説明

ドラムブレーキ用ストラット

【課題】車軸方向ブレーキ組み幅の設計に余裕を持たせたドラムブレーキを実現するために、車軸方向に膨出した従来のスプリングストッパがなくてもストラットによるアンチラトルスプリングの一端の受け支えを行えるようにすることを課題としている。
【解決手段】扁平横長な本体部17aの一端側をドラムブレーキの一方のブレーキシューに、本体部17aの他端側をドラムブレーキの他方のブレーキシューとパーキングレバーにそれぞれ係合させて前記パーキングレバーを介して加えられる入力を前記ブレーキシューに伝達するドラムブレーキ用ストラットの本体部17aの長手方向途中に、本体部の厚み方向の一面側と他面側に突出するスプリングストッパ17dを設け、そのスプリングストッパ17dで本体部の外周に嵌めてドラムブレーキの一方のブレーキシューとの間に圧縮して配置するアンチラトルスプリング14の一端を受け支えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駐車ブレーキ機能を持ったドラムブレーキに採用されるストラット、詳しくは、車軸方向ブレーキ組み幅の設計に余裕を持たせたドラムブレーキを実現するための改良されたストラットに関する。
【背景技術】
【0002】
周知の車両用ドラムブレーキの中に、例えば、駐車ブレーキとして用いられるドラムインディスクブレーキのドラムブレーキがある。そのドラムインディスクブレーキのドラムブレーキの一例を添付図面の図6〜図8に示す。図中1はバッキングプレート、2,3は対向配置された一対のブレーキシュー、4,4はシューホールドダウン、5はアンカーピン、6はアジャスタ、7はブレーキシュー2,3間に渡されたストラット、8,8はブレーキシュー2,3の復帰スプリング、9はパーキングレバー、10はレバーピン、11は駐車ブレーキの入力をパーキングレバー9に伝達するパーキングケーブル、12はアジャスタ側スプリング、13はドラムである。図示のドラムブレーキは、対のブレーキシュー2,3の一端をアンカーピン5にピボット結合させている。
【0003】
ストラット7は、パーキングレバー9を介して加えられる駐車ブレーキの入力をブレーキシュー2,3に伝達する部品である。このストラット7は、両端に切り欠き溝7b,7cを有しており、その切り欠き溝7b,7cを、ブレーキシュー2,3の一端近傍に対応して設けた切り欠き溝2a,3aに係合させて対のブレーキシュー2,3間に配置される。このストラット7は、切り欠き溝7cを設けた側をブレーキシュー3の一端近傍においてパーキングレバー9にも係合させている。
【0004】
そのストラット7の車両走行中のがたつきを防止するために、アンチラトルスプリングを用いてストラット7を片方のブレーキシューに押し付けることがなされている。図6〜図8の14がアンチラトルスプリングである。ストラット7は、本体部7aの長手方向途中にスプリングストッパ7dを備えている。そのスプリングストッパ7dでアンチラトルスプリング14の一端を支え、ブレーキシュー2との間に圧縮して配置したそのアンチラトルスプリング14の力でストラット7をブレーキシュー3に押し付けてストラット7のがたつきを防止している。なお、スプリングストッパ7dは、ストラット7に幅方向(車軸方向)の膨出部を設けてその膨出部で形成していた。
【0005】
近年、車両の軽量化、操縦安定性向上、コスト低減などを図るために、足回り部品である図7に示すユニットベアリング15の車軸方向寸法Aを短縮する設計要求がでてきている。しかしながら、その車軸方向寸法Aは、ブレーキの内蔵部品による規制を受ける。図6のストラット7も、車軸方向寸法Aに影響を及ぼす要素の一つである。車軸方向寸法A
を短縮すると、図7、図8に示すハブボルト16とストラット7に設けられるスプリングストッパ7dとの間の隙間Bを確保するのが困難になり、内蔵部品の隙間を確保したドラムブレーキを実現することができない。
【0006】
ここで、下記特許文献1は、ブレーキシューをアンカーに引きつけるシュー復帰スプリングのアンカー側フックを折り曲げて延長し、その延長部をストラットに係止させることによりスプリングの力でストラットをブレーキシューに押し付けられる位置まで持ち上げてストラットのがたつきを防止する構造を開示している。この構造によれば、専用のアンチラトルスプリングが不要であるので、一般的なストラットに設けられているスプリングストッパを省いて図7の車軸方向寸法Aを短縮することができる。
【0007】
しかしながら、特許文献1の構造では、ストラットの動き止めを兼用したシュー復帰スプリングが生産性やコスト面で不利な特殊形状の部品となるのに加えて、そのスプリングをアンカー側で引き止めるピンなども必要になり、ブレーキの製造コストに悪影響がでる。
【0008】
【特許文献1】特許第3629295号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、車軸方向ブレーキ組み幅の設計に余裕を持たせたドラムブレーキを実現するために、車軸方向に膨出した従来のスプリングストッパがなくてもストラットによるアンチラトルスプリングの一端の受け支えを行えるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、幅を厚みよりも大きくした扁平横長な本体部を有し、その本体部の一端側をドラムブレーキの一方のブレーキシューに、前記本体部の他端側をドラムブレーキの他方のブレーキシューとパーキングレバーにそれぞれ係合させて前記パーキングレバーを介して加えられる入力を前記ブレーキシューに伝達するドラムブレーキ用ストラットを以下のように構成する。即ち、前記本体部の長手方向途中に本体部の厚み方向の一面側と他面側に突出するスプリングストッパを設け、そのスプリングストッパで、前記本体部の外周に嵌めてドラムブレーキの前記一方のブレーキシューとの間に圧縮して配置するアンチラトルスプリングの一端を受け支えるようにした。
【0011】
このストラットのスプリングストッパは、本体部の厚み方向の一面側と他面側に別部材を溶接などで取り付けてその部材で構成することもできるが、それよりは、本体部に本体部厚み方向の打ち出し突起を設け、この打ち出し突起で構成したスプリングストッパが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
この発明のストラットは、本体部の厚み方向の一面側と他面側に突出するスプリングストッパを設けてそのスプリングストッパでアンチラトルスプリングを受け支えるようにしたので、図5に示すスプリングストッパの車軸方向突出量Cがゼロになって車軸方向寸法が小さくなる。これにより、内蔵部品、すなわち、ストラットとハブボルトとの間の車軸方向隙間の確保、ブレーキ組み幅の短縮設計が可能になり、その結果、車両の足回りに配置するユニットベアリングの車軸方向寸法を短縮して車両の足回り部全体の軽量化、それによる操縦安定性の向上を図ることが可能になる。
【0013】
また、従来設けていたスプリングストッパを無くしたことによって、ストラット製造時の材料の歩留まり向上、ブレーキアセンブリの軽量化、コスト低減なども図れるようになる。
【0014】
なお、スプリングストッパを本体部と一体の打ち出し突起で構成するものは、別部材を用いてスプリングストッパを構成するものに比べて生産性に優れ、コスト面でさらに有利になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明のドラムブレーキ用ストラットの実施の形態を添付図面の図1〜図3に基づいて説明する。このストラット17は、幅wを厚みtよりも大きくした扁平横長な本体部17aを有し、その本体部17aの一端側に第1係合部(図のそれは切り欠き溝)17bを、他端側に第2係合部(これも切り欠き溝)17cをそれぞれ設け、さらに、本体部17aの一端近傍にスプリングストッパ17dを設けて構成されている。
【0016】
第1係合部17bには、ブレーキドラムの一方のブレーキシューのウェブが差し込まれる。また、第2係合部17cには、ブレーキドラムの他方のブレーキシューのウェブとパーキングレバーがそれぞれ差し込まれる。
【0017】
スプリングストッパ17dは、本体部17aに2個の打ち出し突起を設けてその打ち出し突起で形成している。2個の突起のうち一方の突起は、本体部17aの厚み方向の一面側に打ち出され、他方の突起は、本体部17aの厚み方向の他面側に打ち出されている。この2個の突起は、本体部長手方向の位置を揃えており、この2個の突起(スプリングストッパ17d)でアンチラトルスプリング14の一端側を受け支える。
【0018】
図4に、この発明のストラット17を採用したドラムブレーキの一例を示す。図4の1はバッキングプレート、2,3は対向配置された一対のブレーキシュー、4,4はシューホールドダウン、5はアンカーピン、6はアジャスタ、8,8はアンカー側のブレーキシュー2,3の復帰スプリング、9はレバーピン10でブレーキシュー3にピボット結合させたパーキングレバー、11は駐車ブレーキの入力をパーキングレバー9に伝達するパーキングケーブル、12はアジャスタ側スプリング、13はドラム、17はストラットである。ストラット17は、本体部17aの長手方向中央部を湾曲させているが、この部分の形状を除く構成は図1〜図3に開示したものと同じである。
【0019】
例示のドラムブレーキは、ピボットアンカー型であり、ブレーキシュー2,3の一端が
アンカーピン5にピボット結合されている。
【0020】
ストラット17は、本体部17aの一端に設けた第1係合部17bを一方のブレーキシュー2に設けた切り欠き溝2aに、本体部17aの他端に設けた第2係合部17cを他方のブレーキシュー3に設けた切り欠き溝3aとパーキングレバー9に設けた切り欠き溝9aにそれぞれ係合させてブレーキシュー2,3間に配置している。このストラット17は、一端側に前述のスプリングストッパ17dを有し、そのスプリングストッパ17dとブレーキシュー2との間に圧縮して介在したアンチラトルスプリング14によって図中左方に向けて付勢される。
【0021】
アンチラトルスプリング14は、ストラット17の本体部の表面に沿うようにコイリングされたスプリングであり、端面視形状が長円形をなす(図1、図7参照)。そのアンチラトルスプリング14を圧縮してストラット17の本体部の外周に嵌め、このアンチラトルスプリング14の一端を、打ち出し突起で構成されたスプリングストッパ17dで、他端を第1係合部17bに差し込まれたブレーキシュー2のウェブでそれぞれ受け支える。これにより、ストラット17がアンチラトルスプリング14の力でブレーキシュー3に押し付けられ、このストラット17のがたつきが防止される。この状態で、図5に示すように、ストラット17とハブボルト16の頭部との間に隙間B1が確保される。この隙間B1は、従来、ストラットに設けていたスプリングストッパ7dの車軸方向突出量C相当分大きくなるので、ドラムブレーキの車軸方向寸法をそれに見合う分短縮することが可能になる。
【0022】
なお、この発明は、アンチラトルスプリングを設けてがたつきを防止するドラムブレーキ用ストラットの全てに適用できる。例えば、図5のドラムブレーキは駐車専用のブレーキであるが、このブレーキのストラット17を設けた入力部にブレーキシュー2,3に対して作動力を加えるホイールシリンダを追加して駐車ブレーキとサービスブレーキを兼用させるデュオサーボ型のドラムブレーキが知られており、そのドラムブレーキにもアンチラトルスプリングでがたつきを防止するストラットが採用されている。そのようなストラットもこの発明の特徴を加えてドラムブレーキの組み幅(車軸方向寸法)短縮の効果を生じさせることができる。例示のドラムブレーキの作動時の動作は、良く知られているので動作に関する説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明のドラムブレーキ用ストラットの実施形態を示す斜視図
【図2】図1のストラットの平面図
【図3】図2のIII−III線に沿った位置の拡大断面図
【図4】図1のストラットを採用したドラムブレーキの一例の正面図
【図5】図4のX−X線に沿った位置の拡大断面図
【図6】従来のストラットを採用したドラムブレーキの一例の正面図
【図7】図6のY−Y線に沿った位置の断面図
【図8】図6のZ−Z線に沿った位置の断面図
【符号の説明】
【0024】
1 バッキングプレート
2,3 ブレーキシュー
2a,3a 切り欠き溝
4 シューホールドダウン
5 アンカーピン
6 アジャスタ
7 ストラット
7a 本体部
7b,7c 切り欠き溝
7d スプリングストッパ
8 復帰スプリング
9 パーキングレバー
9a 切り欠き溝
10 レバーピン
11 パーキングケーブル
12 アジャスタ側スプリング
13 ドラム
14 アンチラトルスプリング
15 ユニットベアリング
16 ハブボルト
17 ストラット
17a 本体部
17b,17c 切り欠き溝
17d スプリングストッパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅(w)を厚み(t)よりも大きくした扁平横長な本体部(17a)を有し、その本体部(17a)の一端側をドラムブレーキの一方のブレーキシューに、本体部(17a)の他端側をドラムブレーキの他方のブレーキシューとパーキングレバーにそれぞれ係合させて前記パーキングレバーを介して加えられる入力を前記ブレーキシューに伝達するドラムブレーキ用ストラットにおいて、前記本体部(17a)の長手方向途中に本体部の厚み方向の一面側と他面側に突出するスプリングストッパ(17d)を設け、前記本体部(17a)の外周に嵌めてドラムブレーキの前記一方のブレーキシューとの間に圧縮して配置するアンチラトルスプリング(14)の一端を前記スプリングストッパ(17d)で受け支えるようにしたことを特徴とするドラムブレーキ用ストラット。
【請求項2】
前記本体部(17a)に本体部厚み方向の打ち出し突起を設け、この打ち出し突起で前記スプリングストッパ(17d)を構成した請求項1に記載のドラムブレーキ用ストラット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−56889(P2007−56889A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−239479(P2005−239479)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【Fターム(参考)】