説明

ドラムブレーキ

【課題】シューホールドダウン装置を使用せずに一対のブレーキシューをバッキングプレートに拡開可能に支持し、従来に比較してドラムブレーキの部品点数を削減するドラムブレーキを提供する。
【解決手段】アンカ部材28には、先端部46b,46cがブレーキシュー18,20の他端部側に延設された押圧部46e,46fを有し、押圧部46e,46fの弾性復帰力によってシューウェブ32,34をバッキングプレート16に接近する方向に押圧するアンカプレート46が備えられている。そのため、押圧部46e,46fの弾性復帰力によって、ブレーキシュー18,20は、そのシューリム36,38の2つのレッジ部36a,38aを介してバッキングプレート16を押圧するので、従来使用されていたシューホールドダウン装置を使用せずにブレーキシュー18,20がバッキングプレート16に拡開可能に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラムブレーキに係り、特にそのドラムブレーキの部品点数を従来に比較して削減させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラムブレーキには、例えば特許文献1、2に示すように、(a) 第1リターンスプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つ第2リターンスプリングによって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューと、(b) その一対のブレーキシューの一端部間およびその一対のブレーキシューの他端部間の少なくとも一方に位置するようにバッキングプレートに固定され、その一対のブレーキシューを受け止めるアンカ部材と、(c) そのブレーキシューのシューリムのそのバッキングプレート側の円弧状側縁の複数部位に設けられたそのバッキングプレートと摺接する複数のレッジ部とを備えたものがある。
【0003】
上記のようなドラムブレーキにおいて、特許文献1、2に示すように、前記一対のブレーキシューは、その一対のブレーキシューにそれぞれ配設されたシューホールドダウン装置によって前記バッキングプレートに拡開可能に支持される。また、上記のようなシューホールドダウン装置は、特許文献2の図4に示すように、例えば、ばね材から成る断面円形の線材が複数回巻回されたシューホールドダウンスプリングと、そのシューホールドダウンスプリングの前記バッキングプレートから離間する側の端部に当接する略円板状の円板部材と、先端部がその円板部材に貫通された貫通穴とシューホールドダウンスプリングと前記ブレーキシューのシューウェブに貫通された貫通穴とを通り基端部が前記バッキングプレートの所定位置に連結された略円柱形状のシューホールドダウンピンとを有し、そのシューホールドダウンスプリングの弾性復帰力を用いて前記ブレーキシューを前記複数のレッジ部を介してそのバッキングプレートに押圧することにより、前記一対のブレーキシューがそのバッキングプレートに拡開可能に支持されるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−133911号公報
【特許文献2】特開2004−257538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなドラムブレーキにおいて、前記一対のブレーキシューを前記バッキングプレートに拡開可能に支持するために上記のような複数の部品で構成されるシューホールドダウン装置が使用されると、上記ドラムブレーキの部品点数が多くなってしまう問題があった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、シューホールドダウン装置を使用せずに一対のブレーキシューをバッキングプレートに拡開可能に支持し、従来に比較してドラムブレーキの部品点数を削減するドラムブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、(a) 第1リターンスプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つ第2リターンスプリングによって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューと、その一対のブレーキシューの一端部間およびその一のブレーキシューの他端部間の少なくとも一方に位置するようにバッキングプレートに固定され、その一対のブレーキシューを受け止めるアンカ部材と、そのブレーキシューのシューリムのそのバッキングプレート側の円弧状側縁の複数部位に設けられたそのバッキングプレートと摺接する複数のレッジ部とを備えるドラムブレーキであって、(b) 前記アンカ部材には、先端部が前記ブレーキシューの前記アンカ部材側の端部に延設された押圧部を有し、その押圧部によってそのブレーキシューのシューウェブを前記バッキングプレートに接近する方向に押圧するばね部材が備えられていることにある。
【0008】
また、第2発明の要旨とするところは、第1発明において、(a) 前記複数のレッジ部は、前記ブレーキシューのシューリムの前記バッキングプレート側の円弧状側縁のうちそのシューリムの両端部に備えられたものであり、(b) 前記押圧部の前記ブレーキシューを押圧する力の押圧中心は、前記ブレーキシューにおいて前記複数のレッジ部のそれぞれの間のシュー安定領域内に位置させられるものである。
【0009】
また、第3発明の要旨とするところは、第1発明において、(a) 前記複数のレッジ部は、前記ブレーキシューのシューリムの前記バッキングプレート側の円弧状側縁のうちそのシューリムの両端部および中央部に備えられたものであり、(b) 前記押圧部の前記ブレーキシューを押圧する力の押圧中心は、前記ブレーキシューにおいて前記複数のレッジ部それぞれを頂点とする三角形を成すシュー安定領域内に位置させられるものである。
【発明の効果】
【0010】
第1発明のドラムブレーキによれば、(b) 前記アンカ部材には、先端部が前記ブレーキシューの前記アンカ部材側の端部に延設された押圧部を有し、その押圧部によってそのブレーキシューのシューウェブを前記バッキングプレートに接近する方向に押圧するばね部材が備えられている。このため、前記ばね部材の前記押圧部によって前記ブレーキシューのシューウェブが前記バッキングプレートに接近する方向に押圧され、前記ブレーキシューは、そのブレーキシューのシューリムの前記バッキングプレート側の前記複数のレッジ部を介して前記バッキングプレートを押圧するので、従来使用されていたシューホールドダウン装置を使用せずに前記ブレーキシューが前記バッキングプレートに拡開可能に支持される。また、前記押圧部を有する前記ばね部材は、複数の部品で構成されたシューホールドダウン装置に比較して部品点数が少ないので、シューホールドダウン装置を使用した従来のドラムブレーキに比較してドラムブレーキの部品点数が削減される。
【0011】
第2発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記複数のレッジ部は、前記ブレーキシューのシューリムの前記バッキングプレート側の円弧状側縁のうちそのシューリムの両端部に備えられたものであり、(b) 前記押圧部の前記ブレーキシューを押圧する力の押圧中心は、前記ブレーキシューにおいて前記複数のレッジ部のそれぞれの間のシュー安定領域内に位置させられる。このため、前記押圧中心と前記バッキングプレートとの間で前記ブレーキシューが挟持されるのでその浮き上がりが防止され、前記ブレーキシューは、その複数のレッジ部が前記バッキングプレートに摺接された状態で安定的に保持される。
【0012】
第3発明のドラムブレーキによれば、(a) 前記複数のレッジ部は、前記ブレーキシューのシューリムの前記バッキングプレート側の円弧状側縁のうちそのシューリムの両端部および中央部に備えられたものであり、(b) 前記押圧部の前記ブレーキシューを押圧する力の押圧中心は、前記ブレーキシューにおいて前記複数のレッジ部それぞれを頂点とする三角形を成すシュー安定領域内に位置させられる。このため、前記押圧中心と前記バッキングプレートとの間で前記ブレーキシューが挟持されるのでその浮き上がりが防止され、前記ブレーキシューは、その複数のレッジ部が前記バッキングプレートに摺接された状態で安定的に保持される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明が適用された一実施例のドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1のアンカ部材を拡大した拡大図である。
【図3】図2のIII-III視断面図である。
【図4】ブレーキレバー、リターンスプリング、スプリングなどを省略させた、図1のIV-IV視断面図である。
【図5】本発明の他の実施例のドラムブレーキを示す図であり、図1に対応するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0015】
図1は、本発明の一実施例のパーキングロック機能を備えたシュー間隙自動調節機構付ドラムブレーキであるリーディング・トレーリング型の車両用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10であって、有底円筒状のブレーキドラム12を取り外して示す正面図である。また、ブレーキドラム12は、図1の1点鎖線で示す2つの同心円で表されており、その2つの円のうちの中心側の円はブレーキドラム12の内周面14を示している。
【0016】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。
【0017】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー18および20と、その一対のブレーキシュー18および20の一端部すなわち図1の上端部の間においてバッキングプレート16に位置固定に設けられたホイールシリンダ22と、一対のブレーキシュー18および20の一端部を互いに接近する方向に常時付勢してホイールシリンダ22に当接させるために、その一端部間に張設されたコイル状のリターンスプリング(第1リターンスプリング)24と、そのコイル状のリターンスプリング24の内部を挿通するように一対のブレーキシュー18および20の一端部間に架け渡された非制動時における一対のブレーキシュー18および20とブレーキドラム12の内周面14との間すなわちシュー間隙を自動的に調節するシュー間隙自動調節機構26と、一対のブレーキシュー18および20の他端部すなわち図1の下端部の間に位置するようにバッキングプレート16に固定されたアンカ部材28と、一対のブレーキシュー18および20の他端部間に張設されてそれら他端部をアンカ部材28に常時当接させるスプリング(第2リターンスプリング)30とが備えられている。
【0018】
一対のブレーキシュー18および20は、何れも、バッキングプレート16の内周部に位置する平坦な平板部16aと略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ32および34と、それらの円弧形状を成すシューウェブ32および34の外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すようにそのシューウェブ32および34に一体的に固設された帯板状のシューリム36および38と、それらシューリム36および38のバッキングプレート16側の円弧状側縁のうちそれらシューリム36および38の両端部においてバッキングプレート16と摺接するために曲成されたレッジ部36aおよび38aと、シューリム36および38の外周面に接着剤などで一体的に固着された摩擦材から成るライニング40および42とを備えてそれぞれ構成されている。
【0019】
後述する図4に示すように、シューリム36のバッキングプレート16側の円弧状側縁のうちそのシューリム36の両端部に設けられたレッジ部36aは、シューウェブ32に対して略対称にシューリム36のバッキングプレート16側とは反対側の円弧状側縁にも設けられる。また、図示されてはいないが、シューリム38のバッキングプレート16側の円弧状側縁のうちそのシューリム38の両端部に設けられたレッジ部38aは、上記と同様にシューウェブ34に対して略対称にシューリム38のバッキングプレート16側とは反対側の円弧状側縁にも設けられる。このため、一対のブレーキシュー18および20において使用されるシューリム36および38の形状を一致させて部品の共通化をすることができる。つまり、ブレーキシュー18にシューリム38を使用することやブレーキシュー20にシューリム36を使用することができる。
【0020】
図1および図2に示すように、シューリム36および38のバッキングプレート16側とは反対側の2箇所に設けられたレッジ部36aおよび38aは、何れも、そのシューリム36および38のバッキングプレート16側とは反対側の円弧状側縁のうちそれらシューリム36および38の両端部において一部がバッキングプレート16の内周側に突き出るように曲成された突部36bおよび38bと、その突部36bおよび38bとシューリム36および38のバッキングプレート16側とは反対側の円弧状側縁とを連結する一対の連結部36cおよび38cとを一体に備えている。また、シューリム36および38のバッキングプレート16側のレッジ部36aおよび38aと、シューリム36、38のバッキングプレート16側とは反対側のレッジ部36aおよび38aとは、略同様に成形されているため、そのシューリム36および38のバッキングプレート16側の2箇所に設けられたレッジ部36aおよび38aにも、突部36bおよび38bと、一対の連結部36cおよび38cとが一体に備えられている。
【0021】
図2および図3に示すように、アンカ部材28には、一対のブレーキシュー18および20の他端部の間に位置するようにバッキングプレート16に配置され、一対のブレーキシュー18および20の他端部を受け止めるアンカブロック44と、そのアンカブロック44の図3に示す上面44aに長手板状の基端部46aが配置され、その長手板状の基端部46aの一対のブレーキシュー18および20の他端部側の両端部から先端部46bおよび46cがそれぞれブレーキシュー18,20の他端部側に延設された略円弧形状のアンカプレート(ばね部材)46と、そのアンカプレート46の基端部46aおよびアンカブロック44およびバッキングプレート16に貫通された貫通穴46d,44b,16bに嵌合する円柱形状の軸部48aとその軸部48aのバッキングプレート16とは反対側の端部においてその軸部48aの径より大径に成形された頭部48bとを有し、軸部48aのバッキングプレート16側の端部がその軸部48aの径より大径に塑性変形させられることによってアンカブロック44およびアンカプレート46の基端部46aがバッキングプレート16に一体的に固定される一対のリベット48とが備えられている。また、図2および図3に示すように、アンカブロック44には、スプリング30の付勢力によって一対のブレーキシュー18および20の他端部が当接さられる一対の当接面44cおよび44dが備えられている。
【0022】
図1乃至図4に示すように、アンカプレート46は、例えばばね鋼等の金属板で構成されており、アンカプレート46には、そのアンカプレート46の基端部46aの両端部から先端部46bおよび46cが一対のブレーキシュー18および20の他端部側に延設され、その先端部46bおよび46cによってそのブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34をバッキングプレート16に接近する方向に押圧する一対の押圧部46eおよび46fと、そのアンカプレート46の先端部46bおよび46cからバッキングプレート16に接近する方向に突き出す部分球面形状の突出部46gおよび46hとが一体に備えられている。また、アンカプレート46の突出部46gおよび46hは、プレス加工によって成形されたものである。
【0023】
図3および図4に示すように、ドラムブレーキ10に一対のブレーキシュー18および20が組み付けられると、アンカプレート46の突出部46gおよび46hがシューウェブ32および34によってバッキングプレート16から離間する方向に移動させられてアンカプレート46の押圧部46eおよび46fが曲げられると共に、その押圧部46eおよび46fの弾性復帰力によって突出部46gおよび46hを介してブレーキシュー18,20のシューウェブ32,34がバッキングプレート16に接近する方向に押圧される。
【0024】
図1および図2に示すように、アンカプレート46の押圧部46eの弾性復帰力によってアンカプレート46の突出部46gがブレーキシュー18のシューウェブ32をバッキングプレート16に接近する方向に押圧する押圧中心C1は、ブレーキシュー18のシューウェブ32においてそのシューリム36の両端部の一対のレッジ部36aの間を結ぶ所定幅のシュー安定領域R1内に位置させられる。また、図1および図2に示すように、アンカプレート46の押圧部46fの弾性復帰力によってアンカプレート46の突出部46hがブレーキシュー20のシューウェブ34をバッキングプレート16に接近する方向に押圧する押圧中心C2は、ブレーキシュー20のシューウェブ34においてそのシューリム38の両端部の一対のレッジ部38aの間を結ぶ所定幅のシュー安定領域R2内に位置させられる。
【0025】
すなわち、図1および図2に示すように、シュー安定領域R1は、シューリム36の両端部の一対のレッジ部36aにおけるそのレッジ部36aの一対の連結部36bをそれぞれ頂点とする四角形内の領域である。また、図1および図2に示すように、シュー安定領域R2は、シューリム38の両端部の一対のレッジ部38aにおけるそのレッジ部38aの一対の連結部38bをそれぞれ頂点とする四角形内の領域である。
【0026】
図4は、アンカプレート46の押圧部46eの弾性復帰力によってアンカプレート46の突出部46gがブレーキシュー18のシューウェブ32をバッキングプレート16に接近する方向に押圧した状態を示す図である。なお、本実施例のドラムブレーキ10はリーディング・トレーリング型であって、左右が同様であるため、以下において、アンカプレート46の突出部46hによってブレーキシュー20のシューウェブ34がバッキングプレート16に接近する方向に押圧された際におけるブレーキシュー20の状態の説明は省略する。
【0027】
図4に示すように、バッキングプレート16には、前述した平板部16aと、前述した貫通穴16bと、平板部16aからブレーキシュー18の他端部におけるシューリム36のバッキングプレート16側のレッジ部36aに向かうように突出された第1突部16cと、平板部16aからブレーキシュー18の一端部におけるシューリム36のバッキングプレート16側のレッジ部36aに向かうように突出された第2突部16dとが一体に備えられている。また、バッキングプレート16の第1突部16cの先端部には、平板部16aと略平行の摺動面16eが備えられ、バッキングプレート16の第2突部16dの先端部には、平板部16aと略平行の摺動面16fが備えられている。
【0028】
このため、アンカプレート46の押圧部46eの弾性復帰力によって突出部46gを介してブレーキシュー18のシューウェブ32がバッキングプレート16に接近する方向に押圧されると、ブレーキシュー18のシューリム32のバッキングプレート16側の円弧状側縁においてそのシューリム36の両端部の一対のレッジ部36aがバッキングプレート16の第1突部16cの摺動面16eと第2突部16dの摺動面16fとに押圧される。これにより、ブレーキシュー18は、バッキングプレート16の摺動面16eおよび16fの面方向の移動が可能にバッキングプレート16に支持される。
【0029】
以上のように構成されたドラムブレーキ10によれば、図示しないブレーキペダルが操作されることによってホイールシリンダ22が作動すると、一対のブレーキシュー18および20の一方の他端部がアンカ部材28の当接面44cおよび44dに当接されてその一対のブレーキシュー18および20の一方の一端部がブレーキドラム12の内周面14に摺接してブレーキドラム12の回転が制動される。また、このドラムブレーキ10の制動時において、一対のブレーキシュー18および20の他端部がバッキングプレート16から浮き上がろうとしても、アンカプレート46の突出部46gおよび46hによってその一対のブレーキシュー18および20の他端部の浮き上がりが防止される。
【0030】
本実施例のドラムブレーキ10によれば、アンカ部材28には、先端部46bおよび46cがブレーキシュー18,20の他端部側に延設された一対の押圧部46eおよび46fを有し、その押圧部46eおよび46fの弾性復帰力によってそのブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34をバッキングプレート16に接近する方向に押圧するアンカプレート(ばね部材)46が備えられている。このため、アンカプレート46の押圧部46eおよび46fの弾性復帰力によってブレーキシュー18,20のシューウェブ32,34がバッキングプレート16に接近する方向に押圧され、ブレーキシュー18および20は、そのブレーキシュー18および20のシューリム36,38のバッキングプレート16側の2箇所に設けられたレッジ部36a,38aを介してバッキングプレート16を押圧するので、従来使用されていたシューホールドダウン装置を使用せずにブレーキシュー18および20がバッキングプレート16に拡開可能に支持される。また、一対の押圧部46eおよび46fを有するアンカプレート46は、例えばシューホールドダウンスプリング、円板部材、シューホールドダウンピンの3つの部品で構成されたシューホールドダウン装置に比較して部品点数が少ないので、シューホールドダウン装置を使用した従来のドラムブレーキに比較してドラムブレーキの部品点数が削減される。
【0031】
また、本実施例のドラムブレーキ10によれば、シューリム36および38のバッキングプレート16側の円弧状側縁の2箇所に設けられたレッジ部36aおよび38aは、ブレーキシュー18および20のシューリム32および34のバッキングプレート16側の円弧状側縁のうちそのシューリム32および34の両端部に備えられたものであり、アンカプレート46の突出部46gおよび46hのブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34を押圧する力の押圧中心C1およびC2は、ブレーキシュー18および20においてシューリム36および38の2箇所に設けられたレッジ部36aおよび38aの間のシュー安定領域R1およびR2内に位置させられる。このため、ブレーキシュー18および20のシューリム36および38のバッキングプレート16側の円弧状側縁におけるそのシューリム36および38の中間部或いはそのシューリム36および38の両端がバッキングプレート16から浮き上がるブレーキシュー18および20の浮き上がりが防止されるので、ブレーキシュー18および20の姿勢はシューリム36および38の2箇所に設けられたレッジ部36aおよび38aがバッキングプレート16に摺接された状態で安定的に保持される。すなわち、ブレーキシュー18および20は、シューウェブ32および34がバッキングプレート16の平板面16aに対して略平行な状態でバッキングプレート16に支持される。
【実施例2】
【0032】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例の説明において前述した実施例と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0033】
本実施例のドラムブレーキは、実施例1のシューリム36および38とは異なるシューリム50および52を備える点および実施例1の押圧中心C1およびC2とは異なる押圧中心C3およびC4を押圧するアンカプレート(ばね部材)54を備える点以外は実施例1のドラムブレーキ10と略同様であり、図5は、そのシューリム50および52と、アンカプレート54とを説明する図であり、実施例1の図1に対応するものである。
【0034】
図5に示すように、シューリム50および52は、円弧形状を成すシューウェブ32および34の外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すようにそのシューウェブ32および34に一体的に固設されたものであり、帯板形状である。また、シューリム50および52には、それらシューリム50および52のバッキングプレート16側の円弧状側縁のうちそれらシューリム50および52の両端部および中央部においてバッキングプレート16と摺接するために一部がバッキングプレート16の内周側に突き出るように曲成されたレッジ部50aおよび52aが一体に備えられている。
【0035】
シューリム50および52のバッキングプレート16側の円弧状側縁の3箇所に設けられたレッジ部50aおよび52aは、シューウェブ32および34に対して略対称にシューリム50および52のバッキングプレート16側とは反対側の円弧状側縁にも設けられる。このため、一対のブレーキシュー18および20において使用されるシューリム50および52の形状を一致させて部品の共通化をすることができる。つまり、ブレーキシュー18にシューリム52を使用することやブレーキシュー20にシューリム50を使用することができる。
【0036】
また、図5に示すように、アンカプレート54は、例えばばね鋼等の金属板で構成されており、そのアンカプレート54には、アンカブロック44の上面44aに一対のリベット48によって固定された長手板状の基端部54aと、その長手板状の基端部54aの両端部から先端部54bおよび54cが一対のブレーキシュー18および20の他端部側に延設され、その先端部54bおよび54cによってそのブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34をバッキングプレート16に接近する方向に押圧する一対の押圧部54eおよび54fと、そのアンカプレート54の先端部54bおよび54cからバッキングプレート16に接近する方向に突き出す部分球面形状の突出部54gおよび54hとが一体に備えられている。
【0037】
また、実施例1と同様に、ドラムブレーキ10に一対のブレーキシュー18および20が組み付けられると、アンカプレート54の突出部54gおよび54hがシューウェブ32および34によってバッキングプレート16から離間する方向に移動させられアンカプレート54の押圧部54eおよび54fが曲げられると共に、その押圧部54eおよび54fの弾性復帰力によって突出部54gおよび54hを介してブレーキシュー18および20のシューウェブ32および34がバッキングプレート16に接近する方向に押圧される。
【0038】
図5に示すように、アンカプレート54の押圧部54eの弾性復帰力によってアンカプレート54の突出部54gがブレーキシュー18のシューウェブ32をバッキングプレート16に接近する方向に押圧する押圧中心C3は、シューリム50のバッキングプレート16側の円弧状側縁に設けられた3箇所のレッジ部50aをそれぞれ頂点とする三角形を成すシュー安定領域R3内に位置させられる。また、図5に示すように、アンカプレート54の押圧部54fの弾性復帰力によってアンカプレート54の突出部54hがブレーキシュー20のシューウェブ34をバッキングプレート16に接近する方向に押圧する押圧中心C4は、シューリム52のバッキングプレート16側の円弧状側縁に設けられた3箇所のレッジ部52aをそれぞれ頂点とする三角形を成すシュー安定領域R4内に位置させられる。
【0039】
本実施例のドラムブレーキによれば、シューリム50および52のバッキングプレート16側の円弧状側縁の3箇所に設けられたレッジ部50aおよび52aは、そのブレーキシュー18および20のシューリム50および52のバッキングプレート16側の円弧状側縁のうちそのシューリム50および52の両端部および中央部に備えられたものであり、突出部54gおよび54hのブレーキシュー18および20を押圧する力の押圧中心C3およびC4は、ブレーキシュー18および20においてシューリム50および52のバッキングプレート16側の円弧状側縁の3箇所に設けられたレッジ部50aおよび52aをそれぞれ頂点とする三角形を成すシュー安定領域R3およびR4内に位置させられる。このため、シューリム50および52の3箇所に設けられたレッジ部50aおよび52aの1つがバッキングプレート16から浮き上がるブレーキシュー18および20の浮き上がりが防止されるので、ブレーキシュー18および20の姿勢は、シューリム50および52のバッキングプレート16側の円弧状側縁の3箇所に設けられたレッジ部50aおよび52aがバッキングプレート16に摺接された状態で安定的に保持される。
【0040】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適応される。
【0041】
たとえば、本実施例のドラムブレーキ10は、リーディング・トレーリング型のドラムブレーキであったが、例えば、ツーリーディング型やディオサーボ型等のドラムブレーキであっても良く、そのツーリーディング型やディオサーボ型等のドラムブレーキのブレーキシューを受け止めるアンカ部材にそのブレーキシューのシューウェブをバッキングプレートに接近する方向に押圧するアンカプレート(ばね部材)を設けることができる。
【0042】
また、本実施例のドラムブレーキにおいて、実施例1ではシューリム36および38のバッキングプレート16側の円弧状側縁のうちそのシューリム36および38の両端部の2箇所にレッジ部36aおよび38aが設けられ、実施例2ではシューリム50および52のバッキングプレート16側の円弧状側縁のうちそのシューリム50および52の両端部および中央部の3箇所にレッジ部50aおよび52aが設けられたが、シューリム36および38、50および52のバッキングプレート16側の円弧状側縁の3箇所以上にレッジ部が設けられても本発明に適用することができる。すなわち、シューリム36および38、50および52にレッジ部が3箇所以上設けられる場合には、その3箇所以上のレッジ部をそれぞれ頂点とする多角形内に押圧中心C1,C2、C3,C4を位置させることによって本発明の効果を得ることができる。
【0043】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0044】
10:ドラムブレーキ
16:バッキングプレート
18,20:一対のブレーキシュー
36,38、50,52:シューリム
36a,38a、50a,52a:レッジ部
24:リターンスプリング(第1リターンスプリング)
28:アンカ部材
30:スプリング(第2リターンスプリング)
46,54:アンカプレート(ばね部材)
46e,46f、54e,54f:押圧部
C1,C2、C3,C4:押圧中心
R1,R2、R3,R4:シュー安定領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1リターンスプリングによって一端部が互いに接近する方向に付勢され且つ第2リターンスプリングによって他端部が互いに接近する方向に付勢された円弧状を成す一対のブレーキシューと、該一対のブレーキシューの一端部間およびその一対のブレーキシューの他端部間の少なくとも一方に位置するようにバッキングプレートに固定され、その一対のブレーキシューを受け止めるアンカ部材と、該ブレーキシューのシューリムの該バッキングプレート側の円弧状側縁の複数部位に設けられた該バッキングプレートと摺接する複数のレッジ部とを備えるドラムブレーキであって、
前記アンカ部材には、先端部が前記ブレーキシューの前記アンカ部材側の端部に延設された押圧部を有し、該押圧部によって該ブレーキシューのシューウェブを前記バッキングプレートに接近する方向に押圧するばね部材が備えられていることを特徴とするドラムブレーキ。
【請求項2】
前記複数のレッジ部は、前記ブレーキシューのシューリムの前記バッキングプレート側の円弧状側縁のうち該シューリムの両端部に備えられたものであり、
前記押圧部の前記ブレーキシューを押圧する力の押圧中心は、前記ブレーキシューにおいて前記複数のレッジ部のそれぞれの間のシュー安定領域内に位置させられるものである請求項1のドラムブレーキ。
【請求項3】
前記複数のレッジ部は、前記ブレーキシューのシューリムの前記バッキングプレート側の円弧状側縁のうち該シューリムの両端部および中央部に備えられたものであり、
前記押圧部の前記ブレーキシューを押圧する力の押圧中心は、前記ブレーキシューにおいて前記複数のレッジ部それぞれを頂点とする三角形を成すシュー安定領域内に位置させられるものである請求項1のドラムブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−241757(P2012−241757A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−110506(P2011−110506)
【出願日】平成23年5月17日(2011.5.17)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】