説明

ドラム

【課題】ドラムに巻き取った状態でケーブルコアを冷却した際、ケーブルコアの冷却に伴う熱収縮時の応力を緩和することができるドラムを提供する。
【解決手段】 このドラム10Aは、超電導ケーブルの構成部材を巻き取る巻胴11と、巻胴11の両端部に設けられる鍔部12Aとを有する。超電導ケーブルの構成部材は、超電導導体層を備えるケーブルコア100である。巻胴11は、ケーブルコア100の冷却に伴う熱収縮時の応力を緩和する緩和構造を備える。例えば、巻胴11を、鍔部12Aに対して着脱自在に取り付けられた複数の長尺材11Lで構成する。緩和構造は、長尺材11Lを鍔部12Aに対して異なる位置に付け替えることで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブルのケーブルコアを巻き取るドラムに関する。特に、ドラムに巻き取った状態でケーブルコアを冷却した際、ケーブルコアの冷却に伴う熱収縮時の応力を緩和することができるドラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力供給路を構成する電力ケーブルとして、超電導ケーブルが開発されつつある。超電導ケーブルは、代表的には、超電導導体層を有するケーブルコアと、このケーブルコアを収納すると共に、液体窒素といった冷媒が満たされる断熱管とを備える。
【0003】
OFケーブルやCVケーブルなどの常電導ケーブルでは、その電気的特性を調べるにあたり、工場出荷前、全長を対象とする全長試験(枠試験)が行われている。一方、超電導ケーブルでは、その電気的特性を調べるにあたり、超電導導体層を超電導状態にするために冷却する必要がある。従って、仮に、超電導ケーブルの全長試験を行う場合、細い断熱管内に冷媒を充填しなければならず時間がかかる上に、超電導ケーブルをドラムに巻回した状態で冷却すると、超電導ケーブルの曲げ径がドラムの巻胴の径に規制される。すると、断熱管内のケーブルコアに過大な機械的応力が作用して、当該コアを損傷する恐れがある(特許文献1の明細書0011)。そのため、超電導ケーブルでは、短いサンプルを利用した抜き取り試験が行われている。一方、特許文献1では、断熱管内に気体を充填して、常温下で、超電導ケーブルの全長試験を行うことを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4683371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、特許文献1に提案される全長試験では、ケーブルコアが断熱管内に収納された状態の超電導ケーブルを対象としているが、超電導ケーブルの電気的特性は、実質的にケーブルコアの特性であることから、そのケーブルコアに対して、全長試験を行うことが望まれている。
【0006】
しかし、従来、超電導ケーブル用のケーブルコアに対して、適切な全長試験方法が提案されていない。
【0007】
例えば、超電導ケーブルに利用されるケーブルコアは、長尺であることから、取り扱い易いように、ケーブルコアをドラムに巻き取っておき、この状態でドラムと共に冷却し、特性を調べることが考えられる。この場合、ドラムに巻き取ったケーブルコアを容器に収納し、この容器に冷媒を充填すればよく、例えば、断熱管内に冷媒を充填して循環冷却する場合に比較して、簡易な冷却設備で試験を実施できる。
【0008】
ところが、ケーブルコアをドラムに巻回した状態で冷却すると、ケーブルコアは、その巻き径が小さくなるように、つまり、ドラムの巻胴を締め付けるように熱収縮する。この収縮により、ケーブルコアの少なくとも一部は、巻胴に強く押し付けられ、超電導導体層といった構成部材を損傷する虞がある。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的の一つは、ドラムに巻き取った状態でケーブルコアを冷却した際、ケーブルコアの冷却に伴う熱収縮時の応力を緩和することができるドラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のドラムは、超電導ケーブルの構成部材を巻き取る巻胴と、巻胴の少なくとも一端部に設けられる鍔部とを有する。この超電導ケーブルの構成部材は、超電導導体層を備えるケーブルコアである。そして、巻胴は、その外周輪郭径を変化させることで、ケーブルコアの冷却に伴う熱収縮時の応力を緩和する緩和構造を備える。
【0011】
この構成によれば、ドラムの巻胴が緩和構造を備えることで、巻胴の外周輪郭径を変化させ、ケーブルコアを冷却した際の熱収縮に伴う応力を緩和することができる。
【0012】
本発明のドラムの一形態として、前記巻胴は、鍔部に対して着脱自在に取り付けられた複数の長尺材で構成することが挙げられる。その場合、緩和構造は、前記長尺材を鍔部に対して異なる位置に付け替えることで構成される、前記長尺材の鍔部に対する取り付け位置として、冷却前のケーブルコアの巻付径に対応する大径位置と、冷却後のケーブルコアの巻付径に対応する小径位置の少なくとも2箇所を備える。
【0013】
この構成によれば、鍔部の大径位置に長尺材を取り付けてケーブルコアを巻胴に巻回し、冷却前に長尺材を鍔部の小径位置に付け替えてからケーブルコアを冷却すれば、ケーブルコアが熱収縮しても巻胴の外径が冷却後の巻付径に対応しているため、同コアに過度の応力が作用することを抑制できる。
【0014】
本発明のドラムの一形態として、前記巻胴は、鍔部に対して径方向にスライド自在に取り付けられた複数の長尺材で構成することが挙げられる。その場合、前記緩和構造は、前記長尺材を鍔部の径方向の異なる位置スライドさせることで構成され、冷却前後のケーブルコアの巻付径差に対応するスライド長を備える。
【0015】
この構成によれば、ケーブルコアを冷却した際、熱収縮により巻付径が小さくなっても、長尺材が鍔部の径方向にスライドすることで、同コアに過度の応力が作用することを抑制できる。
【0016】
上記スライド式の長尺材で巻胴を構成した本発明のドラムの一形態として、前記緩和構造は、冷却されたケーブルコアを常温に復帰した際、冷却後のケーブルコアの巻付径に対応する位置から冷却前のケーブルコアの巻付径に対応する位置まで長尺材を付勢する弾性部材を備えることが挙げられる。
【0017】
この構成によれば、ケーブルコアを冷却した際は、同コアの巻付径の縮小に伴って長尺材を弾性部材の付勢力に抗して鍔部の中心側にスライドさせることができる。それにより、コアに過度の応力が作用することを抑制する。一方、冷却されたコアを常温に復帰する際には、コアの巻付径の拡大に伴って弾性部材の付勢力により長尺材を鍔部の外周側にスライドさせることができる。それにより、常温復帰時もコアの巻付径に巻胴の径を対応させることができ、常温復帰後のケーブルコアと巻胴との間に大きなギャップが生じることを防止できる。
【0018】
本発明のドラムの一形態として、前記緩和構造は、前記ケーブルコアの巻付径の縮小分を吸収するように変形可能な材料で構成される緩和層を備えることが挙げられる。
【0019】
この構成によれば、巻胴が緩和層を備えることで、ケーブルコアの熱収縮に伴う巻付径の縮小に対応して緩和層が変形し、コアに過度の応力が作用することを抑制できる。
【0020】
本発明のドラムの一形態として、前記巻胴に巻回されたケーブルコアよりも鍔部の外周側に、鍔部に対して着脱自在に設けられたケーブルコアの巻崩れ防止材を備えることが挙げられる。
【0021】
この構成によれば、ケーブルコアよりも鍔部の外周側に巻崩れ防止材を備えることで、ドラムに巻き付けたケーブルコアを冷却・昇温する過程でコアの巻崩れを防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のドラムによれば、巻胴に緩和機構を備えることで、ケーブルコアの冷却に伴う熱収縮時の応力を緩和することができる。そのため、ケーブルコアに過度の応力が作用することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態1に係るドラムの使用状態を示す説明図である。
【図2】実施形態1に係るドラムでケーブルコアを冷却容器に収納する手順を示す説明図である。
【図3】実施形態1に係るドラムを用いた超電導ケーブル用ケーブルコアの試験方法を説明する説明図である。
【図4】(A)は実施形態2に係るドラムの平面図、(B)は(A)図のB-B断面図、(C)は(A)図のC-C断面図である。
【図5】超電導ケーブル用ケーブルコアを模式的に示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図において同一符号は、同一名称物を示す。まず、試験対象である超電導ケーブル用ケーブルコア、このケーブルコアを巻き取るドラム、試験対象を収納する冷却容器を説明し、次に、上記ケーブルコアの試験方法を説明する。
【0025】
[ケーブルコア]
図5を参照してケーブルコアを説明する。ケーブルコア100は、例えば、中心から順にフォーマ101、超電導導体層102、電気絶縁層103、外側超電導層104、保護層105を備える。
【0026】
フォーマ101は、超電導導体層102の支持部材であり、ケーブルコア100の抗張力材としても機能する。また、フォーマ101は、短絡や地絡などの事故時に事故電流を分流する通電路に利用される。通電路に利用する場合、フォーマ101は、銅やアルミニウム、その合金などの常電導材料からなる中実体や中空体(管体)が好適に利用できる。より具体的には、例えば、ポリビニルホルマール(PVF)やエナメルなどの絶縁被覆を備える銅線を複数本撚り合わせた撚り線材が挙げられる。フォーマ101の外周にクラフト紙やPPLP(住友電気工業株式会社 登録商標)といった絶縁テープ材を巻回してクッション層を設けることができる。
【0027】
超電導導体層102及び外側超電導層104は、超電導線材を螺旋状に巻回した線材層を単層又は多層に備える形態が挙げられる。超電導線材は、酸化物超電導相を備える線材、具体的には、REBa2Cu3Ox(RE123:REは希土類元素)、例えばYBCO,HoBCO,GdBCOといった希土類系酸化物超電導相を備える薄膜線材や、Bi2Sr2Ca2Cu3O10+δ(Bi2223)といったBi系酸化物超電導相を備え、Agやその合金を金属マトリクスとする高温超電導線材がある。多層構造の場合、各線材層の層間にクラフト紙などの絶縁紙を巻回した層間絶縁層を形成することができる。超電導導体層102の直上にカーボン紙などを巻回して内側半導電層を設けることができる。
【0028】
外側超電導層104は、例えば、交流送電の場合、磁気シールド、直流送電の場合、帰路導体や中性線として利用することができる。超電導導体層102及び外側超電導層104を構成する超電導線材の数や線材層の数は、所望の電力供給容量に応じて設計される。
【0029】
電気絶縁層103は、超電導導体層102(或いは内側半導電層)の上に、クラフト紙やPPLP(登録商標)といった半合成絶縁紙などの絶縁テープ材を巻回することで形成することができる。電気絶縁層103の直上に、カーボン紙などを巻回して外側半導電層を設けることができる。
【0030】
外側超電導層104の外周に、上述した事故電流の誘導電流の通電路に利用する常電導シールド層を設けることができる。常電導シールド層は、例えば、銅といった常電導材料からなる金属テープ材を巻回して形成することができる。
【0031】
外側超電導層104(或いは常電導シールド層)の外周に、クラフト紙やPPLP(登録商標)といった半合成絶縁紙などの絶縁テープ材を巻回して、外側超電導層104を機械的に保護するための保護層105を設けることができる。
【0032】
上述のケーブルコア100は、超電導ケーブルの構成部材に利用される。超電導ケーブルは、1条又は複数条(代表的には3条)のコア100を一つの断熱管(図示せず)に収納して製造する。断熱管は、内管と外管との二重管からなり、内管と外管との間が真空引きされた真空断熱構造のものが代表的である。超電導ケーブルは、断熱管内に冷媒(例えば、液体窒素や液体ヘリウムといった液体冷媒)が充填され、この冷媒により超電導導体層102や外側超電導層104を冷却して超電導状態として、電力供給路に利用される。
【0033】
全長試験にあたり、ケーブルコア100の超電導導体層102と外側超電導層104の各端部にはそれぞれ、図1に示すように接続部200を介してリード電極210が取り付けられる。リード電極210及び接続部200は、通電又は課電が可能なように、銅や銅合金といった適宜な導電性材料からなる適宜な形状、長さのものを利用できる。
【0034】
[実施形態1:ドラム]
図1,図2を参照して、ケーブルコア100を巻き取るドラム10Aを説明する。ドラム10Aは、巻胴11と、巻胴11の一端部に取り付けられた円環状の鍔部12Aとを備える。ケーブルコア100は、ドラム10Aに巻き取った状態で後述する冷却容器1に収納されることで冷却される。このドラム10Aは、ケーブルコア100を冷却した際、巻胴11の外周輪郭径を変化させる緩和構造を備えることで、ケーブルコア100の巻付径の変化に対応する。緩和機構は、冷却時の巻胴11の構成材料の収縮量以上に巻胴11の外周輪郭径を変化させる機構である。各部の構成を以下に説明する。
【0035】
巻胴11は、円周上に配置された複数本の長尺材11Lから構成され、横断面が円状の外周輪郭(棒状体の外接円)を有する。長尺材11Lの具体例としては、棒材や、断面が円弧状の円弧片の他、パイプ材が挙げられる。本例では、長尺材11Lとして丸棒材を用いている。丸棒材としては、巻胴11に巻き付けるコア100の直径や長さに応じて選択すればよく、例えば、直径φ1〜10cm程度、長さ30〜100cm程度、本数10〜50本程度が利用できる。
【0036】
この長尺材11Lは、鍔部12Aに対して着脱自在であり、鍔部12Aに対する取り付け位置は少なくとも大径位置と小径位置の2箇所がある。大径位置は、常温で巻胴11にケーブルコア100を巻き付ける際の巻付径に対応した各長尺材11Lの取付位置であり、小径位置は、冷却して収縮したケーブルコア100の巻付径に対応した各長尺材11Lの取付位置である。大径位置・小径位置のいずれも、複数の長尺材11Lの取付部が円周上に配列されることで構成される。本例では、この長尺材11Lを大径位置と小径位置に付け替えることで巻胴11の径を可変させることにより、緩和機構を構成している。
【0037】
長尺材11Lの鍔部12Aへの着脱構造は、ねじ結合が好適に利用できる。例えば、丸棒材の先端部に雄ねじを形成し、この雄ねじに対応する雌ねじを鍔部12Aに形成しておく。そして、丸棒材を鍔部12Aに嵌め外しすることで、長尺材11Lを鍔部に対して着脱自在にできる。
【0038】
一方、鍔部12Aは、上述のように円環体が代表的に利用できる。鍔部12Aの外径は、ケーブルコア100がつくるターンの外径よりも大きいと、当該ターンの端面を鍔部12Aによって保持でき、コア100の巻き崩れを防止し易い。また、上述したように、この鍔部12Aには、巻胴11を構成する長尺材11Lの取付部が大径位置と小径位置に形成されている。
【0039】
この鍔部12Aは、巻胴11の一端部にのみ取り付けられている場合(片鍔型)と、両端部に取り付けられている場合(両鍔型)のいずれでも良い。本例のように、片鍔型の場合、ドラム10Aを軽量化でき、長尺体11Lの付け替えを容易に行える。両鍔型の場合、強固な巻胴を構成することができる。また、片鍔型、或いは両鍔型であるが、ドラム10Aに巻き取ったケーブルコア100を後述する冷却容器1に収納する際、一方の鍔部を取り外した場合、一方の鍔部が無いことで、後述するリード電極210が鍔部に接触することが無く、鍔部との接触を回避するために、リード電極210を長くして迂回する必要がない。
【0040】
その他、ドラム10Aには巻崩れ防止材13を設けることが好ましい。片鍔型の場合、或いは両鍔型であるが一方の鍔部を取り外した場合、巻胴11に巻回されたケーブルコア100の片端のみが鍔部12Aに支持されるため、ケーブルコア100が巻き崩れる虞がある。そのため、例えば、図2(C)に示すように、巻胴11に巻回されたコア100の外周において、巻き崩れ防止材13を鍔部12Aに取り付けることが好ましい。巻き崩れ防止材13の鍔部12Aに対する取り付け位置は、コア100における冷却前の外径よりも外方に配置し、当該巻き崩れ防止材13が熱収縮したときにコア100を押圧することが無いように調整する。巻き崩れ防止材13の形態としては、例えば、複数の棒状体や帯状体、円弧片などの分割部材を利用できる。これら分割部材は、巻回されたコア100の外周を囲む円環状に、分割部材間に適宜間隔をあけて配置すればよい。鍔部12Aには、巻き崩れ防止材13の取付部を設けておく。鍔部12Aと巻崩れ防止材13の取付構造は、例えば、巻胴11を構成する長尺材11Lと鍔部12Aとの取付構造と同様にしても良いし、鍔部12Aに上記分割部材が挿入される穴又は溝を設けておき、分割部材には、上記穴や溝に挿入したときに当たり止めとなるフランジ部を設けておき、このフランジ部と鍔部12Aとをボルトなどで固定することが挙げられる。
【0041】
ドラム10Aは、冷媒に浸漬されることから、その構成材料(巻胴、鍔部、巻崩れ防止材)には、液体冷媒2Lに対する耐性があり、コア100を巻回可能な強度を有する材料、例えば、高炭素鋼やステンレス鋼といった高強度な金属材料が挙げられる。これら鉄系合金は、銅や銅合金よりも線膨張係数が小さく、緩和構造を持たないドラムに銅や銅合金製のフォーマ101(図5)を有するケーブルコア100を巻回して冷却した場合、コア100の熱収縮により、過度の応力がコア100に作用する虞がある。これに対し、緩和構造を有する本例のドラム10Aでは、ドラム10Aを構成する材料の線膨脹係数に関わらず、巻胴11自体の外周輪郭径が変化することで、上記の過度の応力の発生を抑制できる。従って、本例のドラム10Aでは、構成材料の選択肢が広い。
【0042】
勿論、緩和構造を有することに加え、少なくとも巻胴11が、ケーブルコア100の構成部材のうち、コア100に作用する張力を分担する主要部材、つまり抗張力材の構成材料よりも熱収縮率(線膨脹係数)が大きい材料で構成することも好ましい。この抗張力材としては、例えば、上述のように銅や銅合金といった常電導の金属材料からなるフォーマ101が挙げられる。従って、ドラム10Aの巻胴11は、代表的には、フォーマ101の構成材料である銅や銅合金よりも熱収縮率が十分に大きい材料、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、マグネシウム、マグネシウム合金から構成されるものが挙げられる。このような材質でドラム10Aを構成すれば、ケーブルコア100の冷却時、巻付径の縮小量以上に巻胴の外周輪郭径が小さくなることで、コア100に過剰な応力が作用することを抑制できる。
【0043】
アルミニウムやマグネシウム、及びその合金は、熱収縮率がフォーマ101の構成材料(銅など)よりも大きい他、(1)軽量であり、試験対象の軽量化を図ることができる、(2)非磁性体であるため、例えば、通電電流値が大きな試験を行う場合でもケーブルコアがつくる磁場を乱し難い、といった利点がある。その他、アルミニウムやその合金は、耐食性に優れ、マグネシウムやその合金は、構造用金属の中で比強度・比剛性が最も高く、高強度なドラムとすることができる。
【0044】
巻胴11と鍔部12Aとは、代表的には、同じ材質とする。一方の鍔部が着脱可能な形態では、この鍔部は、巻胴11と異なる材質でもよい。
【0045】
このようなドラム10Aに対してケーブルコア100は単層巻きすることが代表的であるが、多層巻きとすることができる。多層巻きとする場合、ドラム10Aには、上述の巻崩れ防止材13に代えて、2層目以降の巻胴となる巻胴部材(図示せず)を少なくとも鍔部12Aに取り付ける。この巻胴部材は、上述した巻崩れ防止材13のように複数の分割部材で構成すると、取り付けが容易である。この巻胴部材は、例えば、巻回された下層のコア100の外周を囲む円環状で、かつ当該下層のコア100における冷却前の外径よりも外方に配置することが挙げられる。本例では、この巻胴部材も、上述の巻胴11と同様の材質で構成することで、2層目以降のコア100の損傷を防止する。
【0046】
[冷却容器]
冷却容器1は、一方が開口した箱状体である本体部2と、本体部2の開口部を塞ぐ蓋部3とを備える(図1,図2(E))。
【0047】
本体部2は、真空層2aを備える真空断熱構造であり、開口部側に蓋部3を取り付ける取付部21を備える。本体部2は、冷媒温度(例えば、液体窒素の場合:77K程度)に対する耐性に優れ、ドラム10Aに巻き取られたケーブルコア100といった大重量の試験対象の自重を保持可能な高強度な材料を好適に利用することができる。例えば、ステンレス鋼が好適である。また、本体部2は、試験対象を十分に収納可能な容積を有するようにする。
【0048】
蓋部3は、冷却容器1内の冷媒(ここでは、液体冷媒2L(図1)及び液体冷媒2Lの上方に形成される気相)を封止するための部材である。蓋部3も真空断熱構造とすることができるが、リード電極210を引き出す場合、複雑な構成となる。従って、蓋部3は、中実体(例えば、ステンレス鋼からなる板材)とし、リード電極210を引き出す貫通孔を備える形態が挙げられる。中実体であっても、蓋部3に適宜な冷却機構を取り付けることで、蓋部3からの侵入熱による液体冷媒2Lの過度な気化を防止できて好ましい。
【0049】
[試験方法]
上述のケーブルコア100に対して、全長に亘って電気的特性を調べる試験を行う手順を説明する。
【0050】
まず、図2(A)に示すように、鍔部12Aの大径位置の取付部に長尺材11Lを取り付け、ドラム10Aを構成する。
【0051】
次に、ドラム10Aにコア100を巻き取る(図2(B))。このとき、ドラム10Aを適宜なターンテーブル上に設置し、ドラム10Aを回転させることでコア100を巻き取ることが好適である。製造されたコア100を順次、ドラム10Aによって巻き取るようにしてもよい。多層巻きとする場合には、各層ごとに上述の巻胴部材を取り付ける。
【0052】
続いて、鍔部12Aにおけるコア100の外周に巻崩れ防止材13を取り付ける(図2(C))。これにより、コア100は巻胴11を構成する長尺材11Lと巻崩れ防止材13との間に配置される。
【0053】
その後、巻胴11を構成する長尺材11Lを大径位置の取付部から取り外し、鍔部12Aの小径位置の取付部に付け替える(図2(D))。このとき、巻胴11とケーブルコア100との間にはギャップができるが、それによりコア100が巻崩れることはない。コア100の巻崩れは、外周側にコア100のターンがずれることで生じ易いため、コア100の外周側が巻崩れ防止材13で支持されていれば、巻崩れを抑制できるからである。
【0054】
ドラム10Aへのコア100の巻き付けが終了したら、そのドラム10Aを蓋部3に吊り下げ、コア100の端部の接続部200にリード電極210を取り付けて、そのリード電極210を蓋部3に貫通させる。(図2(E))。ドラム10Aの蓋部への吊り下げは、蓋部3と鍔部12Aとを適宜な吊り材(図1〜3では一点鎖線表示)で連結することにより行うことが好適である。このドラム10Aの吊り下げは、ドラム10Aの軸が蓋部3の沿面方向と直交するように行うことが好ましい。蓋部3においてリード電極210の貫通箇所は例えばハーメチックシールを行う。リード電極210のコア100への取り付けは、冷却容器1の本体部2に試験対象を収納した後に行っても良い。
【0055】
次に、ケーブルコア100を巻き取ったドラム10Aを蓋部3から吊り下げた状態で本体部2内に移動させる。このとき、ドラム10Aの軸が冷却容器1の深さ方向の軸に対して平行となるように収納する(縦置き収納)。換言すれば、冷却容器1の底面が平面の場合、その平面と巻胴11の軸が直交するように試験対象を冷却容器1に収納する。これに対し、ドラム10Aの軸が底面と平行な横置き収納では、巻胴11に巻回されたコア100がつくる各ターンにおいて、鉛直方向上方に位置する部分と鉛直方向下方に位置する部分とでは、張力の作用状態が異なる。具体的には、上述の鉛直方向上方に位置する部分は、相対的に張力が作用し易く、上述の鉛直方向下方に位置する部分は相対的に張力が作用し難い。そのため、コア100の長手方向における張力がアンバランスになり、コア100の全長の特性を測定するにあたり、コア100を均一な状態にし難い。一方、縦置き収納であれば、上述したコア100に作用する張力のアンバランスが生じ難く、均一的な状態のコア100に対して特性試験を行うことができる。また、冷却容器1の本体部2は、その底部の直径が他方の鍔部12Aの直径よりも若干大きい程度の大きさを有していればよく、冷却容器の設置面積を小さくできる。
【0056】
蓋部3に吊り下げられた試験対象は、例えば、図2(E)に示すように、この蓋部3を本体部2の開口縁部に載置するように移動される。試験対象は、蓋部3に吊り下げられた状態のまま本体部2の内部に収納され、さらに蓋部3を下方に下げることで、本体部2の開口縁に蓋部3を載置する。そして、蓋部3を本体部2の取付部21に固定する(図3)。このとき、ドラム10Aの鍔部12Aは本体部2の底面に接していても良いが、非接触であることが好ましい。それにより、本体部2から鍔部12Aを介した伝導による熱侵入を抑制できる。
【0057】
冷却容器1の適宜な供給口(図示せず)から液体冷媒2L(例えば液体窒素)を本体部2内に充填する。この冷媒2Lの冷却容器1への充填は、本体部2にドラム10Aを収納する前に行っておいても良い。この液体冷媒2Lによりケーブルコア100を冷却して、超電導導体層102(図5)などの超電導層を超電導状態にする。このとき、コアは熱収縮し、その巻付径が縮小するが、巻胴は予め長尺体を小径位置に付け替えて構成されているため、コアが巻胴を締め付けることはなく、コアに過大な応力が作用することもない。この状態で、図3に示すように、リード電極210に、所望の通電用又は課電用の電源300を取り付けて、所望の電気的特性(通電性能、絶縁性能など)を調べる。
【0058】
[効果]
(1)ドラム10Aは大径位置と小径位置に付け替え可能な長尺材11Lで構成された巻胴11を有するため、コア100の冷却前は大径位置に長尺材11Lを取り付けてコア100を巻回し、冷却時には小径位置に長尺材11Lを付け替えておくことができる。それにより、コア100を冷却した際、その巻付径が縮小しても、コア100が巻胴11を締め付けることはなく、コア100に過大な応力が作用することもない。
【0059】
(2)ドラム10Aの巻胴11を複数の長尺材11L(本例では丸棒材)で構成し、片鍔型のドラム10Aとすることで、ドラム10Aを軽量化することができる。
【0060】
(3)ドラム10Aに巻き取ったケーブルコア100を冷却容器1内に縦置き収納することで、冷却容器1の底面のサイズをドラム10Aの鍔部12Aの直径に応じたサイズとすることができる。そのため、横置き収納の場合に比べて、冷媒容器1のサイズ、特に設置面積を小型化することができる。
【0061】
(4)縦置き収納にてドラム10Aを冷却容器1に収納することで、横置き収納に比べてコア100に作用する張力の不均一を少なくできる。
【0062】
(5)試験対象を蓋部3に吊り下げることで、試験対象の冷却容器1への収納と蓋部3による本体部2の開口部の閉鎖をほぼ同時に行うことができる。
【0063】
[実施形態2:ドラム]
次に、巻胴を鍔部に対してスライド自在の棒材で構成した実施形態2に係るドラム10Bを図4に基づいて説明する。このドラム10Bは、巻胴及び緩和機構の構成が実施形態1と異なる点を除き、他の構成や、そのドラム10Bを用いたケーブルコア100の試験手順は上述の実施形態1のドラム10Aと同様である。以下、主に両者の相違点について説明する。
【0064】
このドラム10Bも片鍔型のドラムで、巻胴11が複数の長尺材11L、本例では棒材で構成されている点で実施形態1と共通である。但し、この長尺材11Lは、鍔部12Aに対してスライド自在に構成されている。つまり、この長尺材11Lのスライド機構が緩和構造となる。
【0065】
長尺材11Lを鍔部12Aに対してスライドさせる構成は、例えば次の構成が挙げられる。長尺材11Lは、一端にフランジ部11AFを、他端に雄ねじ部11ATを有する主軸11Aと、主軸11Aが挿入されるパイプ材11Bと、主軸11Aの雄ねじ部11ATに螺合されるナット11Cとで構成される。一方、鍔部12Aには、径方向に延びる複数の長孔が放射状に形成されている。この長孔12AHは、長尺材11Lの端部を嵌め込んでスライドさせるためのもので、幅広で浅い溝部12Rと、この溝部12Rよりも狭い幅で鍔部12Aを貫通するスリット部12Sとを有する(図4(C))。溝部12Rには、パイプ材11Bの端部が嵌め込まれ、スリット部12Sには主軸11Aの雄ねじ部11AT側が貫通される。スリット部12Sを貫通した雄ねじ部11ATは、鍔部の裏面側(図4(B)や(C)の下面側)でナット11Cに螺合され、このナット11Cが鍔部12Aの裏面を、主軸11Aのフランジ部11AFがパイプ材11Bの上端を押圧する。また、この溝部12Rには、圧縮ばね14が取り付けられている(図4(B))。この圧縮ばね14は、その一端がパイプ材11Bに、他端が溝部12Rの端面に当接され、常時は長尺材11Lを鍔部12Aの径方向外周側に付勢する。
【0066】
このドラム10Bにコアを巻き付ける際には、長尺材11Lを長孔12AHの一端側(鍔部12Aの外周側)に固定する。この固定は、主軸11Aをナット11Cにねじ込むことで、ナット11Cが鍔部12Aの裏面を、主軸11Aのフランジ部11AFがパイプ材11Bの上端を押圧し、さらにパイプ材11Bの下端が溝部12Rの底面を押圧することで、ナット11Cとパイプ材11Bとの間に鍔部12Aの溝部12Rを挟み込むことで行われる。長尺材11Lが鍔部12Aに対して固定されていれば、コアを巻胴11に巻回した際、長尺材11Lが移動することがない。
【0067】
一方、冷却直前には、ナット11Cを緩めて、この長尺材11Lの固定を解除しておく。この状態で、実施形態1と同様にコアの冷却を行うと、コアの熱収縮により巻付径が縮小され、その際の収縮力が圧縮ばね14の反発力に抗して長尺材11Lを長孔12AH沿いに鍔部12の中心側へスライドさせる。このスライドにより、コアの巻付径の縮小に応じて巻胴11の外周輪郭径も縮小されるため、コアに過大な応力が作用することを抑制できる。
【0068】
ケーブルコアの試験終了後、液体冷媒を除去してケーブルコアを昇温する。その際、コアは熱伸長して、その巻付径が拡大する。そのとき、圧縮ばね14の付勢力により、長尺材11Lは鍔部12Aの径方向外周側に付勢され、コアの巻付径に追従して巻胴11の径を変化させることができる。
【0069】
本例のドラム10Bによっても、実施形態1と同様に、冷却時のコアの巻付径の縮小に応じて巻胴11の径を変化させることができ、コアに過大な応力が作用することを抑制できる。さらに、試験終了後のコアの昇温時においても、コアの巻付径の拡大に追従して、巻胴11の径を変化させることができる。
【0070】
[実施形態3:ドラム]
次に、巻胴に弾性変形特性に優れる緩和層を持つ実施形態3に係るドラム(図示略)を説明する。このドラムは、巻胴及び緩和機構の構成が実施形態1と異なる点を除き、他の構成や、そのドラムを用いたケーブルコアの試験手順は上述の実施形態1のドラムと同様である。以下、主に両者の相違点について説明する。
【0071】
このドラムでは、例えば中空円筒状の巻胴を金属で形成し、この巻胴の外周に弾性変形し易い緩和層を設ける。具体的には、ウレタン樹脂などが利用できる。緩和層の厚さは、冷却前後のコアの巻付径の変化量に応じた変形量を確保できる厚さとすればよい。
【0072】
このようなドラムにおいても、コアを冷却して巻付径が縮小した場合でも、緩和層が変形することで、この巻付径の縮小分を吸収することができる。そのため、コアに過大な応力が作用することを抑制できる。
【0073】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することができる。例えば、本発明の実施の形態1〜3の各構成を組み合わせても良い。具体的には、実施形態1や実施形態2の長尺材11Lの外周に弾性変形性に優れる緩和層を設けることが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のドラムは、ケーブルコアの出荷試験、超電導ケーブルの製造途中における中間試験、その他、任意のときにケーブルコアの全長の特性を調べる際に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 冷却容器 2 本体部 2a 真空層 2L 液体冷媒 21 取付部
3 蓋部
10A、10B ドラム
11 巻胴 11L 長尺材 11A 主軸 11B パイプ材 11C ナット
11AF フランジ部 11AT 雄ねじ部
12A 鍔部 12AH 長孔 12R 溝部 12S スリット部 13 巻崩れ防止材
14 圧縮ばね
100 ケーブルコア
101 フォーマ 102 超電導導体層 103 電気絶縁層
104 外側超電導層 105 保護層
200 接続部 210 リード電極 300 電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導ケーブルの構成部材を巻き取る巻胴と、巻胴の少なくとも一端部に設けられる鍔部とを有するドラムであって、
前記構成部材は、超電導導体層を備えるケーブルコアであり、
前記巻胴は、その外周輪郭径を変化させることで、前記ケーブルコアの冷却に伴う熱収縮時の応力を緩和する緩和構造を備えることを特徴とするドラム。
【請求項2】
前記巻胴は、鍔部に対して着脱自在に取り付けられた複数の長尺材で構成され、
前記緩和構造は、
前記長尺材を鍔部に対して異なる位置に付け替えることで構成され、
前記長尺材の鍔部に対する取り付け位置として、冷却前のケーブルコアの巻付径に対応する大径位置と、冷却後のケーブルコアの巻付径に対応する小径位置の少なくとも2箇所を備えることを特徴とする請求項1に記載のドラム。
【請求項3】
前記巻胴は、鍔部に対して径方向にスライド自在に取り付けられた複数の長尺材で構成され、
前記緩和構造は、
前記長尺材を鍔部の径方向の異なる位置にスライドさせることで構成され、
冷却前後のケーブルコアの巻付径差に対応するスライド長を備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のドラム。
【請求項4】
前記緩和構造は、冷却されたケーブルコアを常温に復帰した際、冷却後のケーブルコアの巻付径に対応する位置から冷却前のケーブルコアの巻付径に対応する位置まで長尺材を付勢する弾性部材を備えることを特徴とする請求項3に記載のドラム。
【請求項5】
前記緩和構造は、前記ケーブルコアの巻付径の縮小分を吸収するように変形可能な材料で構成される緩和層を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のドラム。
【請求項6】
前記巻胴に巻回されたケーブルコアよりも鍔部の外周側に、鍔部に対して着脱自在に設けられたケーブルコアの巻崩れ防止材を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のドラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2013−35654(P2013−35654A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172826(P2011−172826)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】