ローラ支持構造体は、前記構造体取付部に形成された共通の前記長孔に固定される。
【0025】
これにより、ゲージ変更のための構成が簡素になるとともに、ローラ支持構造体の移動ストロークを大きく確保することができる。
【0026】
また、本発明の他の観点によれば、前記のドラフト装置を備える繊維機械が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る紡績機の正面図。
【図2】ドラフト装置の様子を示す側面図。
【図3】クレードルに対するローラ支持構造体の組付けを説明する分解組立斜視図。
【図4】ローラ支持構造体を詳細に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、並設された多数の紡績ユニット(糸処理ユニット)2を備えた、繊維機械としての紡績機1を示している。
【0029】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸送り装置11と、巻取装置12と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は、紡績機1が備えるフレーム6の上端近傍に設けられており、このドラフト装置7から送られてくる繊維束8を紡績装置9で紡績するように構成している。紡績装置9から紡出された紡績糸10は糸送り装置11で下方へ送られ、糸の欠陥を検出して糸切断を行って糸欠陥部分を除去するためのクリアラ(糸欠陥検出器)52を通過する。クリアラ52を通過した紡績糸10は、巻取装置12によって巻き取られ、パッケージ45を形成する。
【0030】
この紡績機1は、ブロアボックス91と、原動機ボックス92と、を備える。また、図では省略したが、紡績機1は、紡績ユニット2が並べられる方向に走行自在に設けられた糸継台車と、この糸継台車とは独立に走行自在に設けられた玉揚台車を備える。
【0031】
図2の拡大図には、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸送り装置11と、を側面から見た様子が示されている。ドラフト装置7は、スライバ13を延伸して繊維束8にするためのドラフトローラを備える。前記ドラフトローラは、互いに対向して配置される複数のトップローラとボトムローラにより構成されている。
【0032】
トップローラは、バックローラ14、サードローラ15、エプロンベルト17を装架したミドルローラ16、及びフロントローラ18の4つのローラから構成されている。これらのトップローラ14,15,16,18は、ドラフト装置7が備えるクレードル20に支持されている。一方、ボトムローラは、バックボトムローラ24、サードボトムローラ25、エプロンベルト27を装架したミドルボトムローラ26、及びフロントボトムローラ28の4つのローラから構成されている。それぞれのボトムローラ24,25,26,28はドラフト装置7本体側に取り付けられるとともに、前記トップローラ14,15,16,18に対向するように配置されている。
【0033】
クレードル20の内部には複数の押圧バネ64が収容されており、この押圧バネ64によって、前記トップローラ14,15,16,18が前記ボトムローラ24,25,26,28に対し押圧されるように付勢される。この結果、スライバ13をトップローラ14,15,16,18とボトムローラ24,25,26,28とでニップすることができる。
【0034】
それぞれのトップローラ14,15,16,18は、ローラ支持構造体31,32,33に取り付けられている。具体的には、バックローラ14が第1ローラ支持構造体31に、サードローラ15が第2ローラ支持構造体32に、ミドルローラ16及びフロントローラ18が第3ローラ支持構造体33に、それぞれ回転可能に支持されている。
【0035】
図2に示すように、クレードル20は、ドラフト装置7の糸道に沿って若干細長い形状に構成されている。また、クレードル20は図3に示すように、中央に備えられたカバー部(バネ収容部)21と、このカバー部21の両側に対で設けられた取付板(構造体取付部)22,22と、を備えている。
【0036】
クレードル20は板金により構成されており、前記カバー部21は、下方が開放された中空箱状に形成されている。カバー部21の上面には、差込孔85が貫通状に形成されている。この差込孔85は長孔状に形成されており、ローラ支持構造体31,32,33をクレードル20に取り付けたときに、後述の操作具67を前記差込孔85を通じて露出させることができる。
【0037】
前記取付板22はカバー部21と一体的に構成されており、具体的には、前記カバー部21の側面下部を外側へ直角に折り曲げて形成されている。この取付板22は平板状に形成されており、その下面には、ローラ支持構造体31,32,33を取り付けるための設置面22aが形成されている。
【0038】
前記クレードル20は、図1に示すように、2つの紡績ユニット2に対して1つ設けられ、2つの錘の糸道の間に配置される。図3に示すように、クレードル20の一側にはトップローラ14,15,16,18及びエプロンベルト17が支持され、他側にはトップローラ14x,15x,16x,18x及びエプロンベルト17xが支持される。また、図1及び図3に示すように、取付板22はクレードル20の両側に配置される。
【0039】
図3に示すように、それぞれの取付板22には、貫通状の長孔81と、貫通状の取付孔82と、が形成されている。長孔81は、前記第1ローラ支持構造体31及び第2ローラ支持構造体32を、固定ネジ73,74を用いてクレードル20にそれぞれ取り付けるためのものである。また、取付孔82は、前記第3ローラ支持構造体33を、固定ネジ75を用いてクレードル20に取り付けるためのものである。
【0040】
以上の構成で、ドラフト装置7に送られたスライバ13は、速度をそれぞれ異ならせながら回転駆動されるドラフトローラによって延伸され、繊維束8となって紡績装置9へ送られる。紡績装置9は繊維束8を空気紡績して紡績糸10を生成し、この紡績糸10は糸送り装置11へ向けて送られる。
【0041】
糸送り装置11は、図2に示すように、紡績機1本体のケーシングに支持されたデリベリローラ39と、デリベリローラ39に接離自在に設けられたニップローラ40と、を備える。この構成で、紡績装置9から排出された紡績糸10をデリベリローラ39とニップローラ40との間に挟んでデリベリローラ39を回転駆動させることにより、紡績糸10を巻取装置12側へ送ることができる。
【0042】
前記クレードル20は、ドラフト装置7に対して回動軸部29を中心に回動可能に構成されている。また、クレードル20にはクレードルハンドル23が取り付けられている。この構成で、紡績機1の稼動時にはクレードル20は図2に示す位置とされ、図略のロック機構によってロックされている。このロック機構のロックを外し、クレードルハンドル23を持ち上げることで、クレードル20が開いた状態となる。この状態で、トップローラ14,15,16,18やボトムローラ24,25,26,28の交換をはじめとしたメンテナンス作業や、後述するドラフトローラのゲージ調整作業等を行う。
【0043】
次に、クレードル20に取り付けられるローラ支持構造体31,32,33について説明する。図4は、第1ローラ支持構造体31を詳細に示す斜視図である。
【0044】
図4に示す第1ローラ支持構造体31は、一対のトップローラ(バックローラ14,14x)を支持するように構成されている。この第1ローラ支持構造体31は、軸支持フレーム(軸支持部)61と、バネ保持フレーム(バネ保持部)63と、前記押圧バネ64と、押圧力調整カム65と、押圧部材66と、を備えている。
【0045】
軸支持フレーム61は板金を素材として構成されており、下方を開放した中空の箱状に形成されている。この軸支持フレーム61は適宜細長い形状に構成されており、その長手方向の両端には、逆U字状に形成された軸収容凹部(位置決め凹部)62がそれぞれ形成されている。
【0046】
この軸収容凹部62は下方を開放させる形状となっており、前記バックローラ14,14xが両端に取り付けられたローラ軸51を下側から差し込むことができる。これにより、ローラ軸51は、軸支持フレーム61の長手方向に沿うようにして当該軸支持フレーム61に取り付けられる。
【0047】
この軸収容凹部62は、ローラ軸51の外周面に接触することで、第1ローラ支持構造体31に対して当該ローラ軸51を位置決めする機能を有している。また、軸支持フレーム61には図略の板バネが設けられており、この板バネによって、軸収容凹部62から前記ローラ軸51が抜けないように保持することができる。
【0048】
前記ローラ軸51は、その長手方向中央部が所定の長さにわたって若干大径となるように形成されている。そして、軸支持フレーム61は、ローラ軸51の大径部分とほぼ同じ長さを有するように形成され、当該大径部分を軸支持フレーム61の内部に収容するように構成されている。これにより、ローラ軸51が長手方向に移動しようとしても、その移動は、前記大径部分の端面が軸支持フレーム61の内壁(軸収容凹部62の周囲)に当たることで阻止される。このように、前記軸支持フレーム61は、ローラ軸51が軸方向に動かないように保持する機能を有している。
【0049】
バネ保持フレーム63は押圧バネ64を囲むように形成された板金製の部材であり、軸支持フレーム61の長手方向中央部に取り付けられている。バネ保持フレーム63は、その長手方向が軸支持フレーム61の長手方向と垂直になるように上下方向に配置され、適宜の手段で軸支持フレーム61に固定されている。
【0050】
軸支持フレーム61は中空状に構成されており、その内部空間には、押圧バネ64と、押圧力調整カム65と、押圧部材66と、が配置されている。
【0051】
押圧バネ64はコイルバネとして構成されており、押し縮められた状態でバネ保持フレーム63の内側に取り付けられている。押圧バネ64の一端には押圧力調整カム65が取り付けられ、他端には押圧部材66が取り付けられる。
【0052】
押圧力調整カム65は、前記押圧バネ64において、軸支持フレーム61から遠い側の端部(上端)に設けられている。この押圧力調整カム65は、回転させることで当該押圧力調整カム65を軸方向に伸縮させることが可能な操作具67を備えている。この操作具67は、バネ保持フレーム63に形成された貫通孔68から外部に突出するように配置される。
【0053】
押圧部材66は、前記押圧バネ64において押圧力調整カム65と反対側の端部(軸支持フレーム61に近い側の端部、下端)に設けられている。この押圧部材66は、押圧バネ64の端部を受け止める円板状の受け板69と、丸棒状の押圧ピン70と、を備えている。
【0054】
前記軸支持フレーム61の長手方向中央部には、押圧ピン70を差し込むための貫通孔71が形成されている。前記押圧ピン70は、この貫通孔71に上方から挿入されて、軸支持フレーム61の内部に突出している。この貫通孔71は、前記押圧ピン70を、その長手方向にスライド移動可能に支持している。
【0055】
貫通孔71に差し込まれた押圧ピン70の端部(下端)は、ローラ軸51の長手方向中央部に接触し、前記押圧バネ64のバネ力によりローラ軸51を下方に押す。これにより、ローラ軸51の両端に固定されているバックローラ14,14xを、対向するバックボトムローラ24に対してそれぞれ押圧することができる。
【0056】
なお、前記操作具67に適宜の工具を差し込んで回転させることにより、押圧力調整カム65が押圧バネ64を押し縮める量を変更することができる。この結果、押圧バネ64のバネ力を調整し、当該押圧バネ64が押圧部材66を介してローラ軸51に作用させる押圧力を適宜変更することができる。
【0057】
バネ保持フレーム63の両脇の位置において、軸支持フレーム61にはネジ孔72が形成されている。このネジ孔72にはメネジが形成されており、図3に示すように、固定ネジ73を前記長孔81に差し込んでネジ孔72に取り付けることにより、第1ローラ支持構造体31をクレードル20に固定することができる。
【0058】
第2ローラ支持構造体32については、第1ローラ支持構造体31と全く同一の構成であるので、詳細な説明は省略する。この第2ローラ支持構造体32は、第1ローラ支持構造体31が固定された長孔81に対し、固定ネジ74によって固定される。即ち、2つのローラ支持構造体31,32は、同一の長孔81に取り付けられることになる。
【0059】
また、第3ローラ支持構造体33は、1つの軸支持フレーム61に2本のローラ軸51,51を支持できるように構成し、それぞれのローラ軸51を押圧バネ64で押圧するように構成したものである。それ以外の構成は第1ローラ支持構造体31と同様であるので、詳細な説明は省略する。この第3ローラ支持構造体33は、取付孔82に対し、固定ネジ75によって固定される。
【0060】
ところで、前記長孔81の長手方向は、ドラフト装置7におけるスライバ13(繊維束8)の走行方向と平行な方向に向けられている。従って、第1ローラ支持構造体31及び第2ローラ支持構造体32は、クレードル20に対する取付位置を、前記長孔81と平行な方向(即ち、糸道に平行な方向)にそれぞれ無段階で変更することができる。これにより、ミドルローラ16−サードローラ15間、及びサードローラ15−バックローラ14間のゲージを変更することができる。
【0061】
また、本実施形態では、ローラ軸51を支持する軸支持フレーム61と、押圧バネ64を保持するバネ保持フレーム63と、が一体となって、第1ローラ支持構造体31(第2ローラ支持構造体32)を構成している。従って、バックローラ14,14x及びサードローラ15,15xの位置を変更すると同時に、当該バックローラ14,14x及びサードローラ15,15xを押し付ける押圧バネ64の位置も適切に移動させることができ、ゲージ変更作業を効率的に行うことができる。
【0062】
また、本実施形態では、その両端にトップローラ(例えば、バックローラ14,14x)を固定したローラ軸51の長手方向中央部を、1個の押圧バネ64によって押圧する構成となっている。従って、バネの数を低減してコストを削減できるとともに、中央の押圧バネ64のバネ力を両端の2つのトップローラ14,14xに均等に分配し、クレードル20を挟んで隣り合う2つの錘の間でのニップ力のバラツキを低減することができる。
【0063】
なお、本実施形態のドラフト装置7では、ミドルローラ16及びフロントローラ18の位置は変更されない仕様となっている。これに伴い、第3ローラ支持構造体33は図3に示すように、取付板22に形成された円形の小さな取付孔82に取り付けられており、その取付位置は不動とされている。
【0064】
以上の構成でゲージを変更するには、クレードルハンドル23を操作してクレードル20を開いた状態とし、適宜のネジ回し工具を使用して、第1ローラ支持構造体31及び第2ローラ支持構造体32を固定している固定ネジ73,74を緩める。次に、2つのローラ支持構造体31,32を、長孔81に沿って所望の位置まで移動させる。前述のように軸支持フレーム61及びバネ保持フレーム63は一体となっているので、トップローラ14,14x,15,15xの移動と同時に押圧バネ64も移動することになる。従って、ゲージ変更に伴う押圧バネ64の移動作業を特別に行う必要がなく、作業の省力化を図ることができる。
【0065】
次に、固定ネジ73,74の頭部に適宜のゲージ工具を当てる等して、ローラ支持構造体31,32(ひいては、トップローラ14,14x,15,15x)が意図した場所に正確に位置していることを確認する。その後、固定ネジ73,74を締め付け、ローラ支持構造体31,32がクレードル20に対して動かないように固定する。
【0066】
なお、ボトムローラ24,25についても、上記のトップローラ14,15のゲージ変更に対応したゲージ変更作業を適宜行う。その後、クレードル20を閉じて、ピッチ変更作業を完了する。
【0067】
以上に説明したように、本実施形態のドラフト装置7は、クレードル20と、第1ローラ支持構造体31と、ローラ軸51と、一対のバックローラ14,14xと、を備える。ローラ支持構造体31は、クレードル20に固定される。ローラ軸51は、ローラ支持構造体31に回転可能に支持される。バックローラ14は、ローラ軸51の一端に取り付けられるとともに、クレードル20の一側に配置される。バックローラ14xは、前記ローラ軸51の他端に取り付けられるともに、クレードル20の他側に配置される。ローラ支持構造体31は、軸支持フレーム61と、押圧バネ64と、バネ保持フレーム63と、を備える。軸支持フレーム61は、ローラ軸51を支持する。押圧バネ64は、一対のバックローラ14,14xを押し付けるためのバネ力を、ローラ軸51の長手方向中央部に作用させる。バネ保持フレーム63には、押圧バネ64が取り付けられる。ローラ支持構造体31は、クレードル20への取付位置を変更可能に構成されている。
【0068】
これにより、ゲージの変更と同時に押圧バネ64の位置の調整が完了するので、作業の効率化を実現できる。また、サイドプレートを不要にできるので、部品点数を削減できる。更に、1つの押圧バネ64で、2つの紡績ユニット2にそれぞれ配置されるバックローラ14,14xを、ローラ軸51を介して適切に押圧することができる。従って、押圧バネ64の共通化により部品点数を削減できるとともに、2つのバックローラ14,14xを均等に押圧し、ニップ力の偏りを低減することができる。
【0069】
また、本実施形態のドラフト装置7において、クレードル20は、カバー部21と、取付板22と、を備える。カバー部21は、前記押圧バネ64を内部に収容することができる。取付板22は、カバー部21の両側に対で配置される。ローラ支持構造体31は、両側の取付板22に固定ネジ73を介してそれぞれ固定されている。
【0070】
これにより、カバー部21を挟んだ少なくとも2箇所でローラ支持構造体31をクレードル20に確実に固定できるので、バックローラ14,14xの位置決め精度を安定させることができる。
【0071】
また、本実施形態のドラフト装置7においては、軸支持フレーム61は、ローラ軸51の長手方向に沿って細長く形成されている。そして、軸支持フレーム61の長手方向一側が一側の取付板22に、長手方向他側が他側の取付板22に、それぞれ固定されている。
【0072】
これにより、軸支持フレーム61の長手方向一側と他側をそれぞれクレードル20に固定することで、十分に離れた2点で軸支持フレーム61を固定でき、バックローラ14,14xの位置決め精度を良好に維持することができる。
【0073】
また、本実施形態のドラフト装置7においては、カバー部21は、ローラ支持構造体31を取り付けるために前記取付板22が有する設置面22aから上方に突出した形状に構成されている。
【0074】
これにより、ローラ軸51の長手方向中央を押圧する押圧バネ64をクレードル20の内部に適切に収容しながら、ローラ支持構造体31をクレードル20に取り付けることができる。また、全体としてコンパクトな構成のドラフト装置7を実現できる。
【0075】
また、本実施形態のドラフト装置7においては、それぞれの取付板22には長孔81が形成されており、第1ローラ支持構造体31は、この長孔81を介してそれぞれの取付板22に固定されている。
【0076】
これにより、長孔81に沿ってローラ支持構造体31を移動させる簡単な作業によって、ゲージを変更することができる。
【0077】
また、本実施形態のドラフト装置7は、第1ローラ支持構造体31及び第2ローラ支持構造体32を備える。そして、それぞれのローラ支持構造体31,32は、取付板22に形成された共通の長孔81に固定されている。
【0078】
これにより、長孔81の数を減少させることができるので、ゲージ変更のための構成が簡単になる。また、共通の長孔81とすることで当該長孔81を長くできるので、それぞれのローラ支持構造体31,32の移動ストロークを大きく確保することができる。
【0079】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0080】
上記実施形態において、ローラ支持構造体31,32は、それぞれ1本のローラ軸51を支持するように構成されている。しかしながらこれに限定されず、例えばバックローラ14のローラ軸51とサードローラ15のローラ軸51を1つのローラ支持構造体で支持する構成に変更することができる。
【0081】
前記実施形態では、軸支持フレーム61の上面に、固定ネジ73を取り付けるためのネジ孔72が形成されている。しかしながらこれに代えて、例えば軸支持フレーム61の長手方向両端面にネジ孔を形成し、このネジ孔を利用して軸支持フレーム(ローラ支持構造体)をクレードルに取り付ける構成に変更することができる。
【0082】
第3ローラ支持構造体33を、クレードル20の取付板22に形成した長孔に取り付け、ミドルローラ16及びフロントローラ18を移動可能に構成することもできる。
【0083】
上記実施形態は、4線式のドラフト装置の構成に限らず、例えば5線式やそれ以外の方式のドラフト装置に適用することができる。例えば、上記実施形態において、第1ローラ支持構造体31又は第2ローラ支持構造体32の何れかをクレードル20から取り外すだけで、3線式のドラフト装置のトップローラの構造を実現することができる。
【符号の説明】
【0084】
1 紡績機(繊維機械)
7 ドラフト装置
14 バックローラ(第1ドラフトローラ)
14x バックローラ(第2ドラフトローラ)
20 クレードル
21 カバー部(バネ収容部)
22 取付板
22a 設置面
31,32 ローラ支持構造体
51 ローラ軸
61 軸支持フレーム(軸支持部)
63 バネ保持フレーム(バネ保持部)
64 押圧バネ
73,74 固定ネジ(固定具)
81 長孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クレードルと、
前記クレードルに固定されるローラ支持構造体と、
前記ローラ支持構造体に回転可能に支持されるローラ軸と、
前記ローラ軸の一端に取り付けられるともに、前記クレードルの一側に配置される第1ドラフトローラと、
前記ローラ軸の他端に取り付けられるともに、前記クレードルの他側に配置される第2ドラフトローラと、
を備え、
前記ローラ支持構造体は、
前記ローラ軸を支持する軸支持部と、
前記第1ドラフトローラ及び前記第2ドラフトローラを押し付けるためのバネ力を前記ローラ軸の長手方向中央部に作用させる押圧バネと、
前記押圧バネが取り付けられるバネ保持部と、
を備え、
前記ローラ支持構造体は、前記クレードルへの取付位置を変更可能に構成されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項2】
請求項1に記載のドラフト装置であって、
前記クレードルは、
前記押圧バネを内部に収容可能なバネ収容部と、
前記バネ収容部の両側に対で配置された構造体取付部と、
を備え、
前記ローラ支持構造体は、両側の前記構造体取付部に固定具を介してそれぞれ固定されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項3】
請求項2に記載のドラフト装置であって、
前記軸支持部は、前記ローラ軸の長手方向に沿って細長い部分を有するように形成されており、
前記軸支持部の長手方向一側が一側の前記構造体取付部に、長手方向他側が他側の前記構造体取付部に、それぞれ固定されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のドラフト装置であって、
前記バネ収容部は、前記ローラ支持構造体を取り付けるために前記構造体取付部が有する設置面から突出した形状に構成されていることを特徴とするドラフト装置。
【請求項5】
請求項2から4までの何れか一項に記載のドラフト装置であって、
それぞれの前記構造体取付部には長孔が形成されており、前記ローラ支持構造体は、この長孔を介してそれぞれの前記構造体取付部に固定されることを特徴とするドラフト装置。
【請求項6】
請求項5に記載のドラフト装置であって、
前記ローラ支持構造体を複数備え、
それぞれの前記ローラ支持構造体は、前記構造体取付部に形成された共通の前記長孔に固定されることを特徴とするドラフト装置。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載のドラフト装置を備えることを特徴とする繊維機械。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−168690(P2010−168690A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12790(P2009−12790)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000006297)村田機械株式会社 (4,916)
【Fターム(参考)】