説明

ドレイン排水溝部材とそれを用いた床被覆構造

【課題】接合不良を生じることなく床被覆材と水密的に接合でき、太陽光や風雨に曝される屋外の共通廊下やベランダの床下地に貼着施工しても、長期間に亘って優れた防水性を発揮できる、ドレイン排水溝部材と床被覆構造を提供する。
【解決手段】ドレイン水を排水する凹溝部1dを備えた溝部材本体1の左右両側面1f又はいずれか片側面1fに、下面が溝部材本体1の下面と面一に連続する肉薄の舌縁部1aであって、その上に床被覆材の端縁部が重ねられて接合される接合用の上記舌縁部1aを、溝部材本体1の全長に亘って外向きに形成した構成のドレイン排水溝部材10とする。床被覆構造は、ドレイン排水溝部材10と床被覆材とを隣接させて床下地に貼着すると共に、ドレイン排水溝部材10の舌縁部1aとその上に重ねた床被覆材の端縁部を貼着して接合したとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はドレイン排水溝部材とそれを用いた床被覆構造に関し、更に詳しくは、床被覆材と水密的に接合されて床下地に貼着されることにより、長期間に亘って優れた防水性を発揮することができるドレイン排水溝部材と床被覆構造に関する。
【背景技術】
【0002】
マンションなどの集合住宅においては、ベランダや共通廊下の床下地に合成樹脂製のドレイン排水溝部材を貼着し、このドレイン排水溝部材を通じて、空調機などから排出されるドレイン水をベランダや共通廊下の側溝に排水している。このようなドレイン排水溝部材として、例えば、ベランダや共通廊下の床下地に貼着される床被覆材(床シート)とほぼ同等の厚さを備えた合成樹脂製の帯状貼着板の表面に、浅溝のドレイン排水路を全長に亘って形成したものが知られている(特許文献1)。
【0003】
上記のドレイン排水溝部材は、合成樹脂製の床被覆材と隣り合わせにしてベランダや共通廊下の床下地に床用接着剤で貼着し、通常、ドレイン排水溝部材と床被覆材の継目を、熱可塑性樹脂の溶接棒を用いて溶接するか、シール剤を充填してシーリングするか、溶剤を用いて接着することにより、水密的に接合して防水性を確保するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−46762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにドレイン排水溝部材と床被覆材の継目を、樹脂溶接、シーリング、溶剤接着などの手段で接合する場合は、作業者の熟練度が不足したり丁寧さが欠けたりすると、接合不良が生じて継目から雨水等が床被覆材の裏側やドレイン排水溝部材の裏側に浸透し、漏水する虞れがあった。
また、接合された継目が露出しているため、継目の溶接樹脂やシール剤が太陽光、温度変化、風雨などによって経時的に劣化し、防水性が低下して漏水する虞れもあった。
【0006】
本発明は上記事情の下になされたもので、その解決しようとする課題は、未熟な作業者でも接合不良を生じることなく床被覆材と水密的に接合でき、太陽光や風雨に曝される屋外の共通廊下やベランダの床下地に貼着施工しても、長期間に亘って優れた防水性を発揮できる、ドレイン排水溝部材と床被覆構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るドレイン排水溝部材は、ドレイン水を排水する凹溝部を備えた溝部材本体の左右両側面又はいずれか片側面に、下面が溝部材本体の下面と面一に連続する肉薄の舌縁部であって、その上に床被覆材の端縁部が重ねられて接合される接合用の上記舌縁部を、溝部材本体の全長に亘って外向きに形成したことを特徴とするものである。
【0008】
本発明のドレイン排水溝部材においては、舌縁部の厚みが舌縁部の先端に近づくほど漸減するように、舌縁部の上面を傾斜させることが好ましい。そして、舌縁部の上面又は下面に、隆起部を舌縁部の全長に亘って溝部材本体の側面と平行に形成することも好ましい。
【0009】
また、本発明に係る床被覆構造は、本発明に係る上記のドレイン排水溝部材と床被覆材とを隣接させて床下地に貼着した床被覆構造であって、ドレイン排水溝部材の舌縁部とその上に重ねた床被覆材の端縁部を貼着して接合したことを特徴とするものである。
【0010】
上記の床被覆構造においては、ドレイン排水溝部材と床被覆材との接合部分及びその両側近傍部分に対応する床下地の当該対応表面に、上記接合部分に沿って相互間隔をあけて並列する複数条の接着剤の凸条からなる凸条群を形成し、この接着剤の凸条群によって上記接合部分及びその両側近傍部分を床下地の当該対応表面に貼着することが好ましい。
【0011】
また、本発明に係るもう一つの床被覆構造は、ドレイン水を排水する凹溝部を備えた溝部材本体の下面に、肉薄で溝部材本体よりも広幅の帯状シートを設けて、溝部材本体の左右両側又はいずれか片側に突き出す肉薄の舌縁部を溝部材本体の全長に亘って形成したドレイン排水溝部材と、床被覆材とを隣接させて床下地に貼着した床被覆構造であって、ドレイン排水溝部材の舌縁部とその上に重ねた床被覆材の端縁部を貼着して接合したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のドレイン排水溝部材は、接合用の舌縁部の上面に貼着剤を塗布し、その上に床被覆材の端縁部を重ねて貼着するだけの簡単な作業で、ドレイン排水溝部材と床被覆材を接合できるので、未熟な作業者でも接合不良を生じることなく水密的に接合することが可能であり、しかも、舌縁部上面のほぼ全域に亘って広い範囲で床被覆材の端縁部が水密的に貼着、接合されるので、優れた防水性を発揮することができる。また、ドレイン排水溝部材の舌縁部と床被覆材の端縁部との接合界面は、床被覆材の端縁部で覆われて露出しないため、太陽光や風雨に曝される屋外の廊下やベランダの床下地に貼着施工しても、接合界面の経時的な劣化が抑制され、長期間に亘って優れた防水性を維持することができる。
【0013】
ところで、ドレイン排水溝部材の舌縁部の厚みが一定で上面が傾斜していない場合は、床被覆材の端縁部が舌縁部の先端部分で段状に曲がった状態で舌縁部の上面に重ねられて接合されることになるので、床被覆材が柔軟性に乏しいものであると、床被覆材の端縁部が弾性復元力で舌縁部から浮き上がって接合作業がし辛くなり、接合した後でも床被覆材の端縁部が舌縁部から剥離する虞れがある。けれども、本発明のドレイン排水溝部材において舌縁部の厚みが舌縁部の先端に近づくほど漸減するように舌縁部の上面を傾斜させたものは、床被覆材の端縁部が段状に殆ど曲がることなく傾斜して舌縁部の上面に貼着されるので、接合作業がし易くなり、剥離の虞れも大幅に軽減されることになる。
【0014】
また、本発明のドレイン排水溝部材において舌縁部の上面又は下面に隆起部を舌縁部の全長に亘って溝部材本体の側面と平行に形成したものは、舌縁部に重ねた床被覆材端縁部をその上から押圧して貼着、接合する際、舌縁部と床被覆材端縁部が隆起部のところで強く圧接されて密着し、この圧接、密着部分が舌縁部の全長に亘って形成されるため、水密性及び接合強度が一層向上することになる。そして、隆起部を舌縁部の上面に形成したものは、例えば溶剤系の貼着剤を用いて舌縁部と床被覆材端縁部を貼着するとき、隆起部が堰となって貼着剤が舌縁部の上面に溜るため、床被覆材端縁部を貼着し終えるまでに溶剤が揮散してしまうことがなく、また、舌縁部の長さ方向に貼着剤の部分的な塗布漏れがあったとしても、溜まった貼着剤が長さ方向に広がって塗布漏れ部分を補填することができるので、貼着の信頼性が向上し、優れた防水性を確保できるようになる。
【0015】
本発明の床被覆構造は、上述した本発明のドレイン排水溝部材と床被覆材とを隣接させて床下地に貼着すると共に、ドレイン排水溝部材の舌縁部とその上に重ねた床被覆材の端縁部を貼着して接合したものであるから、上述したように、未熟な作業者でも舌縁部と床被覆材端縁部を水密的に貼着、接合でき、太陽光や風雨に曝される屋外の廊下やベランダの床下地に施工しても、接合界面の経時的な劣化が抑制され、長期間に亘って優れた防水性を維持することができる。
【0016】
そして、本発明の床被覆構造において、ドレイン排水溝部材と床被覆材との接合部分及びその両側近傍部分に対応する床下地の当該対応表面に、上記接合部分に沿って相互間隔をあけて並列する複数条の接着剤の凸条からなる凸条群を形成し、この接着剤の凸条群によって上記接合部分及びその両側近傍部分を床下地の当該対応表面に貼着したものは、万一、舌縁部と床被覆材端縁部の接合部分から雨水等が浸入することがあったとしても、接着剤の凸条群の各凸条が堰となって浸入水が床被覆材と床下地間に広範囲に広がるのを防止することができる。
【0017】
また、本発明のもう一つの床被覆構造のように、溝部材本体の下面に肉薄で溝部材本体よりも広幅の帯状シートを設けて、溝部材本体の左右両側又はいずれか片側に突き出す肉薄の舌縁部を溝部材本体の全長に亘って形成したドレイン排水溝部材と、床被覆材とを隣接させて床下地に貼着すると共に、ドレイン排水溝部材の舌縁部とその上に重ねた床被覆材の端縁部を貼着して接合したものも、上述した本発明の床被覆構造と同様に、未熟な作業者でも舌縁部と床被覆材端縁部を水密的に貼着、接合でき、太陽光や風雨に曝される屋外の廊下やベランダの床下地に施工しても、接合界面の経時的な劣化が抑制され、長期間に亘って優れた防水性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のドレイン排水溝部材とその蓋部材の一実施形態を示す部分斜視図である。
【図2】同ドレイン排水溝部材の平面図である。
【図3】同ドレイン排水溝部材の部分拡大断面図である。
【図4】本発明のドレイン排水溝部材の他の実施形態を示す部分拡大断面図である。
【図5】本発明のドレイン排水溝部材の更に他の実施形態を示す部分拡大断面図である。
【図6】本発明の床被覆構造の一実施形態を示す平面図である。
【図7】図6のA−A線に沿った部分拡大断面図である。
【図8】本発明のもう一つの床被覆構造の一実施形態を示す部分拡大断面図である。
【図9】同床被覆構造に使用されるドレイン排水溝部材の断面図である。
【図10】櫛目ごての説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜図3に示すドレイン排水溝部材10は、溝部材本体1の左右両側面に接合用の舌縁部1a,1aを一体に形成したものであって、この溝部材本体1は、帯状の底板部1bの左右の側辺沿いに側堤部1c,1cを形成することにより、底板部1bと左右の側堤部1c,1cとで囲まれる空間を、ドレイン水を排水する凹溝部1dとしたものである。側堤部1c,1cの上面と外側面との角には、歩行者が躓きにくいように、また、台車などの車輪が乗り越えやすいように、斜めに面取り部1iが形成されている。そして、側堤部1c,1cの内側面の下部には側堤部全長に亘って凹部1e,1eが形成されており、これらの凹部1e,1eに蓋部材2の左右の凸部2a,2a(蓋部材2の左右両側板の下部から外側へ突設された凸部2a,2a)を嵌合させることによって、凹溝部1dを覆う蓋部材2が取付けられるようになっている。また、図示はしていないが、凹溝部1dの底面、つまり底板部1bの上面には、細くて浅い小溝が底板部全長に亘って複数条形成されており、ドレイン水が少量でもこれらの小溝をスムーズに流れて排水されるようになっている。
【0020】
溝部材本体1の左右両側面1f,1f、即ち、左右の側堤部1c,1cの外側面1f,1fには、下面が溝部材本体1の下面と面一に連続する肉薄の前記舌縁部1a,1aが、溝部材本体1の全長に亘って外向きに形成されている。この舌縁部1a,1aは、図7に示すように、その上面に床被覆材3の端縁部3aが重ねられ、貼着剤4で貼着されて接合される接合用の舌縁部であって、図3,図7に示すように、舌縁部1aの上面は、舌縁部1aの先端に近づくほど舌縁部1aの厚みが漸減するように傾斜した傾斜面となっている。
【0021】
図5に示すドレイン排水溝部材12のように、舌縁部1aの上面を傾斜させないで舌縁部1aの厚みを一定にしてもよいが、その場合は、床被覆材3の端縁部3aが舌縁部1aの先端部分で段状に曲がった状態で舌縁部1aの上面に重ねられて貼着、接合されることになるので、床被覆材3が柔軟性に劣るものであれば、床被覆材3の端縁部3aが図示のように弾性復元力で舌縁部1aから浮き上がって接合作業がし辛くなり、接合した後でも床被覆材3の端縁部3aが舌縁部1aから剥離する虞れが生じる。もっとも、床被覆材3が柔軟性に富むものであれば、そのような虞れは殆ど生じない。
【0022】
これに対し、図3,図7に示すドレイン排水溝部材10のように、舌縁部1aの上面が傾斜して舌縁部1aの厚みが舌縁部1aの先端に近づくほど薄くなっていると、図7に示すように床被覆材3の端縁部3aが段状に殆ど曲がることなく傾斜して舌縁部1aの上面に貼着されるので、床被覆材3が柔軟性に劣るものであっても、接合作業がし易くなり、剥離の虞れも大幅に軽減されるという利点がある。
【0023】
このドレイン排水溝部材10の舌縁部1aの上面には、図1〜図3に示すように、小さい隆起部1gが舌縁部1aの全長に亘って溝部材本体1の側面1f(側堤部1cの外側面1f)と平行に形成されている。このような隆起部1gが形成されていると、舌縁部1aに重ねた床被覆材3の端縁部3aをその上から押圧して貼着、接合する際、舌縁部1aと床被覆材端縁部3aが隆起部1gのところで強く圧接されて密着し、この圧接、密着部分が舌縁部1aの全長に亘って形成されるため、水密性及び接合強度が一層向上する利点がある。また、溶剤系の貼着剤を用いて舌縁部1aと床被覆材端縁部3aを貼着する場合は、隆起部1gが堰となって溶剤系貼着剤が舌縁部1aの上面に溜るため、床被覆材端縁部3aを貼着し終えるまでに溶剤が揮散してしまう心配がなく、たとえ舌縁部1aの長さ方向に溶剤系貼着剤の部分的な塗布漏れがあった場合でも、溜まった溶剤系貼着剤が長さ方向に広がって塗布漏れ部分を補填することができるので、貼着の信頼性が向上し、優れた防水性を確保できるようになる。また、隆起部1gを溶解ないし膨潤する溶剤系の貼着剤を用いると、貼着剤で半溶解ないし膨潤した隆起部1gが、貼着時の圧接により略平坦になるため、床被覆材端縁部3aの表面に隆起部1gが反映して膨らみが生じ難くなる。
【0024】
上記の隆起部1gは舌縁部1aの上面に互いに平行に複数形成してもよく、また、舌縁部1aの下面に形成してもよい。隆起部1gを複数形成する場合は、舌縁部1aと床被覆材端縁部3aとの強く圧接、密着する箇所が増えるので、水密性及び接合強度がより一層向上する利点がある。また、隆起部1gを舌縁部1aの下面に形成する場合は、溶剤系貼着剤を溜めたり塗布漏れ部分を補填して貼着の信頼性を向上させることはできないが、隆起部1gを形成した箇所で舌縁部1aと床被覆材端縁部3aを強く圧接、密着させて水密性及び接合強度を高めることができるので有効である。隆起部1gを舌縁部1aの上下いずれの表面に形成する場合も、隆起部1fの位置は、舌縁部1aの突出方向(幅方向)の略中央もしくは少し先端寄りの位置とすることが好ましい。
【0025】
なお、積極的に溶剤系貼着剤を溜めたり塗布漏れ部分を補填させるため、図4に示すドレイン排水溝部材11のように、舌縁部1aの隆起部1gより基端側の上面に、貼着剤溜まりとなる凹条1hを絶縁部1aの全長に亘って形成したり、舌縁部1aの隆起部1gより先端側の上面に、同様の凹条(不図示)を形成してもよい。
【0026】
図4,図5に示すドレイン排水溝部材11,12は、既述したように、舌縁部1aの構成がドレイン排水溝部材10のそれと異なるだけであり、溝部材本体1の構成は同様である。従って、図4,図5において、溝部材本体1の対応部分に対応する符号を付し、溝部材本体1の説明は省略する。
【0027】
上記のドレイン排水溝部材10,11,12や蓋部材2の材質は、熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、その中でも軟質塩化ビニル樹脂などが好ましく使用される。
【0028】
また、上記のドレイン排水溝部材10,11,12や蓋部材2の各部の寸法も特に限定されないが、好適な寸法を例示すると、溝部材本体1の幅は60〜80mm程度、底板部1bの厚さは1〜3mm程度、側堤部1cの高さ(凹溝部1dの深さ)は2〜5mm程度、側堤部1cの相互間隔(凹溝部1dの幅)は40〜50mm程度、蓋部材2の幅(天板部分の幅)は40〜50mm程度、蓋部材2の高さは2〜5mm程度、蓋部材2の厚さは1〜3mm程度である。
【0029】
そして、ドレイン排水溝部材10の舌縁部1aの幅Wは5〜30mm程度(実施形態では10mm)、舌縁部1aの基端部の厚みTは0.5〜3mm程度(実施形態では1mm)、舌縁部1aの先端部の厚みtは0.1〜2mm程度(実施形態では0.5mm)、隆起部1gの幅wは0.1〜1mm程度(実施形態では0.3mm)、隆起部1gの高さは0.1〜1mm程度(実施形態では0.3mm)である。また、ドレイン排水溝部材11の舌縁部1aの凹条1hを除いた各部の寸法は、ドレイン排水溝部材11の舌縁部1aの各部の寸法と同様であり、凹条1hの幅は0.5〜3mm程度(実施形態では1mm)、深さは0.2〜1mm程度(実施形態では0.5mm)である。また、ドレイン排水溝部材12の舌縁部1aの厚みは0.5〜3mm程度、幅は5〜30mm程度である。上記した隆起部1gや凹条1hは、小さな寸法であるため、前述した貼着剤の溜り効果等が見込めないようにも思われるが、貼着剤の表面張力により効果的に貼着剤の溜りを形成し、揮散防止になるとともに、塗布漏れ部分の補填もできる。このような作用は、貼着剤として、樹脂を溶解させたことによって比較的流動性が低く、表面張力も大きいドープセメント(後述)を用いることで、さらに効果的となる。
【0030】
なお、溝部材本体1の側面1f(側堤部1cの外側面1f)の高さは、床被覆材3の厚みと略同じ1〜5mm程度(実施形態では2mm)であることが好ましい。側面1fの高さを床被覆材3の厚みと同じにすると、後述するように、側面1fと床被覆材端縁部3aの端面との隙間にシール剤6や溶融樹脂を充填して防水性を高めると同時に、床被覆材端縁部3aの上面と側堤部1cの斜めの面取り部1iを段差なく連続させて接合部分を綺麗に仕上げることができる。
【0031】
上記のドレイン排水溝部材10,11,12は、両側に床被覆材3,3を接合できるように、溝部材本体1の左右両側面1f,1fに接合用の舌縁部1a,1aを形成しているが、片側に床被覆材3を接合するだけでよい場合は、溝部材本体1の左右いずれか片側面に舌縁部1aを形成すればよい。
【0032】
以上のドレイン排水溝部材10,11,12のように、接合用の舌縁部1aが溝部材本体1の側面1fに形成されていると、接合用の舌縁部1aの上面に貼着剤を塗布し、その上に床被覆材3の端縁部3aを重ねて貼着するだけの簡単な作業で、ドレイン排水溝部材10,11,12と床被覆材3とを接合できるので、比較的未熟な作業者でも接合不良を生じることなく水密的に接合することが可能となり、しかも、舌縁部1aの上面のほぼ全域に亘って広い範囲で床被覆材3の端縁部3aが水密的に貼着、接合されるので、優れた防水性を発揮することができる。また、ドレイン排水溝部材10,11,12の舌縁部1aと床被覆材3の端縁部3aとの接合界面は、床被覆材3の端縁部3aで覆われて露出しないため、太陽光や風雨に曝される屋外の廊下やベランダの床下地に貼着施工しても、接合界面の経時的な劣化が抑制され、長期間に亘って優れた防水性を維持することができる
【0033】
図6は本発明の床被覆構造の一実施形態を示す平面図、図7は図6のA−A線に沿った部分拡大断面図である。この図6,図7に示す床被覆構造は、前記のドレイン排水溝部材10とその両側に床被覆材3を隣接させて床用接着剤で共通廊下のコンクリート製の床下地5に貼着したものであって、貼着剤4を塗布した舌縁部1aの上面には床被覆材3の端縁部3aが重ねられて水密的に貼着、接合されており、既述したように優れた防水性が付与されている。そして、ドレイン排水溝部材10の溝部材本体1の側面1fと床被覆材端縁部3aの端面との隙間にはシール剤6が充填され、防水性が更に高められると共に、接合部分が綺麗に仕上げられている。また、ドレイン排水溝部材10の凹溝部1dには、蓋部材2が被着されると共に、ドレインホース接続具20が取付けられており、このドレインホース接続具20の接続口20aに空調機のドレインホース(不図示)を差込み接続すると、空調機から排出されたドレイン水がドレイン排水溝部材10の凹溝部1dを流れて、共通廊下の側溝5aへ排水されるようになっている。
【0034】
図7に示すように、ドレイン排水溝部材10と床被覆材3との接合部分(床被覆材端縁部3aが接合された舌縁部1a)及びその両側近傍部分に対応する床下地5の当該対応表面には、上記接合部分(舌縁部1a)に沿って相互間隔をあけて並列する直線的な複数条の床用接着剤の凸条7からなる凸条群が形成されており、この接着剤の凸条群によって上記接合部分及びその両側近傍部分が床下地5の当該対応表面に貼着されている。この複数条の床用接着剤の凸条7からなる凸条群は、図10に示すような櫛目ごて8を用いて、床下地5の当該対応表面に床用接着剤を上記接合部分(舌縁部1a)に沿って真っ直ぐに塗布することにより形成されたものである。
【0035】
尚、床下地5の当該対応表面以外の表面にも、上記櫛目ごて8によって複数条の接着剤の凸条からなる凸条群が形成され、この凸条群によって床被覆材3が床下地5に貼着されているが、この凸条群はその方向が自由な曲線状の凸条からなるものであり、床下地5の当該対応表面に形成される前記凸条群のように、接合部分(舌縁部1a)に沿って相互間隔をあけて並列する直線的な複数条の床用接着剤の凸条7からなるものではない。
【0036】
上記のように、ドレイン排水溝部材10と床被覆材3との接合部分及びその両側近傍部分に対応する床下地5の当該対応表面に、上記接合部分に沿って相互間隔をあけて並列する直線的な複数条の接着剤の凸条7からなる凸条群が形成され、この接着剤の凸条群によって上記接合部分及びその両側近傍部分が床下地5の当該対応表面に貼着されていると、万一、舌縁部1aと床被覆材端縁部3aの接合部分から雨水等が浸入することがあったとしても、接着剤の凸条群の各凸条7が堰となって浸入水が床被覆材3と床下地5の間に広範囲に広がるのを防止できる利点がある。その場合、床下地5の当該対応表面に予め帯状防水シートを敷設し、この帯状防水シートの表面に接着剤の凸条群を形成するようにすれば、二重に防水されるため、雨水の浸入を完全に阻止することが可能となる。
【0037】
床用接着剤の凸条群は、ドレイン排水溝部材10と床被覆材3の接合部分及びその両側近傍部分を重ねて貼着する前の凸条7の高さが0.5〜5mm(本実施形態では2mm程度)、凸条7の幅が0.5〜5mm(本実施形態では2mm程度)、凸条7の相互間隔が0.5〜6mm(本実施形態では3mm程度)となるように形成することが望ましく、このような寸法で形成すると、貼着時に圧迫されて、最終的に、凸条7の高さが0.1〜3mm(本実施形態では0.5mm程度)、凸条7の幅が0.5〜5mm(本実施形態では3mm程度)、凸条7の相互間隔が0.5〜6mm(本実施形態では3mm程度)となり、各凸条7が雨水等の浸透、拡散を堰き止める止水壁の役目を十分果たせるようになる。従って、本実施形態の凸条群を形成する櫛目ごて8は、図10に示すように逆V形の櫛目8aを間隔をあけて横一列に形成し、逆V形の櫛目8aの高さaを2mm、幅cを2mm、櫛目の相互間隔bを3mmに設定したものが使用される。
【0038】
なお、床下地5の当該対応表面以外の表面に床用接着剤を塗布して自由な曲線状の凸条群を形成する場合も、上記の櫛目ごてが使用される。
【0039】
本発明の床被覆構造が施工される床下地5は、前述したコンクリート製の床下地5に限定されるものではなく、モルタル製の床下地など、建築物に採用される一般的な床下地がいずれも適用可能である。また、床被覆材3としては、バルコニー、ベランダ、廊下などに敷設される外装用の軟質塩化ビニル樹脂製やオレフィン樹脂製の床シートが好適に使用され、かかる床シートは長尺シート状のものでも、タイル状のものでもよい。
【0040】
床被覆材3やドレイン排水溝部材10を床下地5に貼着する床用接着剤(凸条群を形成するように櫛目ごてで塗布される床用接着剤)としては、ウレタン系、エポキシ系、アクリル系、変成シリコーン系などの硬化型の床用接着剤が使用され、特に、耐水性に優れたウレタン系やエポキシ系(2液混合型でも水分硬化型等の1液型でもよい)が好ましく使用される。また、ゴム系の床用接着剤等も使用される。
【0041】
一方、ドレイン排水溝部材10の舌縁部1aと床被覆材3の端縁部を貼着する貼着剤4としては、テトラヒドロフラン(THF)、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサンなどのいずれか単独又はこれらの混合物からなる所謂「シーム液」(前記溶剤の単独又は混合物に塩化ビニル樹脂などの可溶性樹脂を10質量%以下の割合で添加したものも含む)、或いは、前記溶剤の単独又は混合物に塩化ビニル樹脂などの可溶性樹脂を10(10を含まない)〜50質量%程度溶解した所謂「ドープセメント」、或いは、変成シリコーン系やウレタン系の公知の接着剤などが使用される。このような貼着剤4は、粘度が低い場合は舌縁部1aの上面に刷毛塗りしたり、洗浄瓶から注出して塗布すればよく、粘度が高い場合はコテなどで塗り拡げればよい。
【0042】
また、ドレイン排水溝部材10の溝部材本体1の側面1fと床被覆材3の端縁部3aの端面との隙間に充填するシール剤6としては、エポキシ系、ウレタン系、シリコーン系、変成シリコーン系などのシール剤が使用される。この隙間は樹脂溶接棒で溶接してもよく、その場合は、ドレイン排水溝部材10や床被覆材3との融着性の良い熱可塑性樹脂の溶接棒が使用される。さらに、前述のドープセメントやシーム液を充填してもよく、シーム液を用いる場合は、側面1fと床被覆材3の端縁部3aの端面との隙間を0.5mm以下とすることが望ましい。
【0043】
以上のような床被覆構造は、ドレイン排水溝部材10と床被覆材3との接合部分の水密性が優れており、太陽光や風雨に曝される屋外の廊下やベランダの床下地に施工しても、接合界面の経時的な劣化が抑制され、長期間に亘って優れた防水性を維持することができる。
【0044】
図8は本発明のもう一つの床被覆構造の一実施形態を示す部分拡大断面図、図9は同床被覆構造に用いるドレイン排水溝部材13の断面図である。この床被覆構造に用いるドレイン排水溝部材13は、溝部材本体1の下面に、肉薄で溝部材本体1よりも広幅の帯状シート1jを設けて、溝部材本体1の左右両側に突き出す肉薄の舌縁部1a,1aを溝部材本体1の全長に亘って形成したものであり、溝部材本体1は前述した溝部材本体1と同じものである。
【0045】
帯状シート1jは溝部材本体1と同種又は相溶性のある熱可塑性樹脂からなるシートであって、その厚みが0.2〜2mm程度(実施形態では0.5mm)のものが好ましく使用される。帯状シート1jの幅は特に限定されないが、溝部材本体1の下面に設けたときに、溝部材本体1の左右両側又はいずれか片側に5〜30mm程度の舌縁部1aが形成されるようなシート幅の帯状シート1jであることが好ましい。また、この帯状シート1jの舌縁部1aとなる側縁部は、その厚みが側端(先端)に近づくほど漸減するように、側縁部の上面を傾斜させることが好ましく、更に、この舌縁部1aとなる側縁部の上面又は下面に、前述した隆起部1gを全長に亘って溝部材本体1の側面と平行に形成することも好ましい。そして、場合によっては、この舌縁部1aとなる側縁部の上面に、前述した溶剤系貼着剤を溜める凹条1hを形成することも好ましい。
【0046】
図8に示す床被覆構造は、上記のドレイン排水溝部材13と床被覆材3とを隣接させて床下地5に床用接着剤で貼着すると共に、貼着剤4を塗布したドレイン排水溝部材13の舌縁部1aの上に床被覆材3の端縁部3aを重ねて水密的に貼着、接合したものであって、この接合部分及びその両側近傍部分に対応する床下地5の当該対応表面には、接合部分に沿って相互間隔をあけて並列する前述した複数条の床用接着剤の凸条7からなる凸条群が形成されており、この接着剤の凸条群によって上記接合部分とその両側近傍部分が床下地5の当該対応表面に貼着されている。従って、この図8に示す床被覆構造も、前述した図6,図7の床被覆構造と同様に、ドレイン排水溝部材13と床被覆材3との接合部分の水密性が優れており、太陽光や風雨に曝される屋外の廊下やベランダ等の床下地に施工しても、接合界面の経時的な劣化が抑制され、長期間に亘って優れた防水性を維持することができる。
【0047】
尚、ドレイン排水溝部材13の帯状シート1jは、予め溝部材本体1の下面に貼着剤等で貼着一体化してもよいが、床被覆構造を施工する途中で、貼着剤等を塗布した帯状シート1jの上に溝部際本体1を重ねて貼着一体化してもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 溝部材本体
1a 舌縁部1a
1b 底板部
1c 側堤部
1d 凹溝部
1f 溝部材本体の側面(側堤部の外側面)
1g 隆起部
1h 凹条
1j 帯状シート
2 蓋部材
3 床被覆材
3a 床被覆材の端縁部
4 貼着剤
5 床下地
6 シール剤
7 接着剤
10,11,12,13 ドレイン排水溝部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドレイン水を排水する凹溝部を備えた溝部材本体の左右両側面又はいずれか片側面に、下面が溝部材本体の下面と面一に連続する肉薄の舌縁部であって、その上に床被覆材の端縁部が重ねられて接合される接合用の上記舌縁部を、溝部材本体の全長に亘って外向きに形成したことを特徴とするドレイン排水溝部材。
【請求項2】
舌縁部の厚みが舌縁部の先端に近づくほど漸減するように、舌縁部の上面を傾斜させたことを特徴とする請求項1に記載のドレイン排水溝部材。
【請求項3】
舌縁部の上面又は下面に、隆起部を舌縁部の全長に亘って溝部材本体の側面と平行に形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のドレイン排水溝部材。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のドレイン排水溝部材と床被覆材とを隣接させて床下地に貼着した床被覆構造であって、ドレイン排水溝部材の舌縁部とその上に重ねた床被覆材の端縁部を貼着して接合したことを特徴とする床被覆構造。
【請求項5】
ドレイン排水溝部材と床被覆材との接合部分及びその両側近傍部分に対応する床下地の当該対応表面に、上記接合部分に沿って相互間隔をあけて並列する複数条の接着剤の凸条からなる凸条群を形成し、この接着剤の凸条群によって上記接合部分及びその両側近傍部分を床下地の当該対応表面に貼着したことを特徴とする請求項4に記載の床被覆構造。
【請求項6】
ドレイン水を排水する凹溝部を備えた溝部材本体の下面に、肉薄で溝部材本体よりも広幅の帯状シートを設けて、溝部材本体の左右両側又はいずれか片側に突き出す肉薄の舌縁部を溝部材本体の全長に亘って形成したドレイン排水溝部材と、床被覆材とを隣接させて床下地に貼着した床被覆構造であって、ドレイン排水溝部材の舌縁部とその上に重ねた床被覆材の端縁部を貼着して接合したことを特徴とする床被覆構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−236646(P2011−236646A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109139(P2010−109139)
【出願日】平成22年5月11日(2010.5.11)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】