ドラム缶検査方法及びその装置
【課題】 山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の断面欠損を外面側から検出する検査方法を得る。
【解決手段】 ドラム缶の内面側に発生する断面欠損を外面側から検出するドラム缶検査方法であって、ドラム缶の側板について側板面に取付けた超音波探傷手段よりSH波を側板の円周方向に入射して減肉箇所の検出を行う側板検査を行う方法。更に、底板周縁の嵌合縁部に取付けた超音波探傷手段よりSH波を底板平面に沿った水平方向に入射して減肉箇所の検出を行う底板検査を行う方法。
【解決手段】 ドラム缶の内面側に発生する断面欠損を外面側から検出するドラム缶検査方法であって、ドラム缶の側板について側板面に取付けた超音波探傷手段よりSH波を側板の円周方向に入射して減肉箇所の検出を行う側板検査を行う方法。更に、底板周縁の嵌合縁部に取付けた超音波探傷手段よりSH波を底板平面に沿った水平方向に入射して減肉箇所の検出を行う底板検査を行う方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラム缶の欠陥を検査するドラム缶検査方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラム缶は石油等の液体を一時的に貯蔵して搬送する際に用いられる。その他にも、低レベル放射性廃棄物を収納するドラム缶の内面側に発生する腐食、あるいは錆、あるいは物理的な要因による磨耗などの断面欠損を外面側から検出し、その発生位置が特定できる検査手法を確立するとともに、断面欠損部の残厚を測定し、残余寿命のデータを得ることが可能なドラム缶検査方法及びその装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このドラム缶検査方法は、横波の超音波によりドラム缶の内面に発生する減肉箇所の検出および範囲を推定する1次検査を行い、縦波の超音波により1次検査で得た範囲の垂直探傷することにより減肉の程度を検出する2次検査を行う検査方法である。1次検査は、横波の超音波をドラム缶の側板の上端部から下端部へ伝播させかつ下端部から上端部へ伝播させるか、又は、横波の超音波をドラム缶の天板及び底板の円周外縁部から中心部へ伝播させるものである。
【0004】
また、ドラム缶検査装置としては、横波の超音波によりドラム缶の内面に発生する減肉箇所の検出および範囲を推定する1次調査を行う1次検査超音波器と、縦波の超音波により1次検査で得た範囲の垂直探傷することにより減肉の程度を検出する2次調査を行う2次検査超音波器とを備えるドラム缶検査装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−175796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば低レベル放射性廃棄物を収納するドラム缶の保管状態の現状は、多数のドラム缶自体が山積みの状態となっており、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であるため、この表出面が実際の作業範囲となり、底面は実質的に作業ができない状態である。また、特定の廃棄物を保管する際にも山積み状態となっている。
【0007】
本発明は、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の断面欠損を外面側から検出することができる検査方法及びその装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明に係るドラム缶検査方法は、ドラム缶の内面側に発生する断面欠損を外面側から検出するドラム缶検査方法であって、
前記ドラム缶の側板について、側板面に取付けた超音波探傷手段よりSH波を側板の円周方向に入射して減肉箇所の検出を行う側板検査を行うことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載された発明に係るドラム缶検査方法は、請求項1に記載のドラム缶の底板について、底板周縁の嵌合縁部に取付けた超音波探傷手段よりSH波を底板平面に沿った水平方向に入射して減肉箇所の検出を行う底板検査を更に行うことを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載された発明に係るドラム缶検査方法は、請求項1又は2に記載のドラム缶が、鉄板の両面に亜鉛メッキし、この亜鉛メッキの表面に樹脂膜を施したものであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載された発明に係るドラム缶検査装置は、ドラム缶の内面側に発生する断面欠損を外面側から検出するドラム缶検査装置であって、
前記ドラム缶の側板面に取付けて、SH波を側板の円周方向に入射させて減肉箇所の検出を行う側板超音波探傷手段を備えるものである。
【0012】
請求項5に記載された発明に係るドラム缶検査装置は、請求項4に記載のドラム缶の底板周縁の勘合縁部に取付けて、SH波を底板平面に沿った水平方向に入射させて減肉箇所の検出を行う底板超音波探傷手段を更に備えることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6に記載された発明に係るドラム缶検査装置は、請求項4又は5に記載の底板超音波探傷手段が、前記底面周縁の勘合縁部の曲面に合致する当接片を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の断面欠損を外面側から検出することができる検査方法及びその装置を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ドラム缶の正面図である。
【図2】ドラム缶の平面図である。
【図3】測線1からR1〜R9に向かって水平にSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【図4】測線2からS1〜S9に向かって水平にSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【図5】測線3からS1〜S9に向かって水平にSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【図6】溶接線Aから200mm離れた新たな測線から水平にSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【図7】側板での探傷位置を示す側板展開図である。
【図8】は底板の勘合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【図9】アクリル治具を装着したSH波探傷子の構成を示す説明図である。
【図10】側板探査時と同じ感度(40dB)での底板の勘合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【図11】感度を上げた場合での底板の勘合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明においては、ドラム缶の内面側に発生する断面欠損を外面側から検出するドラム缶検査方法であって、ドラム缶の側板について側板面に取付けた超音波探傷手段よりSH波を側板の円周方向に入射して減肉箇所の検出を行う側板検査を行う方法である。これにより、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の側壁面の断面欠損を外面側から検出することができる。
【0017】
また好ましくは、ドラム缶の底板について底板周縁の嵌合縁部に取付けた超音波探傷手段よりSH波を底板平面に沿った水平方向に入射して減肉箇所の検出を行う底板検査を更に行うことにより、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の底板部の断面欠損を外面側から検出することができる。
【0018】
本発明の検査対象物はドラム缶である。このドラム缶は当初原油や灯油の運搬に使用されていたが、近年は化学製品、塗料等の運搬にも使用されるようになってきた。また、低レベル放射性廃棄物を収納したり、特定の廃棄物を収納して保存する目的にも使用されている。
【0019】
このドラム缶は、円柱の側壁にあたる側板と、この側板の上下に天板、底板を有するものである。ドラム缶の各壁面の内側及び外側については、メッキや樹脂膜による塗装が施されたものであってもよい。例えば、ドラム缶の多くは、側板、天板、底板の両面に亜鉛メッキが施され、この亜鉛メッキ層の表面に樹脂膜が設けられている。より具体的には、鉄板の厚さは1.6mm、亜鉛メッキ層の厚さは0.02mmが施され、樹脂膜層の厚さは0.03mmが主流である。尚、樹脂膜層は、例えばエポキシ樹脂を用いるが、これに限定されない。低レベル放射性廃棄物を収納するためのドラム缶では、天板については取り外し可能なオープン型のドラム缶が主流である。
【0020】
ドラム缶は、次のようにして形成される。まず、側板は鋼板を円筒形に曲げて両端辺を溶接した後、円筒の両端を鍔出しを行い、円筒の側方から力に対向するために円筒内部の2カ所に輪帯を形成させる。天板及び底板は円形のお盆状に打ち抜いた鋼板の周囲を折り曲げるプリカール処理が行われる。側板、天板及び底板の表面を処理・塗装した後、側板の下縁部と底板の周縁部を巻き閉め加工してドラム缶が成形される。巻き締め加工により、側板の下縁部と底板の周縁部とが2〜3重に巻き締められて勘合部が形成される。オープン型のドラム缶では、側板の上縁部と天板の周縁部とが互いに掛合可能なように曲げ加工が施される。
【0021】
ドラム缶の側板については、溶接により円筒形を形作っており、この天板−底板の上下方向に形成された溶接部が、この溶接部を横切る超音波探傷に対して、どのような影響があるかは不明であったが、後述するように本発明によって溶接部を超えて超音波が伝達されて欠損を検知することが初めて確認された。
【0022】
更に、好ましい本発明では側板以外の壁面についても腐食等の断面欠損を検出するため、内部の廃棄物と接触して腐食が発生し易い側板と底板との探傷手段を行う。尚、天板については低レベル放射性廃棄物を収納した後であっても取り外して腐食の有無を検査することが可能な場合もあるが、底板と同様の操作で外面側から検出することが可能である。
【0023】
ドラム缶の底板については、山積みの状態での実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても探知するために、後述するように本発明によってドラム缶の勘合縁部からSH波を底板平面に沿った水平方向に入射することにより、ドラム缶底板に超音波が伝達されて欠損を検知することが初めて確認された。
【0024】
本発明の超音波探傷手段は、横波の一つであるSH波を照射するものであればよい。具体的には、一般的に超音波探傷に用いられる超音波としては、縦波、横波の1種であるSV波、同じく横波の1種であるSH波等がある。縦波は伝搬方向に振動する波であり、伝搬方向と垂直な方向には振動しない特徴を持つ。
【0025】
一方、SV波は伝搬方向に垂直な方向に振動する横波であり、探傷面に垂直な方向に振動している波である。横波であるため方向性がある。SH波は、SV波と同じ方向性のある横波であるが、探傷面と平行な方向に振動している波である。SH波はSV波と異なり、屈折角90°に近い方向にも横波を強く対象物に入射させることができる特性を有する。このため、本発明では、対象とするドラム缶の板厚が薄いこと、また、超音波をある程度の距離を伝播させることを考慮し、SH波を適用した。
【0026】
本発明において対象物に入射させるSH波の周波数については、好ましくは0.3MHz〜0.8MHzの範囲から選定されればよい。0.3MHzより小さい周波数では、ドラム缶の傷・欠損に対して波長が大きくなり、十分な精度で検査できず、0.8MHzより大きい周波数では、減衰が大きくなり、十分な距離を伝搬せずに十分な精度で検査ができないからである。より好ましい周波数は、0.4MHz〜0.6MHz、最も好ましい周波数は0.5MHzである。
【実施例】
【0027】
実施例1(SH波の横方向入力によるドラム缶減肉探査の検討)
1.検査法
探査対象となるドラム缶の現地の保管状態では、側面の1/3程度が実際の作業範囲で、底面は実質的に作業ができない状態である。このため、ドラム缶の側面に対して縦方向からSH波を入力する方法では、探査が不可能である。これを回避するために、側板では探触子の超音波入射方向を円周に沿った水平とし、底版は勘合部から入射すると言う方法を考案し、探査の可能性を確認する実験を行うこととした。
【0028】
2.ドラム缶の構成
図1はドラム缶の正面図である。図2はドラム缶の平面図である。ドラム缶の形状・寸法・内径は次の通りである。ドラム缶内径(567±3mm)、外高(890±5mm)、容量(212L以上)、板厚(1.6mm)である。
【0029】
3.検査装置
超音波探傷装置は、菱電湘南エレクトロニクス社(株)製低周波汎用超音波探査機UI−23LFを用い、SH波探触子の周波数は、0.5MHzとした。
【0030】
4.実験手順
(1) ドラム缶側板に貫通孔及び非貫通の円錐状のきずを加工した。具体的には、図1に示したドラム缶の正面図で黒四角印の貫通孔S1〜S9である。尚、図示してはいないが図1の裏面側に溶接線Aから測線2を通過した約700mm離れた地点にドラム缶内側にS1〜S9と同様に非貫通孔R1〜R9が形成されている。
(2) ドラム缶底版に貫通孔及び非貫通の円錐状のきずを加工した。具体的には、図2に示したドラム缶の平面図で黒丸印の非貫通のきずA1〜A8と黒四角印の貫通孔B1〜B8である。
【0031】
5.側板の計測
ドラム缶側板の計測を行った。溶接部Aを介して超音波が伝搬するかを検証するため、溶接部Aを挟んで、測線1と測線2とのを2本を設定した。図1に示す通り、測線1はドラム缶側板の貫通孔S1が形成されており、表面の溶接線Aから約95mmの地点である。測線2は表面の溶接線Aに対して測線1の対向側に配され、溶接線Aに対してから約410mmの地点とした。また、S9から218mm離れた測線3を設定した。
【0032】
測線毎に、端部とリム間、或いは、リム間の計3箇所に側板超音波探傷手段としての超音波探触子11に横波専用の接触媒質を介して側板に固定し、SH波を照射した。
【0033】
尚、側板における超音波探傷の条件は次の通りであった。
ゲイン : 40.0dB 試験周波数 : 0.5MHz
測定範囲 : 1000mm 屈折角 : 90.0°
音速 : 3.22km/s
【0034】
(5-1) 測線1での測定
図3は測線1から非貫通孔R1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。a図は測線1上の上端部と第1リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、b図は測線1上の第1リムと第2リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、c図は測線1上の第2リムと下端部間に超音波探触子を設置した結果を示す。
【0035】
a図〜c図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。各図に示される通り、溶接線Aを超えてSH波の超音波が伝達されて非貫通孔を検知することが示された。
【0036】
(5-2) 測線2での測定
図4は測線2からS1〜S9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。図は測線2上の上端部と第1リム間に超音波探触子を設置した結果を示す。図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。溶接線Aを超えてSH波の超音波が伝達されて非貫通孔を検知することが示された。
【0037】
(5-3) 測線3での測定
図5は測線3からS1〜S9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。a図は測線1上の上端部と第1リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、b図は測線1上の第1リムと第2リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、c図は測線1上の第2リムと下端部間に超音波探触子を設置した結果を示す。
【0038】
a図〜c図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。各図に示す通り、溶接線Aを超えてSH波の超音波が伝達されて非貫通孔を検知することが示された。
【0039】
(5-4) 新たな測線での測定
溶接線Aを跨いだ反射エコーを更に検証した。溶接線Aを中心として貫通孔S1から200mm離れた測線上に超音波探触子11に横波専用の接触媒質を介して側板に固定し、SH波を照射した。図6はその結果の探傷波形を示す線図である。図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。
【0040】
図6に示す通り、200、340、380、635mmの地点に明確なきずがあることが示されている。ここで200mmの反射エコーは溶接部からのものである。実際の測定では、2箇所からの測定で得られた反射エコーの数値を半径とした2つの円をドラム缶表面に描けば、その交点にきずがあることになる。
【0041】
340mmはS2のきずであり、380mmはS3のきずであることが確認された。また、635mmについては、きずを示すエコーか、ノイズかが不明であったが、実際に確かめると635mmは名称未設定のきずであったことが確認された。以上のように、側板については水平方向の探査が十分可能であることが確認された。
【0042】
(5-5) 側板での伝播範囲の確認
測線2から非貫通孔R1を狙って探触子を置く。この場合、探触子11を上端に付けた位置では感度がないので、上端から52mm下げた測線地点で200mmの位置にR1を見つけていることから、側板に横方向で入力する場合のSH波伝播角度は約29度となることが確認された。尚、縦方向に入力する場合の同角度が約18度であることを考えると、この角度は大きい。その原因は次の2つが考えられた。
【0043】
(1) 縦方向入力の場合は、平面である探触子と円筒形の側板との接線が縦に一直線となり、SH波の振動方向と直交するため、入力損失が大きくなる。横方向入力では振動方向に平行な接線となるため、入力損失が小さい。
(2) 縦方向入力では、振動方向に沿って曲率が大きくなるため、伝播損失が大きい。
【0044】
(5-6) 側板での探傷位置
側板において、溶接線を越えてSH波が伝播され、尚且つSH波伝播角度は約29度となることが確認された。そのため、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、1つの測線上で少なくとも3カ所で探傷することにより、側板の欠損を外面側から検出することができることがわかった。具体的には、図7は側板での探傷位置を示す側板展開図である。図に示す通り、ドラム缶の側板の中央高さ位置でSH波を側板の円周方向に入射させて減肉箇所の検出を行い、同じ測線上の上端及び下端部で中央部と反対側に円周方向に入射させて減肉箇所の検出を行うことにより、側板の全面を計測することができる。
【0045】
6.底坂での測定
(6-1) 底坂での測定1
図2に示す平面図において、6時に該当する位置に底板超音波探傷手段としての超音波探触子21に横波専用の接触媒質を介して側板に固定し、SH波を照射した。尚、超音波探傷子21は底板の勘合部に当接させて照射させた。
【0046】
尚、底板における超音波探傷の条件は次の通りであった。
ゲイン : 40.0dB 試験周波数 : 0.5MHz
測定範囲 : 2730mm 屈折角 : 90.0°
音速 : 3.22km/s
【0047】
図8は底板の勘合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。勘合部からの超音波の照射であっても、SH波の超音波が伝達されて少なくとも4点の貫通孔及び非貫通孔を検知することが示された。
【0048】
図8に示した計測では、探傷子の接触する面積が小さい上に、ドラム缶のカーブに対して直線で接触するため、入力が小さく、また、勘合部での入力であるため、折りたたまれた鉄板での減衰が大きいことが示された。これを改善するためは、ドラム缶のカーブに合わせたアクリル樹脂の治具を製作し、再度実験を試みことにした。
【0049】
(6-2) 底坂での測定2(アクリル治具の有効性)
図9はアクリル治具を装着したSH波探傷子の構成を示す説明図であり、a図は平面図、b図は正面図、c図は側面図である。勘合部から接触面積が小さいことを補完する目的から底板側面の曲率に合わせたアクリル製の治具を製作し、これを用いて測定を行った。具体的には、図9に示す通り、アクリル治具91の凹部93にSH波探触子21を装着させた。この際に、SH波探触子21の超音波発振面22をドラム缶底板の側面の曲率に合わせた曲面92の上部に形成された凹部93の底面に接触するように凹部93に嵌合させてSH波探触子21を装着した。
【0050】
図10は側板探査時と同じ感度(40dB)での底板の勘合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。図に示す通り、複数の反射エコーと対面端部からの反射エコーが確認された。SH波は角度をもって入射するため、アクリル治具91とSH波探触子21の位置をずらし、最適な関係を探る必要があるが、この治具により適切に勘合部に接触させることができ、探触子単体で使用するよりも感度はよくなった。尚、当接片としては、図9に示すアクリル治具に限定するものではなく、SH波探触子からの超音波を底板側面の曲率に合わせた曲面から入射させる構成のものであればよい。
【0051】
(6-3) 底坂での測定3(底板での反射エコーと実際のきずの対応)
勘合部の巻き込み部と端部までの長さを測定した。巻き込み部は40mmであり、対面の端部までは620mmであった。図10の測定画面では615mmでエコーがあるが、巻き尺測定での緩みの誤差と思われた。そこで、感度を上げて、エコー位置を確認した(+10dB)。図11は感度を上げた場合での底板の勘合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【0052】
図に示す通り、145、180、200、220、240、265、300mmに複数の反射エコーが確認された。実際のものと比較すると、145mmはB6(誤差5mm)であり、180mmはB5、200mmはB4、220はB3、240はB2、265はB1であることが確認された。尚、300は直接確認ができないが、A1と思われた。
【0053】
以上の通り、超音波探傷子21を底面の勘合部に沿って約1/3周移動させることにより、底面のほぼ全面を探傷することが可能となることが確認された。
【0054】
7.まとめ
以上の通り、側板検査により、側板面に取付けた超音波探傷手段よりSH波を側板の円周方向に入射して減肉箇所の検出を行うことにより、ドラム缶側板の溶接部を超えて超音波が伝達されて欠損を検知することができ、これにより、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の断面欠損を外面側から検出することができることが確認できた。尚、この側板検査を精密な検査の予備検査として用いることにより、検査時間の短縮が達成される。即ち、欠損の検出が無いドラム缶については、精密な検査を行う必要が無く、欠損の検出が疑われたドラム缶については、円周方向を逆にして欠損位置の距離を計測したり、従来のより精密な検査を行ってその欠損位置を特定する。これにより、検査時間の短縮と検査費用の低減が達成される。
【0055】
底板検査により、底板周縁の嵌合縁部に取付けた超音波探傷手段よりSH波を底板平面に沿った水平方向に入射して減肉箇所の検出を行うことにより、ドラム缶の勘合縁部からでもドラム缶底板に超音波が伝達されて欠損を検知することができ、これにより、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶底板の断面欠損を外面側から検出することができることが確認できた。この底板検査を精密な検査の予備検査として用いることにより、検査時間の短縮と検査費用の低減が達成されることは前述の側板検査と同様である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラム缶の欠陥を検査するドラム缶検査方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラム缶は石油等の液体を一時的に貯蔵して搬送する際に用いられる。その他にも、低レベル放射性廃棄物を収納するドラム缶の内面側に発生する腐食、あるいは錆、あるいは物理的な要因による磨耗などの断面欠損を外面側から検出し、その発生位置が特定できる検査手法を確立するとともに、断面欠損部の残厚を測定し、残余寿命のデータを得ることが可能なドラム缶検査方法及びその装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このドラム缶検査方法は、横波の超音波によりドラム缶の内面に発生する減肉箇所の検出および範囲を推定する1次検査を行い、縦波の超音波により1次検査で得た範囲の垂直探傷することにより減肉の程度を検出する2次検査を行う検査方法である。1次検査は、横波の超音波をドラム缶の側板の上端部から下端部へ伝播させかつ下端部から上端部へ伝播させるか、又は、横波の超音波をドラム缶の天板及び底板の円周外縁部から中心部へ伝播させるものである。
【0004】
また、ドラム缶検査装置としては、横波の超音波によりドラム缶の内面に発生する減肉箇所の検出および範囲を推定する1次調査を行う1次検査超音波器と、縦波の超音波により1次検査で得た範囲の垂直探傷することにより減肉の程度を検出する2次調査を行う2次検査超音波器とを備えるドラム缶検査装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−175796号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば低レベル放射性廃棄物を収納するドラム缶の保管状態の現状は、多数のドラム缶自体が山積みの状態となっており、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であるため、この表出面が実際の作業範囲となり、底面は実質的に作業ができない状態である。また、特定の廃棄物を保管する際にも山積み状態となっている。
【0007】
本発明は、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の断面欠損を外面側から検出することができる検査方法及びその装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載された発明に係るドラム缶検査方法は、ドラム缶の内面側に発生する断面欠損を外面側から検出するドラム缶検査方法であって、
前記ドラム缶の側板について、側板面に取付けた超音波探傷手段よりSH波を側板の円周方向に入射して減肉箇所の検出を行う側板検査を行うことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に記載された発明に係るドラム缶検査方法は、請求項1に記載のドラム缶の底板について、底板周縁の嵌合縁部に取付けた超音波探傷手段よりSH波を底板平面に沿った水平方向に入射して減肉箇所の検出を行う底板検査を更に行うことを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に記載された発明に係るドラム缶検査方法は、請求項1又は2に記載のドラム缶が、鉄板の両面に亜鉛メッキし、この亜鉛メッキの表面に樹脂膜を施したものであることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に記載された発明に係るドラム缶検査装置は、ドラム缶の内面側に発生する断面欠損を外面側から検出するドラム缶検査装置であって、
前記ドラム缶の側板面に取付けて、SH波を側板の円周方向に入射させて減肉箇所の検出を行う側板超音波探傷手段を備えるものである。
【0012】
請求項5に記載された発明に係るドラム缶検査装置は、請求項4に記載のドラム缶の底板周縁の勘合縁部に取付けて、SH波を底板平面に沿った水平方向に入射させて減肉箇所の検出を行う底板超音波探傷手段を更に備えることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6に記載された発明に係るドラム缶検査装置は、請求項4又は5に記載の底板超音波探傷手段が、前記底面周縁の勘合縁部の曲面に合致する当接片を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の断面欠損を外面側から検出することができる検査方法及びその装置を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】ドラム缶の正面図である。
【図2】ドラム缶の平面図である。
【図3】測線1からR1〜R9に向かって水平にSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【図4】測線2からS1〜S9に向かって水平にSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【図5】測線3からS1〜S9に向かって水平にSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【図6】溶接線Aから200mm離れた新たな測線から水平にSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【図7】側板での探傷位置を示す側板展開図である。
【図8】は底板の勘合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【図9】アクリル治具を装着したSH波探傷子の構成を示す説明図である。
【図10】側板探査時と同じ感度(40dB)での底板の勘合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【図11】感度を上げた場合での底板の勘合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明においては、ドラム缶の内面側に発生する断面欠損を外面側から検出するドラム缶検査方法であって、ドラム缶の側板について側板面に取付けた超音波探傷手段よりSH波を側板の円周方向に入射して減肉箇所の検出を行う側板検査を行う方法である。これにより、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の側壁面の断面欠損を外面側から検出することができる。
【0017】
また好ましくは、ドラム缶の底板について底板周縁の嵌合縁部に取付けた超音波探傷手段よりSH波を底板平面に沿った水平方向に入射して減肉箇所の検出を行う底板検査を更に行うことにより、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の底板部の断面欠損を外面側から検出することができる。
【0018】
本発明の検査対象物はドラム缶である。このドラム缶は当初原油や灯油の運搬に使用されていたが、近年は化学製品、塗料等の運搬にも使用されるようになってきた。また、低レベル放射性廃棄物を収納したり、特定の廃棄物を収納して保存する目的にも使用されている。
【0019】
このドラム缶は、円柱の側壁にあたる側板と、この側板の上下に天板、底板を有するものである。ドラム缶の各壁面の内側及び外側については、メッキや樹脂膜による塗装が施されたものであってもよい。例えば、ドラム缶の多くは、側板、天板、底板の両面に亜鉛メッキが施され、この亜鉛メッキ層の表面に樹脂膜が設けられている。より具体的には、鉄板の厚さは1.6mm、亜鉛メッキ層の厚さは0.02mmが施され、樹脂膜層の厚さは0.03mmが主流である。尚、樹脂膜層は、例えばエポキシ樹脂を用いるが、これに限定されない。低レベル放射性廃棄物を収納するためのドラム缶では、天板については取り外し可能なオープン型のドラム缶が主流である。
【0020】
ドラム缶は、次のようにして形成される。まず、側板は鋼板を円筒形に曲げて両端辺を溶接した後、円筒の両端を鍔出しを行い、円筒の側方から力に対向するために円筒内部の2カ所に輪帯を形成させる。天板及び底板は円形のお盆状に打ち抜いた鋼板の周囲を折り曲げるプリカール処理が行われる。側板、天板及び底板の表面を処理・塗装した後、側板の下縁部と底板の周縁部を巻き閉め加工してドラム缶が成形される。巻き締め加工により、側板の下縁部と底板の周縁部とが2〜3重に巻き締められて勘合部が形成される。オープン型のドラム缶では、側板の上縁部と天板の周縁部とが互いに掛合可能なように曲げ加工が施される。
【0021】
ドラム缶の側板については、溶接により円筒形を形作っており、この天板−底板の上下方向に形成された溶接部が、この溶接部を横切る超音波探傷に対して、どのような影響があるかは不明であったが、後述するように本発明によって溶接部を超えて超音波が伝達されて欠損を検知することが初めて確認された。
【0022】
更に、好ましい本発明では側板以外の壁面についても腐食等の断面欠損を検出するため、内部の廃棄物と接触して腐食が発生し易い側板と底板との探傷手段を行う。尚、天板については低レベル放射性廃棄物を収納した後であっても取り外して腐食の有無を検査することが可能な場合もあるが、底板と同様の操作で外面側から検出することが可能である。
【0023】
ドラム缶の底板については、山積みの状態での実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても探知するために、後述するように本発明によってドラム缶の勘合縁部からSH波を底板平面に沿った水平方向に入射することにより、ドラム缶底板に超音波が伝達されて欠損を検知することが初めて確認された。
【0024】
本発明の超音波探傷手段は、横波の一つであるSH波を照射するものであればよい。具体的には、一般的に超音波探傷に用いられる超音波としては、縦波、横波の1種であるSV波、同じく横波の1種であるSH波等がある。縦波は伝搬方向に振動する波であり、伝搬方向と垂直な方向には振動しない特徴を持つ。
【0025】
一方、SV波は伝搬方向に垂直な方向に振動する横波であり、探傷面に垂直な方向に振動している波である。横波であるため方向性がある。SH波は、SV波と同じ方向性のある横波であるが、探傷面と平行な方向に振動している波である。SH波はSV波と異なり、屈折角90°に近い方向にも横波を強く対象物に入射させることができる特性を有する。このため、本発明では、対象とするドラム缶の板厚が薄いこと、また、超音波をある程度の距離を伝播させることを考慮し、SH波を適用した。
【0026】
本発明において対象物に入射させるSH波の周波数については、好ましくは0.3MHz〜0.8MHzの範囲から選定されればよい。0.3MHzより小さい周波数では、ドラム缶の傷・欠損に対して波長が大きくなり、十分な精度で検査できず、0.8MHzより大きい周波数では、減衰が大きくなり、十分な距離を伝搬せずに十分な精度で検査ができないからである。より好ましい周波数は、0.4MHz〜0.6MHz、最も好ましい周波数は0.5MHzである。
【実施例】
【0027】
実施例1(SH波の横方向入力によるドラム缶減肉探査の検討)
1.検査法
探査対象となるドラム缶の現地の保管状態では、側面の1/3程度が実際の作業範囲で、底面は実質的に作業ができない状態である。このため、ドラム缶の側面に対して縦方向からSH波を入力する方法では、探査が不可能である。これを回避するために、側板では探触子の超音波入射方向を円周に沿った水平とし、底版は勘合部から入射すると言う方法を考案し、探査の可能性を確認する実験を行うこととした。
【0028】
2.ドラム缶の構成
図1はドラム缶の正面図である。図2はドラム缶の平面図である。ドラム缶の形状・寸法・内径は次の通りである。ドラム缶内径(567±3mm)、外高(890±5mm)、容量(212L以上)、板厚(1.6mm)である。
【0029】
3.検査装置
超音波探傷装置は、菱電湘南エレクトロニクス社(株)製低周波汎用超音波探査機UI−23LFを用い、SH波探触子の周波数は、0.5MHzとした。
【0030】
4.実験手順
(1) ドラム缶側板に貫通孔及び非貫通の円錐状のきずを加工した。具体的には、図1に示したドラム缶の正面図で黒四角印の貫通孔S1〜S9である。尚、図示してはいないが図1の裏面側に溶接線Aから測線2を通過した約700mm離れた地点にドラム缶内側にS1〜S9と同様に非貫通孔R1〜R9が形成されている。
(2) ドラム缶底版に貫通孔及び非貫通の円錐状のきずを加工した。具体的には、図2に示したドラム缶の平面図で黒丸印の非貫通のきずA1〜A8と黒四角印の貫通孔B1〜B8である。
【0031】
5.側板の計測
ドラム缶側板の計測を行った。溶接部Aを介して超音波が伝搬するかを検証するため、溶接部Aを挟んで、測線1と測線2とのを2本を設定した。図1に示す通り、測線1はドラム缶側板の貫通孔S1が形成されており、表面の溶接線Aから約95mmの地点である。測線2は表面の溶接線Aに対して測線1の対向側に配され、溶接線Aに対してから約410mmの地点とした。また、S9から218mm離れた測線3を設定した。
【0032】
測線毎に、端部とリム間、或いは、リム間の計3箇所に側板超音波探傷手段としての超音波探触子11に横波専用の接触媒質を介して側板に固定し、SH波を照射した。
【0033】
尚、側板における超音波探傷の条件は次の通りであった。
ゲイン : 40.0dB 試験周波数 : 0.5MHz
測定範囲 : 1000mm 屈折角 : 90.0°
音速 : 3.22km/s
【0034】
(5-1) 測線1での測定
図3は測線1から非貫通孔R1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。a図は測線1上の上端部と第1リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、b図は測線1上の第1リムと第2リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、c図は測線1上の第2リムと下端部間に超音波探触子を設置した結果を示す。
【0035】
a図〜c図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。各図に示される通り、溶接線Aを超えてSH波の超音波が伝達されて非貫通孔を検知することが示された。
【0036】
(5-2) 測線2での測定
図4は測線2からS1〜S9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。図は測線2上の上端部と第1リム間に超音波探触子を設置した結果を示す。図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。溶接線Aを超えてSH波の超音波が伝達されて非貫通孔を検知することが示された。
【0037】
(5-3) 測線3での測定
図5は測線3からS1〜S9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。a図は測線1上の上端部と第1リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、b図は測線1上の第1リムと第2リム間に超音波探触子を設置した結果を示し、c図は測線1上の第2リムと下端部間に超音波探触子を設置した結果を示す。
【0038】
a図〜c図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。各図に示す通り、溶接線Aを超えてSH波の超音波が伝達されて非貫通孔を検知することが示された。
【0039】
(5-4) 新たな測線での測定
溶接線Aを跨いだ反射エコーを更に検証した。溶接線Aを中心として貫通孔S1から200mm離れた測線上に超音波探触子11に横波専用の接触媒質を介して側板に固定し、SH波を照射した。図6はその結果の探傷波形を示す線図である。図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。
【0040】
図6に示す通り、200、340、380、635mmの地点に明確なきずがあることが示されている。ここで200mmの反射エコーは溶接部からのものである。実際の測定では、2箇所からの測定で得られた反射エコーの数値を半径とした2つの円をドラム缶表面に描けば、その交点にきずがあることになる。
【0041】
340mmはS2のきずであり、380mmはS3のきずであることが確認された。また、635mmについては、きずを示すエコーか、ノイズかが不明であったが、実際に確かめると635mmは名称未設定のきずであったことが確認された。以上のように、側板については水平方向の探査が十分可能であることが確認された。
【0042】
(5-5) 側板での伝播範囲の確認
測線2から非貫通孔R1を狙って探触子を置く。この場合、探触子11を上端に付けた位置では感度がないので、上端から52mm下げた測線地点で200mmの位置にR1を見つけていることから、側板に横方向で入力する場合のSH波伝播角度は約29度となることが確認された。尚、縦方向に入力する場合の同角度が約18度であることを考えると、この角度は大きい。その原因は次の2つが考えられた。
【0043】
(1) 縦方向入力の場合は、平面である探触子と円筒形の側板との接線が縦に一直線となり、SH波の振動方向と直交するため、入力損失が大きくなる。横方向入力では振動方向に平行な接線となるため、入力損失が小さい。
(2) 縦方向入力では、振動方向に沿って曲率が大きくなるため、伝播損失が大きい。
【0044】
(5-6) 側板での探傷位置
側板において、溶接線を越えてSH波が伝播され、尚且つSH波伝播角度は約29度となることが確認された。そのため、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、1つの測線上で少なくとも3カ所で探傷することにより、側板の欠損を外面側から検出することができることがわかった。具体的には、図7は側板での探傷位置を示す側板展開図である。図に示す通り、ドラム缶の側板の中央高さ位置でSH波を側板の円周方向に入射させて減肉箇所の検出を行い、同じ測線上の上端及び下端部で中央部と反対側に円周方向に入射させて減肉箇所の検出を行うことにより、側板の全面を計測することができる。
【0045】
6.底坂での測定
(6-1) 底坂での測定1
図2に示す平面図において、6時に該当する位置に底板超音波探傷手段としての超音波探触子21に横波専用の接触媒質を介して側板に固定し、SH波を照射した。尚、超音波探傷子21は底板の勘合部に当接させて照射させた。
【0046】
尚、底板における超音波探傷の条件は次の通りであった。
ゲイン : 40.0dB 試験周波数 : 0.5MHz
測定範囲 : 2730mm 屈折角 : 90.0°
音速 : 3.22km/s
【0047】
図8は底板の勘合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。図に示す通り、折れ線部が反射エコー、高さが反射エコー高さで0〜100%で表示される。下の数字が探触子からの距離である(mm)。勘合部からの超音波の照射であっても、SH波の超音波が伝達されて少なくとも4点の貫通孔及び非貫通孔を検知することが示された。
【0048】
図8に示した計測では、探傷子の接触する面積が小さい上に、ドラム缶のカーブに対して直線で接触するため、入力が小さく、また、勘合部での入力であるため、折りたたまれた鉄板での減衰が大きいことが示された。これを改善するためは、ドラム缶のカーブに合わせたアクリル樹脂の治具を製作し、再度実験を試みことにした。
【0049】
(6-2) 底坂での測定2(アクリル治具の有効性)
図9はアクリル治具を装着したSH波探傷子の構成を示す説明図であり、a図は平面図、b図は正面図、c図は側面図である。勘合部から接触面積が小さいことを補完する目的から底板側面の曲率に合わせたアクリル製の治具を製作し、これを用いて測定を行った。具体的には、図9に示す通り、アクリル治具91の凹部93にSH波探触子21を装着させた。この際に、SH波探触子21の超音波発振面22をドラム缶底板の側面の曲率に合わせた曲面92の上部に形成された凹部93の底面に接触するように凹部93に嵌合させてSH波探触子21を装着した。
【0050】
図10は側板探査時と同じ感度(40dB)での底板の勘合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。図に示す通り、複数の反射エコーと対面端部からの反射エコーが確認された。SH波は角度をもって入射するため、アクリル治具91とSH波探触子21の位置をずらし、最適な関係を探る必要があるが、この治具により適切に勘合部に接触させることができ、探触子単体で使用するよりも感度はよくなった。尚、当接片としては、図9に示すアクリル治具に限定するものではなく、SH波探触子からの超音波を底板側面の曲率に合わせた曲面から入射させる構成のものであればよい。
【0051】
(6-3) 底坂での測定3(底板での反射エコーと実際のきずの対応)
勘合部の巻き込み部と端部までの長さを測定した。巻き込み部は40mmであり、対面の端部までは620mmであった。図10の測定画面では615mmでエコーがあるが、巻き尺測定での緩みの誤差と思われた。そこで、感度を上げて、エコー位置を確認した(+10dB)。図11は感度を上げた場合での底板の勘合部からR1〜R9に向かってSH波を照射した結果の探傷波形を示す線図である。
【0052】
図に示す通り、145、180、200、220、240、265、300mmに複数の反射エコーが確認された。実際のものと比較すると、145mmはB6(誤差5mm)であり、180mmはB5、200mmはB4、220はB3、240はB2、265はB1であることが確認された。尚、300は直接確認ができないが、A1と思われた。
【0053】
以上の通り、超音波探傷子21を底面の勘合部に沿って約1/3周移動させることにより、底面のほぼ全面を探傷することが可能となることが確認された。
【0054】
7.まとめ
以上の通り、側板検査により、側板面に取付けた超音波探傷手段よりSH波を側板の円周方向に入射して減肉箇所の検出を行うことにより、ドラム缶側板の溶接部を超えて超音波が伝達されて欠損を検知することができ、これにより、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶の断面欠損を外面側から検出することができることが確認できた。尚、この側板検査を精密な検査の予備検査として用いることにより、検査時間の短縮が達成される。即ち、欠損の検出が無いドラム缶については、精密な検査を行う必要が無く、欠損の検出が疑われたドラム缶については、円周方向を逆にして欠損位置の距離を計測したり、従来のより精密な検査を行ってその欠損位置を特定する。これにより、検査時間の短縮と検査費用の低減が達成される。
【0055】
底板検査により、底板周縁の嵌合縁部に取付けた超音波探傷手段よりSH波を底板平面に沿った水平方向に入射して減肉箇所の検出を行うことにより、ドラム缶の勘合縁部からでもドラム缶底板に超音波が伝達されて欠損を検知することができ、これにより、山積みの状態となり、実質的に側面の1/3程度が表に出ている状態であっても、ドラム缶底板の断面欠損を外面側から検出することができることが確認できた。この底板検査を精密な検査の予備検査として用いることにより、検査時間の短縮と検査費用の低減が達成されることは前述の側板検査と同様である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラム缶の内面側に発生する断面欠損を外面側から検出するドラム缶検査方法であって、
前記ドラム缶の側板について、側板面に取付けた超音波探傷手段よりSH波を側板の円周方向に入射して減肉箇所の検出を行う側板検査を行うことを特徴とするドラム缶検査方法。
【請求項2】
前記ドラム缶の底板について、底板周縁の嵌合縁部に取付けた超音波探傷手段よりSH波を底板平面に沿った水平方向に入射して減肉箇所の検出を行う底板検査を更に行うことを特徴とする請求項1に記載のドラム缶検査方法。
【請求項3】
前記ドラム缶が、鉄板の両面に亜鉛メッキし、この亜鉛メッキの表面に樹脂膜を施したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のドラム缶検査方法。
【請求項4】
ドラム缶の内面側に発生する断面欠損を外面側から検出するドラム缶検査装置であって、
前記ドラム缶の側板面に取付けて、SH波を側板の円周方向に入射させて減肉箇所の検出を行う側板超音波探傷手段を備えることを特徴とするドラム缶検査装置。
【請求項5】
前記ドラム缶の底板周縁の勘合縁部に取付けて、SH波を底板平面に沿った水平方向に入射させて減肉箇所の検出を行う底板超音波探傷手段を更に備えることを特徴とする請求項4に記載のドラム缶検査装置。
【請求項6】
前記底板超音波探傷手段が、前記底面周縁の勘合縁部の曲面に合致する当接片を備えたことを特徴とする請求項4又は5に記載のドラム缶検査装置。
【請求項1】
ドラム缶の内面側に発生する断面欠損を外面側から検出するドラム缶検査方法であって、
前記ドラム缶の側板について、側板面に取付けた超音波探傷手段よりSH波を側板の円周方向に入射して減肉箇所の検出を行う側板検査を行うことを特徴とするドラム缶検査方法。
【請求項2】
前記ドラム缶の底板について、底板周縁の嵌合縁部に取付けた超音波探傷手段よりSH波を底板平面に沿った水平方向に入射して減肉箇所の検出を行う底板検査を更に行うことを特徴とする請求項1に記載のドラム缶検査方法。
【請求項3】
前記ドラム缶が、鉄板の両面に亜鉛メッキし、この亜鉛メッキの表面に樹脂膜を施したものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のドラム缶検査方法。
【請求項4】
ドラム缶の内面側に発生する断面欠損を外面側から検出するドラム缶検査装置であって、
前記ドラム缶の側板面に取付けて、SH波を側板の円周方向に入射させて減肉箇所の検出を行う側板超音波探傷手段を備えることを特徴とするドラム缶検査装置。
【請求項5】
前記ドラム缶の底板周縁の勘合縁部に取付けて、SH波を底板平面に沿った水平方向に入射させて減肉箇所の検出を行う底板超音波探傷手段を更に備えることを特徴とする請求項4に記載のドラム缶検査装置。
【請求項6】
前記底板超音波探傷手段が、前記底面周縁の勘合縁部の曲面に合致する当接片を備えたことを特徴とする請求項4又は5に記載のドラム缶検査装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−79843(P2013−79843A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219231(P2011−219231)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(511238929)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(511238929)
【Fターム(参考)】
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