説明

ドープ調製方法及び装置並びに溶液製膜方法

【課題】ポリマーと溶媒とからドープを調製する際、ドープ濃度や粘度を安定化させる。
【解決手段】溶媒30を少なくとも複数回に分けて、攪拌タンク21に投入する。第1回目の溶媒投入後に、第1投入速度でポリマー40を連続的に投入する。タンク本体21aの内圧を測定し、内圧が設定値を超えたときに、ポリマー投入速度を、現状の投入速度よりも低い投入速度に切り替える。内圧が一定値を超えることがなく、タンク本体21a内で、ポリマー40が乱舞することがなくなる。ポリマー40の投入完了後に、コンデンサ26を介して残りの溶媒30をタンク本体21aに投入する。コンデンサ26を経て溶媒30が投入されることにより、コンデンサ26内に侵入したポリマー40が洗い流され、タンク本体21a内に戻される。ポリマー40の内壁付着やコンデンサ26への侵入が抑えられ、ドープ濃度や粘度が安定化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーを溶媒に溶解させたドープを調製するドープ調製方法及び装置並びに溶液製膜方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステル、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下「TAC」という)から形成されるTACフィルムは、光学等方性に優れていることから、近年市場が拡大している液晶表示装置の偏光板の保護フィルム等に用いられている。
【0003】
TACフィルムの製造方法としては、例えば特許文献1に記載されているように、溶液製膜方法が良く知られている。溶液製膜方法は、溶融製膜方法などの他の製造方法と比較して、光学的性質などの物性に優れたフィルムを製造することができる。溶液製膜方法では、まずジクロロメタン(メチレンクロライド)や酢酸メチルを主溶媒とする混合溶媒に、ポリマー及び、紫外線吸収剤(UV剤)、マット剤、レタデーション制御剤、可塑剤等の各種添加剤を混合してドープを調製する。次いで、ドープを流延ダイより支持体上に流延して流延膜を形成する。そして、流延膜が支持体上で自己支持性を有するものとなった後に、支持体から流延膜を湿潤フィルムとして剥ぎ取り、乾燥させた後に製品フィルムとしてロール形態に巻き取る。
【特許文献1】特開2005−104148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ポリマー原料として吸湿性がある場合には、環境条件によって吸湿してしまうことがある。このため、吸湿によるポリマー原料中の水分量の増加を抑えるために、仕込みタンク(攪拌タンク)にポリマー原料を投入する前に、ポリマー原料を加熱処理して乾燥させ、吸湿による水分量の増加を抑えている。
【0005】
また、ポリマーフィルムを効率良く生産するために、近年、製膜速度が上げられている。この製膜速度の上昇に伴い、攪拌タンクにおける仕込みのバッチ間隔が狭くなってきている。このため、従来は、綿やチップなどのポリマー原料の粉体温度が下がってから投入可能であったものが、温度が下がる前に仕込みを開始せざる得ない状況となってきている。
【0006】
例えば、粉体やチップなどのポリマー原料を50℃以上の高温の状態で攪拌タンクに投入し、有機溶媒や添加剤と混合させ、ドープを調製する場合には、加熱されたポリマー原料によって攪拌タンク内の温度が上昇し、タンク内の圧力が上昇する。この加圧された状態で、さらにポリマー原料を連続的に投入してしまうと、粉体の投入が不規則になり、攪拌タンク内で粉体やチップ等のポリマー原料が乱舞し、これらがタンク壁へ付着したりする。さらに、攪拌タンク内の内圧を一定に保持し、溶媒を凝集回収するために、攪拌タンクに接続されているコンデンサ内にも、乱舞した粉体などのポリマーが侵入する。このため、壁面への付着やコンデンサ内への侵入などによって、予定していた投入粉体量が減少してしまうこともあり、仕込み溶液の濃度や粘度が安定しなくなってしまうという問題がある。
【0007】
本発明は上記課題を解決するためのものであり、ドープ濃度や粘度を安定化させることができるドープ調製方法及び装置並びに溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、溶媒をタンク本体に投入する溶媒投入工程と、前記溶媒が投入されたタンク本体に対し、ポリマーを連続的に投入するポリマー初期投入工程と、前記タンク本体の内圧を測定し、測定した内圧が設定値を超えたときに、現在の投入速度よりも低い投入速度として、前記ポリマーを連続的に投入するポリマー減量投入工程と、投入された前記ポリマーを攪拌部材により溶媒中で混合させる混合処理工程とを有することを特徴とする。また、本発明は、前記設定値がポリマー乱舞限界値であることを特徴とする。さらに、本発明は、前記ポリマー乱舞限界値が1kPaであることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、前記減量投入工程では、新たな投入速度を、現行の投入速度の半分以下にして、内圧を効果的に下げることを特徴とする。さらに、本発明は、前記ポリマーの温度を前記タンク本体の内部温度よりも高くして、前記各投入工程を行うことを特徴とする。これにより、加熱処理したポリマー原料を冷却することなく仕込むことができるので、効率のよい仕込みが可能になる。そして、前記ポリマーの温度は前記タンク本体の内部温度をT1としたときに、T1+20℃以上T1+100℃以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明は、前記溶媒投入工程では、前記溶媒を少なくとも2回に分けて投入し、2回目以降の投入は前記減量投入工程中または前記減量投入工程後に行うことを特徴とする。また、本発明は、前記タンク本体に接続されているコンデンサにより、タンク本体からの溶媒を凝縮して回収する溶媒回収工程を有し、前記コンデンサを経由して前記2回目以降の溶媒を投入することを特徴とする。また、前記ポリマーがセルローストリアセテートの粉末、またはセルローストリアセテートを原料とするフィルムの小片からなるチップであり、前記溶媒はジクロロメタンを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の溶液製膜方法は、請求項1から7いずれか1項記載のドープ調製方法によりドープを調製するドープ調製工程と、前記ドープを流延ダイにより支持体上に流延し、前記支持体上に流延膜を形成する流延工程と、前記流延膜に自己支持性を付与して前記流延膜を前記支持体から湿潤フィルムとして剥がす剥ぎ取り工程と、前記湿潤フィルムを乾燥させる乾燥工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明のドープ調製装置は、溶媒及びポリマーが投入されるタンク本体と、前記溶媒を計量して前記タンク本体に投入する溶媒投入部と、前記ポリマーの投入速度が変更可能なポリマー投入部と、前記タンク本体内に設けられ、前記溶媒及び前記ポリマーを混合させる攪拌部材と、前記タンク本体内の圧力を測定し、この測定圧力が設定値を超えたときに現行投入速度よりも低い減量投入速度に切り替える制御部とを備えることを特徴とする。
【0013】
本発明は、前記設定値がポリマー乱舞限界値であることを特徴とする。本発明は、前記ポリマー乱舞限界値が1kPaであることを特徴とする。また、前記ポリマー投入部は、前記ポリマーの温度を前記タンク本体の内部温度よりも高くする加熱部を有することを特徴とする。前記ポリマーの温度は前記タンク本体の内部温度をT1としたときに、T1+20℃以上T1+100℃以下であることを特徴とする。また、前記溶媒投入部は、前記溶媒を少なくとも2回に分けて投入し、2回目以降の投入は前記ポリマー投入部によるポリマーの投入中または投入後に行うことが好ましい。また、前記タンク本体に接続されており、前記タンク本体からの溶媒を凝縮して回収するコンデンサを備え、前記溶媒投入部は、前記コンデンサを経由して前記2回目以降の溶媒を投入することを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に示すように、溶液製膜設備10は、ドープ調製装置11、流延装置12、乾燥装置13及び巻き取り装置14を有している。
【0015】
ドープ調製装置11は、攪拌部15、溶解部16、濾過部17、貯留部18、及び添加剤直前添加部19を有している。攪拌部15は、攪拌タンク21、貯留タンク22、溶媒投入部23、ポリマー投入部24、添加剤投入部25、コンデンサ26、ポンプ27,28、コントローラ29を有している。
【0016】
攪拌タンク21は、タンク本体21a、攪拌羽根21b、攪拌モータ21c、及びジャケット21dを有する。コンデンサ26は攪拌タンク21に接続されている。コンデンサ26は、攪拌タンク21で蒸発した溶媒を凝縮し、これを回収する。回収された溶媒は、ドープ調製などに再利用される。
【0017】
溶媒投入部23は、溶媒30が入れられた溶媒タンク31と、計量ポンプ32と、三方切替弁33とを備えており、溶媒30を所定量分だけ計量ポンプ32により攪拌タンク21に送ることができる。三方切替弁33は、溶媒30を直接に攪拌タンク21に送る配管34と、コンデンサ26を介して溶媒30を攪拌タンク21に送る配管35とに選択的に切り替える。
【0018】
ポリマー投入部24は、粉末状のポリマー40が入れられた第1ポリマーサイロ42及び第1送り出し機43と、チップ状ポリマー45が入れられた第2ポリマーサイロ46及び第2送り出し機47を備えている。各送り出し機43,47は、ポリマー40,45を連続的に送り出す。この送り出し機43,47は計量機能を備えており、ポリマー40,45の送り出し量を計量することができる。また、ポリマー投入部24は、図示は省略したが、加熱器を備えている。加熱器は、例えば乾燥風を送風することにより、ポリマー40,45を所定の温度、例えば80℃に加熱し、ポリマー40,45に含まれる水分量を乾燥により所定範囲以下、例えば2%以下にする。これにより、ドープ調製時の水分量を所定範囲内に制御することができる。なお、ポリマー40,45の温度は前記タンク本体21aの内部温度をT1としたときに、T1+20℃以上T1+100℃以下であることが好ましい。T1+20℃以上とすることにより、ポリマーが膨張しやすく溶解しやすくなる。また、T1+100℃以下とすることにより、ポリマー自体の分解を抑制することができ、品質を維持することができる。
【0019】
添加剤投入部25は、各種添加剤が混合された添加剤液50を収納する添加剤タンク51と計量ポンプ52とを備えており、添加剤液50を所定量分だけ計量ポンプ52により攪拌タンク21に送ることができる。
【0020】
本発明に係るポリマー40,45は特に限定されず、溶液製膜方法に適用可能であれば良い。この中で、セルロースアシレートを使用すれば、透明度が高く、光学特性に優れたフィルムを得ることができるので、偏光板用の保護フィルムや光学補償フィルム等の光学用途として好適である。中でも、セルロースアセテートを使用し、特にアセチル化度の平均値が57.5%〜62.5%のセルローストリアセテートを使用すれば、光学特性に優れたフィルムを得ることができる。上記のアセチル化度とは、セルロース単位重量当りの結合酢酸量を意味し、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定および計算に従って求めることができる。
【0021】
なお、粉末状のTACを使用する場合には、溶媒との相溶性の観点から、その90重量%以上が0.1〜4mmの粒径であることが好ましく、より好ましくは粒径が1〜4mmである。また、フィルム小片からなるTACチップを使用する場合には、同じく溶媒との相溶性の観点から、平均サイズが5mm以上100mm以下のものを使用することが好ましく、より好ましくは10mm以上50mm以下のものがよく、特に好ましくは15mm以上20mm以下のものがよい。
【0022】
溶媒30は、ハロゲン化炭化水素、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類等が好適であるが特に限定されず、使用するポリマーとの溶解性等を考慮して適宜選択すれば良い。溶媒30は1種類の化合物であっても良いし、複数の化合物を混合した混合溶媒でも良い。具体的には、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン等)、エステル類(例えば、酢酸メチル、メチルホルメート、エチルアセテート、アミルアセテート、ブチルアセテート等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等)、エーテル類(例えば、ジオキサン、ジオキソラン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル等)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール等)等が挙げられる。なお、溶媒30は新規製品の他に、溶液製膜設備の洗浄などに用いたリサイクル液を用いてもよい。
【0023】
各投入部23〜25から攪拌タンク21内に投入された溶媒30、ポリマー40(またはポリマー45)、及び添加剤液50は、攪拌羽根21bにより攪拌される。攪拌羽根21bは攪拌モータ21cによって回転される。この攪拌によって、ポリマー40などの溶質が溶媒30には完全には溶けていない粗溶解液55が得られる。ジャケット21dはタンク本体21a内の粗溶解液55を所定の温度範囲に維持する。なお、攪拌羽根21bの形状や攪拌方法は特に限定されず、効率良く攪拌することができるものであればよい。
【0024】
攪拌タンク21内の粗溶液液55は、ポンプ27により貯留タンク22に送られて一旦貯留される。これにより攪拌タンク21は空になり、粗溶解液55を繰り返し形成する連続バッチ式が可能になる。貯留タンク22は、タンク本体22a、攪拌羽根22b、攪拌モータ22c、及びジャケット22dを有し、粗溶解液55の貯留と攪拌とを行う。この攪拌により粗溶解液55が攪拌され、均一にされる。
【0025】
貯留タンク22内の粗溶解液55はポンプ28を介して、溶解部16の第1加熱器61に送られる。第1加熱器61は、多管式熱交換器や静止型混合器などのインラインミキサが用いられる。この第1加熱器61により粗溶解液55が加熱される。加熱温度は50〜120℃が好ましく、加熱時間は5〜30分が好ましい。この加熱により、溶液製膜に必要なポリマー40などの溶質は変性することなく完全に溶解し、原料ドープ62が調製される。このようにして調製される原料ドープ62は、セルロースエステルの固形分濃度として14〜24重量%にされる。
【0026】
第1加熱器61により加熱された原料ドープ62は、冷却器63に送られる。冷却器63によって原料ドープ62を構成する主要溶媒の沸点以下にまで冷却される。冷却された原料ドープ62はポンプ64により濾過部17に送られる。
【0027】
濾過部17は、図示は省略したが、切り替えて使用するための複数のフィルタ本体やこれらフィルタ本体の洗浄装置などを備えており、一方で濾過を行いつつ、他方でフィルタ本体の洗浄・交換を行う。これにより、原料ドープ62の連続濾過を可能にしている。濾過方式は特に限定されない。濾過後の原料ドープ62は貯留タンクからなる貯留部18に貯留される。なお、必要に応じて、貯留部18の前に図示省略の濃縮部を設け、この濃縮部で例えばフラッシュ濃縮によりセルロースエステルの固形分濃度を高めてもよい。濃縮部は、例えば、ドープを加熱する加熱器と、フラッシュ濃縮を行うフラッシュタンクとが用いられる。
【0028】
貯留部18に貯留された原料ドープ62は添加剤直前添加部19に送られる。添加剤直前添加部19は、図示は省略したが、添加剤液供給部、添加ノズル、スタティックミキサ、及び濾過器を備えており、原料ドープ62中に添加ノズルを介して各品種に必要な添加剤液を添加する。この流延ダイの直前で添加する添加剤は、少量添加のものや、初期段階で添加すると固まりとなって異物になってしまうものが好ましく用いられる。スタティックミキサは添加剤液を原料ドープ62に均一に分散させて、流延ドープ68を調製する。
【0029】
なお、添加剤直前添加部19で添加剤を添加する代わりに、攪拌タンク21で必要な添加剤液を全て混合してもよく、この場合には添加剤の流延ダイ直前添加は省略してもよい。また、攪拌タンク21では、添加剤を添加することなく、この添加剤直前添加部19により必要な添加剤を添加してもよい。
【0030】
流延装置12は、流延ダイ70と、バックアップローラ71と、バンド72とを有している。また、乾燥装置13は、テンタ75とローラ乾燥機76とを有しており、巻き取り装置14には、カッタ77及び巻き取り部78とを備えている。なお、溶液製膜設備10には、支持用あるいは搬送用のローラ79が必要に応じて適宜備えられ、このローラ79がフィルム80を支持、あるいは搬送する。図1においては、煩雑さを避けるために、用いたローラのうち、一部のみを図示している。
【0031】
流延ドープ68は、バックアップローラ71により支持されて連続走行されるバンド72上に、流延ダイ70から流延される。バックアップローラ71には駆動制御手段(図示せず)が備えられており、この駆動制御手段によりバックアップローラ71の回転数が制御されて、バンド72は所定速度で搬送される。流延された流延ドープ68はバンド72上で流延膜となり、この流延膜は、バンド72上で走行する間に例えば乾燥により自己支持性をもつようになる。支持体としては、バンド72に代えてドラムを使用することもあり、また、自己支持性の付与も乾燥の他に冷却ゲル化によるものもあるが、本実施形態において図示は省略する。
【0032】
自己支持性をもった流延膜は、フィルム80としてローラにより剥ぎ取られてさらに下流の工程へ搬送される。剥ぎ取られたフィルム80は、テンタ75に送られ、ここで、幅を規制され、かつ、延伸されながら乾燥される。テンタ75では、複数備えられたテンタクリップ(図示せず)が、フィルム80の両側端部を保持しながらテンタ軌道(図示せず)に従って走行し、このテンタクリップの走行によりフィルム80は搬送される。テンタクリップの代わりにピンクリップ等を用いる場合もある。そして、テンタクリップは、コントローラ(図示せず)により開閉を自動制御され、この開閉によりフィルム80の保持と保持解除とを制御する。フィルム80を保持したテンタクリップは、テンタ75の内部で走行し、その出口付近の所定の保持解除点に到達するとクリップを開放してフィルム80の保持を解除するように自動制御される。
【0033】
テンタ75のフィルム80は、支持あるいは搬送用のローラ79により次工程であるローラ乾燥機76へ送られて、ここで複数のローラ76aにより支持あるいは搬送されながら十分に乾燥される。十分に乾燥された後のフィルム80は、カッタ77により両側端部を切断除去され、製品として巻き取り部78で巻き取られる。また、ローラ乾燥機76における搬送を安定化させるために、テンタクリップでの保持により変形した部分を含むフィルム80の両側端部を、ローラ乾燥機76内部へ送る前に切断除去することも可能である。
【0034】
また、貯留部18の下流であって、添加剤直前添加部19のスタティックミキサの上流の任意の位置にタンク(図示せず)を設け、ここで原料ドープ62を所定時間滞留させて脱泡を図ることもある。これにより、流延ドープ68中の気泡量を低減することができる。
【0035】
次に、ドープ調製装置11におけるドープの調製手順を説明する。ドープ調製装置11は、コントローラ29を備えており、各部を制御している。コントローラ29は、図2に示す処理手順に従いドープを調製する。バッチ方式で調製する総量に基づき、溶媒30の分配投入量が決定され、これに基づき第1分配量で溶媒30が攪拌タンク21に投入される。次に、モータ21cが回転して、攪拌羽根21bを回転させ、攪拌が開始される。
【0036】
次に、ポリマー投入部24により、ポリマー40が所定の第1投入速度、例えば180kg/分で連続的に投入される。ポリマー投入部24では、加熱器から乾燥風を送風することにより、ポリマーを所定の温度、例えば80℃に加熱し、その含水分量を所定の範囲内に調整している。攪拌タンク21にポリマー40を投入し溶媒30に溶解させる途中では、加熱されたポリマー40による溶媒の温度上昇や、分散による温度上昇によって攪拌タンク21の内圧が上昇する。また、粉末またはチップ状のポリマー40,45を連続的に攪拌タンク21内に投入しているため、攪拌タンク21内でポリマー40,45が乱舞する。この乱舞は、攪拌タンク21の内圧増大に伴い増長し、タンク本体21aの内壁に付着したり、コンデンサ26に侵入したりしてしまう。これら内壁に付着し、またはコンデンサ26に侵入したポリマー40,45はドープ調製用に利用することができないため、目標とする調製濃度に達することができない。しかも、付着量を予測することは困難であるため、調製濃度を一定範囲内に精度よく保つことが困難となる。
【0037】
特に、攪拌タンク21では、タンク本体21a内を減圧状態にするように、コンデンサ26側に向けて蒸発した溶媒を吸引しているため、コンデンサ26にポリマーが流出してしまう傾向が強い。したがって、この流出分によって、目標とする調製濃度が得られなくなる他に、コンデンサ26の内壁に付着したポリマー40,45によって溶媒30の凝集効率も低下する。
【0038】
このため、攪拌タンク21には内圧測定用の圧力計21eが取り付けられており、この圧力計21eに基づきポリマー40,45の投入速度が決定される。そして、圧力計21eの測定圧力が、ポリマー乱舞限界値、例えば1kPaに達したときに、ポリマー40,45の投入速度を現行の投入速度の半分以下の低速投入速度に切り替える。これにより、攪拌タンク21内の内圧が低下し、ポリマー40,45の乱舞による弊害の影響が抑えられる。すなわち、ポリマー40,45の乱舞が所定の範囲内で抑えられるため、ドープ調製時のポリマー濃度の低下を防止することができる。ここで、ポリマー乱舞限界値は、予め、タンク本体21aの容量、調製総量やポリマー投入量に応じて予め実験等により求められるものであり、この内圧範囲内にしておくことで、ポリマー乱舞による壁面などへのポリマー付着が最小限に抑えられる。
【0039】
以下、ポリマー40,45の投入が完了するまで、攪拌タンク21の内圧を測定し、この測定した内圧が設定値である1kPaを超えたときに、現行の投入速度よりも半分程度の低投入速度に切り換えて、内圧がポリマー乱舞限界値である1kPaを超えることがないようにコントローラ29により制御する。これにより、ポリマー40,45のタンク本体21aの内壁への付着や、コンデンサ26への流出を抑えることができ、ポリマー濃度をほぼ一定に保つことができる。
【0040】
以上のようにして、1バッチ分のポリマー総量分の投入を終了した後に、残りの溶媒を投入して、攪拌を続行する。これにより、ポリマー濃度の低下を招くことなく精度よく粗溶解を行うことができる。残りの溶媒投入は、三方切替弁33を切り替えて、配管35を介してコンデンサ26を経由して攪拌タンク21に送るようにすることで、コンデンサ26内に侵入したポリマー40,45を洗い流して、攪拌タンク21に戻すことができる。
【0041】
なお、前記溶媒30の分配投入における1回目の投入量をQ1、2回目の投入量をQ2としたときに、分配比(Q1/Q2)が1以上16以下であることが好ましい。分配比が1より小さいと、初期に投入される溶媒が少なく、濃度が上がり過ぎて、ポリマー40がダマに成りやすく好ましくない。また、分配比が16を超えると、2回目の溶媒投入量が少なくなり、コンデンサ26内のポリマー40,45を洗浄する効果が得られなくなり、好ましくない。
【0042】
なお、本実施形態では、溶媒30を2回に分配しているが、分解回数は2回以上であればよい。また、溶媒投入タイミングも、全てのポリマーを投入した後に行う必要はなく、ポリマーの投入中に溶媒を分散して投入してもよい。また、コンデンサ26を介して残りの溶媒30を分散投入する他に、タンク本体21aの内壁に付着したポリマーを洗い流すように、タンク本体21aに対し、残りの溶媒30を分散させて投入してもよい。
【0043】
また、粉末状のポリマー40に代えて、チップ状ポリマー45を用いる場合には、ポリマーサイロ46及び送り出し機47を用いて、チップ状ポリマー45の送り出しが行われる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
[実施例1]
タンク本体21aの容量が10000Lであり、投入溶媒量が5000kg〜7000kg、投入ポリマー量が1250kg〜1750kgである溶液製膜設備10のドープ調製装置11に本発明を実施した。先ず、タンク本体21aへ溶媒30を6000kg計量して投入した。このとき、タンク本体21aの内圧は−0.5kPaであり、タンク本体21a内の温度は35℃である。
【0046】
上記溶媒30内に、55℃に加熱した粉末状のTACからなるポリマー40を180kg/分(第1投入速度)で添加したところ、内圧が徐々に上昇した。内圧が1kPaとなったところで、70kg/分(第2投入速度)の投入速度で投入した。内圧は−0.3kPaまで低下したが、投入を続行することにより、内圧が徐々に上昇した。再度、内圧が1kPaとなったところで、30kg/分(第3投入速度)の投入速度でポリマー40を投入した。内圧は−0.2kPaまで低下したが、投入を続行することにより、内圧が徐々に上昇したが、1kPaとなることはなかった。
【0047】
ポリマー40の投入後に、残りの溶媒30を400kg分計量して、コンデンサ26経由で投入した。コンデンサ26内に、侵入した粉末状のポリマー40を洗い流すことができた。また、タンク本体21aで粉末状ポリマー40が乱舞することなく、ポリマー濃度が17%のドープを調製することができた。なお、投入したポリマー総量は1310kgであり、投入した溶媒総量は6400kgである。
【0048】
[実施例2]
実施例1の粉末状のポリマー40の代わりに、平均サイズが15mmのチップ状ポリマー45を用いた以外は実施例と同様にした。実施例1と同様に、攪拌タンク21内でポリマー45が乱舞することがなく、ポリマー濃度が17%のドープ(ポリマー総量1310kg、溶媒総量6400kg)を調製することができた。
【0049】
[実施例3]
溶媒30の投入分配量を第1回目及び第2回目共に3200kgとした以外は、実施例1と同様の条件とした。実施例1と同様に、タンク本体21a内でポリマー40が乱舞することがなく、ポリマー濃度が17%のドープ(ポリマー総量1310kg、溶媒総量6400kg)を調製することができた。
【0050】
[比較例1]
溶媒30の投入分配量を、第1回目投入量を6100kgとし、ポリマー投入完了後の第2回目投入量を300kgとし、第2回目の溶媒投入をコンデンサ26経由で行った。分配率が実施例1と異なる点以外は実施例1と同様の条件とした。この比較例1では、第2回目の溶媒分配量が少なく、コンデンサ26内に侵入したポリマー40を洗い流すことができず、目標とするポリマー濃度が17%のドープが得られなかった。
【0051】
[比較例2]
溶媒30の投入分配量を最初3100kgとして、次の投入量を3300kgとした以外は、実施例1と同様にした。実施例1に比較して、第1回目の溶媒投入量が少ないため、通常ママコと称するポリマーの塊(ダマ)が大量に発生し、実用に供することができなかった。
【0052】
[比較例3]
内圧が1.1kPaとなったところで、ポリマー投入速度を変えた場合であり、その他の条件は実施例1と同じにした。タンク本体21a内に粉末状ポリマー40が乱舞し、この乱舞によりタンク本体21aの壁面やコンデンサ26内にポリマー40が付着し、目標とするポリマー濃度が17%のドープが得られなかった。
【0053】
[比較例4]
50℃の粉末状ポリマーを投入した以外は実施例1と同じ条件とした。50℃では内圧の上昇が見られることがなく、所望の濃度が得られるものの、次の投入用のポリマー40を50℃に冷却させた状態で連続的に供給することが困難であり、連続的にドープを再生することは困難であった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明を実施した溶液製膜設備を示す概略図である。
【図2】本発明の攪拌工程の処理手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0055】
10 溶液製膜設備
11 ドープ調製装置
12 流延装置
21 攪拌タンク
22 貯留タンク
21e 圧力計
23 溶媒投入部
24 ポリマー投入部
25 添加剤投入部
26 コンデンサ
30 溶媒
31 溶媒タンク
32 計量ポンプ
33 三方切替分
37 粗溶解液
40 粉末状のポリマー
45 チップ状のポリマー
52 計量ポンプ
50 添加剤液
62 原料ドープ
68 流延ドープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒をタンク本体に投入する溶媒投入工程と、
前記溶媒が投入されたタンク本体に対し、ポリマーを連続的に投入するポリマー初期投入工程と、
前記タンク本体の内圧を測定し、測定した内圧が設定値を超えたときに、現在の投入速度よりも低い投入速度として、前記ポリマーを連続的に投入するポリマー減量投入工程と、
投入された前記ポリマーを攪拌部材により溶媒中で混合させる混合処理工程とを有することを特徴とするドープ調製方法。
【請求項2】
前記設定値が、ポリマー乱舞限界値であることを特徴とする請求項1記載のドープ調製方法。
【請求項3】
前記ポリマー乱舞限界値が1kPaであることを特徴とする請求項2記載のドープ調製方法。
【請求項4】
前記ポリマー減量投入工程では、新たな投入速度を、現行の投入速度の半分以下にすることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のドープ調製方法。
【請求項5】
前記ポリマーの温度を前記タンク本体の内部温度よりも高くして、前記ポリマー初期投入工程及びポリマー減量投入工程を行うことを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載のドープ調製方法。
【請求項6】
前記ポリマーの温度は前記タンク本体の内部温度をT1としたときに、T1+20℃以上T1+100℃以下であることを特徴とする請求項5記載のドープ調製方法。
【請求項7】
前記溶媒投入工程では、前記溶媒を少なくとも2回に分けて投入し、2回目以降の投入は前記ポリマー減量投入工程中または前記ポリマー減量投入工程後に行うことを特徴とする請求項1から6いずれか1項記載のドープ調製方法。
【請求項8】
前記タンク本体に接続されているコンデンサにより、前記タンク本体からの溶媒を凝縮して回収する溶媒回収工程を有し、前記コンデンサを経由して前記2回目以降の溶媒を投入することを特徴とする請求項7記載のドープ調製方法。
【請求項9】
前記ポリマーがセルローストリアセテートの粉末、またはセルローストリアセテートを原料とするフィルムの小片からなるチップであり、前記溶媒はジクロロメタンを含むことを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載のドープ調製方法。
【請求項10】
請求項1から9いずれか1項記載のドープ調製方法によりドープを調製するドープ調製工程と、
前記ドープを流延ダイにより支持体上に流延し、前記支持体上に流延膜を形成する流延工程と、
前記流延膜に自己支持性を付与して前記流延膜を前記支持体から湿潤フィルムとして剥がす剥ぎ取り工程と、
前記湿潤フィルムを乾燥させる乾燥工程と
を有することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項11】
溶媒及びポリマーが投入されるタンク本体と、
前記溶媒を計量して前記タンク本体に投入する溶媒投入部と、
前記ポリマーの投入速度が変更可能なポリマー投入部と、
前記タンク本体内に設けられ、前記溶媒及び前記ポリマーを混合させる攪拌部材と、
前記タンク本体内の圧力を測定し、この測定圧力が設定値を超えたときに現行投入速度よりも低い減量投入速度に切り替える制御部とを備えることを特徴とするドープ調製装置。
【請求項12】
前記設定値が、ポリマー乱舞限界値であることを特徴とする請求項11記載のドープ調製装置。
【請求項13】
前記ポリマー乱舞限界値が1kPaであることを特徴とする請求項12記載のドープ調製装置。
【請求項14】
前記ポリマー投入部は、前記ポリマーの温度を前記タンク本体の内部温度よりも高くする加熱部を有することを特徴とする請求項11から13いずれか1項記載のドープ調製装置。
【請求項15】
前記ポリマーの温度は前記タンク本体の内部温度をT1としたときに、T1+20℃以上T1+100℃以下であることを特徴とする請求項14記載のドープ調製装置。
【請求項16】
前記溶媒投入部は、前記溶媒を少なくとも2回に分けて投入し、2回目以降の投入は前記ポリマー投入部によるポリマーの投入中または投入後に行うことを特徴とする請求項11から15いずれか1項記載のドープ調製装置。
【請求項17】
前記タンク本体に接続されており、前記タンク本体からの溶媒を凝縮して回収するコンデンサを備え、前記溶媒投入部は、前記コンデンサを経由して前記2回目以降の溶媒を投入することを特徴とする請求項16記載のドープ調製装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−132799(P2010−132799A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−310978(P2008−310978)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】