説明

ナイロン11糸条を用いてなるユニフォーム用織編物

【課題】湿潤時の寸法安定性を改善することにより、着衣快適性に優れるユニフォーム用織編物を提供することを技術的な課題とする。
【解決手段】ナイロン11糸条を用いてなり、前記ナイロン11糸条において、乾燥状態と湿潤状態との間の伸度差が0.5%以下であるユニフォーム用織編物。本発明によれば、湿潤時の寸法安定性を改善することができ、良好な着衣快適性を奏する。また、本発明の織編物では、ナイロン11糸条が使用されているため、環境保護の促進に役立つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナイロン11糸条を用いてなるユニフォーム用織編物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナイロン糸条からなる織編物(ナイロン織編物)は、一般に柔軟性や染色性に優れており、汎用素材として衣料分野だけでなく産業資材分野などにも幅広く用いられている。
【0003】
しかし、ナイロン織編物には、一般に湿潤すると寸法が大きく変化するという問題、すなわち、湿潤時の寸法安定性に劣るという問題がある。
【0004】
そこで、この問題を解決するため、例えば、特許文献1において、ナイロン6織物の寸法安定性を改善する技術が提案されている。具体的には、経糸及び緯糸のいずれか一方にナイロン6繊維からなる糸条(ナイロン6糸条)を使用し、他方に径方向に膨潤する糸条を用いることで、糸条の伸びを吸収し、結果として湿潤時の寸法変化を抑えるといったものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−331552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ユニフォーム衣料は、一般のカジュアル衣料やフォーマル衣料に比べ湿潤しやすい環境下で使用されることが多い。ユニフォーム衣料は、元来、運動時や屋外作業時に着用されるものであるから、当然のことながら、発汗や雨水などに曝される機会も増えるからである。したがって、織編物をユニフォーム衣料に適用するときは、湿潤に伴う衣服の寸法変化を抑えることが、着衣快適性などの観点から重要となる。この点、上記特許文献1記載の発明は、湿潤時の寸法変化を一応抑えることができるので、衣服の着衣快適性はある程度維持されると考えられる。
【0007】
しかし、この発明では、糸条の伸びを吸収して所望の寸法安定性を得ようとしていることから、ある特定の織物構造を採用しなければならないという制約がある。そればかりか、その特定の織物構造がユニフォーム衣料に適さないという問題もある。さらに、織物構造をユニフォーム衣料に適したものに設計変更すると、織物が厚くなって風合いが低下し、ひいては蒸れ感が増す結果、良好な着衣快適性が維持できなくなるいという問題もある。それゆえ、抜本的な改善が望まれている。
【0008】
本発明は、以上の問題を解決するものであって、湿潤時の寸法安定性を改善することにより、着衣快適性に優れるユニフォーム用織編物を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究の結果、従来から多用されているナイロン6糸条に代わる新たな糸条としてナイロン11糸条を用いることにより、上記問題を解決できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、ナイロン11糸条を用いてなり、前記ナイロン11糸条において、乾燥状態と湿潤状態との間の伸度差が0.5%以下であることを特徴とするユニフォーム用織編物を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来から問題視されてきた、ナイロン織編物に関する湿潤時の寸法安定性を改善することができる。このため、本発明の織編物は、湿潤しやすい環境下で多用されるユニフォーム衣料に好適であり、良好な着衣快適性を奏することができる。
【0012】
本発明の織編物は、この他にも副次的であるが、ナイロン11糸条を用いているため、環境保護の促進に資するところが大きい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
本発明の織編物は、ナイロン11糸条を用いてなるものでありユニフォーム衣料に用いられるものである。本発明では、ユニフォーム衣料全般を対象としており、一例をあげれば、野球、サッカー、陸上競技などに用いるスポーツ着は勿論、オフィス用衣料、作業着、クリーンルーム衣料など任意のユニフォーム衣料に適用できる。
【0015】
本発明におけるナイロン11糸条はナイロン11繊維から構成され、繊維の形態としては、特に限定されないが、通常はフィラメント状のものを用いる。また、ナイロン11糸条自身の形態としても、特に限定されるものでなく、フラットヤーン、加工糸などの任意の状態で用いうる。
【0016】
ナイロン11繊維は、ナイロン11ポリマーを主たる成分とするポリマーから構成される。ナイロン11ポリマーとは、11アミノウンデカン酸を主たる単量体として重縮合されたポリマーをいう。11アミノウンデカン酸は、ヒマ(トウゴマ)の種子から抽出されたヒマシ油を元に生成されるものであるから、得られるナイロン11は植物由来成分を主たる原料とするポリマーであるといえる。それゆえ、ナイロン11糸条を使用すれば、環境保護に配慮した織編物が得られることになる。
【0017】
ナイロン11繊維は、ナイロン6繊維や66繊維に比べ密度が小さく軽量であると共に、耐摩耗性、耐化学薬品性、耐屈曲疲労性などの点にも優れる。
【0018】
ナイロン11中には、本発明の効果を損なわない限りにおいて、少量であればεカプロラクタムやヘキサメチレンジアンモニウムアジペートといった他のポリアミド形成単量体を共重合成分として含有させてもよい。この他、例えばナイロン11にナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン46といった他のナイロンポリマーをブレンドして繊維を構成してもよい。ただし、当該ポリマーのブレンド量としては、繊維強度の他、環境面を考慮し、全体に占める割合を30質量%以下とするのが好ましい。
【0019】
また、必要に応じ、ポリマー中に可塑剤、難燃剤、艶消剤、無機充填剤、補強剤、耐熱剤、抗菌剤、消臭剤、防炎剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、着色剤、顔料などの各種添加剤を含有させてもよい。特にナイロン11中に耐熱剤が含まれていると、繊維を紡糸する際、その紡糸温度を低くすることができると同時に粘度の増加を抑えることができ、結果として紡糸時に析出されるモノマーの量を少なくすることができる。これにより、紡糸時の糸切れを減少させ、紡糸操業性よく紡糸することが可能となる。そして、続く延伸工程においても性能の優れた未延伸糸を供給できるようになる。
【0020】
用いうる耐熱剤としては、幾つかのものがあげられるが、本発明の場合、特にヒンダードフェノール系酸化防止剤を用いることが好ましい。具体的には、ヒンダードフェノール系酸化防止剤として、チバ・ジャパン社製「IRGANOX(商品名)」があげられる。
【0021】
さらに耐熱剤として、リン系加工熱安定剤を併用するのも好ましい。具体的には、リン系加工熱安定剤として、チバ・ジャパン社製「IRGAFOS(商品名)」があげられる。
【0022】
かかる耐熱剤の使用にあたっては、繊維中に好ましくは0.1〜1.0質量%、より好ましくは0.2〜0.8質量%、さらに好ましくは0.2〜0.6質量%含有させるようにする。繊維中における耐熱剤の含有量が0.1質量%未満になると、上記した紡糸操業性の向上効果が乏しくなる傾向にあり、一方、1.0質量%を超えると、当該効果が飽和するのみならず、紡糸時に糸切れすることがあり、いずれも好ましくない。
【0023】
織編物の強度としては、ユニフォームに仕立てたとき実使用に十分耐えうるものであることが好ましい。このような強度を実現するには、最終的に得られる染色加工後の織編物を構成するナイロン11糸条として、所定の強伸度を有するものを使用すればよい。具体的には、ナイロン11糸条の強度として3.0cN/dtex以上が好ましく、4.0cN/dtex以上がより好ましい。
【0024】
本発明の織編物は、従来から問題視されてきた湿潤時の寸法安定性を改善することができる。この点から、本発明のナイロン11糸条は特定の伸度特性を具備する必要がある。具体的には、乾燥状態と湿潤状態との間の伸度差が0.5%以下であることが必要であり、0.3%以下であることが好ましい。当該伸度差がこの範囲を外れると、織編物において湿潤時の寸法安定性を良好に維持することができず、着衣快適性が低下する。
【0025】
かかる伸度差は、具体的に次のように測定する。まず、最終製品たる織編物からナイロン11糸条を取り出し、標準状態(20±2℃、65±2%RH)に調整された室内に24時間放置する。次に、JIS L1013 8.5.1記載の引張強さ及び伸び率の標準時試験に従い、定速伸長型の試験機を使用して、つかみ間隔20cm、引っ張り速度20cm/分の条件で糸条を引張りながら、途中の1N、1.5N、2N応力時の伸度を記録し、これらの平均を乾燥時の伸度とする。その一方で、同じく最終製品たる織編物からナイロン11糸条を取り出し、純水に30分間浸漬した後、ろ紙の上に5秒間放置して軽く水気を切る。その後、上記と同じくJIS L1013 8.5.1に準じて糸条を引張りつつ、1N、1.5N、2N応力時の伸度を記録し、これらの平均を算出し、湿潤時の伸度とする。そして、両値を、乾燥状態と湿潤状態との間の伸度差=(湿潤時の伸度)−(乾燥時の伸度)なる式に代入し、求めるべき伸度差とする。
【0026】
一般にナイロン織編物は、湿潤すると伸びる傾向にあることが知られているが、本発明者らは、本発明をなす過程で外部応力が加わるとこの傾向が顕著になることを突き止めた。ユニフォーム衣料は、運動時や屋外作業時に着用されるものであるから、一般衣料に比べ身体の動きに伴う応力を受けやすい。したがって、ユニフォーム用途に適用されるナイロン織編物の場合、湿潤下に曝しただけでは実使用に即した寸法安定性が測れるとはいえない。このような理由により、寸法安定性の評価は、湿潤下に加え、所定の応力を加味してなされるべきといえ、さらに、身体の動きによって受ける応力は、適用状況に応じて変わりうるものであるから、複数の応力水準を設定することが、より実使用に即するともいえる。
【0027】
このような点から、織編物を湿潤下に曝し、これに所定水準の応力を加えつつ伸び率を測れば、織編物の湿潤時における寸法安定性を知ることができるものと解される。しかし、織編物となした後で寸法安定性を測るとなると、例えば、そもそも寸法安定性に乏しいはずの織編物を加工条件その他により、他の特性を犠牲にして寸法安定性の向上のみを図った場合を排除できなくなり、これでは本発明の意図に反してしまう。
【0028】
そこで、本発明では、織編物の本質的に有する物性が、織編物を構成する糸条に大きく依存する点に鑑み、織編物を構成するナイロン11糸条について寸法安定性を測り、これを、織編物の湿潤時における寸法安定性の指標としたのである。
【0029】
以上より、本発明では、糸条が引張破断するまでの特定3段階において伸度を測定し、この結果に基づき湿潤時の寸法安定性を評価することとする。
【0030】
なお、ナイロン11糸条を用いることにより、何故、織編物に好ましい寸法変化率が付与されるのかについては、詳しい原理は未だ不明である。この点、本発明者らは、糸条の水分率と織編物との間に何らかの因果関係があり、これが寸法変化に影響を及ぼすものと推測している。
【0031】
次に、本発明の織編物を製造する方法について説明する。
【0032】
基本的には、所定のナイロン11糸条を用意し、これを製織編した後、染色加工することにより、目的の織編物を得ることができる。
【0033】
まず、ナイロン11糸条の製法について一例を述べる。初めに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤などの耐熱剤を好ましくは0.1〜1.0質量%含有し、かつ相対粘度が好ましくは1.6〜2.4のナイロン11ポリマーを用意し、これを紡糸温度230〜270℃付近で溶融紡糸する。次に、紡出した糸条を冷却固化した後、3000m/分以上の速度で、表面温度30〜80℃の第一ローラで引き取る。次いで、第一ローラで引き取った糸条を表面温度100〜180℃の第二ローラで引き取ることにより、ローラ間で延伸倍率1.1〜2.8倍で延伸し、巻取速度3400〜5000m/分でナイロン11糸条を巻き取る。なお、繊維中には、各種添加剤が含まれていてもよいし、途中、必要に応じて各種混繊処理を付加してもよい。
【0034】
その後、得られたナイロン11糸条を単独で製織するか、必要に応じて他の糸条と交織編するなどして、生機を得る。この場合の生機設計としては、最終的に得られる織編物の風合い、物性などを考慮した上で最適なものを選択すればよい。
【0035】
生機を得た後、染色加工することで目的の織編物が得られる。具体的には、まず生機を精練し、必要に応じてプレセットした後、好ましくは120〜140℃、より好ましくは120〜135℃で高圧染色する。高圧染色を採用することで、織編物の発色性を向上させることができ、ひいては商品価値の向上が期待できる。
【0036】
染色後は、必要に応じてソーピング、フィックス、ファイナルセットし、目的の織編物を得る。
【0037】
本発明では、上記のように、ナイロン11糸条以外の糸条と交織編してもよいが、あくまで発明の効果を損なわない範囲に留めるべきであることは言うまでもない。ここで、ナイロン11糸条以外の糸条としては、組成、形状など特段限定されず、目的に応じて任意の糸条が採用できる。例えば、ポリエステル糸条、ポリ乳酸糸条、アクリル糸条、綿、レーヨン糸などが使用できる。特にポリ乳酸糸条では、繊維を構成するポリマーとして、一般にはポリL乳酸又はポリD乳酸が採用できるが、耐湿熱性を考慮して両ポリ乳酸を混合してポリ乳酸ステレオコンプレックスとなしたものでも使用できる。
【実施例】
【0038】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、ナイロン11糸条における、乾燥状態と湿潤状態との間の伸度差は、最終的に得られた織編物から抜き取った緯糸5本について、各々前述の方法により測定し、それらの平均を求めるべき寸法変化率PAとした。
【0039】
(実施例1)
相対粘度(96%硫酸を触媒として、濃度1g/dL、温度25℃で測定)が2.0、モノマー量が0.25%のナイロン11ポリマーを用い、水分率を0.05質量%に調整した。そして、これをエクストルーダー型溶融押出機に供給し、紡糸温度255℃で溶融した後、34個の紡糸孔を有する紡糸口金より吐出し、4200m/分の速度で巻き取り、78dtex34fのナイロン11糸条を得た。得られた糸条の水分率は0.4%であった。
【0040】
次に、得られたナイロン11糸条を経緯糸に用いて、経糸密度119本/2.54cm、緯糸密度80本/2.54cmで平組織の生機を製織した。製織後、日華化学社製「サンモールFL(商品名)」を濃度1g/L使用して生機を80℃で20分間精練し、160℃で1分間プレセットした後、黒系酸性染料を使用し、浴比1:50で130℃、30分間染色した。なお、黒系酸性染料としては、三井BASF社製「Mitsui Nylon Black GL(商品名)」を濃度5%omf使用した。また、染色助剤としては、均染剤として丸菱油化社製「レベランNKD(商品名)」を濃度2%omf、及び酢酸(48%品)を濃度0.2ml/L使用した。
【0041】
その後、日華化学社製「サンモールFL(商品名)」を濃度1g/L使用して80℃で20分間ソーピングし、次いで、日華化学社製「サンライフE−37(商品名)」を濃度1%omf使用して80℃で20分間フィックスし、さらに、160℃で1分間ファイナルセットして、経糸密度123本/2.54cm、緯糸密度87本/2.54cmの織物を得た。
【0042】
得られた織物から緯糸を抜き取り、乾燥状態と湿潤状態との間の伸度差を測定したところ、0.2%であった。
【0043】
(実施例2)
ポリマー中に、チバ・ジャパン社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤「IRGANOX1010(商品名)」を0.1質量%、及びチバ・ジャパン社製リン系加工熱安定剤「IRGAFOS168(商品名)」を0.2質量%含有させる以外、実施例1と同様に行い、経糸密度123本/2.54cm、緯糸密度87本/2.54cmの織物を得た。
【0044】
得られた織物から緯糸を抜き取り、乾燥状態と湿潤状態との間の伸度差を測定したところ、0.2%であった。
【0045】
(比較例1)
ナイロン11ポリマーに代えて、水分率が0.05質量%に調整された、相対粘度3.5、モノマー量0.4%のナイロン6ポリマーを用いる以外、実施例1と同様の条件にて、78dtex34fのナイロン6糸条を得た。得られた糸条の水分率は4.5%であった。以降は、得られたナイロン6糸条を用い、染色温度として100℃を採用する以外は実施例1と同様に行い、経糸密度122本/2.54cm、緯糸密度86本/2.54cmの織物を得た。
【0046】
得られた織物から緯糸を抜き取り、乾燥状態と湿潤状態との間の伸度差を測定したところ、1.0%であった。なお、この織物では、石油由来の原料を使用するナイロン6糸条が使用されているため、環境保護の点で問題が残された。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン11糸条を用いてなり、前記ナイロン11糸条において、乾燥状態と湿潤状態との間の伸度差が0.5%以下であることを特徴とするユニフォーム用織編物。


【公開番号】特開2011−84835(P2011−84835A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238364(P2009−238364)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(592197315)ユニチカトレーディング株式会社 (84)
【Fターム(参考)】