説明

ドルゾラミド塩酸塩点眼液

【課題】 眼刺激を低減したドルゾラミド塩酸塩点眼液を提供すること。
【解決手段】 ドルゾラミド塩酸塩(化学名:(―)−(4S,6S)―4−エチルアミノー5,6―ジヒドロー6―メチルー4H―チエノ[2,3−b]チオピランー2―スルホンアミド7,7−ジオキシド モノヒドロクロライド)を有効成分とする点眼液において、眼刺激性が低減される条件を見出した。ドルゾラミド塩酸塩を精製水等に溶解させた点眼液は、点眼時に眼刺激があり、ここで、一般的に、眼刺激性の一つの要因に挙げられる点眼液のpHを確認してみたところ、酸性性領域の5.5〜5.9であったが、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、ドルゾラミド塩酸塩点眼液で点眼時に眼刺激が低減される条件が、中性領域のpHの中でも特に、6.5〜8.5であることを見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドルゾラミド塩酸塩(塩酸ドルゾラミド)を有効成分とする点眼液、特に、緑内障治療を目的としたドルゾラミド塩酸塩点眼液に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、緑内障治療を目的とした点眼液(点眼薬)では、患者眼の眼圧を下げることで緑内障の進行を遅らせる手法が知られている。眼圧降下作用を持つ点眼液には様々な種類があり、例えば、炭酸脱水酵素阻害作用を有する点眼液がある(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に示される作用を持つ物質は、ドルゾラミド塩酸塩として知られている。
【特許文献1】特開平6−122668号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に示されるドルゾラミド塩酸塩を有効成分とする点眼液は、眼圧降下作用を有しているが、一方で、強い眼刺激性を有しており、使い難くかった。特に、自覚症状が少なく、長期に渡って点眼する必要のある緑内障治療において、点眼液に眼刺激性があることは問題として大きい。
【0004】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、眼刺激を低減したドルゾラミド塩酸塩点眼液を提供することを技術課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、様々な実施例にて鋭意検討したところ、ドルゾラミド塩酸塩(化学名:(―)−(4S,6S)―4−エチルアミノー5,6―ジヒドロー6―メチルー4H―チエノ[2,3−b]チオピランー2―スルホンアミド7,7−ジオキシド モノヒドロクロライド)を有効成分とする点眼液において、眼刺激性が低減される条件を見出した。
【0006】
前述のように、ドルゾラミド塩酸塩を精製水等に溶解させた点眼液(ドルゾラミド塩酸塩点眼液 萬有製薬株式会社)は、点眼時に眼刺激がある。ここで、一般的に、眼刺激性の一つの要因に挙げられる点眼液のpHを確認してみたところ、酸性性領域の5.5〜5.9であった。
【0007】
一方で、様々な効果効能を有する点眼液(例えば、抗アレルギー点眼液、抗菌点眼液)では、pHが酸性領域〜中性領域の5〜7とされるものが多数みられ、pHが酸性領域にあるにも関わらず点眼時の眼刺激が少ないものが多い。一例として、広範囲抗菌点眼剤であるトスフロキサシントシル酸塩水和物点眼液(株式会社ニデック)では、pHが4.9〜5.5の酸性領域であったが、この点眼液では点眼時の眼刺激がほとんどないとされている。
【0008】
従って、多くの点眼液で眼刺激が少ないとされるpHの領域に、ドルゾラミド塩酸塩点眼液のpHが含まれることから、ドルゾラミド塩酸塩点眼液の眼刺激はpHに依存するものでないと考えられる。
【0009】
しかしながら、本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、ドルゾラミド塩酸塩点眼液で点眼時に眼刺激が低減される条件が、中性領域のpHの中でも特に、6.5〜8.5であることを見出した。なお、ドルゾラミド塩酸塩の濃度は0.5〜2.0%とする。これは、従来のドルゾラミド塩酸塩点眼液にて薬効を果たすとされる含有量であることに依る。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ドルゾラミド塩酸塩を有効成分とする点眼液の眼刺激性を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明者らは、以下に示す試験例にて鋭意検討したところ、ドルゾラミド塩酸塩を有効成分とする点眼液において、pHを中性領域の中でも特に6.5〜7.8とすることで、眼刺激性が低減されることを見出した。以下に本発明の効果を確認するために行った各試験例について説明するとともに、各試験を行った結果について説明する。なお、本発明の点眼液は各実施例に記載された処方に限定されるものではない。以下の説明で組成を示す「%」は、「w/v%(重量パーセント)」を意味するものとする。また、本発明の実施形態では、pH調整剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等の水酸化物のアルカリ性水溶液を用いる。これは、ドルゾラミド塩酸塩を等張化した精製水に溶解させると、水溶液のpHが酸性領域となることに依る。
【0012】
<使用機器>
試験に用いた主要な使用機器を以下に示す。
pHメーター: D-22(株式会社 堀場製作所)
電子天秤: AT261(メトラートレド株式会社)
浸透圧計: 5004型(株式会社 アムコ)
液体クロマトグラフ装置: W2487型(ウォーターズ株式会社)
液体クロマトグラフ装置のデータ処理装置: Millennium32(ウォーターズ株式会社)
【0013】
<点眼液の調製>
基本処方を以下のようにする。
ドルゾラミド塩酸塩:1.12%
塩化ナトリウム:0.6%
0.1N 水酸化ナトリウム液(水酸化ナトリウム水溶液): 適量
精製水: 適量
浸透圧比: 約1.0
100mL調製する場合を以下に示す。
精製水80mL中に塩化ナトリウム0.6g及びドルゾラミド塩酸塩1.12%を加えて溶かす。pHの調整は、0.1N 水酸化ナトリウム液の滴加にて行うものとし、pH調整後に精製水で全量100mLとする。調製液を孔径0.22μmのメンブランフィルター(ミリポア社製)で無菌ろ過し、5mLのプラスチック点眼瓶に充填し、プラスチック製中栓及びプラスチック製キャップで装栓し、点眼液を得るものとする。
【0014】
<試験例1>
<眼刺激性試験>
健常人3名の片眼に、各点眼液を1滴ずつそれぞれ点眼し、そのときの刺激性を以下に示す4段階の基準で評価し、スコア化した。被験者3名が評価した各点眼液の評価値の平均を刺激係数としてそれぞれ算出した。
―: 何も感じない 0点
±: 違和感あり 1点
+: わずかに刺激がある 2点
++: 痛い 3点
【0015】
<予備試験>
まず、ドルゾラミド塩酸塩を含有しない点眼液(生理食塩水)のpHと眼刺激性の関係を確認した。ドルゾラミド塩酸塩等の有効成分を含有しない点眼液、つまり、浸透圧を約1.0とされた生理食塩水を点眼液として調製し、塩酸若しくは水酸化ナトリウムにて点眼液のpHを以下のように調整した。
点眼液A(生理食塩水A): pH 5.0
点眼液B(生理食塩水B): pH 5.5
点眼液C(生理食塩水C): pH 6.0
点眼液D(生理食塩水D): pH 6.5
これら点眼液A,B,C、Dにて眼刺激試験を行うと、いずれの点眼液でも、眼刺激の評価(刺激係数)が0となった。つまり、点眼液のpHが酸性領域〜中性領域であっても、点眼時に眼刺激がないことが確認された。
【0016】
<ドルゾラミド塩酸塩点眼液の眼刺激性試験>
次に、ドルゾラミド塩酸塩点眼液の眼刺激性を確認するために、以下に示すように、ドルゾラミド塩酸塩の含有量は同じでpHのみ異なる4種類の点眼液を調製し、4種類の点眼液と比較例のpHと眼刺激の関係をスコア化した(表1参照)。
点眼液1:基本処方のpHを6.1に調整した処方
点眼液2:基本処方のpHを6.4に調整した処方
点眼液3:基本処方のpHを6.8に調整した処方
点眼液4:基本処方のpHを7.8に調整した処方
比較例: ドルゾラミド塩酸塩を含有する市販品(萬有製薬株式会社)
ドルゾラミド塩酸塩: 1.12%含有、他に、塩化ベンザルコニウム、ヒドロキシエチルセルロース、D−マンニトール、クエン酸ナトリウム及び塩酸含有
pH: 5.7
浸透圧比: 約1.0
【0017】
【表1】

以上の試験結果を見ると、ドルゾラミド塩酸塩が含有される(薬効がある濃度で含有される)点眼液において、点眼液1(pH6.1)では、眼刺激があり、眼刺激は比較例のものと比べてほとんど変わっていない。一方で、点眼液3(pH6.8)及び点眼液4(pH7.8)では、眼刺激がみられなかった(眼刺激が比較例と比べて大きく低減された)。また、点眼液2(pH6.4)では、眼刺激が比較例の場合と比べて低減された。
【0018】
以上の試験結果から、ドルゾラミド塩酸塩点眼液のpHを、中性領域の中でも、特に、6.5〜7.8の範囲とすることで、点眼時の眼刺激が低減されることが見出された。ドルゾラミド塩酸塩点眼液のpHを6.5以上とすることで、点眼時の評価をpH6.5の場合の「わずかに刺激あり」から、「違和感あり」若しくは「何も感じない」程度まで眼刺激が低減できると考えられる。言い換えれば、pHを6.5以上とすることで、ドルゾラミド塩酸塩点眼液の点眼時の眼刺激において「痛い」という評価を避けることができると考えられる。
【0019】
また、点眼液において、アルカリ性領域のpHは8.5まで眼刺激がないとされることから、ドルゾラミド塩酸塩点眼液のpHを6.5〜8.5としてもよい。
【0020】
<試験例2>
ドルゾラミド塩酸塩を有効成分とする点眼液のpHを中性領域とした場合のドルゾラミド塩酸塩の安定性(残存性)について試験を行った。ここでは、調製した点眼液を長期保存した際、pH及びドルゾラミド塩酸塩の残存率(残存量)がどのように変化するか測定した。ここで、ドルゾラミド塩酸塩の濃度は、液体クロマトグラフィーにて測定した。なお、ドルゾラミド塩酸塩の残存率は、点眼液調製直後のドルゾラミド塩酸塩の濃度に対する各試験後の点眼液中のドルゾラミド塩酸塩の濃度を百分率にて算出することとした(表2参照)。
保存条件: 摂氏40度
相対湿度25%以下
保存期間: 6ヶ月間
<安定性試験用の点眼液の調製>
ドルゾラミド塩酸塩: 0.56%
塩化ナトリウム: 0.6%
ヒドロキシエチルセルロース: 0.5%
ベンザルコニウム塩化物液10: 0.03%
0.1N 水酸化ナトリウム液: 適量
精製水: 適量
pH: 6.8
【0021】
【表2】

これらの試験結果から、ドルゾラミド塩酸塩の減少は測定されず、若干、残存量の増加がみられた。また、pHは、0.1増加する程度でほとんど変化がなかった。なお、残存率の増加は、点眼液の水分が長期保管により若干、蒸発したと考えられ、ドルゾラミド塩酸塩の残存量に変化がないと考えられる。
【0022】
以上のことから、点眼液のpHが中性領域(ここでは、6.8)であっても、有効成分であるドルゾラミド塩酸塩が分解されず、残存すると考えられる。
【0023】
以上説明した2つの試験例から、ドルゾラミド塩酸塩を有効成分とする点眼液のpHを中性領域の中でも特に、6.5〜7.8とすることで、点眼時の眼刺激を低減できると考えられる。また、点眼液のpHを中性領域としてもドルゾラミド塩酸塩が長期に安定して残存し、ドルゾラミド塩酸塩の薬効(ここでは、眼圧降下)を得ることができると考えられる。
【0024】
なお、ドルゾラミド塩酸塩を含有する点眼液に、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝剤、ホウ酸塩緩衝剤、クエン酸塩緩衝剤、酒石酸緩衝剤、酢酸塩緩衝剤、アミノ酸等)、等張化剤(例えば、ソルビトール、グルコース、マンニトール等の糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウムなどの塩類など)、防腐剤(例えば、ベンザルコニウム塩化物、ベンゼトニウム塩化物、パラオキシ安息香酸エステル類、ベンジルアルコールなど)、増粘剤(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースおよびその塩等)、可溶化剤(例えば、エタノール、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80等)等の各種添加剤を添加してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式で示されるドルゾラミド塩酸塩(化学名:(―)−(4S,6S)―4−エチルアミノー5,6―ジヒドロー6―メチルー4H―チエノ[2,3−b]チオピランー2―スルホンアミド7,7−ジオキシド モノヒドロクロライド)を有効成分とし,pHが点眼時の眼刺激が少ない範囲とされることを特徴とするドルゾラミド塩酸塩点眼液。
【化1】

【請求項2】
請求項1のドルゾラミド塩酸塩点眼液は、pHが6.5〜8.5とされることを特徴とするドルゾラミド塩酸塩点眼液。
【請求項3】
請求項1〜2のドルゾラミド塩酸塩点眼液は、ドルゾラミド塩酸塩を0.5〜2.0重量%含有することを特徴とするドルゾラミド塩酸塩点眼液。

【公開番号】特開2009−242368(P2009−242368A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94363(P2008−94363)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000135184)株式会社ニデック (745)
【Fターム(参考)】